説明

直動装置

【課題】運転環境の影響を受けることなく、リニアガイド装置の異常の有無を正確に判定する手段を提供する。
【解決手段】レール軌道溝5を有するレール2と、レール軌道溝5と対向するナット軌道溝8を有し、レール2を直線的に移動するスライダ6と、レール軌道溝5とナット軌道溝8とにより形成される負荷路を転動するボール9とを備えリニアガイド装置1のスライダ6に、レール軌道溝5の凹凸を直接検出する検出部28を設け、この検出部28を、弾性材で形成された梁部材15と、梁部材15に取付けられた歪ゲージ24と、梁部材15の先端部15aに取付けられ、レール軌道溝5を摺接する触針19とで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造装置や工作機械、測定装置等の機械装置の送り機構等に用いられるリニアガイド装置やボールねじ装置等の直動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の直動装置としてのリニアガイド装置は、スライダに設けた戻り路と、エンドキャップに設けた方向転換路と、レールに設けたレール軌道溝とスライダに設けたスライダ軌道溝とを対向させて形成した負荷路とを連通した循環路に複数のボールを装填し、循環路の負荷路を転動するボールによりレールを直線的に移動するスライダを支持して構成され、直動装置としてのボールねじ装置は、ねじ軸の外周面に螺旋状に形成した軸軌道溝と、ナットの内周面に形成した軸軌道溝に対向するナット軌道溝と、対向配置されたナット軌道溝と軸軌道溝とにより形成される負荷路をナットに設けたリターンチューブにより連通して形成された循環路に複数のボールを装填し、循環路の負荷路を転動するボールによりナットをねじ軸に直線移動可能に支持して構成され、移動体としてのスライダおよびナット、または固定体としてのレールおよびねじ軸に、直動装置内を転動体が循環する際の移動体または固定体との接触や衝突、軌道溝と転動体との接触、転動体同士の接触のいずれかに起因して弾性的に発生する波動(AE:アコースティックエミッション)を検出するAEセンサを設け、AEセンサの出力信号のデジタル包絡線の処理データの最大値や事象率等を予め設定された閾値と比較して異常の有無および異常の種類を判定し、判定結果を表示部に表示している(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、上記と同様のリニアガイド装置およびボールねじ装置等の直動装置において、固定体に設けられた転動体の軌道溝を監視するカラーセンサを設け、軌道溝に被覆された潤滑剤の色を検出し、カラーセンサが検出した潤滑剤の色を、予め入力された潤滑剤の種類等のデータと比較して直動装置の部品の寿命を判定しているものもある(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
更に、上記と同様のリニアガイド装置およびボールねじ装置等の直動装置において、移動体に加速度センサを設けて直動装置の振動を検出し、包絡線検波装置により作成された包絡線のピーク点の周波数に相当する周波数のレベルを、所定の閾値と比較して、周波数のレベルが閾値を下回った場合に、直動装置の循環に異常が発生したことを判定しているものもある(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2004−263775号公報(主に第10頁段落0043−第12頁段落0058、第13頁段落0072−第14頁段落0080、第4図、第6図、第7図)
【特許文献2】特開2002−106785号公報(主に第3頁段落0015−0030、第1図、第6図、第7図)
【特許文献3】特開平5−281094号公報(第2頁段落0008−0009、第1図、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の各特許文献の技術においては、直動装置の移動体または固定体に、転動体の動作状態を間接的に検出するAEセンサやカラーセンサ、加速度センサ等のセンサを設けて間接的に直動装置の異常を検出しているため、直動装置の運転環境によっては異常の判定が困難になる、例えばAEセンサや加速度センサの場合は設置された機械装置からの波動や振動による影響を除去することが難しく、カラーセンサの場合は設置された外部環境からの潤滑剤への塵芥等の侵入による汚染の影響を除去することが難しくなり、様々な運転環境への対応が困難になる虞があるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、運転環境の影響を受けることなく、直動装置の異常の有無を正確に判定する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、転動体ガイド面を有する固定体と、該固定体の転動体ガイド面と対向する転動体ガイド面を有し、前記固定体を直線的に移動する移動体と、前記固定体の転動体ガイド面と前記移動体の転動体ガイド面とにより形成される負荷路を転動する転動体とを備えた直動装置において、前記移動体に、前記固定体の転動体ガイド面の凹凸を直接検出する検出部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
これにより、本発明は、直動装置が設置された機械装置からの振動で移動体と固定体とが離間することはなく、機械装置からの振動による影響や外部環境からの汚染の影響を排除して、運転環境の影響を受けることなく、直動装置の異常の有無を正確に判定することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、図面を参照して本発明による直動装置の実施例について説明する。
【実施例】
【0010】
図1は実施例のリニアガイド装置を示す斜視図、図2は実施例の検出部の正面から見た設置状態を示す説明図、図3は実施例の検出部の側面を示す説明図、図4は実施例の梁部材の上面を示す説明図である。
図1において、1は直動装置としてのリニアガイド装置である。
2は直動装置の固定体としてのレールであり、合金鋼等の鋼材で製作された長尺の柱状部材であって、その上面には機械装置の基台等にレール2を固定するための段付ボルト孔であるレール設置孔3が所定のピッチで複数設けられている。
【0011】
4は埋栓であり、レール取付穴3の大径部に嵌合する樹脂製の円盤状部材であって、ボルトによりレール2を基台等に固定した後に、レール取付穴3の大径部に、レール2の上面と面一になるように圧入される。
5は固定体の転動体ガイド面としてのレール軌道溝であり、レール2の両方の側面の長手方向に沿って形成された円弧状断面の溝である。
【0012】
6は直動装置の移動体としてのスライダであり、合金鋼等の鋼材で製作された略コの字状の断面形状を有する鞍状部材であって、その上面にはねじ穴7が設けられており、このねじ穴7を用いて機械装置の移動テーブル等がボルト等により締結される。
8は移動体の転動体ガイド面としてのスライダ軌道溝であり、スライダ6の両方の袖壁6aの内側にレール軌道溝5に対向して設けられた円弧状断面の溝である。
【0013】
9は直動装置の転動体としてのボールであり、合金鋼等の鋼材で製作された球体である。
10は戻り路であり、スライダ6の袖壁6aに形成されたボール9を循環させるためのボール9の直径より大きい直径を有し、スライダ6の移動方向(スライダ移動方向という。)にスライダ6を貫通する貫通穴であって、それぞれのスライダ軌道溝7に対応して設けられている。
【0014】
11はエンドキャップであり、金属材料や樹脂材料等で製作され、スライダ6のスライダ移動方向の前後端部に配置され、そのスライダ6側には対向配置されたスライダ軌道溝8とレール軌道溝5とにより形成される負荷路とスライダ6の戻り路10とをそれぞれ接続するU字状に湾曲した通路である方向転換路12がそれぞれの負荷路に対応して設けられている。
【0015】
13はサイドシールであり、合金鋼等の板材で製作された芯金とこの芯金に焼付けや接着等の接合手段で接合された天然ゴムや合成ゴム等の弾性を有するゴム材料で製作されたシール体とにより構成されてエンドキャップ11のスライダ移動方向の外側の端面に配置されており、シール体の先端のリップ部がレール2の外形面を摺動して接触式シールとして機能する。
【0016】
上記の負荷路の両端部は、エンドキャップ11の方向転換路12とスライダ6の戻り路10とで形成される連通路によりそれぞれ連通されてリニアガイド装置1の循環路が形成され、スライダ6の移動に伴ってボール9が循環路を循環し、負荷路を転動するボール9がスライダ6に加えられた荷重を往復動自在に支持し、スライダ6がレール2の長手方向に沿った直線往復移動可能に支持される。これによりリニアガイド装置1が直動装置として機能する。
【0017】
本実施例のリニアガイド装置1には、片側に2つ、両側で4つの循環路が形成されている。
図2において、15は梁部材であり、比較的柔軟な弾性を有するが引張に対して大きな抗力を有する樹脂材料等の弾性材で形成されたフィルム部材であって、その一端をL字状に曲折して形成された固定端15aを、エンドキャップ11およびサイドシール13を挿通してスライダ6のスライダ移動方向の端面に設けられた取付ねじ穴16に螺合する取付ボルト17(図1参照)によりスライダ6に締結されてサイドシール13の端面に片持状に固定される。
【0018】
19は触針であり、剛性の高い金属またはセラミックス等の高剛性材料で円錐状に形成されて梁部材15の固定端15aと反対側の先端部15bに接着等により取付けられており、梁部材15の弾性により先端がレール2に形成されたレール軌道溝5のボール9の転動面に対して鉛直方向に押圧され(図4参照)、スライダ6の移動に伴ってレール軌道溝5の転動面の凹凸に追随しながら摺接する。
【0019】
20は吸引板であり、磁性を有する金属材料で形成された薄板であって、図3に示すように、梁部材15の先端部15bの触針19の反対側の面に接着等により取付けられている。
21は取付ブラケットであり、比較的剛性の高い鋼材等で形成されたL字状部材であって、その短辺であるフランジ部21aが取付ボルト17により梁部材15とともにスライダ6に締結されて片持状に固定され、フランジ部21aの反対側の先端部21bの吸引板20に対向する位置に設けられた嵌合穴に、磁力により吸引板20を吸引する電磁石22が取付けられている。
【0020】
23はリード線であり、電磁石22に電力を供給する機能を有している。
図3において、24は歪ゲージであり、梁部材15の触針19が取付けられた面と反対側の面に接着等により取付けられており、その両端部にはボンディングにより配線26を構成する信号線26a、26bが接続しており、梁部材15の変形に伴って歪ゲージ24に発生する応力により電気信号を変化させる機能を有している。
【0021】
上記の触針19と歪ゲージ24とが設けられた片持状の梁部材15と、取付ブラケットに取付けられた梁部材15を吸引する電磁石22とにより、本実施例の検出部28が形成され、図4に示すように、各レール軌道溝5に一つずつ合計4つ配置されている
上記の構成の作用について説明する。
電磁石22と片持状の梁部材15とを有する検出部28をスライダ移動方向の一の端部に取付けたスライダ6をレール2に装着し、電磁石22を非通電にして各検出部28の触針19をそれぞれのレール軌道溝5に梁部材15の弾性を利用して押圧する。
【0022】
そして、梁部材15上の歪ゲージ24に接続する配線26の信号線26a、26b間に所定の電圧を印加し、スライダ6を比較的低速度で移動させ、図5(a)に示すように、触針19をレール軌道溝5の転動面上に摺接させる。
このとき、図5(b)に示すように、レール軌道溝5に剥離やフレーキング等により形成された凹凸が存在する場合は、触針19がその凹凸に倣って摺接し、湾曲していた梁部材15の曲率がその弾性により変化して歪ゲージ24の応力状態が変化し、その応力の変化量に応じて出力される電気信号が変化する。
【0023】
この電気信号は配線26に導かれて図示しない異常検出装置に入力され、入力された電気信号の変化量の実効値が求められ、その実効値が予め設定された閾値以上になったときに、異常が発生したことが検出される。
スライダ6を、機械装置に設定されたストローク範囲に相当する長さを超えて移動させた後は、電磁石22に通電して梁部材15の吸引板20を、梁部材15の弾性に抗して電磁石22に吸引し、図6に示すように、梁部材15を磁力により吸引して触針19をレール軌道溝5から離間させる。
【0024】
このようにして、本実施例の検出部28を用いたリニアガイド装置1の異常の検出が行われる。
上記のように、本実施例のリニアガイド装置1においては、スライダ6に固定した検出部28の触針19をレール軌道溝5に摺接させて、レール軌道溝5の凹凸を直接検出するので、リニアガイド装置1が設置された機械装置からの振動でスライダ6とレール2とが同時に振動してこれらの間が離間することはなく、機械装置からの振動による影響や外部環境からの汚染の影響を排除して、運転環境の影響を受けることなく、直動装置の異常の有無を正確に判定することができると共に、様々な運転環境への対応を容易に行うことができる。
【0025】
また、異常を検出するときを除き、電磁石22により梁部材15を吸引して、触針19をレール軌道溝5から離間させるので、レール軌道溝5の傷の発生を抑制することができる。
以上説明したように、本実施例では、レール軌道溝を有するレールと、レール軌道溝と対向するナット軌道溝を有し、レールを直線的に移動するスライダと、レール軌道溝とナット軌道溝とにより形成される負荷路を転動するボールとを備えリニアガイド装置のスライダに、レール軌道溝の凹凸を直接検出する検出部を設け、この検出部を、スライダに固定する固定端を有し、弾性材で形成された梁部材と、梁部材に取付けられた歪ゲージと、梁部材の固定端と反対側の先端部に取付けられ、レール軌道溝を摺接する触針とで構成したことによって、リニアガイド装置が設置された機械装置からの振動でスライダとレールとが離間することはなく、機械装置からの振動による影響や外部環境からの汚染の影響を排除して、運転環境の影響を受けることなく、リニアガイド装置の異常の有無を正確に判定することができる。
【0026】
また、検出部に、梁部材を磁力により吸引する電磁石を設けたことによって、異常検出時以外は、電磁石により梁部材を吸引して触針をレール軌道溝から離間させることができ、レール軌道溝の傷の発生を抑制することができる。
なお、上記実施例においては、梁部材に吸引板を設けて梁部材を電磁石で吸引するとして説明したが、触針自体を磁性材料で形成して梁部材を電磁石で吸引するようにしてもよい。このようにすれば吸引板を省略することができ、梁部材の先端部を軽量化して慣性力の影響を抑制することが可能になり、触針による凹凸検出の感度を更に高めることができる。
【0027】
また、上記実施例においては、触針は円錐状であるとして説明したが、角錐状や楕円錐状等であってもよい。要はレール軌道溝に摺接する先端が鋭角に形成されていればよい。
更に、上記実施例においては、検出部はスライダの一の端部に設けるとして説明したが、両端部に設けるようにしてもよい。このようにすればスライダのストロークが長い場合の異常の検出を容易に行うことができる。
【0028】
更に、上記実施例においては、転動体としてボールを用いたリニアガイド装置を例に説明したが、転動体としてころを用いたリニアガイド装置においても同様の効果を得ることができる。この場合に負荷路を形成するレールの転動体ガイド面とスライダの転動体ガイド面はころが転動するレール軌道面とスライダ軌道面とで構成される。
更に、上記実施例においては、直動装置はリニアガイド装置であるとして説明したが、転動体ガイド面としての軸軌道溝を有する固定体としてのねじ軸に、転動体としてのボールを介して直線移動可能に支持された、転動体ガイド面としてのナット軌道溝を有する移動体としてナットを有するボールねじ装置を直動装置として用いるようにしてもよい。この場合の負荷路は軸軌道溝とナット軌道溝とを対向配置して形成する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例のリニアガイド装置を示す斜視図
【図2】実施例の検出部の正面から見た設置状態を示す説明図
【図3】実施例の検出部の側面を示す説明図
【図4】実施例の梁部材の上面を示す説明図
【図5】実施例の触針の摺接状態を示す説明図
【図6】実施例の梁部材の吸引状態を示す説明図
【符号の説明】
【0030】
1 リニアガイド装置
2 レール
3 レール取付穴
5 レール軌道溝
6 スライダ
6a 袖壁
7 ねじ穴
8 スライダ軌道溝
9 ボール
10 戻り路
11 エンドキャップ
12 方向転換路
13 サイドシール
15 梁部材
15a 固定端
15b、21b 先端部
16 取付ねじ穴
17 取付ボルト
19 触針
20 吸引板
21 取付ブラケット
21b フランジ部
22 電磁石
23 リード線
24 歪ゲージ
26 配線
26a、26b 信号線
28 検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体ガイド面を有する固定体と、該固定体の転動体ガイド面と対向する転動体ガイド面を有し、前記固定体を直線的に移動する移動体と、前記固定体の転動体ガイド面と前記移動体の転動体ガイド面とにより形成される負荷路を転動する転動体とを備えた直動装置において、
前記移動体に、前記固定体の転動体ガイド面の凹凸を直接検出する検出部を設けたことを特徴とする直動装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記検出部は、前記移動体に固定する固定端を有し、弾性材で形成された梁部材と、該梁部材に取付けられた歪ゲージと、前記梁部材の固定端と反対側の先端部に取付けられ、前記固定体の転動体ガイド面を摺接する触針とを備えることを特徴とする直動装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記検出部に、前記梁部材を磁力により吸引する電磁石を設けたことを特徴とする直動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−303954(P2008−303954A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150892(P2007−150892)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】