説明

相関処理器、相関処理方法、パルス圧縮装置、および物標探知装置

【課題】周波数領域での相関処理を行った結果を重複加算する場合でも、並び替えを行う必要が無いパルス圧縮装置を実現する。
【解決手段】フーリエ変換部51は、受信エコー信号y[t]を離散化して受信エコー信号y[n]を算出し、部分区間毎にフーリエ変換して周波数領域の受信エコー信号ym[k]を生成する。相関処理部52は、メモリ521に記憶されたレプリカ信号Re[k]を部分区間毎に相関処理することでパルス圧縮を行い、パルス圧縮信号Zm[k]を出力する。この際、レプリカ信号Re[k]は、例えば、送信パルス信号x[n]の波形を時間反転させ、当該送信パルス信号x[n]をパルス長分遅延させ、複素共役処理して得られる。算出された部分区間毎のパルス圧縮信号Zm[k]は時間領域のパルス圧縮信号zm[n]に変換され、時系列に沿って単純に重複加算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被相関処理信号を、該被相関処理信号に基づくレプリカ信号で自己相関処理する相関処理器、当該相関処理器を利用し、送信信号のレプリカ信号で受信信号をパルス圧縮するパルス圧縮装置および物標探知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルス信号を探知対象領域へ送信して反射信号から物標の探知を行う物標探知装置が各種実用化されている。このような物標探知装置の中には、特許文献1に示すように、FMチャープ方式の送信パルス信号を用い、受信エコー信号をパルス圧縮処理することで、距離分解能を向上させるものがある。そして、このようなパルス圧縮処理の1つとして、周波数領域で実行されるマッチドフィルタがある。このマッチドフィルタは、送信パルス信号の複素共役信号からなるレプリカ信号に基づいて周波数領域でのフィルタ係数を設定し、周波数領域に変換された受信エコー信号に当該フィルタ係数を乗算することでパルス圧縮処理を実行する。すなわち周波数領域でレプリカ信号と受信エコー信号とを相関処理することで、パルス圧縮処理を実行する。
【0003】
ここで、上述の物標探知を行う場合には、探知距離に応じた時間長の受信期間を設け、受信期間内の受信エコー信号全体に対してパルス圧縮処理を行うのであるが、受信期間の長さによっては、受信期間全体を一つの区間としてパルス圧縮処理を行うと演算負荷が増大する等の不都合が生じる場合がある。このため、受信期間を複数の部分区間に分割し、部分区間毎のパルス圧縮処理を行って、部分区間毎に得られたパルス圧縮結果を重複加算することで、受信期間全体に対してパルス圧縮を行う方法が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−90277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の重複加算によるパルス圧縮処理では、次に示す課題が存在する。
【0006】
図5は、従来の周波数領域でパルス圧縮処理を行う場合の受信エコー信号に含まれる送信パルス信号x[n]、送信パルス信号の時間反転信号x[−n]、送信パルス信号の複素共役信号からなるレプリカ信号x[n]、およびパルス圧縮信号z[t]の時間領域における関係を示す図である。
【0007】
また、図6は、従来の重複加算によるパルス圧縮処理を行った場合の各部分区間のパルス圧縮信号zm[n]の時間軸上での状態およびこの際に生じるパルス圧縮信号毎の並び替え処理を説明する為の図である。
【0008】
まず、周波数領域でのパルス圧縮処理は、受信エコー信号に含まれる送信パルス信号x[n]の周波数領域信号であるX[k]と、レプリカ信号であるこの周波数領域の送信パルス信号X[k]の複素共役信号であるレプリカ信号X[k]との相関処理を意味する。したがって、周波数領域では、パルス圧縮信号Z[k]は、次式で与えられる。
【0009】
Z[k]=X[k]・X[k] −(1)
なお、NはDFTのデータ点数を意味する 。
【0010】
ここで、送信パルス信号X[k]の時間領域での送信信号x[n]が、図5(A)に示すように、時間軸上で「0」のタイミングに立ち上がる波形であるとすると、レプリカ信号X[k]の時間軸での信号は、時間領域の送信信号x[n]を時間反転してx[−n]とし、当該x[−n]の複素共役を取った信号x[−n]となる。
【0011】
しかしながら、時間反転した際に、図5(B)の破線に示すように時間軸上の負の領域に波形が現れることはなく、現実的には、図5(B)の実線に示すように、DFT期間の最後のタイミングを立ち下がりタイミングとする波形となって現れる。
【0012】
このため、時間軸上でのレプリカ信号x[−n]は、図5(C)に示すように、DFT期間の最後のタイミングを立ち下がりタイミングとする波形となって現れる。
【0013】
すなわち、上述の式(1)で与えられる周波数領域での離散化された信号によるパルス圧縮処理を、時間軸上の処理で表すと、z[n]を時間軸上での離散化されたパルス圧縮信号として、次式となる。
【0014】
【数1】

【0015】
このような畳み込み演算となることで、時間領域でのパルス圧縮信号z[t]は、図5(D)に示すように、距離0以前の波形がDFT期間の最後のタイミングN−1を終点とする波形としてシフトした形状となり、距離0のタイミングを起点とする部分波形と、DFT期間の最後のタイミングN−1を終点とする部分波形とに分かれた波形となってしまう。さらに、各部分波形の時間領域での前後関係が逆転してしまう。
【0016】
このため、送信パルス信号x[n]と同じ波形成分を有する受信エコー信号y[n]を、部分的な受信エコー信号ym[n](mは正の整数)毎に時間領域で分割してパルス圧縮処理を行うと、各受信エコー信号ym[n]に対応する各パルス圧縮信号zm[n]は、図6に示すように、それぞれに部分波形の時間領域での前後関係が逆転し、且つ分離された波形となる。例えば、パルス圧縮信号z1[n]を、時系列で部分的なパルス圧縮信号z11[n],z12[n],z13[n]とする。部分的なパルス圧縮信号z11[n]は、レプリカ信号Re[n]が部分的な受信エコー信号y1[n]の期間に重なり始めてから完全に重なるまでの期間に相当する。部分的なパルス圧縮信号z12[n]は、レプリカ信号Re[n]全体が受信エコー信号y1[n]期間に完全に重なる期間に相当する。部分的なパルス圧縮信号z13[n]は、レプリカ信号Re[n]が受信エコー信号y1[n]の期間から外れ始めてから完全に外れるまでの期間に相当する。
【0017】
そして、この場合には、時間領域で、パルス圧縮信号z12[n],z13[n]が連続的に出力され、その後、時間的に離間されてパルス圧縮信号z11[n]が出力される。
【0018】
したがって、上述の重複加算処理を行う場合、図6に示すように、各パルス圧縮信号zm[n]の部分的なパルス圧縮信号zm1[n],zm2[n],zm3[n]を、時間領域での正常な前後関係に並び替えなければならない。例えば、パルス圧縮信号z1[n]であれば、時間軸で後側となるパルス圧縮信号z11[n]を、パルス圧縮信号z12[n],z13[n]の前(過去側)に、連続的な波形となるように置き換えなければならない。このため、重複加算処理に対する演算負荷が増大してしまう。
【0019】
このような課題を鑑み、本発明の目的は、周波数領域での相関処理を行った結果を重複加算する場合でも、並び替えを行う必要が無い相関処理器、当該相関処理器を用いたパルス圧縮装置、および物標探知装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明は、パルス状の被相関処理信号をレプリカ信号で相関処理する相関処理器に関するものである。この相関処理器は、変換部、相関処理部、および逆変換部を備える。変換部は、被相関処理信号を時間領域から周波数領域へ変換する。相関処理部は、該被相関処理信号の元となるパルス状の信号を時間領域で反転処理し、パルス長分だけ遅延処理し、複素共役処理した波形と同じ波形を周波数領域に変換してなるレプリカ信号を、周波数領域の被相関処理信号に対して乗算することで相関処理を行う。逆変換部は、相関処理後の信号を周波数領域から時間領域へ逆変換する。
【0021】
このようにレプリカ信号を設定することで、パルス圧縮波形をパルス長分遅延させ、パルス圧縮後の信号が時間領域で分離した上述の図6に示した従来技術のような波形にはならず、図3に示すような時間軸に沿った連続した波形で出力される。
【0022】
また、この発明の相関処理器の変換部は、被相関処理信号を時間領域で連続する複数の区間に分割して、周波数領域への変換を行う。相関処理部は、区間分割された被相関処理信号毎に相関処理を行う。逆変換部は、個別に相関処理された信号それぞれに逆変換を行う。さらに、この相関処理器は、逆変換が行われた信号を時間領域で連続するように加算する重複加算処理部を備える。
【0023】
この構成では、各区間の相関処理後の信号が時間軸に沿った連続波形を有するので、これらを時間領域で加算する重複加算を行う場合に、区間分割された個々の相関処理後の信号を時間軸に沿って並び替える必要がない。
【0024】
また、この発明では、パルス状の被相関処理信号は、時間領域において対称な波形の信号であり、相関処理器では、レプリカ信号を、被相関処理信号の元となるパルス状の信号を複素共役処理することで得る。
【0025】
この構成では、パルス状の被相関処理信号が時間領域において対称な波形の信号の場合、時間反転しても波形は変化しないので、時間反転処理を行う必要が無い。これにより、遅延処理の必要も無いので、単に複素共役処理のみでレプリカ信号を生成することができる。
【0026】
また、この発明の相関処理器の変換部は、被相関処理信号を離散化処理して、パルス長以上のデータを2単位で変換する。
【0027】
この構成では、パルス長以上のデータを2単位で周波数変換を行うことで、FFT(高速フーリエ変換)処理を行うことができる。これにより、より高速な変換処理が可能になる。
【0028】
また、この発明はパルス圧縮装置に関するものであり、当該パルス圧縮装置は、上述の相関処理器を備える。この相関処理器の相関処理部は、元となる信号としてFMチャープ方式の送信パルス信号を用い、該送信パルス信号を時間反転処理、遅延処理、および複素共役処理して得られる信号をレプリカ信号として相関処理を行う。
【0029】
この構成では、上述の相関処理器を用いた具体的な装置として、FMチャープ方式の送信パルス信号を利用したパルス圧縮装置を示している。そして、上述の相関処理を用いたパルス圧縮処理を行うことで、従来の並び替え処理を行うことなく、パルス圧縮処理時の演算負荷を低減することができる。
【0030】
また、この発明は物標探知装置に関するものであり、当該物標探知装置は、上述のパルス圧縮装置を備えるとともに、相関処理により得られたパルス圧縮後の信号を用いて表示画面上に表示する画像を生成する画像生成部を備える。
【0031】
この構成では、上述のパルス圧縮装置を用いた具体的な装置として、前記送信パルス信号を探知領域内に送信して得られる受信エコー信号から物標エコーを画像表示する物標探知装置を示している。そして、上述のパルス圧縮処理を用いることで、物標探知装置としても、演算負荷を低減することができる。
【発明の効果】
【0032】
この発明によれば、受信信号等の被相関処理信号を周波数領域で相関処理した結果を重複加算処理する場合であっても、各相関処理結果内におけるデータの並び替え処理を行わなくてもよく、演算負荷を低減することができる。これにより、重複加算型のパルス圧縮処理の演算負荷も低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】レーダ装置11の主要回路構成を示すブロック図、およびパルス圧縮部15の主要回路構成を示すブロック図である。
【図2】本願の周波数領域でのレプリカ信号Re[k]となる離散的な時間領域での信号x[Np−1−n]の生成概念、および、当該信号x[Np−1−n]で相関処理した場合の時間領域でのパルス圧縮信号の波形を示す図である。
【図3】本実施形態の相関処理(パルス圧縮)と重複加算とを行った場合の各部分区間のパルス圧縮信号の時間軸上での状態を示す図である。
【図4】時間領域で対称な波形の送信パルス信号x[n]を用いた場合の送信パルス信号と、レプリカ信号である複素共役信号x[n]の波形の関係を示した図である。
【図5】従来の周波数領域でパルス圧縮処理を行う場合の受信エコー信号に含まれる送信パルス信号x[n]、送信パルス信号の時間反転信号x[−n]、送信パルス信号の複素共役信号からなるレプリカ信号x[n]、およびパルス圧縮信号z[t]の時間領域における関係を示す図である。
【図6】従来の重複加算によるパルス圧縮処理を行った場合の各部分区間のパルス圧縮信号の時間軸上での状態およびこの際に生じるパルス圧縮信号毎の並び替え処理を説明する為の図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態に係る相関処理器、パルス圧縮装置、および物標探知装置について、図を参照して説明する。なお、本実施形態では、FMチャープ方式からなる振幅一定の送信パルス信号を用いたレーダ装置11を、物標探知装置の一例として説明する。
【0035】
図1(A)はレーダ装置11の主要回路構成を示すブロック図であり、図1(B)はパルス圧縮部15の主要回路構成を示すブロック図である。
【0036】
レーダ装置11は、送信部12、DPX(デュプレクサ)13、アンテナ14、パルス圧縮部15、および画像生成部16を備える。パルス圧縮部15は、本発明の「パルス圧縮装置」に相当するとともに、「相関処理器」にも相当する。
【0037】
送信部12は、半導体やマグネトロンなどの発振素子を有し、送信期間に対応する所定の送信タイミングで、FMチャープ方式からなるパルス状の波形を有する送信パルス信号x[t]を送信する。送信部12から出力された送信パルス信号x[t]は、DPX13へ出力される。
【0038】
DPX13は、送信部12からの送信パルス信号x[t]をアンテナ14へ伝送する。アンテナ14は、所定の回転速度で定速度回転し続けながら、供給された送信パルス信号x[t]を外部へ放射するとともに、送信パルス信号x[t]が供給されていない期間(受信期間)は、外部の物標からの反射信号を受信して、受信エコー信号y[t]をDPX13へ出力する。DPX13は、アンテナ14からの受信エコー信号y[t]をパルス圧縮部15へ出力する。この受信エコー信号y[t]が、本発明の「被相関処理信号」に相当する。
【0039】
パルス圧縮部15は、所謂マッチドフィルタと称されるものであり、詳細は後述するが、受信期間中の離散化された受信エコー信号y[n]を複数区間に分割して周波数領域でパルス圧縮処理を行った後に、重複加算することで、パルス圧縮信号z[n]を算出する。
【0040】
画像生成部16は、パルス圧縮部15からのパルス圧縮信号z[n]を用いて表示画面上に表示される画像を生成する。
【0041】
次に、パルス圧縮部15について、より詳細に説明する。パルス圧縮部15は、図1(B)に示すように、本発明の「変換部」に相当するフーリエ変換部51、相関処理部52、本発明の「逆変換部」に相当する逆フーリエ変換部53、および重複加算部54を備える。
【0042】
フーリエ変換部51は、DPX13を介してアンテナ14から入力された時間軸上の受信エコー信号y[t]を所定サンプリングタイミングにて離散化することで受信エコー信号y[n]を取得して記憶する。ここで、nはサンプリング番号である。フーリエ変換部51は、受信エコー信号y[n]を所定サンプリングデータ数毎に区間分割する。
【0043】
フーリエ変換部51は、各部分区間の受信エコー信号ym[n]を順次フーリエ変換し、周波数領域の受信エコー信号Ym[k]を生成する。ここで、mは部分区間番号であり、kは離散周波数である。フーリエ変換部51は、周波数領域の受信エコー信号Ym[k]を、部分区間毎に相関処理部52へ与える。
【0044】
この際、フーリエ変換部51は、各部分区間の受信エコー信号ym[n]の遅延側に後述の相関処理で必要となる「0」からなるダミーサンプリングデータ群を、送信パルス信号のパルス長に相当する個数加えた上で、各部分区間のサンプリングデータ数が2個となるように、区間分割を設定して、フーリエ変換を実行する。これにより、フーリエ変換部51は、各部分区間の受信エコー信号ym[n]を高速フーリエ変換(FFT)処理することができる。この結果、各部分区間の受信エコー信号ym[n]を周波数領域の受信エコー信号Ym[k]へ高速に変換することができる。
【0045】
相関処理部52は、メモリ521および乗算器522を備える。
相関処理部52は、メモリ521に記憶された離散周波数毎のレプリカ信号Re[k]を、乗算器522で受信エコー信号Ym[k]に乗算することで相関処理を行い、相関処理後の信号Zm[k]=N・Re[k]・Ym[k]を出力する。なお、NはDFTのデータ点数を意味する。
【0046】
この相関処理後の信号Zm[k]が周波数領域でのパルス圧縮信号となる。なお、以下では、「パルス圧縮信号」と称して説明を行う。また、ここでは、機能的に相関処理を示しているが、これらの処理は、フィルタバンクであるメモリ521にフィルタ係数としてレプリカ信号Re[k]の各離散周波数成分を記憶し、当該フィルタ係数によって乗算器522で受信エコー信号Ym[k]をフィルタ処理するマッチドフィルタとして実現することができる。
【0047】
メモリ521に記憶されたレプリカ信号Re[k]は具体的に次に示す手法により設定されている。図2は、本願の周波数領域でのレプリカ信号Re[k]となる離散的な時間領域で信号x[Np−1−n]の生成概念、および、当該信号x[Np−1−n]で相関処理した場合の時間領域でのパルス圧縮信号の波形を示す図である。
【0048】
(1)図2(A)に示す離散化した送信パルス信号x[n]の波形を時間反転させた図2(B)の破線に示す信号x[−n]を算出する。ここで、信号x[−n]は現実的には、上述のようにDFT期間の最後のタイミングを立ち下がりタイミングとする波形(図2(B)の実線の波形)となるが、算出演算上は破線の波形と見なすことができる。
(2)時間反転された信号x[−n]を、送信パルス信号x[n]のパルス長Np分だけ遅延させた図2(C)に示す信号x[Np−1−n]を算出する。
(3)時間反転と遅延処理とが行われた信号x[Np−1−n]を複素共役処理してなる図2(D)に示す複素共役信号x[Np−1−n]をレプリカ信号Re[n]として算出する。
(4)レプリカ信号Re[n]である複素共役信号x[Np−1−n]を周波数領域の関数Re[k]=FFT[x[Np−1−n]]に変換し、離散周波数でのレプリカ信号に設定する。
【0049】
このようなレプリカ信号Re[k]を用いて相関処理を実行すると、時間領域でのパルス圧縮信号z[t]は、送信パルス信号x[n]のパルス長Np分だけ遅延されることで、上述の従来技術の図5に示したような不連続な波形ではなく、図2(E)に示すような連続的な波形となる。
【0050】
これにより、受信エコー信号ym[n]を周波数領域で順次相関処理し、これを時間領域に逆フーリエ変換して時間領域のパルス圧縮信号zm[n]を取得することにより、当該パルス圧縮信号zm[n]は、図3に示すように、時間領域で連続した波形となる。
【0051】
図3は、本実施形態の相関処理(パルス圧縮)と重複加算とを行った場合の各部分区間のパルス圧縮信号の時間軸上での状態を示す図である。
【0052】
例えば、部分区間の受信エコー信号y1[n]に対するパルス圧縮信号z1[n]を、上述のように、部分的なパルス圧縮信号z11[n],z12[n],z13[n]とした場合、時間領域において、これら部分的なパルス圧縮信号z11[n],z12[n],z13[n]が時系列で連続的に出力される波形からなるパルス圧縮信号z1[n]を得ることができる。
【0053】
逆フーリエ変換部53は、相関処理部52から出力される各部分区間のパルス圧縮信号Zm[k]を逆フーリエ変換することで、時間領域でのパルス圧縮信号zm[n]を取得する。
【0054】
重複加算部54は、各部分区間のパルス圧縮信号zm[n]を取得し、時間領域において各パルス圧縮信号zm[n]が時系列通りに連続するように重複加算処理を行う。より具体的には、図3(B)に示すように、重複加算部54は、パルス圧縮信号z1[n]の後端側の部分的なパルス圧縮信号z13[n]と、パルス圧縮信号z1[n]に連続するパルス圧縮信号z2[n]の先端側の部分的なパルス圧縮信号z21[n]とが、時間領域で重なり合うように加算する。さらに、重複加算部54は、パルス圧縮信号z2[n]の後端側の部分的なパルス圧縮信号z23[n]と、パルス圧縮信号z2[n]に連続するパルス圧縮信号z3[n]の先端側の部分的なパルス圧縮信号z31[n]とが、時間領域で重なり合うように加算する。そして、重複加算部54は、このような重複加算処理を受信期間分に亘って実行する。
【0055】
このような処理を行うことで、従来技術に示したような各部分区間のパルス圧縮信号内でのデータの並び替えを行う必要がない。これにより、周波数領域による相関処理と重複加算法とを用いたパルス圧縮処理を、従来よりも軽い演算負荷で、高速に実行することができる。そして、このようにパルス圧縮処理に対する演算負荷を低減して、高速化することで、物標探知処理全体としても、演算負荷の軽減化、および高速化を実現することができる。
【0056】
なお、上述の説明では、単にFMチャープ方式の送信パルス信号と説明したが、時間領域において対称な波形の送信パルス信号を用いる場合には、単に送信パルス信号の複素共役からなるレプリカ信号を用いても良い。
【0057】
図4は、時間領域で対称な波形の送信パルス信号x[n]を用いた場合の送信パルス信号と、レプリカ信号である複素共役信号x[n]の波形の関係を示した図である。
【0058】
送信パルス信号x[n]の波形が、時間領域で対称な場合、時間反転した波形も当然に同じになる。したがって、レプリカ信号として使用する時間反転複素共役信号は、単に複素共役信号と同じになる。このため、時間反転処理を必要とせず、時間反転処理を必要としない以上、遅延処理も必要としない。
【0059】
これにより、送信パルス信号x[n]の波形が時間領域で対称な場合、複素共役処理のみから算出されたレプリカ信号が、上述の時間反転処理、遅延処理、複素共役処理を実行したレプリカ信号と同じの信号となる。この結果、パルス圧縮信号を連続的にさせるレプリカ信号を簡素な処理で設定することができる。
【0060】
また、上述の説明では、送信パルス信号を時間反転処理、遅延処理、複素共役処理することで、レプリカ信号を設定する例を示したが、結果的に送信パルス信号を時間反転処理、遅延処理、複素共役処理した波形と同等の波形が得られるものであれば、他の方法でレプリカ信号を設定しても良い。
【0061】
また、上述の説明では、相関処理部52が1つである場合を示しているが、複数の相関処理部52を備え、それぞれの相関処理部52毎に、部分区間毎の受信エコー信号Ym[k]の相関処理を行ってもよい。
【0062】
また、上述の説明では重複加算処理を行う例を示したが、部分区間毎とパルス圧縮データの並び替えを行う必要がないという効果は、重複加算処理を行わない場合であっても適用することができる。したがって、重複加算処理を行わないパルス圧縮装置であっても上述の効果を得ることができる。
【0063】
また、上述の説明では、送信パルス信号に基づくレプリカ信号で受信信号をパルス圧縮するパルス圧縮装置を例に示したが、周波数領域で被相関処理信号を自己相関処理する装置であれば、上述の構成を適用することができる。
【0064】
また、上述の説明では、物標探知装置としてレーダ装置を例に示したが、周波数領域で被相関処理信号を自己相関処理した結果を用いるソナー等の装置であれば、上述の構成を適用することができる。
【0065】
また、上述の説明では、パルス圧縮部15を、フーリエ変換部51、相関処理部52、逆フーリエ変換部53、重複加算部54という個別の機能部で表して説明したが、必ずしも、これら機能部を個別に形成する必要はない。すなわち、パルス圧縮部15を1つのICで構成し、上述のような相関処理方法を用いたパルス圧縮処理を、プログラムとして記憶しておき、ICで実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
11−レーダ装置、12−送信部、13−DPX、14−アンテナ、15−パルス圧縮部、16−物標探知部、51−フーリエ変換部、52−相関処理器、53−逆フーリエ変換部、54−重複加算部、521−メモリ、522−乗算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状の被相関処理信号をレプリカ信号で相関処理する相関処理器であって、
前記被相関処理信号を時間領域から周波数領域へ変換する変換部と、
該被相関処理信号の元となるパルス状の信号を時間領域で反転処理し、パルス長分だけ遅延処理し、複素共役処理した波形と同じ波形を周波数領域に変換してなるレプリカ信号を、前記周波数領域の被相関処理信号に対して乗算することで相関処理を行う相関処理部と、
相関処理後の信号を周波数領域から時間領域へ逆変換する逆変換部と、
を備えた相関処理器。
【請求項2】
前記変換部は、前記被相関処理信号を時間領域で連続する複数の区間に分割して、前記周波数領域への変換を行い、
前記相関処理部は、区間分割された被相関処理信号毎に前記相関処理を行い、
前記逆変換部は、個別に相関処理された信号それぞれに前記逆変換を行うとともに、
前記逆変換が行われた信号を時間領域で連続するように加算する重複加算処理部を備える、請求項1に記載の相関処理器。
【請求項3】
前記パルス状の被相関処理信号は、時間領域において対称な波形の信号であり、
前記レプリカ信号を、前記被相関処理信号の元となるパルス状の信号を複素共役処理することで得る、請求項1または請求項2に記載の相関処理器。
【請求項4】
前記変換部は、前記被相関処理信号を離散化処理してパルス長以上のデータを2単位で変換する、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の相関処理器。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の相関処理器を備えるとともに、
前記相関処理部は、前記元となる信号としてFMチャープ方式の送信パルス信号を用い、該送信パルス信号を時間反転処理、遅延処理、および複素共役処理して得られる信号を前記レプリカ信号として、前記相関処理を行う、パルス圧縮装置。
【請求項6】
請求項5に記載のパルス圧縮装置を備えるとともに、
前記相関処理により得られたパルス圧縮後の信号を用いて、表示画面上に表示する画像を生成する画像生成部を備えた、物標探知装置。
【請求項7】
パルス状の被相関処理信号をレプリカ信号で相関処理する相関処理方法であって、
前記被相関処理信号を時間領域から周波数領域へ変換する工程と、
該被相関処理信号の元となるパルス状の信号を時間領域で反転処理し、パルス長分だけ遅延処理し、複素共役処理した波形と同じ波形を周波数領域に変換してなるレプリカ信号を、前記周波数領域の被相関処理信号に対して乗算することで相関処理を行う工程と、
相関処理後の信号を周波数領域から時間領域へ逆変換する工程と、
を有する相関処理方法。
【請求項8】
前記周波数領域へ変換する工程は、前記被相関処理信号を時間領域で連続する複数の区間に分割して、前記周波数領域への変換を行い、
前記相関処理を行う工程は、区間分割された被相関処理信号毎に前記相関処理を行い、
前記逆変換する工程は、個別に相関処理された信号それぞれに前記逆変換を行い、
さらに、前記逆変換が行われた信号を時間領域で連続するように加算する重複加算処理工程を加えた、請求項7に記載の相関処理方法。
【請求項9】
前記パルス状の被相関処理信号は、時間領域において対称な波形の信号であり、
前記相関処理を行う工程は、前記レプリカ信号を、前記被相関処理信号の元となるパルス状の信号を複素共役処理することで得る、請求項7または請求項8に記載の相関処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−286337(P2010−286337A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139969(P2009−139969)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】