説明

目的物質の回収装置、回収方法

【課題】従来においては、効率的に、かつ、簡便に目的物質を回収することが難しかった。
【解決手段】本発明の回収装置においては、液膜相の溶媒をよく浸透する多孔質部を隔てて二つの攪拌相が接している。一方の攪拌相の中に目的物質を供給するための供給相と供給側液膜相が存在し、他方の攪拌相の中に目的物質を回収するための回収相と回収側液膜相が存在する。当該構成において両方の側を攪拌すると、供給相の目的物質は供給相から供給相側液膜相に抽出移動し、多孔質部を介して回収相側液膜相へ移動し、さらに回収相に抽出移動することになる。また、液膜相に溶解できない供給相中の物質は多孔質部を経て回収相に移動することができないため、目的の物質を選択的に輸送することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的物質の回収装置、回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成物の分離処理や、キャリアの性能評価を行うために液膜法が用いられてきた。
【0003】
液膜法とは、目的物質を含んだ供給相から非水溶性誘起溶媒相(液膜)を介することにより、その目的物質のみを分離して回収相に移動させる分離法である。具体的には、液膜法の系は、目的物を含んだ供給相、供給相と相溶性のない液膜相、液膜相と相溶性のない回収相からなる。液膜法は、上記三つの相の間の移動速度の差を利用して、供給相から液膜相を介して目的物質を回収相へ移動させる方法である。
【0004】
液膜法は、操作方法の違いから以下の三つに大別することができる。
【0005】
(1)バルク液膜法
バルク液膜法は、図1に示すように、U字状の管の底部に液膜相を形成し、液膜相を挟んで供給相と回収相を形成した上で各相を攪拌する方法である。当該方法は、キャリアの評価を行うために利用される。また、当該方法は、例えば特許文献1などにおいて開示されている。
【0006】
(2)含浸液膜法
含浸液膜法は、微細孔構造を有する膜の中に液膜相を含浸させ、その膜の両側に供給相と回収相を形成する方法である。当該方法は、液膜相が機械的に安定するという特徴を備える。
【0007】
(3)乳化液膜法
乳化液膜法は、供給相の細かい液滴を大きな液膜相の液滴の中に含ませて、回収相の中に分散させる方法である。当該方法は、界面を大きく保てるため、目的物質の輸送の効率が高いという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2935555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記に挙げた液膜操作法はそれぞれ以下の欠点がある。
【0010】
(1)バルク液膜法に用いる装置は単純であるが、攪拌速度が高いと供給相と回収相とが混合して、分離に失敗してしまう。また、攪拌の速度が低いと各相が均一にならず、輸送速度が遅くなってしまう。つまり、攪拌操作の加減が要求されるため、簡便に操作を行うことが難しい。
【0011】
(2)含浸液膜法は、回収相、供給相に比べて液膜相の体積が圧倒的に小さいため、長時間操作すると液膜相が溶出して失われてしまう。また、不純物によって液膜相のコンタミネーションが生じやすい。
【0012】
(3)乳化液膜法は、安定した乳化が難しく、回収相と供給相が混合しやすい。
【0013】
本発明は、以上の問題点を解決する発明を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の液膜法で用いる回収装置は、従来の液膜法の利点を備えつつ、上記の問題点を解決することが可能である。本発明の液膜法で用いる回収装置においては、液膜相の溶媒が浸透する多孔質部を隔てて二つの攪拌相が接している。一方の攪拌相の中に目的物質を供給するための供給相と供給側液膜相が存在し、他方の攪拌相の中に目的物質を回収するための回収相と回収側液膜相が存在する。
【0015】
当該構成において両方の側を攪拌すると、供給相の目的物質は供給相側液膜相に抽出移動し、多孔質部を介して回収相側液膜相へ移動して、さらに回収相に抽出移動することになる。これに対して、液膜相に溶解できない供給相中の物質は多孔質部を経て回収相に移動することができないため、目的の物質のみを選択的に輸送することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の液膜法に用いる装置の構造は、バルク液膜法と同様に非常に簡便であるが、供給相と回収相の間に液膜相のみを含浸する多孔質部が存在するため、激しく攪拌しても供給相と回収相が混ざることはない。よって、バルク液膜法や乳化液膜法と比較して効率良く目的物質を輸送させることが可能である。
【0017】
また、本発明の液膜法に用いる装置においては、液膜の体積を支持液膜法と比較して大きくすることができるので、液膜相の溶出やコンタミネーションによる機能劣化による問題が起りにくい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】バルク液膜法の概要を示した図
【図2】実施形態1の回収装置の構成の一例を示した図
【図3】実施形態1の多孔質部の他の構成の例を示した図
【図4】実施形態1の回収装置の他の構成の例を示した図
【図5】実施形態2の回収装置の構成の一例を示した図
【図6】実施形態3の回収装置の構成の一例を示した図
【図7】実施形態4の回収装置の構成の一例を示した図
【図8】実施形態5の回収方法の処理の流れの一例を示した図
【図9】実施例1の結果を示した図
【図10】実施例1の他の結果を示した図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。請求項と実施形態の対応は以下の通りである。請求項1、4の特徴は主に実施形態1にて説明されている。請求項2、3の特徴は主に実施形態2にて説明されている。請求項5の特徴は主に実施形態3にて説明されている。請求項6の特徴は主に実施形態4にて説明されている。請求項7の特徴は主に実施形態5にて説明されている。なお、本発明はこれら実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施することが可能である。
【0020】
<<実施形態1>>
【0021】
<構成>
図2は、本実施形態の回収装置の構成の一例を示す図である。この図にあるように、本実施形態の「回収装置」0200は、「一次槽」0201と、「二次槽」0202と、「多孔質部」0203と、から構成される。以下、各構成部について説明する。
【0022】
「一次槽」は、供給相と液膜相とを混合するための機能を有する。ここで、供給相は、目的物質の溶媒である。また、液膜相は、供給相とは相溶性がないが、供給相に含まれる目的物質を溶解する性質を有する。例えば、供給相が水性溶媒である場合に液膜相を非水性溶媒とすることや、その逆の組み合わせとすることが考えられる。
【0023】
なお、液膜相において目的物質を溶解する手段としては、供給相から目的物質のみを選択的に取り込んで溶解可能な溶媒を用いる方法や、目的物質と特異結合することで液膜への目的物質の溶解度を高めることが可能なキャリアを液膜相中に含有する方法、両方を組み合わせて用いる方法などが考えられる。
【0024】
キャリアを液膜相に含有する方法を用いる場合、供給相のイオン強度やpHを適当な値に調整することにより、液膜相に含まれるキャリアと供給相に含まれる目的物質とが特異結合しやすいようにすることが可能である。例えば、供給相のpHを液膜相の基準となるイオン濃度よりも高く維持することが考えられる。
【0025】
供給相と液膜相とを混合するための機能としては、攪拌装置を用いることが考えられる。攪拌装置としては、攪拌子をモーターで駆動する装置(メカニカルスターラー)や、図2に示すように、「攪拌子」0204を「磁場で駆動する装置(マグネティックスターラー)」0205、などを用いることが可能である。
【0026】
「二次槽」は、液膜相と回収相とを混合するための機能を有する。二次槽に含まれる液膜相は、一次槽に含まれる液膜相と同成分の溶媒である。また、回収相は、液膜相と相溶性がなく、二次槽の液膜相に含まれる目的物質を溶解する性質を有する溶媒である。
【0027】
なお、回収相において目的物質を溶解する手段としては、目的物質の溶媒を用いる方法が主として考えられる。ただし、液膜相に目的物質と特異結合可能なキャリアを含ませている場合は、回収相のイオン強度やpHを適当な値に調整することにより、二次槽の液膜相に含まれるキャリアと目的物質とが解離しやすい状態にすることが可能である。例えば、回収相のpHを液膜相の基準となるイオン濃度よりも低く維持することが考えられる。
【0028】
二次槽の液膜相と回収相とを混合するための機能としては、一次槽の液膜相と供給相とを混合するために用いる攪拌装置と同様のものを用いることが考えられる。一次槽の液膜相と供給相、二次槽の液膜相と回収相とをそれぞれ激しく攪拌することにより、界面の面積が大きくなり、各槽において二相を懸濁させることが可能になる。これは、乳化液膜法に似た態様であるが、攪拌を止めて静止させると一次槽の液膜相と供給相、二次槽の液膜相と回収相がすぐに分かれるため連続的な分離プロセスが可能になる。
【0029】
上記液膜相に含ませることが可能なキャリアの例としては、分子インプリント高分子が考えられる。分子インプリント高分子は、目的物質の鋳型を記憶し、分子構造を認識することにより目的物質のみと選択的に結合することができる合成高分子である。
【0030】
また、キャリアの他の例として、クラウンエーテル化合物が挙げられる。クラウンエーテル化合物は、環状エーテル構造を有し、環状造内に存在する酸素原子の非共有電子対が陽イオンと相互作用するため、環内に金属イオンを選択的に取り込むことが可能である。取り込み可能なイオンの種類は環の大きさとイオン直径により決定される。例えば、ジベンゾ−14−クラウン−4は空孔径が1.2〜1.5[Å]でありLiを選択的に取り込むことが可能で、トリベンゾ−18−クラウン−6は空孔径が2.6〜3.2[Å]でありKを選択的に取り込むことが可能である。
【0031】
さらに、キャリアの例として、カリックスアレーンであるOct[6]CHCOOHを挙げることができる。カリックスアレーンは、アミノ酸エステルと特異結合する性質を有するため、アミノ酸エステルを選択的に取り込むことが可能である。
【0032】
なお、クラウンエーテル化合物やカリックスアレーンは目的物質となる対象が限定されるが、分子インプリント高分子をキャリアとして用いれば原理的にいかなる物質も目的物質とすることが可能である。
【0033】
「多孔質部」は、一次槽と二次槽とを隔て液膜相を通す機能を有する。なお、供給相や回収相は通さない。
【0034】
多孔質部としては、例えば多孔質PTFE膜(ポリテトラフルオロエチレン)等の多孔質膜を用いることが考えられる。多孔質膜の孔径が所定以下であるものは、表面張力の大きい水等の水性溶媒を通さず、クロロホルムやジクロロメタン等の非水性有機性溶媒を通す機能を有する。
【0035】
また、多孔質セルロースや多孔質ガラス、多孔質ポリビニルアルコール、多孔質セラミック等は水性溶媒を通すが非水性溶媒は通さない。つまり、適当な多孔質膜を選択することにより、選択的に溶媒を通すことが可能になる。
【0036】
上記のように供給相から回収相へ直接目的物質が移動することはなく、液膜相に目的物質が溶け込むことにより、多孔質部を介して目的物質が回収相へと輸送されることになる。多孔質部を用いることにより、一次槽と二次槽を激しく攪拌しても供給相と回収相が互いに混ざり合うことはないため、攪拌速度を低く制限する必要がなく、供給相から回収相へ目的物質を効率的に輸送することが可能になる。
【0037】
また、図3に示すように、「多孔質部」0301を波形状とする構成も可能である。当該構成とすることにより、供給側液膜相や回収側液膜相との接触面が大きくなるため、目的物質の輸送効率がさらに良くなる。
【0038】
さらに、一次槽と二次槽とは同圧に保持されるように構成することも可能である。当該構成の具体例としては、例えば一次槽と二次槽の一方又は双方に加圧・減圧装置(ポンプ)を設けることが考えられる。当該構成とすることにより、一次槽から二次槽への目的物質の輸送を安定的に行うことが可能になる。
【0039】
また、図4に示すように、「回収装置」0400をドーナツ構造として、その軸中心で回転させることにより遠心力を発生させ、「一次槽」0401と「二次槽」0402の液体の攪拌を効率よく行わせることも可能である。また、図2で示す回収装置の全体形状を円筒にして、その軸中心で回転させ、攪拌を効率よく行わせることも可能である。また、攪拌子の回転を当該回収装置の回転方向と反対方向にすることでさらに攪拌を効率よく行うことも可能である。
【0040】
また、攪拌を行った後に供給相と供給側液膜相、回収相と回収側液膜相とを素早く分離させるために、分離装置を設ける構成も可能である。当該分離装置の具体的な構成としては、例えば、回収相と回収側液膜相の磁気極性の違いがある場合は、当該違いを利用して分離する装置などが考えられる。
【0041】
また、上記の説明では、回収装置は一次槽と二次槽とからなる構成を示したが、追加的な槽を設ける構成も可能である。例えば、一次槽において、供給相から複数の目的物質を液膜相に抽出し、当該液膜相に抽出された複数の目的物質のうち一の目的物質を二次槽の回収相にて回収し、さらに三次槽の回収相において別の目的物質を回収する、といった態様が考えられる。この場合、二次槽の回収相と三次槽の回収相はそれぞれ対応する目的物質を取り込みやすい環境(溶媒の種類、キャリアの種類、pH、イオン強度等の化学条件)としておく。
【0042】
<効果>
本実施形態の発明により、供給相から回収相へ効率良く目的物質を輸送することが可能になる。
【0043】
<<実施形態2>>
【0044】
<構成>
図5は、本実施形態の回収装置の構成の一例を示す図である。この図にあるように、本実施形態の「回収装置」0500は、「一次槽」0501と、「二次槽」0502と、「多孔質部」0503と、から構成され、「一次槽」0501は「供給相注入口」0504と「液膜相注入口」0505とを有し、「二次槽」0502は「回収相排出口」0506と「液膜相排出口」0507とを有する。以下、実施形態1との相違点である「供給注入口」、「液膜相注入口」、「回収相排出口」、「液膜相排出口」について説明する。
【0045】
「供給相注入口」は、供給相を注入する機能を有し、「液膜相注入口」は、液膜相を注入する機能を有する。当該「供給相注入口」と「液膜相注入口」は、上下に分離して配置されていることを特徴とする。なお、供給相と液膜相の比重を鑑みて、比重が重い方の注入口を下側に設け、比重が軽い方の注入口を上側に設けることが好ましい。
【0046】
上記構成とすることにより、供給相と液膜相をそれぞれ分けて注入することが可能になり、一方のみ注入することや同時に注入することも可能である。なお、各注入口は、場合によって排出口として用いることも可能である。
【0047】
「回収相排出口」は、回収相を排出する機能を有し、「液膜相排出口」は、液膜相を排出する機能を有する。当該「回収相排出口」と「液膜相排出口」は、上下に分離して配置されていることを特徴とする。なお、回収相と液膜相の比重を鑑みて、比重が重い方の注入口を下側に設け、比重が軽い方の注入口を上側に設けることが好ましい。
【0048】
上記構成とすることにより、回収相と液膜相をそれぞれ分けて排出することが可能になり、一方のみを排出することや同時に排出することも可能である。なお、液膜相排出口が液膜相注入口の機能を兼ねる構成も可能である。
【0049】
<効果>
本実施形態の発明により、供給相から回収相へ効率良く目的物質を輸送することが可能になり、さらに、必要に応じて供給相、液膜相、回収相の注入排出を簡易に行うことが可能になる。
<<実施形態3>>
【0050】
<構成>
図6は、本実施形態の回収装置の構成の一例を示す図である。この図にあるように、本実施形態の「回収装置」0600は、「一次槽」0601と、「二次槽」0602と、「多孔質部」0603と、「供給相pH制御部」0604と、「回収相pH制御部」0605とから構成される。以下、実施形態1との相違点である「供給相pH制御部」と、「回収相pH制御部」について説明する。
【0051】
「供給相pH制御部」は、供給相のpHを制御する機能を有する。「回収相pH制御部」は、回収相のpHを制御する機能を有する。
【0052】
実施形態1で述べたように、キャリアを液膜相に含ませる方法を用いる場合、供給相のpHを適当な値に調整することにより、液膜相に含まれるキャリアと供給相に含まれる目的物質とが特異結合しやすいようにすることが可能である。また、回収相のpHを適当な値に調整することにより、二次槽の液膜相に含まれるキャリアと目的物質とが解離しやすい状態にすることが可能である。例えば、供給相のpHを液膜相の基準となるイオン濃度よりも高く維持し、回収相のpHを液膜相の基準となるイオン濃度よりも低く維持することが考えられる。
【0053】
回収装置が上記構成を有することにより、キャリアを液膜相に含ませる方法を用いる場合、目的物質の濃度の薄い方から濃い方へと輸送する能動輸送(アップヒル輸送)を行うことも可能になる。
【0054】
上記供給相pH制御部や回収相pH制御部の具体的な構成としては、pH調整剤を適宜注入可能な注入口とpH検出器と、pH検出器の検出結果に応じて注入のタイミングや注入量を算出して注入口を制御可能な制御装置とを設ける構成が考えられる。
【0055】
<効果>
本実施形態の発明により、供給相から回収相へ効率良く目的物質を輸送することが可能になる。さらに、キャリアを液膜相に含ませる場合にはpHを自動制御することで、より効率良く目的物質を輸送することが可能になる。
【0056】
<<実施形態4>>
【0057】
<構成>
図7は、本実施形態の回収装置の構成の一例を示す図である。この図にあるように、本実施形態の「回収装置」0700は、「一次槽」0701と、「二次槽」0702と、「多孔質部」0703と、「供給相イオン強度制御部」0704と、「回収相イオン強度制御部」0705とから構成される。以下、実施形態1との相違点である「供給相イオン強度制御部」と、「回収相イオン強度制御部」について説明する。
【0058】
「供給相イオン強度制御部」は、供給相のイオン強度を制御する機能を有する。「回収相イオン強度制御部」は、回収相のイオン強度を制御する機能を有する。ここで、イオン強度は、液中の各イオンのモル濃度と電荷から算出可能な値であり、液中におけるイオンの活量に影響を与える量である。
【0059】
実施形態1で述べたように、キャリアを液膜相に含ませる方法を用いる場合、供給相のイオン強度を適当な値に調整することにより、液膜相に含まれるキャリアと供給相に含まれる目的物質とが特異結合しやすいようにすることが可能である。また、回収相のイオン強度を適当な値に調整することにより、二次槽の液膜相に含まれるキャリアと目的物質とが解離しやすい状態にすることが可能である。例えば、供給相のイオン強度を液膜相のイオン強度よりも高く維持し、回収相のイオン強度を液膜相のイオン強度よりも低く維持することが考えられる。
【0060】
回収装置が上記構成を有することにより、キャリアを液膜相に含ませる方法を用いる場合、目的物質の濃度の薄い方から濃い方へと輸送する能動輸送(アップヒル輸送)を行うことも可能になる。
【0061】
上記供給相イオン強度制御部や回収相イオン強度制御部の具体的な構成としては、イオン強度調整剤を適宜注入可能な注入口とイオン強度検出器と、イオン強度検出器の検出結果に応じて注入のタイミングや注入量を算出し、注入口を制御可能な制御装置とを設ける構成が考えられる。
【0062】
<効果>
本実施形態の発明により、供給相から回収相へ効率良く目的物質を輸送することが可能になる。さらに、キャリアを液膜相に含ませる場合にはイオン強度を制御することで、より効率良く目的物質を輸送することが可能になる。
【0063】
<<実施形態5>>
【0064】
<方法の発明>
【0065】
図8は、実施形態1から4で説明した回収装置を用いた目的物質の回収方法の処理の流れを示す図である。
【0066】
まず、ステップS0801において、液膜相を一次槽及び二次槽に注入する(液膜相注入ステップ)。
【0067】
次に、ステップS0802において、液膜相に供給可能な目的物質を溶解した供給相を一次槽に注入する(供給相注入ステップ)。
【0068】
次に、ステップS0803において、目的物質を液膜相から抽出可能な回収相を二次槽に注入する(回収相注入ステップ)。
【0069】
次に、ステップS0804において、一次槽の液体又は/及び二次槽の液体を混合する(混合ステップ)。
【0070】
次に、ステップS0805において、時間経過により液膜相と分離した回収相を排出する(回収相排出ステップ)。
【0071】
以上の処理の流れは一例であり、他の処理の流れとすることも可能である。例えば、液膜相注入ステップや、供給相注入ステップ、回収相注入ステップは、適当に順番を組み替えたり、同時に行ったりすることも可能である。
【0072】
<効果>
本実施形態の発明により、供給相から回収相へ効率良く目的物質を輸送することが可能になる。
【実施例1】
【0073】
二室回分式透析器とPTFE膜を用いた液膜実験の検討
【0074】
<方法>
【0075】
回分透析用ガラス製二室攪拌セルの両室(それぞれ容積は25mL)を多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シールテープ(0.2mm)を引き伸ばして隔て、多孔質膜とした。
【0076】
両室に液膜相としてクロロホルム10mLを加えた。また、一室に、供給相としてカフェイン又はエオシンイエローの5mM水溶液15mLを加えた。さらに、二室に、回収相として純水15mLを加えた。
【0077】
両室をマグネティックスターラーを用いて600rmpで攪拌し、供給相と回収相の濃度の経時変化を紫外・可視吸光法により観察した。
【0078】
<結果>
図9は、供給相と回収相のカフェインの濃度の経時変化を示す図である。この図が示すように、供給相にカフェインを仕込んだ場合、二時間以内に供給相と回収相のカフェインの濃度が等しくなった。カフェインは脂溶性を有するために液膜相(クロロホルム)に溶け込み、液膜相(クロロホルム)と供に多孔質膜を透過することで供給相と回収相のカフェインの濃度が等しくなった。
【0079】
図10は、供給相と回収相のエオシンイエローの濃度の経時変化を示す図である。この図が示すように、エオシンイエローを仕込んだ場合、四時間経過しても回収相のエオシンイエローの濃度の上昇はほとんど見られなかった。エオシンイエローは脂溶性を有さないために供給相(水性溶媒)に留まり多孔質膜を透過しなかったために、エオシンイエローの濃度の変化が起らなかったといえる。
【0080】
以上の結果から、本実施例の回収装置において、供給相から回収相へと直接的に目的物質が移動せず、液膜相を介してのみ目的物質が移動することが示された。
【0081】
上記の実験において、液膜相に目的物質に対して特異結合性を有するキャリアを含有させることにより促進輸送を行うことも可能である。本実施例の回収装置では激しい攪拌が可能であり、その構造も簡易であるから、キャリアの新しい輸送能評価法としても有効である。
【符号の説明】
【0082】
0200…回収装置、0201…一次槽、0202…二次槽、0203…多孔質部、「攪拌子」…0204、「磁場で駆動する装置(マグネティックスターラー)」…0205、0301…多孔質部、0400…回収装置、0504…供給相注入口、0505…液膜相注入口、0506…回収相排出口、0507…液膜相排出口、0604…供給相pH制御部、0605…回収相pH制御部、0704…回収相イオン強度制御部、0705…回収相イオン強度制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給相と液膜相とを混合するための一次槽と、
液膜相と回収相とを混合するための二次槽と、
一次槽と二次槽とを隔て液膜相を通す多孔質部と、
からなる回収装置。
【請求項2】
一次槽は、供給相を注入する供給相注入口と液膜相を注入する液膜相注入口とが、上下に分離して配置されている請求項1に記載の回収装置。
【請求項3】
二次槽は、回収相を排出する回収相排出口と、液膜相を排出する液膜相排出口とが、上下に分離して配置されている請求項1又は2に記載の回収装置。
【請求項4】
一次槽と二次槽とは同圧に保持されるように構成されている請求項1から3のいずれか一に記載の回収装置。
【請求項5】
供給相のpHを制御する供給相pH制御部と、
回収相のpHを制御する回収相pH制御部と、をさらに有する請求項1から4のいずれか一に記載の回収装置。
【請求項6】
供給相のイオン強度を制御する供給相イオン強度制御部と、
回収相のイオン強度を制御する回収相イオン強度制御部と、
をさらに有する請求項1から5のいずれか一に記載の回収装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一に記載の回収装置を用いた回収方法であって、
液膜相を一次槽及び二次槽に注入する液膜相注入ステップと、
液膜相に供給可能な目的物質を溶解した供給相を一次槽に注入する供給相注入ステップと、
目的物質を液膜相から抽出可能な回収相を二次槽に注入する回収相注入ステップと、
一次槽の液体又は/及び二次槽の液体を混合する混合ステップと、
時間経過により液膜相と分離した回収相を排出する回収相排出ステップと、
を有する回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−35167(P2012−35167A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175947(P2010−175947)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 : 学校法人 芝浦工業大学 刊行物名 : 学校法人 芝浦工業大学大学院工学研究科応用化学専攻 修士論文概要 発行年月日 : 平成22年2月15日
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【Fターム(参考)】