説明

直流変換部の最大出力計算部を備えたモータ駆動装置

【課題】交流を直流に変換する単一の直流変換部と、直流変換部から出力された直流を、各モータ部の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部と、を有するモータ駆動装置において、低コストで占有スペースの小さい直流変換部が選定され易いようにしたモータ制御装置を実現する。
【解決手段】モータ制御装置1は、入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部11と、直流変換部11から出力された直流をモータ部2−1、2−2および2−3の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部12−1、12−2および12−3と、直流変換部11への入力電圧および入力電流から直流変換部消費電力を所定の時間ごとに計算する直流変換部消費電力計算部21と、所定の時間ごとに計算された直流変換部消費電力の中から最大値を抽出しこれを直流変換部最大出力として出力する直流変換部最大出力計算部22と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電力を直流電力に変換したのちさらに交流電力に変換してこれを駆動電力とするモータを制御する、直流変換器の最大出力計算部を備えたモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械システムにおいては、工作機械の駆動軸ごとにモータ部を有し、これらモータ部をモータ駆動装置により駆動制御する。モータ駆動装置は、工作機械の駆動軸を駆動する制御軸数分のモータ部に対し、モータ回転の位置、速度もしくはトルクを指令し制御する。
【0003】
モータ駆動装置は、三相の商用交流電力を直流電力に変換する直流変換部と、直流変換部から出力された直流電力をモータ部の駆動電力として供給される所望の周波数の交流電力に変換する交流変換部とを備え、当該交流変換部に接続されたモータ部のモータ回転の位置、速度もしくはトルクを制御する。交流変換部は、工作機械における複数の駆動軸に対応してそれぞれ設けられる各モータ部に個別に駆動電力を供給するためにモータ部の個数と同数個設けられる。一方、直流変換部は、モータ駆動装置のコストや占有スペースを低減する目的で、複数の交流変換部に対して1個が設けられる。すなわち、モータ駆動装置では、単一の直流変換部で複数の交流変換部に直流電力を供給するようにすることで、直流変換部を複数設ける場合に比べてコストや占有スペースを削減している。
【0004】
上述のように構成されたモータ駆動装置においては、複数のモータ部を安定かつ確実に駆動できるようにするために、これら複数のモータ部のそれぞれに対し十分な駆動電力を確実に供給する必要がある。このため、三相の交流入力を直流に変換する直流変換部の最大出力がこれら複数のモータ部の最大出力の合計値よりも大きいものとなるような直流変換部を選定する必要がある。従来は、複数のモータ部のそれぞれの最大出力を単純に合計した値から、三相の交流を直流電源に変換する直流変換器の最大出力を決定していた。
【0005】
モータ駆動装置における消費電力を計算するものとして、複数の交流変換部の全消費電力、または交流変換部から商用電源側に回生される回生電力を計算する発明がある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−74918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
工作機械の動作条件や動作状況によっては全てのモータ部が同時に最大出力で駆動することがない場合がある。この場合には、モータ駆動装置においては、全ての交流変換部にて、各モータ部が最大出力を出せるだけの駆動電力を必ずしも出力する必要はない。それゆえ、直流変換部はこのような最大出力を想定した駆動電力を供給するために必要以上の直流電力を出力する必要はない。したがって、全てのモータ部で実際に消費される総電力を想定してこれをある程度上回る必要最小限の最大出力を有する直流変換部を、いわゆる「最適な」直流変換部として選定するのが、コストや占有スペースの面で有利である。
【0008】
しかしながら、工作機械のユーザもしくは設計者は、工作機械を所望の動作条件や動作状況の下で実際に動かしたときの各モータ部の入力電流および入力電圧を計測器を1つ1つ使って計測し、種々のモータ定数を用いて各モータ部の消費電力を個別に算出し、これらを考慮して交流変換部の総消費電力を想定しなければならず、直流変換部を選定するのに非常に手間と時間がかかるという問題があった。また、このようなやり方で想定された交流変換部の総消費電力に基づいて所定の最大出力を有する直流変換部を選定したとしても、必ずしもそれが最適な直流変換器とは限らなかった。
【0009】
また、特許文献1に記載された発明は、モータ駆動装置内の複数の交流変換部の全消費電力および商用電源側に回生される回生電力を一括して計算するものであり、個々のモータ部および交流変換部が取り得る動作条件や動作状況を考慮したものではないので、この発明を用いたからといって最適な直流変換部を選定できるわけではない。
【0010】
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部と、直流変換部から出力された直流を、各モータ部の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部と、を有するモータ駆動装置において、低コストで占有スペースの小さい直流変換部が選定され易いようにしたモータ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を実現するために、本発明の第1の態様においては、モータ駆動装置は、入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部と、直流変換部から出力された直流を、複数のモータ部の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部と、直流変換部への入力電圧および入力電流から直流変換部消費電力を所定の時間ごとに計算する直流変換部消費電力計算部と、所定の時間ごとに計算された直流変換部消費電力の中から最大値を抽出し、これを直流変換部最大出力として出力する直流変換部最大出力計算部と、を備える。
【0012】
また、本発明の第2の態様においては、モータ駆動装置は、入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部と、直流変換部から出力された直流を、複数のモータ部の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部と、モータ部へ供給される電圧および電流からモータ部消費電力を所定の時間ごとに計算するモータ部消費電力計算部と、モータ部全てのモータ部消費電力の総和であるモータ部総消費電力を所定の時間ごとに計算し、これら所定の時間ごとに計算されたモータ部総消費電力の中から最大値を抽出してこれを直流変換部最大出力として出力する直流変換部最大出力計算部とを備える。
【0013】
また、本発明の第3の態様においては、モータ駆動装置は、入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部と、直流変換部から出力された直流を、複数のモータ部の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部と、モータ部へ供給される電圧および電流からモータ部消費電力を所定の時間ごとに計算するモータ部消費電力計算部と、モータ部消費電力のうちモータ部に流入する電力分のみの総和であるモータ部総消費電力を所定の時間ごとに計算し、所定の時間ごとに計算されたモータ部総消費電力の中から最大値を抽出してこれを直流変換部最大出力として出力する直流変換部最大出力計算部と、を備える。
【0014】
また、本発明の第4の態様においては、モータ駆動装置は、入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部と、直流変換部から出力された直流を、複数のモータ部の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部と、直流変換部への入力電圧および入力電流から直流変換部消費電力を所定の時間ごとに計算する直流変換部消費電力計算部と、モータ部へ供給される電圧および電流からモータ部のモータ部消費電力を上記所定の時間ごとに計算するモータ部消費電力計算部と、直流変換部最大出力計算部は、モータ部消費電力のうちモータ部から流出する電力分の絶対値を直流変換部消費電力に加算して得られた値を所定の時間ごとに計算し、これら所定の時間ごとに計算された値の中から最大値を抽出してこれを直流変換部最大出力として出力する直流変換部最大出力計算部と、を備える。
【0015】
また、第1および第4の態様によるモータ駆動装置においては、直流変換部消費電力計算部は、直流変換部への入力電圧および入力電流についてのベクトル空間上の値の内積を計算することで直流変換部消費電力を算出してもよい。
【0016】
また、第2、第3および第4の態様によるモータ駆動装置においては、モータ部消費電力計算部は、モータ部へ供給される電圧および電流についてのベクトル空間上の値の内積を、モータ部ごとに計算することでモータ部消費電力を算出してもよい。
【0017】
また、第2、第3および第4の態様によるモータ駆動装置においては、モータ部消費電力計算部は、検出されたモータ部の速度およびトルクを乗算して得られた値に、モータ部へ供給される電流の平方値とモータ部の内部抵抗値とを乗じて得られた値を加算した値を、モータ部ごとに計算することでモータ部消費電力を算出してもよい。
【0018】
また、第1および第4の態様によるモータ駆動装置においては、直流変換部消費電力計算部は、計算された直流変換部消費電力を、補正パラメータを用いて補正して出力してもよい。
【0019】
また、第2、第3および第4の態様によるモータ駆動装置においては、モータ部消費電力計算部は、計算されたモータ部消費電力を、補正パラメータを用いて補正して出力してもよい。
【0020】
また、上記いずれの態様によるモータ駆動装置においても、直流変換部最大出力計算部は、計算された直流変換部最大出力を、補正パラメータを用いて補正して出力してもよい。
【0021】
また、上記いずれの態様によるモータ駆動装置においても、直流変換部消費電力計算部、直流変換部最大出力計算部、もしくはモータ部消費電力計算部による計算処理の結果もしくは計算中の所望のデータを表示する表示部をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部と、直流変換部から出力された直流を、各モータ部の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部と、を有するモータ駆動装置において、所望の動作条件もしくは動作状況の下にてモータ部、交流変換部および/または直流変換部における消費電力を計算し、これに基づいてモータ部に交流の駆動電力を動かすに足りる必要最小限の直流変換部の最大出力を算出するので、実際の使用で発生し得る消費電力に対応した直流変換部の最大出力をより正確かつ容易に決定することができる。したがって、本発明によれば、低コストで占有スペースの小さい直流変換部の選定が容易になる。
【0023】
従来、駆動軸ごとにモータ部を有しこれらモータ部に対応して交流変換部が設けられる工作機械システムにおいては、複数の交流変換部に対して単一の直流変換部で直流電力を供給するようにすることで、直流変換部を複数設ける場合に比べてモータ駆動装置のコストや占有スペースを削減していたが、これに対し本発明によれば、実際の使用で発生し得る消費電力に対応した直流変換部の最大出力をより正確かつ容易に決定することができるので、従来に比べて直流変換部のコストや占有スペースをより一層削減することができ、結果としてモータ駆動装置のコストや占有スペースをより一層削減することができる。
【0024】
本発明の第1の態様では、所望の動作条件もしくは動作状況の下にて動作するモータ駆動装置の直流変換部の消費電力の最大値を計算し、本発明の第2および第3の態様では、所望の動作条件もしくは動作状況の下にて動作するモータ駆動装置のモータ部の消費電力の最大値を計算し、本発明の第4の態様では、所望の動作条件もしくは動作状況の下にて動作するモータ駆動装置の直流変換部およびモータ部の消費電力の最大値を計算した上で、この計算結果に基づいて直流変換部の最大出力を決定するので、当該所望の動作条件もしくは動作状況に適した直流変換部を容易に選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施例によるモータ駆動装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施例によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施例によるモータ駆動装置を動作させた場合の直流変換部の消費電力およびその最大値を例示する図である。
【図4】本発明の第2の実施例によるモータ駆動装置を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施例によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2の実施例によるモータ駆動装置を動作させた場合の各モータ部消費電力およびその総和を例示する図である。
【図7】本発明の第3の実施例によるモータ駆動装置を動作させた場合のモータ部の消費電力およびその最大値を例示する図である。
【図8】本発明の第4の実施例によるモータ駆動装置を示すブロック図である。
【図9】本発明の第4の実施例によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
【図10】本発明の第4の実施例によるモータ駆動装置を動作させた場合の直流変換部消費電力最大出力の確定を説明する図であって、モータ部の消費電力および直流変換部消費電力を例示する図である。
【図11】本発明の第4の実施例によるモータ駆動装置を動作させた場合の直流変換部消費電力最大出力の確定を説明する図であって、回生電力分の影響の有無を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下で説明する本発明の第1〜第4の実施例によるモータ駆動装置には、工作機械の送り軸および主軸を駆動する制御軸数分のモータ部が接続される。各実施例では、工作機械の制御軸数を3個としたので3個のモータ部が設けられるが、これらの個数はあくまでも一例であり、本発明を限定するものではない。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。
【0027】
図1は、本発明の第1の実施例によるモータ駆動装置を示すブロック図である。図示の例では、工作機械の制御軸数を3個としたので3個のモータ部2−1、2−2および2−3が設けられる。
【0028】
本発明の第1の実施例によれば、入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部11と、直流変換部11から出力された直流を、各モータ部2−1、2−2および2−3の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部12−1、12−2および12−3と、を有するモータ駆動装置1は、直流変換部11への入力電圧および入力電流から直流変換部消費電力を所定の時間ごとに計算する直流変換部消費電力計算部21と、これら所定の時間ごとに計算された直流変換部消費電力の中から最大値を抽出し、これを直流変換部最大出力として出力する直流変換部最大出力計算部22と、を備える。
【0029】
直流変換部消費電力計算部21および直流変換部最大出力計算部22は、入力されたデータに対して演算処理を実行する処理装置からなり、例えばマイクロコンピュータや汎用コンピュータなどで実現すればよい。またあるいは、モータ部2−1、2−2および2−3のモータ回転の位置、速度もしくはトルクについての指令値を生成する制御部(図示せず)もしくはモータ駆動装置の動作全体を統括制御する統括制御部(図示せず)のCPUにその機能を持たせてもよい。
【0030】
また、本発明の第1の実施例によるモータ駆動装置1は、直流変換部消費電力計算部21および直流変換部最大出力計算部22による計算処理の結果もしくは計算中の所望のデータを表示する表示部101をさらに備えるのが好ましい。表示部101は周知のディスプレイ装置でよい。
【0031】
電流検出回路102は、三相の商用交流電源3から直流変換部11へ入力される入力電流を検出する。検出された直流変換部11への入力電流の値は、直流変換部消費電力計算部21へ入力される。
【0032】
電圧検出回路103は、三相の商用交流電源3により直流変換部11の入力に印加される入力電圧を検出する。検出された直流変換部11への入力電圧の値は、直流変換部消費電力計算部21へ入力される。
【0033】
図2は、本発明の第1の実施例によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0034】
ステップS101において、モータ駆動装置1の初期設定が実行される。具体的にはモータ駆動装置1内のタイマの時刻が初期値としてゼロ(0)に設定され、直流変換部消費電力の最大値Pmaxが初期値としてゼロ(0)に設定される。なお、最大値Pmaxは直流変換部最大出力計算部22もしくはこれが内蔵されるモータ駆動装置1が有する所定のメモリに格納される。
【0035】
所望の動作条件もしくは動作状況の下にてモータ部2−1、2−2および2−3をモータ駆動装置1で駆動させている状態において、下記ステップS102〜S108の処理が実行される。
【0036】
ステップS102では、電圧検出回路102は、時刻tにおける直流変換部11への入力電圧の値Vc(t)を取得する。取得された入力電圧値Vc(t)は、直流変換部消費電力計算部21に入力される。入力電圧値Vc(t)は、後述するように所定のサンプリング周期で取得される。
【0037】
ステップS103において、電流検出回路103は、時刻tにおける直流変換部11への入力電流の値Ic(t)を取得する。取得された入力電流値Ic(t)は、直流変換部消費電力計算部21に入力される。入力電流値Ic(t)は、後述するように所定のサンプリング周期で取得される。
【0038】
なお、図2では、ステップS102における電圧検出回路102による入力電圧値Vc(t)の取得、ステップS103における電流検出回路103による入力電流値Vc(t)の取得、の順に記載したが、実際はこれら入力電圧値Vc(t)および入力電流値Ic(t)の取得は同じ時刻tで取得されるべきものである。
【0039】
ステップS104では、直流変換部消費電力計算部21は、時刻tにおける入力電圧値Vc(t)および入力電流値Vc(t)から、直流変換部消費電力の値Pc(t)を計算する。
【0040】
なお、ステップS104においては、直流変換部消費電力計算部21は、例えば、入力電圧値Vc(t)および入力電流値Vc(t)についてのベクトル空間上の値の内積を計算することで直流変換部消費電力Pc(t)を算出する。
【0041】
【数1】

【0042】
このとき、直流変換部消費電力Pc(t)は、内積を用いて式1に従って算出される。
【0043】
【数2】

【0044】
図2のステップS105では、直流変換部最大出力計算部22は、ステップS104で算出された直流変換部消費電力値Pc(t)が、既にメモリに格納されている最大値Pmaxよりも大きいか否かを判定する。直流変換部消費電力値Pc(t)が最大値Pmaxよりも大きい場合はステップS106へ進み、直流変換部消費電力値Pc(t)が最大値Pmaxよりも小さい場合はステップS107へ進む。
【0045】
ステップS106では、直流変換部最大出力計算部22は、既にメモリに格納されている最大値Pmaxを、ステップS104で算出された直流変換部消費電力値Pc(t)に置き換える。
【0046】
ステップS107では、モータ駆動装置1内のタイマが終了時刻を示しているか否かを判定する。終了時刻ではない場合はステップS108へ進み、終了時刻である場合は処理を終了する。
【0047】
ステップS108は、モータ駆動装置1内のタイマがΔtだけインクリメントする。ここで、Δtは、上述の電流検出回路102および電圧検出回路103のサンプリング周期に相当するものである。その後、ステップS102へ戻る。
【0048】
モータ駆動装置1内のタイマが終了時刻を示すまで上記ステップS102〜S108の処理を繰り返し実行すると、直流変換部最大出力計算部22により、直流変換部消費電力計算部21が算出した各直流変換部消費電力の中から最終的な最大値が抽出されることになり、本実施例ではこれを直流変換部最大出力Pmaxとして確定する。すなわち、直流変換部消費電力計算部21は、時刻tにおける各直流変換部消費電力値Pc(t)の時系列データを算出し、直流変換部最大出力計算部22は、この時系列データの中から最終的な最大値を抽出し、これを直流変換部最大出力Pmaxとして確定する。なお、本発明の第1の実施例ではさらに、検出された直流変換部11への入力電圧値および入力電流値、直流変換部消費電力計算部21が算出した直流変換部消費電力、ならびに直流変換部最大出力計算部22が算出した直流変換部最大出力Pmaxについて、予め規定された補正パラメータを乗算もしくは加算したりすれば、実際の直流変換部消費電力の最大値よりも大きい直流変換部最大出力が算出される。このようにすれば、直流変換部における電力の供給の安定性がより一層増加する。
【0049】
直流変換部消費電力計算部21が算出した各直流変換部消費電力値Pc(t)の時系列データ、および直流変換部最大出力計算部22により確定された直流変換部最大出力Pmaxは、表示部101によって表示される。したがって、工作機械システムのユーザもしくは設計者は、表示部101に表示された内容を見ることによって、工作機械システムを使用した際に発生し得る消費電力に対応した直流変換部の最大出力をより正確かつ容易に把握することができるので、当該最大出力を有する直流変換部を選択することが容易となる。なお、表示部101はさらに、電圧検出回路102により取得された入力電圧値Vc(t)、および電流検出回路103により取得された入力電流値Ic(t)を表示するようにしてもよい。
【0050】
図3は、本発明の第1の実施例によるモータ駆動装置を動作させた場合の直流変換部の消費電力およびその最大値を例示する図である。図示の例はあくまでも一例であるが、直流変換部消費電力計算部21が算出した直流変換部消費電力値Pc(t)の時系列データが示されており、点Aの時点が直流変換部消費電力値の最大値Pmaxであり、工作機械システムのユーザもしくは設計者は、この最大値Pmaxを最大出力として有するような直流変換部を選定(もしくは設計)すればよい。
【0051】
図4は、本発明の第2の実施例によるモータ駆動装置を示すブロック図である。図示の例では、工作機械の制御軸数を3個としたので3個のモータ部2−1、2−2および2−3が設けられる。
【0052】
本発明の第2の実施例によれば、入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部11と、直流変換部11から出力された直流を、各モータ部2−1、2−2および2−3の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部12−1、12−2および12−3と、を有するモータ駆動装置1は、各モータ部2−1、2−2および2−3へ供給される電圧および電流から各モータ部2−1、2−2および2−3ごとのモータ部消費電力を所定の時間ごとに計算するモータ部消費電力計算部23と、モータ部2−1、2−2および2−3全てのモータ部消費電力の総和であるモータ部総消費電力を上記所定の時間ごとに計算し、これら所定の時間ごとに計算されたモータ部総消費電力の中から最大値を抽出してこれを直流変換部最大出力として出力する直流変換部最大出力計算部24と、を備える。
【0053】
モータ部消費電力計算部23および直流変換部最大出力計算部24は、入力されたデータに対して演算処理を実行する処理装置からなり、例えばマイクロコンピュータや汎用コンピュータなどで実現すればよい。またあるいは、モータ部2−1、2−2および2−3のモータ回転の位置、速度もしくはトルクについての指令値を生成する制御部(図示せず)もしくはモータ駆動装置の動作全体を統括制御する統括制御部(図示せず)のCPUにその機能を持たせてもよい。
【0054】
また、本発明の第2の実施例によるモータ駆動装置1は、モータ部消費電力計算部23および直流変換部最大出力計算部24による計算処理の結果もしくは計算中の所望のデータを表示する表示部101をさらに備えるのが好ましい。表示部101は周知のディスプレイ装置でよい。
【0055】
なお、本発明の第2の実施例によるモータ駆動装置1では、各モータ部2−1、2−2および2−3へ供給される電圧および電流を周知の電圧検出回路および電流検出回路で検出することになるが、これら電圧検出回路および電流検出回路については図4では図面を簡明にするために図示していない。検出された各モータ部2−1、2−2および2−3へ供給される電圧および電流の値は、モータ部消費電力計算部23へ入力される。
【0056】
図5は、本発明の第2の実施例によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0057】
ステップS201において、モータ駆動装置1の初期設定が実行される。具体的にはモータ駆動装置1内のタイマの時刻がゼロ(0)に設定され、直流変換部最大出力計算部24による計算結果である直流変換部消費電力の最大値Pmaxがゼロ(0)に設定される。なお、最大値Pmaxは直流変換部最大出力計算部24もしくはこれが内蔵されるモータ駆動装置1が有する所定のメモリに格納される値である。
【0058】
所望の動作条件もしくは動作状況の下にてモータ部2−1、2−2および2−3をモータ駆動装置1で駆動させている状態において、下記ステップS202〜S212の処理が実行される。
【0059】
ステップS202では、時刻tにおける各モータ部2−1、2−2および2−3への入力電圧の値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)を取得する。ここで、Nmaxはモータ部の個数を示すものであり、図示の例では「Nmax=3」である。取得された入力電圧値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)は、モータ部消費電力計算部23に入力される。なお、入力電圧値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)は、後述するように所定のサンプリング周期で取得される。
【0060】
ステップS203において、時刻tにおける各モータ部2−1、2−2および2−3への入力電流の値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)を取得する。取得された入力電流値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)は、モータ部消費電力計算部23に入力される。なお、入力電流値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)は、後述するように所定のサンプリング周期で取得される。
【0061】
なお、図5では、ステップ202における入力電圧値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)の取得、ステップS203における入力電流値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)の取得、の順に記載したが、実際はこれら入力電圧値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)および入力電流値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)の取得は同じ時刻tで取得されるべきものである。
【0062】
ステップS204では、モータ部消費電力計算部23は、時刻tにおける入力電圧値Vc(t)および入力電流値Vc(t)から、直流変換部消費電力の値Pc(t)を計算する。
【0063】
なお、ステップS204においては、モータ部消費電力計算部23は、例えば、上述の第1の実施例におけるステップS104の直流変換部消費電力計算部21による内積の計算に類似して、式3に示すように、モータ部2−1.2−2および2−3へ供給される入力電圧の値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)および入力電流の値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)についてのベクトル空間上の値の内積を、各モータ部2−1.2−2および2−3ごとに計算することで各モータ部消費電力Pm1(t)、Pm2(t)、・・・、PmNmax(t)を算出する。
【0064】
【数3】

【0065】
またあるいは別のやり方として、ステップS204において、モータ部消費電力計算部23は、検出されたモータ部2−1、2−2もしくは2−3の速度およびトルクを乗算して得られた値に、モータ部2−1、2−2もしくは2−3へ供給される入力電流Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)の平方値とモータ部2−1、2−2もしくは2−3の内部抵抗値とを乗じて得られた値を加算した値を、モータ部ごとに計算することでモータ部消費電力Pm1(t)、Pm2(t)、・・・、PmNmax(t)を算出するようにしてもよい。具体的には、モータ部の速度をv(rad/sec)、トルクをT(Nm)、モータ部の内部抵抗をR(Ω)、モータ部へ供給される入力電流をI(A)とすると、モータ部消費電力Pm(W)は式3で表される。
【0066】
【数4】

【0067】
図5のステップS205では、直流変換部最大出力計算部22は、初期設定として、モータ部2−1、2−2および2−3の総和Psum(t)をゼロ(0)に設定し、モータ部の識別番号nを1に設定する。なお、この処理は上述のステップS202よりも前に実行してもよく、例えば、ステップS201と同時に実行してもよい。なお、総和Psum(t)は直流変換部最大出力計算部24もしくはこれが内蔵されるモータ駆動装置1が有する所定のメモリに格納される。
【0068】
ステップS206〜S208は、直流変換部最大出力計算部22による、モータ部消費電力Pm1(t)、Pm2(t)、・・・、PmNmax(t)の総和を算出するための処理である。すなわち、ステップS207においてモータ部の識別番号nとNmax(本実施例では3)との大小を判定し、モータ部の識別番号nがNmaxよりも小さければステップS208においてnを1つインクリメントした上でステップS206においてメモリに格納されている総和Psum(t)に識別番号nのモータ部の消費電力Pmn(t)を加算し、この結果を新しい総和Psum(t)としてメモリに格納する。一方、モータ部の識別番号nがNmax以上であればステップS209へ進む。
【0069】
ステップS209では、直流変換部最大出力計算部24は、ステップS206で算出されたモータ部消費電力の総和Psum(t)が、既にメモリに格納されている最大値Pmaxよりも大きいか否かを判定する。モータ部消費電力の総和Psum(t)が最大値Pmaxよりも大きい場合はステップS210へ進み、直流変換部消費電力値Pc(t)が最大値Pmaxよりも小さい場合はステップS211へ進む。
【0070】
ステップS210では、直流変換部最大出力計算部24は、既にメモリに格納されている最大値Pmaxを、ステップS206で算出されたモータ部消費電力値Psum(t)に置き換える。
【0071】
ステップS211では、モータ駆動装置1内のタイマが終了時刻を示しているか否かを判定する。終了時刻ではない場合はステップS212へ進み、終了時刻である場合は処理を終了する。
【0072】
ステップS212では、モータ駆動装置1内のタイマがΔtだけインクリメントする。ここで、Δtは、上述のモータ部への入力電圧および入力電流の検出のサンプリング周期に相当するものである。その後、ステップS202へ戻る。
【0073】
モータ駆動装置1内のタイマが終了時刻を示すまで上記ステップS202〜S212の処理を繰り返し実行すると、直流変換部最大出力計算部24により、モータ部総消費電力の中から最終的な最大値Psum(t)が抽出されることになり、本実施例ではこれを直流変換部最大出力Pmaxとして確定する。すなわち、モータ部消費電力計算部23は、時刻tにおける各モータ部消費電力値Pm1(t)、Pm2(t)、・・・、PmNmax(t)の時系列データを算出し、直流変換部最大出力計算部24は、これらモータ部消費電力値の総和であるモータ部総消費電力Psum(t)の時系列データの中から最終的な最大値を抽出し、これを直流変換部最大出力Pmaxとして確定する。なお、本発明の第2の実施例ではさらに、モータ部2−1、2−2および2−3への入力電圧および入力電流、モータ部消費電力計算部23が算出したモータ部消費電力、ならびに直流変換部最大出力計算部22が算出した直流変換部最大出力Pmaxについて、予め規定された補正パラメータを乗算もしくは加算したりすれば、実際の直流変換部消費電力の最大値よりも大きい直流変換部最大出力が算出される。このようにすれば、直流変換部における電力の供給の安定性がより一層増加する。
【0074】
モータ部消費電力計算部23が算出した各モータ部消費電力値Pm1(t)、Pm2(t)、・・・、PmNmax(t)の時系列データ、これらモータ部消費電力値の総和であるモータ部総消費電力Psum(t)の時系列データ、および直流変換部最大出力計算部24により確定された直流変換部最大出力Pmaxは、表示部101によって表示される。したがって、工作機械システムのユーザもしくは設計者は、表示部101に表示された内容を見ることによって、工作機械システムを使用した際に発生し得る消費電力に対応した直流変換部の最大出力をより正確かつ容易に把握することができるので、当該最大出力を有する直流変換部を選択することが容易となる。なお、表示部101はさらに、モータ部2−1、2−2および2−3への入力電流値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)、および、モータ部2−1、2−2および2−3への入力電圧値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)を表示するようにしてもよい。
【0075】
図6は、本発明の第2の実施例によるモータ駆動装置を動作させた場合の各モータ部消費電力およびその総和を例示する図である。図示の例はあくまでも一例であるが、モータ部消費電力計算部23が算出した各モータ部消費電力値Pm1(t)、Pm2(t)およびPm3(t)ならびにモータ部総消費電力Psum(t)の時系列データが示されており、点Aの時点がモータ部総消費電力Psum(t)の最大値であり、工作機械システムのユーザもしくは設計者は、この最大値を最大出力Pmaxとして有するような直流変換部を選定(もしくは設計)すればよい。
【0076】
上述の第2の実施例では、モータ部消費電力計算部23が算出した各モータ部消費電力値Pm1(t)、Pm2(t)、・・・、PmNmax(t)を単純に加算して総和Psum(t)を算出しているので、モータ部2−1、2−2および2−3から商用電源3側へ回生される電力分が含まれる。例えば、図6のグラフで言えば、モータ部消費電力値Pm1(t)、Pm2(t)およびPm3(t)の負の電力(すなわち0ワット以下の電力)が、モータ部2−1、2−2および2−3から商用交流電源3側へ流出する回生電力分である。
【0077】
これに対し、次に説明する本発明の第3の実施例によるモータ駆動装置1は、直流変換部の最大出力の決定の際に、上記回生電力が含まれないようにしたものである。本発明の第3の実施例によるモータ駆動装置1のブロック図は、上述の第2の実施例によるモータ駆動装置1を示すブロック図である図4と同様である。
【0078】
本発明の第3の実施例によれば、入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部11と、直流変換部11から出力された直流を、各モータ部2−1、2−2および2−3の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部12−1、12−2および12−3と、を有するモータ駆動装置1は、各モータ部2−1、2−2および2−3へ供給される電圧および電流から各モータ部2−1、2−2および2−3ごとのモータ部消費電力を所定の時間ごとに計算するモータ部消費電力計算部23と、モータ部消費電力のうちモータ部2−1、2−2および2−3に流入する電力分のみを加算することで得られたモータ部総消費電力を所定の時間ごとに計算し、これら所定の時間ごとに計算されたモータ部総消費電力の中から最大値を抽出してこれを直流変換部最大出力として出力する直流変換部最大出力計算部24と、を備える。
【0079】
すなわち、本発明の第3の実施例は、直流変換部最大出力計算部24が、モータ部総消費電力を、各モータ部消費電力のうち各モータ部2−1、2−2および2−3に流入する電力分のみを上記所定の時間別に加算することで算出すること以外は、上述の第2の実施例と同様であるので、これらについては説明を省略する。
【0080】
図7は、本発明の第3の実施例によるモータ駆動装置を動作させた場合のモータ部の消費電力およびその最大値を例示する図である。図7には、図6に示した各モータ部消費電力値のうち各モータ部2−1、2−2および2−3から、商用交流電源3側へ流出する回生電力分(すなわち0ワット以下の電力)を削除した波形Pm1(t)、Pm2(t)およびPm3(t)が示されている。モータ部総消費電力Psum(t)は、各モータ部消費電力のうち各モータ部2−1、2−2および2−3に流入する電力分Pm1(t)、Pm2(t)およびPm3(t)のみを上記所定の時間別に加算することにより算出される。したがって、回生分は含まれない。また、例えば点Aの時点付近では、各モータ部2−1、2−2および2−3に流入する電力分Pm1(t)、Pm2(t)およびPm3(t)のみであるので、図6に示されたものと波形データは変わらない。しかしながら、例えば点Bの時点付近では、モータ部2−3が回生動作をしているので(図6)、モータ部2−3の消費電力であるPm3(t)は負(すなわち0ワット以下)となっている。このため、直流変換部最大出力計算部24による計算結果ではPsum(t)は点B付近で最大値をとっており、図6とは違う結果になっている。工作機械システムのユーザもしくは設計者は、この最大値Pmaxを最大出力として有するような直流変換部を選定(もしくは設計)すればよい。
【0081】
図8は、本発明の第4の実施例によるモータ駆動装置を示すブロック図である。図示の例では、工作機械の制御軸数を3個としたので3個のモータ部2−1、2−2および2−3が設けられる。
【0082】
本発明の第4の実施例によれば、入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部11と、直流変換部11から出力された直流を、各モータ部2−1、2−2および2−3の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部12−1、12−2および12−3と、を有するモータ駆動装置1は、直流変換部11への入力電圧および入力電流から直流変換部消費電力を所定の時間ごとに計算する直流変換部消費電力計算部21と、各モータ部2−1、2−2および2−3へ供給される電圧および電流から各モータ部2−1、2−2および2−3ごとのモータ部消費電力を上記所定の時間ごとに計算するモータ部消費電力計算部23と、モータ部消費電力のうちモータ部2−1、2−2および2−3から流出する電力分の絶対値を直流変換部消費電力に加算して得られた値を所定の時間ごとに計算し、所定の時間ごとに計算された値の中から最大値を抽出してこれを直流変換部最大出力として出力する直流変換部最大出力計算部25と、を備える。
【0083】
直流変換部消費電力計算部21、モータ部消費電力計算部23および直流変換部最大出力計算部25は、入力されたデータに対して演算処理を実行する処理装置からなり、例えばマイクロコンピュータや汎用コンピュータなどで実現すればよい。またあるいは、モータ部2−1、2−2および2−3のモータ回転の位置、速度もしくはトルクについての指令値を生成する制御部(図示せず)もしくはモータ駆動装置の動作全体を統括制御する統括制御部(図示せず)のCPUにその機能を持たせてもよい。
【0084】
また、本発明の第4の実施例によるモータ駆動装置1は、直流変換部消費電力計算部21、モータ部消費電力計算部23および直流変換部最大出力計算部25による計算処理の結果もしくは計算中の所望のデータを表示する表示部101をさらに備えるのが好ましい。表示部101は周知のディスプレイ装置でよい。
【0085】
電圧検出回路102は、三相の商用交流電源3により直流変換部11の入力に印加される入力電圧を検出する。検出された直流変換部11への入力電圧の値は、直流変換部消費電力計算部21へ入力される。
【0086】
電流検出回路103は、三相の商用交流電源3から直流変換部11へ入力される入力電流を検出する。検出された直流変換部11への入力電流の値は、直流変換部消費電力計算部21へ入力される。
【0087】
なお、本発明の第4の実施例によるモータ駆動装置1では、上述の第2の実施例の場合と同様、各モータ部2−1、2−2および2−3へ供給される電圧および電流を周知の電圧検出回路および電流検出回路で検出することになるが、これら電圧検出回路および電流検出回路については図8では図面を簡明にするために図示していない。検出された各モータ部2−1、2−2および2−3へ供給される電圧および電流の値は、モータ部消費電力計算部23へ入力される。
【0088】
図9は、本発明の第4の実施例によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0089】
ステップS301において、モータ駆動装置1の初期設定が実行される。具体的にはモータ駆動装置1内のタイマの時刻がゼロ(0)に初期値として設定され、直流変換部消費電力の最大値Pmaxがゼロ(0)に初期値として設定される。なお、最大値Pmaxは直流変換部最大出力計算部25もしくはこれが内蔵されるモータ駆動装置1が有する所定のメモリに格納される。
【0090】
所望の動作条件もしくは動作状況の下にてモータ部2−1、2−2および2−3をモータ駆動装置1で駆動させている状態において、下記ステップS302〜S316の処理が実行される。
【0091】
ステップS302では、電圧検出回路102は、時刻tにおける直流変換部11への入力電圧の値Vc(t)を取得する。取得された入力電圧値Vc(t)は、直流変換部消費電力計算部21に入力される。なお、入力電圧値Vc(t)は、後述するように所定のサンプリング周期で取得される。
【0092】
ステップS303において、電圧検出回路103は、時刻tにおける直流変換部11への入力電流の値Ic(t)を取得する。取得された入力電流値Ic(t)は、直流変換部消費電力計算部21に入力される。なお、入力電流値Ic(t)は、後述するように所定のサンプリング周期で取得される。
【0093】
なお、図9では、ステップS302における電圧検出回路102による入力電圧値Vc(t)の取得、ステップS303における電流検出回路103による入力電流値Vc(t)の取得、の順に記載したが、実際はこれら入力電圧値Vc(t)および入力電流値Ic(t)の取得は同じ時刻tで取得されるべきものである。
【0094】
ステップS304では、直流変換部消費電力計算部21は、時刻tにおける入力電圧値Vc(t)および入力電流値Vc(t)から、直流変換部消費電力の値Pc(t)を計算する。
【0095】
なお、ステップS304においては、直流変換部消費電力計算部21は、上述の第1の実施例のように、例えば入力電圧値Vc(t)および入力電流値Vc(t)についてのベクトル空間上の値の内積を計算することで直流変換部消費電力Pc(t)を算出する。この場合、具体的には、上述の第1の実施例において説明した式1が適用される。
【0096】
ステップS305では、時刻tにおける各モータ部2−1、2−2および2−3への入力電圧の値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)を取得する。ここで、Nmaxはモータ部の個数を示すものであり、図示の例ではNmaxは「3」である。取得された入力電圧値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)は、モータ部消費電力計算部23に入力される。なお、入力電圧値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)は、後述するように所定のサンプリング周期で取得される。
【0097】
ステップS306において、時刻tにおける各モータ部2−1、2−2および2−3への入力電流の値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)を取得する。取得された入力電流値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)は、モータ部消費電力計算部23に入力される。なお、入力電流値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)は、後述するように所定のサンプリング周期で取得される。
【0098】
なお、図9では、ステップ305における入力電圧値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)の取得、ステップS306における入力電流値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)の取得、の順に記載したが、実際はこれら入力電圧値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)および入力電流値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)の取得は同じ時刻tで取得されるべきものである。
【0099】
ステップS307では、モータ部消費電力計算部23は、時刻tにおける入力電圧値Vc(t)および入力電流値Vc(t)から、直流変換部消費電力の値Pc(t)を計算する。
【0100】
なお、ステップS307においては、モータ部消費電力計算部23は、例えば、上述の第2の実施例におけるステップS204のモータ部消費電力計算部23による内積の計算と同様、式2を適用して、モータ部2−1.2−2および2−3へ供給される入力電圧の値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)および入力電流の値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)についてのベクトル空間上の値の内積を、各モータ部2−1.2−2および2−3ごとに計算することで各モータ部消費電力Pm1(t)、Pm2(t)、・・・、PmNmax(t)を算出する。またあるいは、式3を適用して、モータ部消費電力計算部23は、検出されたモータ部2−1、2−2もしくは2−3の速度およびトルクを乗算して得られた値に、モータ部2−1、2−2もしくは2−3へ供給される入力電流Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)の平方値とモータ部2−1、2−2もしくは2−3の内部抵抗値とを乗じて得られた値を加算した値を、モータ部ごとに計算することでモータ部消費電力Pm1(t)、Pm2(t)、・・・、PmNmax(t)を算出するようにしてもよい。
【0101】
ステップS308では、直流変換部最大出力計算部25は、初期設定として、直流変換部消費電力値Pc’(t)を直流変換部消費電力値Pc(t)に設定し、モータ部の識別番号nを1に設定する。直流変換部消費電力値Pc’(t)の詳細については後述するが、直流変換部最大出力計算部25もしくはこれが内蔵されるモータ駆動装置1が有する所定のメモリに格納される。
【0102】
ステップS308〜S312は、直流変換部最大出力計算部25による、直流変換部消費電力値Pc’(t)を算出するための処理である。直流変換部消費電力値Pc’(t)は、各モータ部消費電力のうち各モータ部2−1、2−2および2−3から流出する電力分の絶対値を各直流変換部消費電力に上記所定の時間別に加算して得られた値である。具体的には、次のようにして算出される。すなわち、直流変換部最大出力計算部25は、ステップS309において、識別番号n(ただし、n=1、2、・・・、Nmax)のモータ部についてのモータ部消費電力Pmn(t)が負(すなわち0ワット以下)であるか否かを判定する。モータ部消費電力が、負である場合にはステップS310へ進み、正である場合にはステップS311へ進む。ステップS310では、メモリに格納されている直流変換部消費電力値Pc’(t)からモータ部消費電力Pmn(t)を減算し、これを新しい直流変換部消費電力値Pc’(t)としてメモリに格納する。ステップS311においてモータ部の識別番号nがNmax(本実施例では3)よりも大きいか否かを判定し、モータ部の識別番号nがNmaxよりも小さければステップS312においてnを1つインクリメントした上でステップS309へ戻り、モータ部の識別番号nがNmax以上ならばステップS313へ進む。
【0103】
ステップS313では、直流変換部最大出力計算部25は、ステップS309〜S312を経て算出された直流変換部消費電力値Pc’(t)が、既にメモリに格納されている最大値Pmaxよりも大きいか否かを判定する。直流変換部消費電力値Pc’(t)が最大値Pmaxよりも大きい場合はステップS314へ進み、直流変換部消費電力値Pc’(t)が最大値Pmaxよりも小さい場合はステップS315へ進む。
【0104】
ステップS314では、直流変換部最大出力計算部25は、既にメモリに格納されている最大値Pmaxを、ステップS309〜S312を経て算出された直流変換部消費電力値Pc’(t)に置き換える。
【0105】
ステップS315では、モータ駆動装置1内のタイマが終了時刻を示しているか否かを判定する。終了時刻ではない場合はステップS316へ進み、終了時刻である場合は処理を終了する。
【0106】
ステップS316は、モータ駆動装置1内のタイマがΔtだけインクリメントする。ここで、Δtは、上述のモータ部への入力電圧および入力電流の検出のサンプリング周期に相当するものである。その後、ステップS302へ戻る。
【0107】
モータ駆動装置1内のタイマが終了時刻を示すまで上記ステップS302〜S316の処理を繰り返し実行すると、直流変換部最大出力計算部25により、直流変換部消費電力値Pc’(t)の中から最終的な最大値が抽出されることになり、本実施例ではこれを直流変換部最大出力Pmaxとして確定する。すなわち、モータ部消費電力計算部25は、各モータ部消費電力のうち各モータ部2−1、2−2および2−3から流出する電力分の絶対値を各直流変換部消費電力に上記所定の時間別に加算して得られた値である直流変換部消費電力値Pc’(t)の時系列データの中から最大値を抽出し、これを直流変換部最大出力Pmaxとして確定する。なお、本発明の第4の実施例はさらに、直流変圧部11への入力電圧および入力電流もしくはモータ部2−1、2−2および2−3への入力電圧および入力電流あるいはこれら両方について、予め規定された補正パラメータを乗算もしくは加算したりすることで、直流変換部消費電力の最大値よりもさらに大きく余裕を持った直流変換部最大出力を確定することができる。このようにすれば、直流変換部における電力の供給の安定性がより一層増加する。
【0108】
直流変換部消費電力計算部21が算出した各直流変換部消費電力値Pc(t)の時系列データ、モータ部消費電力計算部23が算出した各モータ部消費電力値Pm1(t)、Pm2(t)、・・・、PmNmax(t)の時系列データ、これらモータ部消費電力値の総和であるモータ部総消費電力Psum(t)の時系列データ、直流変換部最大出力計算部25により算出された直流変換部消費電力値Pc’(t)の時系列データ、および直流変換部最大出力計算部25により確定された直流変換部最大出力Pmaxは、表示部101によって表示される。したがって、工作機械システムのユーザもしくは設計者は、表示部101に表示された内容を見ることによって、工作機械システムを使用した際に発生し得る消費電力に対応した直流変換部の最大出力をより正確かつ容易に把握することができるので、当該最大出力を有する直流変換部を選択することが容易となる。なお、表示部101はさらに、モータ部2−1、2−2および2−3への入力電流値Im1(t)、Im2(t)、・・・、ImNmax(t)、および、モータ部2−1、2−2および2−3への入力電圧値Vm1(t)、Vm2(t)、・・・、VmNmax(t)を表示するようにしてもよい。
【0109】
図10および11は、本発明の第4の実施例によるモータ駆動装置を動作させた場合の直流変換部消費電力最大出力の確定を説明する図であって、このうち図10はモータ部の消費電力および直流変換部消費電力を例示する図であり、図11は回生電力分の影響の有無を説明する図である。
【0110】
図10には、各モータ部消費電力値Pm1(t)、Pm2(t)およびPm3(t)ならびにモータ部総消費電力Psum(t)の時系列データ、ならびに、回生電力分の影響を含めず算出された直流変換部およびモータ部消費電力値Pc(t)の時系列データが示されている。また、図11には、回生電力分の影響を含めず算出された直流変換部およびモータ部消費電力値Pc(t)の時系列データ、および回生電力分の影響を含めて算出された直流変換部およびモータ部消費電力値Pc’(t)の時系列データが示されている。回生電力分の影響を含めず直流変換部およびモータ部消費電力値Pc(t)を算出した場合、点Aの時点が直流変換部最大出力Pmaxとなる。一方、本発明の第4の実施例のように回生電力分の影響を含めて直流変換部およびモータ部消費電力値Pc’(t)を算出した場合、点Bの時点が直流変換部最大出力Pmaxとなる。回生電力分の有無の観点で直流変換部最大出力Pmaxの大きさを比較すると、点Bの時点付近では、モータ部2−3が回生動作をしているので(図10)、モータ部2−3の消費電力であるPm3(t)は負(すなわち0ワット以下)となっている。このため、直流変換部最大出力計算部25による計算結果ではPc’(t)は点B付近で最大値をとり、回生電力分を考慮しない場合の直流変換部最大出力Pmaxである点Aにおける値よりも大きくなる。
【0111】
このように各モータの回生動作のタイミングの組み合わせ次第によっては、直流変換部最大出力Pmax(点B)は、回生動作を考慮しない場合に確定した直流変換部最大出力Pmax(点A)よりも大きなものとなる。したがって、工作機械システムのユーザもしくは設計者は、本発明の第4の実施例のように回生電力分の影響を含めて直流変換部およびモータ部消費電力値Pc’(t)を算出すれば、直流変換部における消費電力として計算された値から回生動作中のモータ部における消費電力を減算して得られた値に基づいて直流変換部の最大出力を決定するので、実際の使用で発生し得る消費電力に対応した直流変換部の最大出力をより一層正確かつ容易に決定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、工作機械の駆動軸ごとにモータ部を有する工作機械システムにおいて、これらモータ部を、入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部と、直流変換部から出力された直流を各モータ部の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部と、を有するモータ駆動装置で駆動する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0113】
1 モータ駆動装置
2−1、2−2,2−3 モータ部
3 商用交流電源
11 直流変換部
12−1、12−2、12−3 交流変換部
21 直流変換部消費電力計算部
22 直流変換部最大出力計算部
23 モータ部消費電力計算部
24、25 直流変換部最大出力計算部
101 表示部
102 電流検出回路
103 電圧検出回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部と、
前記直流変換部から出力された直流を、複数のモータ部の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部と、
前記直流変換部への入力電圧および入力電流から直流変換部消費電力を所定の時間ごとに計算する直流変換部消費電力計算部と、
前記所定の時間ごとに計算された前記直流変換部消費電力の中から最大値を抽出し、これを直流変換部最大出力として出力する直流変換部最大出力計算部と、
を備えることを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
入力された交流を直流に変換する単一の直流変換部と、
前記直流変換部から出力された直流を、複数のモータ部の駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する複数の交流変換部と、
前記モータ部へ供給される電圧および電流からモータ部消費電力を所定の時間ごとに計算するモータ部消費電力計算部と、
前記モータ部全ての前記モータ部消費電力の総和であるモータ部総消費電力を前記所定の時間ごとに計算し、前記所定の時間ごとに計算されたモータ部総消費電力の中から最大値を抽出してこれを直流変換部最大出力として出力する直流変換部最大出力計算部と、
を備えることを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項3】
前記直流変換部最大出力計算部は、前記モータ部消費電力のうち前記モータ部に流入する電力分のみの総和であるモータ部総消費電力を前記所定の時間ごとに計算し、前記所定の時間ごとに計算されたモータ部総消費電力の中から最大値を抽出してこれを直流変換部最大出力として出力する請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記モータ駆動装置は、前記直流変換部への入力電圧および入力電流から直流変換部消費電力を所定の時間ごとに計算する直流変換部消費電力計算部をさらに備え、
前記直流変換部最大出力計算部は、前記モータ部消費電力のうち前記モータ部から流出する電力分の絶対値を前記直流変換部消費電力に加算して得られた値を前記所定の時間ごとに計算し、前記所定の時間ごとに計算された値の中から最大値を抽出してこれを直流変換部最大出力として出力する請求項3に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記直流変換部消費電力計算部は、前記入力電圧および前記入力電流についてのベクトル空間上の値の内積を計算することで前記直流変換部消費電力を算出する請求項1または4に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記モータ部消費電力計算部は、前記モータ部へ供給される電圧および電流についてのベクトル空間上の値の内積を計算することで前記モータ部消費電力を算出する請求項2〜4のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記モータ部消費電力計算部は、検出された前記モータ部の速度およびトルクを乗算して得られた値に、前記モータ部へ供給される電流の平方値と前記モータ部の内部抵抗値とを乗じて得られた値を加算した値を計算することで前記モータ部消費電力を算出する請求項2〜4のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項8】
前記直流変換部消費電力計算部は、計算された前記直流変換部消費電力を、補正パラメータを用いて補正して出力する請求項1、4または5のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項9】
前記モータ部消費電力計算部は、計算された前記モータ部消費電力を、補正パラメータを用いて補正して出力する請求項2〜4、6または7のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項10】
前記直流変換部最大出力計算部は、計算された前記直流変換部最大出力を、補正パラメータを用いて補正して出力する請求項1〜4のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項11】
前記直流変換部消費電力計算部、前記直流変換部最大出力計算部、もしくは前記モータ部消費電力計算部による計算処理の結果もしくは計算中の所望のデータを表示する表示部をさらに備える請求項1〜10のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−253892(P2012−253892A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124218(P2011−124218)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】