説明

直流モータ用ECUの特性評価試験装置

【課題】
直流モータを実機に組み込んだ場合と同等な条件のもとでECUの特性を正確に評価することができるとともに、ECU自体の特性であって、その静的な特性を正確に評価することのできる安価な直流モータ用ECUの特性評価試験装置を提供すること。
【解決手段】
直流モータ用ECU8の特性評価試験装置1において、直流モータ11と、該直流モータ11を其の出力軸11aが回転しないように固定する固定手段12と、該固定手段12により固定された直流モータ11を冷却する冷却手段13とを備えていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流モータの動作を制御するECUの特性を正確に評価するための試験装置、すなわち、直流モータ用ECUの特性評価試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
装置の駆動源として、直流モータはよく用いられるが、この直流モータは、通常、ECU(エレクトリック・コントロール・ユニット)等の制御装置によって駆動されることが多い。
【0003】
このECUについては、開発設計段階で耐久試験、性能試験その他の特性評価試験が行われるが、従来、この試験は、直流モータ91が取り付けられた装置の実機そのもの、または、図7に示すように、実機の簡易型(以下、実機そのもの、及び実機の簡易型の両方を含めて「実機」と称する。)9に、試験対象のECU8を組み込んで(接続して)行われていた。これにより、従来技術の特性評価試験装置によれば、負荷が加わった場合の試験、すなわち、実際の使用状態に近い状態での試験を行うことが可能である。
【特許文献1】特開2003−153547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ECU8を実機9に組み込んで試験を行うと、直流モータ91の発熱が大きく、直流モータ91の電気的特性が変化し、ECU8の特性が直流モータ91の電気的特性の変化に左右され、ECU8自体の特性を正確に評価することができないという不具合があった。
【0005】
また、ECU8を実機9に組み込んで試験を行うと、実機9に外力が加わった場合に、その外力によって実機9を駆動する直流モータ91にも影響を生じてしまうため、ECU8の静的な特性を正確に評価することができないという不具合もあった。
【0006】
更に、ECU8の量産前の開発初期段階においては、そもそも対応する(ECU8が搭載されるはずの)実機9自体がないし、実機9があっても、例えば図7に示すように実機9が電動パワーステアリング装置などの大きな装置であると、実機9の設置場所や、実機9の劣化、そのコストも無視することができなかった。
【0007】
他方、直流モータ91等のモータ装置(負荷)を用いず、模擬装置を用いて制御装置の特性を正確に評価するものもある(特許文献1参照)。しかしながら、当然、直流モータ91等のモータ装置は、インダクタンス成分を有しているし、巻線方法、巻数等によって当然にその大きさは異なる。このため、従来技術である特許文献1等の模擬装置で試験をしても、ECUの特性評価試験を行えているか否か懐疑的であった。
【0008】
そこで、案出されたのが本発明であって、本発明は、直流モータを実機に組み込んだ場合と同等な条件のもとでECUの特性を正確に評価することができるとともに、ECU自体の特性であって、その静的な特性を正確に評価することのできる安価な直流モータ用ECUの特性評価試験装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために独立形式の請求項である請求項1記載の直流モータ用ECUの特性評価試験装置は、直流モータ用ECUの特性評価試験装置において、直流モータと、該直流モータを其の出力軸が回転しないように固定する固定手段と、該固定手段により固定された直流モータを冷却する冷却手段とを備えていることを特徴としている。
【0010】
このように構成された請求項1記載の特性評価試験装置によれば、直流モータをその出力軸が回転しないように固定されているので、ECUの特性を正確に評価するに当たり、実機に組み込まれた場合に比べて、外力の影響を無視できる。これは、実機に直流モータを組み込んだ場合には、出力軸に加わる負荷が実機の可動状況や、実機の各部フリクション状況等により変動するので、ECU8の静的な特性(以下、適宜、「静的特性」という。)を測定することができないことに起因している。また、冷却手段により冷却されているので、直流モータの温度上昇を抑制し、直流モータの電気的特性の変化に左右されないECU自体の特性を正確に評価することが可能となる。
【0011】
他方、従属形式の請求項である請求項2から10の何れかに記載の発明は、いずれも、請求項1記載の発明の構成要件を全て具備している。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の特性評価試験装置によれば、外力の影響を直流モータが受けないので、ECUの静的特性を正確に評価することができるとともに、温度上昇を抑制できるので、直流モータの電気的特性の変化に左右されず、ECU自体の特性を正確に評価することができるという効果がある。更に、実機を用意しなくても、直流モータを実機に組み込んだ場合と同等な条件のもとでECUの特性を正確に評価することができるという効果、及び、装置を安価な構成とすることができる効果がある。
【0013】
請求項2から10の何れかに記載の発明は、いずれも、請求項1記載の発明の効果を具備している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態の例(実施例)について説明する。勿論、本発明の技術的範囲は、下記実施例そのものに何ら限定されるものではない。なお、添付図面においては、説明の都合上、適宜、図示を簡略、省略等している。
(第1実施例)
【0015】
図1は、本発明の第1の実施例(第1実施例)である直流モータ用ECUの特性評価試験装置(以下、適宜、単に「特性評価試験装置」という。)1の概略断面図である。この特性評価試験装置1は、収容体10と、直流モータ11と、固定手段12と、冷却手段13とによって構成されている。
【0016】
収容体10は、直流モータ11、固定手段12、及び冷却手段13を収容するための容器であり、直流モータ11は、実際にECU8が実機に組み込まれた場合に制御する直流モータ91と同じ仕様(換言すれば、同じ定格)のものである。固定手段12は、直流モータ11を収容体10に固定する本体固定部12aと、直流モータ11の出力軸11aが回転しないように固定する軸固定部12bとを備えている。ここで、第1実施例においては、本体固定部12aは、ステー部12cを備えており、このステー部12cを介して、直流モータ11を支持している。これにより、直流モータ11の出力軸11aの固定が簡易になるとともに、後述する冷却手段13の機構を簡略化、具体的には単に容器状とすることができる。
【0017】
冷却手段13は、直流モータ11の温度上昇を防止するために冷却するものであり、容器体13aを備えるとともに、この容器体13aの内部に冷却用液体13bが貯留可能とされている。上述の固定手段12は、容器体13aの内側に直流モータ11を固定するように構成されている。ここで、冷却用液体13bは、限定されるものではないが、具体例としては油が挙げられ、シリコンオイルが絶縁性の観点より好ましい。
【0018】
上述のように構成された特性評価試験装置1によれば、従来技術のように実機9に組み込まなくても、ECU8の特性を正確に評価することができる。また、実機9に組み込まないで試験を行うことができるので、外力の影響を無視した、ECU8の静的特性を正確に評価することができる。更に、直流モータ11の出力軸11aが回転しないように固定されるとともに、冷却手段13により直流モータ11が冷却されているために、直流モータ11の温度上昇を抑制することができ、これにより、直流モータ11の電気的特性の変化に左右されない、ECU8の特性を正確に評価することが可能となる。以上のように、従来技術のように実機9に組み込まなくても、同等の試験を行うことが可能である。
【0019】
ここで、通常、従来技術の直流モータ91は、図8に示すように、実機9に直接に取り付けられる構成とされているが故に、ブラシ(言い換えれば、整流子)91a及び回転子91bを介して内部コイル91cに通電する構成とされていた。しかしながら、仮にブラシ91aが回転子91bの一箇所のみに接触する状態で通電を継続すると、ブラシ91aの温度上昇により酸化膜等ができて通電に悪影響を及ぼしてしまう。しかしながら、本発明においては、ブラシ91aを取り外し、ブラシ91aに代えて、該ブラシ91aが接触していた位置と同位置(回転子91bが回転するために取り付けられていた位置に対応する回転子11eの位置)に給電用のリード線11dが接続されることにより(例えば、ブラシ91aが2極の場合には2箇所となり、4極の場合には4箇所となる)、内部コイル11eに通電する構成とされている。よって、必要十分な通電状態を常に確保することが可能となる。
(第2実施例)
【0020】
次に、図3を参照して、上記実施例(第1実施例)とは別の実施例(第2実施例)である直流モータ用ECUの特性評価試験装置2について説明する。上述の実施例と同一の部分には、同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分を説明する。
【0021】
第2実施例の特性評価試験装置2は、直流モータ11及び固定手段12に加え、冷却手段21を備えている。冷却手段21は、上述の容器体13a及び冷却用液体13bに加え、循環手段22を備えている。循環手段22は、冷却手段13内に貯留されている冷却用液体13bを循環させるためのものである。具体的には、循環手段22は、容器体13aに両端が接続された循環用パイプ22aと、この循環用パイプ22aの途中に設けられ、循環用ポンプ22a内を送液するための循環用ポンプ22bと、この循環用ポンプ22bを駆動する循環用モータ22cとを備えている。すなわち、第2実施例の特性評価試験装置2は、冷却用液体13bを循環させることによって、冷却効果を高める構成とされている。
(第3実施例)
【0022】
次に、図4及び図5を参照して、上記実施例(第1及び第2実施例)とは別の実施例(第3実施例)である直流モータ用ECUの特性評価試験装置3について説明する。上述の実施例と同一の部分には、同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分を説明する。なお、図4においては、発明の理解を容易にするために、ECU8や、循環手段22等の構成を省略しており、図5においても、説明の都合上、直流モータ11の中身を省略している。
【0023】
第3実施例の特性評価試験装置3は、第2実施例の特性評価試験装置2の構成に加え、直流モータ11の筐体11bの上下に流通孔11cが形成されている。この流通孔11cは、直流モータ11の冷却用液体13bを出入させるためのものであり、この流通孔11cに加え、上述の容器体13a、冷却用液体13b及び循環手段22によって、第3実施例の冷却手段31が構成されている。すなわち、第3実施例の特性評価試験装置3は、直流モータ11を外方からのみならず、内側からも冷却するように構成されている。ここで、直流モータ11は、一般的に回転子(図示せず)が内側に配設されているために、その構造上、内側の方が発熱量が高い。このため、流通孔11cを設けることによって、発熱量の多い直流モータ11の内側へ冷却用液体13bを送液することができる。よって、直流モータ11を内側及び外側の両側から効率的に冷却することができる。
【0024】
また、図5に示すように、第3実施例の場合、収容体10内にも冷却用液体13bが貯留されており、この循環手段22は、収容体10内に貯留されている冷却用液体13bを容器体13aに還流するように構成されている。
(第4実施例)
【0025】
次に、図6を参照して、上記実施例(第1〜第3実施例)とは別の実施例(第4実施例
)について説明する。上述の実施例と同一の部分には同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分を説明する。
【0026】
第4実施例の特性評価試験装置4は、第3実施例の特性評価試験装置3に対して、流通孔11cに冷却用配管41が接続されている点(図6においては、発明の理解を容易とするために冷却用配管のうち一部を省略している。)、並びに、収容体10、容器体13a及びステー部12cの構成を備えていない点で相違する。冷却用配管41には、冷却用配管41内を冷却用液体13bを送液するための送液用ポンプ41aと、この送液用ポンプ41aを駆動する送液用モータ41bとが接続されている。即ち、第4実施例の冷却手段42は、冷却用配管41と、この冷却用配管41内を通る冷却用液体7と、流通孔11cと、送液用ポンプ41aと、送液用モータ41bとによって構成されている。すなわち、第4実施例の特性評価試験装置4は、直流モータ11を内側からのみ冷却する構成とされている。内側が高温となる直流モータ11を効率よく冷却することができるとともに、試験装置の大きさを更にコンパクト化することができる。
【0027】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、上記実施例は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であり、本発明の技術的範囲には、これらの改良変形も含まれる。
【0028】
例えば、第2実施例においては、容器体13a内に貯留される冷却用液体13bを循環させる方式として、容器体13a内の冷却用液体13bの一部を取り出して循環させる方式が採用されている。しかしながら、容器体13a内にプロペラ等の撹拌手段を設け(図示せず)、この撹拌手段を用いて容器体13a内に貯留される冷却用液体13bを循環させる方式を採用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施例における、直流モータ用ECUの特性評価試験装置の概略側方断面図である。
【図2】第1実施例における、直流モータの回転子と固定子との接続状態を示す斜視図である。
【図3】第2実施例における、直流モータ用ECUの特性評価試験装置の概略側方断面図である。
【図4】第3実施例における、直流モータ用ECUの特性評価試験装置の概略上方断面図である。
【図5】第3実施例における、直流モータ用ECUの特性評価試験装置の概略側方断面図である。
【図6】第4実施例における、直流モータ用ECUの特性評価試験装置の概略側方断面図である。
【図7】従来技術における、直流モータ用ECUの特性評価試験装置の概略斜視図である。
【図8】従来技術における、直流モータの回転子と固定子との接続状態を示す者静である。
【符号の説明】
【0030】
1,2,3,4 直流モータ用ECUの特性評価試験装置
8 ECU
9 実機
10 収容体
11 直流モータ
11a 出力軸
11b 筐体
11c 流通孔
12 固定手段
12a 本体固定部
12b 軸固定部
12c ステー部
13,21,31,42 冷却手段
13a 容器体
13b 冷却用液体
22 循環手段
22a 循環用パイプ
22b 循環用ポンプ
22c 循環用モータ
41 冷却用配管
41a 送液用ポンプ
41b 送液用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流モータ用ECUの特性評価試験装置において、
直流モータと、
該直流モータを其の出力軸が回転しないように固定する固定手段と、
該固定手段により固定された直流モータを冷却する冷却手段とを備えていることを特徴とする直流モータ用ECUの特性評価試験装置。
【請求項2】
冷却手段は、直流モータを外側から冷却することを特徴とする請求項1記載の直流モータ用ECUの特性評価試験装置。
【請求項3】
冷却手段は、直流モータを収容するとともに、該直流モータが浸漬されるように冷却用液体を貯留可能な容器体を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直流モータ用ECUの特性評価試験装置。
【請求項4】
冷却手段は、容器体内に貯留される冷却用液体を循環させる循環手段を備えていることを特徴とする請求項3に記載の直流モータ用ECUの特性評価試験装置。
【請求項5】
冷却手段は、直流モータを内側から冷却することを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の直流モータ用ECUの特性評価試験装置。
【請求項6】
冷却手段は、直流モータを構成する筐体に穿設されるとともに、該直流モータの内部に冷却用液体を出入させるための流通孔を備えていることを特徴とする請求項5に記載の直流モータ用ECUの特性評価試験装置。
【請求項7】
流通孔には、冷却用液体を出入させるための冷却用配管が接続されていることを特徴とする請求項6記載の直流モータ用ECUの特性評価試験装置。
【請求項8】
冷却用配管内に冷却用液体を送液するための送液手段を備えていることを特徴とする請求項7記載の直流モータ用ECUの特性評価試験装置。
【請求項9】
直流モータ用ECUは、電動パワーステアリング装置用に用いられるECUであることを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の直流モータ用ECUの特性評価試験装置。
【請求項10】
直流モータは、内部コイルに給電するために回転子に接触するブラシに代えて、該回転子に接続された給電用のリード線を備えていることを特徴とする請求項1から9の何れかに記載の直流モータ用ECUの特性評価試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−138664(P2006−138664A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326444(P2004−326444)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】