説明

直動転がり案内ユニット

【課題】本直動転がり案内ユニットは,スライダに形成されるリターン通路孔を高分子焼結多孔質体の焼結樹脂部材によって形成することにより,潤滑油を長期にわたって転動体に供給し耐久性を向上させる。
【解決手段】軌道レール1に対してボール20等の複数の転動体を介して摺動自在なスライダ2には,ボール20を無限循環させるために,嵌挿孔26に高分子焼結多孔質体の焼結樹脂部材30が嵌挿され,焼結樹脂部材30の内部にボール20が通るリターン通路孔22が形成される。潤滑油やグリースが焼結樹脂部材30の多孔質構造の内部に吸収され,通過するボール20に潤滑油やグリースを長期にわたって供給し続け,ボール20を介して軌道路21を潤滑し,耐久性を向上し,スライダの摺動抵抗を軽減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,転動体のころがりを介して軌道レールとスライダとを相対的に直線摺動自在に案内する直動転がり案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来,直動転がり案内ユニットは,長尺の軌道レール(又は軌道軸)に対してスライダを複数の転動体(ボール又はころ)を介して摺動自在に構成したユニットであり,転動体は軌道レールとスライダの軌道溝(又は軌道面)間に無限循環する。軌道溝と転動体との金属接触を防止して定格の耐久寿命を達成するには,軌道溝と転動体との間に潤滑剤を切らさず供給して両者間の潤滑を確保することが不可欠である。軌道溝と転動体との間における潤滑の確保は,通常,定期的な給油によって行われている。
【0003】
近年,省エネや設備維持に費やすコスト削減等により,各種機械装置においてはメンテナンスフリーが要求されるようになっており,前記機械装置に組み込まれる直動転がり案内ユニットにおいても,潤滑に関してメンテナンスフリーの実現が要望されている。また,半導体製造装置などのクリーンルーム仕様の装置に組み込まれる直動転がり案内ユニットについては,発塵性の小さいものが要望されており,潤滑剤が微粒子となって発塵することを考慮して,潤滑剤の使用を最小限に抑えることが要求されている。
【0004】
レール付き直線運動軸受の潤滑に関して,スライド本体に形成され且つボールが無限循環のために通る循環穴を自己潤滑部材によって成形することにより,循環穴を循環するボールを潤滑し,スライド本体及びレールへの潤滑剤の塗布を不要としたものが提案されている(例えば,特許文献1参照)。循環穴は,例えば,スライダ本体に形成した穴にオイルレスメタル等のパイプ状に形成した自己潤滑部材を嵌合して成形されている。
【0005】
また,リニアガイド装置のスライダの内部に転動体と接触する潤滑剤含有ポリマ部材を配設し,転動体に対して長期にわたり安定して潤滑剤を自動的に供給する潤滑リニアガイド装置が提案されている(例えば,特許文献2参照)。潤滑剤含有ポリマ部材は,ポリオレフィン系ポリマと,ポリαオレフィン油等とを混合して加熱溶融した後,所定の型に注入して加圧しながら冷却固化することにより成形されている。更に,潤滑剤含有ポリマ部材を,潤滑剤含有ポリマと補強材とを一体成形することにより形成することも提案されている(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
更に,本出願人は,長手方向両側面に軌道溝が形成された軌道レールと前記軌道レール上を相対摺動するスライダとからなる直動案内ユニットにおいて,潤滑油を含浸した多孔質構造を有する焼結樹脂部材でなる潤滑プレートをスライダの端面に配設し,転動体が循環する軌道溝を潤滑したものを提案している(例えば,特許文献4参照)。
【0007】
上記の各提案は,クリーンルーム仕様で軽荷重なところでの使用において潤滑剤の塗布を不要にするものであるが,ますます高速化・高サイクル化する近年の機械装置に使用される上で,充分満足できるものではない。潤滑剤含有ポリマ部材は,成形においては潤滑油を混合して成形しなければならず,実際の使用においては補強材で補強しなければならず,高度な技術を要する。また,潤滑プレートをスライダに配設するものでは,潤滑プレートが軌道溝と摺接するため,高速化・高サイクル化した装置に使用する場合には,摺動抵抗が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭64−41724号公報
【特許文献2】特開平7−54844号公報
【特許文献3】特開平10−78032号公報
【特許文献4】特開平10−205534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで,スライダに形成したリターン通路孔を通って無限循環する転動体のころがりを介して軌道レールとスライダとを相対的に直線摺動自在に案内する直動転がり案内ユニットにおいて,リターン通路孔に装着されて転動体に潤滑油を供給する潤滑油供給部材を,補強材で補強することがなくてもそれ自体で充分な強度を持つ構造とし,長期にわたって転動体のスムーズな走行を可能にすると共に転動体に潤滑油を供給し続けることを可能にする点で解決すべき課題がある。
【0010】
この発明の目的は,上記課題を解決することであり,雰囲気や支持荷重において過酷な環境下での使用であっても,軌道路や軌道路を含む無限循環路を通る転動体に施すべき,定期的な潤滑剤の塗布や潤滑油の供給等のメンテナンスを不要にし,高速化・高サイクル化した装置にも軌道路における摺動抵抗を抑制して適用することができ,且つ潤滑を安価に実行することを可能とする直動転がり案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は,長尺な軌道部材,前記軌道部材の長手方向に相対移動可能なスライダ,及び前記軌道部材と前記スライダとの間に形成された軌道路を転走し前記スライダに形成されたリターン通路孔を通って無限循環する転動体を具備し,前記リターン通路孔は多孔質構造を有する焼結樹脂部材で形成されており,前記焼結樹脂部材は,高分子焼結多孔質体で成形されていることから成る直動転がり案内ユニットに関する。
【0012】
この直動転がり案内ユニットによれば,焼結樹脂部材は多孔質構造を有しているので吸収体としての機能を奏し,組立当初に焼結樹脂部材に潤滑油又はグリースを給油すれば,焼結樹脂部材は潤滑剤の油分を多孔質構造の孔構造内に吸収保持し,保持している潤滑剤はリターン通路孔内を通る転動体に常に供給される。潤滑剤が付着した転動体が軌道部材とスライダとの間に形成される軌道路に至って転走することにより,軌道溝や軌道面への潤滑(給油)も行われる。焼結樹脂部材の多孔質構造には,油分のみならず,特殊成分(固形潤滑微粒子,皮膜形成微粒子,その他の添加剤)をも吸収することが可能である。
【0013】
焼結樹脂部材は,それ自体が充分な強度を有しているので補強を必要とせず,また摩耗粉の発生が少ないので摩耗粉による多孔質構造の目詰まりが生じず,成形された多孔質構造に給油して保持された潤滑剤は長期にわたって転動体に供給される。したがって,高温等の特殊環境使用下や少量の潤滑剤使用下などにおいても,転動体と軌道路を構成する軌道溝や軌道面との金属接触が防止され,潤滑性が一層改善される。勿論,焼結樹脂部材の多孔質構造に潤滑油を予め含浸させた状態で形成してもよい。
【0014】
前記高分子焼結多孔質体は,超高分子量の合成樹脂微粒子を所定の金型に充填して加熱成形することにより成形される。超高分子量の合成樹脂微粒子を押し固めた状態で加熱成形することにより,多孔質構造に成形される。金型を用いた加熱成形加工により,焼結樹脂部材を大量に且つ安価に製作することが可能になる。
【0015】
合成樹脂微粒子としては,ポリエチレン,ポリプロピレン,又は四フッ化エチレン重合体が挙げられる。特に,超高分子量のポリエチレン微粒子は,成形品を高精度に製作できる素材であり,成形された焼結樹脂部材は耐摩耗性にも優れている。
【0016】
前記焼結樹脂部材はスリーブ状に成形され,前記リターン通路孔は前記スライダに形成されている嵌挿孔に嵌挿された前記焼結樹脂部材のスリーブ内部に形成されている。焼結樹脂部材をスリーブ状に形成し,スライダに形成された嵌挿孔に嵌挿されてスリーブ内部が転動体が通るリターン通路孔に形成される。したがって,リターン通路孔の孔径は転動体が通過可能な大きさであり,スライダに形成された嵌挿孔は,リターン通路孔の孔径に焼結樹脂部材のスリーブ厚さを考慮した孔径に形成される。
【0017】
この直動転がり案内ユニットにおいて,前記転動体は,前記軌道部材としての軌道レールの長手方向両側面に形成された第1軌道溝と前記第1軌道溝に対向して前記スライダに形成された第2軌道溝とから成る前記軌道路を転走するボールであり,前記スライダは,前記第2軌道溝と前記リターン通路孔とが形成されているケーシング,及び前記ケーシングの両端面にそれぞれ取り付けられると共に前記ボールが前記軌道路から前記リターン通路孔へ方向転換するための方向転換路が形成されたエンドキャップを有している。軌道部材及びスライダとしては,軌道レールと軌道レールを跨架するスライダとから成る型式のもの,或いは,軌道軸と軌道軸を囲む筒状のスライダとから成る型式のものを挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
この発明は,上記のように構成されているので,次のような効果を奏する。即ち,軌道部材とスライダとを相対移動させるため両者の間に形成される軌道路を転動体が転走する直動転がり案内ユニットにおいて,転動体を無限循環させるためスライダに形成されるリターン通路孔を,ケーシングの嵌挿孔にスリーブ状の多孔質構造を有する焼結樹脂部材を嵌挿して形成しているので,焼結樹脂部材は潤滑油やグリースを多孔質構造内に吸収する吸収体としての機能を奏し,潤滑油又はグリースが多孔質構造に吸収保持される。多孔質構造に吸収保持された潤滑油又はグリースは,リターン通路孔内を通る転動体が焼結樹脂部材に接触するときに微量ずつ転動体に付着されて消費され,転動体に付着された潤滑油又はグリースは転動体が軌道路を通過するときに軌道路に供給される。焼結樹脂部材は,それ自体が充分な強度を有しているので補強を必要とせず,また摩耗粉の発生が少ないので摩耗粉による多孔質構造の目詰まりが生じず,多孔質構造に保持した潤滑油又はグリースを長期にわたって転動体に供給することができる。したがって,高温等の特殊環境使用下や少量の潤滑剤使用下などにおいても,転動体と軌道路を構成する軌道溝や軌道面との金属接触が防止されて潤滑性が一層改善され,直動転がり案内ユニットとしての耐久性を増すことができる。更に,定期的な潤滑剤の塗布や潤滑油の供給等のメンテナンスを不要にし,高速化・高サイクル化した装置にも軌道路における摺動抵抗を抑制して適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明による直動転がり案内ユニットの一実施例を一部を破断して示す斜視図である。
【図2】図1に示す直動転がり案内ユニットの一部を破断して示す側面図である。
【図3】図2に示す直動転がり案内ユニットの矢視A−Aで見た断面図である。
【図4】この発明による直動転がり案内ユニットにおいて転動体がボールである場合の焼結樹脂部材の例を示す斜視図である。
【図5】この発明による直動転がり案内ユニットにおいて転動体がころである場合の焼結樹脂部材の断面図(A),及び焼結樹脂部材の側面図である(B)。
【図6】更に別の例としての焼結樹脂部材が組み込まれたスライダの断面図である。
【図7】この発明による直動転がり案内ユニットをボールスプラインに適用した実施例を示す斜視図である。
【図8】図7に示す直動転がり案内ユニットの断面図である。
【図9】この発明が適用された直動転がり案内ユニットの更に別の実施例を一部を破断して示す斜視図である。
【図10】図9に示す直動転がり案内ユニットの断面図である。
【図11】図9に示す直動転がり案内ユニットにおいて二つ割りの焼結樹脂部材を整合してリターン通路孔を形成した状態を示す断面図である。
【図12】図9に示す直動転がり案内ユニットの一部を分解して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,添付図面を参照しつつ,この発明による直動転がり案内ユニットの実施例を説明する。図1はこの発明による直動転がり案内ユニットの一実施例を一部を破断して示す斜視図,図2は図1に示す直動転がり案内ユニットの一部を破断して示す側面図,図3は図2に示す直動転がり案内ユニットの矢視A−Aで見た断面図,図4は転動体がボールである場合に用いられる焼結樹脂部材の複数の例を示す斜視図である。
【0021】
図1〜図4に示す実施例においては,直動転がり案内ユニットは,一般に,ベッドとテーブルのような相対移動すべき部材間に適用されるユニットであって,軌道レール1と,軌道レール1上を摺動自在なスライダ2とを備えている。軌道レール1の外側に面した一対の長手方向両側面3,3にそれぞれ第1軌道溝4,4が形成されている。軌道レール1の上面5には,軌道レール1をベッド8に取り付けるための取付け孔6が開口している。
【0022】
スライダ2は,軌道レール1の上面5を跨ぐケーシング10,ケーシング10の長手方向両端面に当接して取り付けられたエンドキャップ11,及び軌道レール1とエンドキャップ11との間の隙間をシールするためエンドキャップ11の端面に配設されたエンドシール12から構成されている。エンドキャップ11とエンドシール12とは,取付けねじ13によってケーシング10に取り付けられている。ケーシング10には,軌道レール1の第1軌道溝4に対向する位置に第2軌道溝14と,スライダ2をテーブルに取り付けるため頂面15に開口するねじ穴16が形成されている。ケーシング10及びエンドキャップ11と軌道レール1の長手方向両側面3との間の隙間をシールするため,エンドキャップ11及びケーシング10の下面には下面シール17(図3)が取り付けられている。
【0023】
スライダ2を軌道レール1に対して摺動可能にするため,軌道レール1に形成されている第1軌道溝4とケーシング10に形成されている第2軌道溝14との間に形成される負荷軌道路21に転動体としてのボール20が転走可能である。ボール20は,スライダ2を軌道レール1から分離した状態にしても散逸しないように,保持バンド24によってケーシング10に保持されている。ボール20は,負荷軌道路21を転走し,ケーシング10に形成されたリターン通路孔22と両エンドキャップ11に形成され負荷軌道路21とリターン通路孔22とに接続する方向転換路とから成る無負荷軌道路を移動することにより無限循環可能である。ボール20にグリースを供給するためのグリースニップル25がエンドシール12の外面から突出した状態でエンドキャップ11に取り付けられている。上記の構造は,従来の直動転がり案内ユニットも備えている構成である。
【0024】
本発明による直動転がり案内ユニットは,以下の点で特徴的な構造を備えている。即ち,リターン通路孔22は,ケーシング10にスリーブ状の焼結樹脂部材30を配設することにより,焼結樹脂部材30のスリーブ内部の空間として形成されている。したがって,ケーシング10には,ボール20が通ることが可能な通路径に焼結樹脂部材30の肉厚を加算した径,即ち,焼結樹脂部材30の外径に相当する内径を備えた嵌挿孔26が形成されており,嵌挿孔26に焼結樹脂部材30が嵌挿されている。焼結樹脂部材30は,両端がエンドキャップ11に当接することにより,嵌挿孔26に沿う長手方向への移動が規制されている。
【0025】
図4(A)には,ボール20が通るリターン通路孔22が内部に形成されるスリーブ状の焼結樹脂部材30の成形例が示されている。焼結樹脂部材30は,スリット等が何等形成されていないストレートなスリーブ形状を有している。図4(B)には,別の構造の焼結樹脂部材31が示されている。焼結樹脂部材31は,図4(A)に示した焼結樹脂部材30の長手方向にスリット32を形成したものである。スリット32は,潤滑油溜まり部分としての機能を有し,図示では1条のみ示されているが,周方向に隔置して複数条に形成してもよい。例えば,組立当初,グリースニップル25から充填されたグリース等の潤滑油は焼結樹脂部材30に達してスリット32内に保持され,スリット32内の潤滑油は,焼結樹脂部材31の多孔質構造内に吸収され,長期にわたって,リターン通路孔22を通るボール20に供給される。
【0026】
図4(C)には,更に別の構造を有する焼結樹脂部材33が示されている。焼結樹脂部材33は,両端に大径部34,34が形成され,両大径部34,34の間には,小径部35が形成されている。小径部35には,スリット36が長手方向に沿って形成されている。ケーシング10(図1〜図3を参照)の嵌挿孔26(想像線で示す)は,大径部34がちょうど嵌挿される内径で一様に形成されているので,小径部35の外周面と嵌挿孔26との間にはグリースを保持可能な潤滑油溜まり部分としての環状の凹部37が形成される。凹部37には,スリット36を通じてグリース等の潤滑油が出入り可能である。凹部37内の潤滑油は焼結樹脂部材33に吸収され,長期にわたって,リターン通路孔22を通るボール20に供給される。焼結樹脂部材33は,小径部35において剛性が低くなって弾性変形し易いので,ボール20の移動が更にスムーズになる。
【0027】
図4(D)には,更に別の構造を有する焼結樹脂部材40が示されている。焼結樹脂部材40は,両端にそれぞれ大径部41,42が形成され,中央部には大径部41,42と等径のリブ部43が形成されている。一端側の大径部41とリブ部43の間,及び他端側の大径部42とリブ部43の間には,それぞれ小径部44,45が形成されている。小径部44,45には,それぞれスリット46,47が長手方向に沿って形成されている。図4(C)に示す焼結樹脂部材33と同様に,小径部44,45の外周面と嵌挿孔26との間にはグリースを保持可能な潤滑油溜まり部分として機能する環状の凹部48,49が形成される。リブ部43は,両大径部41,42間に複数箇所で設けてもよく,小径部44,45のために低下した強度の補強作用を持たせることが可能である。凹部48,49内の潤滑油は焼結樹脂部材40に吸収され,長期にわたって,リターン通路孔22を通るボール20に供給される。
【0028】
図4(E)には,更に別の構造を有する焼結樹脂部材50が示されている。焼結樹脂部材50は,リターン通路孔22を形成するスリーブ状の内周面に長手方向に複数条の溝を形成することにより,凹凸面に形成したものである。凹凸面の凸部51はボール20の通過面となり,溝状の凹部52はグリースを保持する潤滑油溜まり部分としての働きをする。ボールとの接触面積が減少し潤滑油の供給を充分受けられるので,スライダ2の軌道レール1に対する摺動抵抗の低下が期待される。凹部50内の潤滑油は焼結樹脂部材50に吸収され,長期にわたって,リターン通路孔22を通るボール20に供給される。凹凸面の構造は,図4(A)〜(D)に示した焼結樹脂部材30,31,33,40にも適用可能である。また,図4(B)〜(D)に示したスリット32,36,46,47が形成されている焼結樹脂部材31,33,40については,外周面を凹凸面に形成してもよい。
【0029】
図5には,転動体をころ(円筒ころ)とした場合の焼結樹脂部材60が示されている。図5(A)は,転動体がころ(円筒ころ)である場合の焼結樹脂部材の断面図であり,(B)は(A)に示す焼結樹脂部材の側面図である。図に示す焼結樹脂部材60は,同形状の半割りスリーブ61,61を合体して構成されており,各半割りスリーブ61の内面には凹状の溝63が形成されている。両半割りスリーブ61,61を合体した状態では,外形はケーシング10に形成した嵌挿孔26(図1〜図3参照)に嵌挿するスリーブ状となり,溝63,63は互いに整合して転動体であるころが通る断面四角状のリターン通路孔62を形成する。
【0030】
図6には,直動転がり案内ユニットに用いられる焼結樹脂部材の更に別の例が示されている。図6は,更に別の例としての焼結樹脂部材が組み込まれたスライダの断面図である。図6に示すように,多孔質構造を有する焼結樹脂部材70は,スリーブ状に成形するのではなく,リターン通路孔72が内部に成形されたブロック状に形成されている。ブロック状の焼結樹脂部材70は,ケーシング10に形成された相補的な溝71に嵌合し,スライダ2のケーシング本体10aから延びる一対の脚部10bに嵌着されてケーシング10に一体化される。スリーブ状に形成された焼結樹脂部材では構造上薄肉となってしまうが,ブロック状に成形することで充分な量の潤滑油を保持することが可能になる。ケーシング10の脚部10b等の強度が不足する場合には,ケーシング10を覆うカバーを適用する等により強度アップを図ることができる。
【0031】
図7及び図8には,この発明による直動転がり案内ユニットの別の実施例が示されている。図7はこの発明による直動転がり案内ユニットをボールスプラインに適用した実施例を示す斜視図,図8は図7に示す直動転がり案内ユニットの断面図である。図7及び図8に示す直動転がり案内ユニットは,図1〜図3に示す直動転がり案内ユニットと比較して,断面角状の軌道レール1及び軌道レール1を跨ぐスライダ2に代えて,断面丸軸状の軌道軸81と軌道軸81を取り囲む筒状のスライダ82を用いたボールスプラインに適用されている点で異なるが,その他の点では機能上図1〜図3に示す直動転がり案内ユニットと変わるところはないので,同様の機能を奏する構成要素には,図1〜図3に示す直動転がり案内ユニットに付された符号と同じ符号を付して詳細な説明を省略する。筒状のスライダ82には,嵌挿孔26が長手方向に延びて形成され,嵌挿孔26内にスリーブ状の焼結樹脂部材30が嵌挿されており,焼結樹脂部材30のスリーブ状内部にリターン通路孔22が形成されている。なお,スライダ82の外面には,取付け用のキー溝83が形成されている。
【0032】
図9〜図12には,この発明が適用された直動転がり案内ユニットの更に別の実施例が示されている。図9はこの発明が適用された直動転がり案内ユニットの更に別の実施例を一部を破断して示す斜視図,図10は図9に示す直動転がり案内ユニットの断面図,図11は図9に示す直動転がり案内ユニットにおいて二つ割りの焼結樹脂部材を整合してリターン通路孔を形成した状態を示す断面図,図12は図9に示す直動転がり案内ユニットの一部を分解して示す斜視図である。
【0033】
図9〜図12に示す直動転がり案内ユニットにおいては,図1〜図3に示した直動転がり案内ユニットと比較して,軌道レール91とスライダ92とを相対摺動可能にするために無限循環する転動体として,ボール20の代わりに円筒ころ90を用いており,それに関連した構造が異なる以外,直動転がり案内ユニットとしての基本的な構造に相違点はない。したがって,同等の機能を奏する構成要素には図1〜図3に示す構成要素と同じ符号を付して,重複する詳細な説明を省略する。転動体が円筒ころ90であるため,軌道レール91の長手方向両側面3には,上下に開いた二対の第1軌道面94,94が形成されており,スライダ92には,第1軌道面94,94に対向した二対の第2軌道面95,95が形成されている。対向する軌道面94,95間には,円筒ころ90が転走する二対の負荷軌道路96が形成されている。
【0034】
上下に対として構成される負荷軌道路96,96間には,軌道レール91のレール溝97に対して僅かの隙間を介して移動可能なように,円筒ころ90を保持する保持板98がスライダ92のケーシング100に取り付けられている。また,ケーシング100及びエンドキャップ11と軌道レール91の長手方向両側面3との間の隙間をシールするためにエンドキャップ11及びケーシング100の下面に下面シール99が取り付けられている。更に,エンドシール12のリップ93が軌道レール91の上面5とスライダ92の間のシールを行っている。
【0035】
スライダ92のケーシング100には,リターン通路孔101が第2軌道面95に平行に延びて形成されており,エンドキャップ11には,円筒ころ90が軌道路96からリターン通路孔101へ方向を転換させる方向転換路が形成されている。円筒ころ90は,負荷軌道路96,エンドキャップ11に形成された方向転換路及びケーシング100に形成されたリターン通路孔101から成る無負荷軌道路を無限循環している。潤滑のメンテナンスフリーを実現するために,円筒ころ90が通るリターン通路孔101は,ケーシング100の嵌挿孔108にその全長にわたって嵌挿された潤滑油を保持可能な多孔質構造を有する焼結樹脂部材102の内部に形成されている。
【0036】
焼結樹脂部材102は,その長手方向に沿って円筒ころ90が転走する転動面(軌道面)103において2分割された半割りスリーブ104,104から構成されている。各半割りスリーブ104,104は,互いに凹凸嵌合(図示せず)によって結合するのが好ましいが,結合状態では互いに当接面で整合されて内部にリターン通路孔101を形成すると共に,外周は嵌挿孔108に嵌まり合う円筒面106となっている。半割りスリーブ104,104が結合されているので,割面の当接面105,105での整合状態が接離することでリターン通路孔101は弾性変形可能である。更に,半割りスリーブ104,104の両端には,図示しないが,円筒ころ90がスムーズに転走して方向転換路に移ることができるように,面取りされて滑らかに通路壁面に形成されている。
【0037】
半割りスリーブ104,104が更に弾性変形を容易にするために,半割りスリーブ104,104には,リターン通路孔101を転走する円筒ころ90の転動軸線上で且つ半割りスリーブ104,104の長手方向に延びるスリット107が形成されている。スリット107を形成することによって,スリット107を通じて焼結樹脂部材102の内外に潤滑剤が出入りできる。したがって,焼結樹脂部材102とケーシング100のリターン通路孔101との間の隙間に潤滑剤が保留されるので,スリット107内の潤滑剤(潤滑油)は,焼結樹脂部材102に吸収され,長期にわたって,リターン通路孔101を通る円筒ころ90に供給される。
【0038】
上記の多孔質構造を有する焼結樹脂部材30,31,33,40,50,60,102(以下,煩雑さを回避するため,焼結樹脂部材について符号を省略する)は,高分子焼結多孔質体で成っており,超高分子量の合成樹脂微粒子を所定の金型に充填して加熱成形することにより成形されている。合成樹脂微粒子としては,ポリエチレン,ポリプロピレン,四フッ化エチレン重合体等を挙げることができる。超高分子量のポリエチレン微粒子は成形品を高精度に製作できる素材であり,成形された焼結樹脂部材は耐摩耗性に優れている。従って,焼結樹脂部材は,補強材によって補強をすることを要せず,しかも摩耗することなく,摩耗粉によって多孔質構造の目詰まりが生じないので,長期にわたって潤滑剤を転動体及び転動体を介して負荷軌道路に供給することができる。焼結樹脂部材は,上記の通り,シート状に成形されたものを丸めたり,一対の半割りスリーブを整合させることにより内部にリターン通路孔が作られるスリーブ状に容易に製作することができる。
【0039】
超高分子量のポリエチレン微粒子は,例えば,細粒径が30μmで,粗粒径が250〜300μmの粉末でなり,加熱成形して焼結すると,多孔質構造は,空間率が例えば40〜50%のオープンポアからなる構造となる。多孔質構造への潤滑油の吸収は,例えば,タービン油に漬けて含浸した場合,30分程度で潤滑剤の含有率を41%にして完了する。グリースの場合には,その油分を2日間で前記41%の70%程度を吸収する。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明による直動転がり案内ユニットは,ベッドとテーブルのような相対移動すべき部材間に適用して好ましいものである。
【符号の説明】
【0041】
1,91 軌道レール(軌道部材)
2,92 スライダ
3 長手方向側面
4 第1軌道溝
10,100 ケーシング
11 エンドキャップ
14 第2軌道溝
20 ボール(転動体)
21,96 軌道路
22,62,72 リターン通路孔
25 グリースニップル
26,108 嵌挿孔
30,31,33,40,50,60,70,102 焼結樹脂部材
32,36,46,47 スリット(潤滑剤溜まり部分)
37,48,49,52 凹部(潤滑剤溜まり部分)
81 軌道軸(軌道部材)
82 スライダ
90 円筒ころ(転動体)
94 第1軌道面
95 第2軌道面
104 半割りスリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な軌道部材,前記軌道部材の長手方向に相対移動可能なスライダ,及び前記軌道部材と前記スライダとの間に形成された軌道路を転走し前記スライダに形成されたリターン通路孔を通って無限循環する転動体を具備し,前記リターン通路孔は多孔質構造を有する焼結樹脂部材で形成されており,前記焼結樹脂部材は,高分子焼結多孔質体で成形されていることから成る直動転がり案内ユニット。
【請求項2】
前記高分子焼結多孔質体は,超高分子量の合成樹脂微粒子を所定の金型に充填して加熱成形することにより成形されていることから成る請求項1に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項3】
前記合成樹脂微粒子は,ポリエチレン,ポリプロピレン,又は四フッ化エチレン重合体から成る請求項2に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項4】
前記焼結樹脂部材はスリーブ状に成形され,前記リターン通路孔は前記スライダに形成されている嵌挿孔に嵌挿された前記焼結樹脂部材のスリーブ内部に形成されていることから成る請求項1〜3のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項5】
前記転動体は,前記軌道部材としての軌道レールの長手方向両側面に形成された第1軌道溝と前記第1軌道溝に対向して前記スライダに形成された第2軌道溝とから成る前記軌道路を転走するボールであり,前記スライダは,前記第2軌道溝と前記リターン通路孔とが形成されているケーシング,及び前記ケーシングの両端面にそれぞれ取り付けられると共に前記ボールが前記軌道路から前記リターン通路孔へ方向転換するための方向転換路が形成されたエンドキャップを有していることから成る請求項1〜4のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−79776(P2009−79776A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6255(P2009−6255)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【分割の表示】特願平11−257648の分割
【原出願日】平成11年9月10日(1999.9.10)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】