説明

直接エポキシ化触媒および方法

遷移金属ゼオライト、貴金属およびチオールを含む触媒が開示される。触媒は、オレフィン、水素および酸素を反応させるステップを含むエポキシ化方法において使用される。触媒中のチオールの存在により、オレフィンの水素化からのアルカンの形成が低減され、ならびに/または水素および酸素のエポキシド選択性が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、遷移金属ゼオライト、貴金属およびチオールを含む触媒に関する。触媒は、オレフィン、水素および酸素を反応させることによりエポキシドを生成するために使用される。
【0002】
(発明の背景)
プロピレン等の高級オレフィン(3個以上の炭素を含有する)の酸素および水素との直接エポキシ化が、最近の研究の焦点となっている。例えば、反応は、金およびチタン含有担体を含む触媒(例えば米国特許第5,623,090号、同第6,362,349号および同第6,646,142号を参照)、またはパラジウムおよびチタンゼオライトを含有する触媒(例えば特開平04−352771号公報;米国特許第6,008,388号、同第6,498,259号を参照)の存在下で行うことができる。残念ながら、これらの触媒系はまた、対応するオレフィンからアルカンを生成する。米国特許第6,005,123号は、プロピレンのエポキシ化においてプロパン形成を抑制するために硫黄化合物を使用することができることを開示しているが、これはまたエポキシド形成も抑制する。そのエポキシ化活性を低下させずにオレフィンの水素化を抑制する新たな触媒を発見することが依然として求められている。
【0003】
チオール官能化メソ多孔質シリカが、Pt2+およびPd2+を選択的に吸着することが報告されている(Ind. Eng. Chem. Res. 43(2004年)1478頁を参照)。一方、PtまたはPdの水素化活性は、チオール官能基により強力に抑制される(J. Chem. Eng. of Japan 35(3)(2002年)255頁を参照)。
【0004】
(発明の概要)
本発明は、遷移金属ゼオライト、貴金属およびチオールを含む触媒である。触媒は、オレフィン、水素および酸素からのエポキシド生成に有用である。触媒中のチオールの存在により、オレフィンの水素化からのアルカンの形成が低減され、ならびに/または水素および酸素のエポキシド選択性が改善される。
【0005】
(発明の詳細な説明)
一態様において、本発明は、遷移金属ゼオライト、貴金属およびチオールを含む触媒である。ゼオライトは、明確な構造を有する多孔質結晶性固体である。一般に、それらは、酸素に加えて、Si、Ge、Al、B、P等のうちの1つまたは複数を含有する。多くのゼオライトは鉱物として自然に生じ、世界中の多くの場所で広く採掘されている。その他は合成であり、特定用途向けに商業的に作製されている。ゼオライトは、多くの場合その内部空洞内で生じる化学反応のための触媒として機能する能力を有する。遷移金属ゼオライトは、骨格内に遷移金属を含むゼオライトである。遷移金属は、第3〜12族元素である。遷移金属の第1列は、ScからZnである。好ましい遷移金属は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Cr、Zr、Nb、MoおよびWである。より好ましいのは、Ti、V、MoおよびWである。最も好ましいのは、Tiである。
【0006】
好ましいチタンゼオライトは、チタンケイ酸塩(チタノシリケート)である。好ましくは、それらは、格子骨格内にチタン、ケイ素および酸素以外の元素を含有しない(R. Szostak、「Non−aluminosilicate Molecular Sieves」、Molecular Sieves: Principles of Synthesis and Identification(1989年)、Van Nostrand Reinhold、205〜82頁を参照)。少量の不純物、例えばホウ素、鉄、アルミニウム、リン、銅等およびこれらの混合物が、格子中に存在し得る。不純物の量は、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満である。好ましいチタンケイ酸塩は、一般に、xTiO2・(1−x)SiO2の実験式に対応する組成を有し、式中、xは、0.0001から0.5000である。より好ましくは、xの値は、0.01から0.125である。ゼオライトの格子骨格内のTiに対するSiのモル比は、有利には、9.5:1から99:1、最も好ましくは9.5:1から60:1である。特に好ましいチタンゼオライトは、チタンシリカライトである(Catal. Rev.−Sci. Eng. 39(3)(1997年)209頁を参照)。これらの例は、TS−1(チタンシリカライト−1、ZSM−5アルミノケイ酸塩のMFIトポロジーと類似したMFIトポロジーを有するチタンシリカライト)、TS−2(ZSM−11アルミノケイ酸塩のMELトポロジーと類似したMELトポロジーを有する)およびTS−3(ベルギー特許第1,001,038号に記載)を含む。ゼオライトベータ、モルデナイト、ZSM−12、MCM−22、MCM−41およびMCM−48と同形の骨格構造を有するチタンゼオライトもまた、使用に好適である。MCM−22、MCM−41およびMCM−48ゼオライトの例は、米国特許第4,954,325号、同第6,077,498号および同第6,114,551号;Maschmeyer, T.ら、Nature 378(9)(1995年)159頁;Tanev, P. T.ら、Nature 368(1994年)321頁;Corma, A.、J. Chem. Soc., Chem. Commun.(1998年)579頁;Wei D.ら、Catal. Today 51(1999年)501頁に記載されている。最も好ましいのは、TS−1である。
【0007】
遷移金属ゼオライトは、粒子状に形成され得る。噴霧乾燥が好ましい形成技術である。噴霧乾燥は、液体の霧化を利用して液滴を形成し、それが気体媒質中で移動する間に乾燥して個々の粒子となる、懸濁粒子処理システムである(K. Maters、Spray Drying In Practice、SprayDryConsultant International ApS(2002年)1〜15頁を参照)。噴霧乾燥は、チタンゼオライトを含むゼオライトの形成において知られている(例えば、米国特許第4,954,653号、同第4,701,428号、同第5,500,199号、同第6,524,984号および同第6,106,803号を参照)。
【0008】
鋳型剤を含有する遷移金属ゼオライトを使用して粒子を形成することができる。遷移金属ゼオライトは、一般に、有機鋳型剤の存在下で調製される(例えば米国特許第6,849,570号を参照)。好適な鋳型剤は、アルキルアミン、第四級アンモニウム化合物等を含む。ゼオライトが結晶化する際、通常それはその細孔内に有機鋳型剤を含有し、これは焼成または溶媒抽出により除去され得る。鋳型剤を含有するゼオライトは、焼成または溶媒抽出により処理されることなく噴霧乾燥されてもよい。代替として、鋳型剤を含まないゼオライトが噴霧乾燥されてもよい。
【0009】
好ましくは、遷移金属ゼオライトの噴霧乾燥に結合剤が使用される。結合剤は、噴霧乾燥された粒子の機械的強度または物理的特性(例えば、破砕強度、表面積、細孔の大きさ、細孔容積等)を改善するのに役立つ。時折、結合剤は、活性成分(例えば遷移金属ゼオライト等)の化学的特性(例えば酸性度、塩基性度等)およびその触媒活性を変えることができる。好適な結合剤は、金属酸化物、非金属酸化物、混合酸化物、粘土等を含む。好適な結合剤の例は、シリカ、アルミナ、チタニア、マグネシア、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、粘土等およびこれらの混合物を含む。粘土の例は、「Chapter 2. Clay as Potential Catalyst Material」、Zeolite, Clay, and Heteropoly Acid in Organic Reactions(1992年)、株式会社講談社(東京)に見ることができる。好ましい結合剤は、シリカ、アルミナ、チタニア、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニアおよびこれらの混合物である。より好ましいのは、シリカ、アルミナ、チタニアおよびこれらの混合物である。噴霧乾燥用の混合物の調製に、結合剤の前駆体がしばしば使用される。例えば、シリカをシリカゾルとして混合物中に導入することができる(Healy, T. W.、「Stability of Aqueous Silica Sols」、The Colloid Chemistry of Silica(1994年)American Chemical Society)。同様に、オルトケイ酸エステル、アルコキシシラン、アルコキシチタネート、アルコキシアルミネート等のその他の結合剤前駆体も使用することができる。具体的な例は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ならびに類似テトラアルコキシチタンおよびトリアルコキシアルミニウム化合物である。前駆体は、混合、噴霧乾燥または焼成の間に、対応する結合剤に変換される。
【0010】
触媒は貴金属を含む。好適な貴金属は、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウムおよびこれらの混合物を含む。好ましい貴金属は、Pd、Pt、Au、Re、Agおよびこれらの混合物である。パラジウム、金およびそれらの混合物が特に望ましい。典型的には、触媒中に存在する貴金属の量は、0.01重量%から20重量%、好ましくは0.1重量%から5重量%の範囲内である。
【0011】
貴金属源として使用される貴金属化合物または錯体の選択に関しては、特に制限はない。好適な化合物は、貴金属の硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物(例えば塩化物、臭化物等)、カルボン酸塩(例えば酢酸塩等)およびアミンまたはホスフィン錯体(例えばパラジウム(II)テトラアミンブロミド、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)等)を含む。
【0012】
貴金属に対する遷移金属ゼオライトの重量比は、特に重要ではない。しかしながら、100:1から10,000:1(貴金属のグラムあたりの遷移金属ゼオライトのグラム)の遷移金属ゼオライト対貴金属重量比が好ましい。
【0013】
貴金属は、担体上に担持されてもよい。好適な担体は、シリカ、アルミナ、チタニア、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、粘土、炭素、イオン交換樹脂等を含む。チタニアが好ましい担体である。
【0014】
触媒中の貴金属の酸化状態は重要ではない。例えば、パラジウムは、0から+4の任意の酸化状態またはそのような酸化状態の任意の組合せであってもよい。所望の酸化状態または酸化状態の組合せを達成するために、触媒に導入された後の貴金属化合物は、完全にまたは部分的に前還元されていてもよい。
【0015】
触媒はチオールを含む。チオールは、一般式RSHを有し、炭素−硫黄単結合を含有する有機分子であり、Rは少なくとも1個の炭素原子を含有する。Rは、アルキルまたはアリール基であってもよい。「チオール」という用語はまた、チオレート、RS-を含む。Rは、ヒドロキシ、ケトン、エステル、アミド、ハライド、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボン酸またはカルボキシレート等の置換基を含有し得る。チオールはまた、メルカプタンとも呼ばれる。好適なチオールは、メタンチオール、エタンチオール、1−プロパンチオール、2−プロパンチオール、1−ブタンチオール、2−ブタンチオール、2−メチル−1−プロパンチオール、2−メチル−2−プロパンチオール、1−ドデカンチオール、シクロヘキサンチオール、ベンゼンチオール(チオフェノール)、α−トルエンチオール(ベンジルメルカプタン)、アルキルメルカプトプロピオネート、3−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトエタノール、1,2−エタンジチオールおよびメルカプト酢酸を含む。−SH基を有する有機ポリマーもまた使用することができる。好ましくは、チオールの−SH基は、例えばメタンチオール、エタンチオール、1−プロパンチオール、2−プロパンチオール、1−ブタンチオール、2−ブタンチオール、2−メチル−1−プロパンチオール、2−メチル−2−プロパンチオール、1−ドデカンチオールおよびシクロヘキサンチオール中の脂肪族炭素に結合している。チオレート塩(例えばアンモニウム、ナトリウムまたはカリウム塩)もまた、チオール源として使用することができる。
【0016】
チオールは自由分子として触媒中に存在し得る。代替として、チオールは、遷移金属ゼオライトがチオール基で官能化されるように、化学結合(すなわち共有化学結合)を介して遷移金属ゼオライトに連結されていてもよい。ゼオライト表面はヒドロキシ基を含有する。任意の好適な化学結合を用いてチオールをゼオライト表面に連結することができる。例えば、ヒドロキシ置換またはハライド置換チオール(例えば2−メルカプトエチルクロリド、3−メルカプトプロピルブロミド等)は、ゼオライト表面ヒドロキシ基と反応してエーテル結合を形成することができる。カルボン酸またはカルボン酸ハライド基を含有するチオール(例えば2−メルカプト酢酸クロリド、3−メルカプトプロピオン酸ブロミド等)を使用して、エステル官能基によりゼオライトを官能化することができる。トリアルコキシシリル置換チオール(例えば3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン等)が、特に好ましい官能化剤である。メソ多孔質シリカを3−メルカプトプロピルトリメトキシシランと反応させることにより、チオール基をメソ多孔質シリカに連結させることができることが知られている。Ind. Eng., Chem. Res. 43(2004年)1478頁を参照されたい。
【0017】
触媒が結合剤を含む場合、チオールは結合剤に連結されていてもよい。例えば、シリカ結合剤を含有する噴霧乾燥遷移金属ゼオライトを3−メルカプトプロピルトリメトキシシランで処理して、シリカ結合剤および/または遷移金属ゼオライトがチオール基で官能化された材料を生成することができる。その他の結合剤も同様の様式で官能化され得る。
【0018】
同様に、貴金属が担体上に担持されている場合、チオールは、同様の様式で担体に連結され得る。シリカ、アルミナ、チタニア、炭素等は、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等の官能化剤と反応し得る表面ヒドロキシ基を含有することが知られている。
【0019】
チオールが、化学反応、例えばオレフィンの水素および酸素とのエポキシ化等における触媒選択性を改善するように、貴金属の化学活性を変えることが推測される。好ましくは、チオールおよび貴金属は、それらの間の相互作用に有利となるように極めて近接している。1つの好ましい触媒において、貴金属は、遷移金属ゼオライト粒子上に担持され、チオールは、同じ粒子上にグラフトされている。別の好ましい触媒において、貴金属は、担体上に担持され、チオールは、同じ担体上にグラフトされている。
【0020】
触媒中のチオールの量は重要ではない。一般に、貴金属に対するチオールのモル比は、1:9から9:1の範囲内である。好ましくは、この比は、3:1から1:3の範囲内である。
【0021】
別の態様において、本発明は、本発明の触媒の存在下で、オレフィン、酸素および水素を反応させることを含む、エポキシ化方法である。
【0022】
この方法において、オレフィンが使用される。好適なオレフィンは、少なくとも1個の炭素間二重結合および一般に2個から60個の炭素原子を有する任意のオレフィンを含む。好ましくは、オレフィンは、2個から30個の炭素原子の非環式アルケンであり、その方法は、C2〜C6オレフィンのエポキシ化に特に好適である。ジエンまたはトリエンのように、オレフィン分子内に2個以上の二重結合が存在してもよい。オレフィンは炭化水素であってもよく、またはハロゲン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エーテル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等の官能基を含有してもよい。特に好ましい方法において、オレフィンはプロピレンであり、エポキシドはプロピレンオキシドである。
【0023】
酸素および水素が必要である。いかなる酸素源および水素源でも好適であるが、酸素分子および水素分子が好ましい。酸素に対する水素のモル比は、通常、H2:O2=1:100から5:1の範囲内で変動し得るが、1:5から2:1で特に有利である。オレフィンに対する酸素のモル比は、通常1:1から1:20、好ましくは1:1.5から1:10である。ある特定のオレフィンには、比較的高い酸素対オレフィンモル比(例えば1:1から1:3)が有利となり得る。
【0024】
オレフィン、酸素および水素に加え、この方法において好ましくは不活性ガスが使用される。任意の所望の不活性ガスを使用することができる。好適な不活性ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴンおよび二酸化炭素を含む。1〜8個、特に1〜6個、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する飽和炭化水素、例えばメタン、エタン、プロパンおよびn−ブタンもまた好適である。窒素および飽和C1〜C4炭化水素が、好ましい不活性ガスである。不活性ガスの混合物もまた使用することができる。ガスに対するオレフィンのモル比は、通常100:1から1:10、特に20:1から1:10の範囲内である。
【0025】
方法は、連続フロー方式、半バッチ方式またはバッチ方式で行うことができる。連続フロー式の方法が好ましい。触媒は、好ましくはスラリー状である。
【0026】
1〜200バールの圧力で作業するのが有利である。方法は、所望のオレフィンエポキシ化を達成するために効果的な温度、好ましくは0〜200℃、より好ましくは20〜150℃の範囲内の温度で行われる。好ましくは、反応混合物の少なくとも一部は、反応条件下で液体である。
【0027】
この方法において、好ましくは反応溶媒が使用される。好適な反応溶媒は、反応条件下で液体である。それらは、例えば、アルコール等の酸素含有炭化水素、トルエンおよびヘキサン等の芳香族および脂肪族溶媒、アセトニトリル等のニトリル、二酸化炭素、ならびに水を含む。好適な含酸素溶媒は、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、二酸化炭素、水等およびこれらの混合物を含む。好ましい含酸素溶媒は、水、ならびに低級脂肪族C1〜C4アルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノールおよびこれらの混合物を含む。フッ素化アルコールを使用することができる。
【0028】
反応溶媒が使用される場合、緩衝剤を使用するのが有利となり得る。緩衝剤は、エポキシ化中のグリコールまたはグリコールエーテルの形成を抑制するために反応に使用され、反応速度および選択性を改善することができる。緩衝剤は、典型的には、溶媒に添加されて緩衝溶液を形成するか、または溶媒および緩衝剤が別個に添加される。有用な緩衝剤は、酸素酸の任意の好適な塩を含み、混合物中のその性質および割合は、その溶液のpHが好ましくは3から12、より好ましくは4から10、最も好ましくは5から9の範囲となるような性質および割合である。酸素酸の好適な塩は、アニオンおよびカチオンを含有する。アニオンは、リン酸イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、硫酸イオン、カルボン酸イオン(例えば酢酸イオン)、ホウ酸イオン、水酸化物イオン、ケイ酸イオン、アルミノケイ酸イオン等を含み得る。カチオンは、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン(例えばテトラアルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等)、アルキルホスホニウムイオン、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオン等を含み得る。例は、NH4、NBu4、NMe4、Li、Na、K、Cs、MgおよびCaカチオンを含む。好ましい緩衝剤は、リン酸イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、硫酸イオン、水酸化物イオンおよび酢酸イオンからなる群から選択されるアニオンと、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン、アルキルホスホニウムイオン、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンからなる群から選択されるカチオンとを含む。緩衝剤は、好ましくは、2種以上の好適な塩の組合せを含有し得る。典型的には、溶媒中の緩衝剤の濃度は、0.0001Mから1M、好ましくは0.0005Mから0.3Mである。緩衝剤は、アンモニアガスを反応系に加えることにより形成され得る水酸化アンモニウムを含み得る。例えば、反応系のpHを相殺するために、pH=12〜14の水酸化アンモニウム溶液を使用することができる。より好ましい緩衝剤は、アルカリ金属リン酸塩、リン酸アンモニウムおよび水酸化アンモニウムを含む。リン酸アンモニウム緩衝剤が特に好ましい。
【0029】
以下の例は、本発明を例示する。
【0030】
実施例1.噴霧乾燥TS−1
(触媒A)
米国特許第4,410,501号および同第4,833,260号に開示される以下の手順に従い、チタンシリカライト−1(TS−1)を調製し、空気中550℃で焼成する。米国特許出願公開第20070027347号に開示される以下の手順に従い、噴霧乾燥TS−1を調製する。これを空気中550℃で焼成する。焼成後の噴霧乾燥TS−1(触媒A)は、約80重量%のTS−1および20重量%のシリカを含有する。
【0031】
実施例2.Pd/Au/チタニア
(触媒B)
17.5重量%のチタニアを含有する水性スラリーをTiO2(Millennium Inorganic Chemicals社製S5−300B)で調製する。2点粉末放出および回転噴霧器用に構成されたMobile Minor Spray Dryer(Niro Inc.製)で、スラリーを乾燥する。乾燥チャンバは内径2.7フィートおよび円筒部の高さ2フィートであり、60度角の円錐状底部を有する。Watson Marlow社製蠕動ポンプ(型式521CC)を使用してスラリーを噴霧器ホイールに供給し、出口温度を制御する。主生成物を乾燥チャンバの底部ポートで回収し、微粉をサイクロン回収器に送る。乾燥ガス/プロセスガスとして、80kg/hの流量の空気を使用する。入口温度を220℃に設定する。噴霧器ホイールを27,000RPMに設定する。Watson Marlow社製蠕動ポンプを使用して、脱イオン水を蒸発させ、乾燥チャンバの出口温度を95℃に制御する。生成物を乾燥チャンバの底部で回収する。平均質量直径(mean mass diameter)は24μmである。噴霧乾燥チタニアを空気中700℃で焼成する。焼成後の噴霧乾燥チタニアは、40m2/gの表面積を有する。
【0032】
丸底フラスコに25mLの脱イオン水を入れる。この水に、テトラクロロ金酸ナトリウム水溶液0.265g(20.74重量%金)、四塩化パラジウム二ナトリウム0.275gおよび上述のように調製された焼成後の噴霧乾燥チタニア10gを添加する。このスラリーに、固体重炭酸ナトリウム0.26gを添加する。40℃で4時間、45度の角度で25rpmでフラスコを回転させることによりスラリーを撹拌し、濾過する。25mLの脱イオン水で固体を1回洗浄する。次いで、空気中、10℃/分で110℃まで加熱し、110℃で4時間保持し、次いで2℃/分で300℃まで加熱し、300℃で4時間保持することにより、固体を焼成する。焼成した固体を脱イオン水で洗浄する(25mL×8)。空気中、10℃/分で110℃に4時間加熱し、次いで2℃/分で550℃に4時間加熱することにより、固体を焼成する。次いで固体を石英管に移し、水素/窒素(モル比4:96、100mL/h)ガスにより100℃で1時間処理した後、触媒が100℃から30℃に冷却されるように窒素で30分処理する。得られた固体(触媒B)は、0.95重量%のパラジウム、0.6重量%の金、58重量%のチタンおよび20ppm未満の塩化物を含有する。
【0033】
実施例3.チオール官能化Pd/Au/チタニア
(触媒C)
触媒B(20g)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(3g)、トルエン(85g)を450mLのParr反応器に加える。反応器を封止し、ヘリウム下で4時間120℃に加熱する。濾過により固体を単離し、トルエン(50mL)、次いでアセトン(50mL)、最後にエタノール(50mL)で洗浄する。これを60℃で4時間、真空下で乾燥させる。次いで固体を450mLのParr反応器に移し、水素(120psig)と窒素(400psig)の混合物で、60℃で2時間処理する。得られた材料(触媒C)は、1.1重量%のS、0.91重量%のPdおよび0.58重量%のAuを含有する。
【0034】
実施例4.チオール官能化噴霧乾燥TS−1
(触媒D)
噴霧乾燥TS−1(27g)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(4.1g)およびトルエン(100g)を450mLのParr反応器に加える。反応器を封止し、ヘリウム雰囲気下で4時間120℃に加熱する。濾過により固体を単離し、トルエン、次いでアセトン、最後にエタノールで洗浄する。これを60℃で4時間、真空下で乾燥させる。得られた材料(触媒D)は0.93重量%のSを含有する。
【0035】
実施例5.チオール官能化Pd/TS−1
(触媒E)
酢酸パラジウム(0.128g)、トルエン(50g)および触媒D(12g)を含有する混合物を窒素雰囲気下で30分間、室温で混合する。濾過により固体を単離し、トルエン(40mL×2)およびエタノール(40mL×2)で洗浄する。固体を真空下60℃で乾燥させる。次いで固体を450mLのParr反応器に移し、水素(120psig)と窒素(400psig)の混合物で、60℃で2時間処理する。得られた固体(触媒E)は1.0重量%のSおよび0.47重量%のPdを含有する。
【0036】
実施例6.チオール官能化Pd/TS−1
(触媒F)
酢酸パラジウム(0.39g)、トルエン(120g)および触媒D(12g)を含有する混合物を窒素雰囲気下で30分間、室温で混合する。濾過により固体を単離し、トルエン(40mL×2)およびエタノール(40mL×2)で洗浄する。固体を真空下60℃で乾燥させる。次いで固体を450mLのParr反応器に移し、水素(120psig)と窒素(400psig)の混合物で、60℃で2時間処理する。得られた固体(触媒F)は1.0重量%のSおよび1.2重量%のPdを含有する。
【0037】
実施例7.チオール官能化Pd/Au/チタニア
(触媒G)
実施例2からの噴霧乾燥チタニアの試料(31g)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(4g)およびトルエン(120g)を450mLのParr反応器に加える。反応器を封止し、ヘリウム下で4時間120℃に加熱する。濾過により固体を単離し、トルエンで洗浄し、次いでアセトンおよびエタノールでそれぞれ洗浄する。これを60℃で4時間、真空下で乾燥させる。得られた材料(チオール官能化チタニア)は0.84重量%のSを含有する。
【0038】
酢酸パラジウム(0.23g)およびトルエン(85g)を含有する溶液を上述のように調製されたチオール官能化チタニア(10g)の試料に、窒素雰囲気下で添加する。これを室温で30分間混合する。濾過により固体を単離し、トルエンで2回およびエタノールで2回洗浄する。固体を真空下60℃で乾燥させる。次いで固体を450mLのParr反応器に移し、水素(120psig)と窒素(400psig)の混合物で、60℃で2時間処理する。得られた固体(触媒G)は0.79重量%のSおよび0.93重量%のPdを含有する。
【0039】
実施例8.プロピレンエポキシ化
450mLのParr反応器に、触媒B(1.2g)、触媒D(5.1g)および0.01Mリン酸アンモニウム含有メタノール/水(80/20重量比)溶液220gを入れる。次いで、反応器に、2.8体積パーセント(vol.%)の水素、4.5vol.%の酸素、4vol.%のプロピレン、0.5vol.%のメタンおよび残りは窒素からなる供給ガスを300psigまで入れる。反応器内の圧力は、300psigに維持する。0.01Mリン酸アンモニウム含有メタノール/水(80/20重量比)溶液を90mL/hの流量で反応器に連続的に供給する。反応混合物を1000rpmで撹拌しながら60℃に加熱する。ガス状排出物をオンラインガスクロマトグラフ(GC)で分析する。液体をオフラインガスクロマトグラフ(LC)で分析する。反応を40時間継続する。形成される生成物は、プロピレンオキシド(PO)、プロパン、ならびにプロピレンオキシドの誘導体、例えばプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールおよびジプロピレングリコールメチルエーテル等を含む。40時間での計算結果を表1に示す。触媒生産性は、1時間あたりの触媒1グラムあたり形成されるPO(後に反応してPO誘導体を形成するPOを含む)のグラムと定義される。POE(モル)=POのモル+PO誘導体中のPO単位のモルである。PO/POE選択性=(POのモル)/(POEのモル)×100である。プロピレンからプロパンの選択性=(プロパンのモル)/(形成されるプロパンのモル+POEのモル)×100である。
【0040】
実施例9、10.プロピレンエポキシ化
表1に示されるような異なる触媒を使用する以外は、実施例8の手順を繰り返す。
【0041】
比較例11.Pd/TS−1
(触媒H)
WO2006/130295の実施例1に開示される手順を使用して、触媒Aを含浸させることにより触媒Hを調製する。触媒Hは、1.5重量%のTiおよび0.1重量%のPdを含有する。
【0042】
比較例12、13.プロピレンエポキシ化
表1に示されるような異なる触媒を使用する以外は、実施例8の手順を繰り返す。
【0043】
表1の結果は、遷移金属ゼオライト、貴金属およびチオールを含有する触媒が、水素および酸素によるプロピレンのエポキシ化(実施例8、9、10)において、チオールを含有しない触媒(実施例12および13)よりもプロパン選択性が低いことを示している。POE生産性は、これらの反応のすべての間で同様である。さらに、実施例8〜10における消費された水素/酸素のモル比は、概して実施例12および13におけるモル比よりも低い。水を形成する水素と酸素との間の反応は、モル比2/1で水素および酸素を消費する。一方、プロピレンオキシドおよび水を形成するプロピレン、水素および酸素の反応は、モル比1/1で水素および酸素を消費する。したがって、消費された酸素に対する水素のモル比が低いほど、触媒がよりエポキシド選択性であることを示している。
【0044】
実施例8において、触媒Dはチオール基により官能化され、触媒Bは官能化されていない。触媒BとDの混合物は4%のプロパン選択性を示し、これは実施例13のプロパン選択性よりも低い。この結果は、触媒混合物がよりエポキシド選択性となるように触媒Dのチオール基が触媒Bの水素化活性を変化させることを示している。
【0045】
触媒の固体成分(ゼオライト、担体または結合剤)上にグラフトされたチオールを含む触媒は、チオールが固体に連結され、したがって触媒が容易にリサイクルおよび再利用され得るという追加的な利点を有する。連続反応においては、液体(または気体)反応混合物が連続的に反応器から出る一方で固体触媒および連結されたチオールは反応器内に残留するため、これは特に有用である。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属ゼオライト、貴金属およびチオールを含む触媒。
【請求項2】
遷移金属ゼオライトが、チタンゼオライトである、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
遷移金属ゼオライトが、TS−1である、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
貴金属が、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、レニウム、ロジウム、オスミウムおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
貴金属が、パラジウム、金またはパラジウム−金混合物である、請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
チオールが、遷移金属ゼオライトに連結されている、請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
結合剤をさらに含む、請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
チオールが、結合剤に連結されている、請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
貴金属が、担体上に担持されている、請求項1に記載の触媒。
【請求項10】
チオールが、担体に連結されている、請求項9に記載の触媒。
【請求項11】
請求項1に記載の触媒の存在下で、オレフィン、水素および酸素を反応させることを含む、エポキシ化方法。
【請求項12】
遷移金属ゼオライトが、チタンゼオライトである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
遷移金属ゼオライトが、TS−1である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
貴金属が、パラジウム、金またはパラジウム−金混合物である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
チオールが、遷移金属ゼオライトに連結されている、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
触媒が、結合剤をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
チオールが、結合剤に連結されている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
貴金属が、担体上に担持されている、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
チオールが、担体に連結されている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
オレフィンが、プロピレンである、請求項11に記載の方法。

【公表番号】特表2010−537804(P2010−537804A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522892(P2010−522892)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/008736
【国際公開番号】WO2009/032035
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(505341095)ライオンデル ケミカル テクノロジー、 エル.ピー. (61)
【氏名又は名称原語表記】LYONDELL CHEMICAL TECHNOLOGY, L.P.
【Fターム(参考)】