説明

眼科用医薬組成物の調製方法

炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)のような活性成分または組み合わせを含む眼科用医薬組成物、ならびに該組成物の調製方法、小児科集団を含む患者集団におけるこれらの組成物の使用に関する。炭酸脱水酵素阻害剤を含む眼科用組成物の調製方法であって、a)炭酸脱水酵素阻害剤および界面活性剤を含むスラリーを調製すること;b)ポリマーおよび水を含むポリマースラリーを調製すること;c)等張化剤および保存剤を含む溶液を調製すること;d)工程bのポリマースラリーおよび工程cの溶液を混合してビヒクル濃縮物を得、pHを調整すること;e)工程aのスラリーを工程dのビヒクル濃縮物に添加し、混合して均一にすること;f)工程eの混合物を加圧滅菌すること;g)無菌条件下にて工程fの混合物を分粒することを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)のような活性成分または組み合わせを含む眼科用医薬組成物、および該組成物の調製方法、および小児科集団を含む患者集団におけるこれらの組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの眼科用化合物は固体である。眼科用担体またはビヒクルに溶解するこれら固体は、眼科用組成物を調製する場合にほとんど困難がない。しかしながら、眼科用担体に溶解しないこれら固体は、適切な送達システムを得るためには、懸濁剤または乳剤のような組成物として製剤化される必要がある。さらにまた、眼科用担体に溶解しない有用な眼科用化合物の形態は、しばしば、この化合物の特定の治療効果を延長するために望ましいことが見出される。
【0003】
医薬上許容される眼科用組成物は、以下のような、ある必須の特徴を有する。(1)分散または懸濁された物質が、患者の目への効果的な投与のために必要な担体中濃度で利用できるように担体から急速に沈殿すべきではない;(2)組成物を入れている容器の底に最終的に沈殿する分散または懸濁された物質の粒子は、処理し難い硬いケーキを形成してはならず、容器を振盪した場合に均一な組成物中に容易に再分散するべきである;(3)分散された物質の粒度は、目への刺激を避けるのに十分に微細でなければならない。
【0004】
眼科用組成物に関する主な問題は、調製および貯蔵の間の活性成分の結晶化および凝集である。活性成分の結晶化または凝集は、投与の不均一性、投与の困難性、大きな薬物粒子に起因する目への刺激および/または高い薬物濃度に起因する眼科的副作用または低い薬物濃度に起因する治療の失敗をもたらす。
【0005】
ほとんどの場合、炭酸脱水酵素阻害剤、β遮断薬または他の活性物質のような眼科的使用に有用な活性成分の結晶化は調製の間に生じる。加圧滅菌による滅菌は製剤中の活性物質の溶解度を増大させ、また、冷却期の間に大きな結晶が形成される。この全活性成分は安定性の問題のために慣用的な手段による滅菌ができないので、この全活性成分を滅菌ビヒクルへ無菌添加することもまた実用的ではない。乾熱滅菌は物質を融解させる。酸化メチレンによる滅菌は許容されない分解生成物および残留物を誘導し、微粉化物質のγ照射による滅菌はレギュレートリーファイリング(regulatory filing)に許容されない分解生成物を生じる。
【0006】
貯蔵の間、該組成物は長時間放置されるので、懸濁粒子が互いに接着し合うことにより生じる部分凝集に起因して二次粒子が形成されるか、または、容器の底面上に硬い沈殿層(ケーキング)が形成され、pHが低下し得る。このような二次粒子またはケーキングの形成は、粒度および再分散性に問題を生じる(以下、二次粒子またはケーキングをまとめて凝集体と称する場合もある)。ケーキングは、不均一な粒度分布に起因する一般的な問題であることが判明した。微粒子が大きな粒子間の空間を占め、強いケーキングを形成する。
【0007】
一の好ましい実施態様において、眼科用医薬組成物は、ブリンゾラミドとして知られているR4−エチルアミノ−3,4−ジヒドロ−2−(3−メトキシ)プロピル−2H−チエノ[3,2−e]−1,2−チアジン−6−スルホンアミド1,1−ジオキシドのような医薬上活性な炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)を含む。この化合物は、特許文献1(Dean, et al.)に記載されている。
【0008】
特許文献2には、ブリンゾラミド眼科用組成物の調製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,378,703号明細書
【特許文献2】米国特許第6,071,904号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、この度、眼科用医薬組成物を調製するためのより簡単で費用効率の高い方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施態様の1つは、炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)のような活性成分または組み合わせを含む眼科用医薬組成物、および該組成物の調製方法、および小児科集団を含む患者集団におけるこれらの組成物の使用に関する。
【0012】
別の実施態様は、炭酸脱水酵素阻害剤のような活性成分および界面活性剤を含む均一分散スラリーを加圧滅菌する工程;均一分散スラリー中の活性成分の粒子をマイクロフルイダイザーによって分粒する工程;ポリマーおよび水を含むポリマースラリーを調製する工程;等張化剤および保存剤を含む溶液を調製する工程;上記ポリマースラリーおよび上記溶液を混合してビヒクル濃縮物を形成し、pHを調整する工程;上記ビヒクル濃縮物を加圧滅菌する工程;および、上記滅菌ビヒクル濃縮物に上記分粒活性成分を、スクリーンを介して無菌的に添加する工程を含む、眼科用組成物の調製方法に関する。
【0013】
別の実施態様は、炭酸脱水酵素阻害剤のような活性成分および界面活性剤を含む均一分散スラリーを調製する工程;ポリマーおよび水を含むポリマースラリーを調製する工程;等張化剤および保存剤を含む溶液を調製する工程;上記ポリマースラリーおよび上記溶液を混合してビヒクル濃縮物を形成し、pHを調整する工程;上記滅菌ビヒクル濃縮物に上記均一分散活性成分スラリーを、スクリーンを介して無菌的に添加し、混合して均一にする工程;上記の活性成分スラリーとビヒクル濃縮物との混合物を加圧滅菌する工程;および、最後に、上記加圧滅菌混合物中の炭酸脱水酵素阻害剤のような活性成分の粒子を、無菌条件下でマイクロフルイダイザーによって分粒する工程を含む、眼科用組成物の調製方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図Iは、二段の加圧滅菌および無菌条件下でマイクロフルイダイザーを使用する薬物濃縮物の分粒によって炭酸脱水酵素阻害剤(例えば、ブリンゾラミド)のような活性成分の眼科用医薬組成物の調製方法を示す流れ図である。
【図2】図IIは、一段の加圧滅菌および無菌条件下でマイクロフルイダイザーを使用する分粒によって炭酸脱水酵素阻害剤(例えば、ブリンゾラミド)のような活性成分の眼科用医薬組成物の調製方法を示す流れ図である。
【図3】図IIIは、一段の加圧滅菌および無菌条件下でボールミルを使用する分粒によって炭酸脱水酵素阻害剤(例えば、ブリンゾラミド)のような活性成分の眼科用医薬組成物の調製方法を示す流れ図である。
【図4】図IVは、一段の加圧滅菌および無菌条件下でコロイドミル/ホモジナイザーを使用する分粒によって炭酸脱水酵素阻害剤(例えば、ブリンゾラミド)のような活性成分の眼科用医薬組成物の調製方法を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)のような活性成分またはその組み合わせを含む眼科用医薬組成物および該組成物の調製方法に関する。
【0016】
「組成物」という用語は、さらなる眼科用賦形剤を含むかまたは含まない医薬上許容される溶媒または担体系に均一に溶解または分散した固体粒子を有する液体または半液体を意味する。それは、懸濁剤、乳剤、滴剤、液剤などが挙げられる。
【0017】
活性成分は、ヒトまたは非ヒト動物に関連する種々の疾患の予防または治療に使用される化学物質であると定義される。好ましい活性成分としては、高眼圧症または開放偶角緑内障の患者における眼内圧亢進、眼表面痛、ブドウ膜炎、強膜炎、上強膜炎、角膜炎、外科的誘発性炎症、眼内炎、虹彩炎、萎縮性黄斑変性、網膜色素変性、医原性網膜症、網膜裂孔および網膜円孔、嚢胞様黄斑浮腫、糖尿病性黄斑浮腫、糖尿病性網膜症、鎌状赤血球網膜症、網膜静脈および動脈閉塞症、視神経症、滲出性黄斑変性、血管新生網膜症、角膜血管新生、毛様体炎、鎌状赤血球網膜症、翼状片、季節性アレルギー性結膜炎、眼瞼結膜および眼球結膜、酒さ性ざ瘡、点状表層角膜炎、帯状ヘルペス性角膜炎、虹彩炎、毛様体炎、選択的感染性結膜炎(selected infective conjunctivitides)、眼科手術後の術後炎症のような目の疾患の治療または予防に有用な活性成分が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0018】
眼科用医薬組成物に使用される活性成分は、炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)、例えば、ブリンゾラミド、アセタゾラミド、ドルゾラミド、メタゾラミド;β遮断薬、例えば、チモロール、アルテオロール、メトプノロール、ベタキソロール;非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、例えば、ネパフェナク、フルルビプロフェン、ジクロフェナクおよびケトロラクトロメタミン;抗真菌薬、例えば、ナタマイシン、アムホテリシンB;α2アドレナリン刺激薬、例えば、エピネフリン、ジピベフリン、ブリモニジン、アプラクロニジン;プロスタグランジン類似体、例えば、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト;ホスホジエステラーゼIV(PDE−IVまたはPDE−4)阻害剤、例えば、ロフルミラスト;受容体チロシンキナーゼ阻害剤;ステロイド、例えば、フルオロメトロン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、プレドニゾロン、ロテプレドノール、またはメドリゾン;抗生物質;抗菌剤、または眼科製剤用の他の活性剤またはその医薬上許容される塩、水和物、溶媒和物、多形体、立体異性体、エステル、プロドラッグ、錯体およびそれらの代謝物(これらに限定されるものではない)の群から選択される、溶けやすい化合物またはやや溶けにくい化合物または溶けにくい化合物または極めて溶けにくい化合物またはほとんど溶けない化合物であり得る。上記活性成分は全て、公知の化合物であり、公知の方法により調製され得、様々な組み合わせで使用され得る。好ましい活性成分の1つは、CAI、またはβ遮断薬またはステロイドである。好ましい実施態様において、CAIはブリンゾラミドであり、β遮断薬と組み合わせることができる。
【0019】
活性成分という用語は、それらの医薬上許容される塩、水和物、溶媒和物、多形体、立体異性体、エステル、プロドラッグ、錯体およびそれらの代謝物と交換可能に使用され得る。
【0020】
眼科用医薬組成物は、医薬上許容される溶媒または担体系、および該溶媒または担体系に分散させた活性成分を含む。医薬上許容される溶媒は、例えば、水、生理食塩水および緩衝液のような水性溶媒であり得る。活性成分含有量は、活性成分の種類、処置されるべき疾患などによって異なり得るが、一般に、組成物全体に対して0.005〜20.0w/v%、好ましくは、0.005〜5.0w/v%の割合で存在する。医薬上許容される溶媒または担体系は、活性成分を分散させる媒体であると定義され、水性または緩衝系または同様のものであり得る。溶媒または担体系は、当業者に知られている、粘性剤、安定剤、保存剤、界面活性剤、抗酸化剤、キレート化剤、pH調整剤、増粘剤および吸収促進剤のような種々の添加剤を含有することができる。
【0021】
該眼科用医薬組成物に使用される粘性剤は、分散安定性を増強するための水溶性ポリマーを含むことができる。該水溶性ポリマーの例としては、ポリアクリル酸(例えば、カルボマー)、ヒドロキシプロピル−メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、カルボキシビニルポリマーおよびこれらの混合物のようなポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。薬剤の分野で知られている他の懸濁化剤を含有することもできる。上記の水溶性ポリマーのうち、カルボマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびポリビニルアルコールのようなポリマーは、凝集体の形成を抑制し、pHの低下を防止し、かつ、再分散性および安定性に優れた組成物を提供するので、好ましい。該水溶性ポリマーは、一般的に、組成物全体に対して、0.01〜2.0w/v%、好ましくは0.02〜1.0w/v%、より好ましくは0.03〜0.8w/v%の割合で組成物中に存在する。
【0022】
分散安定性を増強するために眼科用医薬組成物において使用される界面活性剤としては、好ましくは、非イオン性界面活性剤が挙げられる。この使用され得る非イオン性界面活性剤は、無毒性であり、非刺激性であり、かつ、眼に適用可能なものである。該非イオン性界面活性剤の非限定的な例としては、アルキルアリールポリエーテルアルコールのポリマー、例えば、チロキサポール;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリマー、例えばトリトンX−100;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸エステルおよびポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸エステル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ソルビタン脂肪酸エステル、例えば、ソルビタンモノオレイン酸エステル、ソルビタンモノラウリン酸エステル、ソルビタンモノパルミチン酸エステルおよびソルビタンモノステアリン酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル;およびポリオキシエチレン脂肪酸エステル、例えば、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ならびにこれらの混合物が挙げられる。上記の非イオン性界面活性剤のうち、アルキルアリールポリエーテルアルコール(例えば、チロキサポール)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリマー(例えば、トリトンX−100)は、凝集体の形成を抑制し、pHの低下を防止し、かつ、再分散性および安定性に優れた組成物を提供するので、好ましい。該非イオン性界面活性剤は、一般に、組成物全体に対して、0.005〜1.0w/v%、好ましくは0.01〜0.5w/v%、より好ましくは0.05〜0.3w/v%の割合で含有される。
【0023】
眼科用医薬組成物は、真菌類および細菌のような微生物による汚染を防止するために保存剤を含んでもよい。この使用可能な保存剤は、抗菌作用および抗真菌作用を有しており、無毒性であり、非刺激性であり、かつ、眼に適用可能なものである。該保存剤の例としては、第4級アンモニウム塩、例えば塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウム;カチオン性化合物、例えばグルコン酸クロルヘキシジン;p−ヒドロキシ安息香酸エステル、例えばp−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピルおよびp−ヒドロキシ安息香酸ブチル;アルコール化合物、例えばクロロブタノールおよびベンジルアルコール;デヒドロ酢酸ナトリウム;およびチオメルサール、ならびにこれらの混合物が挙げられる。上記保存剤のうち、第4級アンモニウム塩およびカチオン性化合物は、凝集体の形成を抑制し、pHの低下を防止し、かつ、再分散性および安定性に優れた組成物を提供するので、好ましい。該第4級アンモニウム塩のうち、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムが特に好ましく、該カチオン性化合物としては、グルコン酸クロルヘキシジンが特に好ましい。該保存剤は、一般に、組成物全体に対して、0.001〜0.3w/v%、好ましくは0.002〜0.05w/v%、より好ましくは0.005〜0.01w/v%の割合で含有される。
【0024】
等張化剤の非限定的な例としては、点眼剤に慣用的に使用される、塩化ナトリウム、グリセロール、グルコース、マンニトールおよびソルビトールが挙げられる。これらのうち、塩化ナトリウムは、製剤化する場合に優れた分散性を有し、凝集体の形成を抑制し、かつ、再分散性に優れた組成物を提供するので、好ましい。該等張化剤は、組成物を涙と同等の浸透圧にする量で添加される。
【0025】
眼科用医薬組成物はさらに緩衝剤を含むことができる。該緩衝剤は、pH5.0〜8.5の範囲の緩衝能を有する。該緩衝剤の例としては、酢酸塩、例えば酢酸ナトリウム;リン酸塩、例えばリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウムおよびリン酸水素二カリウム;ε−アミノカプロン酸;アミノ酸塩、例えばグルタミン酸ナトリウム;およびホウ酸およびその塩、ならびにこれらの混合物が挙げられる。この上記緩衝剤のうち、酢酸塩およびε−アミノカプロン酸は、凝集体の形成を抑制し、pHの低下を防止し、かつ、再分散性および安定性に優れた組成物を提供するので、好ましい。該酢酸塩としては、酢酸ナトリウムが特に好ましい。緩衝剤は、一般に、組成物全体に対して、0.01〜2.0w/v%、好ましくは0.05〜0.5w/v%の割合で含有される。
【0026】
pH調整剤の例としては、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、酒石酸、水酸化ナトリウム水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムが挙げられる。眼科用医薬組成物は、一般に、眼の粘膜への刺激がより少ない範囲であるpH4〜10に調整される。
【0027】
好適なキレート化剤としては、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、ジエチレンアミン五酢酸、およびこれらの混合物が挙げられる。最も好ましくは、エデト酸二ナトリウムである。該キレート化剤は、一般に、組成物全体に対して、0.001〜0.1w/v%の量で存在する。エデト酸二ナトリウムの場合、該キレート化剤は、組成物全体に対して、0.005〜0.05w/v%の濃度で存在する。
【0028】
抗酸化剤の例としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、トコフェロール、ならびに亜硫酸塩、例えば亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸マグネシウム、亜硫酸カルシウム、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、重亜硫酸マグネシウム、重亜硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸カルシウム、チオ硫酸ナトリウムおよび亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる。該亜硫酸塩は、一般に、組成物全体に対して、0.01〜1w/v%の量で存在する。
【0029】
分散または懸濁した活性成分の平均粒度は、一般に、0.01〜100μmである。より許容される粒度範囲は、0.01〜50μm、好ましくは0.01〜30μm、より好ましくは0.1〜20μm、最も好ましくは0.1〜5.0μmである。この粒度範囲の活性成分の使用は、眼の粘膜への刺激がより少ない、優れた分散性を有する組成物を提供する。
【0030】
一の実施態様において、マイクロフルイダイゼーション技法は、眼科用医薬組成物の調製において、粒子の分粒に使用される。非常に小さい粒子および液滴サイズ;よりいっそう均一な粒子および液滴サイズ分布;より速い処理時間(いくつかのアプリケーションでは2桁を超える);適用されるエネルギーの量のより良い制御;よりいっそう高いエネルギー(40,000psiまでを維持);小さいバッチから連続生産へのスケーラビリティー;インターアクションチャンバー中での可動部がないこと;多くのアプリケーションにおける清掃が容易であること;ほとんど汚染がないこと;均一な分散および乳化;操作間またはバッチ間の非常に再現性のあるプロセスを含む、Microfluidizer Processor Technologyの様々な利点がある。さらなる利点は、処理費の低さ、操作速度の高速化、および市場機会の展開に対して柔軟な生産能力である。
【0031】
実施態様の1つは、眼科用医薬組成物を調製する様々な方法に関する。
【0032】
一の実施態様では、眼科用医薬組成物を調製する方法は、加圧滅菌による一段または二段の滅菌および粒子の分粒のためのマイクロフルイダイゼーション技法の使用を含む。
【0033】
別の実施態様では、眼科用医薬組成物を調製する方法は、加圧滅菌による一段の滅菌および粒子の分粒のためのボールミルの使用を含む。
【0034】
別の実施態様では、眼科用医薬組成物を調製する方法は、加圧滅菌による一段の滅菌および粒子の分粒のためのコロイドミルまたはホモジナイザーの使用を含む。
【0035】
別の実施態様では、眼科用医薬組成物を調製する方法は、炭酸脱水酵素阻害剤のような活性成分(例えば、ブリンゾラミド)の粒子の分粒のためのマイクロフルイダイゼーション技法の使用を含む。
【0036】
別の実施態様では、眼科用医薬組成物を調製する方法は、加圧滅菌による一段または二段の滅菌および炭酸脱水酵素阻害剤のような活性成分(例えば、ブリンゾラミド)の粒子の分粒のためのマイクロフルイダイゼーション技法を含む。
【0037】
別の実施態様では、眼科用医薬組成物を調製する方法は、加圧滅菌による一段の滅菌および炭酸脱水酵素阻害剤のような活性成分(例えば、ブリンゾラミド)の粒子の分粒のためのボールミルの使用を含む。
【0038】
別の実施態様では、眼科用医薬組成物を調製する方法は、加圧滅菌による一段の滅菌および炭酸脱水酵素阻害剤のような活性成分(例えば、ブリンゾラミド)の粒子の分粒のためのコロイドミルまたはホモジナイザーの使用を含む。
【0039】
別の実施態様は、ブリンゾラミドを含む眼科用医薬組成物の調製方法である。
【0040】
炭酸脱水酵素阻害剤のような活性成分、より好ましくはブリンゾラミドの眼科用医薬組成物を調製する方法は、図1に示されるように、ブリンゾラミドの濃縮スラリーの加圧滅菌、次いで、マイクロフルイダイザーの使用によるブリンゾラミド粒子の分粒、次いで、残りの加圧滅菌成分への該スラリーの添加を使用する。
【0041】
図Iに関して、まず、チロキサポールまたはトリトン X−100のような界面活性剤を精製水に溶解し、2〜5μmフィルターで濾過して、この界面活性剤を含む溶液を調製する。上記溶液に炭酸脱水酵素阻害剤のような活性成分、より好ましくはブリンゾラミド(粒度:d(0.9)<20μm、好ましくは<10μm)をボルテックスミキサー中で撹拌下にて添加して、均一な分散体を得る。上記の均一分散体を、当業者に知られている通常の温度および圧力、例えば110〜129℃、好ましくは121〜127℃で30分〜3時間、加圧滅菌することによって滅菌する。この滅菌分散体の粒子を、無菌条件下にてマイクロフルーダイザーに通すことによって分粒して0.2〜10μmの範囲の平均粒度分布を有する分散体を得る。
【0042】
分粒後、この微粒子化したスラリーを、この微粉砕混合物と合わせる前に混合され、濾過され、pH調製され、滅菌される、水、1種以上の等張化剤、1種以上の保存剤、および少なくとも1種のポリマーを含む残りの成分に、スクリーンを介して無菌的に添加する。精製水を使用してマイクロフルイダイザーをすすぎ、次いで、該混合物に添加し、バッチを無菌的に最終容量にし、均一になるまで混合した。
【0043】
図IIに関して、組成物の製造方法は、図Iとは異なる。この方法では、炭酸脱水酵素阻害剤のような活性成分、より好ましくは、ブリンゾラミド均一分散体を、混合され、濾過され、pH調製される、水、1種以上の等張化剤、任意に1種以上の保存剤、および少なくとも1種のポリマーを含む残りの成分に無菌的に添加し、次いで、均一化する。該均一スラリーを最終容量にし、加圧滅菌によって滅菌し、次いで、マイクロフルイダイザーによって粒子の分粒を行う。
【0044】
図IIIおよびIVに関して、組成物の調製方法は、それぞれボールミルおよびコロイドミルのような異なるタイプの分粒技法を使用する以外は、図IIに示される方法と同じである。
【0045】
下記実施例は、単に眼科用医薬組成物を例示するものであり、本発明の一般概念を制限するものではない。
【実施例】
【0046】
実施例1
【表1】

【0047】
実施例2
【表2】

【0048】
実施例3
【表3】

【0049】
実施例4
【表4】

【0050】
実施例5
【表5】

【0051】
実施例6
【表6】

【0052】
実施例7
【表7】

【0053】
実施例8
【表8】

【0054】
実施例9
【表9】

【0055】
製造方法の簡単な説明
眼科用医薬組成物の調製方法を以下に示す。
方法1:二段の加圧滅菌およびマイクロフルイダイザーを使用する薬物濃縮物の分粒
工程−A:APIスラリー調製:
1.チロキサポールまたはトリトンX−100を精製水に溶解し、2〜5μmフィルターで濾過する。
2.ボルテックスミキサーを使用して撹拌下にて工程1の溶液にブリンゾラミド(粒度:d(0.9)<20μm、好ましくは<10μm)を添加して均一な分散体を得る。
3.加圧滅菌によって、工程2の分散体を滅菌する。
4.無菌条件下にて工程3の滅菌分散体をマイクロフルイダイザーに通して0.2〜10μmの範囲の平均粒度分布を有する分散体を得る。
【0056】
工程−B:ビヒクル濃縮物の調製:
5.ボルテックスミキサー中で連続撹拌下にて十分量の精製水にカルボマーを添加して均一な分散体を得、好適なフィルター(NMT 10μm)で濾過する。
6.十分量の精製水に必要量のマンニトール、塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウムおよびエデト酸二ナトリウムを溶解し、好適なフィルター(2〜5μm)で濾過する。
7.ボルテックスミキサー中で撹拌下にて工程5の分散体に工程6の溶液を混合してビヒクル濃縮物を得る。
8.分散体のpHを調整する。
9.加圧滅菌により工程8の分散体を滅菌する。
【0057】
工程−C:最終組成物の調製(無菌エリアにて):
10.連続撹拌下にて工程AおよびBの生成物をミキサー/ホモジナイザー中に無菌的に送り込む。
11.滅菌水リンスを使用して容量を100%バッチサイズにする。
12.必要に応じて、該混合物を均一にする。
13.得られたバルクを単位容器に無菌的に充填し、密閉する。
【0058】
方法2:一段加圧滅菌およびマイクロフルイダイザーによる最終分散体の分粒
工程−A:APIスラリー調製:
1.チロキサポールまたはトリトンX−100を精製水に溶解し、2〜5μmフィルターで濾過する。
2.ボルテックスミキサーを使用して撹拌下にて工程1の溶液にブリンゾラミド(粒度:d(0.9)<20μm、好ましくは<10μm)を添加して均一な分散体を得る。
【0059】
工程−B:ビヒクル濃縮物の調製:
3.ボルテックスミキサー中で連続撹拌下にて十分量の精製水にカルボマーを添加して均一な分散体を得、好適なフィルター(NMT 10μm)で濾過する。
4.十分量の精製水に必要量のマンニトール、塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウムおよびエデト酸二ナトリウムを溶解し、好適なフィルター(2〜5μm)で濾過する。
5.ボルテックスミキサー中で撹拌下にて工程3の分散体に工程4の溶液を混合してビヒクル濃縮物を得る。
6.分散体のpHを調整する。
【0060】
工程−C:最終組成物の調製(無菌エリアにて):
7.ミキサー/ホモジナイザー中にて工程AおよびBの生成物を、均一な分散体が得られるまで混合する。
8.滅菌水リンスを使用して容量を100%バッチサイズにする。
9.必要に応じて、該分散体を再度均一化する。
10.工程9の分散体を加圧滅菌により滅菌する。
11.無菌条件下にて工程10の滅菌分散体をマイクロフルイダイザーに通して0.2〜10μmの範囲の平均粒度分布を有する分散体を得る。
12.得られたバルクを単位容器に無菌的に充填し、密閉する。
【0061】
方法3:一段の加圧滅菌およびボールミルによる最終分散体の分粒
工程−A:APIスラリー調製:
1.チロキサポールまたはトリトンX−100を精製水に溶解し、2〜5μmフィルターで濾過する。
2.ボルテックスミキサーを使用して撹拌下にて工程1の溶液にブリンゾラミド(粒度:d(0.9)<20μm、好ましくは<10μm)を添加して均一な分散体を得る。
【0062】
工程−B:ビヒクル濃縮物の調製:
3.ボルテックスミキサー中で連続撹拌下にて十分量の精製水にカルボマーを添加して均一な分散体を得、好適なフィルター(NMT 10μm)で濾過する。
4.十分量の精製水に必要量のマンニトール、塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウムおよびエデト酸二ナトリウムを溶解し、好適なフィルター(2〜5μm)で濾過する。
5.ボルテックスミキサー中で撹拌下にて工程3の分散体に工程4の溶液を混合してビヒクル濃縮物を得る。
6.分散体のpHを調整する。
【0063】
工程−C:最終組成物の調製(無菌エリアにて):
7.ミキサー/ホモジナイザー中にて工程AおよびBの生成物を、均一な分散体が得られるまで混合する。
8.工程7の分散体を微粉砕用ビーズと一緒にボールミルボトル中にて加圧滅菌することによって滅菌する。
9.無菌条件下にてボールミル中で工程10の分散体を無菌的に微粉砕して0.2〜10μmの範囲の平均粒度分布を有する分散体を得る。
10.分粒した分散体を好適なスクリーンに通す。
11.滅菌水リンスを使用して容量を100%バッチサイズにする。
12.必要に応じて、該分散体を再度均一化する。
13.得られたバルクを単位容器に無菌的に充填し、密閉する。
【0064】
方法4:一段の加圧滅菌およびコロイドミル/ホモジナイザーによる最終分散体の分粒
工程−A:APIスラリー調製物:
1.チロキサポールまたはトリトンX−100を精製水に溶解し、2〜5μmフィルターで濾過する。
2.ボルテックスミキサーを使用して撹拌下にて工程1の溶液にブリンゾラミド(粒度:d(0.9)<10μm、好ましくは<5μm)を添加して均一な分散体を得る。
【0065】
工程−B:ビヒクル濃縮物の調製:
3.ボルテックスミキサー中で連続撹拌下にて十分量の精製水にカルボマーを添加して均一な分散体を得、好適なフィルター(NMT 10μm)で濾過する。
4.十分量の精製水に必要量のマンニトール、塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウムおよびエデト酸二ナトリウムを溶解し、好適なフィルター(2〜5μm)で濾過する。
5.ボルテックスミキサー中にて撹拌しながら工程3の分散体に工程4の溶液を混合してビヒクル濃縮物を得る。
6.分散体のpHを調整する。
【0066】
工程−C:最終組成物の調製(無菌エリアにて):
7.ミキサー/ホモジナイザー中にて工程AおよびBの生成物を、均一な分散体が得られるまで混合する。
8.工程7の分散体を加圧滅菌によって滅菌する。
9.必要なコロイドミル成分を加圧滅菌する。
10.無菌条件下にてコロイドミル中にて工程10の分散体を無菌的に微粉砕して0.2〜5μmの範囲の平均粒度分布を有する分散体を得る。
11.滅菌水リンスを使用して容量を100%バッチサイズにする。
12.必要に応じて、該分散体を再度均一化する。
13.得られたバルクを単位容器に無菌的に充填し、密閉する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸脱水酵素阻害剤を含む眼科用組成物の調製方法であって、
a)炭酸脱水酵素阻害剤および界面活性剤を含むスラリーを調製すること;
b)ポリマーおよび水を含むポリマースラリーを調製すること;
c)等張化剤および保存剤を含む溶液を調製すること;
d)工程bのポリマースラリーおよび工程cの溶液を混合してビヒクル濃縮物を得、pHを調整すること;
e)工程aのスラリーを工程dのビヒクル濃縮物に添加し、混合して均一にすること;
f)工程eの混合物を加圧滅菌すること;
g)無菌条件下にて工程fの混合物を分粒すること
を含む、方法。
【請求項2】
炭酸脱水酵素阻害剤がブリンゾラミドである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
分粒がマイクロフルイダイザー、ボールミルまたはコロイドミルを使用して行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ポリマーが、カルボマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、カルボキシビニルポリマーまたはこれらの混合物から選択されるものである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
界面活性剤が、アルキルアリールポリエーテルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルまたはこれらの混合物から選択されるものである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
保存剤が、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、チオメルサールまたはこれらの混合物から選択されるものである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
等張化剤が、塩化ナトリウム、グリセロール、グルコース、マンニトール、ソルビトールまたはこれらの混合物から選択されるものである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
炭酸脱水酵素阻害剤を含む眼科用組成物の調製方法であって、
a)炭酸脱水酵素阻害剤および界面活性剤を含むスラリーを加圧滅菌すること;
b)工程aの分散スラリーの粒子をマイクロフルイダイザーによって無菌的に分粒すること;
c)ポリマーおよび水を含むポリマースラリーを調製すること;
d)等張化剤および保存剤を含む溶液を調製すること;
e)工程cのポリマースラリーおよび工程dの溶液を混合してビヒクル濃縮物を得、pHを調整すること;
f)ビヒクル濃縮物を加圧滅菌すること;
g)工程bのスラリーを工程fの滅菌ビヒクル濃縮物に無菌的に添加すること
を含む、方法。
【請求項9】
炭酸脱水酵素阻害剤がブリンゾラミドである、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−512894(P2013−512894A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541629(P2012−541629)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際出願番号】PCT/IN2010/000784
【国際公開番号】WO2011/067791
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(502425916)ルピン・リミテッド (27)
【氏名又は名称原語表記】LUPIN LIMITED
【Fターム(参考)】