説明

真空蒸着装置

【課題】メンテナンスをする必要が少なく、被蒸着材に蒸発材料の良好な膜を形成することができる真空蒸着装置を提供することにある。
【解決手段】真空チャンバと、真空チャンバ内に配置され、蒸発材料を加熱し蒸発させる蒸発源と、蒸発源に対向して配置され、被蒸着材を保持する保持機構と、蒸発源と保持機構との間に配置され、非成膜時に被蒸着材に前記蒸発材料が付着することを防止するシャッタ部と、シャッタ部を加熱する加熱機構を有する構成とすることで、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置に関し、より詳しくは、蒸発材料を加熱し蒸発させて被蒸着材量に蒸発材料の膜を形成する真空蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線(X線,α線,β線,γ線,電子線あるいは紫外線等)の照射を受けると、この放射線エネルギーの一部を蓄積し、その後、可視光等の励起光の照射を受けると、上述の蓄積された放射線エネルギーに応じた輝尽発光を示す蛍光体が知られている。この蛍光体は、蓄積性蛍光体(輝尽性蛍光体)と呼ばれ、医療用途などの各種の用途に利用されている。
【0003】
一例として、この蓄積性蛍光体を含有する層(以下、蛍光体膜という)を有するシート(蛍光体シート)を利用する放射線画像情報記録再生システムが知られている。この蛍光体シートは、放射線像変換パネル(IP)とも呼ばれているが、以下の説明では、蛍光体シートという。なお、このようなシステムとして、既に実用化されているものに、FCR(Fuji Computed Radiography:富士フイルムメディカル(株)商品名)が挙げられる。
【0004】
このシステムにおいては、まず、蛍光体シート(の蛍光体膜)に人体等の被写体の放射線画像情報を記録する。記録後に、蛍光体シートをレーザ光等の励起光で2次元的に走査して、輝尽発光光を放出させる。そして、この輝尽発光光を光電的に読み取って画像信号を得、この画像信号に基づいて再生した画像を、写真感光材料等の記録材料あるいはCRT等の表示装置に可視像として出力する。なお、読み取りの終了した蛍光体シートは、残存する画像を消去して、繰り返し使用される。
【0005】
上述の蛍光体シートは、通常、蓄積性蛍光体の粉末を、バインダ等を含む溶媒に分散してなる塗布液を調製して、ガラスや樹脂等で形成されたシート状の支持体に塗布し、乾燥して、蛍光体膜を成膜することによって製造される。
これに対して、真空蒸着やスパッタリング等の物理蒸着法(気相成膜法)によって、支持体に蛍光体膜を成膜してなる蛍光体シートも知られている。
【0006】
真空中で支持体上に蛍光体を成膜することで、不純物を少なくすることができ、また、バインダ等の蓄積性蛍光体以外の成分が殆ど含まれないので、性能のバラツキを少なくすることができる。
【0007】
このような、真空中で支持体上に蛍光体を成膜する装置としては、例えば、引用文献1に記載されている、圧力0.05〜10Paでの真空蒸着に対応して、前記保持部が保持した被処理基体に蒸発粒子が付着することを防止する防止手段を有する真空蒸着装置がある。
【0008】
【特許文献1】特開2005−126821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されているように、防止手段としてシャッタを設けることで、前処理時に被処理基体に蒸発粒子が付着することを防止でき、被処理基体に均一な膜を成形することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、前処理時にシャッタで加熱蒸発源を遮蔽するため、このシャッタに蒸発材料の蒸気が触れる。そのため、シャッタに蒸発材料が付着し、これが厚く積層されるとシャッタを動かせなくなることがあるという問題がある。特に、シャッタと加熱蒸発源との距離が近いとシャッタに付着する蒸発材料の量が多くなり、さらに、シャッタと加熱蒸発源との間に蒸発材料が堆積しやすいため、シャッタを動かせなくなりやすい。
このように、シャッタが動かせなくなると装置として使用することができなくなり、シャッタの交換や、メンテナンスが必要となる。
【0011】
さらに、シャッタに蒸発材料が付着すると、蒸発材料のロスが発生するため、蒸発材料の利用効率が低くなるという問題もある。
【0012】
本発明の課題は、上記従来技術に基づく問題点を解消し、メンテナンスをする必要が少なく、被蒸着材に蒸発材料の良好な膜を形成することができる真空蒸着装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記課題に加え、蒸発材料を効率よく利用することができる真空蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に配置され、蒸発材料を加熱し蒸発させる蒸発源と、
前記蒸発源に対向して配置され、被蒸着材を保持する保持機構と、
前記蒸発源と前記保持機構との間に配置され、非成膜時に前記被蒸着材に前記蒸発材料が付着することを防止するシャッタ部と、
前記シャッタ部を加熱する加熱機構を有することを特徴とする真空蒸着装置を提供する。
【0014】
ここで、前記加熱機構は、前記シャッタ部を前記蒸発材料が液滴化する温度に加熱することが好ましい。
また、前記蒸発材料が、アルカリハライド系材料であることが好ましい。
また、前記加熱機構は、前記シャッタ部を前記蒸発材料の融点よりも300℃以上400℃以下低い温度に加熱することが好ましい。
また、前記シャッタと前記蒸発源の開口との距離が1mm以上3mm以下であることが好ましい。
【0015】
また、前記シャッタ部は、前記加熱源を遮蔽できるシャッタ板と、前記シャッタ板を移動させる移動機構とを有し、前記移動機構は、非成膜時に前記シャッタ板を前記蒸発源に対向する位置に配置し、成膜時に前記シャッタ板を前記蒸発源に対向しない位置に配置することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シャッタを加熱機構により加熱することで、シャッタに蒸発材料が厚く付着、堆積することを防止でき、シャッタが動かなせなくなることを防止できる。
さらに、シャッタを設けることで、非蒸着時に被蒸着材に蒸発材料が付着することを防止でき、被蒸着材に対してより均一な蒸着膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係るに真空蒸着装置について、添付の図面に示す実施形態を基に詳細に説明する。
図1は、本発明の真空蒸着装置の一例の概略構成を示す正面図であり、図2(A)及び(B)は、それぞれ真空蒸着装置の加熱蒸発源及びシャッタ部の概略構成を示す上面図である。ここで、図2(A)は、ルツボの開口がシャッタ部のシャッタ板により塞がれている状態を示し、図2(B)は、ルツボの開口が開放されている状態を示している。
【0018】
真空蒸着装置10は、真空チャンバ12と、基板保持部14と、加熱蒸発源16と、シャッタ部18と、加熱機構20と、真空ポンプ22と、バルブ24と、排気経路26と、ガス導入部28とを有し、真空蒸着により基板Sの表面に蒸着材料Mの膜を形成する。
より具体的には、蒸着装置10は、真空チャンバ12内を減圧して、蒸発源16に収容した蒸発材料を加熱融解して蒸発させることにより、基板保持部14が保持した基板Sの表面に、蒸発材料Mを成膜する。
なお、本発明の蒸着装置10は、図示した部材以外にも蒸発材料が基板S以外に付着することを防止し、加熱蒸発源16から蒸発した蒸発材料Mを基板Sに案内する防着カバー等、真空蒸着装置が有する各種の部材を有してもよいのは、もちろんである。
【0019】
本発明において、使用する基板Sには、特に限定はなく、ガラス板、プラスチック(樹脂)製のフィルムや板、金属板等、製造する製品に応じたものを用いればよい。
【0020】
一方、本発明において、このような基板Sに形成(成膜)する蒸発材料としては、特に限定されないが、好ましい蒸発材料として、放射線画像変換パネルを製造する場合は、アルカリハライド系の蛍光体(アルカリ金属ハロゲン化物系蛍光体)が例示される。
アルカリハライド系の蛍光体としては、各種のものが利用可能であるが、中でも特に、本発明の効果が発現し易く、かつ、良好な輝尽発光特性が得られる等の点で、好ましい一例として、特開昭61−72087号公報に開示される、一般式「MIX・aMIIX’2・bMIIIX''3:cA」で示されるアルカリハライド系輝尽性蛍光体が好適に例示される。
(上記式において、MI は、Li,Na,K,RbおよびCsからなる群より選択される少なくとも一種であり、MIIは、Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Zn,Cd,CuおよびNiからなる群より選択される少なくとも一種の二価の金属であり、MIIIは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Al,GaおよびInからなる群より選択される少なくとも一種の三価の金属であり、X、X’およびX''は、F,Cl,BrおよびIからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、Eu,Tb,Ce,Tm,Dy,Pr,Ho,Nd,Yb,Er,Gd,Lu,Sm,Y,Tl,Na,Ag,Cu,BiおよびMgからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0≦a<0.5であり、0≦b<0.5であり、0<c≦0.2である。)
その中でも、優れた輝尽発光特性を有し、かつ、本発明の効果が特に良好に得られる等の点で、MIが、少なくともCsを含み、Xが、少なくともBrを含み、さらに、Aが、EuまたはBiであるアルカリハライド系輝尽性蛍光体は好ましく、その中でも特に、一般式「CsBr:Eu」で示される輝尽性蛍光体が好ましい。
【0021】
また、これ以外にも、米国特許第3,859,527号明細書、特開昭55−12142号、同55−12144号、同55−12145号、同56−116777号、同58−69281号、同58−206678号、同59−38278号、同59−75200号等の各公報に開示される各種の輝尽性蛍光体も、好適に利用可能である。
【0022】
本発明は、このような輝尽性蛍光体からなる(輝尽性)蛍光体層を有し、被写体の放射線画像を、一旦、蓄積記録して、励起光の入射によって記録した放射線画像に応じた輝尽発光光を発する、輝尽性(蓄積性)蛍光体パネル(いわゆる、IP(Imaging Plate)における蛍光体層(つまり、蒸着膜)の形成には限定されず、アルカリハライド系の蛍光体であれば、シンチレータパネル等に利用される、放射線の入射によって発光(蛍光)する蛍光体からなる蛍光体層を形成する装置としてもよい。
【0023】
このような蛍光体も、アルカリハライド系の蛍光体であれば、各種のものが利用可能であるが、同様に、本発明の効果が発現し易く、かつ、良好な蛍光特性が得られる等の点で、下記の一般式:
IX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA
で示されるアルカリハライド系の蛍光体が好ましく例示される。
(上記式において、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し、MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表わす。また、X、X’およびX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも一種のハロゲンを表わし、Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素又は金属を表す。また、a、bおよびzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表わす。)
特に、前記一般式のMIとしてCsを含んでいるのが好ましく、XとしてIを含んでいることが好ましく、AとしてTlまたはNaを含んでいるのが好ましく、また、zは、1×10-4≦z≦0.1の範囲内の数値であるの好ましい。中でも特に、式「CsI:Tl」で示されるアルカリ金属ハロゲン化物系蛍光体は、好ましく用いられる。
【0024】
真空チャンバ12は、鉄、ステンレス、アルミニウム等で形成される気密性の高い容器である。真空チャンバ12としては、真空蒸着装置で利用される種々の真空チャンバ(ベルジャー、真空槽)を用いることができる。また、真空チャンバ12には、排気経路26が接続されている。さらに、排気経路26には三方弁24が接続されている。
【0025】
真空ポンプ22は、三方弁24を介して排気経路26に接続され、真空チャンバ12の内部の空気を排気することで、真空チャンバ12内部を所定の真空度に減圧する。
真空ポンプ22は、特に制限はなく、必要な到達真空度を達成できるものであれば、真空蒸着装置で利用されている各種のものが利用可能である。一例として、油拡散ポンプ、クライオポンプ、ターボモレキュラーポンプ等を利用すればよく、また、補助として、クライオコイル等を併用してもよい。
【0026】
ガス導入部28は、三方弁24を介して排気経路26に接続され、アルゴンを真空チャンバ12内に導入する。ガス導入部28としては、例えば、ボンベとガス流量を調整する調整手段とを有する機構等の種々の構成の機構を用いることができる。
ここで、本実施形態では、真空チャンバ12にアルゴンを導入したが、本発明はこれに限定されず、ネオンガス、窒素ガス等の不活性ガスを導入してもよい。また、必要に応じて、不活性ガス以外の気体を導入してもよい。
【0027】
また、三方弁24は、排気経路26を気密に閉塞させた状態と、真空ポンプ20と排気経路26とが連通させた状態と、ガス導入部28と真空ポンプ20とを連通させた状態とを切り換える公知の三方弁である。
なお、本実施形態では、三方弁を用いて、真空ポンプ22と、排気経路26と、ガス導入部28とを接続させたが、本発明はこれに限定されず、例えば、排気経路を2つ設け、それぞれの排気経路に真空ポンプとガス導入部とを別々に接続させてもよい。
【0028】
基板保持部14は、真空チャンバ12の上面、つまり鉛直方向上側の面に配置され、基板Sを保持する。
基板保持部14は、基板Sを保持する基板ホルダ30と、基板ホルダ30を支持するホルダ装着部32とを有する。
【0029】
基板ホルダ30は、基板Sの成膜領域を加熱蒸発源16に向けて開放した状態で、基板Sを収容/保持する部材である。
基板ホルダ30による基板Sの保持方法は特に限定されず、治具等により基板を保持する方法、静電気を利用する方法、吸着を利用する方法等、鉛直方向上側から板状部材を保持する種々の方法を用いることができる。また、基板Sの蒸着領域等に応じて可能であれば、治具等を用いて、下方から基板Sの四隅を押さえる保持手段、下方から基板Sの四辺を押さえる保持手段等を用いてもよい。また、基板ホルダ30が、基板Sの成膜面における成膜領域を規制するマスクを兼ねてもよく、あるいは、別途、マスクを設けてもよい。
【0030】
ホルダ装着部32は、真空チャンバ12の内部の上面に固定されており、下側の面(つまり、後述する加熱蒸発源16側の面)に嵌合や係合部材を用いる方法等の種々の手段で基板ホルダ30を支持する支持部を有する。ホルダ装着部32は、支持部により基板ホルダ30を着脱可能な状態で所定位置に固定する。
基板Sは、基板ホルダ30に収容され、さらに、この基板ホルダ30がホルダ装着部32に装着されることで、成膜領域を加熱蒸発源16に開放した状態で真空チャンバ12内の所定位置に固定される。
ここで、基板保持部14は、基板ホルダ30に収容した基板Sを加熱する加熱手段や、ホルダ装着部32の下面に加熱手段で発生した熱をムラなく均一に基板Sに伝えるための熱伝導性シート等を設けてもよい。
さらに、基板ホルダ30の内面にも、基板Sの裏面(蒸発材料が蒸着される面の逆面)に密着させて熱伝導性シートを設けてもよい。基板ホルダ30の内面にも熱伝導性シートを設けることで、加熱手段で発生した熱をムラなく均一に基板Sに伝えることができる。
【0031】
加熱蒸発源16は、真空チャンバ12内の基板保持部14に対向し、かつ基板保持部14よりも鉛直方向下側に配置されており、蒸発材料Mを加熱し、溶融させて、基板Sに向けて蒸発させる。
加熱蒸発源16は、蒸発材料Mを収容(または貯留)するルツボ36と、ルツボ36を加熱し蒸発材料Mを加熱する加熱源38とを有する。
【0032】
ルツボ36は、基板保持部14側に開口が形成された抵抗加熱用の容器であり、内部に蒸発材料Mを収容する蒸発源である。
加熱源38は、ルツボ36に所定の電流を印加する電源である。加熱源38によりルツボ38に電流を印加することで、ルツボ38は、抵抗加熱される。
このように、加熱蒸発源16は、加熱源38によりルツボ36を抵抗加熱することで、蒸発材料Mを加熱し蒸発させる。
また、ルツボ18には、蒸発材料M(またはルツボ18)の温度を測定する温度測定手段を配置してもよい。ここで、温度測定手段としては、熱電対などが例示される。
温度測定手段により温度を測定し、その測定結果に応じて、加熱源38によるルツボ36の加熱量を調整することで、ルツボ36を一定温度にすることができ、蒸発材料Mの温度を一定にすることができる。これにより、蒸発材料Mを安定して蒸発させることができる。
【0033】
なお、本発明において、蒸発源であるルツボは、上記構成のものに限定はされず、いわゆるボート型のルツボや、上端面が開放する円筒形などのカップ型のルツボなど、各種のルツボが全て利用可能である。
加熱機構は、抵抗加熱用のルツボ36に電流を印加し加熱する加熱機構に限定はされず、誘導加熱や電子線(EB)加熱等、蒸着時の真空度などの成膜条件等に応じて利用可能であれば、真空蒸着で利用される各種の加熱機構が全て利用可能である。
【0034】
シャッタ部18は、加熱蒸着源16と基板保持部14との間に配置され、移動可能なシャッタ板40と、シャッタ板40を移動させる移動機構42とを有する。
シャッタ板40は、ルツボ36の開口と対向する位置に移動可能な、ルツボ36の開口よりも面積の大きい、タングステン製の板状部材である。さらに、シャッタ板40の基板保持部14側の面には、後述する加熱機構20が配置されている。
【0035】
移動機構42は、回転軸44と、回転軸44と連結しシャッタ板40を支持する支持部46とを有し、シャッタ板40から所定距離離間した位置に配置された回転軸44を軸として、シャッタ板40をシャッタ板40の表面に平行な方向に回転させる移動機構である。
回転軸44は、シャッタ板40の表面に垂直な方向(つまり、図1中上下方向)を軸として回転する軸であり、モータ等により回転される。
また、支持部46は、支持部46aと支持部46bを有し、支持部46aがシャッタ板40の一方の端部と回転軸44とを連結させ、支持部46bがシャッタ板40の他方の端部と回転軸44とを連結させている。このように支持部46a及び46bをシャッタ板40の対向するそれぞれの端部に連結させて、シャッタ板40を回転軸44に固定している。これにより、回転軸44を回転させることで、シャッタ板40も回転軸を中心(つまり軸)として回転する。
【0036】
移動機構42は、回転軸44を回転させることで、シャッタ板40の表面に垂直な方向を軸として、シャッタ板40をシャッタ板40の表面に平行な方向に移動させて、シャッタ板40を開閉させる。具体的には、図2(A)及び(B)に示すように、移動機構42は、回転軸44を軸としてシャッタ板40を、ルツボ36の開口に対向する位置(図2(A)に示す位置)からルツボ36の開口とは重ならない位置(つまり、ルツボ36で蒸発した蒸発材料Mの蒸気を遮蔽しない位置、図2(B)に示す位置)、また逆に、ルツボ36の開口とは重ならない位置からルツボ36の開口に対向する位置に移動させる。
【0037】
シャッタ部18は、加熱蒸発源16による蒸発材料Mの加熱開始時、つまり蒸着開始前は、シャッタ板40をルツボ36の開口に対向する位置に配置させ(または、移動させ)、ルツボ36に収容された蒸発材料Mが加熱され、蒸発材料Mの蒸気が安定状態となり、基板Sへの蒸発材料Mの蒸着を開始する際に、シャッタ板40をルツボ36の開口とは重ならない位置に移動させる。
このように、加熱開始時にシャッタ部18のシャッタ板40をルツボ36の開口に対向する位置に配置することで、ルツボ36で蒸発した蒸発材料Mの蒸気を遮蔽することができ、不安定な蒸発材料Mの蒸気が被蒸着材に付着することを防止できる。また、加熱時に蒸発材料Mが突沸した場合も蒸発材料Mが周囲に飛散することを防止できる。
【0038】
また、シャッタ板40には、シャッタ板40の温度を測定する温度測定手段(図示せず)が配置されている。ここで、温度測定手段としては、熱電対が例示される。
【0039】
加熱機構20は、抵抗加熱用の電源であり、電源と接続した配線20aがシャッタ板40の基板保持部14側の面の両端と接続している。加熱機構20は、配線20aを介して、シャッタ板40に所定の電流を印加して抵抗加熱によりシャッタ板40を所定温度に加熱する。ここで、上述した温度測定手段によりシャッタ板40の温度を検出しつつ、加熱機構20による加熱量を調整することで、シャッタ板40を任意の温度に加熱(加熱調節)することができる。
【0040】
加熱機構20により、シャッタ板40を所定温度に加熱することで、シャッタ板40に蒸発材料Mが厚く付着・堆積することがなくなり、シャッタ板40が開閉できなくなることを防止できる。
これにより、真空蒸発装置を長時間使用した場合でも蒸発部材Mの堆積によりシャッタ板が開閉できなくなることを防止でき、シャッタに堆積した蒸発材料Mの除去等のメンテナンスの頻度も少なくすることができる。
【0041】
また、加熱機構20によりシャッタ板40を加熱することで、シャッタ板40を近接させた場合、具体的にはシャッタ板40とルツボ36の開口との距離を3mm以下、特に1mm以上3mm以下とした場合でも、シャッタ板40とルツボ36との間に蒸着部材が厚く堆積することを防止でき、シャッタ板40が動かせなくなることを防止できる。
また、シャッタ板40とルツボ36との距離を1mm以上3mm以下にすることで、蒸発材料Mの蒸気を効率よく遮蔽することができ、ルツボ36内の蒸発材料Mが突沸した場合もルツボ36の周辺に蒸発材料Mが飛散することをより確実に防止することができる。
【0042】
ここで、加熱機構20は、シャッタ板40を蒸発材料Mが液滴化する温度に加熱することが好ましい。
シャッタ板40を蒸発材料Mが液滴化する温度に加熱することで、シャッタ板40に蒸発材料が厚く堆積することをより確実に防止できる。なお、本実施形態において、実際にはシャッタ板40には若干の厚みの蒸発材料が堆積する場合があるが、堆積している蒸発材料のルツボ側表面が液滴化する温度に加熱することで、蒸発材料が厚く堆積することを防止できる。
さらに、シャッタ板40に接触する蒸発材料Mを液滴化させることで、液滴化した蒸発材料Mを直下にあるルツボ36内に滴下させることができる。これによりシャッタ板40に付着した蒸発材料を回収することができ、蒸発材料Mの利用効率を高くすることができ、また、ルツボ36に収容する蒸発材料の量(つまり、仕込み量)を少なくすることができ、蒸発材料の溶解時間を短くすることができる。このように、短時間で処理できることで、真空チャンバ12の基板S以外の部分に蒸発材料Mが付着、堆積する量をより低減することができる。
【0043】
さらに、加熱機構20は、シャッタ板40を蒸発材料Mの融点よりも300℃以上400℃以下低い温度に加熱することが好ましい。
シャッタ板40を上記温度範囲に加熱することで、ルツボからの輻射熱と合わせて、蒸発材料の液滴化がより確実になされるので、シャッタ板40に蒸発材料が厚く堆積することがなく、シャッタ板40が開閉できなくなることを防止でき、かつ、より確実な液滴化により蒸発材料をルツボに回収することができ蒸発材料Mの利用効率を高くすることができる。
蒸発材料として、アルカリハライド系の材料を用いた場合は、上記温度範囲とすることで、より確実に蒸発材料の利用効率を高くすることができ、特に、臭化セシウム(CsBr)を用いた場合は、さらに確実に蒸発材料の利用効率を高くすることができる。
【0044】
ここで、本実施形態では、シャッタ板40として、タングステンを用いたが本発明はこれに限定されず、タンタル、モリブデン、炭素等の種々の通電により発熱する材料を用いることができる。さらに、シャッタ板40は、通電により発熱する材料にも限定されず、一定の耐熱性を備える金属、樹脂等種々の材料で作成することができる。
【0045】
また、加熱機構は、シャッタに電流を印加し、抵抗加熱により直接加熱する加熱機構に限定されず、シースヒータ、ランプヒーター、熱媒体、ペルチェ素子等の加熱手段をシャッタに設置し、加熱手段によりシャッタを加熱する加熱機構等、種々の加熱機構を用いることができる。また、加熱機構の配置位置、配置個数も特に限定されず、シャッタ部(具体的には、シャッタ板)を加熱することができればよい。
【0046】
また、移動機構は、特に限定されず、種々の移動機構を用いることができ、例えば、リニア機構、バネの付勢力により移動させる機構、ワイヤにより移動させる機構等を用いることができる。
また、本実施形態では、シャッタ板の表面に垂直な方向の軸を中心としてシャッタ板40を回転移動させて、ルツボ36の開口(より正確には、ルツボ36内で蒸発した蒸発材料Mの蒸気等)を遮蔽するか否かを切り換えた(つまり、シャッタ板40を開閉させた)が、これに限定されず、ルツボ36の開口を遮蔽するか否かを切り換える種々の開閉機構を用いることができる。例えば、シャッタ板を平行移動させる構成とし、加熱開始時は、シャッタ板をルツボの開口に対向する位置に配置することで、ルツボの開口を遮蔽し、基板Sへの蒸着時(つまり基板Sへの成膜時)は、シャッタ板をルツボの開口に対向する位置から移動させて、ルツボの開口を開放してもよい。また、シャッタの一辺を軸とした扉状の開閉させる移動機構も用いることができる。
【0047】
ここで、シャッタ板を平行移動させるシャッタ部の一例についてより詳細に説明する。
図3(A)及び(B)は、本発明の真空蒸着装置に用いることができるシャッタ部の他の一例の概略構成を示す概略上面図である。ここで、図3(A)は、ルツボの開口がシャッタ部のシャッタ板により塞がれている状態を示し、図3(B)は、ルツボの開口が開放されている状態を示している。
【0048】
シャッタ部51は、加熱蒸着源16と基板保持部14との間に配置され、移動可能なシャッタ板52と、シャッタ板52を移動させる移動機構54とを有する。
シャッタ板52は、ルツボ36の開口と対向する位置に移動可能な、ルツボ36の開口よりも面積の大きい、タングステン製の板状部材である。さらに、シャッタ板52の基板保持部14側の面には、加熱機構50が配置されている。
移動機構54は、シャッタ板52を、シャッタ板52の表面と平行な方向に移動させる移動機構である。移動機構54は、ネジ軸54aと、ネジ軸54aを回転させ、ネジ軸54aを軸方向に移動させる駆動部54bと、ネジ軸54aの端部に回転自在に固定され、シャッタ板52に固定される固定部54cと、シャッタ板52及び駆動部54bを支持する支持部54dとを有する。
【0049】
移動機構54は、駆動部54bによりネジ軸54aを回転させることで、ネジ軸54aの軸方向にシャッタ板52を移動させて、シャッタ板52を開閉させる。具体的には、図3(A)及び(B)に示すように、移動機構54は、シャッタ板52を、ルツボ36の開口に対向する位置(図3(A)に示す位置)からルツボ36の開口とは重ならない位置(つまり、ルツボ36で蒸発した蒸発材料Mの蒸気を遮蔽しない位置、図3(B)に示す位置)、また逆に、ルツボ36の開口とは重ならない位置からルツボ36の開口に対向する位置に移動させる。
【0050】
本実施形態の加熱機構50は、シースヒータ等の加熱手段であり、シャッタ板40の基板保持部14側の面の両端にそれぞれ配置されている。
以上の構成のシャッタ部も用いることができる。
【0051】
また、本実施形態では、基板Sを固定した状態で真空蒸着によって蒸着膜を形成したが、これに限定はされず、基板Sを回転させながら蒸着膜を形成してもよく、あるいは、基板Sを往復搬送させながら蒸着膜を形成してもよい。
【0052】
また、本実施形態の加熱蒸発源16は、ルツボ18を1個のみで構成したが、本発明は、これに限定はされず、加熱蒸発源を複数の蒸発源(ルツボ)で構成してもよい。
また、複数の蒸発源を用いる場合には、全ての蒸発源に同じ成膜材料を充填する一元の真空蒸着でも、複数の成膜材料を異なる蒸発源に投入する多元の真空蒸着でもよい。
【0053】
また、真空蒸着装置は、蛍光体(母体)の成膜材料と、付活剤(賦活剤:activator)の成膜材料とを別々に蒸発する、二元の真空蒸着によって基板Sの表面に(輝尽性)蛍光体層を形成して、変換パネルを製造することが好ましい。
例えば、先に好ましい輝尽性蛍光体として例示したCsBr:Euであれば、蛍光体の成膜材料として臭化セシウム(CsBr)を、付活剤成分の成膜材料として臭化ユーロピウム(EuBrx(xは、通常、2〜3だが2が好ましい))を、それぞれ用い、両者を異なる蒸発源に投入して独立して加熱蒸発する二元の真空蒸着によって、CsBr:Euで示される蛍光体層(つまり、蒸着膜)を形成する。
【0054】
ここで、蛍光体の蒸発材料と、付活剤の蒸発材料とを独立して加熱蒸発する、二元の真空蒸着を行う場合は、複数の蒸発源に共通の1つのシャッタを配置しても、各蒸発源にそれぞれシャッタを配置してもよい。
ここで、複数の蒸発材料(多元の真空蒸着、および、複数の成膜材料を混合して成膜材料を調整した場合)の蒸発源に対して、共通のシャッタを配置する場合には、各成膜材料の融点−300℃以上融点−400℃以下の温度領域において、全て(もしくは、多くの量比を占める複数種)の成膜材料で共通の温度領域を検出して、この共通の温度領域にシャッタを加熱することが好ましい。
あるいは、蛍光体層における量の最も多い成膜材料(蛍光体層において蒸着量の最も多い成膜材料)の融点に対応して、発熱体の温度を設定してもよい。例えば、前述のように、輝尽性蛍光体では、前述のように、蛍光体層の大部分が蛍光体であるので、蛍光体成分の成膜材料の融点に応じて、シャッタを加熱すればよい。すなわち、前記臭化セシウムと臭化ユーロピウムを用いたCsBr:Euからなる蛍光体層の形成であれば、蛍光体成分の成膜材料である臭化セシウムの融点(636℃)に応じて、シャッタを加熱し、シャッタを所定の温度にすればよい。
【0055】
以下、図1に示す蒸着装置10の作用を説明することにより、本発明の真空蒸着方法について、より詳細に説明する。
【0056】
まず、基板Sを収容する基板ホルダ30を基板プレートの所定位置に装着すると共に、ルツボ18に所定量の蒸発材料Mを充填する。
次いで、真空チャンバ12を閉塞して、真空ポンプ22によって排気して、所定の真空度まで排気する。
真空ポンプ22により排気して、系内(つまり真空チャンバ12内)を高い真空度にした後、三方弁24を切り替え、ガス導入部28からアルゴンガスを系内に導入して、0.01〜3Pa程度の真空度(以下、便宜的に中真空とする)とする。
【0057】
真空チャンバ12内の真空度が所定の真空度になった時点で、加熱源38によりルツボ36に通電して蒸発材料Mの加熱を開始する。
【0058】
ここで、ルツボ36内の蒸発材料Mの加熱開始時は、シャッタ板40は、閉じた状態となっている。つまり、シャッタ板40は、ルツボ36の開口に対向する位置に配置(若しくは移動)されている。このシャッタ板40は、加熱機構20により所定温度に加熱されている。
このように、ルツボ36に対向する位置のシャッタ板40を加熱することにより、蒸着開始前に、基板Sに蒸発材料Mが付着することを防止でき、かつ、シャッタ板40に蒸発材料Mがシャッタ板を動かせないほど厚く堆積することも防止できる。
【0059】
その後、蒸発材料M(及び/または、ルツボ36)の温度が所定の温度になった時点で、シャッタ板40を開放して(つまり、シャッタ板40をルツボ36の開口を遮蔽しない位置に移動させて)、基板Sへの蒸着膜の形成を開始する。シャッタ板40を開放した後は、加熱機構20による加熱を停止する。
【0060】
所定の層厚の蒸着膜を形成したら、加熱源38によるルツボ36の加熱を停止して、真空チャンバ12内を大気圧に戻して、真空チャンバ12を開放して、蒸着膜を形成した基板Sを取り出す。
なお、蒸着膜の層厚(膜厚)は、予め知見した加熱条件に応じた成膜レートによって制御してもよく、変位計等を用いて層厚を直接測定して制御してもよく、水晶振動子等を用いる蒸発量計等によって制御してもよい。
このようにして、真空蒸着装置10は、基板S上に蒸発材料Mの蒸着膜を形成する。
【0061】
ここで、アルカリハライド系の材料(具体的には、蛍光体)、特に、アルカリハライド系の輝尽性蛍光体、中でも特に、CsBr:Euで示される輝尽性蛍光体からなる蛍光体層を形成する場合には、均一で高精度な蛍光体層(つまり、蒸着膜)を形成できるように本実施形態のように、中真空下で抵抗加熱等によって成膜材料を加熱して真空蒸着を行うのが好ましい。
真空蒸着によって形成した輝尽性蛍光体からなる蛍光体層は、多くの場合、柱状結晶構造を有するが、このような中真空下で形成して得られる蛍光体層、中でも、前記CsBr:Eu等のアルカリハライド系の蛍光体層は、特に良好な柱状の結晶構造を有し、輝尽発光特性や画像の鮮鋭性等の点で好ましい。
【0062】
以下、具体的実施例とともに本発明の真空蒸着装置についてより詳細に説明する。
本実施例では、図1に示す蒸着装置10を用いた。
まず、ルツボ36を、タンタル製の抵抗加熱用とし、ルツボ36内に、R型(白金−ロジウム)熱電対を挿入し、固定した構成とした。
次に、シャッタ板40は、タングステン製の厚さ1.0mmの板状部材とし、ルツボ36の開口の上方に配置した。ここで、ルツボ36の開口とシャッタ板40との距離(具体的には、ルツボ36の開口とシャッタ板40との最短距離)を2mmとした。
さらに、シャッタ板40の両端部(直径方向の両端部)に、シャッタ板40に電流を印加し、抵抗加熱する加熱機構20を接続し、また、基板保持部14側の面(つまり、シャッタ裏面側)にR型熱電対を当接して、バネで押圧/固定した。
【0063】
このような装置構成とし、まず、ルツボ36内に、臭化セシウム(CsBr 融点636℃)の粉末を600g充填した。
次に、真空チャンバ12を閉塞して、三方弁24を開いて真空ポンプ22と排気経路26とを通じさせて、真空チャンバ12内を排気した。真空ポンプ22(真空排気装置)は、ロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプ、および、ディフュージョンポンプの組み合わせを用い、さらに、水分排気用のクライオポンプも併用した。
その後、真空チャンバ12内が、2×10-3Paの真空度となった時点で、三方弁24を切り換えてガス導入部28と排気経路26とを通じさせ、ガス導入部28を用いて、真空チャンバ12内にアルゴンガスを導入して、真空チャンバ内の真空度を1Paとした。
【0064】
次いで、加熱機構40からシャッタ板40に140Aの電流を供給した。
さらに、ルツボ36に通電して、内部に挿入したR型熱電対の温度測定結果を用いて、ルツボ36内の温度が670℃の一定温度となるようにフィードバック制御しつつ、シャッタ板40を閉じた状態で、加熱源38から電流を印加してルツボ36を120分間加熱し、蒸発材料Mを融解した。
【0065】
本実施例のように加熱機構20によりシャッタ板40を加熱した場合は、120分間加熱した後もシャッタ40は、開閉可能な状態であった。
ここで、蒸発材料Mを120分間加熱した後のシャッタ板40の温度を測定した。ここで、シャッタ板40の温度は、当接したR型熱電対の温度測定結果から算出したシャッタ裏面(つまり、基板保持部側の面)の温度である。
測定した結果、シャッタ板40の裏面側の温度は、248℃であった。
さらに、アルゴンガスの導入を停止した後、真空チャンバ12内を大気圧に戻して、ルツボ36を取り出し、ルツボ18内に残っていた臭化セシウムの量(重量)を測定し、ルツボ36内の蒸発材料Mの蒸発量(つまり、600−ルツボ内の残量)を算出した。
算出した結果、蒸発材料Mの蒸発量は、48.5gであった。
【0066】
さらに、上述の実施例と同様の条件で、シャッタ板40に印加する電流のみを変化させ、シャッタ板の温度を変化させた複数の実施例についても蒸発材料の蒸発量を算出した。
測定した結果、シャッタ板裏面の温度が306℃の場合は、蒸発材料Mの蒸発量は、54.8gであった。また、シャッタ板裏面の温度が402℃の場合は、蒸発材料Mの蒸発量は、152.0gであった。シャッタ板裏面の温度が511℃の場合は、蒸発材料Mの蒸発量は、212.0gであった。
また、いずれの場合も、蒸発材料Mを120分間加熱した後もシャッタ板40は、開閉可能な状態であった。
【0067】
次に、比較のためにシャッタ板40を加熱機構38により加熱せずに、蒸発材料Mを120分間加熱した場合についても測定した。
シャッタ板40を加熱機構38により加熱せずに、蒸発材料Mを120分間加熱した後は、シャッタ板40とルツボ36との間に蒸発材料Mが厚く堆積し、シャッタ板40が動かせない状態であった。
また、シャッタ板の温度及び蒸発材料の蒸発量を測定した結果、シャッタ板裏面の温度は、215℃であり、蒸発材料Mの蒸発量は、79.5gであった。
測定結果を下記表1及び図4に示す。ここで、図4は、縦軸を蒸発量[g]とし、横軸をシャッタ裏面温度[℃]とした。
【0068】
【表1】

【0069】
このように、シャッタ板を加熱機構により加熱することにより、シャッタ板または、シャッタ板とルツボとの間に蒸発材料が厚く堆積して、シャッタ板が開閉できなくなることを防止できることが分かる。
また、表1及び図4に示すように、シャッタ板の温度を、蒸発材料である臭化セシウム(CsBr)の融点(636℃)よりも300℃以上400℃以下低い温度、つまり、236℃以上336℃以下とすることで、シャッタ板を加熱機構により加熱しない場合よりも前処理時の蒸発材料の蒸発量を少なくすることができる。つまり、蒸発材料の利用効率を高くすることができる。
以上より本発明の効果は明らかである。
【0070】
以上、本発明に係る真空蒸着装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよい。
【0071】
例えば、本発明は、X線特性を均一で良好な蛍光体シートを作製できるため蒸発材料としては、上述したようにアルカリハライド系の材料を用い、基板上にアルカリハライド系材料の蒸着膜を形成し、放射線画像検出器を製造する真空蒸着装置として用いることが好ましいが、これに限定されず、種々の蒸発材料を用いる種々の真空蒸着装置として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の真空蒸着装置の一例の概略構成を示す正面図である。
【図2】(A)及び(B)は、それぞれ図1に示した真空蒸着装置の加熱蒸発源及びシャッタ部の概略構成を示す上面図である。
【図3】(A)及び(B)は、本発明の真空蒸着装置に用いることができるシャッタ部の他の一例の概略構成を示す斜視図である。
【図4】シャッタ板の温度とルツボ内の蒸発材料の蒸発量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0073】
10 真空蒸着装置
12 真空チャンバ
14 基板保持部
16 加熱蒸発源
18 シャッタ部
20 加熱機構
22 真空ポンプ
24 バルブ
26 排気経路
28 ガス導入部
30 基板ホルダ
32 ホルダ装着部
36 ルツボ
38 加熱源
40 シャッタ板
42 シャッタ駆動機構
44 回転軸
46 支持部
S 基板
M 蒸発材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に配置され、蒸発材料を加熱し蒸発させる蒸発源と、
前記蒸発源に対向して配置され、被蒸着材を保持する保持機構と、
前記蒸発源と前記保持機構との間に配置され、非成膜時に前記被蒸着材に前記蒸発材料が付着することを防止するシャッタ部と、
前記シャッタ部を加熱する加熱機構を有することを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記加熱機構は、前記シャッタ部を前記蒸発材料が液滴化する温度に加熱する請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記蒸発材料が、アルカリハライド系材料である請求項1または2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記加熱機構は、前記シャッタ部を前記蒸発材料の融点よりも300℃以上400℃以下低い温度に加熱する請求項1〜3のいずれかに記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記シャッタと前記蒸発源の開口との距離が1mm以上3mm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
前記シャッタ部は、
前記加熱源を遮蔽できるシャッタ板と、
前記シャッタ板を移動させる移動機構とを有し、
前記移動機構は、非成膜時に前記シャッタ板を前記蒸発源に対向する位置に配置し、成膜時に前記シャッタ板を前記蒸発源に対向しない位置に配置する請求項1〜5のいずれかに記載の真空蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−291297(P2008−291297A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136733(P2007−136733)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】