説明

眼鏡レンズ加工装置

【課題】 作業者の熟練度に拘わらず容易に良好な穴あけ加工を行うことができる眼鏡レンズ加工装置を提供する。
【解決手段】 眼鏡レンズの周縁を加工する眼鏡レンズ加工装置において、被加工レンズを保持するレンズ回転軸と、被加工レンズに穴をあけるための穴あけ工具を回転する穴あけ工具回転軸と、前記レンズ回転軸に対する前記穴あけ工具回転軸の傾斜角を変更する傾斜角変更手段と、を備え、被加工レンズのフライス加工も行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの周縁を加工する眼鏡レンズ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの周縁を眼鏡枠形状に合うように研削具(砥石、切削カッター)により加工する眼鏡レンズ加工装置が知られている。いわゆるツーポイントフレーム(リムレス眼鏡)の場合、周縁加工後のレンズに穴あけ加工を行う。従来、穴あけ加工はボール盤等により作業者が手作業で行っていた。穴あけ方向は、通常、レンズ前面における穴位置の法線方向にしている。
【0003】
また、穴あけ機構を眼鏡レンズ加工装置に設けたものもある。この装置ではレンズチャック軸に対して垂直な方向にのみ穴加工を行っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、穴あけ機構が設けられた従来の眼鏡レンズ加工装置においては、レンズコバに対する穴あけであり、適用できるツーポイントフレームが限定されている。
【0005】
また、ボール盤等により手作業で穴あけすることは容易でなく、所望する穴あけ作業を行うには熟練を要し、加工に不慣れな作業者では良好な穴あけは難しかった。さらに、熟練した作業者においては、フレーム作成時のレンズのあおりを考慮し、穴あけ角度に手心を加えて行うこともある。特にカニ目レンズの場合、この傾向が強い。穴あけ方向はフレームの仕上がりに大きな影響があり、この方向が固定されてしまうと所望するフレームに仕上がらなくなる。
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑み、作業者の熟練度に拘わらず容易に良好な穴あけ加工を行うことができる眼鏡レンズ加工装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
(1) 眼鏡レンズの周縁を加工する眼鏡レンズ加工装置において、被加工レンズを保持するレンズ回転軸と、被加工レンズに穴をあけるための穴あけ工具を回転する穴あけ工具回転軸と、前記レンズ回転軸に対する前記穴あけ工具回転軸の傾斜角を変更する傾斜角変更手段と、を備え、被加工レンズのフライス加工も行えることを特徴とする。
(2) (1)の眼鏡レンズ加工装置において、前記穴あけ工具はエンドミルに取替え可能であることを特徴とする。
(3) (2)の眼鏡レンズ加工装置は、前記レンズ回転軸に保持された被加工レンズと前記穴あけ工具とを相対的に移動する移動手段を有し、該移動手段は前記レンズ回転軸と垂直な第1方向に前記穴あけ工具を相対的に進退移動させる第1移動手段と、前記第1方向と垂直な面で前記レンズ回転軸を前記穴あけ工具に対して2次元的に相対的に移動させる第2移動手段とを備え、前記傾斜角変更手段は前記第1方向に垂直な方向に前記穴あけ工具の回転軸を回転する手段であることを特徴とする。
(4) (2)の眼鏡レンズ加工装置において、前記穴あけ工具の回転軸には溝堀り砥石又は面取り砥石の少なくとも1つが同軸に取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、作業者の熟練度に拘わらず容易に良好な穴あけ加工を行うことができる。穴あけ方向を自由に設定できるので、フレーム作成時のレンズのあおりを考慮したフレーム状態を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(1)全体構成
図1は本発明に係る眼鏡レンズ加工装置の外観構成を示す図である。1は眼鏡レンズ加工装置本体である。装置本体1には眼鏡枠測定装置2が接続されている。眼鏡枠測定装置2としては、例えば、本出願人による特開平5−212661号公報等に記載のものが使用できる。装置本体1上部には、加工情報等を表示するディスプレイ415、加工条件等の入力や加工のための指示を行う各種のスイッチを持つスイッチパネル部420が配置されている。402は加工室用の開閉窓である。
【0012】
図2は装置本体1の筐体内に配置される加工部の構成を示す斜視図である。ベース10上にはキャリッジ部700が搭載され、キャリッジ701が持つ回転軸(レンズチャック軸702L、702R)に挟持された被加工レンズLEは、砥石回転軸601aに取り付けられた砥石群602により研削加工される。601は砥石回転用モータである。砥石群602はガラス用粗砥石602a、プラスチック用粗砥石602b、ヤゲン及び平加工用の仕上げ砥石602cからなる。キャリッジ701の上方には、レンズ形状測定部500、520が設けられている。キャリッジ部700の後方には、穴あけ・面取り・溝掘り機構部800が配置されている。
【0013】
(2)各部の構成
(イ)キャリッジ部
キャリッジ部700の構成を、図2に基づいて説明する。キャリッジ701は、レンズLEを2つのレンズチャック軸702L、702Rにチャッキングして回転させることができる。また、ベース10に固定されて砥石回転軸601aと平行に延びるキャリッジシャフト703、704に対して摺動自在になっている。以下では、キャリッジ701を砥石回転軸601aと平行に移動させる方向をX軸、キャリッジ701の移動によりレンズチャック軸(702L、703R)と砥石回転軸601aとの軸間距離を変化させる方向をY軸として、レンズチャック機構及びレンズ回転機構、キャリッジ701のY軸移動機構、キャリッジ701のX軸移動機構を説明する。
【0014】
<レンズチャック機構及びレンズ回転機構>
キャリッジ701の左腕701Lにチャック軸702Lが、右腕701Rにチャック軸702Rが回転可能に同一軸線上で保持されている。右腕701Rの前面にはチャック用モータ710が固定されており、モータ710の回転軸に付いているプーリ711の回転がベルト712を介してプーリ713に伝わり、右腕701Rの内部で回転可能に保持されている図示なき送りネジ及び送りナットにより、チャック軸702Rが軸方向に移動することができ、レンズLEがチャック軸702L、702Rによって挟持される。
【0015】
キャリッジ左腕701Lの左側端部にはレンズ回転用のモータ720が固定されている。モータ720の軸に取付けられたギヤ721がギヤ722と噛合い、ギヤ722と同軸のギヤ723がギヤ724と噛合い、ギヤ724とギヤ725が噛合っている。ギヤ725を回転することにより、チャック軸702Lへモータ720の回転が伝達される。
【0016】
また、モータ720の回転は、キャリッジ701の後方で回転可能に保持されている回転軸728を介してキャリッジ右腕701R側に伝えられる。キャリッジ右腕701R右側端部には、キャリッジ左腕701Lの左側端部と同様なギヤ(キャリッジ左腕701Lの左側端部のギヤ721〜725と同様であるため詳細は省略)が設けられており、これらのギヤの回転はチャック軸702Rに伝えられる。この構成によりチャック軸702Lとチャック軸702Rは同期して回転する。
【0017】
<キャリッジのX軸移動機構、Y軸移動機構>
キャリッジシャフト703、704にはその軸方向に摺動可能なX軸移動支基740が設けられており、X軸移動支基740はキャリッジ701と共にX軸方向(シャフト703の軸方向)に移動する。移動アーム740の後部には、シャフト703と平行に延びる図示なきボールネジが取り付けられており、このボールネジはベース10に固定されたX軸移動用モータ745の回転軸に取り付けられている。これらの構成によりモータ745はX軸移動支基740と共にキャリッジ701をX軸方向に移動させることができる。
【0018】
X軸移動支基740には、Y軸方向に延びるシャフト756、757が固定されている。シャフト756、757にはキャリッジ701がY軸方向に移動可能取り付けられている。また、X軸移動支基740には取付板751によってY軸移動用モータ750が取り付けられており、モータ750の回転はプーリ752とベルト753を介して、取付板751に回転可能に保持されたボールネジ755に伝達される。ボールネジ755の回転によりキャリッジ701はY軸方向に移動する(すなわち、レンズチャック軸と砥石回転軸601aとの軸間距離を変化させる)。
【0019】
(ロ)レンズ形状測定部
図3はレンズ後面(レンズ後側屈折面)用のレンズ形状測定部500の構成を説明する図である。ベース10上に固設された支基ブロック100に取付支基501が固定され、取付支基501に取付けられたレール502上をスライダー503が摺動可能に取付けられている。スライダー503にはスライドベース510が取付けられ、スライドベース510には測定子アーム504が固定されている。また、取付支基501の側面には、ボールブッシュ508が嵌められ、測定子アーム504のガタどりの役目をしている。測定子アーム504の先端部には、L型の測定子ハンド505が取付けられ、測定子ハンド505の先端部には円板状の測定子506が付けられている。レンズ形状を測定するために、測定子506はレンズLEの後面に接触される。
【0020】
スライドベース510の下端部にはラック511が設けられている。ラック511は取付支基501側に固定されたエンコーダ513のピニオン512と噛み合っている。また、スライドベース510の移動はモータ516によって行なわれ、モータ516に取付けられたギヤ515、アイドルギヤ514、ピニオン512を介してモータ516の回転力がラック511に伝えられ、スライドベース510が左右に移動される。レンズ形状測定中、モータ516は常に一定の力で測定子506をレンズLEに押し当てている。エンコーダ513はスライドベース510の左右(X方向)の移動量(測定子506の移動位置)を検知する。この移動量とレンズチャック軸(702L、702R)の回転角度の情報により、レンズLEの後面形状が測定される。
【0021】
レンズ前面用のレンズ形状測定部520は、レンズ形状測定部500に対して左右対称であるのでその構成の説明は省略する。
【0022】
(ハ)穴あけ・面取り・溝掘り機構部
穴あけ・面取り・溝掘り機構部800の構成を図4〜6に基づいて説明する。図4は機構部800の立体図、図5(a)は左側面図、図5(b)は正面図、図6は図5(b)におけるAA断面図を示したものである。
【0023】
支基ブロック100には機構部800のベースとなる固定板801が固定されている。固定板801にはZ方向(XY軸平面に対して直交する方向)に延びるレール802が取付けられ、レール802上をスライダー803が摺動する。スライダー803には、移動支基804がネジ止めされている。移動支基804のZ方向の移動は、モータ805がボールネジ806を回転することによって行なわれる。
【0024】
移動支基804には、回転支基810が軸受け811によって回転可能に軸支されている。軸受け811は2個使用されており、2個の軸受け811の間隔を保つために、スペーサ812が入れられている。また、軸受け811の片側にはギヤ813が回転支基810に固定されている。ギヤ813はアイドルギヤ814を介して移動支基804に取付けられたモータ816の軸に固定されたギヤ815と繋がっている。つまり、モータ816を回転させると、回転支基810が軸受け811の軸を中心として回転する。
【0025】
回転支基810の先端部には、穴あけ・面取り・溝掘り加工用の工具を保持する回転部830が設けられている。回転部830は前述したモータ805により、レンズチェック軸に対して進退移動される。回転部830の回転軸831の中央部にはプーリ832が付けられ、回転軸831は2つの軸受け834により回転可能に軸支されている。また、回転軸831の一端にはドリル835がチャック機構837により取付けられ、他端にはスペーサ838、砥石部836がナット839により取付けられている。砥石部836は面取砥石836aと溝掘用砥石836bを一体的に形成して構成されている。溝掘用砥石836bの直径は約15mm程で、面取砥石836aは溝掘用砥石836bから先端側に向かって径が小さくなる円錐形状の加工斜面を持つ。面取砥石836aは円筒形状であっても良い。
【0026】
回転軸831を回転するためのモータ840は、回転支基810に取付けられた取付板841にネジ止めされている。モータ840の軸にはプーリ843が取付けられている。プーリ832とプーリ843の間には回転支基810内部でベルト833が掛けられ、モータ840の回転が回転軸831へ伝達される。
【0027】
次に、以上のような構成を持つ装置において、その動作を図7の制御系ブロック図を使用して説明する。ここでは、穴あけ加工と溝掘り加工を中心に説明する。
【0028】
まず、フレームの玉型形状(枠形状)を眼鏡枠測定装置2により測定する。リムレスフレームの場合、型板又はダミーレンズから玉型形状を得る。眼鏡枠測定装置2に得られた玉型形状データは、スイッチ421を押すことによりデータメモリ161に入力される。ディスプレイ415には玉型形状に基づく図形が表示され、加工条件を入力できる状態になる。操作者はスイッチパネル部410の各スイッチを操作して装用者のPD、光学中心の高さ等の必要なレイアウトデータを入力する。また、加工するレンズの材質や加工モードを入力する。穴あけ加工を行う場合は、加工モード選択用のスイッチ422により穴あけ加工のモードを選択する。溝掘り加工を行う場合は、加工モード選択用のスイッチ423により溝掘り加工のモードを選択する。面取り加工を行う場合は、スイッチ424を操作して面取りモードを選択する。
【0029】
必要な入力ができたら、レンズLEをレンズチャック軸702Lとレンズチャック軸702Rによりチャッキングした後、スタートスイッチ425を押して装置を作動させる。主制御部160は入力された玉型形状データとレイアウトデータとを基にして加工中心を中心とした動径情報を得た後、動径が砥石面に接する接触点の位置情報から加工補正情報を求め、これをメモリ161に記憶する。
【0030】
続いて、主制御部160は、加工シーケンスプログラムに従って、レンズ形状測定部500及び520を用いてレンズ形状の測定を実行する。主制御部160はモータ516を駆動して測定子アーム504を退避位置から測定位置に位置させる。主制御部160は動径情報に基づき、モータ750の駆動によりキャリッジ701を移動し、モータ516を駆動して測定子アーム504をレンズLEの後面屈折面に常に接触しているように軽い力で押さえつける。
【0031】
測定子505が後側屈折面に当接した状態で、モータ720によりレンズLEを回転するとともに、加工形状データである動径情報を基にモータ750を駆動してキャリッジ701を上下させる。こうしたレンズLEの回転及び移動に伴い、測定子505はレンズ後面形状に沿って左右方向に移動する。この移動量はエンコーダ513により検出されレンズLEの後面屈折面形状が計測される。レンズ形状の測定終了後は、主制御部160はモータ516を駆動させて測定子アーム504を退避させる。
【0032】
同様に、レンズ形状測定部520によってレンズLEの前側屈折面の形状が測定される。レンズの前側屈折面形状及び後側屈折面形状が得られると、両者からコバ厚情報を得ることができる。
【0033】
レンズ形状の測定が完了すると、主制御部160は加工条件の入力データに従ってレンズLEの加工を実行する。主制御部160は粗砥石602b上にレンズLEがくるようにキャリッジ701をモータ720により移動させた後、モータ750によりキャリッジ701を上下移動させて粗加工を行う。次に、仕上げ砥石602cの平坦部分にレンズLEを移動し、同様にキャリッジ701を上下移動させて仕上げ加工を行う。
【0034】
仕上げ加工が終了した後、穴あけ加工をする場合は、穴あけ・面取り・溝掘り機構部800を駆動して穴あけ加工に移る。
【0035】
穴あけ加工について説明する。図8(a)はレンズチャック軸(702L、702R)と平行な方向に穴あけする場合の例である。この場合、モータ815の駆動により、ドリル835の軸(回転軸831)をレンズチャック軸と平行(X方向)に位置させる。また、モータ750によるキャリッジ701の上下(Y方向)移動、モータ805によるドリル835の前後(Z方向)移動、モータ720によるレンズチャック軸(702L、702R)の回転により、レンズLEの穴あけ位置P1にドリル835の先端を位置させる。その後、ドリル835をモータ840によって回転させ、モータ745によりレンズLEをチャック軸方向(X軸方向)のドリル835側に移動することによって、穴あけ加工をする。
【0036】
なお、穴あけ位置P1の位置データは予めスイッチパネル部420のスイッチを操作して入力し、メモリ161に記憶しておく。穴あけ位置P1の位置データは、例えば、図10に示すように、型板又はダミーレンズの幾何中心O(叉はレンズLEの光学中心)に対する極座標(Δθ、Δd)として測定する。Δθの基準は眼鏡フレームを装用した状態での水平方向Hとする。位置データは直交座標系としても良い。主制御部160は、この穴あけ位置データを装置のX,Y,Zの各方向データに変換し、ドリル835の先端を位置させる。
【0037】
レンズLEに任意の方向に穴あけする場合は次のようにする。レンズLEに任意の方向で穴をあけるには、穴あけ方向に応じてレンズチャック軸(702L、702R)の回転によりレンズLEの配置角度を変える。例えば、図9(a)は、レンズLEの水平方向H(図10と同じく、眼鏡フレームを装用した状態での水平方向)が、装置のY方向に一致するようにレンズLEを回転させた場合である。この状態で、図8(b)に示すように、装置のX方向に対して角度α1だけドリル835の回転軸を傾斜させれば、レンズLEの水平方向Hと同じ方向に角度α1だけ傾けた穴あけが行える。
【0038】
図9(b)はレンズLEの水平方向Hが装置のZ方向に一致するようにレンズLEを回転させた場合である。この状態で、図8(b)と同じように、角度α1だけドリル835の回転軸を傾斜させれば、レンズLEの水平方向Hと直交する方向に角度α1だけ傾けた穴あけが行える。
【0039】
図9(c)は、図9(a)に対して反時計方向に角度θ1だけレンズLEを回転した場合である。この場合、レンズLEの回転角θ1方向に、上記と同じくドリル835の回転軸の角度α1だけ傾けた穴あけを行えることになる。なお、図9(b)の場合には、図9(a)に対して反時計方向に角度θ1=90°だけ回転したものとなる。
【0040】
穴あけ方向のデータは、ドリル835の回転軸の角度α1とレンズLEの回転角θ1とにより管理することができる。この穴あけ方向のデータと穴あけ位置P1の位置データは、予めスイッチパネル部420のスイッチを操作して入力することにより、メモリ161に記憶される。また、穴あけデータはツーポイントフレームの設計データを得ることで、これをパーソナルコンピュータ等の通信手段により入力して利用することもできる。
【0041】
穴あけ加工時には、主制御部160は穴あけ方向のデータに基づいてモータ720によりレンズLEの回転角を制御すると共に、モータ816の回転によりドリル835の角度α1を制御する。また、穴あけ位置のデータに基づいてモータ750によりキャリッジ701の上下(Y方向)移動、モータ805によるドリル835の前後(Z方向)移動を制御し、レンズLEの穴あけ位置P1にドリル835の先端を位置させる。その後、ドリル835をモータ840によって回転させ、キャリッジ701をモータ745によりX軸方向、及びモータ750によりY軸方向に移動することによって、穴あけ加工をする。すなわち、ドリル835の回転軸の軸方向(傾斜角α1方向)にキャリッジ701をXY移動することにより、穴あけ加工を行う。本実施形態の装置では、キャリッジ701のY軸方向を直線移動の機構としたので、回旋移動の場合に比べて穴あけ加工の制御が容易となる。
【0042】
次に、レンズ前面の法線方向に穴あけする場合を説明する。この場合は、図11に示すように、穴あけ位置P1の周囲のポイントQ1、Q2、Q3、Q4(少なくとも3点)をレンズ形状測定部520により測定する。この測定結果から穴あけ位置P1における接平面が近似的に求まり、法線方向はP1における接平面Sの垂直方向として算出される(図11(b)参照)。算出された穴あけ方向のデータはメモリ161に記憶される。なお、レンズ前面形状が予め分かっている場合はそのデータを通信手段を介して入力しておき、これと穴あけ位置データとにより法線方向が算出できる。穴あけ加工時には、この法線方向のデータに基づいてドリル835の回転軸の角度とレンズLEの回転を設定する。レンズLEの穴あけ位置P1にドリル835の先端を位置させた後、キャリッジ701のXY方向移動によってレンズLEを移動させることにより、レンズLEの位置P1における法線方向の穴あけ加工が行われる。
【0043】
なお、以上説明したような穴あけ加工の方法を利用し、ドリル835をエンドミルに取替えることにより、レンズLEにフライス加工や長穴等の加工をすることができる。例えば、長穴の場合、長穴の長軸方向に合わせて、レンズ加工中にキャリッジ701をXY方向、又はエンドミルの回転部830をZ方向に移動することによって長穴を加工することができる。
【0044】
また、砥石群602によるレンズ研削中は、加工室の中はレンズの破片が飛散するので、ドリル835を保護することが好ましい。そのため、レンズの破片が飛散しても当たらない様に退避位置でドリル835にカバーを設けるか、図14に示すように、退避位置で穴あけ・面取り・溝掘り加工をする回転部830を格納する凹状格納部900を加工室壁面に設けている。
【0045】
次に、溝掘り加工について説明する。主制御部160はキャリッジ701を上昇させた後、退避位置に置かれている溝掘砥石836bが加工位置に来るようにモータ805を回転させる。その後、キャリッジ701の上下(Y方向)移動と軸方向(X方向)への移動、及びモータ816による溝掘用砥石836bの回転により、図12に示す様にレンズLEを溝掘用砥石836b上に位置させ、溝掘り加工用データに基づいてキャリッジ701の移動、レンズLEの回転、及び溝掘用砥石836bの回転軸の傾斜角度βを制御して加工を行う。
【0046】
溝加工用データは、レンズLEの動径情報とレンズ形状の測定結果とから予め主制御部160が求めておく。キャリッジ701のY方向移動及びX方向移動の制御データは、溝掘軌跡データに基づいて行う。溝掘軌跡データとは溝掘り加工されるレンズLEにおける加工溝の描く軌跡であり、玉型形状から溝深さを加味した動径情報(動径角、動径長)とレンズチャック軸方向の位置情報とで現される。レンズチャック軸方向の位置データは、レンズ形状の測定データによる前側屈折面形状及び後側屈折面形状からコバ厚が分かるので、これに基づきヤゲン位置の決定方法と同じ要領で決定することができる。例えば、レンズコバ厚をある比率で定める他、溝位置をレンズ前面のコバ位置より一定量後面側にずらし、レンズ前面カーブに沿わせるようにする等の各種の方法で行うことができる。
【0047】
ここで、溝掘用砥石836bの回転軸の傾斜角度βを固定のままレンズ全周の溝掘り加工を行うと、溝幅が広く加工されてしまう部分が現われる。そこで、この対応として次のようにする。図13に示すように、溝掘軌跡のカーブから仮定される球面を求め、溝掘り軌跡の各加工点における法線方向を求める。図13上のN1,N2は、それぞれ加工点K1,K2における法線方向を示す。そして、この法線方向に溝掘用砥石836bの回転軸を傾けることにより、各加工点の動径角に対応させて溝掘用砥石836bの回転軸の傾斜角度βのデータを得る。各加工点は、溝掘軌跡のカーブから仮定される球面に砥石外周が全て接するという条件の下に、砥石径補正(特開平5−212661号等を参照)を立体的に行って求める。これにより溝幅の広がりを抑えることができる。
【0048】
なお、図13における溝掘用砥石836bの進退移動位置は、溝掘軌跡のカーブから仮定される球の中心がレンズチャック軸上にあるものとし、レンズチャック軸が移動するXY軸平面上に溝掘用砥石836bの回転軸を位置させた場合である。溝掘軌跡のカーブから仮定される球の中心がレンズチャック軸から偏位している場合には、その偏位に応じてZ方向における溝掘用砥石836bの進退移動の位置を変えるようにモータ805を制御することにより、溝幅が広く加工されることを抑えることが可能となる。
【0049】
また、溝掘砥石の外径が大きすぎると、溝掘砥石幅よりも幅広く加工されてしまう傾向にある。本装置では、溝掘用砥石836bの外径が15mm程度としているので、溝掘砥石幅よりも幅広く加工されてしまうことが避けられる。
【0050】
溝加工は、それぞれの加工点における溝掘用砥石836bの傾斜角度を変えると共に、キャリッジ701のY軸方向及びX軸方向の移動により、レンズLEを回転しながら、回転する溝掘用砥石836bに押し当てて行われる。
【0051】
面取りモードにした場合、穴あけ加工又は溝加工が終了すると、主制御部160は面取り加工データに基づいてキャリッジ701、穴あけ・面取り・溝掘り機構部800を移動制御して面取り加工を行う。面取り加工は、砥石部836の面取砥石836aをレンズコバの角部に当てて研削する。この面取加工においても、面取砥石836aを備える回転軸831の傾斜角度を変えることができるので、レンズコバの角部に施す面取角が任意に設定可能である。さらに、図15に示すように、面取砥石836aの加工面を角度M1,M2,M3にて傾け、面取角を複数段階に変化させることにより、同一動径角のレンズ角部に複数段の斜面角度加工を実現することができる。
【0052】
加工時は、溝掘り加工と同様な加工位置に面取砥石836aを配置し、面取角の設定に応じて回転軸831の傾斜角度βを制御する。レンズコバの角部の位置は、玉型形状に基づくレンズ形状の測定から得ることができる。面取砥石836aの加工面を角度M1,M2,M3毎に傾けたときのそれぞれの加工データを算出し、その加工データに応じてY軸方向又はX軸方向のキャリッジの移動を制御する。多段の斜面角度加工を行うときは、各角度設定毎にレンズLEを回転させる。こうした複数段の斜面角度加工を利用すれば、レンズコバの角部をデザイン的な形状に仕上げることもできる。
【0053】
以上説明した実施形態においては、被加工レンズLEを挟持して回転するチャック軸を持つキャリッジ701をXY方向に移動するタイプの装置について説明したが、特開平9−253999号公報に示されたように、周縁加工用の砥石側をXY方向に移動して加工するタイプの装置であっても良い。こうした装置の場合、XY方向へのレンズLEの移動を行わないので、穴あけ・面取り・溝掘り機構部800側を相対的にXY方向に移動する移動機構を設けた構成とする。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る眼鏡レンズ加工装置の外観構成を示す図である。
【図2】装置本体の筐体内に配置される加工部の構成を示す斜視図である。
【図3】レンズ形状測定部を正面から見たときの図である。
【図4】穴あけ・面取り・溝掘り機構部の構成を示す斜視図である。
【図5】穴あけ・面取り・溝掘り機構部の構成を示す正面図、左側面図である。
【図6】穴あけ・面取り・溝掘り機構部の構成を示す断面図である。
【図7】本装置の制御系ブロック図である。
【図8】ドリルを任意の角度でレンズに穴あけ加工することを示す図である。
【図9】任意の角度でレンズに穴あけすることを説明する図である。
【図10】穴あけ位置の位置データを説明する図である。
【図11】レンズ前面の法線方向に穴あけすることを説明する図である。
【図12】レンズに溝掘り加工することを示す図である。
【図13】溝掘り軌跡のカーブから仮定される球面を求め、各加工点における法線方向に溝掘り用砥石の回転軸を傾けることを説明する図である。
【図14】穴あけ・面取り・溝掘り加工をする回転部が格納されていることを示す図である。
【図15】面取り角を複数段階に変化させて、多段の面取り加工することを説明する図である。
【符号の説明】
【0055】
1 眼鏡レンズ加工装置本体
160 主制御部
161 メモリ
500 レンズ形状測定部
520 レンズ形状測定部
602 砥石群
700 キャリッジ部
701 キャリッジ
720 モータ
740 X軸移動支基
745 X軸移動用モータ
750 Y軸移動用モータ
755 ボールネジ
800 穴あけ・面取り・溝掘り機構部
805 モータ
806 モータ
813 ギヤ
814 アイドルギヤ
815 ギヤ
816 モータ
830 回転部
831 回転軸
835 ドリル
836 砥石部
836a 面取砥石
836b 溝掘用砥石
840 モータ
900 凹状格納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズの周縁を加工する眼鏡レンズ加工装置において、被加工レンズを保持するレンズ回転軸と、被加工レンズに穴をあけるための穴あけ工具を回転する穴あけ工具回転軸と、前記レンズ回転軸に対する前記穴あけ工具回転軸の傾斜角を変更する傾斜角変更手段と、を備え、被加工レンズのフライス加工も行えることを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項2】
請求項1の眼鏡レンズ加工装置において、前記穴あけ工具はエンドミルに取替え可能であることを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項3】
請求項2の眼鏡レンズ加工装置は、前記レンズ回転軸に保持された被加工レンズと前記穴あけ工具とを相対的に移動する移動手段を有し、該移動手段は前記レンズ回転軸と垂直な第1方向に前記穴あけ工具を相対的に進退移動させる第1移動手段と、前記第1方向と垂直な面で前記レンズ回転軸を前記穴あけ工具に対して2次元的に相対的に移動させる第2移動手段とを備え、前記傾斜角変更手段は前記第1方向に垂直な方向に前記穴あけ工具の回転軸を回転する手段であることを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項4】
請求項2の眼鏡レンズ加工装置において、前記穴あけ工具の回転軸には溝堀り砥石又は面取り砥石の少なくとも1つが同軸に取り付けられていることを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−38407(P2007−38407A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300862(P2006−300862)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【分割の表示】特願2001−343726(P2001−343726)の分割
【原出願日】平成13年11月8日(2001.11.8)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】