説明

着磁パルサリング及びその製造方法、並びに転がり軸受装置

【課題】磁石部材と支持部材と間の接着力が弱まったとしても、支持部材に対する磁石部材の位置ずれ等を防止することができる着磁パルサリングを提供する。
【解決手段】着磁パルサリング20は、環状のフランジ部11cを有し、回転体9に一体回転可能に固定される支持部材11と、フランジ部11cの一側面に接着剤30により接着され、多数の磁極が周方向に所定間隔で配列されている合成樹脂製の環状の磁石部材15と、を備えている。さらに、着磁パルサリング20は、インサート成形によって磁石部材15に一体化されるとともに、フランジ部11cに係止することによって磁石部材15をフランジ部11cに固定する固定部材32を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪等の回転速度(回転数)を検出するためのセンサ装置を構成する着磁パルサリング及びその製造方法、並びにこの着磁パルサリングを備えた転がり軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)を備えた自動車等の車両には、車輪の回転速度を検出するためのセンサ装置が備えられている。このセンサ装置としては、車両に車輪を取り付けるためのハブユニットの内輪側(回転側)に設けられた着磁パルサリングと、外輪側(固定側)に設けられた磁気センサとを備えたものが知られている。
【0003】
また、下記特許文献1に記載された着磁パルサリングは、環状の支持部材と、この支持部材に接着された磁石部材とから構成されている。支持部材は、金属材料によって形成されており、内輪の外周面に嵌合される円筒部と、この円筒部の軸方向外端部から径方向外方へ屈曲して延びるフランジ部とを有して断面略L字形状に形成されている。磁石部材は、合成樹脂材料によって形成され、支持部材のフランジ部の軸方向外側面に接着剤によって接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−3223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された着磁パルサリングのように、支持部材が金属材料によって形成され、磁石部材が硬質樹脂材料によって形成されている場合、両者は当然に熱膨張率が異なるため、例えば、着磁パルサリングか過酷な温度環境下(例えば、−40℃〜120℃外の環境下)で使用されると、磁石部材と支持部材との熱変形量の差(熱膨張差、熱収縮差)によって接着剤の接着力が弱まり、支持部材に対して磁石部材が位置ずれしたり、支持部材から磁石部材が剥離ないし脱落したりする可能性がある。また、このような位置ずれや剥離等を防止するために磁石部材と支持部材との接着強度を高めると、支持部材と磁石部材との熱変形量の差によって磁石部材に大きな応力が発生し、特に、低温環境下で磁石部材が脆化すると前記応力によって破損しやすくなる可能性がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、磁石部材と支持部材と間の接着力が弱まったとしても、支持部材に対する磁石部材の位置ずれや剥離等を防止することができる着磁パルサリング及びその製造方法、並びに転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、環状のフランジ部を有し、回転体に一体回転可能に固定される支持部材と、前記フランジ部の一側面に接着剤により接着され、多数の磁極が周方向に所定間隔で配列されている合成樹脂製の環状の磁石部材と、を備えている着磁パルサリングであって、インサート成形によって前記磁石部材に一体化されるとともに、前記フランジ部に係止することによって前記磁石部材を前記フランジ部に固定する金属製の固定部材を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、着磁パルサリングが温度変化の激しい環境下で使用されることによって磁石部材と支持部材とが異なる熱変形量で変形し、両者間の接着剤の接着力が弱まったとしても、磁石部材は固定部材によってもフランジ部に固定されるので、フランジ部に対する磁石部材の位置ずれや剥離等を防止することができる。また、固定部材は、磁石部材に対してインサート成形により一体化されるので、磁石部材よりも強度の高い金属材料によって形成することができ、フランジ部に対して強固に磁石部材を固定することが可能となる。
【0009】
(2)前記固定部材は、前記フランジ部の径方向端部に配置され、当該フランジ部に対する前記磁石部材の径方向移動を規制する径方向規制部と、この径方向規制部の軸方向の一端部に設けられ、かつ前記磁石部材に固着される被固着部と、前記径方向規制部の軸方向の他端部に設けられ、かつ径方向に弾性変形可能であるとともに当該弾性変形によって前記フランジ部の他側面側に係止可能な係止部と、を有していることが好ましい。
この構成によれば、固定部材の軸方向他端部に設けられた係止部がフランジ部の他側面側に係止することによって、フランジ部からの磁石部材の離反を防止することができ、また、径方向規制部がフランジ部の径方向端部に当接することによって、フランジ部に対する磁石部材の径方向の位置ずれを防止することができる。また、固定部材の係止部は、径方向への弾性変形によってフランジ部に係止可能であるので、係止部の塑性加工等を伴うことなくフランジ部に対して係止部を容易に係止させることができる。
【0010】
(3)前記係止部は、周方向に間隔をあけて複数設けられていることが好ましい。
このような構成によって、各係止部を径方向に弾性変形させやすくすることができ、フランジ部に対して係止部を係止させる作業を容易に行うことができる。
【0011】
(4)前記磁石部材、前記固定部材、又は前記フランジ部に、前記磁石部材と前記フランジ部との間の接着剤の膜厚を設定するための隙間を形成する隙間保持部が設けられていることが好ましい。
このような構成によって、磁石部材とフランジ部との間の接着剤の膜厚を確実に確保することができる。そのため、磁石部材とフランジ部との熱変形量の差を接着剤によって吸収することが可能となる。
【0012】
(5)本発明に係る着磁パルサリングの製造方法は、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の着磁パルサリングの製造方法であって、前記固定部材を金型に挿入した状態で当該金型に前記磁石部材の成形材料を充填することによって、前記固定部材及び前記磁石部材をインサート成形により一体化し、次いで、前記固定部材が一体化された前記磁石部材を前記フランジ部に接着しつつ、当該フランジ部に前記固定部材を係止させることを特徴とする。
【0013】
(6)本発明に係る転がり軸受装置は、内輪と、この内輪の径方向外方に配置される外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動可能に設けられる複数の転動体と、前記内輪の外周面に取り付けられる上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の着磁パルサリングと、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁石部材と支持部材と間の接着力が弱まったとしても、支持部材に対する磁石部材の位置ずれや剥離等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る着磁パルサリングを備えた転がり軸受装置を示す断面図である。
【図2】図1に示される着磁パルサリングを拡大して示す断面図である。
【図3】着磁パルサリングの製造工程を示す説明図である。
【図4】固定部材の外周部の一部を示す平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る着磁パルサリングを拡大して示す断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る着磁パルサリングを拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る着磁パルサリングを備えた転がり軸受装置を示す断面図である。図2は、図1における着磁パルサリングを示す断面図である。なお、これらの図における左右方向を軸方向といい、上下方向を径方向という。また、軸方向に関して、転がり軸受装置1の内部から外部へ向かう側(又は方向)を軸方向外側(又は軸方向外方)といい、転がり軸受装置1の外部から内部へ向かう側(又は方向)を軸方向内側(又は軸方向内方)という。
【0017】
図1に示されるように、この転がり軸受装置1は、車両の車輪が取り付けられる内輪9と、この内輪9の径方向外方に設けられた外輪3と、内輪9と外輪3との間に設けられた複列の転動体4、5とを備えている。
【0018】
内輪9は、内軸2と内輪構成部材6とからなり、内軸2は車両アウタ側(図1における左側)の端部に車輪側部材(図示せず)を取り付けるためのフランジ2cを有している。内軸2の車両インナ側(図1における右側)には、小径部2dが形成されており、その小径部2dに内輪構成部材6が外嵌されている。内輪構成部材6はその外周面に車両インナ側の転動体5用の内側軌道6aが形成されている。また、内軸2の軸方向中間部の中径部2eに車両アウタ側の転動体4用の内側軌道2aが形成されている。更に、内軸2は、車両インナ側の端部に、径方向外方へ拡開状に折曲されたかしめ部2fを有しており、このかしめ部2fによって内輪構成部材6が内軸2に対して抜け止め固定されている。
【0019】
外輪3は、複列の転動体4、5を介して内輪9と同軸心状に設けられている。この外輪3の内周面には、複列の転動体4、5用の外側軌道3aが形成されている。また、外輪3の外周面にはフランジ3cが形成されており、このフランジ3cが図示しない車体側部材に取り付けられることによって、転がり軸受装置1が車体側部材に固定される。したがって、外輪3が固定側とされ、内輪9が軸心回りに回転する回転側(回転部材)とされる。そして、内輪9と外輪3との間の環状空間Rを封止するために、軸方向両端部に環状の密封装置7が設けられている。そして、車両インナ側(右側)の密封装置7に、本発明に係る着磁パルサリング20が設けられている。
【0020】
図2に示されるように、車両インナ側の密封装置7は、外輪3の内周面3bと内輪構成部材6の外周面6bとの間に設けられ、転動体4、5側である転がり軸受装置1の内部から外部への潤滑剤の漏洩と、転がり軸受装置1の外部から転動体4、5側への泥水等の異物の侵入を防止する。
【0021】
密封装置7は、外輪3に固定されるシール部材10と、内輪構成部材6に固定されるスリンガ11とを備えている。
シール部材10は、芯金12とシール部13とからなる。芯金12は、外輪3に内嵌される円筒部12aと、この円筒部12aの軸方向内側(図2における左側)の端部12bから径方向内方へ屈曲して延びるフランジ部12cとからなり、断面略L字型に形成されている。芯金12は全体が環状となっており、例えば、冷延鋼板であるSPCC,SPCD,SPCE等をプレス加工することで形成される。そして、主として芯金12の円筒部12aの外周面及びフランジ部12cの軸方向外側(図2における右側)の側面には、ゴム等の弾性体からなるシール部13が芯金12と一体となるよう固着されている。
【0022】
スリンガ11は、内輪構成部材6の外周面6bに外嵌された円筒形状の円筒部11aと、この円筒部11aの軸方向外側の端部11bから径方向外方へ略垂直に屈曲して延びるフランジ部11cとからなり、断面略L字型に形成されている。このスリンガ11は、全体が環状となっており、例えばステンレス鋼等の金属板をプレス加工(絞り加工)することで形成される。また、スリンガ11の円筒部11aが芯金12の円筒部12aに間隔をあけて対向し、スリンガ11のフランジ部11cが芯金12のフランジ部12cに間隔をあけて対向するように、密封装置7が転がり軸受装置1に組み付けられている。
【0023】
シール部材10のシール部13は、芯金12のフランジ部12cの径方向内端部近傍に位置する基部13aからスリンガ11の円筒部11aの外周面に向けて延び、当該外周面に摺接するラジアルリップ部13bと、基部13aからスリンガ11のフランジ部11cの軸方向内側の側面に向けて延び、当該側面に摺接するアキシャルリップ部13cとを備えている。
【0024】
密封装置7のスリンガ11は、内輪9の回転速度(回転数)を検出するためのセンサ装置19の一構成要素としての機能も有している。具体的に、センサ装置19は、着磁パルサリング20とセンサ18とからなる。着磁パルサリング20は、前述したスリンガ11によって構成される支持部材と、この支持部材11のフランジ部11cに設けられた磁石部材15とからなり、この磁石部材15の軸方向外側の側面(図2における右側の側面;以下、「外側面」ともいう)15aに対向するようにセンサ18が設けられている。センサ18は、着磁パルサリング20の回転に伴う磁界の変化を検出し、その検出信号を図示しない車両のECU等の制御部に出力するように構成されている。
【0025】
磁石部材15は円環状の磁石であり、例えば、PA12、PA6、PPS等の熱可塑性樹脂母材にフェライト系磁石等の粉末を混合したプラスチック磁石等が用いられる。また、磁石部材15は、N極とS極とが周方向に交互に着磁されている。本実施形態の磁石部材15は、その軸方向内側の側面(図2における左側の側面;以下、「内側面」ともいう)15bが、支持部材11のフランジ部11cに接着剤30によって固定されている。
【0026】
磁石部材15と支持部材11とは材質が異なるため、熱膨張率も当然に異なり、温度変化の激しい環境下で使用されると、両者の熱変形量の差(熱膨張差又は熱収縮差)によって接着剤30の接着力が弱まる可能性がある。そのため、接着剤30は、好ましくは磁石部材15と支持部材11との熱変形量の差を吸収することが可能な程度の弾性を有するものが使用される。また、接着剤30は、好ましくは磁石部材15と支持部材11との間の密封性を確保し、当該間への水分の浸入を防止することができるシーリング剤としての機能を有するものが使用される。例えば、接着剤30には、シリコーン樹脂系の弾性接着剤を使用することができる。この接着剤30の膜厚は、磁石部材15と支持部材11との熱変形量の差を吸収する機能を発揮するうえで、50μm〜500μmとすることが好ましい。
【0027】
磁石部材15の外周部には、円環状の固定部材32が固定されている。この固定部材32は、接着剤30とともに支持部材11のフランジ部11cに対して磁石部材15を固定するために設けられている。固定部材32は、フランジ部11cの径方向外端部に配置される円筒部(径方向規制部)33と、この円筒部33の軸方向外端部(図2における右端部)において径方向内方に屈曲し、磁石部材15の内部に埋設された状態で固着される被固着部34と、円筒部33の軸方向内端部(図2における左端部)において径方向内方へ突出し、フランジ部11cの軸方向内側面側に係止する係止部35と、を有している。
【0028】
固定部材32は、磁石部材15よりも強度の高い材料、例えば、SPCC、SUS430、SUS304等の金属製の板材から形成されている。また、固定部材32の肉厚は、0.1〜0.3mmとすることができる。この固定部材32は、磁石部材15を成形する際に被固着部34がインサートされることによって磁石部材15と一体化されている。
係止部35は、円筒部33の軸方向内端部を略くの字状に屈曲させることによって形成されている。また、係止部35は、図4に示されるように、周方向に間隔をあけて複数設けられており、それぞれが径方向に弾性変形可能(弾性的に拡径可能)に構成されている。
【0029】
図3は、本実施形態の着磁パルサリングの製造工程を示す説明図である。
着磁パルサリング20における磁石部材15は金型によって成形される。具体的には、金型に固定部材32を挿入した状態で、当該金型に磁石部材15の成形材料を充填することによって、磁石部材15と固定部材32とがインサート成形により一体化される。そして、支持部材11に磁石部材15を取り付けるには、まず、支持部材11のフランジ部11cの軸方向外側面に接着剤30を塗布する(工程(I))。そして、固定部材32が一体化された磁石部材15をフランジ部11cの軸方向外側面に接着する(工程(II))。このとき、固定部材32の係止部35が径方向外方へ弾性変形することによってフランジ部11cの径方向外端部を乗り越え、径方向内方へ弾性復帰することによって当該フランジ部11cの軸方向内側面側に係止する。これにより、磁石部材15がフランジ部11cに接着されると同時に固定部材32によっても強固に固定される。
【0030】
したがって、本実施形態の着磁パルサリング20は、例えば過酷な温度環境下で使用されることによって、磁石部材15と支持部材11との熱変形量の差に起因して両者間の接着剤30の接着力が弱まったとしても、固定部材32がフランジ部11cに係止していることによって支持部材11に対して磁石部材15が位置ずれしたり、支持部材11から磁石部材15が剥離ないし脱落したりしてしまうことがない。すなわち、固定部材32の係止部35がフランジ部の軸方向内側面側に係止することによって、磁石部材15がフランジ部11cから軸方向に離反することが防止され、固定部材32の円筒部33がフランジ部11cの径方向外端部に当接することによって、磁石部材15がフランジ部11cに対して径方向に位置ずれすることが防止される。したがって、着磁パルサリング20としての機能を好適に維持し、内輪9の回転速度を適切に検出することができる。
【0031】
また、固定部材32は、係止部35を径方向に弾性変形させることによって容易にフランジ部11cに係止させることができる。また、係止部35は、周方向に間隔をあけて複数設けられているので、各係止部35を径方向に弾性変形しやすくすることができ、これによっても支持部材11に対して係止部35を容易に係止させることができる。また、固定部材32はインサート成形によって磁石部材15に一体化されるため、磁石部材15よりも強度の高い金属材料により形成することができ、フランジ部11cに対して磁石部材15を強固に固定することが可能となる。
【0032】
また、上述のように、磁石部材15を支持部材11に接着するための接着剤30として、シリコーン樹脂系等の弾性接着剤を用いた場合、磁石部材15とフランジ部11cとの熱変形量の差を吸収することが可能となるので、当該差に起因して磁石部材15に大きな応力が発生するのを防止することができ、磁石部材15の破損を防止することができる。
【0033】
なお、本実施形態の磁石部材15には、フランジ部11cに対向する側面15bに突起37が設けられている。この突起37は、磁石部材15とフランジ部11cとの間の接着剤30の膜厚を確保するため、両者15,11cの隙間を保持する隙間保持部として機能している。そして、この突起37により接着剤30の膜厚が十分に確保されることによって、磁石部材15とフランジ部11cとの熱変形量の差を好適に吸収することが可能となっている。なお、突起37は、フランジ部11cの軸方向外側面や固定部材32の円筒部33の内周面に設けることも可能である。
【0034】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る着磁パルサリングを拡大して示す断面図である。
本実施形態の着磁パルサリング20は、固定部材132の形状が第1の実施形態とは異なっている。具体的には、固定部材132の被固着部134は、円筒部133に対して径方向内方へ屈曲しておらず、円筒部133から軸方向外方へ向けて真っ直ぐに延長された形状となっている。また、被固着部134には、周方向に複数の孔134aが形成されており、この孔134aに磁石部材15が入り込むことによって被固着部134と磁石部材15との結合強度が高められている。
【0035】
本実施形態の着磁パルサリング20は、第1の実施形態と同様に、固定部材132と磁石部材15とがインサート成形されることによって一体化され、その後、磁石部材15をフランジ部11cに接着しつつ、固定部材132の係止部135をフランジ部11cの軸方向内側面側へ係止させることによって製造される。
本実施形態におけるその他の作用効果は第1実施形態と略同様である。
【0036】
図6は、本発明の第3の実施形態に係る着磁パルサリングの断面図である。
本実施形態の着磁パルサリング20は、磁石部材15の内周部に対して固定部材232がインサート成形により固着されている。また、本実施形態では、固定部材232が、磁石部材15に対し、周方向に間隔をあけて複数設けられるか、或いは、被固着部234が環状に形成され、円筒部(径方向規制部)233及び係止部235が周方向に間隔をあけて複数形成されている。そして、支持部材11におけるフランジ部11cの内周部(円筒部11aとの境界部)には、周方向に間隔をあけて複数の孔40が形成されており、この孔40に係止部235及び円筒部233を挿入し、円筒部233をフランジ部11cの径方向内端部に配置するとともに、係止部235を径方向に弾性変形させることによってフランジ部11cの内側面側に係止している。
したがって、本実施形態においても上記実施形態と同様の効果を奏する。ただし、本実施形態では、係止部235を係止させるためにフランジ部11cに孔40を形成する必要があり、また、固定部材232を複数設けるか、円筒部233を複数設ける必要がある。したがって、これらの点に関しては、上記第1及び第2の実施形態の方がより有利であるといえる。
【0037】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において適宜変更できるものである。
例えば、支持部材11と磁石部材15とを接着する接着剤30は、フェノール樹脂系やエポキシ樹脂系のものを使用することができる。また、第1,第2の実施形態において、固定部材32、132の係止部35、135は、周方向に略連続した形状に形成することができる。この場合、係止部35、135の径方向への弾性変形を可能にするために、周方向の適所に切れ目(切り欠け)を設けることが好ましい。
また、第1,第2の実施形態において、固定部材32、132は、円環状に形成されず、周方向に分断された構成であってもよく、磁石部材15の周方向に間隔をあけて複数の固定部材32、132が設けられていてもよい。
また、第1,第3の実施形態における固定部材32、232の被固着部34、234に対して、第2の実施形態で説明したような孔134aを形成し、この孔134aに磁石部材15を入り込ませることによって接着強度を高めてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1:転がり軸受装置、3:外輪、4:転動体、5:転動体、9:内輪(回転部材)、11:スリンガ(支持部材)、11c:フランジ部、15:磁石部材、20:着磁パルサリング、30:接着剤、32:固定部材、33:円筒部(径方向規制部)、34:被固着部、35:係止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のフランジ部を有し、回転体に一体回転可能に固定される支持部材と、
前記フランジ部の一側面に接着剤により接着され、多数の磁極が周方向に所定間隔で配列されている合成樹脂製の環状の磁石部材と、を備えている着磁パルサリングであって、
インサート成形によって前記磁石部材に一体化されるとともに、前記フランジ部に係止することによって前記磁石部材を前記フランジ部に固定する金属製の固定部材を備えていることを特徴とする着磁パルサリング。
【請求項2】
前記固定部材は、
前記フランジ部の径方向端部に配置され、当該フランジ部に対する前記磁石部材の径方向移動を規制する径方向規制部と、
この径方向規制部の軸方向の一端部に設けられ、かつ前記磁石部材に固着される被固着部と、
前記径方向規制部の軸方向の他端部に設けられ、かつ径方向に弾性変形可能であるとともに当該弾性変形によって前記フランジ部の他側面側に係止可能な係止部と、
を有している請求項1に記載の着磁パルサリング。
【請求項3】
前記係止部が周方向に間隔をあけて複数設けられている請求項2に記載の着磁パルサリング。
【請求項4】
前記磁石部材、前記固定部材、又は前記フランジ部に、前記磁石部材と前記フランジ部との間の接着剤の膜厚を設定するための隙間を形成する隙間保持部が形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の着磁パルサリング。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の着磁パルサリングの製造方法であって、
前記固定部材を金型に挿入した状態で当該金型に前記磁石部材の成形材料を充填することによって、前記固定部材及び前記磁石部材をインサート成形により一体化し、
次いで、前記固定部材が一体化された前記磁石部材を前記フランジ部に接着しつつ、当該フランジ部に前記固定部材を係止させることを特徴とする着磁パルサリングの製造方法。
【請求項6】
内輪と、
この内輪の径方向外方に配置される外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に転動可能に設けられる複数の転動体と、
前記内輪の外周面に取り付けられる請求項1〜4のいずれか1項に記載の着磁パルサリングと、を備えていることを特徴とする転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−68471(P2013−68471A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206129(P2011−206129)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】