説明

着色レーザーマーキング方法

【課題】 Nd−YAGレーザーにより透明ポリアミド樹脂成形品の表面ではなく内部にレーザーマーキングを行うこと。
【解決手段】 透明ポリアミド樹脂成形品を加工対象としQスイッチによるパルス状のNd−YAGレーザーにおいて、マーキングする文字、図形、記号等の大きさにより、レーザー強度、操作条件等を適合させレーザーマーキングする。さらにそのマーキングパターン上にレーザー強度、操作条件等を変えて重複してレーザーマーキングすることにより透明ポリアミド樹脂成形品の内部に視認性のあるレーザーマーキングすることを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nd−YAGレーザーによる透明ポリアミド樹脂成形品内部への着色マーキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーは太陽光などの一般の光と異なり、(1)単色性(2)指向性(直進性)(3)可干渉性(コヒーレント)を有している。このレーザーの性質を利用し、レーザーは情報通信、機械加工、外科手術用メス等広く利用されている。レーザーをつくるもとになる物質を媒質というが、レーザーの媒質はその用途により固体、液体、気体がある。材料加工用の大出力レーザーは、媒質が気体の炭酸ガスレーザーであり、外科手術用レーザーメスには媒質が固体であるYAG(イットリウムアルミニウムガーネット)が使われている。なおレーザー(LASER)は、レーザー光とも言われるが、ここでは単にレーザーあるいはレーザービームとする。
【0003】
レーザーにより部品の表面に文字や記号を刻みこむ方法をレーザーマーキングといい、表面に溝を入れる彫刻形、表面を変質・酸化させる変色形、表面の薄膜のみを除去する薄膜除去形などがある。このマーキングでは、集光されたレーザーのスポット径を、刻む文字の太さとして、コンピューターで制御して自在な文字や絵をあらゆる材質に描くことができるスキャニング方式がある。その概略を図1に示す。また、文字や図柄の入ったマスクにレーザーを照射してマスクを部品の表面に焼き付けることができるマスク方式がある。その概略を図2に示す。レーザーマーキングでは従来の印刷や刻印に比べ(1)非接触であること(2)コンピューターによる制御や自動化が容易(3)前処理やインクが不要(4)高速、高能率である等の利点がある。
【0004】
さて一般にレーザーにより樹脂成形品にレーザーマーキングする場合、レーザーのエネルギーが樹脂成形品に吸収され、目的に合致した材料の揮発除去あるいは材料の変質が行われることが必要である。その加工結果は、樹脂材料の物理的、化学的特性、レーザーの波長、出力、パルスの条件、及び加工速度その他の加工条件に依存する。特に透明樹脂材料の場合にはレーザーがそのまま透過しやすいため、適切なレーザー条件の設定が困難である。そのため透明樹脂のレーザーマーキングでは透明樹脂材料に発色材を添加したり、あるいはレーザーの吸収率の高い樹脂材料を母材に混入している。
先行技術文献としては、レーザーを吸収し加熱されることにより変色あるいは発色する添加物を加える方法(特許文献1、同2)、レーザーの吸収率の高い樹脂材料を母材に添加する方法(特許文献3、同4)等がある
また透明樹脂のレーザーマーキングとしてエキシマレーザーにより行う方法がある。この方法はエキシマレーザーにより有機高分子が励起され、分子間結合が分断され構成分子が分解し、ガス化することによって加工されるものである。(特許文献5)
【0005】
さらに透明なポリカーボネート成形品の表面に波長1.06μmのQスイッチングしたYAGレーザーを照射して黒色レーザーマーキングする方法が提案されている(特許文献6)。
【特許文献1】特開2001−59032号公報
【特許文献2】特開2000−344992公報
【特許文献3】特開2002−2265774公報
【特許文献4】特開2004−267458公報
【特許文献5】特開2003−103392公報
【特許文献6】特開2003−136261公報
【非特許文献1】レーザーの科学 沓名宗春著 NHKブックス
【0006】
しかし、これらの提案等は、樹脂成形品の表面をレーザーマーキングするものに限られ、樹脂成形品の内部にレーザーマーキングする方法ではない。一方、アクリル樹脂の表面ではなく内部にレーザーマーキングすることについては試作的なものはあるが、Nd−YAGレーザーを使用する具体的な方法は示されていない。発明者は試行錯誤の結果、樹脂の種類は限定されるが、樹脂成形品の表面ではなく、樹脂成形品の内部にNd−YAGレーザーを用いてレーザーマーキングする方法を見出したものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、樹脂成形品の表面にはレーザーマーキングができても、その内部にはレーザーマーキングができない点にあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂成形品の表面ではなく、レーザーが樹脂成形品の内部に達し樹脂成形品の内部にレーザーマーキングができる点を最も主要な特徴とする。すなわち請求項1の発明は、透明ポリアミド樹脂成形品に波長1.06μmのNd−YAGレーザーを照射し、透明ポリアミド樹脂成形品の内部に着色マーキングを施すレーザーマーキング方法である。ポリアミド樹脂はいわゆるナイロンとも呼ばれている。ポリアミド樹脂を共重合等の化学反応により透明にしている。Nd−YAGレーザーの発生装置8を図3に示す。このNd−YAGのNdはネオジウムを示しNdイオンをYAGに混入させた固体の媒質でありNd−YAGロッド12という。図3ではフラッシュランプとしてレーザーダイオード14によりNd−YAGロッドが励起され光子が発生し、HRミラー17と出力ミラーに反射され増幅される。そしてQスイッチ15により連続したレーザーをピークパワーの高いパルスレーザーに変換しこのレーザー1が出力ミラーから出て行く。出力ミラーは光の一部を反射し強い光は通過する機構になっているためである。シャッターはレーザー発信を制御するためのものである。レーザーの出力は50W程度が適しているがマーキングの線幅、加工速度などに依存する。
請求項2の発明は、レーザーマーキングするパターンの大きさにより、波長1.06μmのNd−YAGレーザーの操作速度、周波数、フラッシュランプ電流の各条件を定めて透明ポリアミド樹脂成形品にレーザーマーキングした後、さらにそのマーキングパターン上に重複して波長1.06μmのNd−YAGレーザーを同一条件あるいは波長1.06μmのNd−YAGレーザーの操作速度、周波数、フラッシュランプの電流を変化させてレーザーマーキングする請求項1の方法である。
レーザーマーキングするパターンには文字や図形などがある。レーザーの操作速度とはワーク上を動くNd−YAGレーザーの速度をいい単位はmm/secである。周波数は1秒間あたりのレーザーパルスの回数をいいKHzであらわす。フラッシュランプの電流とはNd−YAGロッドを励起するためにフラッシュランプに流す電流値でありここではレーザーダイオードに流す電流値をいいA(アンペア)で表す。マーキングパターンとは先のレーザーマーキングにより透明ポリアミド樹脂成形品内部に描かれたパターンをいい、同じパターン上に重複してレーザーマーキングし着色して視認性を高めるためである。レーザーマーキングを重複して行う場合操作速度、周波数、フラッシュランプ電流の条件を同じにしてレーザーマーキングする場合もあり、またこのいずれかあるいはすべての数値を変化させてレーザーマーキングする場合もある。ただしレーザーマーキングの回数を多くしたり、操作速度、周波数、フラッシュランプ電流の数値を変化させることにより透明ポリアミド樹脂成形品の内部ではなく表面に凸凹上にレーザーマーキングされる場合あり注意が必要である。なお、マーキングパターン入力部10にマーキングパターンを入力しておけば、ガルバノメーターが操作されNd−YAGレーザーは透明ポリアミド樹脂成形品上を動くためマーキングパターン上を重複してレーザーマーキングすることは可能である。
請求項3の発明は、透明ポリアミド樹脂成形品に最初にレーザーマーキングする工程を第一工程とし、そのマーキングパターン上に重複してレーザーマーキングする工程を第二工程とするとき、各工程のNd−YAGレーザーの操作速度、周波数、フラッシュランプの電流の各条件を以下のようにしてレーザーマーキングする請求項2の方法である。
第一工程 操作速度 110mm/sec 周波数 1.0KHz フラッシュランプ電流 11A
第二工程 操作速度 30mm/sec 周波数 1.0KHz フラッシュランプ電流 10A
なお、各工程での数値はレーザーマーキング装置のレーザー出力制御部の制御盤での数値であり許容差を有するものである。
第一工程と第二工程に分けたのは、レーザーマーキングするパターンにより視認性を上げるためNd−YAGレーザーの条件を変えレーザーマーキングするためである。この第二工程は一度だけでなく繰り返しマーキングパターンにレーザーマーキングされる場合もある。
請求項4の発明は、請求項1、請求項2あるいは請求項3の方法により着色マーキングされた透明ポリアミド樹脂成形品である。請求項1ないし請求項3の方法により加工された透明ポリアミド樹脂成形品を対象とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、透明ポリアミド樹脂成形品の表面ではなく内部にNd−YAGレーザーによりレーザーマーキング可能とするものである。したがって成形品の表面は平面となっており汚れなどが付着しにくいし、新たなレーザーマーキング法を提示するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の代表的な実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0011】
図4は、本発明を実施するための装置の概略図である。レーザー出力制御部9においてレーザーの出力を決められる。出力が決められたレーザーが、レーザー発生装置から発せられる。マーキングパターン入力部10においてマーキングパターンが入力され、その結果に基づきガルバノメーター2が、X偏向反射鏡3及びY偏向反射鏡4を動かし、レーザーの方向を変えつつワークに照射される。ワークに照射されたレーザーはワークが透明であるため成形品表面から一定の深さまで達しそこでレーザーの熱により成形品内部の樹脂が改質され変色する。そのために成形品の内部においてマーキングすることができる。なお、図4のようにワークを固定しガルバノメーターによりX偏向反射鏡、Y偏向反射鏡を利用してレーザーを動かす代わりに、図7に示すようにレーザーの入出力が固定され反射ミラーを利用しワークをX−Yテーブル搭載してワークを動かしNd−YAGレーザーにてレーザーマーキングする方法もある。
【実施例2】
【0012】
図5は本発明によりレーザーマーキングした成形品である。(1)斜視図、(2)正面図、(3)側面図を示す。文字の大きさをマーキングパターン入力部に入力する。文字の大きさは図6に示すように、その高さを2mm、幅を2mmとし文字間隔を1mmとした。次にレーザー出力制御部に操作速度、周波数、フラッシュランプの電流値を入力する。今回は、厚さ約3mmの透明ポリアミド樹脂成形品を請求項3の第一工程にて1回レーザーマーキングし、続いてそのマーキングパターンを請求項3の第二工程で重複して6回レーザーマーキングした。第一工程にてレーザーを1回照射すると透明ポリアミド樹脂成形品の内部に淡い文字が浮かんだ。次にそのマーキングパターンを第二工程にて繰り返しレーザーマーキングしていくと徐々に黒色の文字が浮かび上がった。この条件によるレーザーマーキングは側面から見ると板厚の厚さ3mmの中央部すなわち表面から約1.5mm深さにパターンを作ることができた。この文字の大きさで第二工程でのレーザーマーキングを重複して7回以上行うと透明ポリアミド樹脂成形品の表面にまでレーザーにより改質され凸凹上となり、表面に文字が書かれる状態になった。したがって視認性の高いパターンをマーキングするには第二工程を6回繰り返すことが限度であった。以上のようにマーキングパターンの大きさによりレーザーマーキングの条件を変えることにより透明ポリアミド樹脂成形品の内部にマーキングパターンを形成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0013】
レーザーマーキング方法は数多く提案されている。しかしこれまでの方法は材料表面にマークを入れるものであった。本発明では加工対象となる樹脂の種類は制限されるものの樹脂成形品の内部にレーザーマーキングできることを示したものであり、今後他の種類の樹脂内部へのレーザーマーキングの試作やその応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】スキャニング方式
【図2】マスク方式
【図3】レーザー発生装置
【図4】レーザーマーキング装置の概略図
【図5】レーザーマーキングした成形品
【図6】文字の大きさ
【図7】X−Yテーブルレーザーマーキング装置
【符号の説明】
【0015】
1 レーザービーム
2 ガルバノメーター
3 X偏向反射鏡
4 Y偏向反射鏡
5 対物レンズ
6 ワーク(被加工物)
7 マスク
8 レーザー発生装置
9 レーザー出力制御部
10 マーキングパターン入力部
11 レーザーによるマーク
12 Nd-YAGロッド
13 HRミラー
14 レーザーダイオード(フラッシュランプ)
15 Qスイッチ
16 シャッター
17 出力ミラー
18 反射ミラー
19 ビームエクスパンダ
20 X−Yテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明ポリアミド樹脂成形品に波長1.06μmのNd−YAGレーザーを照射し、透明ポリアミド樹脂成形品の内部に着色マーキングを施すレーザーマーキング方法。
【請求項2】
レーザーマーキングするパターンの大きさにより、波長1.06μmのNd−YAGレーザーの操作速度、周波数、フラッシュランプ電流の各条件を定めて透明ポリアミド樹脂成形品にレーザーマーキングした後、さらにそのマーキングパターン上に重複して波長1.06μmのNd−YAGレーザーを同一条件あるいは波長1.06μmのNd−YAGレーザーの操作速度、周波数、フラッシュランプの電流を変化させてレーザーマーキングする請求項1の方法。
【請求項3】
透明ポリアミド樹脂成形品に最初にレーザーマーキングする工程を第一工程とし、そのマーキングパターン上に重複してレーザーマーキングする工程を第二工程とするとき、各工程のNd−YAGレーザーの操作速度、周波数、フラッシュランプの電流の各条件を以下のようにしてレーザーマーキングする請求項2の方法。
第一工程 操作速度 110mm/sec 周波数 1.0KHz フラッシュランプ電流 11A
第二工程 操作速度 30mm/sec 周波数 1.0KHz フラッシュランプ電流 10A
なお、各工程での数値はレーザーマーキング装置のレーザー出力制御部の制御盤での数値であり誤差を有するものである。
【請求項4】
請求項1、請求項2あるいは請求項3の方法により着色マーキングされた透明ポリアミド樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−330970(P2007−330970A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161706(P2006−161706)
【出願日】平成18年6月10日(2006.6.10)
【公序良俗違反の表示】
特許法第64条第2項第4号の規定により図面の一部または全部を不掲載とする。
【出願人】(305027995)株式会社大光製作所 (1)
【Fターム(参考)】