説明

真空アーク放電発生装置及び蒸着装置

【課題】本発明は、持続的に真空アーク放電を保持することができる真空アーク放電発生装置を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明は、真空中でアーク電源を介して接続される陰極と陽極との間にアーク放電を発生させ、前記陰極と前記陽極と前記アーク電源とが真空アークプラズマを介して主閉回路を形成する真空アーク放電発生装置において、装置内に副陽極を配置し、少なくとも前記陰極と前記副陽極と前記アーク電源とが真空アークプラズマを介した副閉回路を形成し、前記副閉回路に副陽極を介してアーク放電の状態を計測するモニター装置を配設することを特徴とする真空アーク放電発生装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク放電を発生させる真空アーク放電発生装置に関し、更に詳細には、真空中でアーク電源を介して接続される陰極と陽極との間にアーク放電を発生させ、前記陰極と前記陽極と前記アーク電源とが真空アークプラズマを介して主閉回路を形成する真空アーク放電発生装置及びそれを用いた蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空アーク放電発生装置は、真空雰囲気下にある陰極と陽極の間にアーク放電を生起して真空アークプラズマ(以下、単に「プラズマ」とも称する)を発生させる装置であり、このプラズマを利用して蒸着膜の形成や表面改質等を行うことができる。真空アーク蒸着装置では、真空アーク放電を発生させることにより、陰極を蒸発させてイオン化し、同イオンを含む真空アークプラズマを形成し、陰極材料からなる薄膜又は陰極材料と雰囲気ガスとからなる反応膜を基板上に生成させる。真空アーク放電を利用した蒸着装置は、蒸気のイオン化率が高く、緻密で密着性に優れた蒸着膜(被膜)が得られるため、工具、機械部品等への耐摩耗性の硬質被膜形成に適していることが特開2001−316801号公報(特許文献1)及び特開2005−213604号公報(特許文献2)に記載されている。
【0003】
図9は、前記特許文献1に記載される従来の真空アーク蒸着装置の構成概略図であり、真空チャンバ101内の陰極102と陽極107との間の真空アーク放電によりプラズマを発生させて、基板109に蒸発粒子を蒸着する装置である。陰極102、トリガ電極103及び陽極107は、真空チャンバ101と絶縁されるように各電流導入端子104を介して外部の電気回路に接続されている。トリガ電極103は、第一電極102に接触させて真空アーク放電を発生させる電極であり、電流制限抵抗器105を介して第一電源106に接続されている。排気システム132によりガスが排気され、ガス導入システム131により、一定流量のガスが導入されることにより、プラズマは、陰極102からの陰極蒸発粒子112と陽極107からの陽極蒸発粒子113と共に、導入ガスの反応性粒子115を含んでおり、プラズマ中に配置された基板109の表面に混合膜114が成膜される。更に、特許文献1では、図示していないが、陽極107とは別に副陽極を設けること、又は真空チャンバ101を副陽極として用いることが記載されている。これらの副陽極は、陰極102からの蒸発を促進するために設けられるものであるが、それ以上の機能を有するものではなく、構造の複雑化に見合った機能が付加されてこなかった。
【0004】
真空アーク放電の点弧では、前記トリガ電極103を陰極102に接触させて、電流を流した状態で引離すことによりスパークを発生させる。前記電流制限抵抗器105によって、前記トリガ電極103を陰極102の間の抵抗が陰極102と陽極107の間の抵抗に対して低くなるため、陰極102と陽極107の間にプラズマからなるアーク(電弧)が形成される。
図10に示すように、陰極102の表面には陰極点102aが発生し、この陰極点102aからプラズマを構成する図9の陰極蒸発粒子112が放出される。特公平5−48298号公報(特許文献3)及び特許文献2には、前記陰極点102aが陰極表面102b上を不規則及び/又は無制御に運動することが記載されている。この運動により陰極点102aが陰極表面102bの縁を通過しようとするとアークが消弧するため、再度、図9に示すトリガ電極103を陰極102に接触させる必要があった。
【0005】
特許文献3には、図9における陰極102の背面側に磁石を設置すると共に、陰極点が陰極表面のみを運動するように磁界の強さを調整することが記載されている。しかしながら、陰極点の運動を制御しても、その運動によって消耗した陰極表面上を移動するため、陰極102と陽極107の距離が変動して、真空アーク放電が不安定になる場合があった。これを解決するため、特許文献2には、円盤状の蒸着源(陰極)を回転させて、新たな陰極表面に真空アーク放電を生起することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−316801号公報
【特許文献2】特開2005−213604号公報
【特許文献3】特公平5−48298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、図9に示した蒸着装置に用いられる従来の真空アーク放電発生装置では、アークが自己消弧する度にトリガ電極103を陰極102に接触させるため、連続的に安定してプラズマを供給することが困難であった。前述のように、アークの自己消弧は、陰極点の運動を起因とする場合があるが、その運動を磁界によって制御しても、消耗した陰極表面上では、陰極102の表面と陽極107の距離が変動することによりアーク持続電圧が保持され難くなり、陰極表面の状態によってアークが不安定となるため、自己消弧する場合もあった。
【0008】
また、特許文献2には、円盤状の蒸着源(陰極)を回転させて、新たな陰極表面にアーク放電を生起することが記載されているが、陰極の回転装置や、真空アーク放電発生装置の構造を複雑にして、メンテナンスを行うことが煩雑な作業となり、ランニングコストや製造コストを増大させる。
また、従来の真空アーク放電発生装置では、前記陰極102と陰極周辺にある真空チャンバ101の内壁やトリガ電極103との間に異常放電が発生する場合があり、アーク放電を不安定化させ、プラズマ電流の大幅な減少やアーク放電の自己消弧等を引き起こす可能性があった。しかしながら、従来の真空アーク放電発生装置では、異常放電の発生を正確に検出する手段が設けられていなかった。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、真空アーク放電の状態をモニターして、安定且つ持続的に真空アーク放電を保持することができる真空アーク放電発生装置及びこれを用いた蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、真空中でアーク電源を介して接続される陰極と陽極との間にアーク放電を発生させ、前記陰極と前記陽極と前記アーク電源とが真空アークプラズマを介して主閉回路を形成する真空アーク放電発生装置において、装置内に副陽極を配置し、少なくとも前記陰極と前記副陽極と前記アーク電源とが真空アークプラズマを介した副閉回路を形成し、前記副閉回路に副陽極を介してアーク放電の状態を計測するモニター装置を配設する真空アーク放電発生装置である。ここで、真空中でアーク電源は、真空中でアーク放電を発生できる直流電源、交流電源、又はパルス電源であり、直流電源の場合、通常、定格電圧が5〜100Vの範囲、定格電流が5〜300Aの範囲である。
【0011】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記副陽極は、それ自身が蒸発しない不活性状態に保持される真空アーク放電発生装置である。
【0012】
本発明の第3の形態は、前記副閉回路を流れる副電流が前記主閉回路を流れる主電流より小さく設定される請求項1又は2に記載の真空アーク放電発生装置。
【0013】
本発明の第4の形態は、第1、2又は3の形態において、前記モニター装置は、抵抗、コンデンサ、コイル(インダクタ)、定電圧源、定電流源、定電力源、電圧計、電流計、電力計、電子負荷又はそれらの1種以上から構成される真空アーク放電発生装置である。
【0014】
本発明の第5の形態は、第1〜4のいずれかの形態において、前記真空アークプラズマが前記陰極の蒸発面(陰極前面)より後方へ拡散することを防止するため、及び/または、真空アーク陰極点が陰極側面に移動するのを防止するために配置される導電性シールドを前記副電極として利用する真空アーク放電発生装置である。
【0015】
本発明の第6の形態は、第5の形態において、前記シールドとは別に前記副電極を配置する真空アーク放電発生装置である。
【0016】
本発明の第7の形態は、第5又は6の形態において、前記シールドは、導電性シールド又は非導電性シールドのいずれかであり、磁性体又は非磁性体から形成される真空アーク放電発生装置である。
【0017】
本発明の第8の形態は、第1〜7のいずれかの形態において、前記陰極と前記副陽極と前記陽極が各々1個以上配置される真空アーク放電発生装置である。
【0018】
本発明の第9の形態は、第1〜8のいずれかの形態の真空アーク放電発生装置と、前記真空アーク放電発生装置により生成される陰極蒸発物質を被処理物の表面に蒸着する蒸着処理部を少なくとも具備する真空アーク蒸着装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の形態によれば、装置内に副陽極を配置し、少なくとも前記陰極と前記副陽極と前記アーク電源とが真空アークプラズマ(以下、単に「プラズマ」とも称する)を介した副閉回路を形成し、前記副閉回路に副陽極を介してアーク放電の状態を計測するモニター装置を配設するから、真空アーク放電の状態をモニターして、安定且つ持続的に真空アーク放電を保持することができる。前記副陽極は、主として前記真空アークプラズマが進行するプラズマ進行路及び/又は前記陰極が設置されるプラズマ発生部に設けられるが、後述するドロップレット捕集部のような付設部分に設置しても良い。尚、プラズマ発生部は、真空雰囲気下にある陰極及びトリガ電極と陰極周辺の領域から構成される。
第1の形態によれば、前記主閉回路の真空アークプラズマを保持しながら、前記副閉回路のモニター装置によって副閉回路のプラズマ電流及び/又は電圧を計測するから、真空アークプラズマの状態の一部をリアルタイムで観察することができる。従って、真空アークプラズマを用いて被処理物のプラズマ処理を行いながらプラズマの安定化を図ることができ、持続的なプラズマ処理を行うことができる。例えば、副閉回路電流が減少した場合に、前記アーク電源により印加される電圧を増加させることにより、アーク放電を保持することができる。更に、アークの自己消弧や陰極からの異常放電をリアルタイムで測定することができるから、主閉回路電流/電圧や副閉回路電流/電圧の調整やトリガ電極の作動を適宜に及び/又は自動的に行うことができる。トリガ電極は、通常、電動又は空圧アクチュエータによって機械的に駆動され、陰極表面に一旦接触し、およそ2秒以内に元の位置に戻る動作を行う。この動作には、電気的なトリガ電極動作信号を発生する装置を用い、その信号をもってアクチュエータを動作させる。
【0020】
本発明の第2の形態によれば、前記副陽極は、それ自身が蒸発しない不活性状態に保持されるから、前記プラズマが前記副陽極に接触して反応したり、前記副陽極から蒸発した不純物が混入したりすることが防止され、高純度の真空アークプラズマを供給することができる。前記副陽極は、前記モニター装置によりアーク放電の状態を計測する前記副閉回路に接続された電極であり、前記主閉回路の真空アークプラズマに対する影響が抑制されることが好ましく、前記副陽極が蒸発しない不活性状態に保持されることにより、第2の形態の副陽極は前記主閉回路の真空アークプラズマを持続させながら、前記アーク放電の状態をより正確に計測することができる。
【0021】
本発明の第3の形態によれば、前記副閉回路を流れる副電流が前記主閉回路を流れる主電流より小さく設定されるから、好適な量の真空アークプラズマを供給しながら、前記アーク放電の状態を計測することができる。プラズマ処理等に用いられるプラズマは、主として前記主閉回路の真空アークプラズマであり、前記副電流が小さく、前記主電流が大きく設定されることから、プラズマ処理に必要とされる所望のプラズマ電流を保持しながら、前記アーク放電の状態を部分的に計測することができる。
【0022】
本発明の第4の形態によれば、前記モニター装置は、抵抗、コンデンサ、コイル(インダクタ)、定電圧源、定電流源、定電力源、電圧計、電流計、電力計、電子負荷又はそれらの1種以上から構成されるから、電流や電圧などの計測に基づいて、前記アーク放電の状態をモニターすることができる。定電圧源、定電流源、定電力源をモニター装置として配設した場合、副閉回路のプラズマ電流、プラズマ電圧又はその電力が一定に保持されるから、所定量以上のプラズマを安定に供給することができる。また、前記モニター装置としては、抵抗、コンデンサ、コイル(インダクタ)、電子負荷と共に、一般的な電流計や電圧計を用いることができる。
【0023】
本発明の第5の形態によれば、導電性シールドを前記副電極として利用するから、前記導電性シールドにより前記真空アークプラズマが前記陰極蒸発面より後方へ拡散すること、及び/又は、真空アーク陰極点が陰極側面に移動することを防止できる共に、前記アーク放電の状態をモニターすることができる。また、前記導電性シールドにより異常放電の防止やその計測を行うことができる。更にまた、装置製造上、部品点数や加工箇所点数が少なくてすむ、という優位性もある。
【0024】
本発明の第6の形態によれば、シールドとは別に前記副電極を配置するから、前記シールドによって前記真空アークプラズマが前記陰極蒸発面より後方へ拡散すること、及び/または、真空アーク陰極点が陰極側面に移動することを防止できる共に、前記陰極からの蒸発を促進することができる。前記副陽極は、前記陰極と前記陽極との対向空間内に配置され、前記陽極よりも陰極側にあり、前記陰極と副陽極の間に真空アークプラズマを発生させることにより、前記陽極の方向に真空アークプラズマをより確実に誘導することができる。
【0025】
本発明の第7の形態によれば、前記シールドは、導電性シールド又は非導電性シールドのいずれかであり、磁性体又は非磁性体から形成されるから、目的に応じて適宜に陰極に対する磁界を形成して、真空アークプラズマの安定化を図ることができる。もちろん、シールドを副陽極として使用する場合、導電性シールドである必要がある。また、磁界を用いて陰極点の運動を制御する場合には、磁性体材料(例えば、軟鉄、積層鋼板、パーマロイ、磁性ステンレス鋼、など)で形成することが望ましい。磁界を用いて陰極点の運動を制御する場合、シールドは、磁界を整える意味があり、整磁板などとも呼ばれる。
【0026】
本発明の第8の形態によれば、前記陰極と前記副陽極と前記陽極が各々1個以上配置されるから、これらの電極を適宜に配置することにより、プラズマをより確実に所定位置まで輸送することができる。本発明に係る真空アーク放電発生装置において、プラズマが進行する経路が屈曲している場合、その屈曲部の前段と後段に前記副陽極を設けることにより、前記陰極からの蒸発を促進できると共に、プラズマの進行をモニターすることができる。
【0027】
本発明の第9の形態によれば、第1〜8のいずれかの形態の真空アーク放電発生装置と、前記真空アーク放電発生装置により生成される陰極蒸発物質を被処理物の表面に蒸着する蒸着処理部を少なくとも具備するから、真空アーク放電の状態を計測して、安定且つ持続的に真空アーク放電を保持することができ、高品質の蒸着膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係る真空アーク蒸着装置の構成概略図である。
【図2】図1に示した各電極の配置図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る真空アーク蒸着装置である。
【図4】第2実施形態の変形例となる真空アーク蒸着装置の構成概略図である。
【図5】本発明に係るシールドの実施形態を示す概略図である。
【図6】本発明に係るシールドの他の実施形態を示す概略図である。
【図7】本発明に係る副陽極とシールドの他の実施形態を示す概略図である。
【図8】本発明に係るシールドの他の実施形態を示す構成概略図である。
【図9】特許文献1に記載される従来の真空アーク蒸着装置の構成概略図である。
【図10】図9における陰極点の運動を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る真空アーク放電発生装置及び蒸着装置の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る真空アーク蒸着装置10の構成概略図である。真空アーク蒸着装置10は、真空アーク放電発生装置20とこれとに付設されたプラズマ加工部30からなり、これらは一体の真空チャンバ1から形成されている。真空アーク放電発生装置20は、プラズマ発生部27と真空アークプラズマが進行するプラズマ進行路22から構成される。プラズマ発生部27とは、真空雰囲気下にある陰極2及びトリガ電極3とそれらの周辺の領域である。真空アーク放電発生装置20のプラズマ進行路22には、陰極2、トリガ電極3、陽極7及び副陽極16が配設されている。前記陰極2には、シールド18が設けられ、このシールドにより、前記プラズマ発生部27において、陰極2の表面とトリガ電極の基端部3aと又は陰極周辺の発生部外壁1aとの間に異常放電が生じることが防止される。更に、陰極2と陽極7には、アーク電源6が接続され、陰極2、陽極7及びアーク電源6は、陰極2と陽極7の間に発生する真空アークプラズマを介して主閉回路を形成する。前記トリガ電極3を陰極2に接触させて、電流を流した状態で引離すことによりスパークを発生させる。電流制限抵抗器5によって、前記トリガ電極3と陰極2との間の抵抗が陰極2と陽極7との間の抵抗に対して高くなるため、陰極2と陽極7の間に真空アーク放電が生起される。このとき、陰極2の表面には陰極点が発生し、この陰極点からプラズマ17を構成する陰極蒸発粒子が放出される。被処理物9又はこの被処理物9上の蒸着膜に所定の特性を付与するために、導入口31から一定流量の反応性ガスを導入しても良く、排気口32からガスが排気される。なお、トリガ電極動作信号発生装置は図示していない。
【0030】
同様に、副陽極16には、モニター装置19を介してアーク電源6が接続されている。陰極2、副陽極16、モニター装置19及びアーク電源6は、陰極2と副陽極16の間に介在する真空アークプラズマを介して副閉回路を形成し、前記モニター装置19により真空アーク放電の状態を部分的に計測する。前記モニター装置19は、抵抗、コンデンサ、コイル、定電圧源、定電流源、定電力源、電圧計、電流計、電力計、電子負荷又はそれらの1種以上から構成される。例えば、モニター装置19に定電圧源が用いられる場合、真空アークプラズマの中間の電位が一定に保持されるため、全体の真空アークプラズマが安定化する。従って、被処理物9の表面に持続的に安定してプラズマを供給することができ、比較的均一な蒸着膜を成膜することが可能である。
【0031】
なお、真空アーク放電の性状から見て、副閉回路に流れる電流をモニターして制御するのが最も安定なプラズマ供給を行うことができ、副閉回路に流す電流(モニター電流)をアーク電流(アーク電源から供給される電流)の0.1%〜20%(モニター電流パーセント)に設定するのがよい。この範囲より大きいとプラズマの輸送効率が低下する。また、副閉回路に流す電流が低いと、アーク放電の持続性が低下する。電極材料によってアーク放電の最適制御可能なモニター電流パーセントは異なるが、黒鉛陰極の場合、大よそ5〜15%に設定するのがよい。この値より大きい場合、異常放電が発生していることを示しており、再点弧によって正常放電に戻す動作を行う信号を発生させる。又、この値より小さい場合、アーク放電が自己消弧している、又は、その前駆状態にある、ことを意味しており、やはり再点弧の信号を発生させる。なお、再点弧の信号というのは、トリガ電極動作信号のことである。副閉回路にアーク放電の状態を計測するモニター装置から発信される電気信号をトリガ電極動作信号発生装置が受信し、トリガ電極動作信号を発信する。黒鉛電極の場合、モニター電流パーセントを約10%に設定したところ、本発明を使用しなかった場合と比べ、自己消弧頻度を約5分の1以下にでき、異常放電頻度も約3分の1以下にでき、真空アーク放電を持続的に安定化することができた。
【0032】
図2は、図1に示した各電極の配置図である。図に示すように、円柱状の陰極2の前面外周にシールド18が設けられ、円筒状の副陽極16とテーパ状の陽極7が前記プラズマ進行路に沿って配設されている。陰極表面(陰極前面であり、蒸発させる面)2bと副陽極16及び陰極表面2bと陽極7の間に真空アーク放電が生起されて、真空アークプラズマが発生する。真空アークプラズマを構成する陰極材料粒子は、主として前記陰極表面2bに形成された陰極点2aから蒸発する。前記シールド18は、陰極点2aからの異常放電を防止する。陰極点2aは、陰極表面2b上を不規則に運動し、陰極表面2bの周縁に近づいたとき、異常放電を引き起こすことがあった。
【0033】
図3は、本発明の第2実施形態に係る真空アーク蒸着装置10である。この第2実施形態では、副陽極16が図1のシールド18の位置に設けられている。前記異常放電が引き起こされた場合、モニター装置19により異常放電を計測することができる。その他の部材は、図1と同様の構成を有し、同一の機能を有する部材には、同一符号を付しており、説明は省略する。
【0034】
図4は、第2実施形態の変形例となる真空アーク蒸着装置10の構成概略図である。真空アーク放電では、陰極2から陰極材料イオン、電子、陰極材料中性粒子(原子及び分子)といった真空アークプラズマ構成粒子が放出されると同時に、サブミクロン以下から数百ミクロン(0.01〜1000μm)の大きさのドロップレットが放出される。蒸着膜の成膜で問題となるのは、前記ドロップレットの発生であり、ドロップレットが被処理物9の表面に付着すると、蒸着膜の均一性が失われ、欠陥品となる。図4の実施形態では、真空アーク放電発生装置20にドロップレット捕集部23が設けられている。陰極2から進行してくるプラズマは、磁界により屈曲されて第2プラズマ進行路24に進行し、プラズマ加工部30に供給される。このとき、陰極2で発生したドロップレットは、磁界の影響を殆ど受けないため、直進してドロップレット捕集部23に捕集される。図4において、副陽極16が図1のシールド18の位置に設けられており、モニター装置19により異常放電等を計測することができる。
【0035】
図5は、本発明に係るシールドの実施形態を示す概略図である。(5A)に示したシールド18には、陰極表面2bの周縁だけでなく、陰極2の側面部を囲う外囲部25が設けられている。従って、陰極2とその周辺部の間に異常放電が発生することがより確実に防止される。(5B)では、陰極表面2bの両側にシールド18が設けられている。この場合、比較的簡単な構造を有するため、シールド18を簡易に配設することができる。尚、図5におけるシールドは、副陽極の機能も有する場合、前述のように接続されるモニター装置により真空アーク放電の状態が計測される。
【0036】
図6は、本発明に係るシールドの他の実施形態を示す概略図である。(6A)では、シールド18に板状の突出部26が設けられている。従って、シールド機能を有すると共に、前記陰極表面の蒸発を促進する、及び/又は、プラズマの輸送方向を方向付ける、及び/又は、放電を安定化する副陽極としての機能が増強されている。(6B)では、棒状の突出部26が設けられ、(6A)と同様に、シールド機能を有すると共に、陰極表面の蒸発を促進する、及び/又は、プラズマの輸送方向を方向付ける、及び/又は、放電を安定化する機能が増強されている。
【0037】
図7は、本発明に係る副陽極16とシールド18の他の実施形態を示す概略図である。副陽極16とシールド18が一体に形成され、陰極2と陽極7の間に配設されている。従って、図6に示したシールド18と同様に、シールド機能と副陽極16の機能を有しており、前記副陽16に接続されるモニター装置により、真空アーク放電の状態、即ち、真空アークプラズマを介した副閉回路の電流や電圧を計測する。
【0038】
図8は、本発明に係るシールドの他の実施形態を示す構成概略図である。図8のシールド18は、陰極側面2bを保護する外囲部25とシールド部28から構成され、陰極前面2bの周囲に設けられたシールド部28は、3層構造を有している。このシールド部28は、セラミック材料からなるシールド部材18cが軟鉄からなる整磁部材18a、18bにより挟まれている。整磁部材18aと18bとは金属製ボルト・ナット26で固定され、導通している。尚、整磁部材18aと18bを固定し、これらの電気的導通が保持されれば、種々の固定手段を用いることが可能である。この構造の場合、真空アーク放電によって汚染されたり、成膜されたりして汚れるシールドの表面、即ち、整磁部材18aの交換が容易である。また、前記整磁部材18a、18bではなく、非磁性ステンレスなどを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、真空アーク放電の状態をモニターして、安定且つ持続的に真空アーク放電を保持することができる真空アーク放電発生装置及びこれを用いた蒸着装置を提供することができる。従って、金属、半導体、絶縁体、DLC膜、ダイヤモンド膜等の単層膜、多層膜、又は複数の物質から形成される合金膜、セラミック膜又は化合物半導体膜等の製造に関し、高品質でかつ均一な蒸着膜を成膜することができる真空アーク放電発生装置及び蒸着装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 真空チャンバ
1a 発生部外壁
2 陰極
2a 陰極点
2b 陰極表面(陰極前面、蒸発面)
3 トリガ電極
3a 基端部
5 電流制限抵抗器
6 アーク電源
7 陽極
9 被処理物
10 真空アーク蒸着装置
16 副陽極
17 プラズマ
18 シールド
18a シールド部材
18b 整磁部材
18c 整磁部材
19 モニター装置
20 真空アーク放電発生装置
21 ドロップレット
22 プラズマ進行路
23 ドロップレット捕集部
24 第2プラズマ進行路
25 外囲部
26 金属製ボルト・ナット
27 プラズマ発生部
30 プラズマ加工部
31 導入口
32 排気口
101 真空チャンバ
102 陰極
102a 陰極点
102b 陰極表面(陰極前面)
103 トリガ電極
104 電流導入端子
105 電流制限抵抗器
106 第一電源
107 陽極(第二電極)
108 第二電源
109 基板
112 陰極蒸発粒子
113 陽極蒸発粒子
114 蒸着膜
115 反応性粒子
131 ガス導入システム
132 排気システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中でアーク電源を介して接続される陰極と陽極との間にアーク放電を発生させ、前記陰極と前記陽極と前記アーク電源とが真空アークプラズマを介して主閉回路を形成する真空アーク放電発生装置において、装置内に副陽極を配置し、少なくとも前記陰極と前記副陽極と前記アーク電源とが真空アークプラズマを介した副閉回路を形成し、前記副閉回路に副陽極を介してアーク放電の状態を計測するモニター装置を配設することを特徴とする真空アーク放電発生装置。
【請求項2】
前記副陽極は、それ自身が蒸発しない不活性状態に保持される請求項1に記載の真空アーク放電発生装置。
【請求項3】
前記副閉回路を流れる副電流が前記主閉回路を流れる主電流より小さく設定される請求項1又は2に記載の真空アーク放電発生装置。
【請求項4】
前記モニター装置は、抵抗、コンデンサ、コイル(インダクタ)、定電圧源、定電流源、定電力源、電圧計、電流計、電力計、電子負荷又はそれらの1種以上から構成される請求項1、2又は3に記載の真空アーク放電発生装置。
【請求項5】
前記真空アークプラズマが前記陰極の蒸発面より後方へ拡散することを防止するため、及び/又は、真空アーク陰極点が陰極側面に移動するのを防止するために配置される導電性シールドを前記副電極として利用する請求項1〜4のいずれかに記載の真空アーク放電発生装置。
【請求項6】
前記シールドとは別に前記副電極が配置される請求項5に記載の真空アーク放電発生装置。
【請求項7】
前記シールドは、導電性シールド又は非導電性シールドのいずれかであり、磁性体又は非磁性体から形成される請求項5又は6に記載の真空アーク放電発生装置。
【請求項8】
前記陰極と前記副陽極と前記陽極が各々1個以上配置される請求項1〜7に記載の真空アーク放電発生装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の真空アーク放電発生装置と、前記真空アーク放電発生装置により生成される陰極蒸発物質を被処理物の表面に蒸着する蒸着処理部を少なくとも具備することを特徴とする真空アーク蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−229472(P2010−229472A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77271(P2009−77271)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(501377645)株式会社オンワード技研 (11)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【Fターム(参考)】