説明

着色排水の脱色方法

【課題】着色排水より着色物質を除去する際、みだりに排水の汚染を増長させず、また、無機金属塩を多量に使用することなく、無色に近いレベルの水が得られる着色物質除去技術を提供する。
【解決手段】少なくとも着色物質と多価カルボン酸類、または多価アミノカルボン酸類を含有する着色排水より着色部物質を分離する工程を有する着色排水の脱色方法において、着色部物質を分離する工程は、最初に多価カルボン酸類、または、多価アミノ酸類の少なくとも2個以上のカルボキシル基が非解離となる水素イオン濃度指数(pH)に調整のもとで無機金属塩を作用させることを特徴とする着色排水の脱色方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造工程で発生する着色排水の脱色方法に関し、特に、水素イオン濃度指数(pH)を調整のもとで無機金属塩を作用させる着色排水の脱色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、トナーの製造工程や、紙の漂白工程、繊維材料の染色工程等、製造工程において使用された水が着色した状態となることがある。この様な着色排水は、環境負荷を表すCODやBODがたとえ基準以下の小さな値になっていても、着色している分、感覚的に汚染感をぬぐい切れないものである。また、着色排水の製造工程での再使用は、製品に何らかの影響を与えることが懸念され、ほとんど行われていないものと思量される。
【0003】
この様な状況であるが、排水から着色成分を分離して水を無色化する試みは以前から行われていた。具体的には、無機凝集剤や高分子凝集剤等の凝集剤を排水中に加えて着色物質を捕獲する方法である。しかしながら、染料等の様に、着色物質は一般に高い親水性を有するものが多く、親水性の高い物質を水中から除去するにはこれらの凝集剤を多量に使用しなくてはならなかった。そこで、これらの凝集剤を用い、凝集剤の使用量を抑えて着色物質を分離する技術が検討される様になった。具体的には、着色排水中に無機凝集剤と高分子凝集剤を添加して着色物質を除去する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、高分子凝集剤と着色物質の双方の極性に着目して、着色物質と逆極性の基を有する高分子凝集剤を添加したり、両性高分子凝集剤を用いる方法が登場する様になった(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
ところで、排水中に着色物質とともにキレート剤(例えば、多価カルボン酸類や多価アミノカルボン酸類)を含有するケースがある。これは、製造工程で使用水にキレート剤を添加することにより、製品の品質や生産性を向上させるために使用され、その結果、排水中にキレート剤が残存することになる。キレート剤を含有する着色排水に無機凝集剤を添加すると、キレート剤の影響で無機凝集剤(無機金属塩)により一度捕獲された着色物質成分が再溶解するケースが多く、着色排水を無色化することが難しかった。
【特許文献1】特開2004−154734号公報
【特許文献2】特開2004−344829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記技術による着色物質の除去は、着色物質を高分子凝集剤と結合、凝集させて分離凝集物を形成することにより実現されるものであるが、例えば無色に近いレベルの水を得ることはとても難しかった。着色物質を効率よく除去するために、高分子凝集剤や無機金属塩等の薬品を多めに添加することも試みられたが、着色物質の分離凝集物の形成が思う様に進まず、色のうすい無色に近い水を得ることはなかなかできなかった。また、着色排水中への高分子凝集剤や無機金属塩等の薬品の添加量を増やすことは、排水の汚染を増大させることになり、また、処理後に廃棄物となる分離凝集物の量も増えてしまうので、環境面からも好ましい対応とは言い難いものであった。
【0007】
本発明は、着色排水を脱色させる際に、無機金属塩を多量に使用して、排水の汚染や廃棄物を増加させることなく、無色に近いレベルの水が得られる着色排水の脱色方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記構成を採ることにより達成される。
【0009】
1.
少なくとも着色物質と多価カルボン酸類、または多価アミノカルボン酸類を含有する着色排水より着色部物質を分離する工程を有する着色排水の脱色方法において、
着色部物質を分離する工程は、最初に多価カルボン酸類、または、多価アミノ酸類の少なくとも2個以上のカルボキシル基が非解離となる水素イオン濃度指数(pH)に調整のもとで無機金属塩を作用させることを特徴とする着色排水の脱色方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の着色排水の脱色方法は、少なくとも着色物質と多価カルボン酸類や多価アミノカルボン酸類を含む着色排水から、無機金属塩を多量に使用することなく安価で簡単な方法で着色物質を分離することができる優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者等は、着色物質と多価カルボン酸類や多価アミノカルボン酸類を有する着色排水から、無機金属塩を多量に無機金属塩を使用することなく安価で簡単な方法で着色物質を分離する方法について検討を行った。
【0012】
種々検討の結果、着色物質と多価カルボン酸類や多価アミノカルボン酸類を含有する着色排水を、多価カルボン酸類または多価アミノカルボン酸類の化合物中の少なくとも2個以上のカルボキシル基が非解離となる水素イオン濃度指数(pH)に調整のもとで、無機金属塩を作用させると、着色物質が良好に分離できることを見いだした。
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の着色排水の脱色方法は、多価カルボン酸や多価アミノカルボン酸類を含む着色排水を、少なくとも2個以上のカルボキシル基が非解離となる水素イオン濃度指数(pH)に調整のもとで無機金属塩を作用させ、水に再溶解しにくい凝集物を形成し、該凝集物を水と分離して着色物質を取り除き脱色する方法である。
【0015】
ここで、着色排水とは、水を使用する生産活動により生じた排水のうち、後述する着色物質と多価カルボン酸や多価アミノカルボン酸類を含む着色した排水のことをいう。すなわち、色のついた水のことで、着色して透明性を有する排水のみでなく、白濁液の様にある程度の濁度を有する排水も含まれる。排水の着色状態を確認する方法は特に限定されるものではなく、目視や分光光度計等の測定機器により確認する方法が挙げられる。
【0016】
目視による着色の確認方法としては、例えば、ビーカ等の容器に排水を投入し、これを白紙上に静置することにより着色状況を定性的に判定する方法等が挙げられる。
【0017】
また、分光光度計等の測定機器を用いて、排水中に溶解する着色物質の濃度(着色度という)を測定することによる定量的な判定方法も挙げられる。すなわち、ランベルト−ベールの法則の関係より、分光光度計により測定される吸光度の値から液中の着色物質濃度を一義的に算出するものである。
【0018】
分光光度計による着色度の測定は、例えば、紫外可視分光光度計「V−530(日本分光株式会社製)」等の市販の分光光度計を使用し、以下の手順で測定することが可能である。
(1)分光光度計により可視領域(400〜700nm)における吸光度測定を行う。
(2)下記計算式に基づき、400〜700nmの範囲で吸光度の積分計算を行い、着色度を算出する。尚、着色度は分光光度計の「ピーク面積」のモードを使用して算出する。
【0019】
【数1】

【0020】
(式中、f(λ)は各波長における吸光度、λは波長を表す。)
また、上記紫外可視分光光度計「V−530」(日本分光株式会社製)を使用して吸光度の測定を行う際の条件は以下のとおりである。すなわち、
測定用セル :石英製角型セル(スターナ社製)
標準角形セル Type1 1/Q/10
(長さ12.5mm×幅12.5mm×高さ45mm)
(容量3.5ml)
試料の使用量 :3.0ml
ブランク :純水を使用
吸光度の測定は、可視領域(400nm〜700nm)を1nm間隔で測定し、各波長における吸光度f(λ)の値は「各波長における試料の吸光度」より「純水の吸光度」を差し引いた値になる。
【0021】
本発明に使用される着色排水は、少なくとも着色物質を含有するもので、排水中に着色物質のみを含有するものの他に、着色物質に加えてキレート剤等の生産工程で添加、使用された各種化学物質を含有する排水も含むものである。
【0022】
また、本発明でいう着色物質は、水中に溶解あるいは分散することにより水を着色させる物質を意味するものである。すなわち、水に溶解するものの他に、エマルジョンの様に水中で粒子がコロイド分散した状態になるものも含まれる。また、水に溶解するものについても、着色物質が完全に溶解するものの他に、一部が水中に溶解し一部は溶けきれずに析出状態にあるものも含むものである。
【0023】
本発明の着色排水の脱色方法は、凝集槽中の着色排水を常温(例えば、10〜35℃)で撹拌しながら多価カルボン酸類や多価アミノ酸類の少なくとも2個以上のカルボキシル基が非解離となる水素イオン濃度指数(pH)に調整のもとで無機金属塩を作用させて着色物質の凝集物を形成する工程、形成された凝集物を除去する工程からなる。
【0024】
尚、多価カルボン酸類や多価アミノ酸類の少なくとも2個以上のカルボキシル基が非解離となる水素イオン濃度指数(pH)の調整は、無機金属塩を着色排水へ加える前でも後でも良い。
【0025】
無機金属塩の使用量は、好ましくは固形分換算で100〜2000ppm、より好ましくは150〜1500ppm、さらに好ましくは300〜1500ppmである。水素イオン濃度指数(pH)を調整のもと無機金属塩を作用させた後10分程度静置すると着色物質の凝集が進み、着色排水を着色度10以下まで脱色することができる。
【0026】
通常は上記添加量で着色度を10以下まで脱色することができるが、着色排水中の着色物質濃度が高い場合には上記より多く添加しても良い。
【0027】
多価カルボン酸、または多価アミノ酸類の内、少なくとも2個以上のカルボキシル基が非解離となる水素イオン濃度指数(pH)は、文献等で、各解離指数の逆数の対数値pKaで示されており、このうちpKaの値が大きいものから順に2番目のpKaよりも小さな値が2個以上のカルボン酸が非解離となるpHである。
【0028】
非解離のカルボン酸が1個または全て解離してしまうと、多価カルボン酸類や多価アミノカルボン酸類は、無機金属塩の金属イオンと容易に錯体を形成する。そのため、金属イオンの持つ凝集作用を抑制し、着色物質の凝集分離性が低下してしまう。
【0029】
具体的に、少なくとも2個以上のカルボキシル基が非解離となる水素イオン濃度指数(pH)は、化合物により異なるが、クエン酸3ナトリウムでは4.3、1,2−ジアミノプロパン四酢酸ナトリウムでは2.0である。
【0030】
水素イオン濃度指数(pH)を調整する化合物としては、特に限定されず、具体的には塩酸、硫酸、苛性ソーダ等を挙げることができる。
【0031】
本発明に係る多価カルボン酸類とは、1分子中にカルボキシル基を2個以上有する化合物或いはその塩で、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライ酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルコン酸、ムコン酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、サリチル酸、バニリン酸、マンデル酸、リンゴ酸、グリセリン酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、トリメリット酸、トリメシン酸、アコニット酸、トリカルナリル酸、エタントリカルボン酸、ヘキサトロカルボン酸等が挙げられる。尚、塩としてはナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0032】
本発明で用いられる無機金属塩としては、水中で2価以上のイオンとなるものが望ましい。具体的には、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化アルミニウム、塩化第二鉄(塩化鉄(III))、ポリ硫酸第二鉄、硫酸第一鉄等が揚げられる。
【0033】
着色排水の脱色方法について、さらに説明する。
【0034】
本発明では、少なくとも着色物質と多価カルボン酸類、または多価アミノカルボン酸類を含有する着色排水に対し、最初に多価カルボン酸類、または、多価アミノ酸類の少なくとも2個以上のカルボキシル基が非解離となる水素イオン濃度指数(pH)に調整する。その後で、無機金属塩を添加し、該着色物質を着色排水から分離して脱色する方法である。
【0035】
着色排水より着色物質を除去する際、着色排水の温度を特に制御して除去を行う必要はなく、通常は常温(例えば、10〜35℃)下で行うことが可能である。
【0036】
着色排水中へ無機金属塩の添加量は、着色物質の含有量にもよるが、固形分換算で100ppm〜2000ppm、好ましくは150ppm〜1500ppm、さらに好ましくは300〜1500ppm添加することが可能である。
【0037】
水素イオン濃度指数(pH)を調整した状態で、無機金属塩を上記範囲となる様に、着色排水中に添加して、十分に凝集を行わせることにより、分光光度計による着色排水の着色度が10以下のレベルとなる。このことは後述する実施例の記載からも確認される。
【0038】
尚、着色度が10以下のレベルの水は、目視ではほとんど着色が認められず、しかも十分に再使用可能なレベルのものである。
【0039】
本発明の効果を発現させることが可能な着色排水に含有される着色物質について説明する。本発明でいう着色物質は、前述した様に、水中に溶解あるいは分散して水を着色する物質を意味するものである。すなわち、水に溶解するものの他に、エマルジョンの様に水中で粒子がコロイド分散した状態になるものも含まれる。また、水に溶解するものについても、着色物質が完全に溶解するものの他に、一部が水中に溶解し一部は溶けきれずに析出状態にあるものも含まれる。
【0040】
具体的には、よく溶けて水を着色するものとしては染料が代表的なものである。また、水中で粒子が分散して着色を示すものとしては、顔料や電子写真用の現像剤に使用される荷電制御剤、ラテックスを形成する樹脂粒子、トナー粒子等が挙げられる。着色物質の含有量は、特に限定されるものではないが、通常、1〜5000ppm程度含有されることが多い。また、粒子の含有量は排水100質量部に対して1〜20質量部含有されることが多い。
【0041】
多価カルボン酸類、または多価アミノカルボン酸類等のキレート化合物を含有する着色排水も存在するが、従来技術においてキレート化合物を含有する着色排水からの着色物質の除去は、前述したようになかなか困難なものであった。
【0042】
すなわち、着色物質の除去技術の1つとして、無機金属化合物を添加して金属イオンと着色物質とを結合させて着色物質の凝集を行う方法があるが、排水中にキレート剤が存在すると、金属イオンがキレート剤との間で錯体が形成される。その結果、一度形成された凝集物より着色物質が水中に再溶解し、着色物質の除去を十分に行うことができなかったのである。したがって、キレート剤を含有する着色排水を脱色する場合、水素イオン濃度を調整しないと無機金属化合物を多めに添加しなくてはならなかった。
【0043】
本発明では、水素イオン濃度指数(pH)を調整した後で、無機金属塩を添加して着色排水からの着色物質の除去を可能としても、また、無機金属塩を添加した後に、水素イオン濃度指数(pH)を調整してもよく、いずれでも水素イオン濃度指数(pH)を調整して無機金属塩を作用させるために、少量の無機金属塩の添加で着色物質の除去を行うことができる。より好ましくは、水素イオン濃度指数(pH)を調整した後で、無機金属塩を添加する方法である。したがって、キレート剤を含有する着色排水からも着色物質を除去することが可能である。
【0044】
上述した様に、本発明は、少なくとも着色物質と多価カルボン酸類、または多価アミノカルボン酸類等のキレート化合物を含有するを着色排水より着色物質を分離する工程で、最初に多価カルボン酸類、または、多価アミノ酸類の少なくとも2個以上のカルボキシル基が非解離となる水素イオン濃度指数(pH)に調整し、その後で無機金属塩を添加するものである。
【0045】
多価カルボン酸類、または、多価アミノ酸類の少なくとも2個以上のカルボキシル基が非解離となる水素イオン濃度指数(pH)に調整し、その後で無機金属塩を添加することにより、以下の2つの作用が発現することにより、着色物質が凝集物から再溶解しなくなったものと推測される。すなわち、
(1)凝集物表面が電気的に中和されて無極性の状態になり、凝集物中から着色物質が水中に再溶解しなくなった。
(2)着色物質の凝集が強固な構造となり、凝集物中から着色物質が水中に再溶解しなくなった。
【0046】
この様に、本発明では、形成される凝集物が着色物質を水中に再溶解させにくい構造となるので、無機酸化物を多用せずに、従来技術よりも無色に近いレベルの水が得られる様になったものと推測される。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。
【0048】
1.着色排水の作製
脱色処理する着色排水として下記着色排水を作製し準備した。
【0049】
(着色排水1)
シアン顔料「C.I.Acid Blue 120」の含有量が40ppm、クエン酸3ナトリウムが500ppmとなるように調製した着色排水を「着色排水1」とした。前記紫外可視分光光度計「V−530(日本分光株式会社製)」により測定した着色度は750であった。
【0050】
(着色排水2)
ローダミン染料「C.I.Basic Violet10」の含有量が40ppm、クエン酸3ナトリウムが400ppmとなるように調製した着色排水を「着色排水2」とした。前記紫外可視分光光度計「V−530(日本分光株式会社製)」により測定した着色度は1800であった。
【0051】
(着色排水3)
数平均1次粒径が125nmのスチレンラテックスを固形分換算で1.0質量部、1,2−ジアミノプロパン四酢酸ナトリウム200ppmを含有するように調製した着色排水を「着色排水3」とした。前記紫外可視分光光度計「V−530(日本分光株式会社製)」により測定した着色度は100であった。
【0052】
尚、前記スチレンラテックスは以下の手順により作製したものである。
【0053】
先ず、スチレン単量体509.83gを用意し、スチレン単量体の温度を80℃に昇温させ、そのまま保持した。次に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0gを純水2200gに溶解させて界面活性剤水溶液を調製し、温度が80℃になる様に加熱、保持した。
【0054】
次に、80℃に保温した前記界面活性剤水溶液を撹拌させておき、この中に前記スチレン単量体を添加して、超音波乳化装置により乳化を行い、スチレン単量体を乳化分散させた乳化液を作製した。次いで、撹拌装置、冷却管、窒素導入管及び温度センサを装着した四頭コルベンに前記乳化液を投入した。
【0055】
前記乳化液を撹拌させておき、窒素気流下、コルベン内の温度を70℃に保持した状態で、過硫酸アンモニウム7.52gを純水500gに溶解して作製した重合開始剤水溶液を添加し、4時間重合反応を行った。重合反応終了後、コルベン内の温度を室温まで冷却し、濾過を行ってスチレン樹脂粒子よりなるラテックスを得た。尚、反応後において重合残渣は認められず、安定したスチレンラテックスを生成したことが確認された。
【0056】
生成したスチレンラテックスについて、電気泳動光散乱光度計「ELS−800(大塚電子(株)製)」を用いて数平均1次粒径を測定したところ125nmであった。
【0057】
2.着色排水の脱色
実施例1
「着色排水1」を緩やかに撹拌しながら、塩化第二鉄(塩化鉄(III))を1000ppm加えた。このときの着色排水の20℃におけるpHは4.0であった。
【0058】
次に、塩酸を加えて着色排水のpHを1.5に調整し、そのまま10分間静置して着色物質の凝集物を形成させ、着色物質を分離した。
【0059】
静置後、上澄み液を分取して着色度を前記着色度の測定方法で測定したところ着色度は10で、その液はほぼ無色透明であった。
【0060】
実施例2
「着色排水1」を緩やかに撹拌しながら、塩化第二鉄(塩化鉄(III))を1700ppm加えた。このときの着色排水の20℃におけるpHは3.9であった。
【0061】
次に、塩酸を加えて着色排水のpHを2.0に調整し、そのまま10分間静置して着色物質の凝集物を形成させ、着色物質を分離した。
【0062】
静置後、上澄み液を分取して着色度を前記着色度の測定方法で測定したところ着色度は6で、その液はほぼ無色透明であった。
【0063】
実施例3
「着色排水1」を緩やかに撹拌しながら、ポリ塩化アルミニウム(PAC)を1500ppm加えた。このときの着色排水の20℃におけるpHは7.0であった。
【0064】
次に、塩酸を加えて着色排水のpHを2.0に調整し、そのまま10分間静置して着色物質の凝集物を形成させ、着色物質を分離した。
【0065】
静置後、上澄み液を分取して着色度を前記着色度の測定方法で測定したところ着色度は9で、その液はほぼ無色透明であった。
【0066】
実施例4
「着色排水2」を緩やかに撹拌しながら、塩化第二鉄(塩化鉄(III))を1300ppm加えた。このときの着色排水の20℃におけるpHは4.0であった。
【0067】
次に、塩酸を加えて着色排水のpHを2.0に調整し、そのまま10分間静置して着色物質の凝集物を形成させ、着色物質を分離した。
【0068】
静置後、上澄み液を分取して着色度を前記着色度の測定方法で測定したところ着色度は8で、その液はほぼ無色透明であった。
【0069】
実施例5
「着色排水3」を緩やかに撹拌しながら、塩化第二鉄(塩化鉄(III))を1000ppm加えた。このときの排水の20℃におけるpHは4.0であった。
【0070】
次に、塩酸を加えて着色排水のpHを2.0に調整し、そのまま10分間静置して着色物質の凝集物を形成させ、着色物質を分離した。
【0071】
静置後、上澄み液を分取して着色度を前記紫外可視分光光度計「V−530(日本分光株式会社製)」により測定したところ着色度は8で、その液はほぼ無色透明であった。
【0072】
実施例6
「着色排水1」を緩やかに撹拌しながら、塩酸を加えて着色排水の20℃におけるpHを2.0に調整した後、ポリ塩化アルミニウムを1000ppm加えた。このときの着色排水のpHは2.0であった。そのまま10分間静置して着色物質の凝集物を形成させ、着色物質を分離した。
【0073】
静置後、上澄み液を分取して着色度を前記紫外可視分光光度計「V−530(日本分光株式会社製)」により測定したところ着色度は10で、その液はほぼ無色透明であった。
【0074】
比較例1
「着色排水1」を緩やかに撹拌しながら、塩化第二鉄を1000ppm加え、次に苛性ソーダを用いてpH7.0に調整した。その状態で10分間静置した。
【0075】
静置後、上澄み液を分取して着色度を前記紫外可視分光光度計「V−530(日本分光株式会社製)」により測定したところ着色度は600で、その液は薄茶色であった。
【0076】
比較例2
「着色排水1」を緩やかに撹拌しながら、塩化第二鉄を1000ppm加え、次に苛性ソーダを用いて排水のpHを10.0に調整した。その状態で10分間静置した。
【0077】
静置後、上澄み液を分取して着色度を前記紫外可視分光光度計「V−530(日本分光株式会社製)」により測定したところ着色度は1000で、その液は濃い茶褐色であった。
【0078】
比較例3
「着色排水2」を緩やかに撹拌しながら、ポリ塩化アルミニウム(PAC)を1000ppm加え、次に苛性ソーダを加え排水のpHを10.0に調整した。その状態で10分間静置した。
【0079】
静置後、上澄み液を分取して着色度を前記紫外可視分光光度計「V−530(日本分光株式会社製)」により測定したところ着色度は600であり、その液は白濁していた。
【0080】
比較例4
「着色排水1」を緩やかに撹拌しながら、塩化第二鉄(塩化鉄(III))を1000ppm加えた。その状態で10分間静置した。
【0081】
静置後、上澄み液を分取して着色度を前記紫外可視分光光度計「V−530(日本分光株式会社製)」により測定したところ着色度は600であり、その液は白濁していた。
【0082】
表1に、着色排水番号と着色排水が含有する化合物、無機金属塩の化合物とその添加量、水素イオン濃度指数の調整に用いた化合物と調整後のpH、着色排水の脱色前と脱色後の着色度、及び脱色の効果を示す。
【0083】
尚、脱色効果の評価は、着色度が10以下を○(合格)、着色度が10を越えると×(不合格)とする。
【0084】
【表1】

【0085】
表1の結果から、実施例1〜6は、処理後の着色度が10以下で良好な結果が得られ、本発明の効果を発現することが確認された。一方、比較例1〜4は、処理後の着色度が10を越え満足な結果が得られず、本発明の効果を発現しないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも着色物質と多価カルボン酸類、または多価アミノカルボン酸類を含有する着色排水より着色部物質を分離する工程を有する着色排水の脱色方法において、
着色部物質を分離する工程は、最初に多価カルボン酸類、または、多価アミノ酸類の少なくとも2個以上のカルボキシル基が非解離となる水素イオン濃度指数(pH)に調整のもとで無機金属塩を作用させることを特徴とする着色排水の脱色方法。

【公開番号】特開2008−142700(P2008−142700A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287141(P2007−287141)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】