説明

直描型水なし平版印刷版原版

【課題】インキ着肉性が良好な直描型水なし平版印刷版原版を提供すること。
【解決手段】基板上に、少なくとも感熱層、およびシリコーンゴム層を有する直描型水なし平版印刷版原版であって、前記感熱層の表面の中心平均粗さ(Ra)が25nm以上200nm以下であることを特徴とする直描型水なし平版印刷版原版。また感熱層表面をドライエッチング処理により粗面化することが好ましく、それにより、インキ着肉性が良好な直描型水なし平版印刷版原版を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直描型水なし平版印刷版原版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコーンゴムやフッ素樹脂をインキ反発層として使用し、湿し水を用いずに平版印刷(以下、水なし平版印刷という)を行うための印刷版が種々提案されている。
【0003】
水なし平版印刷は、画線部と非画線部とをほぼ同一平面に存在させ、画線部をインキ受容層、非画線部をインキ反発層として、インキ付着性の差異を利用して画線部のみにインキを着肉させた後、紙などの被印刷体にインキを転写して印刷をする平版印刷方法であり、湿し水を用いることなく印刷できることが特徴である。また、刷り出しが早い等、コスト面や作業時間の短縮につながる等のメリットがある。
【0004】
水なし平版印刷版原版の露光方法としては様々な方法が提案されているが、原画フイルムを介して紫外線照射を行う方式と、原画フイルムを用いることなく原稿から直接画像を書き込むコンピュータートゥプレート(CTP)方式に大別され、近年のデジタル化技術により、レーザー光のような指向性の高い光をデジタル化された画像情報にしたがって版面に走査することで、リスフィルムを介することなく直接版面に露光処理を行うCTP方式が主流となってきている。
【0005】
基板上に少なくとも感熱層およびシリコーンゴム層を有する、感熱層残存型水なしCTP平版印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。これらの印刷版原版は、現像後もレーザー照射部の感熱層が残存するため、印刷時のインキ使用量が少なく、微細画像の再現性も良好である。また、低いレーザー出力で露光できるため、ランニングコストやレーザー寿命の点で有利であるばかりでなく、レーザー照射時にアブレーションカスが発生しないため特別な吸引装置が不要となる。
【0006】
しかしながら、上述した直描型水なし平版印刷版原版は、画線部における油性インキの受容性能が劣り、インキ着肉性が不良のため、印刷に用いた場合、刷り出しから正常な印刷物を得るまで、インキ濃度の低い印刷物が多数生じるといった問題を有していた。インキ濃度が低い印刷物(ヤレ紙)が多いことは、水なし平版印刷のメリットであるコスト面、作業時間の削減面からも問題であり、早急な解決が望まれていた。
【特許文献1】特開平11−227355号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−300586号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、インキ着肉性が良好な直描型水なし平版印刷版原版を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基板上に、少なくとも感熱層、およびシリコーンゴム層を有する直描型水なし平版印刷版原版であって、前記感熱層の表面の中心平均粗さ(Ra)が25nm以上200nm以下であることを特徴とする直描型水なし平版印刷版原版である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インキ着肉性が良好な直描型水なし平版印刷版原版を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0011】
本発明者らは、印刷時のインキ着肉性を向上させるべく、鋭意検討を進めた結果、感熱層の表面の粗さに関係があることを見いだした。すなわち、感熱層表面自体に微細なナノレベルで粗さをつけることにより、着肉性が向上することを見いだした。これまで着肉性改良手法として、感熱層表面を粗す方法は提案されておらず、ドライエッチング処理を用いることについても提案されていない。
【0012】
本発明の最大の特徴は、感熱層の表面の粗さが中心線平均粗さ(Ra) として25nm以上200nm以下であることであり、100nm以上200nm以下であることがより好ましい。中心線平均粗さRaが25nm未満であると、表面の粗面化が不十分であり、インキ着肉性効果が得られない。また、200nmより大きいとインキ着肉性は十分であるが、粗面化によって、シリコーンゴム層との接着性が不十分となり、現像時に非画線部のシリコーンゴム層ハガレが発生する。すなわち、感熱層の表面の粗さを中心線平均粗さ(Ra) 25nm以上200nm以下の間に調整することで、インキ着肉性が良好な直描型水なし平版印刷版原版を得ることができる。
【0013】
ここで、中心線平均粗さ(Ra)の測定方法について説明する。本発明において感熱層表面の中心線平均粗さ(Ra)は、JIS B0601 付属書2(2001)における表面粗さの定義に基づくものであり、具体的には、市販されている表面形状測定機、触針計等を用いて測定することができる。また、感熱層表面を粗面化処理することで中心線平均粗さ(Ra)が上記範囲の感熱層を作製することができる。
【0014】
感熱層表面の中心線平均粗さ(Ra)を制御するための手段としては、機械的粗面化、電気化学的粗面化等の従来公知の粗面化処理が挙げられる。特に本発明には、ドライエッチング処理が好ましく用いられる。ドライエッチングとは、反応性の気体(エッチングガス)やイオン、ラジカルによって材料をエッチングする方法である。ナノレベルの微細加工を均一に行えることが特徴であり、後工程として洗浄も必要としないため、工程が簡単となる。ドライエッチングの種類には、反応ガス中に材料を曝する反応性ガスエッチングとプラズマによりガスをイオン化・ラジカル化してエッチングする反応性イオンエッチングなどがある。反応性イオンエッチングは、イオンによるスパッタリングと、エッチングガスの化学反応が同時に起こり、微細加工に適した高い精度でのエッチングが行える方法である。特に、本発明には、スパッタエッチングやリアクティブイオンエッチング等の反応性イオンエッチングが好ましく用いられる。スパッタエッチングとは、He,Ne,Ar,Kr,Xe,Rnなどの元素周期表の18族の気体である希ガス、または窒素ガスなどの絶縁膜材料と実質的に反応しない成分のみからなるガスを用いて行うエッチングである。また、リアクティブイオンエッチングとは、CH22、CHF3を含むガスなどフルオロカーボン系のエッチングガスを用いて行うエッチング方法である。
【0015】
エッチング処理を行うには、従来公知のエッチング装置を用いることができ、エッチングの際のパワー、時間、圧力等の条件を調整することによって、感熱層表面を25〜200nmの中心線平均粗さ(Ra)にすることができる。
【0016】
本発明の直描型水なし平版印刷版原版において、感熱層の膜厚は0.5〜5g/mが好ましい。膜厚を0.5g/m以上とすることで印刷版の耐傷性、耐刷性が十分となり、5g/m以下とすることで経済的見地から不利とならず、現像性の低下が起こりにくい。
【0017】
本発明に用いられる感熱層としては、これまでに直描型の感熱層残存型水なし平版印刷版用感熱層として提案された何れのタイプの感熱層も使用可能である。以下、具体例を挙げて説明するが、これらに限定されるものではない。
【0018】
(感熱層−1)ネガ型直描型水なし平版印刷版原版用感熱層
例えば特開平11−221977号公報に記載の感熱層等を挙げることができる。生版の状態で架橋剤による架橋構造が形成されており、近赤外レーザーの照射により発生する熱で、感熱層とシリコーンゴム層間の接着力が低下するタイプの感熱層である。その後の現像処理によって、レーザー光を照射した部分のシリコーンゴム層が除去される。レーザー照射部の感熱層は現像後も残存する。
【0019】
(感熱層−2)ネガ型直描型水なし平版印刷版原版用感熱層
例えば特開2005−300586号公報に記載の気泡を含んだ感熱層等を挙げることができる。生版の状態で架橋剤による架橋構造が形成されており、近赤外レーザーの照射により発生する熱で、感熱層とシリコーンゴム層間の接着力が低下するタイプの感熱層である。その後の現像処理によって、レーザー光を照射した部分のシリコーンゴム層が除去される。レーザー照射部の感熱層は現像後も残存する。
【0020】
(感熱層−3)ネガ型直描型水なし平版印刷版原版用感熱層
例えば特開平9−131981号公報に記載の感熱層等を挙げることができる。近赤外レーザーの照射により発生する熱で破壊されるタイプの感熱層である。そして、現像によってこの部分を除去することによって、表面のシリコーンゴム層が破壊された感熱層と一緒に除去され画線部となる。一般的にこのような感熱層は検版性の観点から感熱層を深さ方向に完全にレーザー破壊して用いられる。しかし感熱層を完全に破壊するためには高エネルギーのレーザー照射が必要であり、これにより、微細画像の再現性不良、アブレーションカスによる光学系汚染、レーザー寿命の低下等、様々な悪影響がある。レーザーエネルギーを低くすると感熱層の大部分を残存しながら上部シリコーンゴム層を除去できる領域が現れる。感熱層の大部分が残存するため検版は困難であるが、検版性以外の悪影響は大きく抑制される。
【0021】
(感熱層−4)ネガ型直描型水なし平版印刷版原版用感熱層
例えば、特開平7−314934号公報や特開平9−086065号公報に記載の金属、またはこれらの酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、フッ化物の薄膜等を挙げることができる。近赤外レーザーの照射により発生する熱で金属薄膜が破壊される。そして、現像によってこの部分を除去することによって、表面のシリコーンゴム層が同時に剥離され、画線部となる。感熱層−3同様、一般的にこのような金属薄膜も検版性の観点から深さ方向に完全にレーザー破壊して用いられる。しかし金属薄膜を完全に破壊するためには高エネルギーのレーザー照射が必要であり、これにより、微細画像の再現性不良、アブレーションカスによる光学系汚染、レーザー寿命の低下等、様々な悪影響がある。レーザーエネルギーを低くすると金属薄膜の大部分を残存しながら上部シリコーンゴム層を除去できる領域が現れる。金属薄膜の大部分が残存するため検版は困難であるが、検版性以外の悪影響は大きく抑制される。
【0022】
(感熱層−5)ポジ型直描型水なし平版印刷版原版用感熱層
例えば、特開平11−157236号公報や、特開平11−240271号公報に記載の熱硬化型感熱層等を挙げることができる。近赤外レーザーの照射により発生する熱で熱活性化架橋剤による架橋構造が形成されるタイプの感熱層である。その後の現像処理によって、レーザー光を照射した部分のシリコーンゴム層が残存し、未照射部分のシリコーンゴム層が除去される。レーザー未照射部の感熱層は現像後も残存する。
【0023】
つぎに、本発明に用いられるシリコーンゴム層について説明する。
【0024】
本発明に用いられるシリコーンゴム層は付加反応型、縮合反応型いずれであってもよい。
【0025】
付加反応型のシリコーンゴム層は、少なくともビニル基含有オルガノポリシロキサン、SiH基含有化合物(付加反応型架橋剤)、反応抑制剤および硬化触媒を含む組成物(以下、シリコーン液という)から形成される。
【0026】
ビニル基含有オルガノポリシロキサンは、下記一般式(I)で表される構造を有し、主鎖末端もしくは主鎖中にビニル基を有するものである。中でも主鎖末端にビニル基を有するものが好ましい。
−(SiR−O−)− (I)
【0027】
式中、nは2以上の整数を示し、RおよびRは同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜50の飽和または不飽和の炭化水素基を表す。炭化水素基は直鎖状でも枝分かれ状でも環状でもよく、芳香環を含んでいてもよい。
【0028】
上記式中、RおよびRは全体の50%以上がメチル基であることが、印刷版のインキ反発性の面で好ましい。また、取扱い性や印刷版のインキ反発性、耐傷性の観点から、ビニル基含有オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は1万〜60万が好ましい。
【0029】
SiH基含有化合物としては、例えば、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、ジオルガノハイドロジェンシリル基を有する有機ポリマーが挙げられ、好ましくはオルガノハイドロジェンシロキサンである。オルガノハイドロジェンは直鎖状、環状、分岐状、網状の分子構造を有し、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ポリメチルハイドロジェンシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、式:RSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:RHSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:RHSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:RHSiO2/2で示されるシロキサン単位と式:RSiO3/2で示されるシロキサン単位または式:HSiO3/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体などが挙げられる。これらのオルガノポリシロキサンを2種以上用いてもよい。上式中、Rはアルケニル基以外の一価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が例示される。
【0030】
ジオルガノハイドロジェンシリル基を有する有機ポリマーとしては、例えば、ジメチルハイドロジェンシリル(メタ)アクレート、ジメチルハイドロジェンシリルプロピル(メタ)アクリレート等のジメチルハイドロジェンシリル基含有アクリル系モノマーと、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、スチレン、α−メチルスチレン、マレイン酸、酢酸ビニル、酢酸アリル等のモノマーとを共重合したオリゴマーが挙げられる。
【0031】
SiH基含有化合物の含有量は、シリコーンゴム層の硬化性の観点から、シリコーン液中0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましい。また、20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましい。
【0032】
反応抑制剤としては、含窒素化合物、リン系化合物、不飽和アルコールなどが挙げられるが、アセチレン基含有のアルコールが好ましく用いられる。これらの反応抑制剤を含有することにより、シリコーンゴム層の硬化速度を調整することができる。反応抑制剤の含有量は、シリコーン液の安定性の観点から、シリコーン液中0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましい。また、シリコーンゴム層の硬化性の観点から、シリコーン液中20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましい。
【0033】
硬化触媒は公知のものから選ばれるが、好ましくは白金系化合物であり、具体的には白金単体、塩化白金、塩化白金酸、オレフィン配位白金、白金のアルコール変性錯体、白金のメチルビニルポリシロキサン錯体などを一例として挙げることができる。硬化触媒の含有量は、シリコーンゴム層の硬化性の観点から、シリコーン液中0.001重量%以上が好ましく、0.01重量%以上がより好ましい。また、シリコーン液の安定性の観点から、20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましい。
【0034】
また、これらの成分の他に、水酸基含有オルガノポリシロキサンや加水分解性官能基含有シラン(もしくはシロキサン)、ゴム強度を向上させる目的でシリカなどの公知の充填剤、接着性を向上させる目的で公知のシランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤としては、アルコキシシラン類、アセトキシシラン類、ケトキシミノシラン類などが好ましく、特にビニル基やアリル基を有するものが好ましい。
【0035】
縮合反応型のシリコーンゴム層は、少なくとも水酸基含有オルガノポリシロキサン、架橋剤(脱酢酸型、脱オキシム型、脱アルコール型、脱アミン型、脱アセトン型、脱アミド型、脱アミノキシ型など)、および硬化触媒を含む組成物(シリコーン液)から形成される。
【0036】
水酸基含有オルガノポリシロキサンは、前記一般式(I)で表される構造を有し、主鎖末端もしくは主鎖中に水酸基を有するものである。中でも主鎖末端に水酸基を有するものが好ましい。
【0037】
一般式(I)中のRおよびRは、全体の50%以上がメチル基であることが、印刷版のインキ反発性の面で好ましい。その取扱い性や印刷版のインキ反発性、耐傷性の観点から、水酸基含有オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は1万〜60万が好ましい。
【0038】
縮合反応型のシリコーンゴム層に用いられる架橋剤としては、下記一般式(II)で表される、アセトキシシラン類、アルコキシシラン類、ケトキシミノシラン類、アリロキシシラン類などを挙げることができる。
(R4−nSiX(II)
【0039】
式中、nは2〜4の整数を示し、Rは同一でも異なってもよく、炭素数1以上の置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらの組み合わされた基を示す。Xは同一でも異なってもよく、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシミノ基、アミノオキシ基、アミド基またはアルケニルオキシ基である。上記式において、加水分解性基の数nは3または4であることが好ましい。
【0040】
具体的な化合物としては、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、アリルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、テトラアセトキシシラン等のアセトキシシラン類、ビニルメチルビス(メチルエチルケトキシミノ)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシミノ)シラン、エチルトリス(メチルエチルケトキシミノ)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトキシミノ)シラン、アリルトリス(メチルエチルケトキシミノ)シラン、フェニルトリス(メチルエチルケトキシミノ)シラン、テトラキス(メチルエチルケトキシミノ)シラン等のケトキシミノシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン等のアルコキシシラン類、ビニルトリスイソプロペノキシシラン、ジイソプロペノキシジメチルシラン、トリイソプロペノキシメチルシラン等のアルケニルオキシシラン類、テトラアリロキシシランなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中では、シリコーンゴム層の硬化速度、取扱い性などの観点から、アセトキシシラン類、ケトキシミノシラン類が好ましい。
【0041】
架橋剤の含有量は、シリコーン液の安定性の観点から、シリコーン液中0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましい。また、シリコーンゴム層の強度や印刷版の耐傷性の観点から、シリコーン液中20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましい。
【0042】
硬化触媒としては、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸などの有機カルボン酸、トルエンスルホン酸、ホウ酸等の酸類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ、アミン、およびチタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシドなどの金属アルコキシド、鉄アセチルアセトナート、チタンアセチルアセトナートジプロポキシドなどの金属ジケテネート、金属の有機酸塩などを挙げることができる。これらの中で、金属の有機酸塩が好ましく、特に錫、鉛、亜鉛、鉄、コバルト、カルシウム、マンガンから選ばれる金属の有機酸塩が好ましい。このような化合物の具体例の一部としては、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジラウレート、オクチル酸亜鉛、オクチル酸鉄などを挙げることができる。硬化触媒の含有量は、シリコーンゴム層の硬化性、接着性の観点から、シリコーン液中0.001重量%以上が好ましく、0.01重量%以上がより好ましい。また、シリコーン液の安定性の観点から、シリコーン液中15重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。
【0043】
また、これらの成分の他に、ゴム強度を向上させる目的でシリカなどの公知の充填剤、さらには公知のシランカップリング剤を含有してもよい。
【0044】
本発明に用いられる基板としては、従来印刷版の基板として用いられてきた寸法的に安定な公知の紙、金属、フイルム等を使用することができる。具体的には、紙、プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなど)がラミネートされた紙、アルミニウム(アルミニウム合金も含む)、亜鉛、銅などの金属板、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタールなどのプラスチックのフイルム、上記の如き金属がラミネートもしくは蒸着された紙もしくはプラスチックフイルムなどが挙げられる。プラスチックフイルムは透明、不透明何れのものでも使用できる。中でも不透明のフイルムを用いることは検版性の点から好ましい。
【0045】
これら基板のうち、アルミニウム板は寸法的に著しく安定であり、しかも安価であるので特に好ましい。また、軽印刷用のフレキシブルな基板としては、ポリエチレンテレフタレートフイルムが特に好ましい。
【0046】
基板と感光層間の接着性向上、光ハレーション防止、検版性向上、断熱性向上、耐刷性向上等を目的に、前述の基板の上にプライマー層を有してもよい。本発明に用いられるプライマー層としては、例えば特開2004−199016号公報等に記載されたプライマー層を挙げることができる。
【0047】
上述したように構成された直描型水なし平版印刷版原版は、シリコーンゴム層保護の目的で保護フイルムや合紙を有してもよい。保護フイルム、および合紙は、そのどちらか一方を単独で有してもよいし、両方を併用してもよい。
【0048】
保護フイルムとしては、露光光源波長の光を良好に透過する厚み100μm以下のフイルムが好ましい。代表例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、セロファンなどを挙げることができる。また、曝光による原版の感光を防止する目的で、特開平2−063050号公報に記載されたような種々の光吸収剤や光退色性物質、光発色性物質を保護フイルム上に有してもよい。また、特開昭55−55343号公報や特開平2−063051号公報に記載されたような凹凸加工された保護フイルムを用いることも可能である。
【0049】
合紙としては、秤量30〜120g/mのものが好ましく、より好ましくは30〜90g/mである。秤量30g/m以上であれば機械的強度が十分であり、120g/m以下であれば経済的に有利であるばかりでなく、直描型水なし平版印刷版原版と紙の積層体が薄くなり、作業性が有利になる。好ましく用いられる合紙の例として、例えば、情報記録原紙40g/m(名古屋パルプ(株)製)、金属合紙30g/m(名古屋パルプ(株)製)、未晒しクラフト紙50g/m(中越パルプ工業(株)製)、NIP用紙52g/m(中越パルプ工業(株)製)、純白ロール紙45g/m(王子製紙(株))、クルパック73g/m(王子製紙(株))などがあげられるがこれらに限定されるものではない。
【0050】
次に、本発明の直描型水なし平版印刷版原版の製造方法を記載する。塗布面を脱脂した基板上に、必要によりプライマー液またはそれを溶剤で希釈したプライマー希釈液を塗布し、プライマー層を設ける。乾燥や硬化のために加熱処理を行ってもよい。その後プライマー層と同様の方法で、感光(熱)層、シリコーンゴム層を順次設けることで直描型水なし平版印刷版原版を得ることができる。各液の塗布方法としては、スリットダイコーター、ダイレクトグラビアコーター、オフセットグラビアコーター、リバースロールコーター、ナチュラルロールコーター、エアーナイフコーター、ロールブレードコーター、バリバーロールブレードコーター、トゥーストリームコーター、ロッドコーター、ワイヤーバーコーター、ディップコーター、カーテンコーター、スピンコーターなどによる塗布方法が用いられる。各層の加熱には、熱風乾燥機や赤外線乾燥機等の一般的な加熱装置が用いられる。
【0051】
更に、得られた直描型水なし平版印刷版原版を用いて、感熱層表面に機械的粗面化、電気化学的粗面化等の粗面化処理を行うことで、本発明の直描型水なし平版印刷版原版が得られる。版面保護の観点からシリコーンゴム層に保護フイルム、または合紙の何れか一方、もしくはその両方を設けて保管することが、好ましい。
【0052】
このようにして得られた直描型水なし平版印刷版原版は、保護フイルム上、または保護フイルム剥離後、デジタルデータによりレーザー走査露光することにより画像様に露光される。紫外光レーザー、可視光レーザー、(近)赤外光レーザーなどが挙げられる。
【0053】
露光後の原版は、現像液の存在下もしくは非存在下での摩擦処理により現像がなされる。摩擦処理は、不織布、脱脂綿、布、スポンジ、ブラシ等で版面を擦ることによって、あるいは、現像液を含浸した不織布、脱脂綿、布、スポンジ等で版面を拭き取ることによって行うことができる。また、現像液で版面を前処理した後に水道水等をシャワーしながら回転ブラシで擦ることや、高圧の水や温水、または水蒸気を版面に噴射することによっても行うことができる。
【0054】
現像に先立ち、前処理液中に一定時間版を浸漬する前処理を行ってもよい。前処理液としては、例えば、水や水にアルコールやケトン、エステル、カルボン酸などの極性溶媒を添加したもの、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類などの少なくとも1種からなる溶媒に極性溶媒を添加したもの、あるいは極性溶媒が用いられる。また、上記の現像液組成には、公知の界面活性剤を添加することも自由に行われる。界面活性剤としては、安全性、廃棄する際のコスト等の点から、水溶液にしたときにpHが5〜8になるものが好ましい。界面活性剤の含有量は現像液の10重量%以下であることが好ましい。このような現像液は安全性が高く、廃棄コスト等の経済性の点でも好ましい。さらに、グリコール化合物あるいはグリコールエーテル化合物を主成分として用いることが好ましく、アミン化合物を共存させることがより好ましい。
【0055】
前処理液、現像液、後処理液としては、特開昭63−179361号公報、特開平4−163557号公報、特開平4−343360号公報、特開平9−34132号公報、特許第3716429号公報に記載されたような水なし平版印刷版原版の現像に関して開示されたものを用いることができる。前処理液の具体例としては、PP−1、PP−3、PP−F、PP−FII、PTS−1、PH−7N、CP−1、NP−1、DP−1(何れも東レ(株)製)などを挙げることができる。後処理液の具体例としては、PA−1、PA−2、PA−F(何れも東レ(株)製)などを挙げることができる。
【0056】
上記現像処理は自動現像機により自動的に行うこともできる。自動現像機としては現像部のみの装置、前処理部、現像部がこの順に設けられた装置、前処理部、現像部、後処理部がこの順に設けられた装置、前処理部、現像部、後処理部、水洗部がこの順に設けられた装置等を使用できる。このような自動現像機の具体例としては、TWL−650シリーズ、TWL−860シリーズ、TWL−1160シリーズ(共に東レ(株)製)等や、特開平4−2265号公報、特開平5−2272号公報、特開平5−6000号公報などに開示されている自動現像機を挙げることができ、これらを単独または併用して使用することができる。
【0057】
現像処理された印刷版を積み重ねて保管する場合には、印刷版保護の目的で、版と版の間に合紙を挟んでおくことが好ましい。
【実施例】
【0058】
本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。
【0059】
<感熱層表面の中心平均粗さ(Ra)>
直描型水なし平版印刷版原版の作製時において、感熱層を設けた後感熱層表面を、AFM測定装置Nano scope(Digital Instruments製)を用いて以下の条件により観察し、感熱層表面の中心平均粗さ(Ra)を測定した。
Integral Gain:2.1
Proportional Gain:2.5
Amplitude Setpoint:0.65
Scan Size:10μm
【0060】
<前処理液耐性評価>
得られた直描型水なし平版印刷版原版を露光せず、自動現像機:TWL−860KII(東レ(株)製)、前処理部液:35℃“NP−1”(東レ(株)製)、現像部液:水、後処理部液:“PA−1”(東レ(株)製)を用いて、版搬送速度80cm/分で現像した後、版表面をルーペ(×25)により版表面を観察し、シリコーンゴム層にハガレが生じていないか確認した。
【0061】
<印刷評価(インキ着肉性評価)>
得られた直描型水なし平版印刷版をオフセット印刷機(小森スプリント4色機)に取り付け、“ドライオカラー”(大日本インキ化学工業(株)製)藍インキを用いて、上質紙に100枚印刷を行った。得られた印刷物を分光濃度計“SpectroEye”(GretagMacbeth製)を用いてインキ濃度を測定し、これまでの知見を基に以下の基準により評価した。
◎:インキ濃度 0.5以上 インキ着肉性が非常に良好
○:インキ濃度 0.4〜0.49 インキ着肉性が良好
△:インキ濃度 0.3〜0.39 インキ着肉性が悪い
×:インキ濃度 0.29以下 インキ着肉性が著しく悪い
【0062】
<酸化チタン分散液の作製>
N,N−ジメチルホルムアミド10重量部中に、酸化チタン“CR−50”(石原産業(株)製)10重量部を添加して5分間撹拌した。さらに、ガラスビーズ(No.08)を15重量部添加し、20分間激しく撹拌し、その後ガラスビーズを取り去ることで酸化チタン分散液を得た。
【0063】
<プライマー層溶液の組成>
(1)エポキシ樹脂:エピコート(登録商標)1010(ジャパンエポキシレジン(株)製):49重量部
(2)ポリウレタン樹脂:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):98重量部
(3)アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート):“アルミキレート”ALCH−TR(川研ファインケミカル(株)製):11.2重量部
(4)ビニル系重合物:ディスパロン(登録商標)LC951(楠本化成(株)製):0.2重量部
(5)酸化チタン分散液(濃度50%):84重量部(酸化チタン:42重量部)
(6)N,N−ジメチルホルムアミド:302.5重量部
(7)メチルエチルケトン:315.6重量部。
【0064】
<感熱層溶液の組成>
(1)赤外線吸収染料:“PROJET”825LDI((株)Avecia製):16重量部
(2)チタンジ−n−ブトキサイドビス(2,4−ペンタンジオネート):ナーセム(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、チタン濃度約8.8%、n−ブタノール溶液):37.5重量部
(3)フェノールノボラック樹脂:スミライトレジン(登録商標)PR53195(住友デュレズ(株)製):60重量部
(4)ポリウレタン樹脂:サンプレン(登録商標)LQ−T1331D(三洋化成工業(株)製、濃度20%、N,N−ジメチルホルムアミド/2−エトキシエタノール溶液):125重量部(ポリウレタン樹脂:25重量部)
(5)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:15重量部
(6)テトラヒドロフラン:993重量部
(7)エタノール:64重量部。
【0065】
<シリコーンゴム層溶液の組成>
(1)α,ω−ジビニルポリジメチルシロキサンDMS−V42(重量平均分子量72,000、GELEST Inc.製):100重量部
(2)両末端メチル(メチルハイドロジェンシロキサン)(ジメチルシロキサン)共重合体、SiH基含有ポリシロキサンHMS−071(GELEST Inc.製):4重量部
(3)ビニルトリ(メチルエチルケトキシミン)シラン:3重量部
(4)白金触媒:“SRX−212”(東レダウコーニングシリコーン(株)製):10重量部
【0066】
(実施例1)
厚さ0.225mmの脱脂したアルミ基板(三菱アルミ(株)製)上に前記プライマー層溶液を塗布し、200℃で1分間乾燥し、膜厚10g/mのプライマー層を設けた。このプライマー層の上に前記感熱層溶液を塗布し、150℃で80秒間乾燥し、膜厚1.5g/mの感熱層を設けた。更に、サムコ株式会社製エッチング装置RIE−10Nを用い、Arガス存在下において、Ar流量30(sccm)、出力RF 150(W)、圧力6.00(Pa)、時間5(分)にて粗面化処理を行い、中心線平均粗さ(Ra)25.0nmの表面状態を作製した。
【0067】
この感熱層上に、前記シリコーンゴム溶液を塗布し、125℃で80秒間乾燥し、膜厚2.0g/mのシリコーンゴム層を設け、直描型水なし平版印刷版原版を得た。更に、シリコーンゴム層表面に保護層として6μmのポリプロピレンフィルムをラミネートした。
【0068】
得られた直描型水なし平版印刷版原版を、製版機:GX−3600(東レ(株)製)に装着し、半導体レーザー(波長830nm)を用いて1〜99%の網点(175lpi)を照射エネルギー200mJ/cmで露光した。続いて、自動現像機:TWL−860KII(東レ(株)製、前処理部液:35℃“NP−1”(東レ(株)製)、現像部液:水、後処理部液:“PA−1”(東レ(株)製)により、版搬送速度80cm/分で、上記露光済み版の現像を行い、直描型水なし平版印刷版を得た。得られた水なし平版印刷板の印刷によるインキ着肉性評価を行ったところ、印刷物のインキ濃度が0.40といった結果が得られ、良好なインキ着肉性であった。
【0069】
また前処理液耐性評価を行ったところ、非画線部であるシリコーンゴム層に剥がれも生じず良好であった。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例2、3)
表1に記載のスパッタリング条件で感熱層表面を粗面化処理した以外は実施例1と同様の操作で直描型水なし平版印刷版を作製し、評価を行った結果を表1に示す。印刷評価(インキ着肉性評価)、前処理液耐性評価ともに良好な結果であった。
【0071】
(実施例4〜6)
表1に記載のスパッタリング条件で感熱層表面を粗面化処理した以外は実施例1と同様の操作で直描型水なし平版印刷版を作製し、評価を行った結果を表1に示す。印刷評価(インキ着肉性評価)は非常に良好な結果が得られ、前処理液耐性評価も良好な結果であった。
【0072】
(比較例1〜4)
表1に記載のスパッタリング条件で感熱層表面を粗面化処理した以外は実施例1と同様の操作で直描型水なし平版印刷版を作製し、評価を行った結果を表1に示す。前処理液耐性評価は良好であったが、印刷評価(インキ着肉性評価)は不十分なものであった。
【0073】
(比較例5、6)
表1に記載のスパッタリング条件でシリコーンゴム層表面を粗面化処理した以外は実施例1と同様の操作で直描型水なし平版印刷版を作製し、評価を行った結果を表1に示す。印刷評価(インキ着肉性評価)は非常に良好であったが、前処理液耐性評価は不十分なものであった。
【0074】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも感熱層、およびシリコーンゴム層を有する直描型水なし平版印刷版原版であって、前記感熱層の表面の中心平均粗さ(Ra)が25nm以上200nm以下であることを特徴とする直描型水なし平版印刷版原版。
【請求項2】
基板上に、少なくとも表面の中心平均粗さ(Ra)が25nm以上200nm以下である感熱層、およびシリコーンゴム層をこの順に積層してなる直描型水なし平版印刷版原版の製造方法において、感熱層表面をドライエッチング処理により粗面化する工程を含むことを特徴とする直描型水なし平版印刷版原版の製造方法。

【公開番号】特開2009−163159(P2009−163159A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2752(P2008−2752)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】