説明

眼科用組成物

【課題】マイボーム腺からの油分の産生を促進する眼科用組成物を提供する。
【解決手段】レシチン、及びビタミンB2類(特に、フラビンアデニンジヌクレオチド)を含有する眼科用組成物は、マイボーム腺による油分の産生を促進し、蒸発亢進型ドライアイを含むドライアイを効果的に改善する。また、この眼科用組成物は、目やにを効果的に抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用組成物、特に、ドライアイ症状の緩和に有効な眼科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼球表面を覆う涙液は、眼球側から、ムチンからなる粘液層、水層、及び油層の3層構造を有している。また、水層と油層との間には両親媒性のレシチン層が存在し、水層と油層との橋渡しをすることにより、涙液を安定化していることが知られている(非特許文献1)。
レシチンが涙液構成成分であることから、近年、レシチンを含む眼科用組成物が提案されている。例えば、特許文献1には、ヒマシ油及びレシチンを含有するドライアイの予防又は治療用水性点眼剤が記載されている。また、特許文献2には、油分、ムコ多糖、及びレシチンを含むO/W型エマルジョン水性点眼剤が蒸発亢進型ドライアイの改善に有効であることが記載されている。
しかし、例えば、閉塞性マイボーム腺機能不全のように、マイボーム腺からの脂質の分泌が低下している症例では、涙液油層の形成障害により、ドライアイ症状や角結膜上皮障害が見られ、既存のドライアイ治療剤では治療が困難である(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2006/009112号
【特許文献2】特開2007−211007号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「日本の眼科」74巻、6号、2003年、569-572頁
【非特許文献2】月刊眼科診療プラクティス、Vol.1、No.9、1998年12月25日、102-103頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、マイボーム腺からの油分の産生を促進する眼科用組成物を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) レシチンとビタミンB2類とを含む組成物は、マイボーム腺からの油分の産生を促進する。また、レシチンとビタミンB2類とを含むことにより、各成分を単独で含む場合に比べて、マイボーム腺からの油分産生促進作用が相乗的に強くなる。
(ii) 目やに症状を示すヒトに、レシチンとビタミンB2類とを含む組成物を点眼すると、目やにの量を抑制する。また、レシチンとビタミンB2類とを併用することにより、各成分を単独で使用する場合に比べて、目やに抑制作用が相乗的に強くなる。
(iii) 目の乾燥の症状を示すヒトに、レシチンとビタミンB2類とを含む組成物を点眼すると、目の乾燥を抑制する。また、レシチンとビタミンB2類とを併用することにより、各成分を単独で使用する場合に比べて、目の乾燥の抑制作用が相乗的に強くなる。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記の眼科用組成物を提供する。
【0007】
項1. レシチン、及びビタミンB2類を含有する眼科用組成物。
項2. ビタミンB2類がフラビンアデニンジヌクレオチド、及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1に記載の眼科用組成物。
項3. レシチンの含有量が、眼科用組成物の全量に対して、0.001〜20w/v%である、項1又は2に記載の眼科用組成物。
項4. ビタミンB2類の含有量が、眼科用組成物の全量に対して、0.0001〜1w/v%である、項1〜3のいずれかに記載の眼科用組成物。
項5. さらに、ホウ酸緩衝剤を含む、項1〜4のいずれかに記載の眼科用組成物。
項6. ホウ酸緩衝剤の含有量が、眼科用組成物の全量に対して、0.01〜3w/v%である、項5に記載の眼科用組成物。
項7. マイボーム腺からの油分産生促進用の、項1〜6のいずれかに記載の眼科用組成物。
項8. 蒸発亢進型ドライアイ治療用の、項1〜6のいずれかに記載の眼科用組成物。
項9. 目やに抑制用の、項1〜6のいずれかに記載の眼科用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の眼科用組成物は、マイボーム腺からの油分の産生を効果的に促進する。また、目の乾燥を抑制し、ドライアイ症状を緩和、治療することができる。また、既存のドライアイ治療剤では治療が困難であった、マイボーム腺からの油分の産生が低下しているドライアイ症状(具体的には、例えば蒸発亢進型ドライアイ)に対する治療効果が期待でき、さらに、涙液成分を補充するという観点から、涙液減少型ドライアイに対しても有用である。また、本発明の眼科用組成物の油分産生促進作用は、レシチン、及びビタミンB2類を各単独で含む場合に比べて、相乗効果が認められる。
また、本発明の眼科用組成物は、目やにを効果的に抑制する。これにより、瞬きがし難い、目を開け難いといった症状を改善することができる。また、本発明の眼科用組成物の目やに抑制作用は、レシチン、及びビタミンB2類を各単独で含む場合に比べて、相乗効果が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】マイボーム腺からの油分の産生についての、レシチンとFADとの相乗効果を示す図である。
【図2】起床時の瞬きのし易さ、目の乾燥感、目の開け易さ、目やに量についての、レシチンとFADとの相乗効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
(I)眼科用組成物
本発明の眼科用組成物は、レシチン、及びビタミンB2類を含有する組成物である。
眼科用組成物には、点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用液(洗浄液、保存液、消毒液、マルチパーパスソリューション)、眼軟膏などが包含される。本発明の眼科用組成物は、マイボーム腺からの油分産生促進作用、ドライアイ改善作用、目やに抑制作用を奏するため、特に、点眼剤、洗眼剤として好適である。
【0011】
レシチン
レシチンの由来は、特に限定されない。レシチンとしては、例えば、卵黄レシチン、大豆レシチン、コーンレシチン、落花生レシチン、菜種レシチンなどが挙げられる。これらのレシチンは、未水添物であっても、水素添加物(完全水添物、微水添物などを含む)であってもよい。レシチンのヨウ素価も特に限定されず、例えば、10以下であってもよい。ヨウ素価の範囲としては、好ましくは約20〜100、より好ましくは約30〜90、さらにより好ましくは約35〜85である。また、レシチンの酸価は、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、さらにより好ましくは30以下である。
また、レシチンは、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、リゾホスファチジルコリン(LPC)などのリン脂質を含有しており、ホスファチジルコリンの含有量が全体の30重量%以上であるレシチンが好ましく、50重量%以上であるレシチンがより好ましく、70重量%以上であるレシチンがさらにより好ましい。また、ホスファチジルエタノールアミンの含有量が全体の50重量%以下であるレシチンが好ましく、30重量%以下であるレシチンがより好ましく、15重量%以下であるレシチンがさらにより好ましい。また、ホスファチジルイノシトールの含有量が全体の50重量%以下であるレシチンが好ましく、30重量%以下であるレシチンがより好ましく、15重量%以下であるレシチンがさらにより好ましい。また、リゾホスファチジルコリンの含有量が20重量%以下であるレシチンが好ましく、10重量%以下であるレシチンがより好ましい。このようなレシチンとして、(レシノールS−10、レシノールS−10M、レシノールS−10E、レシノールS−10EX、レシノールS−H50、レシノールWS−50、レシノールLL−20;日光ケミカルズ(株))、(PL−30S、PL−100M、PC−98N、PL−100P;キューピー(株))、(SLP−PC90、SLP−PC92H、SLP−ホワイト、SLP−ホワイトSP、SLP−ホワイトH、SLP−PC70、SLP−PC70H、SLP−LPC70;辻製油(株))、(NC−21、NC−21E、NC−61;日本油脂(株))、(Lipoid E−80;Lipoid社)、(Epikuron 120、Ovothin 160;Lucus Meyer社)などが挙げられる。
レシチンは、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
眼科用組成物中のレシチンの含有量は、眼科用組成物全体に対し、レシチンの総量で、約0.001〜20w/v%が好ましく、約0.005〜2w/v%がより好ましく、約0.01〜0.3w/v%がさらにより好ましく、約0.01〜0.1w/v%が特に好ましい。レシチン含有量が上記範囲であれば、マイボーム腺からの油分分泌促進効果をはじめとする本願発明の効果がより一層高められる。
【0012】
ビタミンB2類
ビタミンB2類としては、リボフラビン、リン酸リボフラビン、酪酸リボフラビン、酢酸リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、又は薬学的に許容されるそれらの塩等が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。
中でも、リン酸リボフラビン、酪酸リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチド、又はそれらの塩が好ましく、リン酸リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム、酪酸リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムがより好ましく、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムがさらにより好ましい。
ビタミンB2類は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
眼科用組成物中のビタミンB2類の含有量は、眼科用組成物全体に対し、ビタミンB2類の総量で、約0.0001〜1w/v%が好ましく、約0.001〜0.5w/v%がより好ましく、約0.005〜0.05w/v%がさらにより好ましい。ビタミンB2類含有量が上記範囲であれば、マイボーム腺からの油分分泌促進効果をはじめとする本願発明の効果がより一層高められる。
また、本発明の眼科用組成物において、レシチンに対するビタミンB2類の比率については、特に制限されるものではないが、マイボーム腺からの油分分泌促進効果をはじめとする本願発明の効果を一層高めるという観点から、レシチン1重量部当たり、ビタミンB2類の総量が約0.001〜1000重量部、好ましくは約0.01〜100重量部、更に好ましくは約0.1〜10重量部、特に好ましくは約0.5〜5重量部が挙げられる。
【0013】
ホウ酸緩衝剤
本発明の眼科用組成物は、ホウ酸緩衝剤をさらに含むことが好ましい。ホウ酸緩衝剤は、緩衝作用の他、静菌作用も有するため、ホウ酸緩衝剤を含む眼科用組成物は、別途防腐剤を添加しなくても、または防腐剤の量が少なくても、長期間安定に保管できるというメリットがある。レシチン、及びビタミンB2類は、それぞれ、ホウ酸緩衝剤と併用することによりホウ酸緩衝剤の静菌力を低下させるが、ホウ酸緩衝剤、レシチン、及びビタミンB2類を含むことにより、ホウ酸緩衝剤の静菌力の低下が抑制される。また、レシチン、ビタミンB2類及びホウ酸緩衝剤を併用することにより、目の乾きの抑制、目やにの抑制、目の開けやすさ、瞬きのし易さ等をはじめとする本願発明の効果がより一層高められ、安定な眼科用組成物を得ることができる。
ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸またはその塩が挙げられる。ホウ酸の塩としては、ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂などが例示される。中でも、ホウ酸又はホウ砂が好ましい。ホウ酸緩衝剤は1種を単独で、又は2種以上を組合わせて使用でき、特にホウ酸及びホウ砂の組み合わせが好ましい。
【0014】
ホウ酸緩衝剤の含有量は、本発明の効果を奏し得る範囲である限り、ホウ酸緩衝剤単独で緩衝作用が発揮できない範囲に設定されていてもよく、ホウ酸緩衝剤の種類、配合する他の成分の種類等に応じて適宜設定される。例えば、ホウ酸緩衝剤の含有割合として、眼科組成物の総量に対して、ホウ酸緩衝剤の総量で、好ましくは約0.01〜3w/v%、より好ましくは約0.1〜2.5w/v%、さらにより好ましくは約0.5〜2w/v%が例示される。
また、ホウ酸緩衝剤の含有量は、ホウ素原子に換算した濃度が、眼科用組成物全体に対し、約0.0001〜0.05mol/100mLであることが好ましく、約0.0015〜0.035mol/100mLであることがより好ましく、約0.007〜0.03mol/100mLであることがさらにより好ましい。ホウ酸緩衝剤の含有量が上記範囲であれば、保存性又は防腐性が良好で、目の乾きの抑制、目やにの抑制、目の開けやすさ、瞬きのし易さ等をはじめとする本願発明の効果がより一層高められ、安定な眼科用組成物となる。
【0015】
カンフル、ボルネオール
本発明の眼科用組成物は、カンフルおよびボルネオールからなる群より選ばれる一種以上をさらに含むことが好ましい。カンフルまたはボルネオールは、レシチンの不快臭を抑制する他、より確実に上述した本願発明の効果を奏させることができる。カンフルまたはボルネオールは、d体、l体のどちらを用いても良く、より好ましくは、d−カンフル、dl−カンフル、d−ボルネオールであり、特に好ましくはd−カンフルである。またこれらを含有する精油であってもよい。
本発明の眼科用組成物にカンフル及び/またはボルネオールを配合する場合、カンフル及び/またはボルネオールの配合割合については、一律に規定することはできないが、カンフル及び/またはボルネオールが、総量で、通常約0.0001〜1w/v%、好ましくは約0.001〜0.1w/v%、更に好ましくは約0.002〜0.03w/v%、特に好ましくは約0.005〜0.02w/v%となる割合が例示される。
【0016】
油分
本発明の眼科用組成物は、油分をさらに含むことが好ましい。油分は、本発明の眼科用組成物の安定性を向上させ、より確実に上述した本願発明の効果を奏させることができる。油分としては、植物油、スクワランなどの動物油、流動パラフィン、ワセリンなどの鉱物油などが挙げられ、中でも、ゴマ油、ヒマシ油、大豆油、オリーブ油、小麦胚芽油、ペパーミント油、ヒマワリ油、綿実油、コーン油、ヤシ油、ラッカセイ油、ピーナッツ油、アーモンド油、サフラワー油、ホホバ油、ツバキ油、菜種油、及びオレンジ油などの植物油が好ましい。さらに好ましくは、ヒマシ油、ゴマ油であり、特に好ましくはゴマ油である。油分は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
眼科用組成物中の油分の含有量は、眼科用組成物全体に対し、油分の総量で約0.001〜10w/v%が好ましく、約0.005〜5w/v%がより好ましく、約0.01〜1w/v%がさらにより好ましい。
【0017】
アルコール
本発明の眼科用組成物は、アルコールをさらに含むことが好ましい。アルコールは、本発明の眼科用組成物の安定性を向上させ、より確実に上述した本願発明の効果を奏させることができる。アルコールとしては、多価アルコール、又は一価アルコールのいずれであってもよい。多価アルコールとしては、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、キシリトール、マンニトールなどが挙げられる。一価アルコールとしては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールなどが挙げられる。好ましくは、グリセリン、プロピレングリコール、及びエタノールが用いられる。アルコールは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
眼科用組成物中のアルコールの含有量は、眼科用組成物全体に対し、アルコールの総量で約0.001〜20w/v%が好ましく、約0.01〜10w/v%がより好ましく、約0.05〜5w/v%がさらにより好ましい。
【0018】
好ましい組み合わせ
レシチンと、ビタミンB2類との好ましい組合わせを以下の表1に例示する。
【表1】

【0019】
本発明の眼科用組成物には、上記の成分に加えて、公知の有効成分(薬理活性成分や生理活性成分等)を配合することができる。このような成分の種類は特に制限されず、例えば、充血除去成分、眼筋調節薬成分、抗炎症薬成分又は収斂薬成分、抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分、ビタミン類、アミノ酸類、抗菌薬成分又は殺菌薬成分、糖類、高分子化合物又はその誘導体、セルロース又はその誘導体、局所麻酔薬成分、緑内障治療成分、白内障治療成分等が例示できる。本発明において好適な薬理活性成分及び生理活性成分としては、例えば、次のような成分が挙げられる。
【0020】
充血除去成分:例えば、α−アドレナリン作動薬、具体的にはエピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸オキシメタゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、酒石酸水素エピネフリン、硝酸ナファゾリンなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0021】
眼筋調節薬成分:例えば、アセチルコリンと類似した活性中心を有するコリンエステラーゼ阻害剤、具体的にはメチル硫酸ネオスチグミン、トロピカミド、ヘレニエン、硫酸アトロピンなど。
【0022】
抗炎症薬成分又は収斂薬成分:例えば、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、アラントイン、イプシロン−アミノカプロン酸、インドメタシン、塩化リゾチーム、硝酸銀、プラノプロフェン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二アンモニウム、ジクロフェナクナトリウム、ブロムフェナクナトリウム、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリンなど。
【0023】
抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分:例えば、アシタザノラスト、ジフェンヒドラミン又はその塩酸塩など、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸ケトチフェン、レボカバスチン又はその塩酸塩など、アンレキサノクス、イブジラスト、タザノラスト、トラニラスト、オキサトミド、スプラタスト又はそのトシル酸塩など、クロモグリク酸ナトリウム、ペミロラストカリウムなど。
【0024】
ビタミン類:例えば、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、リン酸ピリドキサール、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、アスコルビン酸、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、コハク酸トコフェロールカルシウム、ユビキノン誘導体など。
【0025】
アミノ酸類:例えば、アミノエチルスルホン酸(タウリン)、グルタミン酸、クレアチニン、アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム混合物、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸マグネシウム、イプシロン−アミノカプロン酸、グリシン、アラニン、アルギニン、リジン、γ−アミノ酪酸、γ−アミノ吉草酸、コンドロイチン硫酸ナトリウムなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0026】
抗菌薬成分又は殺菌薬成分:例えば、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロラムフェニコール、スルファメトキサゾール、スルフイソキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルフイソキサゾールジエタノールアミン、スルフイソキサゾールモノエタノールアミン、スルフイソメゾールナトリウム、スルフイソミジンナトリウム、オフロキサシン、ノルフロキサシン、レボフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、アシクロビルなど。
【0027】
糖類:例えば単糖類、二糖類、具体的にはグルコース、マルトース、トレハロース、スクロース、シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。
【0028】
高分子化合物又はその誘導体:例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、デキストリン、デキストラン、ペクチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリビニルアルコール(完全、または部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、マクロゴールおよびその薬学上許容される塩類など。
【0029】
セルロース又はその誘導体:例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシエチルセルロース、ニトロセルロースなど。
【0030】
局所麻酔薬成分:例えば、クロロブタノール、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなど。
【0031】
眼科用組成物の分野において各種成分の配合割合は既知であり、本発明の眼科用組成物中の上記成分の配合割合は、該組成物の剤型、薬理活性成分又は生理活性成成分の種類等に応じて適宜設定される。例えば、薬理活性成分又は生理活性成成分の配合割合は、眼科用組成物の総量に対して約0.0001〜30w/v%、好ましくは約0.001〜10 w/v%の範囲から選択できる。
公知の有効成分は、1種を単独で、又は2種以上を組合わせて使用できる。
【0032】
担体、添加物
また、本発明の眼科用組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な担体や添加物を適宜選択して含有させることができる。それらの担体または添加物として、例えば、半固形剤や液剤などの調製に一般的に使用される担体(水性溶媒、水性又は油性基剤など)、界面活性剤、防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、等張化剤、キレート剤、緩衝剤、安定化剤等の各種添加剤を挙げることができる。
【0033】
以下に本発明の眼科用組成物に使用される代表的な成分を例示するが、これらに限定されない。
【0034】
担体:水、含水エタノール等の水性溶媒。
【0035】
界面活性剤:例えば、ポリオキシエチレン(以下、POEと略す)−ポリオキシプロピレン(以下、POPと略す)ブロックコポリマー (具体的には、ポロクサマー407など)、エチレンジアミンのPOE-POPブロックコポリマー付加物(具体的には、ポロキサミンなど)、POEソルビタン脂肪酸エステル(具体的には、ポリソルベート80など)、POE硬化ヒマシ油(具体的には、POE(60)硬化ヒマシ油など)、ステアリン酸ポリオキシルなどの非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシンなどのグリシン型両性界面活性剤;アルキル4級アンモニウム塩(具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなど)の陽イオン界面活性剤など。なお、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0036】
香料又は清涼化剤:例えば、テルペン類(具体的には、アネトール、オイゲノール、ゲラニオール、メントール、リモネンなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。)、精油(ユーカリ油、ベルガモット、ハッカ水、ハッカ油、ペパーミント油、ローズ油など)など。
【0037】
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩化ポリドロニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド又はその塩酸塩など)、グローキル(ローディア社製 商品名)など。
【0038】
pH調節剤:例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸など。
【0039】
等張化剤:例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、グリセリン、プロピレングリコールなど。
【0040】
キレート剤:例えば、アスコルビン酸、エデト酸四ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸など。
【0041】
緩衝剤:クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、リン酸緩衝剤など。具体的には、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂 、リン酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなど。
【0042】
安定化剤:ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリンなど。
担体、添加物は1種を単独で、又は2種以上を組合わせて使用できる。
【0043】
性状、pH
本発明の眼科用組成物は、眼軟膏である場合を除き、通常、液剤とすればよい。その場合、水の含有量は、通常、90w/v%以上、好ましくは95w/v%以上とすればよい。
眼軟膏である場合は、公知の眼軟膏基材、例えば、白色ワセリン、流動パラフィン、プラスチベース、精製ラノリンなどを使用することができる。
また、本発明の眼科用組成物のpHは、約3〜9とすればよく、約4.5〜7.5が好ましく、約4.8〜6.5がより好ましい。pHが上記範囲であれば、マイボーム腺からの油分分泌促進効果をはじめとする本願発明の効果がより一層確実に得られると共に、保存後も安定的にこれらの効果を得ることができる。
【0044】
容器
本発明の眼科用組成物が充填される容器は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの材料を含む容器が挙げられる。好ましくは遮光された容器に充填される。遮光容器に入れることにより、本発明の眼科用組成物を長期間安定に保つことができる。容器は、例えば上記の材料に着色剤などを混ぜることにより、遮光してもよいし、あるいはシュリンクフィルムや外箱などで覆うことにより、遮光してもよい。
【0045】
製造方法
本発明の眼科用組成物は、慣用の方法で調製できる。例えば、各成分を水、油、アルコールおよび界面活性剤からなる群から選択される1種または2種以上の混合物に分散させた後、ホモジナイザーなどを用いて均一化、溶解又は乳化させ、pH調整剤によりpHを調整することにより調製すればよい。
【0046】
使用方法
本発明の眼科用組成物が液剤、又は眼軟膏である場合の用法・用量は、患者の症状、年齢等により変動するが、通常、1日約1〜6回、1回約1〜2滴を点眼し、又は適量を塗布すればよい。
本発明の眼科用組成物が点眼剤である場合、使用対象は、閉塞性マイボーム腺機能不全のようなマイボーム腺からの油分分泌低下、ドライアイ(特に蒸発亢進型ドライアイ)、目の炎症、目やになどの症状を示す患者などが好適である。特に、マイボーム腺からの油分分泌低下、ドライアイ、中でも蒸発亢進型ドライアイの症状を示す患者が好適な対象である。
従って、本発明の眼科用組成物は、マイボーム腺からの油分産生促進用、ドライアイ(特に、蒸発亢進型ドライアイ)治療用、目やに抑制用、目の炎症改善用、目の乾き改善用などの用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
1.マイボーム腺からの油分の産生に与える影響
方法
白色系ラット(日本SLC)の眼瞼より実体顕微鏡下で、マイボーム腺を摘出した。これを約1mmに細分し、0.25w/v%ディスパーゼ(Roche)、0.25w/v%コラゲナーゼ(新田ゼラチン)で、37℃で2.5時間処理した。
得られた処理溶液から、マイボーム腺を回収し、コラーゲンIコートされたΦ6cm細胞培養用シャーレ(IWAKI)で、5%CO、37℃で3日間組織培養した。培養は、フェノールフタレイン(−)のDMEM/F12(GIBCO)に、10ng/mL mEGF(クラボウ)、0.4μg/mLのヒドロコルチゾン(クラボウ)、5mg/Lのインスリン(クラボウ)、10mg/Lトランスフェリン(クラボウ)、抗生物質(Antibiotic-Antimycotic;GIBCO )を添加したものを用いて行った(培地1)。
培養開始3日間後に、マイボーム腺から得られた細胞をトリプシン(GIBCO)処理し、コラーゲンIコートされた96ウェル細胞培養用プレート(住友ベークライト)に継代し、5%CO、37℃で培養を継続した。継代後の培養は、フェノールフタレイン(−)のDMEM/F12(GIBCO)に、10ng/mL mEGF(クラボウ)、0.4μg/mLヒドロコルチゾン(クラボウ)、抗生物質(Antibiotic-Antimycotic;GIBCO)、10v/v%ウシ胎児血清を添加した培地を用いて行った。
細胞がコンフルエントになった時点で、継代用培地を吸引除去し、DMEM/F12で各ウェルを3回洗浄した。
次いで、被験物質を下記表2に示す濃度になるように、上記の培地1に溶解させて調製し、200μLをウェルに添加した。なお、コントロールとして、被験物質を溶解させた培地1に代えて、被験物質を溶解しない培地1の200μLを別のウェルに添加した。その後、5%CO、37℃の条件下で48時間培養した。表2の大豆レシチンは、日光ケミカルズ社製S−10M(PC含量60%、酸価40以下)を用い、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム(以下、FADと表記することもある)は協和発酵キリン社製のものを用いた。
【0049】
【表2】

【0050】
結果
96ウェルプレートより培地を吸引除去し、4%パラホルムアルデヒドで1時間細胞を固定した。固定液を吸引除去した後、PBS(−)(コージンバイオ)で各ウェルを洗浄し、BODIPY(invitrogen)を用いて細胞内の油滴を染色した。IN CELL Analyzer(GEヘルスケア・ジャパン)を用いて、染色像を撮影及び解析した。
また、染色像の蛍光値(蛍光強度に面積値を乗じたもの。即ち、蛍光強度×面積値)を元に、下記式に従い、被験物質無添加のコントロールと比べた油滴量の増加率(%)を算出した。

油滴量の増加率(%)=〔(各例における蛍光値/コントロールの蛍光値)-1〕
×100
【0051】
各例の油滴量の増加率を図1に示す。図1から明らかなように、FADのみ添加した場合は、油滴量はコントロールとほぼ同じであったが、レシチンと組合わせることにより、油滴量は相乗的に増加した。
【0052】
2.官能試験
下記表3に示す処方の点眼剤を調製し、PET製点眼瓶に無菌的に充填し、被験サンプルとした。大豆レシチンは、日光ケミカルズ社製S−10M(PC含量60%、酸価40以下)を用い、FADは協和発酵キリン社製のものを用いた。pH調節剤は、水酸化ナトリウムを用いた。
【表3】

起床時の目やにの自覚症状がある被験者11名が、各被験サンプルを、就寝前1〜30分の時に、1〜2滴を1回点眼した。
各被験者が、起床時の瞬きのし易さ、起床時の目の乾燥感、起床時の目の開け易さ、起床時の目やに量を評価した。点眼剤を使用しない状態を0点とし、これに比べた改善度を、以下の基準で評価した。
悪化した場合:わずかに悪化した場合を−1点とし、非常に悪化した場合を−5点とし、5段階で評価した。
改善した場合:わずかに改善した場合を1点とし、非常に改善した場合を5点とし、5段階で評価した。
結果を11名の平均値として図2に示す。図2から明らかなように、瞬きのし易さ、目の乾燥感、目の開け易さ、目やに量の全ての項目でレシチンとFADとの併用により相乗的に改善が見られた。
【0053】
3.防腐性の評価
Staphylococcus aureus(ATCC6538)を、ソイビーン・カゼイン・ダイジェストカンテン平板培地の表面に接種して、33℃で、24時間培養した。培養菌体を白金耳で無菌的に採取し、適量の滅菌生理食塩水に浮遊させて、約1×108CFU/mLの生菌を含む細菌浮遊液を調製した。
試験液中の生菌数(最終濃度)が約1.6×10CFU/mL、試験液中の各成分濃度が、後掲の表4に示す実施例4、及び比較例6、7の組成になるように試験液を調製した。
この試験液を用いて、日本薬局方(第15改正)に定める方法に準じて保存効力試験(防腐力試験)を行い、各例の組成物の防腐性を評価した。具体的には、各試験液を25℃で75時間静置し、接種時、46時間後、及び75時間後の生存菌数を測定した。菌の計数はメンブランフィルターろ過法で行った。結果を以下の表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
表4から明らかなように、レシチン、及びFADをそれぞれ単独でホウ酸と併用すると、ホウ酸の静菌力を大きく低下させたが、ホウ酸にレシチン及びFADを併用すると、ホウ酸の静菌力の低下が抑制された。すなわち、防腐剤が少ない、または防腐剤を含まない場合であっても、製剤に適切な防腐力を付与する事ができる。
【0056】
処方例
以下の処方例で用いたレシチンの特性は以下の通りである。
精製卵黄レシチン PL-100M(キューピー社製):試験例と同じものを用いた。
精製卵黄レシチン PC-98N(キューピー社製):ヨウ素価64、PC含量98.3%、酸価0.1のものを用いた。
精製大豆レシチン SLP-PC92H(辻製油社製):ヨウ素価41、PC含量90%以上、酸価3以下のものを用いた。
精製大豆レシチン S-10M(日光ケミカルズ社製):試験例と同じものを用いた。
精製大豆レシチン S-10EX(日光ケミカルズ社製):PC含量95%以上、酸価40以下のものを用いた。
【0057】
【表5】

【0058】
(表5から続く)
【表6】

【0059】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の眼科用組成物は、マイボーム腺からの油分の産生を促進し、目の乾燥を抑制し、ドライアイ症状(特に、蒸発亢進型ドライアイ)を緩和、治療することができる。また、目の炎症や目やにを効果的に改善する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシチン、及びビタミンB2類を含有する眼科用組成物。
【請求項2】
ビタミンB2類がフラビンアデニンジヌクレオチド、及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項3】
レシチンの含有量が、眼科用組成物の全量に対して、0.001〜20w/v%である、請求項1又は2に記載の眼科用組成物。
【請求項4】
ビタミンB2類の含有量が、眼科用組成物の全量に対して、0.0001〜1w/v%である、請求項1〜3のいずれかに記載の眼科用組成物。
【請求項5】
さらに、ホウ酸緩衝剤を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の眼科用組成物。
【請求項6】
ホウ酸緩衝剤の含有量が、眼科用組成物の全量に対して、0.01〜3w/v%である、請求項5に記載の眼科用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−153127(P2011−153127A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277892(P2010−277892)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】