説明

直流電源装置

【課題】変圧器の二次側に共振回路を備えた直流電源装置において、整流回路を構成するダイオードのリカバリ時のサージ電圧を抑制し、変圧器の二次電流より負荷電流を正確に推定し、軽負荷時に対応して供給電力を調整する。
【解決手段】直流電圧源とコンバータと変圧器と整流回路と共振スイッチ106と共振コンデンサ107から構成された共振回路とフィルタリアクトルとフィルタコンデンサとスナバダイオード110とスナバコンデンサ109と負荷から構成された直流電源装置において、第1,第2の電圧センサ101,111及び電流センサ104と、これらのセンサの出力信号を入力し、コンバータ102および共振スイッチ106を構成する半導体素子のゲートパルスを制御する信号と、これらのセンサの信号を変換するA/D変換器200〜203の動作タイミングを調整する信号を出力する制御装置114を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を用いた直流電源装置に関し、特に半導体素子のスイッチング損失を低減するために共振回路を備えたソフトスイッチング式の直流電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不安定な直流電圧を安定するときや、直流電圧を変更する場合、あるいは入力と出力を電気的に絶縁する必要がある場合、直流から直流に変換する電源装置(以下、直流電源装置)が用いられる。とりわけ入力と出力が電気的に絶縁された直流電源装置において、印加周波数を高くすることで絶縁用トランスを小型化する方式が知られている。
【0003】
一例として特許文献1の回路構成を図8に示す。図8に示す直流電源装置は、直流電圧源100と、直流電圧源100の出力する直流電力を交流に変換するコンバータ102と、コンバータ102の出力する交流電力を入力する変圧器103と、変圧器103の出力する交流電力を直流電力に変換する整流回路105と、整流回路105の出力する直流電力を平滑化するフィルタリアクトル108とフィルタコンデンサ112と、フィルタコンデンサ112に並列接続された負荷113から構成される。
【0004】
図8に示す直流電源装置において、コンバータ102を構成する半導体素子のスイッチング損失は印加周波数に応じて上昇する。このため、共振回路を利用してスイッチング損失を低減させる技術(ソフトスイッチング)が考えられた。一例として特許文献2および非特許文献1の回路構造を図89に示す。
【0005】
図9に示す直流電源装置は、直流電圧源100と、直流電圧源100の直流電力を交流電力に変換するコンバータ102と、コンバータ102の出力する交流電力を入力する変圧器103と、変圧器103の出力する交流電力を直流電力に変換する整流回路105と、整流回路105の直流出力側に並列接続された共振スイッチ106と共振コンデンサ107から構成された共振回路と、整流回路105の出力する直流電力を平滑化するフィルタリアクトル108とフィルタコンデンサ112と、フィルタコンデンサ112に並列接続された負荷113から構成される。
【0006】
図9に示す直流電源装置は、コンバータ102のターンオフのタイミングに合わせて共振スイッチ106を動作させ、共振電流Izを二次電流I2に重畳させることで一時的に二次電流I2をゼロ、一次電流I1を励磁電流のみのレベルまでに低減させることができる。このタイミングに合わせてコンバータ102をターンオフさせることで、コンバータ102のターンオフ損失を大幅に低減させることができる。
【0007】
図8に示す直流電源装置において、コンバータ102を構成する半導体素子Q1〜Q4がオフしている間、一次電流I1および二次電流I2はゼロとなっているが、整流回路105を構成するダイオードには還流電流が流れ続けている。その状態から、コンバータ102を構成する半導体素子Q1,Q4がターンオンすると、一次電流I1と二次電流I2が流れ始め、二次電流I2の大きさは負荷電流Idに一致する。このとき、整流回路105を構成するダイオードの半数には二次電流I2と同じ大きさの電流が流れ、残りの半数のダイオードは電流ゼロとなる。
【0008】
後者のダイオードの電圧・電流波形を図10に示す。ダイオードに電流が流れている状態から電流が遮断されて電圧が印加される状態に遷移するとき、ダイオードの中に蓄積されたキャリアが放出されて一時的に逆方向に電流(リバースリカバリ電流)が流れ、サージ電圧が発生する。このサージ電圧は、ダイオードの接合容量と回路のインダクタンスによる共振によってしばらく振動を続ける。リカバリ現象はダイオードの特性によって決まるが、図10のように激しいサージ電圧を発生すると、素子耐圧を超えて素子を破壊してしまう場合がある。また、素子耐圧を超えない場合でも、高周波の電磁ノイズが発生し、他の電子機器へ電磁干渉などの悪影響を及ぼす場合がある。
【0009】
リカバリ時のサージ電圧対策として、整流回路を構成するダイオードと並列にCR回路(スナバ回路)を設ける技術などが知られている。また、サージ電圧対策の公知例として、特許文献3の直流−直流変換装置や特許文献4の電力伝送のための装置、特許文献5の低損失コンバータなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−178501号公報
【特許文献2】特開平4−368464号公報
【特許文献3】特開2006−352959号公報
【特許文献4】特開2009−273355号公報
【特許文献5】特開2008−79403号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】O.Deblecker、 A.Moretti、 and F.Vallee: “Comparative Analysis of Two zero-Current Switching Isolated DC-DCConvereters for Auxiliary Railway Supply、” SPEEDAM2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図9に示す公知例の回路には3つの課題がある。第1の課題は、整流回路105を構成するダイオードのリカバリ時のサージ電圧を低減することである。
【0013】
第2の課題は、コンバータ102のターンオフ損失を低減するために追加した共振コンデンサ107と共振スイッチ106からなる共振回路を流れる共振電流Izが二次電流I2に重畳するため、二次電流I2より正確な負荷状態を把握するのが困難になることである。正確な負荷状態を把握するためには、負荷電流Idを直接検出する電流センサを取り付ければ良いが、コスト低減のため二次電流I2より負荷電流Idを正確に推定し、負荷電流Idを検出する電流センサを省略して正確な負荷状態を把握することが課題である。
【0014】
第3の課題は軽負荷時の制御を円滑に行うことである。共振コンデンサ107を流れる共振電流Izの振幅は直流入力電圧Vsに比例するため、共振電流Izの供給するエネルギーは直流入力電圧Vsの二乗に比例する。このため直流入力電圧Vsが高いときには共振電流Izだけで相当のエネルギーを供給することになり、供給電力を絞るのが難しくなるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の直流電源装置は、第1の課題を解決するために、直流電圧源と、直流電圧源の出力する直流電力を交流に変換するコンバータと、コンバータの出力する交流電力を入力する変圧器と、変圧器の出力する交流電力を直流電力に変換する整流回路と、整流回路の直流出力側に並列接続された共振コンデンサと共振スイッチから構成された共振回路と、整流回路の出力する直流電力を平滑化するフィルタリアクトルとフィルタコンデンサと、フィルタコンデンサに並列接続された負荷から構成される直流電源装置であって、フィルタコンデンサに並列接続するダイオードブリッジ(スナバダイオード)と、ダイオードブリッジの出力と整流回路の直流出力側を接続するコンデンサ(スナバコンデンサ)から構成されるスナバ回路を備え、さらに、第2、第3の課題を解決するために、前記の構成に加えて、直流電圧源の出力する直流電圧を検出する第1の電圧センサと、トランスの二次電流を検出する電流センサと、フィルタコンデンサ電圧を検出する第2の電圧センサと、コンバータと共振スイッチのゲートパルス及び第1・第2の電圧センサと電流センサの検出タイミングを調整する制御装置を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の直流電源装置の前記制御装置は、第1・第2の電圧センサと電流センサの出力信号を入力し、コンバータの動作周波数を一定としてセンサ入力に応じてゲートパルスの幅を調整することで供給電力を調整する第1の制御手段と、コンバータのゲートパルス幅を一定としてセンサ入力に応じてコンバータの動作周波数を調整することで供給電力を調整する第2の制御手段を備えることを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明の直流電源装置の前記制御装置は、電流センサの出力信号を入力し、コンバータの動作周波数と同期しながら、コンバータのターンオン期間のうち共振コンデンサの静電容量と回路インダクタンスによって求まる共振周期の3/4と、スナバコンデンサの静電容量と回路インダクタンスによって求まる共振周期の1/2を除いた間にサンプル&ホールドする手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フィルタコンデンサに並列接続するダイオードブリッジであるスナバダイオードと、ダイオードブリッジであるスナバダイオードのダイオードブリッジの中点の出力と整流回路のダイオードの直流出力側を接続するスナバコンデンサから構成されるスナバ回路により、整流回路のダイオードのリカバリ時に発生したサージ電圧を低減し、電磁ノイズも低減することができる。
【0019】
また、変圧器の二次電流の電流センサを備え、電流センサの出力信号を入力し、コンバータの動作周波数と同期しながら、コンバータのターンオンよりスナバコンデンサの静電容量と回路インダクタンスから求まる共振周期の1/2以降、ターンオフより共振コンデンサの静電容量と回路インダクタンスから求まる共振周期の3/4以前にサンプル&ホールドすることにより、二次電流より負荷電流を正確に推定することができる。
【0020】
さらに、コンバータの動作周波数を一定としてセンサ入力に応じてゲートパルスの幅を調整することで供給電力を調整する第1の制御手段と、コンバータのゲートパルス幅を一定としてセンサ入力に応じてコンバータの動作周波数を調整することで供給電力を調整する第2の制御手段を備えることにより、軽負荷時に対応し、供給電力を絞ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は本発明の直流電源装置の回路構成を示す図である。
【図2】図2は本発明の直流電源装置の制御装置の内部構成を示す図である。
【図3】図3は本発明による動作波形の一例、制御タイミングの詳細を示す図である。
【図4】図4は本発明による動作波形の一例、直流入力電圧に応じた調整を示す図である。
【図5】図5は本発明による動作波形の一例、負荷率に応じた調整を示す図である。
【図6】図6は本発明による動作波形の一例、負荷率に応じた調整を示す図である。
【図7】図7は本発明による整流ダイオードの電圧・電流波形を示す図である。
【図8】図8は従来技術(特許文献1)の直流電源装置の回路構成を示す図である。
【図9】図9は従来技術(特許文献2等)の直流電源装置の回路構成を示す図である。
【図10】図10は従来技術(特許文献1)の直流電源装置による整流ダイオードの電圧・電流波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例を図1に示す。図1に示す直流電源装置は、直流電圧源100と、直流電圧源100の出力電圧である直流入力電圧Vsを検出する第1の電圧センサ101と、直流電圧源100の出力する直流電力を交流電力に変換するコンバータ102と、コンバータ102の出力する交流電力を入力する変圧器103と、変圧器103の二次電流I2を検出する電流センサ104と、変圧器103の出力する交流電力を直流電力に変換する整流回路105と、整流回路105の直流出力側に並列接続された共振スイッチ106と共振コンデンサ107から構成された共振回路と、整流回路105の出力する直流電力を平滑化するフィルタリアクトル108とフィルタコンデンサ112と、フィルタコンデンサ112に並列接続するダイオードブリッジであるスナバダイオード110と、スナバダイオード110のダイオードブリッジの中点の出力と整流回路105の直流出力側を接続するスナバコンデンサ109と、フィルタコンデンサ112の直流出力電圧Vdを検出する第2の電圧センサ111と、フィルタコンデンサ112に並列接続された負荷113と、第1の電圧センサ101が検出する直流入力電圧Vsと第2の電圧センサ111が検出する直流出力電圧Vdと電流センサ104が検出する二次電流I2を入力し、コンバータ102を構成する半導体素子Q1〜Q4のゲート信号G1〜G4、および、共振スイッチ106を構成する半導体素子Qzのゲート信号Gzを制御する制御装置114から構成される。
【0024】
制御装置114の詳細を図2に示す。図2に示す直流電源装置の制御装置114は、第2の電圧センサ111の出力信号を入力する第1のA/D変換器200と、電流センサ104の出力信号を入力する第2のA/D変換器201と、第1の電圧センサ101の出力信号を入力する第3のA/D変換器202と、直流出力電圧指令Vd*と第1のA/D変換器200の出力信号である直流出力電圧Vdの偏差を求める第1の減算器203と、第1の減算器203の出力信号を入力して負荷電流指令Id*を出力する第1のPI制御器204と、第1のPI制御器204の出力する負荷電流指令Id*と第2のA/D変換器201の出力信号である負荷電流推定値Id’の偏差を求める第2の減算器205と、第2の減算器205の出力信号をA接点スイッチ206を介して入力する第2のPI制御器208と、第2のPI制御器208の出力信号とコンバータ制御周期の初期値Tc*を加算してコンバータ制御周期Tcを求める第1の加算器210と、第1のA/D変換器200の出力信号である直流出力電圧Vdと第3のA/D変換器202の出力信号である直流入力電圧Vsを入力してコンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間指令T1*を出力する関数テーブル212と、第2の減算器205の出力信号をB接点スイッチ207を介して入力する第3のPI制御器209と、第3のPI制御器209の出力信号と関数テーブル212のコンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間指令T1*の和を求める第2の加算器211と、第2の加算器211の出力信号を入力し所定の範囲内にコンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間T1を制限すると同時に出力を制限しているか否かを判別するアンダーフローフラグUFを出力するリミッタ213と、第1の加算器210の出力するコンバータ102の制御周期Tcとリミッタ213の出力するコンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間T1と共振スイッチ106を構成する半導体素子のターンオン時間T2を入力しコンバータ102を構成する半導体素子Q1〜Q4のゲート信号G1〜G4と、共振スイッチ106を構成する半導体素子Qzのゲート信号Gzと、第1〜3のA/D変換器200〜202をサンプル&ホールドするA/D変換器のトリガ信号Tadを出力するパルス制御装置214から構成される。
【0025】
リミッタ213の出力するアンダーフローフラグUFに応じて、A接点スイッチ206とB接点スイッチ207は排他的に、以下のように動作する。
a)リミッタ213の出力が所定の範囲内(T1>T1min)のとき、
アンダーフローフラグUF:オフ
A接点スイッチ206 :開放
第1のPI制御器208 :リセット、出力ゼロ
第1の加算器210 :出力Tc*(固定)
B接点スイッチ207 :接続
第2のPI制御器209 :動作中
リミッタ213 :出力T1(可変)
b)リミッタ213の出力が下限値に制限(T1=T1min)されているとき、
アンダーフローフラグUF:オン
A接点スイッチ206 :接続
第1のPI制御器208 :動作中
第1の加算器210 :出力Tc(可変)
B接点スイッチ207 :開放
第2のPI制御器209 :リセット、出力ゼロ
リミッタ213 :出力T1min(固定)
【0026】
本発明の直流電源装置の動作波形を図3に示す。図3において、上の図から順に以下の信号を示している。
(1)・二次電流I2と負荷電流Id
(2)・共振電流Izとスナバ電流Is
(3)・コンバータ102を構成する半導体素子Q1、Q4のゲート信号G1、G4
(4)・共振スイッチ106を構成する半導体素子Qzのゲート信号Gz
(5)・第1〜第3A/D変換器200〜202のトリガ信号Tad
が示されている。
【0027】
図3の横軸は時間軸であり、時間の推移とともに(状態1)から(状態5)へと遷移する。
(状態1)コンバータ102を構成する半導体素子Q1、Q4がオフ中のとき、変圧器103の二次電流I2はゼロになっているが、負荷電流Idは整流回路105を通って流れ続けている。
【0028】
(状態2)コンバータ102を構成する半導体素子Q1、Q4がターンオンすると、変圧器103の二次電流I2が流れ出すと同時にスナバコンデンサ109の充電電流Isが流れる。この状態は、スナバコンデンサ109の静電容量と回路インダクタンスから求まる共振周期の約1/2の間継続する。
【0029】
(状態3)スナバコンデンサ109が充電し終わると、変圧器103の二次電流I2と負荷電流Idの大きさは一致する。この状態の先頭のタイミングで、第1〜第3のA/D変換器200〜202を動作させるA/D変換器のトリガ信号Tadを出力し、A/D変換(サンプル&ホールド)を行うことにより、検出した変圧器103の二次電流I2の値を用いて、負荷電流Idの値を求めることができる。
【0030】
(状態4)コンバータ102を構成する半導体素子Q1、Q4のターンオフタイミングに対し、共振コンデンサ107の静電容量と回路インダクタンスから求める共振周期の3/4より前のタイミングで、共振スイッチ106を構成する半導体素子Qzをターンオンする。スナバコンデンサ109に充電されていた電荷は瞬時に放電されて共振コンデンサ107に充電され、その後、スナバコンデンサ109は再充電する。共振電流Izとスナバ電流Isの電流値の和が変圧器103の二次電流I2の電流値に重畳され、いったん変圧器103の二次電流I2の電流値は増加するが共振コンデンサ107の共振周期の1/2を過ぎると減少に転じてゼロになる。変圧器103の二次電流I2は、整流回路105を構成するダイオードにより負の方向には流れないため、二次電流I2がゼロの状態が続く。変圧器103の二次電流I2がゼロの状態で共振スイッチ106をターンオフすると、このとき共振スイッチ106に流れている共振電流Izが負であるため、共振スイッチ106のターンオフ損失はゼロとなる。また、変圧器103の二次電流I2がゼロの状態でコンバータ102をターンオフすると、このとき変圧器103の一次電流I1は励磁電流のみの状態であるためコンバータ102を構成する半導体素子Q1〜Q4のターンオフ損失を大幅に低減できる。
【0031】
(状態5)コンバータ102を構成する半導体素子Q1、Q4がオフ、共振スイッチ106を構成する半導体素子Qzがオフのとき、変圧器103の二次電流I2はゼロになっているが、共振コンデンサ107に充電された電荷がゼロになるまで共振電流Izは流れ続ける。共振電流Izとスナバ電流Isの和が負荷電流Idとなって負荷113に供給される。共振電流Izがゼロになると状態1に戻る。
【0032】
本発明の直流電源装置のリカバリ時の動作波形を図10図7に示す。図10図7において、上の図から順に、以下の信号を示している。
(1)・整流回路105を構成するダイオードの端子電圧である直流出力電圧Vd
(2)・整流回路105を構成するダイオードに流れる電流である負荷電流Id
(3)・コンバータ102を構成する半導体素子Q1、Q4のゲート信号G1、G4
【0033】
コンバータ102を構成する半導体素子Q1、Q4がオフしている間、変圧器103の一次電流I1および二次電流I2はゼロとなっているが、整流回路105を構成するダイオードには還流電流が流れ続けている。この状態から、半導体素子Q1、Q4がターンオンすると変圧器103の一次電流I1と二次電流I2が流れ始め、変圧器103の二次電流I2の大きさは負荷電流Idに一致する。このとき、整流回路105を構成するダイオードの半数には変圧器103の二次電流I2と同じ大きさの電流が流れ、残りの半数のダイオードは電流ゼロとなる。後者のダイオードの電圧・電流波形を図10図7に示している。
【0034】
整流回路105を構成するダイオードに電流が流れている状態から電流が遮断されて電圧が印加される状態に遷移するとき、整流回路105を構成するダイオードの中に蓄積されたキャリアが放出されて一時的に逆方向に電流(リバースリカバリ電流)が流れ、サージ電圧が発生する。図9図10の従来技術と比較すると、図7に示されるように、スナバコンデンサ109およびスナバダイオード110から構成されるスナバ回路によって、このサージ電圧を低減できることが分かる。
【0035】
本発明の直流電源装置の動作波形の一例を図4に示す。図4は、図2における第2のPI制御器209が動作しているモードの波形である。図4において、上の図から順に以下の信号を示している。
(1)・直流入力電圧Vsが低電圧(80%)、定格負荷時の変圧器103の二次電流I2、負荷電流Id
(2)・直流入力電圧Vsが定格電圧、定格負荷時の変圧器103の二次電流I2、負荷電流Id
(3)・直流入力電圧Vsが高電圧(120%)、定格負荷時の変圧器103の二次電流I2、負荷電流Id
【0036】
共振電流Izが流れていない場合、コンバータ102のオン時間T1は直流入力電圧Vsと直流出力電圧Vdの比に応じて決まる。直流出力電圧Vdを一定に制御するのが目的であるから、コンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間T1は単に直流入力電圧Vsの大きさに反比例すると簡略化して考えてもよい。ところが、共振電流Izの大きさは、図4に示すように直流入力電圧Vsに比例する。つまり、共振電流Izの伝達するエネルギーは直流入力電圧Vsの二乗に比例するため、直流入力電圧Vsが高くなるにつれてコンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間T1は直流入力電圧Vsの大きさに反比例した値よりも短くなる。このように、定格負荷時は、直流入力電圧Vsに応じてコンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間T1を調整することによって負荷電流Idを一定に保つ。
【0037】
本発明の直流電源装置の動作波形の一例を図5に示す。図5は、図2における第2のPI制御器209が動作しているモードの波形である。図5において、上の図から順に以下の信号を示している。
(1)・直流入力電圧Vsが定格電圧、定格負荷時の変圧器103の二次電流I2、及び、負荷電流Id
(2)・直流入力電圧Vsが定格電圧、軽負荷(50%)時の変圧器103の二次電流I2、及び、負荷電流Id
【0038】
共振電流Izが流れていない場合、コンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間T1は負荷電流Idの大きさによらず一定でよい。コンバータ102がオンしている間、負荷電流Idは直流入力電圧Vsと直流出力電圧Vdおよびフィルタリアクトル108のインダクタンスに応じて増加し、コンバータ102がオフしている間は直流出力電圧Vdおよびフィルタリアクトル108のインダクタンスに応じて減少する。この負荷電流Idの増加量と減少量が等しくなるのが定常状態であり、コンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間T1は負荷電流Idの大きさによらない。
【0039】
ところが、共振電流Izの伝達するエネルギーは、直流入力電圧Vsの二乗に比例するため、軽負荷になるとコンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間T1を定格負荷時よりも短くする必要がある。
【0040】
本発明の直流電源装置の動作波形の一例を図6に示す。図6において、、上の図から順に、以下の信号を示している。
(1)・直流入力電圧Vsが高電圧(120%)、定格負荷時の変圧器103の二次電流I2、及び、負荷電流Id
(2)・直流入力電圧Vsが高電圧(120%)、軽負荷(50%)時の変圧器103の二次電流I2、及び、負荷電流Id
(3)・直流入力電圧Vsが高電圧(120%)、軽負荷(20%)時の変圧器103の二次電流I2、及び、負荷電流Id
を示す。
【0041】
軽負荷になるとコンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間T1を定格負荷時よりも短くすることで供給電力を調整するが、共振電流Izの伝達するエネルギーは直流入力電圧Vsの二乗に比例するため、直流入力電圧Vsが高い場合にはコンバータ102を構成する半導体素子のターンのオン時間T1を短くしても、コンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間の下限値T1minに抵触し、これ以上、供給電力を絞ることが出来なくなる。この場合、コンバータ102のコンバータ制御周期Tcを長く設定することで、供給電力を調整することができる。図6は、図2における第1のPI制御器208が動作しているモードの波形である。
【0042】
ここで、コンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間の下限値T1minは、第1〜第3A/D変換器200〜202のサンプル&ホールド期間を確保するため、共振コンデンサ107の静電容量と回路のインダクタンスから求まる共振周期の3/4と、スナバコンデンサ109の静電容量と回路のインダクタンスから求まる共振周期の1/2の和よりも大きくすることが必要である。
【符号の説明】
【0043】
100 直流電圧源
101 第1の電圧センサ
102 コンバータ
103 変圧器
104 電流センサ
105 整流回路
106 共振スイッチ
107 共振コンデンサ
108 フィルタリアクトル
109 スナバコンデンサ
110 スナバダイオード
111 第2の電圧センサ
112 フィルタコンデンサ
113 負荷
114 制御装置
200 第1のA/D変換器
201 第2のA/D変換器
202 第3のA/D変換器
203 第1の減算器
204 第1のPI制御器
205 第2の減算器
206 A接点スイッチ
207 B接点スイッチ
208 第2のPI制御器
209 第3のPI制御器
210 第1の加算器
211 第2の加算器
212 関数テーブル
213 リミッタ
214 パルス制御装置
G1〜G4 コンバータ102を構成する半導体素子Q1〜Q4のゲート信号
Gz 共振スイッチ106を構成する半導体素子Qzのゲート信号
I1 一次電流
I2 二次電流
Id 負荷電流
Id* 負荷電流指令
Id’ 負荷電流推定値
Ir 整流ダイオード電流
Is スナバ電流
Iz 共振電流
T1 コンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間
T1min コンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間の下限値
T1* コンバータ102を構成する半導体素子のターンオン時間指令
T2 共振スイッチ106を構成する半導体素子のターンオン時間
Tad A/D変換器のトリガ信号
Tc* コンバータ制御周期の初期値
Tc コンバータ制御周期
Q1〜Q4 コンバータ102を構成する半導体素子
Qz 共振スイッチ106を構成する半導体素子
UF アンダーフローフラグ
Vd* 直流出力電圧指令Vd*
Vd 直流出力電圧Vd
Vr 整流ダイオード電圧Vr
Vs 直流入力電圧Vs

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧源と、前記直流電圧源の出力する直流電力を交流電力に変換するコンバータと、前記コンバータの出力する交流電力を入力する変圧器と、前記変圧器の出力する交流電力を直流電力に変換する整流回路と、前記整流回路の直流出力側に並列接続された共振スイッチと共振コンデンサから構成された共振回路と、前記整流回路の出力する直流電力を平滑化するフィルタリアクトルとフィルタコンデンサと、前記フィルタコンデンサに並列接続するスナバダイオードのダイオードブリッジと、前記スナバダイオードの出力と整流回路の直流出力側を接続するスナバコンデンサと、前記フィルタコンデンサに並列接続された負荷から構成される直流電源装置において、
前記直流電圧源の出力電圧を検出する第1の電圧センサと、前記フィルタコンデンサの電圧を検出する第2の電圧センサと、前記変圧器の入力電流もしくは出力電流を検出する電流センサと、前記第1の電圧センサと前記第2の電圧センサと前記電流センサの出力信号を入力し、前記コンバータを構成する複数の半導体素子のゲートパルス、および前記共振スイッチを構成する半導体素子のゲートパルスを制御する信号と、前記第1の電圧センサと前記第2の電圧センサと前記電流センサの検出タイミングを調整する信号を出力する制御装置を備えていることを特徴とする直流電源装置。
【請求項2】
請求項1記載の直流電源装置において、前記ゲートパルスの制御装置は、前記コンバータの動作周波数を一定としてセンサ入力に応じて前記ゲートパルスの幅を調整することで供給電力を調整する第1の制御手段と、前記コンバータのゲートパルス幅を一定としてセンサ入力に応じて前記コンバータの動作周波数を調整することで供給電力を調整する第2の制御手段を備えていることを特徴とする直流電源装置。
【請求項3】
請求項2記載の直流電源装置において、前記コンバータのゲートパルス幅に所定の下限値を設け、この下限値に基づいて前記第1の制御手段と前記第2の制御手段を切り替える手段を備えたことを特徴とする直流電源装置。
【請求項4】
請求項3記載の直流電源装置において、前記コンバータのゲートパルス幅の下限値は、前記共振コンデンサの静電容量と回路インダクタンスから求まる共振周期の3/4と、前記スナバコンデンサの静電容量と回路インダクタンスから求まる共振周期の1/2の和より大きく設定することを特徴とする直流電源装置。
【請求項5】
請求項1記載の直流電源装置において、前記ゲート信号を制御する制御装置は、前記電流センサの出力信号を入力し、前記コンバータの動作周波数と同期しながら、前記コンバータのターンオンより前記スナバコンデンサの静電容量と回路インダクタンスから求まる共振周期の1/2より後、ターンオフより前記共振コンデンサの静電容量と回路インダクタンスから求まる共振周期の3/4より前にサンプル&ホールドする手段を備えていることを特徴とする直流電源装置。
【請求項6】
請求項1記載の直流電源装置において、前記ゲート信号を制御する制御装置は、前記コンバータの動作周波数を一定としてセンサ入力に応じてゲートパルスの幅を調整することで供給電力を調整する第1の制御手段と、前記コンバータのゲートパルス幅を一定としてセンサ入力に応じてコンバータの動作周波数を調整することで供給電力を調整する第2の制御手段と、前記共振コンデンサの静電容量と回路インダクタンスから求まる共振周期の3/4とスナバコンデンサの静電容量と回路インダクタンスから求まる共振周期の1/2の和より大きい下限値に基づいて前記第1の制御手段と前記第2の制御手段を切り替える手段と、前記電流センサの出力信号を入力し、前記コンバータの動作周波数と同期しながら、前記コンバータのターンオンより前記スナバコンデンサの静電容量と回路インダクタンスから求まる共振周期の1/2より後、前記ターンオフより前記共振コンデンサの静電容量と回路インダクタンスから求まる共振周期の3/4より前にサンプル&ホールドする手段を備えていることを特徴とする直流電源装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−249351(P2012−249351A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116758(P2011−116758)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000232944)日立水戸エンジニアリング株式会社 (227)
【Fターム(参考)】