説明

省エネルギーパターン描画方法及び省エネルギーパターン描画プログラム

【課題】レーザ描画装置を用いて被描画基板上の感光性レジストに露光し、所望のパターンをレーザ描画するパターン描画方法において、レーザの消費電力を削減した省エネルギーのパターン描画方法及びパターン描画プログラムを提供する。
【解決手段】レーザ描画装置を用いて複数の被描画基板上の感光性レジストに順次露光し、所望のパターンをレーザ描画するパターン描画方法であって、前記被描画基板にレーザ描画をしていない待機中は、前記レーザ描画装置のレーザの励起電流値を、前記レーザの出力調整が可能な範囲内での許容最低値に下げて消費電力を低減させ、前記被描画基板にレーザ描画をするときに、前記レーザの励起電流値を所定の電流値に立ち上げてから所望のパターンをレーザ描画することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用のフォトマスク(レチクルとも称される)等の所望する微細パターンを、レーザ描画装置を用いて被描画基板上の感光性レジストに露光してパターン形成するパターン描画方法に係わり、特にレーザ描画装置のエネルギー消費量を低減した省エネルギーパターン描画方法及び該描画方法を行う省エネルギーパターン描画プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、フォトマスク(以後、マスクとも言う)等の微細なパターンを被描画基板上に直接に作成するためのパターン描画装置としては、電子線描画装置とレーザ描画装置が用いられている。レーザ描画装置は、電子線描画装置に比べて、パターン形成の微細化の点ではやや劣るものの、真空系が不要なために装置設備の保守が容易で、製品を汚染する異物の管理も容易であり、大きなサイズの被描画基板にも比較的容易に対応できるために、その長所を生かしたフォトマスク等のパターン形成に広く使用されている。
【0003】
図7は、レーザ描画装置の一例として、市販のレーザ描画装置(ALTA−3000;アプライドマテリアルズ社製)の光学系の構成概略図である。レーザ描画装置は、描画部、描画制御部、コンピュータ制御部で構成されており、装置全体は、レーザを高速走査するレーザ光学系と被描画基板を走査するX−Yステージ部に分けられる。レーザビームの走査はラスタ走査方式で行われている。
【0004】
レーザ光源としては、ワット級の高出力の波長365nmのアルゴン(Ar)イオンレーザが主に用いられている。図7に示すように、レーザ光学系は、レーザ発振器71、レーザを分割するビームスプリッタ72、レーザビームをON/OFFするAOM(Acoust-Optic Modulator:音響光学変調器)73、高速走査する回転ポリゴンミラー74、f−θレンズ75、被描画基板77に結像させる投影レンズ76及びビーム幅や位置の調整を行うミラーレンズ等の光学部品で構成されている。レーザ発振器から出力されたレーザは複数本(例えば、32本)のレーザビームに分割され、平行光とされて被描画基板上の感光性レジストに同時に走査、露光されてパターンを形成する。
【0005】
ところで、レーザ描画装置は、フォトマスクの生産装置の中でも最大級の設備容量を有し、例えば上記のALTA−3000シリーズでは100kVAとなり、その消費電力の8割をアルゴン(Ar)イオンを励起ガスとする高出力レーザが占めている。 現状では、レーザ描画による生産工程における描画すべき製品と製品のインターバル(待機中)にも、レーザは直前に処理された製品に必要な電流値を保っており、そのために大きな待機電力を消費している。
【0006】
レーザは電灯のように安易に消灯させては発振しなくなることがあるため取り扱いには十分に注意しなければならないデリケートな装置であり、レーザ描画装置によるパターン描画においては、パターン位置精度や寸法精度を高精度に保ち、微細パターンを安定して形成するという理由のため、パターン描画をしていない待機中もレーザの励起電流値を描画時とほぼ同等の電流値に維持しておくのが望ましいとされていた。そのため、常時、描画時と同程度の大きな電力を消費しており、省エネルギーの観点からは問題があった。
【0007】
レーザプリンターや複写機等の画像形成装置の分野では、省エネルギーモードを有する画像形成装置が提案されてはいるが(例えば、特許文献1参照)、数nm〜数10nmの微細パターンを形成する半導体分野で用いるレーザ描画装置においては、上記のように、安定して高精度のパターン描画が常に可能な状態にレーザ描画装置を維持することに主眼が置かれているために、レーザ描画をしていない待機中も大きな電力が消費されたままであるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−20047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、レーザ描画装置を用いて被描画基板上の感光性レジストに露光し、所望のパターンをレーザ描画するパターン描画方法において、消費電力を削減した省エネルギーのパターン描画方法及びパターン描画プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のように、従来、レーザ描画装置でパターン描画されるフォトマスク等のパターン位置精度や寸法精度を高精度に保つためには、レーザを一定出力にして用いるのが望ましいとされていた。しかし、本発明者は、レーザの光軸変動を制御するための複数のピエゾ素子形偏光ミラーと光位置検出器とを組み合わせた光軸安定化フィードバックシステム技術がレーザ描画装置メーカーによって確立され、レーザ出力を可変にした場合にも致命的な描画精度の悪化に直結するような光軸変動は発生しないレベルに至っているものと判断し、省エネルギーの観点から種々検討の結果、本発明を完成させたものである。
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の発明に係るパターン描画方法は、レーザ描画装置を用いて複数の被描画基板上の感光性レジストに順次露光し、所望のパターンをレーザ描画するパターン描画方法であって、前記被描画基板にレーザ描画をしていない待機中は、前記レーザ描画装置のレーザの励起電流値を、前記レーザの出力調整が可能な範囲内での許容最低値に下げて消費電力を低減させ、前記被描画基板にレーザ描画をするときに、前記レーザの励起電流値を所定の電流値に立ち上げてから所望のパターンをレーザ描画することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項2に記載の発明に係るパターン描画方法は、請求項1に記載のパターン描画方法において、前記レーザの励起電流値の所定の電流値への立ち上げを、段階的に行うことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項3に記載の発明に係るパターン描画方法は、請求項1または請求項2に記載のパターン描画方法において、前記レーザの励起電流値を前記許容最低値へ下げる操作と前記所定電流値へ立ち上げる操作とを含む電流値操作を、前記レーザが格納されている筐体を開放することなく遠隔操作で行うことを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項4に記載の発明に係るパターン描画方法は、請求項1から請求項3までのうちのいずれか1項に記載のパターン描画方法において、前記被描画基板が、フォトマスクブランクス基板であることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の請求項5に記載の発明に係るパターン描画プログラムは、レーザ描画装置を用いて複数の被描画基板上の感光性レジストに順次露光し、所望のパターンをレーザ描画するパターン描画プログラムであって、前記被描画基板にレーザ描画をしていない待機中は、前記レーザ描画装置のレーザの励起電流値を、前記レーザの出力調整が可能な範囲内での許容最低値に下げて消費電力を低減させる手順と、前記被描画基板にレーザ描画をするときに、前記レーザの励起電流値を所定の電流値に立ち上げてから所望のパターンをレーザ描画する手順と、をコンピュータに実行させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のパターン描画方法によれば、レーザ描画によるパターン形成において、描画をしていない待機中も常に一定のレーザ出力が望ましいとされていた従来のパターン描画方法に対し、待機中はレーザの出力調整が可能な範囲内での許容最低値にレーザの励起電流値下げて消費電力を低減させ、描画されるパターンの精度を維持しながら省エネルギー効果を得ることが可能となる。
また、本発明のパターン描画方法は、省エネルギーが実現できると共に不要なレーザ出力が低減されるため、レーザエネルギーによるレーザ内部及び描画装置の光学系の焼け、いわゆるヘイズ現象に起因する透過率低下を軽減させるため、レーザ及び光学機器の延命化が図れる。
【0017】
本発明のパターン描画プログラムは、省エネルギー対策を行うパターン描画の一連の手順をコンピュータに読み込ませて実行させることにより、ネットワーク経由やコンピュータに読み込み可能な記録媒体を通じて提供することができる。
また、本発明のパターン描画プログラムにより、レーザが格納されている筐体を開放することなく遠隔操作でレーザの電流値を操作することで、筐体内のクリーン度を保ちながら高品質の被描画製品を得ることができ、かつ省エネルギーを実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】レーザ描画による本発明のパターン描画方法の工程の手順を示すフローチャートである。
【図2】図1に示す本発明のパターン描画方法による各工程でのレーザ描画装置の消費電力と、従来のパターン描画方法によるレーザ描画装置の消費電力とを比較して示す概念図である。
【図3】レーザ描画装置のレーザ電流値(入力)とレーザ出力との関係を示す図である。
【図4】本発明の一実施例におけるフォトマスクのパターン描画におけるレーザ描画装置のレーザ励起電流の日負荷曲線を示す図である。
【図5】フォトマスクの製造工程を示す概要図である。
【図6】図5の各工程における断面模式図及びY方向から見た矢視図である。
【図7】市販のレーザ描画装置の光学系の構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(パターン描画方法)
本発明のパターン描画方法は、レーザ描画装置を用いて複数のフォトマスクブランクス(マスクブランクスとも言う)基板等の被描画基板上の感光性レジストに順次露光し、所望のパターンをレーザ描画するパターン描画方法において、被描画基板にレーザ描画をしていない待機中は、レーザ描画装置のレーザの励起電流値を、レーザの出力調整が可能な範囲内での許容最低値に下げて消費電力を低減させ、被描画基板にレーザ描画をするときに、レーザの励起電流値を所定の電流値に立ち上げてから所望のパターンをレーザ描画するものである。
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係るパターン描画方法について、従来のパターン描画方法と比較しながら詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明のパターン描画方法を適用する代表的な例として、フォトマスクの製造工程について説明する。図5は、レーザ描画装置を用いて、マスクブランクス基板上の感光性レジストに所望のパターンをレーザ描画し、フォトマスクを製造する工程を示す概要図である。図6は、図5の(S1)〜(S4)までの各工程における断面模式図(図6(a))及びY方向から見た矢視図(図6(b))である。
【0021】
合成石英基板1の上に遮光膜2を設け、さらに感光性レジスト3が形成されたマスクブランクス基板を準備し、レーザ描画装置を用いて所望のパターンをレーザ描画し、レーザ描画部4を形成する(工程(S1))。次に、描画した感光性レジスト3を現像して、レジストパターンを形成する(工程(S2))。次に、露出した遮光膜2をエッチングして遮光膜パターンを形成する(工程(S3))。次いで、感光性レジスト3を剥膜してフォトマスクが得られる(工程(S4))。この後、マスクを洗浄し(工程(S5))、製品として出荷される(工程(S6))。
【0022】
次に、上記のレーザ描画装置を用いて所望のパターンをレーザ描画する工程(S1)について、本発明のパターン描画方法を詳しく説明する。
【0023】
図1は、本発明のパターン描画方法の工程の手順の一例を示すフローチャートであり、フォトマスクのパターン描画を例にしている。比較のために、従来のパターン描画方法で行った場合について、本発明と異なる点について本発明の説明の下に従来技術として説明してある。図2は、図1に示す本発明のパターン描画方法による工程(1)〜(6)(時間(t)で示す)におけるレーザ描画装置の消費電力と、従来のパターン描画方法によるレーザ描画装置の消費電力とを比較して示す概念図である。図2は概念図なので数値は表示していない。図2において、本発明を黒棒線、従来技術を斜線棒線で示す。
【0024】
まず、図1の工程(1)に示すように、感光性レジストが形成されたマスクブランクス基板を準備し、製品要求に応じたレーザ出力を設定後、フォトマスクAのパターン描画を行う。図2に示すように、工程(1)においては、本発明と従来技術との消費電力は同じである。
【0025】
描画終了後、図1の工程(2)に示すように、フォトマスクAは描画装置から取り出され、次のパターン描画まで待機状態となる。本発明では、待機中は、レーザ出力は下限値に自動的に設定され、レーザの励起電流値はレーザの出力調整が可能な範囲内での許容最低値に下げられ、図2の工程(2)に示すように、消費電力は低減される。一方、従来技術では、待機中のレーザ出力はフォトマスクAを描画したままの値で固定されており、消費電力も変わらない。
【0026】
次に、図1の工程(3)に示すように、次の感光性レジストが形成されたマスクブランクス基板を準備し、製品要求に応じたレーザ出力を設定後、フォトマスクBのパターン描画を行う。図2に示すように、フォトマスクBはフォトマスクAよりも大きい消費電力を要している。工程(3)において、本発明と従来技術との消費電力は同じである。
【0027】
描画終了後、図1の工程(4)に示すように、フォトマスクBは描画装置から取り出され、次のパターン描画まで待機状態となる。本発明においては、待機中は、レーザ出力は下限値に自動的に設定され、レーザの励起電流値はレーザの出力調整が可能な範囲内での許容最低値に下げられ、図2の工程(4)に示すように、消費電力は低減される。一方、従来技術では、待機中のレーザ出力はフォトマスクBを描画したままの値で固定されており、消費電力も変わらない。
【0028】
図1の工程(5)に示すように、次製品待ちとなる待機状態においても、本発明においては、レーザ出力は下限値に自動的に設定されたままであり、図2の工程(5)に示すように、消費電力は低減された状態が維持される。一方、従来技術では、次製品待ち待機中においてもレーザ出力はフォトマスクBを描画したままの値で固定されており、消費電力も変わらない。
【0029】
次に、図1の工程(6)に示すように、次のマスクブランクス基板を準備し、製品要求に応じたレーザ出力を設定後、フォトマスクCのパターン描画を行う。図2に示すように、フォトマスクCはフォトマスクAよりもやや大きいがフォトマスクBよりも小さい消費電力を要している。工程(6)において、本発明と従来技術との消費電力は同じである。
【0030】
以上により、レーザ描画装置によるパターン描画工程が完了する。なお、上記の説明では、マスクブランクス基板が3枚の場合を例に説明したが、もとより描画装置は常に製品を描画している状態にあって稼働率が高いのが好ましい。
【0031】
本発明においては、上記の本発明のパターン描画方法と従来のパターン描画方法との消費電力の差分が省エネルギー効果分となる。
【0032】
上記のフォトマスクのパターン描画において、フォトマスク製品毎にレーザ出力を設定しているのは、レーザ出力を制御することにより露光量を変えてパターン寸法制御を行っているためである。図3は、レーザ描画装置のレーザの入力電流値(励起電流値)とレーザ出力(mW)との関係を示す図である。レーザ入力電流とレーザ出力が比例関係にあることがわかる。
【0033】
フォトマスクのパターン寸法を製品毎に制御すべき理由は、フォトマスクの顧客毎に寸法定義が違うことと、フォトマスクのパターンの粗密度に依存してマスク製造プロセスの処理率が変動する分を補償しなければならないことによる。例えば、前者は、フォトマスクメーカーでの1μmは、ある半導体メーカーでは1.005μmであり、別の半導体メーカーでは0.99μmである、と様々な寸法定義に従ったパターン寸法調整が求められるためであり、後者は物理現象としてレジストパターンがマスク製造プロセス(現像やエッチング)で変化するため、パターンの粗密度に依存して最終的なパターン寸法が規定値から逸脱しないようにパターン描画条件を調整する必要があるためである。
【0034】
本発明のパターン描画方法は、許容最低値に下げたレーザの励起電流値を所定の電流値へ立ち上げるのに際し、段階的に立ち上げていくのが好ましい。励起電流値を下げて冷えた状態のレーザに急に大電流を流して立ち上げると、ショートしてレーザが破損する恐れがあるからである。また、最初から一気に大電流を流すと、レーザが出力されていないと誤認されてエラーになる恐れがあるからである。したがって、励起電流値を所定の電流値へ立ち上げるときは、低電流から段階的に、例えば3段階にして、徐々に立ち上げていくのが好ましい。
【0035】
本発明のパターン描画方法は、レーザの励起電流値を許容最低値へ下げる操作と所定電流値へ立ち上げる操作とを含む電流値操作を、プログラムを作って自動的に行うことができる。そのため、レーザ及び被描画基板が格納されている筐体を開放することなく遠隔操作で行うことができ、筐体内のクリーン度を保ちながら省エネルギーを実現することができる。
【0036】
上記のように、本発明のパターン描画方法によれば、描画対象製品が流れていない状態においても一定のレーザ出力が望ましいとされ、高出力、高ドーズ量のレーザ状態を保持してきた従来のパターン描画方法に対し、レーザの励起電流値をレーザの出力調整が可能な範囲内での許容最低値に下げて消費電力を低減させ、描画されるパターンの精度を維持しながら省エネルギー効果を得ることが可能となる。
【0037】
また、本発明のパターン描画方法は、省エネルギーが実現できると共に不要なレーザ出力が低減されるため、レーザ内部及び描画装置の光学系の焼け、いわゆるヘイズ現象に起因する透過率低下を軽減させるため、レーザ及び光学機器の延命化が図れる。
【0038】
本発明のパターン描画方法を適用するレーザ描画装置としては、レーザ出力を変えることにより露光量(ドーズ量)を調整することができる装置が好ましい。本発明では、レーザ励起電流を調整することによりレーザ出力を変えるからである。上記の好ましいレーザ描画装置として、具体的には、例えば、ALTA3000、ALTA3100、ALTA3500、ALTA3700、ALTA3900、CORE(いずれもアプライドマテリアルズ社製)等が挙げられる。
【0039】
(パターン描画プログラム)
上記の本発明のパターン描画方法の一連の手順は、プログラムに組み込んで、コンピュータに実行させることができる。
【0040】
本発明のパターン描画プログラムは、被描画基板にレーザ描画をしていない待機中は、レーザ描画装置のレーザの励起電流値を、レーザの出力調整が可能な範囲内での許容最低値に下げて消費電力を低減させる手順と、被描画基板にレーザ描画をするときに、レーザの励起電流値を所定の電流値に立ち上げてから所望のパターンをレーザ描画する手順と、をコンピュータに実行させるものである。
【0041】
本発明のパターン描画プログラムは、省エネルギー対策を行うパターン描画の一連の手順をコンピュータに読み込ませて実行させることにより、ネットワーク経由やコンピュータに読み込み可能な記録媒体を通じて提供することができる。また、本発明のパターン描画プログラムにより、レーザや被描画基板が格納されている筐体を開放することなく遠隔操作で電流値を操作することで、筐体内のクリーン度を保ちながら省エネルギーを実現させることができる。
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0042】
被描画基板として石英基板(直径6インチ、厚み6.35mm)の一主面上に遮光膜としてクロム薄膜(厚み60nm)を有し、このクロム薄膜上に感光性レジストをスピンコート法で塗布し、120℃で10分間乾燥したフォトマスクブランクスを複数枚準備した。乾燥後の感光性レジスト厚は、いずれも0.3μmとした。
【0043】
レーザ描画装置ALTA3100(アプライドマテリアルズ社製)を用いて、上記の複数のフォトマスクブランクス基板上の感光性レジストに順次露光して、所望のパターンをレーザ描画した。また、シミュレーションにより本発明のパターン描画方法(実施例)と従来技術によるパターン描画方法(比較例)との比較を行い、省エネルギー効果を確認した。ここで、従来技術とは、上記に説明したように、レーザ描画をしない待機中に、レーザ出力をパターン描画した直前の状態の値に固定したままのパターン描画方法を意味するものである。
【0044】
上記のレーザ描画装置において、レーザ(レーザはコヒーレント社製)はアルゴンイオンレーザ(連続発振レーザ)で波長365nm、定格電圧は3相480V、 定格電流は40〜65A、最高出力は3Wの高出力レーザで、負荷率は60%程度、負荷力率は0.98で運転しており、常時約60kWの電力を消費している。上記レーザの励起電流値の出力調整が可能な範囲内での許容最低値は40Aである。
【0045】
レーザ描画装置ALTA3100は、UNIX(登録商標)オペレーションになっている。本発明者は、レーザの励起電流値を許容最低値へ下げる操作と所定電流値へ立ち上げる操作とを含む電流値操作を、プログラムを作って自動的に行うプログラムを作成し、レーザ描画装置に適用した。
【0046】
図4は、レーザ描画装置のレーザ励起電流の日負荷曲線を示す。図中の細線が本実施例、太線が従来技術による比較例であり、24時間のレーザ励起電流(線電流)の値(A)を示す。図4において、フォトマスク製品毎に露光量を調整してレーザ出力を変更してパターン寸法制御を行っているため、パターン描画時には、本実施例と比較例はともに電流値は同じ値ではあるが製品毎に凹凸に変動していることがわかる。図4に示すように、本実施例(細線)では、レーザ描画していない待機中において、レーザの電流値は許容最低値である40Aまで大きく下げられて消費電力を低減させており、次のフォトマスクブランクス基板をレーザ描画するときに、再び所定の電流値に立ち上げられている。
【0047】
次に、製品処理の待機中を装置ログから確認し、レーザ励起電流値を許容最低値まで下げる省エネルギー(省エネとも記す)のシミュレーションを行った。図4に示す省エネシミュレーションの時間積分と従来技術における時間積分との差分が省エネ効果分となる。
【0048】
平均的な製品のスループットは2時間で、製品描画前後のセットアップ、クリーンアップ時間は、材料の出し入れ、描画ステージへのロボット搬送や材料のアライメント、レーザの出力調整などで平均10分程度必要であり、フル稼働時で11枚/日程度の生産量である。
【0049】
描画中以外の搬送時や製品の入れ替え時が省エネ可能な時間となるが、連続で数枚のフォトマスクをセットして出し入れ時間が軽減される場合や、同一条件での描画を行う場合にはレーザの出力調整が必要にならない場合などがあり、単純な理論計算はできないが、フル稼働時の装置ログから調査したところ、平均して2時間程度は省エネ可能時間があることがわかった。例えば、描画時のレーザの電流値が50Aの製品を処理した後に、許容最低値である40Aに下げることで10A分の省エネとなる。
【0050】
消費電力で考えれば、装置の定格値と市販の電力系で測定した負荷力率から、削減される消費電力を計算すると、
√3×定格電圧(V)×Δ電流(A)×負荷力率=1.73×480×10×0.98=8137.9(W)
となり、消費電力100(W)の蛍光灯を81本強消灯させるのと同等の省エネ効果が得られる。消費電力量としては従来値と待機中の電流値の差分を計算すればよい。
【0051】
レーザ描画を行った基板は、現像し、クロム薄膜を塩素と酸素の混合ガスでドライエッチングした後、感光性レジストを剥膜し、洗浄して、所望するパターンを有する複数のフォトマスクを得た。本実施例によるマスクの品質は従来技術と同等であった。
本発明者は、レーザ描画装置に本発明のパターン描画方法を徐々に適用し、3ケ月間で2600kWhの省エネ効果を達成した。
【符号の説明】
【0052】
1 合成石英基板
2 遮光膜
3 感光性レジスト
4 レーザ描画部
71 レーザ発振器
72 ビームスプリッタ
73 AOM
74 ポリゴンミラー
75 f−θレンズ
76 投影レンズ
77 被描画基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ描画装置を用いて複数の被描画基板上の感光性レジストに順次露光し、所望のパターンをレーザ描画するパターン描画方法であって、
前記被描画基板にレーザ描画をしていない待機中は、前記レーザ描画装置のレーザの励起電流値を、前記レーザの出力調整が可能な範囲内での許容最低値に下げて消費電力を低減させ、
前記被描画基板にレーザ描画をするときに、前記レーザの励起電流値を所定の電流値に立ち上げてから所望のパターンをレーザ描画することを特徴とするパターン描画方法。
【請求項2】
前記レーザの励起電流値の所定の電流値への立ち上げを、段階的に行うことを特徴とする請求項1に記載のパターン描画方法。
【請求項3】
前記レーザの励起電流値を前記許容最低値へ下げる操作と前記所定電流値へ立ち上げる操作とを含む電流値操作を、前記レーザが格納されている筐体を開放することなく遠隔操作で行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパターン描画方法。
【請求項4】
前記被描画基板が、フォトマスクブランクス基板であることを特徴とする請求項1から請求項3までのうちのいずれか1項に記載のパターン描画方法。
【請求項5】
レーザ描画装置を用いて複数の被描画基板上の感光性レジストに順次露光し、所望のパターンをレーザ描画するパターン描画プログラムであって、
前記被描画基板にレーザ描画をしていない待機中は、前記レーザ描画装置のレーザの励起電流値を、前記レーザの出力調整が可能な範囲内での許容最低値に下げて消費電力を低減させる手順と、
前記被描画基板にレーザ描画をするときに、前記レーザの励起電流値を所定の電流値に立ち上げてから所望のパターンをレーザ描画する手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするパターン描画プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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