説明

直流機器における地絡事故の検出装置

【課題】地絡の検出が確実に行われ、高抵抗地絡時にも確実な地絡検出が可能となる遮断器における地絡事故の検出装置を提供する。
【解決手段】接地された配電盤1と、
配電盤1と絶縁するように配電盤1内に配設され、外筺を有した直流高速度遮断器4と、
直流高速度遮断器4の外筺と大地との間を結ぶ専用接地線21と、
専用接地線21を流れる地絡電流を検知する地絡電流検出用CT14と、を備えた直流機器における地絡事故の検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流式電気鉄道のき電系統において、変電所内の直流機器の地絡検出に関するものである。
【背景技術】
【0002】
はじめに、直流電気鉄道用変電所(以下、変電所と称す)での地絡事故の例を図2を用いて説明する。図2はき電系統を表しており、整流器用変圧器101、整流器102、直流高速度遮断器(HSCB)103a(54P),103b(54F),103c(54F)および直流地絡過電圧継電器106(64P)は変電所内に配置されている。また、整流器用変圧器101により、発電所から送電された交流高電圧を降圧し、整流器102により、この降圧された交流電圧を直流電圧に変換し、直流高速度遮断器103a,103cを介してき電線104に送電され、電気車107に所定の電圧が印加される。また、直流地絡過電圧継電器106は、地絡により生じる電圧を検出するためのものである。
【0003】
ここで、直流高速度遮断器103aは整流器102用のものであり、直流高速度遮断器103b,103cはき電線用のものである。なお、直流高速度遮断器103bについては他のセクションのき電線に接続されているが、図示を省略している。
【0004】
この変電所で用いられる機器の一つである直流高速度遮断器は、可動部が多いこと、電流遮断によりアークが発生してアークにより地絡にいたること、および小電流遮断ができない場合があること等により、変電所内での地絡故障の原因となる事が多い。
【0005】
図2において、直流高速度遮断器103cの1次側で地絡事故が発生すると、整流器102→直流高速度遮断器103a→地絡点→接地抵抗→レール105→整流器102の回路を地絡電流が流れる。また、この接地抵抗の値は変電所A種接地抵抗の値であり、5Ω以下が一般的である。このため、一般的な1500Vのき電系統では、地絡電流は1500V/5Ω=300A程度となる。直流高速度遮断器103aおよび故障選択継電器の過電流検出は数千Aとなっているため、上記の電流では過電流検出が行われないことがある。
【0006】
なお、直流高速度遮断器103aの過電流保護の設定は整流器102の容量により決まり、整流器102の容量が3000kWの場合、直流高速度遮断器103aの設定は6000Aが一般的である。
【0007】
このため、変電所での地絡事故検出は、直流地絡過電圧継電器(64P)を用いて、レールと大地間との電圧を検出する過電圧検出方式が採用されている。
【0008】
この過電圧検出方式による問題点を、図2と図2における地絡事故時の等価回路である図3とを用いて説明する。
<1.地絡事故点抵抗が大きいと、直流地絡過電圧継電器で電圧を検出できない場合がある>
図3を用いて説明する。直流地絡過電圧継電器106が検出する電圧は、変電所構内ではA種接地抵抗111と地絡電流Isとにより決定される。一般に1500Vのき電系統では直流地絡過電圧継電器は500Vに設定されている。今、高抵抗地絡が発生し、地絡点抵抗110を20Ω、A種接地抵抗111を5Ωとすると、地絡電流Is=1500/(5+20)=60A、直流地絡過電圧継電器106の検知電圧=5×60=300Vとなり、直流地絡過電圧継電器106が動作しないこととなる。
<2.地絡事故が発生した際、変電所構内か構外かの区別がつかない場合がある>
過電圧検出方式では、変電所構外の事故はフィーダ遮断器で選択遮断を行うことで影響を受ける負荷への送電を停止させ、変電所構内の事故は地絡を検出した直流地絡過電圧継電器の信号に基づいて変電所を停止させる。しかし、変電所構外の事故でも直流地絡過電圧継電器が動作し変電所停止となることがある。これについて図2を用いて説明する。
【0009】
図2において、外線側(直流高速度遮断器103cよりき電線104側)で地絡事故が発生した場合には、図3のA種接地抵抗はレールと大地間の抵抗となる。この場合は地絡電流が大きいため、直流高速度遮断器103cを流れる過電流で事故検出を行い、直流高速度遮断器103cを遮断する必要があるが、その地絡電流は、直流地絡過電圧継電器106に電圧を検出させることになるため、状況によっては直流地絡過電圧継電器106も動作する。したがって、変電所構外の事故時に直流地絡過電圧継電器106も動作すると、地絡事故の発生場所が変電所構内なのか構外なのかの区別がつかなくなってしまう。
【0010】
このような問題点のある過電圧検出方式に対し、過電流検出により地絡事故を検出するものが、例えば特許文献1に開示されている。
【0011】
なお、従来の一般的なHSCBの構造を図4に示す。図4のものは、配電盤1、その前面扉2および背面扉3、直流高速度遮断器4、引出装置5、接地導体6、接地金具7、引出装置取付ボルト8、接地バー9、配電盤接地線10、ならびに専用配線11を備えている。
【0012】
配電盤1は大地上に配設され、前面扉2および背面扉3を備え、直流高速度遮断器4および図示しない直流断路器等を収納している。
【0013】
直流高速度遮断器4は、主回路の地絡時には高速で地絡電流を遮断するものであり、例えば、保持電源を必要としないため直流電源の容量を軽減できる、直流電源の変動で目盛りが変化しない、等の特徴を有する機械保持式のものが用いられる。通常、遮断電流は数千Aである。なお、直流高速度遮断器4を流れた電流は、例えば図2のき電線104を含む主回路導体へ流れる。
【0014】
引出装置5は、収納される引出形の直流高速度遮断器4の挿入・引出し操作を行うための装置であり、導電性のものである。
【0015】
接地導体6は、引出装置5の台座の上面に設けられ、接地金具7に接触するようになっている。
【0016】
接地金具7は、直流高速度遮断器4の外筺に取り付けられ、接地導体6と接触するようになっている。
【0017】
引出装置取付ボルト8は、大地上に設置された配電盤1と引出装置5とを固定するためのものである。
【0018】
接地バー9の一端は、大地と接触しており、他端に接続される機器を接地させるためのものである。
【0019】
配電盤接地線10は、配電盤1と接地バー9との間を接続し、配電盤1を接地させるためのものである。
【0020】
専用配線11は、接地導体6と接地バー9との間を接続し、接地導体6および接地金具7を介して直流高速度遮断器4(HSCB本体)を接地させるためのものである。ただし、図4のものにおいては必ず取り付けられているわけではない。
【0021】
このように、直流高速度遮断器4の外筺には接地金具7が取り付けられており、この接地金具7が導電性の引出装置5に設けた接地導体6と接触し、引出装置5が引出装置取付ボルト8により配電盤1に固定され、配電盤接地線10(または専用配線11)および接地バー9を介することで、直流高速度遮断器4の外筺は接地されている。
【特許文献1】特開2004−194471号公報(段落[0017]〜[0020]、図4等)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
この特許文献1のものは、実施形態3に記載されているように、筺体を遮断器単位で電気的に分離することで各遮断器も電気的に分離している。そして、筺体ごとに接地線を個別に敷設し、電気的に分離された遮断器ごとに接地線に流れる地絡電流を検出するようになっている。
【0023】
しかし、地絡電流は遮断器ごとに接地線に流れる以外に、アンカーボルトから大地へ流れる経路等、筺体とアース間の様々な経路を流れる。したがって、接地線に流れる電流が小さくなり電流検出計の整定値も小さくする必要があるが、整定値を小さくすると誤動作が起こりやすくなるという問題がある。
【0024】
本発明は、前記課題に基づいてなされたものであり、地絡の検出が確実に行われ、高抵抗地絡時にも確実な地絡検出が可能となる直流機器における地絡事故の検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、前記課題の解決を図るために、接地された筺体と、前記筺体と絶縁するように前記筺体内に配設され、外筺を有した直流回路用の直流機器と、前記直流機器の外筺と大地との間を結ぶ接地線と、前記接地線を流れる地絡電流を検知する電流検知手段と、を備えたことを特徴とする。
【0026】
また、前記直流機器は、絶縁物を介して前記筺体と絶縁されたことを特徴とする。
【0027】
また、前記接地線は、一の接地線のみからなることを特徴とする。
【0028】
上記構成によれば、筺体から絶縁された直流機器の外筺から接地線を介して流れる地絡電流を検知することで、地絡電流が接地線以外を流れないので、地絡の検出が確実に行われ、高抵抗地絡時にも確実な地絡検出が可能となり、変電所構外の事故で誤動作を生じることがない。
【0029】
また、前記直流機器は、直流高速度遮断器であることを特徴とする。
【0030】
上記構成によれば、直流機器として直流高速度遮断器を用いることで、1次側、2次側のいずれにおいても地絡電流が接地線以外を流れないので、地絡の検出が確実に行われる。
【発明の効果】
【0031】
請求項1〜3の発明によれば、筺体から絶縁された直流機器の外筺から接地線を介して流れる地絡電流を検知することで、地絡電流が接地線以外を流れないので、地絡の検出が確実に行われ、高抵抗地絡時にも確実な地絡検出が可能となり、変電所構外の事故で誤動作を生じることがない。また、構外地絡時の影響を受けず、誤動作を生じることがない。
【0032】
請求項4の発明によれば、直流機器として直流高速度遮断器を用いることで、1次側、2次側のいずれにおいても地絡電流が接地線以外を流れないので、地絡の検出が確実に行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態の直流機器における地絡事故の検出装置を図面等に基づいて詳細に説明する。
【0034】
図1は本発明の実施の形態における構成図である。図4のものと同一のものには同一の符号を付し説明を省略する。図4のものとの相違点は、配電盤1と引出装置5との間に絶縁物12を設けていること、前記引出装置取付ボルト8に代えて引出装置取付絶縁ボルト13により、引出装置5および絶縁物12を配電盤1に対して固定していること、直流高速度遮断器4の外筺が専用接地線21のみによって接地されていること、ならびに専用接地線21に地絡電流検出用CT14が設けられていることである。
【0035】
ここで、絶縁物12は、引出装置5の底面部と略同一の形状をしており、配電盤1と引出装置5とに当接しているが、必ずしも引出装置5の底面部と略同一の形状である必要はない。また、絶縁物12は、エポキシ樹脂等の合成樹脂により形成される。
【0036】
引出装置取付絶縁ボルト13は、エポキシ樹脂等の合成樹脂によりコーティングされたボルト等が用いられる。
【0037】
地絡電流検出用CT14は、専用接地線21に設けられており、通常は専用接地線21に電流が流れないため、検出電流は零電流であるが、地絡が発生した場合に、専用接地線21を地絡電流が流れることで電流を検出し地絡事故の発生を検知する。
【0038】
なお、専用接地線21は、直流高速度遮断器4専用のものであり、一本のみで構成されることが好ましい。
【0039】
このように、直流高速度遮断器4の外筺は、電気的に接続している引出装置5が配電盤1から絶縁され、専用接地線21のみで接地されることにより、地絡電流は様々な経路を流れることなく専用接地線21のみを流れることになる。したがって、地絡電流検出用CT14による地絡電流の検出が確実なものとなる。また、高抵抗地絡時にも確実な地絡検出が可能となり、変電所構外の事故で誤動作を生じることもない。
【0040】
すなわち、構外地絡事故や隣接変電所で地絡事故が発生した場合、その地絡電流は事故地点から大地を介して構内に設置された本発明のHSCBの専用接地線に流れるが、その電流方向が反対であるため地絡電流検出用CT14の検出電流が逆方向となり、当該HSCBが誤動作することはない。したがって、構外地絡時の影響を受けず、誤動作を生じることがない。
【0041】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0042】
例えば、図1の配電盤1全体を大地と絶縁し、配電盤1に専用接地線21を設けてこの専用接地線21の電流検出を行うようにすることも可能である。
【0043】
また、例えば図1の絶縁物12を配電盤1と引出装置5との間に配置する代わりに、引出装置5そのものを、所定の絶縁材料で覆う等して直流高速度遮断器4を配電盤1から絶縁するようにしてもよい。
【0044】
なお、本発明の実施の形態では、直流機器として直流高速度遮断器を用いているが、これに限定されることはなく、他の直流機器、例えば、シリコン整流器、インバータ等に適用することも可能である。その場合も、前記実施形態例と同様の作用、効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施の形態の直流高速度遮断器(HSCB)における地絡事故の検出装置の構成図。
【図2】直流き電回路における1次地絡時の過電圧検出の概略図。
【図3】図2における地絡事故時の等価回路図。
【図4】従来の直流高速度遮断器(HSCB)の取付状況を示す構成図。
【符号の説明】
【0046】
1…配電盤(筺体)
2…前面扉
3…背面扉
4,103a〜103c…直流高速度遮断器(直流機器)
5…引出装置
6…接地導体
7…接地金具
8…引出装置取付ボルト
9…接地バー
10…配電盤接地線
11…専用配線
12…絶縁物
13…引出装置取付絶縁ボルト
14…地絡電流検出用CT(電流検出手段)
21…専用接地線
101…整流器用変圧器
102…整流器
104…き電線
105…レール
106…直流地絡過電圧継電器
107…電気車
110…地絡点抵抗
111…A種接地抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地された筺体と、
前記筺体と絶縁するように前記筺体内に配設され、外筺を有した直流回路用の直流機器と、
前記直流機器の外筺と大地との間を結ぶ接地線と、
前記接地線を流れる地絡電流を検知する電流検知手段と、を備えたことを特徴とする直流機器における地絡事故の検出装置。
【請求項2】
前記直流機器は、絶縁物を介して前記筺体と絶縁されたことを特徴とする請求項1に記載の直流機器における地絡事故の検出装置。
【請求項3】
前記接地線は、一の接地線のみからなることを特徴とする請求項1または2に記載の直流機器における地絡事故の検出装置。
【請求項4】
前記直流機器は、直流高速度遮断器であることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の直流機器における地絡事故の検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−41892(P2010−41892A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205091(P2008−205091)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】