説明

眼圧調節初期遺伝子およびその使用

本発明は、高い眼圧によって媒介される遺伝子発現の変化の調節によって、緑内障および緑内障関連状態を処置するための方法に関する。緑内障、網膜神経節細胞(RGC)死、および慢性高眼圧症を、高眼圧によって上方調節される眼圧関連初期遺伝子(IPREG)もしくはこれらの遺伝子産物の発現もしくは活性を阻害し、および/または高眼圧によって下方調節されるIPREGもしくはこれらの遺伝子産物の発現もしくは活性を上昇させる物質を含む医薬組成物を使用して処置する。本発明はまた、IPREGを同定する方法に関し、IPREGタンパク質の発現レベルを測定することにより、慢性の眼の変性およびRGCストレスの発現を試験するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2005年11月22日に出願された米国仮特許出願第60/739,570号の利益を主張する。上記出願の全体の内容は、参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
緑内障は世界中の何百万の人々の視力を損ない、失明の主な原因の一つである。北米ではかなりの数の患者が眼科医の診療所を訪れる原因であり、米国において緑内障の数十万の新症例が各年に診断され、その症例の多くは高齢の人々を悩ませる。事実、緑内障の年間コストは米国だけで数十億ドルに達している。
【0003】
緑内障の最もよくある形態である開放隅角緑内障において、視野喪失は網膜ニューロンの死による進行性視神経線維損傷に起因する。網膜神経節細胞(RGC)と称されるそれら網膜ニューロンは視神経の内部網膜細胞層を構成する。RGCの進行性死と同時に、眼の眼圧(IOP)の上昇がある。この高眼圧症は疾患のある時期で大部分の緑内障患者に見られる。
【0004】
高IOPへの曝露は毎週一定の割合でRGCの慢性および進行性アポトーシス死を誘発すると考えられている。したがって、緑内障はRGCの緩慢な慢性および進行性の神経変性疾患である。緑内障の人々のIOPは緑内障でない人々のIOPより平均で1.4から1.7倍高い。しかしながら、高IOPの正確な開始は予測し得ず、その時点で不可逆なRGC喪失が進行していることが多い周縁の失明が起こるまで一般に明らかでないため、緑内障の治療は困難である。したがって、緑内障は最初に周縁の失明をともなう無痛性であり、一般に視神経軸索の大部分が失われる時になって初めて臨床的に明らかになる。
【0005】
緑内障の主流の処置は、高IOPを正常なIOPレベル近くに戻す薬理学的低減である。しかしながら、IOPの正常化にかかわらず、持続的なRGC死および緑内障への臨床的進展はしばしば継続し、このことは高IOPがRGCアポトーシスの直接原因でないかもしれないことを示唆する。したがって、RGCアポトーシスをもたらす生化学的事象の誘発を高眼圧症が厳密にどのように引き起こすか不明である。
【0006】
緑内障におけるRGCアポトーシスに対して提案される現在の機序としては、(i) 興奮毒性損傷(過活動NMDA受容体、グルタミン酸塩の上昇、Ca++流動、および一酸化窒素)、(ii) 近接の網膜細胞のバイスタンダー(bystander)損傷をもたらす小膠細胞およびマクロファージの活性化を引き起こす虚血性または機械的な網膜損傷、および(iii) RGC生存に必要な軸索輸送を妨げる視神経乳頭の機械的圧縮(「カフィング」または「生理的軸索切断」としてもまた公知)が挙げられる。しかしながら、なぜ変化したグルタミン酸塩/一酸化窒素/Ca++の潜在的悪影響および機械的応力に暴露される内部の網膜層の全細胞ではなくRGCのみがアポトーシスを受けやすいのか、これらの機序だけでは説明できない。軸索輸送が回復するときになぜIOPの正常化がRGC死を完全に阻止しないのかということを、これらの仮説もまた説明しない。
【0007】
したがって、高IOPは緑内障におけるRGCの死と明らかに相関があるが、事実上、高IOPとRGCアポトーシスの間には分子レベルでは何も連関がない。IOPを引き下げる現在の緑内障治療はRGC細胞の継続した喪失および視神経の衰退を阻止しないことが多いので、必要なのは緑内障進行の分子的原因を処置する治療である。
【0008】
発明の要旨
本発明は哺乳動物における緑内障の処置方法に関する。高IOPに誘発され細胞シグナル伝達および細胞死に機能的に関連する著しく変化した発現を有するいくつかの遺伝子が同定されている。いくつかは増大した発現、他は減少した発現を有するこれらの遺伝子は、眼圧調節初期遺伝子またはIPREGと称され、α2マクログロブリン、PSD-95/SAP90関連タンパク質-4、レジー(Reggie)1-1、RBCK、Gzα、プロテインホスファターゼ1γ、リボソームタンパク質L23関連産物、グリア線維酸性蛋白、環状ヌクレオチド依存性カチオンチャンネル、SPARC、B-2アリールアミンN-アセチルトランスフェラーゼ、アミロイド前駆体様タンパク質2、アンフィフィシン1、Crybb2、Ras関連p23、ヘリカーゼRap30、プロテオソームrPA28サブユニットβ、ATPアーゼα1サブユニット、βA3/A1クリスタリン、βA4クリスタリン、S-アデノシルメチオニンシンターゼ、アスパラギンシンターゼ、およびいくつかのcDNAクローン、および発現配列タグ(EST)が挙げられる。
【0009】
ある態様において、本発明は、一つ以上の上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害する組成物の有効量を哺乳動物に投与することによる、哺乳動物における緑内障の処置方法に関する。ある態様において、上方調節されたIPREGは、α2マクログロブリン、PSD-95/SAP90関連タンパク質-4、Reggie1-1、RBCK、Gzα、プロテインホスファターゼ1γ、リボソームタンパク質L23関連産物、グリア線維酸性蛋白、環状ヌクレオチド依存性カチオンチャンネル、SPARCおよびB-2アリールアミンN-アセチルトランスフェラーゼからなる群より選ばれる。別の態様において、阻害組成物は低分子干渉RNA(siRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、中和抗体、小分子、組換え遺伝子発現ベクター、組換え遺伝子ウイルスベクター、合成ペプチド、組換えポリペプチド、ペプチド模倣物およびIPREGの調節領域の阻害剤からなる群からの一つ以上を含む。さらに別の態様において、該組成物は眼内注射、結膜局所塗布、角膜局所塗布、または機械的送達装置により投与される。別の態様において、該方法はさらに、非選択的アドレナリン受容体遮断薬、選択的アドレナリン受容体遮断薬、プロスタグランジン、炭酸脱水酵素阻害薬、アドレナリン作用薬および縮瞳薬からなる群より選ばれる眼圧正常化薬を投与する工程を含む。
【0010】
本発明はまた、一つ以上の下方調節されたIPREGの発現または活性を増大する組成物の有効量を哺乳動物に投与することによる、哺乳動物における緑内障の処置方法に関する。ある態様において、発現が増大した下方調節されたIPREGは、アミロイド前駆体様タンパク質2、アンフィフィシン1、Crybb2、Ras関連p23、ヘリカーゼRap30、プロテオソームrPA28サブユニットβ、ATPアーゼα1サブユニット、βA3/A1クリスタリン、βA4クリスタリン、S-アデノシルメチオニンシンターゼおよびアスパラギンシンターゼからなる群より選ばれた一つ以上である。該組成物は下方調節されたIPREGの発現または活性を増大する一つ以上の物質からなり、前述の経路で投与され得、さらに眼圧正常化薬と共に投与され得る。
【0011】
本発明はまた、少なくとも一つの上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害するのみならず、少なくとも一つの下方調節されたIPREGの発現または活性を増大する組成物の有効量を投与することによる、哺乳動物における緑内障の処置方法に関する。該組成物は、(上方調節されたIPREGについては)IPREGの発現または活性を阻害する、および/または(下方調節されたIPREGについては)IPREGの発現または活性を増大する物質を用いて特定のIPREGを調節する。
【0012】
本発明はさらに、IPREG調節組成物の有効量を個体に投与する工程を含み、該組成物が一つ以上の上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害し、および/または一つ以上の下方調節されたIPREGの発現または活性を増大するような高IOPが介するRGC死の予防法に関する。また本発明は、IPREG調節組成物の有効量を哺乳動物に投与する工程を含み、該組成物が一つ以上の上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害し、および/または一つ以上の下方調節されたIPREGの発現または活性を増大するような哺乳動物における慢性の眼の変性の予防法に関する。
【0013】
本発明はまた、患者の房水における一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルを測定する工程、および測定した発現レベルを正常の眼機能を有する個体における同じ一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルと比較する工程を含む、患者における慢性の眼の変性を試験する方法に関する。正常の眼機能を有する個体における同じIPREGタンパク質の発現レベルと比較して、一つ以上の上方調節されたIPREGタンパク質のより高い発現レベルおよび/または一つ以上の下方調節されたIPREGタンパク質のより低い発現レベルは、患者が慢性の眼の変性を有することを示す。
【0014】
本発明はさらに、患者の房水における一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルを最初の時点で測定する工程、患者の房水における同じ一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルをその後の時点で測定する工程、および最初の時点で測定した一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルをその後の時点で測定したものと比較する工程を含む、患者におけるRGCストレスの開始を試験する方法に関し、患者において、一つ以上の上方調節されたIPREGタンパク質のより高い発現レベルおよび/または一つ以上の下方調節されたIPREGタンパク質のより低い発現レベルは、患者におけるRGCストレスの開始を示す。
【0015】
方法はまた、眼圧調節初期遺伝子(IRPEG)の特定のために提供され、該方法は高眼圧症により遺伝子の発現が変化しているかを決定する工程を含み、ここで網膜神経節細胞(RGC)損傷により遺伝子の発現は変化していない。該方法は、高眼圧症の開始後に間もなく遺伝子の発現が変化しているかを決定する工程、高眼圧症または緑内障の開始後に遺伝子の発現の変化が持続しているかを決定する工程、および高眼圧症が軽減した後に遺伝子の発現が変化したままであるかを決定する工程をさらに含む。特定の態様において、RGC死および/または緑内障で同定される遺伝子の役割が確認される。本発明はさらに、前述の方法により同定されるIPREGに関する。
【0016】
本発明はまた、緑内障、慢性の眼の変性、またはRGC死を処置するために用いられる医薬組成物に関する。したがって本発明は、上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害する少なくとも一つの物質の有効量および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物に関し、ここで該組成物は緑内障を処置するために投与される。別の態様において、医薬組成物は慢性の眼の変性またはRGC死を処置するために投与される。また、本発明は下方調節されたIPREGの発現または活性を増大する少なくとも一つの物質の有効量および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物に関し、ここで該組成物は緑内障、またさらなる態様において、慢性の眼の変性またはRGC死を処置するために投与される。本発明はさらに、上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害する少なくとも一つの物質および下方調節されたIPREGの発現または活性を増大する少なくとも一つの物質の有効量ならびに許容され得る医薬担体を含む医薬組成物に関し、ここで該組成物は緑内障、慢性の眼の変性またはRGC死を処置するために投与される。
【0017】
本特許または本出願ファイルはカラーで作成された少なくとも一つの図面を含む。カラーの図面を有する本特許または特許出願公報の写しは、要請および必要料金の支払いにより庁から提供される。
【0018】
上述は、以下の本発明の例示態様のより詳しい説明から明白である。本発明の態様を図解することに重点を置く代わりに、図面は必ずしも一定の比例尺ではない。
【0019】
表1は、高い眼圧(IOP)が誘発され、その後に薬理学的に減少された、ラットの網膜における眼圧のレベルを示す。
【0020】
表2は、高IOPにより著しく変化した発現を有する遺伝子アレイチップ解析において同定された遺伝子および正常なIOP網膜における変化と比較した遺伝子の発現における相対変化を列挙する。
【0021】
表3は、多くのIPREGを特徴付ける基準を満たす遺伝子のサブセットを列挙し、高IOPの誘発後のそれらの遺伝子のRNA発現レベルの変化を示す。
【0022】
(発明の詳細な説明)
本発明は総じて、RGCアポトーシスにもまたおそらく関与する高眼圧症により引き起こされる遺伝子の異常発現および/または機能/活性を調節することにより、哺乳動物の緑内障を処置および診断する方法に関する。本明細書に使用する場合、用語「眼圧調節初期遺伝子」または「IPREG」は、眼の変性における遺伝子に関わる一つ以上の基準を満たす遺伝子を表す。一つの基準は、候補遺伝子および/または遺伝子産物への任意の分子変化が、RGC損傷の結果として生じるよりもむしろ高IOPにより誘発されることである。別の基準は、これらの分子変化が、高IOPの開始後に比較的初期に引き起こされることである。また、高IOPにより引き起こされる遺伝子および/または遺伝子産物への任意の分子変化が、IOPが正常化した後でも持続されるかまたは長期続くことが好ましい。特に好ましい側面において、遺伝子および/または遺伝子産物への分子変化は、RGCを死に対して感作するかまたは用意する、すなわち遺伝子は死のシグナルの伝達(例えば、上方調節された遺伝子産物)または神経防護作用(例えば、下方調節された遺伝子産物)における直接的または間接的な役割を有する。
【0023】
遺伝子同定
高IOPの条件下で異なって発現される遺伝子は、ディファレンシャルディスプレイ、遺伝子アレイチップ、プロテオミクス、およびゲノミクスを含む当該分野で公知のいくつかの方法により同定され得、特定の態様において遺伝子アレイチップが用いられる。遺伝子アレイ系を用いる方法は当該分野で周知であるが、簡単に、目的の組織(例えば、網膜)由来のmRNAは正常な組織の源(すなわち、対照源)および目的の組織の源(例えば、異常または病変組織)から単離され、調製され得る。cDNAは単離mRNAおよび精製cDNAから作製した標識cRNAプローブから作製され、その後ハイブリダイズ条件下で遺伝子アレイDNAチップとともにインキュベートされる。該プローブが特異的に結合するチップ上の遺伝子は、cRNAプローブと関連するどんな標識の検出でも、かつ正常な組織由来のcRNAプローブとハイブリダイズする遺伝子アレイチップと目的の組織由来のcRNAとハイブリダイズする遺伝子アレイチップの間の遺伝子発現における折り畳みの変化を測定するための分析でも同定され得る。一般に、統計解析を実行し、チップ間で観察される遺伝子発現の変化が顕著であるかを決定し、かかる遺伝子発現の変化が顕著であると見なされると、組織自身において(例えば、RT-PCR、ノザンブロット、免疫ブロットまたは免疫蛍光検査により)確認される。
【0024】
本発明の場合、網膜のmRNA源は、緑内障で見られる変化を起こし得る、および/または再現し得る任意の系由来、すなわち、高IOP、RGC死、および高IOPの正常化後の持続したRGC死由来であり得、ひいてはmRNA源はヒト組織、実験動物モデル、または細胞/組織培養系由来であり得る。本発明の場合、高眼圧症の強膜上静脈焼灼ラットモデルを用い、正常だったラット、変化して高IOPを有したラット、および変化して高IOPを有したが続いて薬理学的に正常化されたラットの切開した網膜からmRNAを単離した。高IOPの誘発後に顕著に変化した発現を有した33の遺伝子および発現配列タグ(EST)を同定した。遺伝子の全てがRGC損失の原因を理解する点で目的の候補であり、同定された遺伝子の9個が、ラットモデルでの高IOPの薬理学的正常化後21日目に顕著に変化した発現を保持した。
【0025】
眼圧調節初期遺伝子
高IOPの誘発後の網膜において発現変化を有するいくつかの遺伝子が同定された。上方調節された発現を有すると分析で認められた遺伝子は、α2マクログロブリン、PSD-95/SAP90-関連タンパク質-4、レジー(Reggie)1-1、RBCK、Gzα、プロテインホスファターゼ1γ、リボソームタンパク質L23-関連産物、グリア線維酸性蛋白、環状ヌクレオチド依存性カチオンチャンネル、SPARCおよびB-2アリールアミンN-アセチルトランスフェラーゼであり、一方、下方調節された発現を示す遺伝子としては、アミロイド前駆体様タンパク質2、アンフィフィシン1、Crybb2、Ras関連p23、ヘリカーゼRap30、プロテオソームrPA28サブユニットβ、ATPアーゼα1サブユニット、βA3/A1クリスタリン、βA4クリスタリン、S-アデノシルメチオニンシンターゼおよびアスパラギンシンターゼが挙げられた。遺伝子の多くで見られる発現変化は、グルタミン酸作動性(glutamatergic)ストレス、バイスタンダー効果、成長因子欠乏および軸索成長の低下を含む緑内障におけるRGC死の仮定機序と矛盾が無い。
【0026】
例えば、上方調節された発現により同定された1つのIPREGであるα2マクログロブリンは、その受容体LRP-1に結合し、NMDA受容体の活性化を経て細胞内Ca2+の増加をもたらす。興味深いことに、NMDA受容体活性は神経のアポトーシスと関係がある。また、α2マクログロブリンは網膜のニューロトロフィン、特にRGCの重要な生存因子である神経成長因子(NGF)と結合し、無効にする。したがって、アポトーシス的であるレベルまでNMDA受容体の興奮性活性への影響を激化することにより、および/または生存因子NGFのバイオアベイラビリティを減少することにより、α2マクログロブリンの過剰発現はRGC死の一因となり得る(図7も参照)。
【0027】
IPREG PSD95/SAP90もまたNMDA受容体と関連があり、受容体C末端に結合し、srcファミリーキナーゼを介した受容体のリン酸化および活性化を誘発する。srcファミリーキナーゼFyn、PSD95とNMDA受容体の間の複合体の形成は、脳虚血における細胞死を高めることが観察され、一方、PSD95の阻害は虚血後の神経細胞死を減少した。さらに、NMDR受容体を活性化するsrcファミリーキナーゼは、それ自体がプロテインチロシンホスファターゼ、および特にあるsrcファミリーホスファターゼ、同様に遺伝子アレイ解析において上方調節されていると認められたIPREGであるプロテインホスファターゼ1γ(PP1)、によって活性化される。損傷した成人CNSにおける軸索再生を阻害すると見られるため、PP1はRGCストレスに関係する(図7もまた参照)。
【0028】
また、別の上方調節されたIPREGであるGzαは、二次メッセンジャーとの直接の相互作用体であり、二次メッセンジャーを通じてのNMDA受容体シグナルのメディエーターである。事実、Gzαは、神経細胞死を激化する様式で、α2マクログロブリン/LRP-1受容体のGTPアーゼとの相互作用を機能的に増強すると報告されている。したがって、IPREG α2マクログロブリン、PSD95、PP1およびGzαの上方調節は、何がNMDA受容体の活性化の強化によるRGCアポトーシスの一因となるシグナル伝達の調整であり得るかを示す。
【0029】
IPREGの同定方法
以前の調査で、高眼圧症状下での発現変化を有する遺伝子を同定した。(Ahmed F et al., Invest Ophtalmol Vis Sci 45: 1247-1258, 2004; Esson DWet al., Invest Ophtalmol Vis Sci 45:4450-4462, 2004; Pang IH et al., Invest Ophtalmol Vis Sci 46: 1313-1321, 2005)。しかし、これらの遺伝子の発現の変化は、継続的なRGC死および眼圧の正常化後でさえ患者で見られるそれに続く失明を説明するものではない。したがって、緑内障における眼の症状の継続的な悪化を導く高眼圧症および/またはRGC死の持続に関係がある可能性がより高い遺伝子を同定するために基準を設定した。すなわち、高眼圧症によって引き起こされ、RGC死を生じる高IOPの正常化後に持続する網膜の遺伝子発現の変化である。
【0030】
よって、一つ以上の候補遺伝子が特定の基準のいくつかおよび好ましくは全てを満たすかどうかを決定することにより、眼圧調節遺伝子(IPREG)を同定するための方法が提供される。該方法を用いて評価される候補遺伝子は複数の方法で検出/決定され得る。例えば、当業者は一つ以上の目的の遺伝子を単に選択し得る。一般に、これらの候補遺伝子の選択は、眼における公知の遺伝子発現(例えば、網膜細胞)および、例えば細胞の活性/シグナル伝達の調節(例えば、成長、分化、生存、粘着)、高眼圧症および/または細胞死に関わる遺伝子の何らかの関連に基づく。また、候補遺伝子は該方法に概説される症状のいくつかによる遺伝子発現の変化に基づき選ばれ得る。例えば、高眼圧、眼圧正常化、失明、網膜細胞死、網膜細胞生存および/または緑内障全般の症状下の一つまたは複数の遺伝子の発現の変化である。選ばれた症状(一つまたは複数)下の遺伝子発現を、例えばディファレンシャルディスプレイまたは遺伝子マイクロアレイを用いて適切な対照(例えば、正常および/または非疾患状態)と比較することにより、遺伝子発現のこれらの変化を確認し得る。
【0031】
該方法において、候補遺伝子(一つまたは複数)の発現が高眼圧症により変化するかどうかを決定する。しかし、遺伝子の発現は、好ましくは高眼圧症および緑内障に特異的であり、すなわちその発現はIOPの増大により生じ得る全般的なRGC損傷の結果ではない。遺伝子の発現における変化が単にRGC損傷により変化するかどうかを決定するために、遺伝子(一つまたは複数)の発現を、一般の、好ましくは急性、RGC損傷状態下で他の適切な実験モデル(例えば、視神経軸索切断ラットモデル)を用いて確認し得る。該方法においてまた、遺伝子の発現が高眼圧症の開始後初期に変化するかどうかを決定する。こうして、一つまたは複数の遺伝子の発現の変化が、その後の緑内障関連事象とは対照的に、特異的に高眼圧症によるものかどうかさらに確認される。高眼圧症の開始後十分初期である期間は、ヒトの患者には患者集団、実験動物モデル(例えば、マウス、ラット、ウサギ)または他のモデル系(例えば、細胞培養物)を含む多くの因子によって決まり、特定群、実験動物モデル、および/または他のモデル系の知識に基づき当業者により最もよく決定される。例えば、本明細書で用いられる高眼圧症/緑内障のモデルであるラット強膜上静脈焼灼モデル(実施例1参照)において、高眼圧症開始後の遺伝子の初期発現は、高IOPの誘発後の約1から7日、または約3から7日の間にあった。
【0032】
該方法は、高眼圧症または緑内障の開始後に一つまたは複数の候補遺伝子の発現が持続的/長期的であるかどうかを決定する工程をさらに含む。すなわち、遺伝子発現が高IOPの開始後初期の後に変化したままで、代わりに遺伝子発現における短期的な変化ではないかどうかを決定する。この基準は、同定した遺伝子が緑内障で見られる高眼圧症およびRGC死を持続するのに関与する可能性を一段と高める。この基準を満たす遺伝子(一つまたは複数)の発現測定のための期間はまた、用いる患者集団または実験動物モデルによって決まる。一般に、高IOPの開始後初期に測定される遺伝子(一つまたは複数)の発現を、高IOPの開始後十分後期であると決定されるいくつかの時点の同じ遺伝子(一つまたは複数)の発現と比較する。ラット強膜上静脈焼灼モデルにおいて、発現の変化を有する遺伝子の発現の持続がラットの眼の焼灼後28日目に測定された時点であった(実施例1、群2参照)。
【0033】
IPREGの同定は、例えば眼圧調節薬を用いて高眼圧症が低減および/または正常化された後に、遺伝子の発現が変化したままであるかどうかを決定することをさらに含む。この基準は、高眼圧症の正常化にもかかわらず視野喪失が継続して起こるヒトの患者において頻繁に見られる状況をよく再現し、ひいては該基準は、緑内障における眼の変性に関与する遺伝子の同定を確実にするのに役立つ。高眼圧症の低減後に持続する発現の変化を有する遺伝子を評価するため、眼圧を高IOP開始後、比較的すぐに低下/正常化し得る。例えば、ラット強膜上静脈焼灼モデルにおいて、ラットを焼灼後(例えば、高IOPの誘発)3日目に眼圧正常化薬で処置し、焼灼後7日目までに眼圧が正常化されたと見られ、高IOPの正常化後21日目である焼灼後28日目に遺伝子発現を測定した(実施例1、群3参照)。遺伝子発現が長期的であるかどうかを決定するため、IOP低下/正常化後の後期の時点で測定した遺伝子発現を、高IOPの開始後初期の遺伝子発現および/または正常な遺伝子発現(例えば、高眼圧症の開始/誘発前の遺伝子発現または正常な個体/動物で見られる遺伝子発現)と比較し得る。
【0034】
遺伝子の発現は、遺伝子発現を測定する他の方法(例えば、ノザンブロット、逆転写PCR(従来およびリアルタイム)、PCR)により確認され得、一般に、遺伝子の同定における発現の変化を解明するのに用いられない方法である。また、遺伝子産物およびタンパク質の発現において付随する変化をまた測定し、転写レベルで認められる発現の変化もまたタンパク質レベルで認められることを確認し得る。同定された遺伝子および/またはタンパク質の発現の変化がタンパク質の活性の変化(例えば、キナーゼ活性、結合活性、切断活性、タンパク質活性化または阻害活性)をもたらすかどうかを決定することは特定のタンパク質/酵素にまた好都合であり得る。タンパク質/酵素活性の評価は当該分野で周知の多くの方法(例えば、分光学的、蛍光測定、熱量測定、化学発光法、放射分析、クロマトグラフによるアッセイ)において実施され得、特定のタンパク質/酵素によって決まる。
【0035】
上記に説明される方法により遺伝子がIPREGとして同定された後、該方法は遺伝子ならびにそのRGC死および緑内障進行の調節および/または原因への潜在的関与をよりよく理解するために他の側面を含み得る。遺伝子マイクロアレイを用いて同定される候補遺伝子について、例えば、網膜および他の細胞/系において同定された遺伝子の機能および/または役割を決定することは、緑内障およびRGC死における遺伝子の推定の役割を解明するために参考になり得る。この情報は、全米バイオテクノロジー情報センター(the National Center for Biotechnology Information)(NCBI)(例えば、PubMed(科学論文)、Entrez(ゲノム、遺伝子、タンパク質)、GenBank)、他のオンライン検索、教本、論文、蔵書、科学的発表などを含む多種多様な情報源から、当業者が入手可能である。特に興味深いのは、細胞をアポトーシスから保護するかまたは細胞のアポトーシスを誘発する働きを有することが考えられるおよび/または知られる同定された遺伝子である。したがって、該方法は遺伝子が細胞死または細胞生存に関わるかどうかを決定する工程をさらに含み得る。このことは通常、上記に概説される一つ以上の源の遺伝子を研究することにより実施され得る。特に、細胞死に関わる同定された遺伝子の上方調節および細胞生存に関わる同定された遺伝子の下方調節は、RGC死へのそれらの関与と一致する。
【0036】
該方法はまた、緑内障において同定された遺伝子(一つまたは複数)の役割をインビボで確認する工程をさらに含み得る。同定された遺伝子(一つまたは複数)が、緑内障、慢性の眼の変性、および/またはRGC死にインビボで影響するかどうかを確かめることは、緑内障治療のための実現性ある標的としての遺伝子(一つまたは複数)を確認するのに役立ち得る。よって、上方調節された遺伝子または遺伝子産物の発現または活性はインビボで減少し得るか、下方調節された遺伝子または遺伝子産物の発現または活性はインビボで増大し得、RGC死への効果(例えば、予防)が例えば、決定され得る。緑内障における遺伝子またはタンパク質の役割を確認するために必要な、同定された遺伝子または遺伝子産物の発現または活性の変化のレベルは、RGC死および/または緑内障の進行を予防するのに十分な効果を発揮するレベルであり得、このレベルは当業者により決定され得る。ある態様において、遺伝子または遺伝子産物の発現または活性は正常レベル(例えば、高眼圧症、RGC死および/または緑内障を有さない動物で見いだされるレベル)に増大されるか減少される。インビボで遺伝子または遺伝子産物の発現または活性を減少する(例えば、阻害する)または増大することは、処置方法において下記に概説されるように、多くの方法(例えば、突然変異誘発、低分子干渉(siRNA)、アンチセンスヌクレオチド、メチル化/脱メチル化、中和抗体、ドミナントネガティブポリペプチド、ペプチド模倣物)でなし得る。同定された遺伝子またはタンパク質の操作の効果(例えば、正常レベルに戻る)は、一つ以上の動物モデル(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル)、および成功すれば最終的にはヒトの患者において確認され得る。
【0037】
本発明はまた、上記の方法で同定されるIPREGに関する。したがって、同定されたIPREGは該方法で特定される基準を満たす。さらに、同定されたIPREGが細胞死または細胞生存に関与するかどうかもまた決定され得る。特定の態様において、一般に、同定されるIPREGの発現または活性をあるレベル(例えば、正常レベル)に増大するか減少する(低減する)ことがRGC死および/または緑内障の進行を予防するかどうかを確かめることにより、RGC死および/または緑内障におけるIPREGの役割が確認される。
【0038】
処置方法
よって本発明は、緑内障に関与する異常に上方調節および/または下方調節された遺伝子の調節方法に関する。該方法は、公知(例えば、α2マクログロブリンまたはアンフィフィシン1)および未知(例えば、クローンrx05013またはEST196604)の機能を有する上述の実験モデル(すなわち、高眼圧症の強膜上静脈焼灼ラットモデル)を用いて同定される遺伝子を含む。本発明の方法は哺乳動物、特にヒトを処置するのに用いられる。上記の動物モデルは、ヒトで見られる緑内障の特徴をよく表し、インビボでのヒトの緑内障の処置の有効性を評価するためによいモデルである。
【0039】
したがって本発明は、一つ以上の上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害する組成物の有効量を投与することにより、緑内障の哺乳動物を処置する方法に関する。特に、該方法は、遺伝子アレイ解析で同定された一つ以上の上方調節された遺伝子を阻害する工程を含む。ある態様において、これらの遺伝子としては、α2マクログロブリン、PSD-95/SAP90関連タンパク質-4、レジー(Reggie)1-1、RBCK、Gzα、プロテインホスファターゼ1γ、リボソームタンパク質L23関連産物、グリア線維酸性蛋白、環状ヌクレオチド依存性カチオンチャンネル、SPARCおよびB-2アリールアミンN-アセチルトランスフェラーゼが挙げられる。
【0040】
本明細書で使用する場合、上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害する組成物または物質とは、上方調節されたIPREGの遺伝子または発現した遺伝子産物(一つまたは複数)(例えば、DNA、RNAまたはタンパク質)を減少する、および/または上方調節されたIPREGの機能的活性を抑制する任意の物質からなる組成物をいう。IPREGの遺伝子または遺伝子産物の発現レベルを減少することは、当業者に公知の多くの方法、例えばIPREGのサイレンシング(例えば、特定の脱メチル化酵素を阻害することによる)、IPREGの正の転写調節領域の標的化破壊(例えば、相同的組み換えまたは突然変異誘発による)、IPREGの正の転写または翻訳の調節因子の遺伝子または遺伝子産物の阻害(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA、中和抗体、ドミナントネガティブ遺伝子/ポリペプチド、ペプチド模倣物)、IPREGの負の転写または翻訳の調節因子の活性または発現の増大(例えば、組換え遺伝子発現ベクター、組換えウイルスベクター、合成ペプチド、組換えポリペプチド、ハイパーモルフィック(hypermorphic)遺伝子/ポリペプチドを使用する)またはIPREG自体の阻害(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA、中和抗体、ドミナントネガティブポリペプチド、ペプチド模倣物を使用する)でなし遂げ得る。上方調節されたIPREGの機能的活性は、IPREGタンパク質の活性の直接的阻害(例えば、中和抗体、小分子またはペプチド模倣物、ドミナントネガティブポリペプチドを用いることによる)、IPREGを活性化する遺伝子および/またはタンパク質の阻害(例えば、遺伝子および/またはタンパク質の発現または活性を阻止することによる)、IPREGを阻害する遺伝子および/またはタンパク質の活性化(例えば、遺伝子および/またはタンパク質の発現または活性を増大することによる)、IPREG機能の下流メディエーターである遺伝子および/またはタンパク質の阻害(例えば、メディエーター遺伝子および/またはタンパク質の発現および/または活性を阻止することによる)、IPREGを負に調節する遺伝子および/またはタンパク質の導入(例えば、組換え遺伝子発現ベクター、組換えウイルスベクターまたは組換えポリペプチドを用いることによる)、または例えばIPREGのハイポモルフィック(hypomorphic)突然変異体との遺伝子交換(例えば、相同的組み換え、組換え遺伝子発現もしくはウイルスベクターを用いる過剰発現、または突然変異誘発による)を含むいくつかの方法で阻止され得る。
【0041】
したがって、ある態様において、阻害組成物は細胞受容体またはIPREGの結合相手であるタンパク質に指向し得る。例えば、ある態様において、阻害されるIPREGは、例えばタンパク質に対する中和抗体を用いるα2マクログロブリンである。別の態様において、α2マクログロブリンは、例えば阻害ペプチドまたはペプチド模倣物を用いて、その受容体(例えば、LRP-1)を拮抗化することまたはα2マクログロブリン機能の下流メディエーター(例えば、IPREG Gzαおよび/またはNMDA受容体)を拮抗化することにより阻害される。あるいは、α2マクログロブリンの結合相手(例えば、NGF)が阻害され、それによりα2マクログロブリン機能が阻止され得る。同様に該阻害組成物は、上方調節されたIPREG、PSD-95、または例えば、PSD-95と複合体を形成し、受容体(例えば、NMDA受容体)を共活性化し、それにより細胞死を媒介する遺伝子および/またはタンパク質(例えば、Fyn)に指向し得る。別の態様において、該阻害組成物は、αa2マクログロブリン、Gzαおよび/またはPSD-95の機能の他の下流メディエーターに指向し、例えば該組成物は上方調節されたIPREG PP1を阻害し得る。
【0042】
該方法のある態様において、一つ以上の上方調節されたIPREGを阻害するために投与される組成物は、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、中和抗体、小分子、組換え遺伝子発現ベクター、組換え遺伝子ウイルスベクター、合成ペプチド、組換えポリペプチド、ペプチド模倣物、またはIPREGの調節領域の阻害剤からなり得る。すでに論じたように、該組成物の物質は、IPREG発現、タンパク質発現または機能的活性を直接的または間接的に阻害し得る。該組成物は、眼内注射、結膜局所塗布、角膜局所塗布(例えば、点眼剤、アイジェル)を含むいくつかの経路の一つにより、または機械的送達装置もしくは眼の挿入物を用いて、適切な医薬担体で投与され得る。
【0043】
本発明はまた、一つ以上の下方調節されたIPREGの発現または活性を増大する組成物の有効量を哺乳動物に投与することにより哺乳動物の緑内障を処置する方法に関する。該方法はまた、公知または未知の機能である、遺伝子アレイ解析で同定された遺伝子の発現を増大することを含み、該方法のある態様において、下方調節された遺伝子は、アミロイド前駆体様タンパク質2、アンフィフィシン1、Crybb2、Ras関連p23、ヘリカーゼRap30、プロテオソームrPA28サブユニットβ、ATPアーゼα1サブユニット、βA3/A1クリスタリン、βA4クリスタリン、S-アデノシルメチオニンシンターゼおよびアスパラギンシンターゼからなる群より選ばれる。特定の態様において、発現または活性が増大するIPREGはアンフィフィシン1である。
【0044】
本明細書で使用する場合、下方調節されたIPREGの発現または活性を増大する組成物または物質とは、下方調節されたIPREGの遺伝子または発現した遺伝子産物を増大するか、または下方調節されたIPREGの活性化プールおよび/または活性を増大する任意の物質からなる組成物をいう。したがって、該組成物はIPREGのサイレンシングを妨げる(例えば、特定の脱メチル化酵素を活性化することによる)、IPREGの負の転写調節領域を破壊する(例えば、相同的組み換えまたは突然変異誘発による)、IPREGの負の転写もしくは翻訳の調節因子またはIPREG機能の負の調節因子を阻害する(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA、または中和抗体を用いることによる)、あるいはIPREGの正の転写および/または翻訳の調節因子、IPREGの機能の正の調節因子、IPREG自体もしくはその下流メディエーターの発現を増大する(例えば、組換え遺伝子発現ベクター、組換えウイルスベクター、合成ペプチド、または組換えポリペプチドを用いることによる)任意の物質からなり得る。
【0045】
よって、下方調節されたIPREGの発現または活性を増大する組成物は、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、中和抗体、小分子、組換え遺伝子発現ベクター、組換え遺伝子ウイルスベクター、合成ペプチド、組換えポリペプチド、ドミナントネガティブ遺伝子またはポリペプチド、ペプチド模倣物、およびIPREGの調節領域の活性化剤からなる群からの一つ以上の物質からなり得る。したがって、該組成物は下方調節されたIPREGの発現または機能的活性を直接的または間接的に増大し得る。
【0046】
本発明はまた、上方調節されたIPREGおよび下方調節されたIPREGの両者を調節する組成物を哺乳動物に投与することにより、緑内障または緑内障関連問題を処置する方法に関する。例えば、本発明は、少なくとも一つの上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害し、かつ少なくとも一つの下方調節されたIPREGの発現または活性を増大する組成物の有効量を哺乳動物に投与することにより、哺乳動物の緑内障を処置する方法に関する。本発明はまた、該組成物が上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害するかまたは下方調節されたIPREGの発現または活性を増大するように一つ以上のIPREGを調節する組成物の有効量を個体に投与することにより、高IOPが介するRGC死を予防する方法に関する。同様に、本発明はさらに、該組成物が慢性的な眼の変性において上方調節された一つ以上のIPREGの発現または活性を阻害するかまたは眼の変性において下方調節された一つ以上のIPREGの発現または活性を増大するように一つ以上のIPREGを調節する組成物の有効量を哺乳動物に投与することにより、哺乳動物の眼の変性を予防する方法に関する。
【0047】
該方法のさらなる態様において、該組成物により阻害される上方調節されたIPREGとしては、α2マクログロブリン、PSD-95/SAP90関連タンパク質-4、レジー(Reggie)1-1、RBCK、Gzα、プロテインホスファターゼ1γ、リボソームタンパク質L23関連産物、グリア線維酸性蛋白、環状ヌクレオチド依存性カチオンチャンネル、SPARCおよびB-2アリールアミンN-アセチルトランスフェラーゼからなる群より選ばれるものが挙げられ、発現が該組成物により増大される下方調節されたIPREGとしては、アミロイド前駆体様タンパク質2、アンフィフィシン1、Crybb2、Ras関連p23、ヘリカーゼRap30、プロテオソームrPA28サブユニットβ、ATPアーゼα1サブユニット、βA3/A1クリスタリン、βA4クリスタリン、S-アデノシルメチオニンシンターゼおよびアスパラギンシンターゼからなる群より選ばれるものが挙げられる。
【0048】
該方法において一つ以上のIPREGを調節する組成物は、直接的または間接的に、下方調節されたIPREGの発現または機能を増大する、および/または上方調節されたIPREGの発現または機能を阻害する任意の物質からなり得る。こうして、さらなる態様において、該組成物は、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、中和抗体、小分子、組換え遺伝子発現ベクター、組換え遺伝子ウイルスベクター、および組換えポリペプチド、ペプチド模倣物、IPREGの調節領域の阻害剤およびIPREGの調節領域の活性化剤からなる。上記の組成物はまた、好ましくは、眼内注射、結膜局所塗布、角膜局所塗布を含むいくつかの経路の一つによりおよび機械的送達装置を用いて、適切な医薬担体中で投与される。
【0049】
緑内障を処置するためにα2マクログロブリン(上方調節されたIPREG)を阻害する効果の実験的試験は、α2マクログロブリンの阻害を通じて見られるRGC生存が眼圧降下剤の併用により高まったことを示した(表1および2参照)。したがって、全ての処置方法はさらに、IPREG調節組成物(例えば、上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害する、および/または下方調節されたIPREGの発現または活性を減少する)を投与する工程に組み合わせて、または加えて、いくつかの眼圧正常化薬の一つを投与する工程からなり得る。IPREG調節組成物での処置中のいつでも、眼圧正常化薬を投与し得、したがって、眼圧正常化薬を該組成物での処置の間ずっと継続して、または該組成物の有効量の前、後、もしくは同時のいずれかで投与し得る。ヒトの患者はすでに眼圧降下剤での治療を受けている可能性が高いので、IPREG調節組成物を任意の眼圧降下剤に加えて当業者によって適当であると見なされる間隔で投与し、効果的に患者を処置する。非選択的β1アドレナリン受容体遮断剤、選択的β1アドレナリン受容体遮断剤、プロスタグランジン、プロスタグランジンアナログ、炭酸脱水酵素阻害剤、ドコサノイド、アドレナリン作用薬、コリン作動薬および縮瞳薬を含む、眼圧を下げるために該方法で用い得る種々の薬物がある。特定の態様において、眼圧降下剤は選択的β1アドレナリン受容体遮断剤ベタキソロールを用いた。
【0050】
投与量および適切な担体
本発明の方法により、IPREGを調節する(すなわち、発現もしくは活性を阻害する、および/または発現もしくは活性を増大する)組成物の有効量を、単独でまたは別の薬物と併用して許容され得る医薬担体として、適当な経路(例えば、眼内注射、結膜局所塗布、角膜局所塗布、または機械的送達装置を用いて)により、哺乳動物に投与し得る。医薬組成物の有効量とは、投与条件下で、所望の治療または予防の効果を達成するのに十分な量、例えば、RGCアポトーシス、およびその結果として緑内障進行が緩和されるおよび/または阻止されるような組成物の投与量である。該組成物は、単回投与または複数回投与で投与し、患者が治療的に有意なレベルの組成物を処置中に維持するのを確実にし得る。投与量は当該分野で公知の方法により決定され得、該組成物のために選択された特定の薬剤(一つまたは複数)、被検体の年齢、体重、感受性および薬物耐性、ならびに全般的健康によって決まる。
【0051】
該組成物の処方は、選ばれた投与経路により異なる(例えば、液体または乳剤)。適切な医薬担体は、該組成物中の調節物質と相互作用しない不活性成分を含み得る。標準的医薬製剤化技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, PAに記載されるような技術などが用いられ得る。非経口投与のための適切な医薬担体としては、例えば、滅菌水、生理食塩水、静菌食塩水(約0.9% mg/ml ベンジルアルコールを含む食塩水)、リン酸緩衝生理食塩水、ハンクス液、乳酸リンガー液などが挙げられる。
【0052】
診断方法およびキット
本発明はまた、熟練の臨床医が緑内障または緑内障関連の問題を診断するのを可能にする方法に関する。高IOPの開始は予測が難しく、しばしば、患者が顕著な眼の変性が生じるのに十分に長い期間、つまり高レベルのIOPが臨床医にみつかるおよび/または明らかになる前に、高IOPにさらされて終わる。そのタンパク質産物が発現レベルにおいて付随する増大(上方調節されたIPREG)または減少(下方調節されたIPREG)を示す、いくつかの同定されたIPREGがある(例えば、α2マクログロブリン、アンフィフィシン1およびGzα)。さらに、IPREGタンパク質の多くは、眼の房水中で可溶性であり検出できる(例えば、α2マクログロブリン)。眼の房水は、当業者に公知の標準の外科的操作により患者から採取され得る。その結果、可溶性タンパク質は、免疫沈降、免疫ブロット法、免疫蛍光検査、クロマトグラフィー(例えば、HPLC、イオン交換またはゲルろ過)または特定の活性(例えば、検出可能に標識した物質の切断および/または結合)および検出タンパク質の定量化した発現レベルを含む、当該分野で公知である任意の多くの方法によって房水中で検出され得る。例えば、図5は緑内障(G)のヒトの眼の房水において、α2マクログロブリン発現が検出され、顕著に上方調節されたことを示す。
【0053】
したがって、本発明は、患者の房水における一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルを測定し、測定された一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルを、正常な眼機能の個体における同じ一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルと比較することにより、患者において、慢性的な眼の変性を持つ個体において上方調節されたIPREGタンパク質のより高い発現レベルまたは慢性的な眼の変性を持つ個体において下方調節されたIPREGタンパク質のより低い発現レベルが、患者が慢性的な眼の変性を持つことを示すような、患者における慢性的な眼の変性を試験する方法に関する。一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルは、当業者に選択された上記方法のいずれかによって測定され得、正常の眼機能を持つ個体(一つまたは複数)、例えば、緑内障とは特徴的に(例えば、分子的に)異なる眼の状態である個体(一つまたは複数)において見られる同じ方法を用いて測定された同じ一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルと比較し得る。一つ以上のIPREGタンパク質の対照および/または正常の発現レベルは、患者において測定されるのと同時に正常な個体からの試料において測定され得るか、比較に用いた発現レベル(一つまたは複数)は、用いた特定の方法のために予め確立された、公知の定量した基準であり得る。
【0054】
遺伝子アレイ解析により同定されたIPREGの一つ以上の発現レベル、または全てでさえ、該方法において測定するのに用いられ得、特定の態様において、その発現レベルが測定されているIPREGタンパク質は、α2マクログロブリンおよびアンフィフィシン1である。患者におけるRGCストレスの状態の理解は、緑内障の重症度および進行を確立する、および/または示すために熟練の臨床医には重要である。したがって、本発明はまた、初期時点で患者の房水における一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルを測定する工程、後期時点で患者の房水における同じ一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルを測定する工程、一つ以上の上方調節されたIPREGタンパク質のより高い発現レベルまたは一つ以上の下方調節されたIPREGタンパク質のより低い発現レベルが患者におけるRGCストレスの開始を示すように、初期時点の一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルを後期時点で測定されたものと比較する工程を含む、患者におけるRGCストレスの開始を試験する方法に関する。一つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルは、以前に論じたように患者の房水において測定され、定量され得る(例えば、免疫化学、クロマトグラフィーまたは特定の活性を用いる)。
【0055】
さらに、個体が、多くの環境的および遺伝的な因子に基づき、特定の治療法に対して異なった応答をし得ることは周知である。よって、本発明はまた、処置の効能と相関するIPREGに対する変化を用いて、特定の緑内障治療法が効果的である可能性、および特に個体における一つ以上の特定のIPREGを緑内障治療法の標的とすることが役立つ、および/または成功する可能性を、予測する方法に関する。したがって、ある側面において、該方法は、当業者に公知である任意の多くのヌクレオチド分析の方法(例えば、SNP、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)、塩基配列決定、PCRまたはミスマッチ検出アッセイ)を用いて、緑内障治療効果のマーカーであることが決定され/公知であるIPREGの遺伝的変化(例えば、遺伝子の重複、欠失、組換え、転位または配列変異)についての生物試料(例えば、血液、細胞または唾液)を検査することに関する。別の側面において、該方法は、その発現/活性が前述の方法(例えば、免疫化学、クロマトグラフィーまたは基質相互作用)による、または当業者に公知の他の方法による、特定の緑内障処置の成功と相関すると同定されている、IPREGタンパク質の生物試料(例えば、房水または細胞)における発現レベルおよび/または活性を測定することに関する。
【0056】
生物試料(例えば、房水)におけるIPREGタンパク質の発現レベルを検出するために用いるキットがまた調製され得る。かかるキットは一つ以上のIPREGタンパク質に結合する抗体または機能的断片、ならびに抗体(または抗体断片)と一つ以上のIPREGタンパク質の複合体の存在を検出するために適切な補助試薬を含み得る。抗体組成物は凍結乾燥形態で、単独または検出された一つ以上のIPREGタンパク質の他のエピトープに特異的なさらなる抗体と組み合わせてのいずれかで提供され得る。抗体は標識され得るかまたは標識され得ず、補助成分(例えば、バッファー、安定剤、賦形剤、殺生物剤、および/または不活性タンパク質、例えば、ウシ血清アルブミン)とともにキットに含まれ得る。例えば、抗体は補助成分とともに凍結乾燥混合物として提供され得るか、または補助成分は使用者により組み合わされるために別々に提供され得る。一般に、これらの補助材料は活性抗体量に対して約5重量%未満で存在し、通常、抗体濃度に対して総量で少なくとも約0.001重量%で存在する。IPREGタンパク質(一つまたは複数)に反応性である一つ以上の抗体(例えば、一次抗体)に結合できる、一つ以上の二次(second)抗体(例えば二次(secondary)抗体)が用いられ、かかる抗体はキット中に、例えば別のバイアルや容器中に提供され得る。二次抗体が存在する場合、通常は標識されており、上述の抗体製剤と類似の方法で製剤化され得る。キットの該構成要素(例えば、抗αa2マクログロブリン抗体または抗体断片および補助試薬)は別々にまたは適当な収容手段(例えば、ビン、箱、包みまたは管)内に一緒に包装され得る。
【0057】
医薬組成物
本発明はまた、哺乳動物または患者を処置する本発明の方法における使用のための医薬組成物に関する。したがって本発明は、一つ以上の上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害する少なくとも一つの物質(例えば、分子、化合物、ポリペプチド)の有効量および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物に関し、ここで該組成物は緑内障を処置するために投与される。さらなる態様において、医薬組成物はまた、慢性的な眼の変性またはRGC死を処置するために用いられる。医薬組成物は、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、中和抗体、小分子、組換え遺伝子発現ベクター、組換え遺伝子ウイルスベクター、合成ペプチド、組換えポリペプチド、ペプチド模倣物およびIPREGの調節領域の阻害剤からなり得る。該医薬組成物により阻害された上方調節されたIPREGは、遺伝子アレイ解析で同定された公知または未知の機能のIPREGの1つであり得る(表2参照)。
【0058】
本発明はまた、一つ以上の下方調節されたIPREGの発現または活性を増大する少なくとも一つの物質の有効量および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物に関し、ここで該組成物は緑内障を処置するために投与される。ある態様において、該医薬組成物は、遺伝子アレイ解析において下方調節されたと認められるIPREGの発現または活性を増大する(表2参照)物質(例えば、分子、化合物、ポリペプチド)からなり、この組成物は、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、中和抗体、小分子、組換え遺伝子発現ベクター、組換え遺伝子ウイルスベクター、組換えポリペプチド、ペプチド模倣物およびIPREGの調節領域の活性化剤からなり得る。
【0059】
本発明はさらに、一つ以上の上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害する少なくとも一つの物質および一つ以上の下方調節されたIPREGの発現または活性を増大する少なくとも一つの物質の有効量ならびに薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物に関し、ここで該組成物は緑内障を処置するために、さらなる態様においては慢性的な眼の変性またはRGC死を処置するために投与される。該医薬組成物が標的とするIPREGは、効果的かつ適切にIPREG発現を変化させる任意の物質を用いて遺伝子アレイ解析で顕著に変化した発現を有すると決定されたIPREGのいずれかであり得る。前述同様、該医薬組成物は眼内注射、結膜局所塗布、角膜局所塗布を含むいくつかの経路の1つにより、または機械的送達装置を用いて投与され得る。
【0060】
実施例
実施例1.眼圧調節遺伝子
眼圧の誘導
高IOP。ラットの眼の強膜焼灼術を麻酔下で実施した。結膜切開の後、外眼筋を単離し、大輪部流出静脈を、位置、相対的不動性、より大きな管腔の直径、および分枝パターンに基づいて同定した。右眼の3本の強膜血管の焼灼術を、30”焼灼チップで実施した。各動物の左眼を、シャム手術(焼灼術を使用しない結膜切開)の後に正常なIOPコントロールとして使用した。
【0061】
IOP測定。IOPを、光麻酔(ケタミン4mg kg;キシラジン、0.32mg/kg;およびアセポマジン、0.4mg/kgの筋肉注射)下でトノペンXLトノメーターを使用して測定した。他の装置と比較したトノパンの読み取りの正確さを、麻酔下でさえ既に決定されていた。麻酔下でのラットの平均正常IOPは、12mmHg(10〜14mmHgで変動する)であり、焼灼された眼において、それは、4ヶ月を超える間、安定な平均21mmHg(18〜24mmHgで変動する)に上昇した。これらの値は、以前に公開されたデータと一致した。
【0062】
左眼または右眼を焼灼したかどうかによるIOPの違いはなかった(データは示さず);従って、記録および管理目的のために右側を選択した。平面検眼鏡検査を使用し、上昇したIOPでの網膜の正常な灌流を確認した。焼灼術は、IOPの約1.7倍の上昇を引き起こした。この上昇は、圧力を2倍を超えて上昇させ、しばしば虚血を引き起こす他のモデルより、ヒト開放隅角緑内障に関連すると記載された。
【0063】
高IOPの薬理学的低下。選択的β−ブロッカー(ベタキソロール 0.5%、Alcon)を、点眼剤として毎日使用した。局所的ベタキソロールを、示されるように(例えば、焼灼術の3日後)開始し、3日後にIOPの完全な正常化を生じた。その後、ベタキソロールを使用した間、IOPを正常化にとどまり続けた。例えば、ベタキソロールを焼灼術3日後以後使用した場合、これらの眼は、第1日〜第6日に高IOPを経験し、第7日以後IOPは正常化した。ベタキソロールは、正常な眼のIOPにおいて有意な効果を有さなかった。
【0064】
高IOPを、1つの眼の3本の強膜管を焼灼し、房水流出を減少することによってラットの眼において誘導し、反対側の眼をシャム手術し、コントロールとして使用した(図1A)。焼灼された眼のIOPは、静脈焼灼後第3日、第7日、第14日、第21日、および第28日のコントロールの眼より有意に高かった(p≦0.01)。緑内障の眼における平均IOPは、正常な眼における約12.6mmHgの平均IOPと比較して、約21mmHgであった。ベタキソロールでの毎日の局所処置は、房水産生を低下させ、焼灼によって誘導された高IOPを低下させたが、反対側の眼の正常なIOPに対する有意な効果はなかった(図1Aを参照)。焼灼3日後に開始されるベタキソロール使用は、第7日以降高IOPを完全に正常化した。ベタキソロールで処置された焼灼された眼のIOP対ベタキソロールで処置されたかまたは処置されないコントロールの眼のIOPには有意な差はなかった。
【0065】
高IOPによって誘導されるRGC死
静脈焼灼によって引き起こされる慢性高IOPは、一定の割合で累積的なRGC喪失を引き起こす(Rudinski M et al., J Neurobiol 58: 341-354, 2004)。網膜内のRGC体を標識する逆行性トレーサーを使用して、本出願人らは、焼灼後の第3週、第4週、および第5週に約15%、約20%、および約27%の平均RGC喪失があったことを確認した。焼灼後の第6週に、約35%の平均RGC喪失があった(データは示さず)。ベタキソロールでのIOPの正常化は、RGC喪失の平均割合を減少したが、予防はしなかった(図1B)。示された実験において、毎日のベタキソロールの投与は、第7日以後IOPを正常化した。従って、より低いがなお有意な割合のRGC喪失は、高IOPへの短期間(約1週間)の曝露によって誘発されたが、この死は、連続的な高IOPとは無関係であった。これらの動物データは、3年で25%の被験体に、および10年で70%を超える被験体に影響した、IOPを低下させるために投薬された患者における報告された視野の欠落を繰り返した(Kass MA et al., Arch Ophthalmol 107: 1590-1598, 1989; O'Brien C et al., Am J Ophthalmol 111: 491-500, 1991)。
【0066】
視神経軸索切断術によって誘導されたRGC死
(慢性眼内損傷である)緑内障と対比するために、急性眼外損傷である視神経軸索切断術を研究した。視神経軸索切断術において、最小であるが検出可能なRGC死は、4日後に見られ、約40%のRGCを損傷の10日後に見出した(Berkelaar M et al., J Neurosci 14: 4368-4374, 1994; Di Polo A et al., Proc Natl Acad Sci 95: 3978-3983, 1998)。緑内障インビボモデルおよび軸索切断術インビボモデルが類似したRGC喪失を与えたので、さらなる実験において、高IOPの誘導の28日後を、視神経軸索切断術の4日後と比較し、高IOPの誘導42日後を、視神経軸索切断術の10日後と比較した。
【0067】
眼圧調節初期遺伝子(IPREG)
RNA調製。全RNAをTRIZOL(登録商標)(Life Technologies)を使用して、網膜組織から単離した。同じ実験群に属する3つの網膜を、遺伝子マイクロアレイ実験のためにプールした。次いで、RNAをRNAEASY(登録商標)(QIAGEN(登録商標))を使用してさらに精製した。RNA試料の完全性を、2100バイオアナライザー(Agilent)を使用してRNA6000Nano LabChip(Agilent)上でアリコートを泳動することによって評価した。
【0068】
マイクロチップハイブリダイゼーション。プローブ合成、ハイブリダイゼーション、およびスキャンを、McGill大学およびGenome Quebec Innovation Centreでの奉仕としてのAffymetrixプロトコールに従って実施した。示された実験の間、ラットU34ゲノムアレイ(8700遺伝子、Affymetrix)を使用した。簡単に、RNA試料を、まず、二本鎖cDNAに変換した(T7−(dT24プライマー(Genset))。次いで、cDNAを精製し、ビオチン化cRNAプローブを作製するために使用した(Bioarray High Yield RNA transcript labeling kit (Enzo diagnostics))。精製されたcRNAのアリコートをRNA 6000 Nano LabChip(Agilent)上で分析し、完全性およびサイズ分布を確認した。ハイブリダイゼーションの直後、チップを、Affimetrix GeneChip Fluidics Station 400(Affymetrix)に配置した。全部で、10回の低ストリンジェンシー洗浄(63 SSPE、0.01% Tween−20、0.005%消泡剤)および4回の高ストリンジェンシー洗浄(100mM MES、0.1M NaCl、0.01% Tween−20、50℃)を実施した(全ての試薬はSigmaから購入)。次いで、アレイを、SAPE(登録商標)(ストレプトアビジン/フィコエリトリン、Molecular Probes)とインキュベートし、次いで、10回の低ストリンジェンシー洗浄を行った。アレイを、ビオチン化抗ストレプトアビジン抗体(Vector Laboratories)とインキュベートし、再度15回の低ストリンジェンシー洗浄で洗浄した。特異的に結合したプローブを、アレイをAglient GeneArrayスキャナー2500(Affymetrix)に配置することによって検出した。スキャンされた画像を、Microarray Analysis Suiteバージョン5.0(Affymetrix)を使用して解析した。統計解析を、Kensington Discovery Editionバージョン1.8(Inforsense)の補助のもとに実施した。
【0069】
網膜を、網膜mRNAのみが遺伝子マイクロアレイ研究のために調製されることを確実にするように注意深く切開して取り出された。試料を、シャム手術した眼(正常IOPコントロール、群1)、高IOPで第28日の眼(試験、群2)、および焼灼術の28日後で第3日以降毎日ベタキソロール処置した眼(群3)から得た。群3において、高IOPは、第7日までに正常レベルに戻った。これらの群(各群n=4)の各々由来の試料を、遺伝子マイクロアレイによって研究した(図2のフローチャートを参照)。2.5倍のカットオフを、有意性(P<0.05)を与えるために使用した。
【0070】
網膜中の異なる発現に焦点を当てた初期分析を、高IOP(群2)対正常IOP(群1)にかけた。32の遺伝子の発現は、群2において有意に変化され、高IOPの第28日において、いくつかは減少し、その他は上昇した。これらの遺伝子は、推定眼圧調節初期遺伝子(IPREG)であった(表1)。
【0071】
表1.遺伝子アッセイの結果。28日間焼灼されたが7日間のみ正常IOP二対して高いIOP(第4日〜第28日のベタキソロール)にかけた、高IOP(カラムA)の眼 対 正常IOP(カラムB)の眼を第28日も比較するcDNAアレイデータ。両方の場合において、非焼灼眼に比べた変化を示す。

【0072】
さらなる比較を、正常IOP(群1) 対 高IOPで7日間および正常IOPでもう21日間を有した焼灼された眼(群3)についてさらに21日間実施し、ほとんどの候補IPREGについて完全に正常な発現を示した。これらの発現は、正常IOP網膜とは異ならなかった。これらの遺伝子の発現の正常化は、i)RGCストレス/死が予防された、ii)発現の変化は28日間の高眼圧を維持することを必要とした、またはiii)発現の変化は、一時的であるので生じ得る。
【0073】
しかし、重要なことには、8つの候補IPREGがIOPの完全な正常化にも関わらず正常IOP網膜に対して有意に変更された発現を維持した(表2)。アンフィフィシン、AMPLP−2、βA4クリスタリンおよびras関連p23発現は下方調節され、α2マクログロブリン、Gzα、PTP−1γ、レジー(Reggie)1−1およびPSD95/SAP90関連タンパク質4の発現は上方調節された。第7日〜第28日のIOPの正常化は、3つの遺伝子(クローンrX00382、プロテインホスファターゼ−1γおよび環状ヌクレオチド依存性カチオンチャネル)の発現の変化を逆転させず、5つの遺伝子(α2マクログロブリン;レジー1.1、クローンrX01295およびrX05013、リボソームタンパク質L23関連産物および小胞タンパク質クローンRKIAS43)の発現の変化を部分的にのみ逆転したが;Gzαの上方調節を完全に逆転した(表2)。
【0074】
表2.IPREGの基準を満たす選択された遺伝子
表1から、IPREGについての全ての基準を満たした遺伝子のサブセットを列挙する。基準を一部満たす他の遺伝子も選択する。は、ニューロン特異的タンパク質を示し、一方で、他のタンパク質は、他の細胞型において発現される。半定量的RT−PCRについて示されるデータは、3つの独立した研究の典型である。等量のmRNAおよびゲルへの等しい負荷を確認した(データは示さず)。

【0075】
その発現がベタキソロール処置の21日後に完全に正常化された遺伝子(例えば、GZα)がなお興味深い候補であり得ることに留意するのは重要である。また、本出願人らが、本出願人らの実験実例において研究したIOPの正常化の21日後より短い時間であるが、これらの遺伝子が長持ちし得ることはあり得る(例えば、表3を参照)。
【0076】
表3.中和抗体でα2マクログロブリンを標的化する緑内障の治療。
各データ点は、少なくとも6つの眼の平均(±sd)を示す。RGC標識を、SC由来の眼の逆行によって実施した。「−」は、「処置なし」を示す。眼圧は、眼内注射によって影響を受けなかった。

【0077】
これらのデータは、8つの遺伝子の網膜発現の変化が高IOPへの網膜の7日以下の曝露を必要としたことを示した。さらに、発現の変化は、続いての21日の期間、高眼圧症の非存在下で維持され、このことは、変化が長持ちすることを示した。RGC死がこの実例で最小であったので、網膜の遺伝子発現の変化は、RGC喪失に先行するようであった。従って、これらの所見は、これらの遺伝子が、RGC死、特にIOPの正常化後続くRGC死に関与し得ることを強く示唆する。
【0078】
遺伝子マイクロアレイの確認
動態分析。全ての研究(遺伝子アレイ、RT−PCR、ノーザンブロット、ウエスタンブロット、逆行標識RGCの計数)を、手術後の示された日に、コントロール(シャム手術された)または焼灼された眼から新しく単離された網膜上で実施した。
【0079】
RT−PCR。コントロール、高IOP、または軸索切断された動物由来の網膜を、示された日に切開した。全網膜RNAを抽出し(Trizol, GIBCO)、DNAを消化し(Dnアーゼ、増幅等級、GIBCO)、試料を第2のTrizol抽出の後に再精製した。RT−PCR分析のために、単一の網膜を使用した(n=3〜5)。1μgの全網膜RNAおよび特定のプライマー(SIGMA)を使用し、相補的cDNAを生成した。cDNAのPCR増幅を各遺伝子に対する特異的プライマーを用いて実施した。PCRのために、ストリンジェントな条件は、半定量的PCR分析に関して手本とした。候補遺伝子の線状増幅物を全30サイクルの後に得、一方で、βアクチン(内部コントロールとして使用する)は、18サイクルの後に線形範囲にあった。PCR産物を分離したアガロースゲルを、STORM840画像化システムを使用してスキャンし、定量的解析を、3つの独立して調製されたRNA試料を使用する3つの独立したRT−PCR実験において、画像定量解析ソフトウェアを使用して実施した。読み取りは、平均±SEMであり、各群(正常IOPおよび高IOP)における各遺伝子産物に対するデータを、内部コントロールとしてのβアクチン(100%)に対して標準化した。網膜のβアクチンmRNA発現レベルは、高IOPの上昇の際に変化しなかった(データは示さず)。
【0080】
遺伝子マイクロアレイ分析からの結果を確認するために、定量的RT−PCRを、いくつかの候補IPREGに対して特異的なプライマー対を用いて実施した。独立して単離された網膜mRNA試料を用いてのいくつかのRT−PCR実験は、アンフィフィシン、AMPLP−2、βA4クリスタリン、およびras関連p23の下方調節を、およびα2マクログロブリン、Gzα、PTP−1γ、レジー(reggie)1−1、およびPSD95/SAP90関連タンパク質4の上方調節を定量的に確認した(表3を参照、いくつかのデータは示さず)。
【0081】
α2マクログロブリンをさらなる研究のために選択した。網膜α2マクログロブリンmRNAについてのノーザンブロット分析は、正常IOPに比べて、高IOPの第28日での約3倍の上昇を示した(p<0.001)。この上昇は、ベタキソロール処置によってわずかに減衰されたが、なお正常IOPよりも有意に上昇した。対照的に、ベタキソロール処置を受けたまたは受けない正常IOPのコントロール網膜は、正常であり、類似のα2マクログロブリンmRNAを有した(図3)。
【0082】
高眼圧症によるIPREGの特異的な調節
視神経軸索切断術。250〜300グラムの雌性ウィスターネズミを、キシラジン、アセプロマジンおよびケタミンの混合液で麻酔した。眼球へのアクセスを、背側眼窩を開き、涙腺および眼窩脂肪を一部除去することによって得た。視神経(ON)の明視化を、上直筋の分離、その後の眼後引筋の切開によって得た。髄膜の長手方向切開を、血管を避けてONの眼球出口の5mm後ろで行い、その結果、網膜循環に障害を生じさせなかった。ONの切開を、その眼球からの出口の5mm後ろで行い、その結果、視神経乳頭に障害を生じさせなかった。全ての動物手順は、McGill Animal Walfare Committeeによって認可された。
【0083】
ウエスタンブロッティング。単一の網膜を均質化し45分間溶解した(150mM NaCl、50mM Tris pH8.0、2% NP−40、PMSF、ロイペプシンおよびアプロチニン)。核および残骸を除去するために遠心分離した後、可溶性タンパク質濃度を、キット(BIORAD)を使用して決定した。15gの網膜タンパク質/レーンを、12% SDS−PAGE上で分画し、ニトロセルロース膜に移した。α2マクログロブリンタンパク質を、ラットα2マクログロブリンに対するヤギポリクローナル抗体(SigmaおよびCalbiochem)を使用して検出した。純粋なラットα2マクログロブリンタンパク質(Sigma)をコントロールとして使用した。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)−コンジュゲート化抗体を、2次試薬として使用した。免疫反応性のバンドは、強くなった化学発光で明らかになった(NEN)。
【0084】
RGC死ではなく高眼圧症が遺伝子発現の特異的な調節因子であるかどうかを決定するために、緑内障モデルを、視神経軸索切断モデルと比較した。網膜タンパク質の定量的ウエスタンブロットを、正常IOP、高IOP第28日およびON軸索切断第4日由来の試料で実施した。各モデルについてのこれらの時点は、有意なRGC死に先行する分子変化を研究するために選択された。
【0085】
網膜α2マクログロブリンタンパク質発現は、高IOPで2.3倍有意に上方調節されたが、視神経軸索切断においては変化しなかった(図4)。対照的に、緑内障モデルおよび視神経軸索切断モデルにおいて、Gzαタンパク質の網膜レベル(それぞれ64%および43%増加した)およびアンフィフィシンの網膜レベル(両方のモデルにおいて約30%減少した)について似た変化があった。従って、Gzα変化およびアンフィフィシン変化は、高IOPによって特異的に調節されず;代わりにこれらは、RGC損傷のマーカーであり、その一方でα2マクログロブリンは、高眼圧症によって特異的に誘導された。
【0086】
実施例2.緑内障におけるα2マクログロブリンの役割の検証
α2マクログロブリンおよび網膜中のその受容体の局在化
逆行性RGC標識。RGCを3% DII(1,1−ジオクタデシル−3,3,3,3−テトラメチルインドカルボシアニン過塩素酸塩)または3%フッ化金で標識した。簡単に、ウィスターネズミを麻酔し、これらの頭部を定位装置にマウントした。上丘(SC)の両方を、露出させ、色素を各半球のSCの2つの近接する部位に注射した(色素溶液の最初の放出についてブレグマの5.8mm後方、1.0mm側方、および深さ4.5mmならびに第2の放出について3.5mm)。
【0087】
平らにマウントされた網膜およびRGC計数。色素注射の7日後、ラットの脈管構造を、灌流固定し(リン酸バッファー(PB)中の経心臓的灌流、その後のPB中の4%PFA)、眼を摘出した。1時間の固定後、切開を、マルタ十字パターンを形成するように強膜の端から端まで行い、網膜を、視神経乳頭でアイカップから剥がした。網膜を、スライドガラスに平坦にマウントし(硝子体側を上に)、空気乾燥し、マウント媒体(Molecular Probes)と共にカバースリップをかけた。網膜を、蛍光顕微鏡(Zeiss)下で観察した。各網膜について、各四分円(上側、下側、鼻側および側頭側)から4つのデジタル画像を20倍で撮影した。RGCを、逆行的に輸送された色素の存在および形態学によって、平坦にマウントされた網膜において認識した。4つ全ての四分円(網膜あたり16の画像)中のRGCを平均し、計数された領域のRGC/mmとして示した。
【0088】
免疫組織化学および共焦点顕微鏡。ラットを、上記のように心臓内で灌流し、これらの眼を摘出し、前部およびレンズを取り出した。残りのアイカップを、4% PFA中に2時間液浸し、次いで、4℃で数時間30%スクロースに移し、OCT(tissue-Tek, Miles Laboratories, IN)中に包埋し、液体窒素中のメチルブタン中で凍結した。放射状の凍結切片(10〜14m)を、ゼラチンコートスライドに配置した。切片を、1%Tritonを含むPBS中の3%BSAを使用して室温で30分ブロックし、一次抗体:抗−α2マクログロブリン抗体(ウサギ、1:200(Calbiochem)またはヤギ、1:100(Sigma))および/または抗−LRP1受容体(1:200 Santa Cruz)に2時間曝露した。二重染色を、グリアマーカーグリア線維酸性蛋白(GFAP)(マウス、1:400 Chemicon)またはニューロンマーカーチューブリンIII(マウス、1:2000、Chemicon)に指向される抗体で実施した。二次抗体は、室温で1時間インキュベートされたFITC−コンジュゲート化抗−マウス、Cy3−コンジュゲート化抗−ウサギ、またはAlexa Fluor488抗−ヤギ(1:250希釈、1:1000希釈または1:500希釈で使用する)であった。共焦点画像をZeiss共焦点顕微鏡(LSM510)で記録した。
【0089】
α2マクログロブリンは可溶性タンパク質であるので、その局在化およびその細胞性受容体(LRP−1)の局在化をまた研究した(図5A〜5D参照)。正常な網膜において、α2マクログロブリンを、逆行性トレーサーフッ化金標識およびRGC特異的マーカーであるチューブリンβIIIと共局在化する(データは示さず)RGCの大多数に見出したが、それは、ミュラー細胞および網膜星状細胞にも局在化した。LRP−1受容体に対する陽性免疫染色はまた、フッ化金陽性ニューロンと共局在化した。正常な網膜において、LRP−1免疫染色を、RGCにおいてほとんど排他的に検出し、その一方で、緑内障において(高(hig)IOPを有し焼灼して28日目)、LRP−1発現は、RGCにおいて高く維持されたが、それはまた、推定星状細胞プロセスおよびミュラー細胞プロセスにおいてGFAPと共に共局在化する線維(fiver)層において検出された。α2マクログロブリンの上方調節およびLRP共局在化の類似したデータを、緑内障の高張生理食塩水モデルによって誘導される高眼圧を有するラットから調製された網膜切片を使用する研究において得られ(データは示さず)、これは、結果が1匹の緑内障の動物モデルに特異的でないことを示唆した。
【0090】
ラット房水からの半定量的ウエスタンブロット分析は、正常な反対側の眼と比較して高いIOPを有する眼における活性化されたα2マクログロブリンタンパク質の有意な増加を示した(データは示さず)。これらの所見と一致して、手術の間に回収されたヒト房水を使用する半定量的研究は、活性化されたα2マクログロブリンタンパク質が平均して有意に緑内障の房水中で増加したが、白内障の患者では増加しなかったことを示した(図6)。
【0091】
合わせると、データは、α2マクログロブリンが2匹のラット動物モデルおよびヒトにおける高眼圧症において上方調節され、α2マクログロブリンがRGCおよび他の網膜層においてその受容体LRP−1と共局在化し、房水にも存在することを示した。
【0092】
緑内障に対する治療標的としてのα2マクログロブリンのインビボ検証
眼内注射。結膜切開を眼の上方側頭側四分円において実施した。穿刺を、30G針で眼壁に作製し、眼窩におけるカニューレの進入を可能にした。直立微小電極プラー(Narishige)を用いて調製されたガラスカニューレ(10μm厚)を、プラスチックチューブを通してHamiltonシリンジに連結し、抗−α2マクログロブリンウサギ抗体(Calbiochem)、コントロールPBS、またはコントロールウサギ抗体(Sigma)の溶液を投薬した。注射を手術の14日および21日後に実施した(正常なIOPを有するシャム手術されたコントロールの眼、および高IOPを有する焼灼眼において)。眼内注射は、全部で約2μgの抗体を含む2μl体積中に存在した。全ラット網膜の定量的ウエスタンブロットにおいて、緑内障の眼において約1μgの見積もり総α2マクログロブリンが存在した(データは示さず)ので、この量を選択した。眼圧は、眼内注射によって影響されず、高IOPの眼は、高IOPのままであり、正常IOPの眼は、正常IOPのままであった(データは示さず)。
【0093】
α2マクログロブリンのLRP−1との相互作用は、RGC(Birkenmeier G et al., Neuroreport 8: 149-151, 1996; Birkenmeier G et al., FEBS Lett 416: 193-196, 1997; Herz J, J Clin Invest 112: 1483-1485, 2003)を含むニューロン(Lopes MB et al., FEBS Lett 338: 301-305, 1994; Yepes M et al., J Clin Invest 112: 1533-1540, 2003)に有害であることが示された。
【0094】
RGCの死におけるα2マクログロブリンの潜在的な役割を評価するために、α2マクログロブリン(macrobglobulin)タンパク質を、正常な眼に微量注射し、緑内障様RGC死が結果として生じるかどうかを決定した。この実例において、α2マクログロブリンの全1〜2μgを、正常な眼に単回の眼内注射によって送達し、残存するRGCを、逆行性標識によって注射の14日または28日後に計数した。1〜2μg量を、高眼圧症のラットモデルにおける房水緑内障眼から定量されたα2マクログロブリンの全量を最良に模倣するように選択した(データは示さず)。
【0095】
α2マクログロブリンの短い眼内注射は、PBSビヒクルを注射された反対側の眼の群と比較してRGCの進行性の消失を生じた。3つの独立した実験において(群あたりn=3、2、および6つの眼)、ビヒクルPBSに比べてα2マクログロブリンの注射2週間および4週間後に、それぞれ11±3%(P≦0.01)および28±11%(P≦0.001)のRGC喪失があった。
【0096】
これらのデータは、α2マクログロブリンが高眼圧症によって誘導される動力学と似た動力学で進行性RGC死を誘導することを示唆した。高IOPと独立してα2マクログロブリンmRNAおよびタンパク質の過剰発現をし続けることを示す以前の結果と合わせると、これらの結果は、高IOPの正常化後の進行性RGC死の説明を補助した。
【0097】
第2の実例を、RGC死におけるα2マクログロブリンの役割を確認するために使用した。α2マクログロブリンに対する中和抗体を、高IOPを有する緑内障の眼に眼内注射し、RGC死が予防され得るかどうかを決定した。α2マクログロブリン中和療法の開始前に、実験モデルは、14日間高IOPを誘導し、α2マクログロブリン過剰発現およびRGC損傷を引き起こすためであった。中和を、単回療法として使用するか、または緑内障患者が降圧剤で同時に処置される臨床設定をより良好に反映するために毎日のベタキソロール処置と組み合わせた。中和抗体を、焼灼の14日および21日後に施与し、逆行性標識によって同定される残存RGCを手術の42日後に計数した。このプロトコールにおいて、第21日と第42日の間に与えられた抗体はなかった。コントロールラットを、コントロール抗体、生理食塩水で処置するか、または注射しないかのいずれかをした(表3参照)。
【0098】
高IOPの42日後、正常IOPに比べて33±6%のRGC喪失があった(表4の列3対列1)。高IOPにおけるRGC喪失は、時間依存性であった。高IOP第28日に19±5%のRGC喪失があり、高IOP第14日に8±5%のRGC喪失があった(表4、列4および5)。ベタキソロールの毎日(第14日〜第42日)の使用による正常化は、RGCの消失を19±1%まで有意に減少した(表4列8対列3)。緑内障の第14日および第21日での抗−α2マクログロブリン抗体の2回の単回眼内注射は、RGC喪失を21±3%まで減少した(表4、列7対列6および列3)。ベタキソロールと組み合わせた抗−α2マクログロブリン抗体での処置は、顕著に神経保護的であり、RGC喪失を11±4%まで有意に減少した(表4列10対列9)。この併用療法は、いずれかの処置単独より有意に良好であった(表4列10対列7および8)。併用療法におけるRGC計数は、コントロール抗体を眼内注射された正常IOPの眼におけるRGC計数と統計的に異ならず(表4列10対列2)、14日の高IOPに曝された眼と統計的に異ならなかった(表4列10対列5)。
【0099】
コントロール抗体または生理食塩水のコントロール眼内注射は、正常網膜におけるRGC計数(データは示さず)または緑内障第42日におけるRGC計数(表4列6対列3)を変更せず、ベタキソロールでのIOP正常化の保護効果を変更しなかった(表4列8対列9)。
【0100】
考察
α2マクログロブリン遺伝子上方調節
α2マクログロブリン遺伝子およびタンパク質を、高眼圧症とは独立して20日を超える間続く持続発現させながら、約7日のみの高IOPの後に上方調節した。α2マクログロブリンmRNAの誘導は、高IOPに特異的であり、視神経軸索切除術の後に増加しなかった。従って、短期間の高眼圧症は、網膜において高圧特異的長期継続上昇を引き起こすのに十分であった。これらのデータは、緑内障の焼灼術ラットモデルおよび緑内障の高張生理食塩水ラットモデル(データは示さず)において、IPREGとしてα2マクログロブリンを同定し、より多くの発現はまた、白内障を有する眼に比べて緑内障を有するヒトの眼において示された。
【0101】
α2マクログロブリン損傷の機構
α2マクログロブリンタンパク質およびそのLRP−1受容体は、緑内障のRGCに豊富に存在し、LRP−1−α2マクログロブリン相互作用は、RGC(Birkenmeier G et al., Neuroreport 8: 149-151, 1996; Birkenmeier G et al., FEBS Lett 416: 193-196, 1997; Herz J, J Clin Invest 112: 1483-1485, 2003)を含む種々のニューロン(Lopes MB et al., FEBS Lett 338: 301-305, 1994; Yepes M et al., J Clin Invest 112: 1533-1540, 2003)に有害である。
【0102】
α2マクログロブリンの神経毒の役割に一致して、正常な眼におけるこのタンパク質の眼内送達は、緑内障様RGC喪失を引き起こし;その一方で、このタンパク質の中和は、特に圧力正常化薬と組み合わされた場合、緑内障におけるRGC死を有意に減少または遅延した。
【0103】
神経毒機構は、NMDA受容体(NMDAR)の活性化によるiCa++の増加および海馬ニューロンにおけるグルタミン酸神経伝達の調節(Bacskai BJ et al., Proc Natl Acad Sci 97: 11551-11556, 2000; Qui Z et al., J Biol Chem 277: 14458-14466, 2002; Qui Z et al., Neuroscience 122: 291-303, 2003; Qui Z et al., J Biol Chem 279: 34948-34956, 2004)を含む。従って、眼におけるα2マクログロブリンの上方調節は、NMDARの正常な興奮活性を増強し、RGC死を導き得る。また、α2マクログロブリンは、網膜神経栄養因子、特にRGCに対する重要な生存因子または維持因子である神経成長因子(NGF)(Chiabrando GA et al., J Neurosci Res 70: 57-64, 2002; Skornicka EL et al., J Neurosci Res 67: 346-353, 2002)に結合し、中和する。従って、α2マクログロブリン過剰発現は、成長因子バイオアベイラビリティーの低下を導き(図7のモデルを参照)、外因性NGFの送達が緑内障でRGCをなぜ保護しないのかについての1つの説明であり得る。
【0104】
他の上方調節された遺伝子とRGC損傷の関係
高眼圧症において上方調節されるのが見られる他のIPREGは、RGC死と関連付けられ得る。これらのIPREGのいくつかがα2マクログロブリンと協同して作用し得ることは特に興味深い。
【0105】
上方調節されるPSD95/SAP90関連タンパク質−4(PSD95/SAP90)およびGTPアーゼGzαは、NMDAR活性に関連する。PSD95/SAP90は、スペクトリンとは異なる部位でNMDARのC末端を結合し(Wechsler A and Teichberg VI, EMBO J 17: 3931-3939, 1998)、src−ファミリーキナーゼによるNMDARリン酸化および活性化を誘導する(Hou XY et al., Brain Res 955: 123-132, 2002)。Fyn−PSD95−NR複合体の形成は、脳虚血における細胞死を増加させ、その一方で、PSD95のサイレンシングは、虚血後の神経細胞死を減少させる(Hou XY et al., Neurosci Lett 385: 230-233, 2005)。
【0106】
NMDARを活性化するsrc−ファミリーキナーゼ(Hou XY et al., Brain Res 955: 123-132, 2002)は、プロテインチロシンホスファターゼ(Lei G et al., EMBO J 21: 2977-2989, 2002; van Zundert B et al., Trends Neurosci 27: 428-437, 2004)(PTP)によってそれ自身活性化され、従って、上方調節されたPTP−γ(PP1)は、緑内障およびRGCストレスに関係し得る。さらに、プロテインチロシンホスファターゼ活性は、NMDAR複合体におけるサブユニットアセンブリを変更し(Ferrani-Kile K and Leslie SW, Pharmacol Exp Ther 314: 86-93, 2005)、正のフィードバックループがPTP−γ(PP1)とNMDARの間に多く存在する(Szatmari E et al., J Biol Chem 280(45): 37526-35, 2005)。
【0107】
上方調節されたGzαは、NMDARシグナルの直接のインタラクターおよびメディエーターである。実際に、α2マクログロブリン/LRP−1受容体とGTPアーゼの間の機能的増強は、神経死を激化させると報告されてきた(Hashimoto Y et al., J Neurosci 20: 8401-8409, 2000)。網膜のGzαはまた、セロトニン受容体およびアヘン受容体を含むいくつかのGi−共役受容体の活性に関連し得る(Connor and Christie, 1999)。Gzαは、ニューロンにおいて多く発現され(Kelleher KL et al., Brain Res Dev Brain Res 107: 247-253, 1998)、RAP−1活性を弱めることによって(Johanson SO et al., Neurochem Res 21: 779-785, 1996)ニューロトロフィンシグナル伝達および分化を阻害し得る末端に逆行的に輸送される(Meng J and Casey PJ, J Biol Chem 277: 43417-43424, 2002)(図7もまた参照)。
【0108】
遺伝子下方調節およびRGC損傷
エンドサイトーシスおよび小胞内在化および輸送において重要な役割を果たすタンパク質である(Di paolo G et al., Neuron 33: 789-804, 2002; Tomizawa K et al., J Cell Biol 163: 813-824, 2003)網膜のアンフィフィシンの下方調節は、緑内障における障害が生じた軸索輸送を説明し得る。アンフィフィシンは、RGCによって発現される(Hosoya O and Tsutsui K, Neurosci 19: 2179-2187, 2004)。同様に、下方調節されたRKIAS43は、シナプス小胞膜タンパク質VAT−1(コリン作動性シナプス小胞の膜タンパク質)に対して98.9%の相同性を、小胞アミン輸送タンパク質1に対して80%の相同性を有するESTであり;このことは、エンドサイトーシスおよび小胞機能における役割を示唆する。
【0109】
軸索輸送の減少は、高圧による圧縮による視神経乳頭の機械的「生理学的軸索切断」として伝統的に説明されてきた。前述のデータは、逆向性の障害を引き起こし、RGC死を導き得る小胞輸送タンパク質の発現の長続きする減少を引き起こすことによって、高眼圧症が、機能的に生理学的軸索切断を模倣し得ることを示す。
【0110】
下方調節されたヘリカーゼは、DNA修復に関与し、DNA修復がより少なくなると細胞死が増加し得る。特にRGC死に関連して、ヘリカーゼは、トポイソメラーゼ(toposiomerase)に機能的に関連し(Howard MT et al., Proc Natl Acad Sci 91: 12031-12035, 1994)、トポイソメラーゼ活性は、アンフィフィシンの転写誘導に絶対的に必要とされる(Ysutsui K et al., J Biol Chem 276: 5769-5778, 2001)。従って、図7のモデルに示されるアンフィフィシンの下方調節は、ヘリカーゼの下方調節と一致する。最後に、下方調節されたアミロイド前駆体様タンパク質2は、銅恒常性およびおそらく神経保護に関与する(White AR et al., J Neurosci 22: 365-376, 2002)。これらが存在しないと、RGCはストレスに感受性になり得る。
【0111】
結論
インビボの証拠は、高眼圧症がラットの緑内障モデルにおいて一連の重要な網膜遺伝子産物のセットを調節することを示した。遺伝子のサブセットの発現は、短期の高眼圧症によって選択的に調節され、変化は、高眼圧症の薬理学的正常化の後でさえ、長く続いた。RGC死に関与する遺伝子産物は、上方調節され、その一方で、RGC維持または生存に関与する遺伝子産物は、下方調節された。顕著に上方調節される網膜遺伝子産物の1つである可溶性タンパク質α2マクログロブリンを、緑内障におけるRGC死の予防のための治療標的として確認した。
【0112】
本発明は、その好ましい態様に関して特に示し、記載されるが、その一方で、形態および詳細の種々の変更が、添付の特許請求の範囲によって含まれる発明の範囲を逸脱することなくなされ得ることは、当業者によって理解される。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1のパネルAは、高眼圧症のマウスモデルのベタキソロール処置中における眼圧の変化を示すグラフである。図1のパネルBは、ベタキソロール処置した、およびしていない高眼圧症のマウスモデルにおける網膜神経節細胞の喪失を示すグラフである。
【図2】図2は、差次的遺伝子アレイの網膜mRNA試料の回収のための実験手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は、緑内障ラットの網膜におけるα2マクログロブリン転写物の上方調節を示すノザンブロットである。
【図4】図4は、正常、緑内障、および視神経軸索切断のラット網膜における、α2マクログロブリン、アンフィフィシン1、およびGzαのタンパク質発現レベルを示す免疫ブロットである。
【図5A】図5Aは、免疫組織化学で見られる正常および高いIOPのラット網膜におけるα2マクログロブリンおよびLRP-1受容体の発現を示す一連の共焦点顕微鏡写真である。
【図5B】図5Bは、免疫組織化学で見られる正常および高いIOPのラット網膜におけるα2マクログロブリンおよびLRP-1受容体の発現を示す一連の共焦点顕微鏡写真である。
【図5C】図5Cは、免疫組織化学で見られる正常および高いIOPのラット網膜におけるα2マクログロブリンおよびLRP-1受容体の局在化を示す一連の共焦点顕微鏡写真である。
【図5D】図5Dは、免疫組織化学で見られる正常および高いIOPのラット網膜におけるα2マクログロブリンおよびLRP-1受容体の局在化を示す一連の共焦点顕微鏡写真である。
【図6】図6は、緑内障(G)および白内障(C)のヒトの眼の房水におけるα2マクログロブリンの発現を示す免疫ブロットである。
【図7】図7は、緑内障において上方調節されたIPREGがどのように一緒に機能してRGC死をもたらし得たかのモデルを示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の上方調節された眼圧調節初期遺伝子(IPREG)の発現または活性を阻害する有効量の組成物を哺乳動物に投与する工程を含む哺乳動物の緑内障を処置するための方法。
【請求項2】
1つ以上の上方調節されたIPREGが、α2マクログロブリン、PSD−95/SAP90−関連タンパク質−4、レジー(Reggie)1−1、RBCK、Gzα、プロテインホスファターゼ1γ、リボソームタンパク質L23−関連産物、グリア線維酸性蛋白、環状ヌクレオチド依存性カチオンチャネル、SPARC、およびB−2アリールアミンN−アセチルトランスフェラーゼからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該組成物が、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、中和抗体、小分子、組換え遺伝子発現ベクター、組換え遺伝子ウイルスベクター、合成ペプチド、組換えポリペプチド、ペプチド模倣物、およびIPREGの調節領域のインヒビターからなる群より選択される1つ以上を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
該組成物が、眼内注射、結膜局所塗布、角膜局所塗布、および機械的送達装置からなる群より選択される少なくとも1つの方法によって投与される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
阻害されるIPREGがα2マクログロブリンである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
α2マクログロブリン活性が、α2マクログロブリン受容体をアンタゴナイズすることによって阻害される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
1つ以上の眼圧正常化薬を投与する工程をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
1つ以上の眼圧正常化薬が、非選択的アドレナリン受容体遮断薬、選択的アドレナリン受容体遮断薬、プロスタグランジン、炭酸脱水素酵素阻害薬、アドレナリン作用薬、および縮瞳薬からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
投与される眼圧正常化薬がベタキソロールである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
1つ以上の下方調節された眼圧調節初期遺伝子(IPREG)の発現または活性を上昇する有効量の組成物を哺乳動物に投与する工程を含む哺乳動物の緑内障を処置する方法。
【請求項11】
1つ以上の下方調節されたIPREGが、アミロイド前駆体様タンパク質2、アンフィフィシン1、Crybb2、Ras関連p23、ヘリカーゼRap30、プロテオソームrPA28サブユニットβ、ATPアーゼα−1−サブユニット、βA3/A1クリスタリン、βA4クリスタリン、S−アデノシルメチオニンシンターゼ、およびアスパラギンシンターゼからなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
該組成物が、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、中和抗体、小分子、組換え遺伝子発現ベクター、組換え遺伝子ウイルスベクター、合成ペプチド、組換えポリペプチド、ペプチド模倣物、およびIPREGの調節領域のアクチベーターからなる群より選択される1つ以上を含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
発現または活性が上昇されるIPREGがアンフィフィシン1である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
1つ以上の眼圧正常化薬を投与する工程をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害し、少なくとも1つの下方調節されたIPREGの発現または活性を上昇する有効量の組成物を哺乳動物に投与する工程を含む哺乳動物の緑内障を処置する方法。
【請求項16】
1つ以上の眼圧正常化薬を投与する工程をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
個体に有効量の眼圧調節初期遺伝子(IPREG)調節組成物を投与する工程を含む、高眼圧(IOP)によって媒介される網膜神経節細胞(RGC)死を予防する方法であって、該組成物が、1つ以上の上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害し、および/または1つ以上の下方調節されたIPREGの発現または活性を上昇する、方法。
【請求項18】
1つ以上の眼圧正常化薬を投与する工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
哺乳動物に有効量の眼圧調節初期遺伝子(IPREG)調節組成物を投与する工程を含む哺乳動物の慢性の眼の変性を予防する方法であって、該組成物が、1つ以上の上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害し、および/または1つ以上の下方調節されたIPREGの発現または活性を上昇する、方法。
【請求項20】
1つ以上の眼圧正常化薬を投与する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
a.)患者の房水中の1つ以上の眼圧調節初期遺伝子(IPREG)の発現レベルを測定する工程;および
b.)該発現レベルを、正常な眼機能を有する個体における同じ1つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルと比較する工程
を含む、患者における慢性の眼の変性について試験する方法であって、正常な眼機能を有する個体における同じIPREGタンパク質の発現レベルと比較した場合、1つ以上の上方調節されたIPREGタンパク質のより高い発現レベルおよび/または1つ以上の下方調節されたIPREGタンパク質のより低い発現レベルが、該患者が慢性の眼の変性を有することを示す、方法。
【請求項22】
a.)最初の時点で、患者の房水中の1つ以上の眼圧調節初期遺伝子(IPREG)タンパク質の発現レベルを測定する工程;
b.)より後の時点で、患者の房水中の同じ1つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルを測定する工程;
c.)該最初の時点で測定された1つ以上のIPREGタンパク質の発現レベルを、該より後の時点で測定された発現レベルと比較する工程
を含む、患者におけるRGCストレスの発現について試験する方法であって、患者における1つ以上の上方調節されたIPREGタンパク質のより高い発現レベルおよび/または1つ以上の下方調節されたIPREGタンパク質のより低い発現レベルが、患者におけるRGCストレスの発現を示す、方法。
【請求項23】
a)遺伝子の発現が高眼圧症によって変更されるかどうかを決定する工程であって、遺伝子の発現が、網膜神経節細胞(RGC)損傷によって変更されない、工程;
b)遺伝子の発現が高眼圧の発現後早くに変更されるかどうかを決定する工程;
c)遺伝子の変更された発現が、高眼圧症または緑内障の発現後持続するかどうかを決定する工程;および
d)遺伝子の発現が、高眼圧症が低下した後、変更されたまま維持されるかどうかを決定する工程
を含む眼圧調節初期遺伝子(IRPEG)を同定する方法。
【請求項24】
RGC死および/または緑内障に対して同定された遺伝子の効果をインビボで決定する工程をさらに含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
請求項23の方法によって同定されるIPREG。
【請求項26】
1つ以上の上方調節された眼圧調節初期遺伝子(IPREG)の発現または活性を阻害する有効量の少なくとも1つの物質、および適切な医薬担体を含み、緑内障を処置するために投与される、医薬組成物。
【請求項27】
慢性の眼の変性およびRGC死からなる群より選択される少なくとも1つを処置するために投与される、請求項26記載の医薬組成物。
【請求項28】
1つ以上の上方調節されたIPREGが、α2マクログロブリン、PSD−95/SAP90−関連タンパク質−4、レジー(Reggie)1−1、RBCK、Gzα、プロテインホスファターゼ1γ、リボソームタンパク質L23−関連産物、グリア線維酸性蛋白、環状ヌクレオチド依存性カチオンチャネル、SPARC、およびB−2アリールアミンN−アセチルトランスフェラーゼからなる群より選択される、請求項27記載の医薬組成物。
【請求項29】
少なくとも1つの物質が、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、中和抗体、小分子、組換え遺伝子発現ベクター、組換え遺伝子ウイルスベクター、合成ペプチド、組換えポリペプチド、ペプチド模倣物、およびIPREGの調節領域のインヒビターからなる群より選択される1つ以上である、請求項28記載の医薬組成物。
【請求項30】
1つ以上の下方調節された眼圧調節初期遺伝子IPREGの発現または活性を上昇させる有効量の少なくとも1つの物質、および適切な医薬担体を含み、緑内障を処置するために投与される、医薬組成物。
【請求項31】
慢性の眼の変性およびRGC死からなる群より選択される少なくとも1つを処置するために投与される、請求項30記載の医薬組成物。
【請求項32】
下方調節されたIPREGが、アミロイド前駆体様タンパク質2、アンフィフィシン1、Crybb2、Ras関連p23、ヘリカーゼRap30、プロテオソームrPA28サブユニットβ、ATPアーゼα−1−サブユニット、βA3/A1クリスタリン、βA4クリスタリン、S−アデノシルメチオニンシンターゼ、およびアスパラギンシンターゼからなる群より選択される、請求項31記載の医薬組成物。
【請求項33】
少なくとも1つの物質が、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、中和抗体、小分子、組換え遺伝子発現ベクター、組換え遺伝子ウイルスベクター、合成ペプチド、組換えポリペプチド、ペプチド模倣物、およびIPREGの調節領域のアクチベーターからなる群より選択される1つ以上である、請求項32記載の医薬組成物。
【請求項34】
1つ以上の上方調節されたIPREGの発現または活性を阻害する有効量の少なくとも1つの物質、および1つ以上の下方調節されたIPREGの発現または活性を上昇する有効量の少なくとも1つの物質、ならびに適切な医薬担体を含み、緑内障を処置するために投与される、医薬組成物。
【請求項35】
慢性の眼の変性およびRGC死からなる群より選択される少なくとも1つを処置するために投与される、請求項34記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−519232(P2009−519232A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542430(P2008−542430)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/045169
【国際公開番号】WO2007/062101
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(507205265)マギル ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】MCGILL UNIVERSITY
【Fターム(参考)】