説明

直描型平版印刷原版および直描型平版印刷版の製造方法

【課題】 安価な製版機で画像を形成でき、現像や加熱等の後工程を一切必要としない無処理印刷版を提供することである。また、その版を使用して印刷物、カラーフィルター、プリント基板を製造する方法を提供する。
【解決手段】 架橋され水に不溶の親水性ポリマーと界面活性剤を含む画像形成層を有する直描型平版印刷原版に、市販のインクジェットプリンターを用いて画像を描画し、現像や加熱等の後工程を一切行わずに印刷機に装着し印刷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット法により画像を形成する直描型平版印刷原版、および直描型平版印刷版の製造方法に関する。またインクジェット法により画像を形成した直描型平版印刷版の印刷方法、および印刷物、カラーフィルター、プリント基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの普及につれ、製版用フィルムを使用しないで、コンピュータ上の原稿から直接版材にレーザー光やサーマルヘッド、インクジェット、電子写真式プリンターなどで印字し製版する所謂コンピュータ・ツー・プレート(CTP)タイプの印刷版が登場し、普及し始めている。このうち、安価なサーマルヘッドや電子写真式プリンター、インクジェットプリンターなどの簡易な装置で製版し、製版後の後工程を一切必要としない無処理の直描型平版印刷版は、レーザー光を使用する製版方式に比べ製版コストが大幅に低減されることから強く望まれている。特にインクジェットを用いる方法は、製版機の低コスト化かつ小型化が容易であるため近年注目を集めている。このインクジェット法による直描型平版印刷版は、紙やフィルムなど印刷物の製造に好適であるだけでなく、従来フォトリソグラフィー工程を必要としていたカラーフィルターやプリント基板の製造においても使用することが可能であり、カラーフィルターやプリント基板の製造時に発生していた現像廃液などの環境負荷、高コスト、低生産性といった課題を解決できる有用な手法と考えられている。
【0003】
インクジェットを用いた直描型平版印刷版として、たとえば特開平9−99662号公報(特許文献1)には無機微粒子と水溶性樹脂からなる三次元網目構造を持った印刷版用基板が提案されている。また、特開平11−321143号公報(特許文献2)にはミクロゲルを含有する親水性層からなる印刷版用基板が提案されている。また、特開2001−270261号公報(特許文献3)にはPVAとシランカップリング剤と無機粒子からなる印刷版材料が提案されている。しかしこれらの印刷版は印刷に耐える強固な画像部を形成させるために、インク液滴が熱溶融性の固形インクであったり、画像形成後に熱などで硬化するインクを使用する必要がある。熱溶融性の固形インクはコストが高く、かつ液滴を投射するノズルを詰まらせるなどトラブルを招く可能性がある。また画像形成後に熱などで硬化するインクを使用すると、製版後に処理することになるためコストが高くなると同時に加熱による印刷版の歪みが発生し色ズレ等のトラブルを招く可能性がある。
【0004】
製版後の後処理が不要なインクジェット法印刷版として、たとえば特開平11−70632号公報(特許文献4)には陽極酸化アルミニウムに脂肪酸塩を含むインクを付着させた印刷版が提案されている。しかし脂肪酸塩を含むインクのアルミへの密着性は低く、耐刷性が低い。また特開2004−216634号公報(特許文献5)には親油性ポリマーを含む画像形成層に溶剤をインクジェット法で投射し、親油性ポリマーが溶解することで画像部となり、画像部以外を印刷機上で現像する印刷版の製造方法が提案されている。しかし溶解した親油性ポリマーの基板への密着性は低く、耐刷性が低い。また印刷機上現像により湿し水やインキが汚染される可能性がある。
【0005】
ここで本明細書中でいうインクは、インクジェットプリンターより投射される液体、インキとは印刷機から印刷版に供給され紙やフィルム等の被印刷物に転写される印刷インキを示すものとする。
【特許文献1】特開平9−99662号公報
【特許文献2】特開平11−321143号公報
【特許文献3】特開2001−270261号公報
【特許文献4】特開平11−70632号公報
【特許文献5】特開2004−216634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、製版機の低コスト化かつ小型化が容易であるインクジェット法により画像を形成し、現像や加熱等の後工程を一切必要としない無処理かつ高耐刷な直描型平版印刷原版、およびインクジェットプリンターを使用した直描型平版印刷版の製造方法を提供することである。また、インクジェット法により画像を形成した直描型平版印刷版の製造方法、および印刷物、カラーフィルター、プリント基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、架橋された親水性ポリマーと界面活性剤を含む画像形成層を有する直描型平版印刷原版が、インクジェットプリンターからインクを投射するだけで強固な画像部を形成し、印刷機上において優れた着インキ性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち本発明は、以下の構成からなるものである。
(1)インクジェット法により画像を形成させる直描型平版印刷原版において、基材に直接または他の層を介して設けてなる画像形成層が、架橋された親水性ポリマーと界面活性剤を含むことを特徴とする直描型平版印刷原版。
(2)前記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤である(1)に記載の直描型平版印刷原版。
(3)前記アニオン性界面活性剤が、リン酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩系界面活性剤、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩系界面活性剤から選ばれる、少なくとも1種以上の界面活性剤である(2)に記載の直描型平版印刷原版。
(4)前記親水性ポリマーが、無置換または置換(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドから選ばれた1種または2種以上のモノマーを主成分とするポリマーである(1)〜(3)に記載の直描型平版印刷原版。
(5)前記画像形成層が親油性ポリマーを含むものである(1)〜(4)に記載の直描型平版印刷原版。
(6)前記粒子状親油性ポリマーが、平均粒子径0.005〜0.5μmの自己乳化型水分散ポリマーである(5)に記載の直描型平版印刷原版。
(7)(1)〜(6)に記載の直描型平版印刷原版にインクジェットプリンターによりインクを画像様に投射することにより、親油性部位を形成させることを特徴とする直描型平版印刷版の製造方法。
(8)(7)に記載の方法により製造された直描型平版印刷版を印刷機に取り付け、現像せずに印刷する印刷方法。
(9)(7)に記載の方法により製造された直描型平版印刷版を印刷機に取り付け、湿し水およびインキを供給し、画像部に付着したインキを紙およびフィルムに転写することで多数枚の印刷物を複製する印刷物製造方法。
(10)(7)に記載の方法により製造された直描型平版印刷版を印刷機に取り付け、湿し水およびインキを供給し、画像部に付着したインキを基板に転写することで多数枚のカラーフィルターを複製するカラーフィルター製造方法。
(11)(7)に記載の方法により製造された直描型平版印刷版を印刷機に取り付け、湿し水および導電性ペーストを供給し、画像部に付着した導電性ペーストを基板に転写することで多数枚のプリント基板を複製するプリント基板製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の直描型平版印刷原版とインクジェットプリンターにより画像を形成させる直描型平版印刷版の製造方法を用いれば、製版機の低コスト化かつ小型化が達成されるとともに、現像や加熱等の後工程なしに印刷物、カラーフィルター、プリント基板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
[直描型平版印刷原版]
本発明の直描型平版印刷原版は、架橋された親水性ポリマーと界面活性剤を含む画像形成層からなり、インクジェットプリンターから投射されたインクによって強固な画像部を形成し、印刷機上において優れた着インキ性を示す。インクが投射されていない非画像部は架橋された親水性ポリマーからなるため印刷枚数が多い場合でも水に溶解せず、界面活性剤と協働で非常に高い親水性を発揮し、地汚れを防ぐことができる。
【0011】
画像部の着インキ性発現メカニズムは明らかではないが、印刷機上で湿し水に溶解する水性インクでも画像部が形成されていることから、インク中の成分が版表面と何らかの化学反応や物理変化を引き起こし、版表面が親水性から親油性に変化していると考えられる。
【0012】
[基材]
本発明に使用する直描型平版印刷原版の基材(支持体)としては特に制限はなく、公知のものが使用可能である。具体例としては、アルミ板、鋼板、ステンレス板、銅板等の金属板やポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS樹脂等のプラスチックフィルムや紙、プラスチックフィルムラミネート紙、表面コート不織布等が挙げられる。コストおよび耐熱性など物理的性質や引張強度など機械的性質からポリエステルフィルム、より具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン―2,6−ナフタレート(PEN)等が好ましい。これらの基材の厚さは特に制限はないが、通常50〜400μm程度である。又、これらの基材には画像形成層あるいは下地層との密着性の改良等のために酸化処理、クロメート処理、サンドブラスト処理、コロナ放電処理等の表面処理を施してもよい。
【0013】
[下地層]
本発明の直描型平版印刷原版においては、上記基材(支持体)上に直接画像形成層を設置しても良いが、密着性を高めるため下地層を設置することも好ましい態様である。この時に用いる下地層の組成は特に制限はなく、公知のウレタン系、アクリル系、酢酸ビニル系、合成ゴム系、エチレン系等のポリマーを使用することができる。画像形成層に親油性ポリマーを使用する場合には、同じ親油性ポリマーを下地層として使用することが密着性の点から好ましい態様である。これらのポリマーは溶剤に溶解した溶液タイプでも水中に分散させたエマルジョンタイプであっても構わない。
【0014】
エマルジョンタイプの親油性ポリマーは塗布後、分散溶媒が蒸発すると融着して造膜する特性を有することが好ましい。製造上問題がなければ造膜温度は特に限定されない。下地層には1種類または2種類以上の前記親油性ポリマーを混合して使用できる。さらに、架橋剤を加えて強靭な膜を作ることも可能である。
【0015】
[画像形成層]
次に本発明の直描型平版印刷原版に用いることのできる画像形成層に関して説明する。本発明に用いる直描型平版印刷原版は、湿し水を用いる平版オフセット印刷用の印刷版であることが好ましく、インクジェットプリンターによりインクが投射された部分が親油性に変化し画像部となるものが好ましい。画像部を形成した版を現像や加熱等の後工程を一切行わず直接印刷機に設置し、湿し水とインキを供給することで画像部のみにインキを付着させ、そのインキを紙やフィルム、基板等に転写することで印刷物、カラーフィルター、プリント基板を製造することができる。従って、本発明において画像形成層は親水性で且つ水に溶けないものであることが好ましく、そのため親水性ポリマーを架橋してなることが好ましい。ただ、一般的に架橋した親水性ポリマーは吸収可能な水量が減少するため、架橋した親水性ポリマーだけからなる画像形成層は親水性不足となりやすく地汚れを発生させやすい場合がある。そのため良好な親水性を与え、地汚れを防ぐために界面活性剤が必要である。
【0016】
[界面活性剤]
本発明の直描型平版印刷原版においては、親水性付与のため画像形成層に界面活性剤を添加することが重要である。ここで界面活性剤は画像形成層表面および層内部に存在し、水に対する濡れ性を著しく向上させ地汚れを防ぐ働きをすると考えられる。また界面活性剤は付着してしまったインキを脱離させる機能も併せ持つと考えられる。本発明に用いるものはこのような濡れ性を向上し、インキ脱離機能を有する界面活性剤であれば特に限定されず、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤、フッ素系界面活性剤等のいずれでも構わない。好ましくは少量で高い濡れ性向上効果とインキ脱離機能を与えることができるアニオン性界面活性剤を用いることが望ましい。アニオン性界面活性剤の具体例としては、スルホン酸塩系、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物のナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホ琥珀酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩やモノアルキルスルホ琥珀酸エステル塩等が挙げられる。またカルボン酸塩系、例えばジアルキル琥珀酸エステル塩、モノアルキル琥珀酸エステル塩、ポリカルボン酸等が挙げられる。また硫酸エステル塩系、例えばアルキルジフェニル硫酸オキシド、アルキル硫酸エステル、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エーテル塩等が挙げられる。また、リン酸エステル塩系、例えばアルキルエーテルリン酸エステル塩やアルコールリン酸エステル塩等も使用できる。特に好ましいアニオン性界面活性剤としては、リン酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩系界面活性剤、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩系界面活性剤が挙げられ、これらの1種以上を用いることが好ましい。より具体的には、リン酸塩系界面活性剤としては、日本乳化剤株式会社のAntox EHDTMシリーズや花王株式会社のペレックスTMSS、第一工業製薬株式会社のプライサーフTMシリーズ等が挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸塩系界面活性剤としては、日本乳化剤株式会社のNewcolTM210や花王株式会社のネオペレックスTMシリーズ、第一工業製薬株式会社のネオゲンTMシリーズ等が挙げられる。ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩系界面活性剤としては、日本乳化剤株式会社のNewcolTM290や花王株式会社のペレックスTMOT−P、第一工業製薬株式会社のネオコールTMシリーズ、三井サイテック株式会社のAEROSOLTMOTシリーズ等が挙げられる。
【0017】
画像形成層への界面活性剤の添加量は、0.01〜5重量%であることが好ましく、0.1〜3重量%であることが更に好ましい。この範囲内にある方が、濡れ性向上効果とインキ脱離機能が十分見られ、また、基材あるいは下地層との密着性が良好であり、画像部の親油性が十分であり、好ましい。本発明において画像形成層に含有させる界面活性剤は、一種単独で使用しても、二種以上を併用して用いてもよい。
【0018】
[親水性ポリマー]
本発明の画像形成層に用いられる親水性ポリマーは、親水性基を有していれば問題なく、より好ましくは親水性基及び架橋剤と反応する官能基(架橋官能基)を有するものである。親水性ポリマーの親水性基としては、例えば、水酸基、アミド基、アミノ基、スルホンアミド基、オキシメチレン基、オキシエチレン基等、更にカルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸性基やこれら酸性基のアルカリ金属塩やアミン塩等が挙げられる。又架橋官能基としては、水酸基、アミド基、アミノ基、イソシアナート基、グリシジル基、オキサゾリン基、メチロール基、及びメチロール基とメタノールやブタノール等のアルコールとが縮合したメトキシメチル基やブトキシメチル基等、更にカルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸性基やこれら酸性基のアルカリ金属塩やアミン塩等が挙げられる。
【0019】
親水性ポリマーのより具体的な例としては、水溶性の以下のポリマーが挙げられる。即ち、セルロース類、ゼラチン、前記した親水性基や架橋官能基を有する不飽和酸及びその誘導体類やN―ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、酢酸ビニル、ビニルエーテル等を重合、共重合してなるポリマー及びこのポリマーの加水分解ポリマー等である。
【0020】
前記した親水性基や架橋官能基を有する不飽和酸及びその誘導体の具体例としては、水酸基を有する不飽和酸誘導体としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メチロール(メタ)アクリルアミドや、該メチロール(メタ)アクリルアミドとメチルアルコールやブチルアルコールとの縮合物であるメトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0021】
アミド基を有する不飽和酸誘導体としては、無置換又は置換(メタ)アクリルアミド、無置換又は置換イタコン酸アミド、無置換又は置換フマル酸アミド、無置換又は置換フタル酸アミド、N―ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド等が挙げられる。無置換又は置換(メタ)アクリルアミドのより具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、メチロール(メタ)アクリルアミド、メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、スルホン酸プロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。前記イタコン酸アミド等の二塩基酸アミドの場合は一方のカルボキシル基がアミド化されたモノアミドであっても良く、両方のカルボキシル基がアミド化されたジアミドであっても良い。更に、グリシジル基を有する不飽和酸誘導体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、パラビニルフェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0022】
カルボキシル基を有する不飽和酸としては、(メタ)アクリル酸等の一塩基不飽和酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸及びその無水物等の二塩基不飽和酸やこれら二塩基不飽和酸のモノエステル、モノアミド等が挙げられる。
【0023】
又、スルホン酸基を有する不飽和酸としては、スルホエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルメチルスルホン酸、イソプロぺニルメチルスルホン酸、(メタ)アクリル酸にエチレンオキシド、又はプロピレンオキシドを付加したアルコールの硫酸エステル、(メタ)アクリロイロキシエチルスルホン酸、モノアルキルスルホコハク酸エステルとアリル基を有する化合物とのエステル、モノアルキルスルホコハク酸エステルとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物等が、ホスホン酸基を有する重合性不飽和モノマーとしては、ビニルリン酸、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレート、リン酸モノアルキルエステルのモノ(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
これらのカルボキシル基、スルホン酸基やホスホン酸基はアルカリ金属、アルカリ土類金属やアミン類で中和されていても良い。中和に用いられるアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等が、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム等が、及びアミン類としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0025】
重合するに際しては、前記した不飽和酸及びその誘導体と共重合可能なモノマーを併用しても良い。共重合可能なモノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0026】
本発明に好適な親水性ポリマーとしては、架橋した後も良好な親水性を持ち、かつ膜強度が強く耐刷性に優れていることから、無置換またはN−置換(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドの1種または2種以上のモノマーを主成分とするポリマーが挙げられる。
尚、前記の記載述に於いて、(メタ)アクリルアミド等に於ける(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルの両者を意味する。
【0027】
[架橋剤]
本発明の親水性ポリマーを架橋するためには、架橋剤を使用することが好ましい態様である。親水性ポリマーを架橋するために用いることのできる架橋剤としては、前記親水性ポリマーと架橋反応して親水性ポリマーを水に不溶性にすることにより画像形成層の耐刷性を向上させるものであればよく、例えば、親水性ポリマー中の架橋性官能基である水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、グリシジル基、場合によってはアミド基と反応する公知の多価アルコール化合物類、多価カルボン酸化合物やその無水物類、多価グリシジル化合物類、多価アミン、多価イソシアネート化合物やブロックイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、オキサゾリン樹脂、アミノ樹脂等が挙げられる。
【0028】
本発明に於いては前記した架橋剤の中でも、架橋硬化速度と親水性ポリマーとの混合物の安定性や画像形成層の親水性と耐水性のバランス等から、公知の種々の水性エポキシ樹脂、公知のオキサゾリン樹脂、公知のアミノ樹脂、水性ブロックイソシアネート化合物が好ましく、特にメラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂やグリコールウリル樹脂等やこれらの樹脂の変性樹脂、例えばカルボキシ変性メラミン樹脂等、アミノ樹脂が挙げられる。又、架橋反応を促進するために、前記したエポキシ樹脂を用いる際には3級アミン類を、アミノ樹脂を用いる場合には、パラトルエンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸類、塩化アンモニウム等の酸性化合物を併用しても良い。
【0029】
本発明の画像形成層は、基板または下地層上に塗布された後、架橋反応を促進させるため熱を加えることが好ましい。加える熱量は架橋剤および架橋反応する親水性ポリマーの官能基種および量によって異なるが、通常50〜200℃が好ましく、100〜180℃がより好ましい。
【0030】
[親油性ポリマー]
本発明の画像形成層には、インクジェットプリンターから投射されたインクによって強固な画像部を形成しやすいように親油性ポリマーを用いることも好ましい。親油性ポリマーを使用することで、インク中の成分によって溶融し親油性の膜を版表面に形成したり、溶融した親油性ポリマー中への界面活性剤の移動によって、版表面の親水性が低下することが考えられ、強固な画像部が形成しやすくなる。また、インクの固着も起こりやすくなり、より強固な画像部が形成される。親油性ポリマーとしては非画像部の親水性の点から、動的光散乱法で測定した平均粒子径が0.005〜0.5μmの水分散ポリマーが好ましく、平均粒子径が0.01〜0.3μmのものが更に好ましい。水分散ポリマーとは、微細な親油性ポリマー粒子と必要に応じて該粒子を覆う保護剤とからなる粒子を水性液に分散させた親油性ポリマーを意味し、不飽和モノマーを乳化重合や懸濁重合することによって作られた親油性ポリマー、特に酸性基を有する親油性ポリマー、又は該ポリマーの有機溶剤溶液を必要ならば酸性基を中和したり、分散安定剤を加えて水中に分散させした親油性ポリマー、さらに必要ならば該有機溶剤を溜去して得られた親油性ポリマー等が挙げられる。この中でも特に自己乳化型水分散ポリマーと呼ばれる、酸性基を有する親油性ポリマーおよびその酸性基を中和した親油性ポリマーは、親水性ポリマーや架橋剤との配合安定性や、非画線部の親水性の点から好ましい。水分散ポリマーは、より具体的には例えば、ビニルポリマー系ラテックス、共役ジエンポリマー系ラテックス、アクリル系ラテックス、水分散ポリウレタン樹脂、水分散ポリエステル樹脂、水分散エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0031】
尚、水分散ポリマーの平均粒径は、一般的には水で薄めて粒度測定器(例えば「マイクロトラック」等)により測定することが可能である。その他、水分散ポリマーを凍結後スライスして透過型電子顕微鏡で測定することもでき、特に平均粒径が0.01μm以下の場合には特にこの方法が好ましく用いられる。
【0032】
[画像形成層用の親水性樹脂組成物の製造]
画像形成層を形成する親水性樹脂組成物は、前述の、水溶液あるいはエマルジョン状の親水性ポリマー、架橋剤、界面活性剤及び親油性ポリマーを攪拌しながら混合することで製造することができる。親水性ポリマーに対する架橋剤及び親油性ポリマーの配合量は、親水性ポリマー100質量部に対し、それぞれ5〜100質量部、0〜300質量部であることが好ましい。配合量がこの範囲である場合に、非画線部の親水性、画像部の着インキ性、耐刷性が良好となるため好ましい。界面活性剤の配合量は前記したとおりである。
【0033】
[直描型平版印刷原版の製造]
前記親水性樹脂組成物を、基材に直接又は下地層上に塗布、加熱架橋することで画像形成層を有する直描型平版印刷原版が形成される。加熱架橋の条件は前記したとおりである。塗布するときには例えば、バーコーター、ロールコータ、ブレードコータ、グラビアコータ、カーテンフローコータ、ダイコータ、ディップコータやスプレー法等を用いれば良い。画像形成層の膜厚は特に制限はないが、耐刷性や加熱架橋時間の点から、熱処理後の乾燥膜厚として0.5〜10μm程度が好ましい。
【0034】
[直描型平版印刷版の製造]
本発明の直描型平版印刷版は、前記画像形成層を有する直描型平版印刷原版に、インクジェットプリンターを用いてインクを画像様に投射することで製造することができる。インクが投射された部位が親油性に変化し、加熱などの後工程を一切必要とせずに印刷することが可能である。インクジェットプリンターとしては一般に市販されている汎用品でも工業用の大判サイズ品でも使用することができ、インクヘッドのインク投射原理としては熱タイプでも圧電タイプでも構わない。本発明の目的が製版機の低コスト化かつ小型化であることから、市販の汎用品を用いることが好ましい。インクとしては投射された版表面が十分な着インキ性を発現させることができるものであれば特に制限はなく、水性、油性、溶剤性、ソリッドタイプのいずれでも良い。
【0035】
[印刷方法]
インクジェットプリンターにより画像を描画した直描型平版印刷版を湿し水とインキを供給しながら印刷する平版オフセット印刷機の版胴に設置し、版面に湿し水とインキを供給する。版面の親油性部位に付着したインキをゴム製のブランケットに転写し、さらにブランケットから紙やフィルムあるいは基板に転写することで印刷物等を製造することができる。平版オフセット印刷機としては特に制限はなく、市販の平台機、オフセット枚葉機、オフセット輪転機のいずれも使用可能である。
【0036】
カラーフィルター用インキをガラス基板上に直接転写させるには平台機が好ましいが、被印刷体が紙、フィルム、フレキシブル基板である場合には、生産性の点からオフセット枚葉機あるいはオフセット輪転機が好ましい。
【0037】
被印刷体が紙やフィルム等である印刷物の場合、インキは通常市販されている平版オフセット用プロセスインキ、特色インキ、金属インキおよびUVインキなどを使用する。本発明の印刷物製造方法を用いれば、製版後に現像や加熱などの後工程を一切必要とせず、環境に優しくかつ再現性の高い印刷物を製造することができる。
【0038】
被印刷体がガラス基板のカラーフィルターである場合には、ブラックマトリックスとなる黒顔料を含むインキと、レッド、グリーン、ブルーそれぞれの染料または顔料を含むインキを使用することで、ブラックマトリックスと3色カラーからなるカラーフィルターを製造することができる。このときガラス基板は剛直で割れやすいことから平台機を使用することが好ましい。フィルム状のカラーフィルターあるいはフィルム上に作製し後工程でガラス基板に転写させるカラーフィルター前駆体の場合は、オフセット枚葉機あるいはオフセット輪転機も使用でき、生産性の点からオフセット輪転機がもっとも好ましい。本発明のカラーフィルター製造方法を用いれば、フォトリソグラフィー工程が製造工程中に全くなく、高再現性かつ現像廃液のない環境に優しい方法でカラーフィルターを製造することができる。
【0039】
被印刷体がフレキシブル基板のプリント基板では、銀や銅などを含む導電性ペーストをインキとして使用することで、プリント基板を製造することができる。本発明のプリント基板製造方法を用いれば、エッチング工程が製造工程中に全くなく、高精細、高再現性かつ現像廃液のない環境に優しい方法でプリント基板を製造することができる。尚、基板等の原料は公知のものを使用することで何ら問題はない。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
(直描型平版印刷原版の作製)
厚み0.19mmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製テトロンTMHLW)に下記親水性樹脂組成物をワイヤーバー#14を用いて均一に塗布した後、120℃で10分間加熱架橋し、約2μmの膜厚の画像形成層を成膜した。
【0041】
リン酸エステル塩系界面活性剤(第一工業製薬(株)製、プライサーフTMA207H、固形分100重量%):1部
アクリルアミド:ヒドロキシエチルメタクリレート=90:10(重量比)の親水性ポリマー水溶液(固形分10重量%):400部
メチル化メラミン樹脂(三井サイテック(株)製、サイメルTM385、固形分80重量%):25部
自己乳化型水分散ウレタン樹脂(三井化学(株)製、オレスターTMUD350、平均粒径0.03μm、固形分40重量%):100部
(直描型平版印刷版の製造)
この原版に、インクカートリッジとしてICM31を装着したセイコーエプソン(株)製インクジェットプリンターCalarioTMPX−V600で画像を描画し、直描型平版印刷版を得た。
【0042】
(印刷物の製造)
この直描型平版印刷版を現像や加熱等の後処理を一切行わず、オフセットカード印刷機プレクスター(株)製ARXEZにセットし、湿し水として(株)日研化学研究所のH液アストロマークTM3の2%水溶液、インクとして大日本インキ製造(株)製のバリウスTMG−N(紅)、被印刷体として上質紙を使用して印刷を行った。結果を表1にまとめる。版面に湿し水を供給した時点でインクは流れてしまったが、インキを供給すると画像どおりに印刷インキが付着し、上質紙に転写することで紅1色の印刷物を得ることができた。このとき、水量を目盛り10(PS版同等)で印刷してもインクが投射されていない非画像部には地汚れは全くなかった。5千枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0043】
[実施例2]
実施例1の界面活性剤を、アルキルベンゼンスルホン酸塩系界面活性剤ネオゲンTMR(固形分60重量%)に替えた以外は実施例1と同様にして直描型平版印刷版を作り印刷した。インキを供給すると画像どおりに印刷インキが付着し、上質紙に転写することで紅1色の印刷物を得ることができた。このとき、水量を目盛り10(PS版同等)で印刷してもインクが投射されていない非画像部には地汚れは全くなかった。5千枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0044】
[実施例3]
実施例1の界面活性剤を、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩系界面活性剤ネオコールTMYSK(固形分70重量%)に替えた以外は実施例1と同様にして直描型平版印刷版を作り印刷した。インキを供給すると画像どおりに印刷インキが付着し、上質紙に転写することで紅1色の印刷物を得ることができた。このとき、水量を目盛り10(PS版同等)で印刷してもインクが投射されていない非画像部には地汚れは全くなかった。5千枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0045】
[実施例4]
実施例1の親水性ポリマー水溶液を、アクリルアミド:N−ビニルホルムアミド:ヒドロキシエチルアクリレート=75:10:15(重量比)の親水性ポリマー水溶液(固形分10重量%)に替えた以外は実施例1と同様にして直描型平版印刷版を作り印刷した。インキを供給すると画像どおりに印刷インキが付着し、上質紙に転写することで紅1色の印刷物を得ることができた。このとき、水量を目盛り8(PS版以下)で印刷してもインクが投射されていない非画像部には地汚れは全くなかった。5千枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0046】
[実施例5]
実施例1の親水性ポリマー水溶液を、アクリルアミド:N−ビニルアセトアミド:ヒドロキシエチルアクリレート=75:15:10(重量比)の親水性ポリマー水溶液(固形分10重量%)に替えた以外は実施例1と同様にして直描型平版印刷版を作り印刷した。インキを供給すると画像どおりに印刷インキが付着し、上質紙に転写することで紅1色の印刷物を得ることができた。このとき、水量を目盛り10(PS版以下)で印刷してもインクが投射されていない非画像部には地汚れは全くなかった。5千枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0047】
[実施例6]
実施例1の親水性ポリマー水溶液を、アクリルアミド:ヒドロキシエチルアクリレート=50:50(重量比)の親水性ポリマー水溶液(固形分10重量%)に替えた以外は実施例1と同様にして印刷版を作り印刷した。水量が最大供給量である目盛り20では地汚れしないものの、水量10では一部が薄く地汚れした。水量20では5千枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0048】
[実施例7]
実施例1の水分散ウレタン樹脂を添加しないこと以外は実施例1と同様にして直描型平版印刷版を作り印刷した。水量10では一部が薄く地汚れしたものの、最大供給量である目盛り20では地汚れなく、画像どおりに印刷インキが付着し、上質紙に転写することで紅1色の印刷物を得ることができた。4千枚印刷後では画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。しかし、5千枚では画像の多いシャドウ部にわずかながら膜剥がれが生じていた。また細線や小点の一部が消えていた。
【0049】
[実施例8]
実施例1の水分散ウレタン樹脂を第一工業製薬(株)製強制乳化型ウレタン樹脂スーパーフレックスTME−4500(平均粒径0.52μm、固形分45重量%)に替えた以外は実施例1と同様にして直描型平版印刷版を作り印刷した。水量10では一部が薄く地汚れしたものの、最大供給量である目盛り20では地汚れなく、画像どおりに印刷インキが付着し、上質紙に転写することで紅1色の印刷物を得ることができた。水量20では5千枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0050】
[比較例1]
実施例1に界面活性剤を添加しないこと以外は実施例1と同様にして直描型平版印刷版を作り印刷した。水量を最大供給量である目盛り20にしても、版全面にインキが付着した。一旦印刷を中止し、版全体を(株)日研化学研究所のプレートクリーナーサイバー10で洗浄し再度印刷を開始したが、すぐに版全面にインキが付着し印刷することができなかった。
【0051】
[比較例2]
実施例1の架橋剤を添加しないこと以外は実施例1と同様にして直描型平版印刷版を作り印刷した。画像形成層が架橋硬化されていないため、湿し水を供給すると溶解し始め、湿し水供給後45秒で画像形成層が全て消失した。残ったポリエチレンテレフタレートフィルム全体にインキが付着し印刷することができなかった。
【0052】
[比較例3]
実施例1の親水性樹脂組成物を塗布した後、40℃の温風を吹き付けて乾燥、成膜した以外は実施例1と同様にして直描型平版印刷版を作り印刷した。画像形成層が架橋硬化されていないため、湿し水を供給すると溶解し始め、湿し水供給後2分で画像形成層がほぼ全て消失した。残ったポリエチレンテレフタレートフィルム全体にインキが付着し印刷することができなかった。
【0053】
【表1】

【0054】
親水性評価
○:PS版並の水量(目盛り10)で地汚れなし
△:水量20では地汚れないが、水量10では薄く地汚れあり
×:水量20でも地汚れあり
―:画像形成層の消失により評価できない
着インキ性評価
○:5千枚印刷後も細線がきちんと再現されている
△:5千枚印刷後、細線の一部が欠けている
×:1枚目から細線にインキ付着なし
―:画像形成層の消失により評価できない
【0055】
[実施例9]
(カラーフィルターの作製)
実施例1の直描型平版印刷原版4枚に、インクカートリッジとしてICMB24を装着したセイコーエプソン(株)製インクジェットプリンターMAXARTTMPX−9000でブラックマトリクスおよびRGB3色画素画像を描画し、直描型平版印刷版を得た。この直描型平版印刷版を現像や加熱等の後処理を一切行わずにそのまま4色平台オフセット印刷機の版台に固定した。湿し水として(株)日研化学研究所のアストロマーク3の2%水溶液、第1ユニットにブラックマトリクス用墨インキ、第2ユニットにレッドインキ、第3ユニットにグリーンインキ、第4ユニットにブルーインキを準備した。印刷版に湿し水とインキを供給した後、紙で試し刷りを行い、4色の見当合わせを行った。見当が合ったところで、被印刷体をガラス基板に変え4色印刷を行った。ガラス基板を次々と供給することで、100枚のカラーフィルターを製造することができた。
【0056】
[実施例10]
(プリント基板の作製)
実施例1の直描型平版印刷原版に、インクカートリッジとしてICMB24を装着したセイコーエプソン(株)製インクジェットプリンターMAXARTTMPX−9000で回路を描画し、直描型平版印刷版を得た。この直描型平版印刷版を現像や加熱等の後処理を一切行わずにそのまま単色平台オフセット印刷機の版台に固定した。湿し水としてイオン交換水、インキとして銀粉を含む導電性ペーストインキを準備した。印刷版に湿し水とインキを供給した後、ポリイミド樹脂基板に印刷を行った。ポリイミド基板を次々と供給することで、100枚のプリント基板を製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の直描型平版印刷原版と、インクジェットプリンターにより画像を形成させる直描型平版印刷版の製造方法を用いれば、製版機の低コスト化かつ小型化が達成されるとともに、現像や加熱等の後工程なしに印刷物、カラーフィルター、プリント基板を製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット法により画像を形成させる直描型平版印刷原版において、基材に直接または他の層を介して設けてなる画像形成層が、架橋された親水性ポリマーと界面活性剤を含むことを特徴とする直描型平版印刷原版。
【請求項2】
前記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤である請求項1に記載の直描型平版印刷原版。
【請求項3】
前記アニオン性界面活性剤が、リン酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩系界面活性剤、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩系界面活性剤から選ばれる、少なくとも1種以上の界面活性剤である請求項2に記載の直描型平版印刷原版。
【請求項4】
前記親水性ポリマーが、無置換または置換(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドから選ばれた1種または2種以上のモノマーを主成分とするポリマーである請求項1〜3に記載の直描型平版印刷原版。
【請求項5】
前記画像形成層が親油性ポリマーを含むものである請求項1〜4に記載の直描型平版印刷原版。
【請求項6】
前記親油性ポリマーが、平均粒子径0.005〜0.5μmの自己乳化型水分散ポリマーである請求項5に記載の直描型平版印刷原版。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の直描型平版印刷原版にインクジェットプリンターによりインクを画像様に投射することにより、親油性部位を形成させることを特徴とする直描型平版印刷版の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法により製造された直描型平版印刷版を印刷機に取り付け、現像せずに印刷する印刷方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法により製造された直描型平版印刷版を印刷機に取り付け、湿し水およびインキを供給し、画像部に付着したインキを紙およびフィルムに転写することで多数枚の印刷物を複製する印刷物製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法により製造された直描型平版印刷版を印刷機に取り付け、湿し水およびインキを供給し、画像部に付着したインキを基板に転写することで多数枚のカラーフィルターを複製するカラーフィルター製造方法。
【請求項11】
請求項7に記載の方法により製造された直描型平版印刷版を印刷機に取り付け、湿し水および導電性ペーストを供給し、画像部に付着した導電性ペーストを基板に転写することで多数枚のプリント基板を複製するプリント基板製造方法。

【公開番号】特開2006−198852(P2006−198852A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12192(P2005−12192)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】