説明

短冊状基板の成膜方法

【課題】 電子部品となるような短冊状基板の両面に同時に成膜する方法であって、均一に成膜された短冊状基板の成膜方法の提供を目的とする。
【解決手段】 マグネトロン方式スパッタリング装置を使用し、短冊状基板を取り付けた基板固定冶具を基板ホルダーに設置し、同時に短冊状基板の両面に成膜する方法であって、短冊状基板をスパッタ源の法線方向に対して0度±10度の範囲となるように設置し、基板ホルダーを回転させ、基板に負のパルスバイアス電圧を印加し、負のパルスバイアス電圧を100V以上1000V以下の範囲とし、かつ電源offの継続時間t-offと電源onの継続時間t-onの比であるt-off/t-onを0.1≦ t-off/t-on ≦ 1の範囲として、短冊状基板の両面へ同時に成膜することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置による基板への成膜方法に関し、さらに詳しくはマグネトロン方式スパッタリング装置を使用した短冊状基板の両面へ同時に成膜する成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スパッタリング装置、例えばマグネトロン方式スパッタリング装置を用いて両面に成膜されたチップ基板を製造するには、シート状基板あるいは短冊状基板の両面に成膜を行ったのちに、この基板をチップ形状に切断する方法が一般的に用いられてきた。
基板の両面に成膜する方法には3つの方法がある。
第1の方法は、基板の片側にスパッタ源が設置されているスパッタリング装置において、基板の片側に成膜を実施した後に、基板を反転させ、未成膜の側に成膜を実施する方法である。
【0003】
例えば、特許文献1にはこの反転装置に関して開示されている。この反転装置は、スパッタリング装置の外側でも、内側でも設置することは可能であるが、外側に設置した場合にはスパッタリング装置自体はコンパクトにできるものの、基板の反転はスパッタリング装置の外で行うため、この操作の前後でスパッタリング装置内の一部または全ての雰囲気ガスの置換操作や真空操作が必要となり生産効率を低下させる一因となる。
【0004】
また、反転装置をスパッタリング装置の内側に設置する場合には、上記の雰囲気ガスの置換操作や真空操作は不要になるものの、スパッタリング装置の内部に反転装置を持っているために、スパッタリング装置自体が大きくなり、また、反転装置自体に高い信頼性が要求され高コストの装置となるという問題がある。
【0005】
第2の方法は、第1の方法に示した基板の反転を必要とせず、基板の両側にスパッタ源を配置し基板の両面に同時に成膜させる方法であり、特許文献2及び特許文献3に開示されている。これらは複数のスパッタ源をひとつの成膜室内に設置するため、スパッタリング装置自体を大型化しなければならなくなり、実質的にコスト高の装置となるという問題がある。
【0006】
第3の方法は、スパッタ源と基板を垂直に位置させて基板の両面に同時に成膜させる方法であり、特許文献4に開示されている。この特許文献4では、顆粒状MgF2をスパッタ源(ターゲット)としてここに交流電圧を印加し、基板として光学レンズをスパッタ源の中央に垂直に位置させ、基板の両面にMgF2を成膜させている。
【0007】
スパッタ源と基板をこの特許文献4のように位置させる方法は、基板の両面に同時に成膜する方法としては有効であるものの、基板のターゲットに近い部分の膜厚が厚くなってしまうので、膜厚の均一性が不十分であるという問題がある。
【0008】
一方、基板に負のパルスバイアス電圧を印加する方法は、例えば特許文献5に記載されているように、成膜中のアーキング抑制や成膜前の基板洗浄を目的としており開示されているが、スパッタ源と基板を垂直に位置させて、基板の両面に同時に成膜するときの膜厚の均一化への寄与は期待できない。
【特許文献1】特開2005−203452号公報
【特許文献2】特開2001−288569号公報
【特許文献3】特開2003−293130号公報
【特許文献4】特開平8−199351号公報
【特許文献5】特開2002−371351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされ、電子部品となるような短冊状基板の両面に同時に成膜する方法であり、均一に成膜された短冊状基板の成膜方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては、マグネトロン方式スパッタリング装置を使用し、短冊状基板を取り付けた基板固定冶具を基板ホルダーに設置し、同時に短冊状基板の両面に成膜する方法であって、短冊状基板をスパッタ源の法線方向に対して0度±10度の範囲となるように設置し、基板ホルダーを回転させ、基板に負のパルスバイアス電圧を印加し、負のパルスバイアス電圧が、100V以上1000V以下の範囲とし、電源offの継続時間t-offと電源onの継続時間t-onの比であるt-off/t-onについて0.1≦ t-off/t-on ≦ 1の範囲として、短冊状基板の両面へ同時に成膜することを特徴とする。
【0011】
さらに、短冊状基板の短尺方向の辺の長さwのうち、長さtの部分を基板固定冶具で固定して立直姿勢で短冊状基板を設置し、短冊状基板の長尺方向の辺と短尺方向の辺で作る面が平行となるように面間距離dの間隔で基板固定冶具に短冊状基板を複数配置させ、基板固定冶具の表面から短冊状基板の先端までの距離hと面間距離dの比であるd/hが 0.2 ≦ d/h ≦ 1.2の範囲とし、wとtとの比t/wがt/w≦0.2の範囲とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、短冊状基板の両面に同時に均一な成膜をすることができ、得られた短冊状基板を切断することにより、効率的に均一に成膜されたチップ基板を得ることができるため、その工業的な意義は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、マグネトロン方式スパッタリング装置を使用し、短冊状基板の両面に同時に成膜する方法を鋭意検討を行い、短冊状基板をスパッタ源に対して特定の条件に設置し、基板ホルダーを回転させ、基板に特定の条件でスパッタリングして、短冊状基板の両面に同時に成膜することにより、得られる膜の均一性がきわめて良好で、且つ効率的に成膜することができるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0014】
図1に、本発明のスパッタリング装置の真空槽内部の配置を示す。
短冊状基板4の取り付けは、スパッタ源1及びスパッタ源2の法線方向に対して短冊状基板4の短尺方向の辺が0度±10度の範囲になるように設置する。法線方向に対して0度±10度よりも大きく傾くと、スパッタ源1及びスパッタ源2に対して影となる面の膜厚が薄くなってしまい、短冊状基板4の両面の膜厚が異なってしまう。
【0015】
法線方向に対して0度±10度の範囲に設置することで、短冊状基板4の両面の膜厚の差異は十分に小さくなるが、短冊状基板4のスパッタ源1またはスパッタ源2に近い部分ほど膜厚が厚く、反対に遠いほど膜厚が薄くなってしまう。そこで、基板パルスバイアス電源6により基板ホルダー3を介して基板に負のパルスバイアス電圧を印加すると、膜厚の均一性が向上する。
【0016】
これはスパッタ源1及びスパッタ源2を蒸発させるArイオンが、負のパルスバイアス電圧によって短冊状基板4へ向かい、短冊状基板4のスパッタ源1またはスパッタ源2に近い部分の膜を蒸発させる作用が働くためと考えられる。
【0017】
したがって、適切な電圧とパルス間隔を設定することで、短冊状基板4の短辺方向の膜厚が均一化する。
印加する負のパルスバイアス電圧は、100V以上1000V以下の範囲とすることが必要であり、また電源offの継続時間t-offと電源onの継続時間t-onの比であるt-off/t-onを0.1≦ t-off/t-on ≦ 1の範囲とすることが必要である。
負のパルスバイアス電圧が100V未満では膜の蒸発作用が不十分なため均一な膜厚とならず、1000Vを超えても膜厚の均一性の向上は期待できず、電源設備が高価となるだけであり好ましくない。
【0018】
t-off/t-on >1の範囲では膜の蒸発作用が不十分なため、スパッタ源に近い位置の短冊状基板4の膜が厚くなって均一な膜厚とならない。t-off/t-on < 0.1の範囲では膜の蒸発作用が著しくなって制御が困難となり、膜厚は不均一となってしまう。
なお、負のパルスバイアス電圧の周波数は、基板のアーキング防止や基板洗浄用に市販されているパルスバイアス電源の周波数1k〜50kHzの高い周波数から商用電源周波数の50〜60Hz程度まで広範囲の周波数で使用できる。
【0019】
図2に基板固定冶具5への短冊状基板4の取付け例を示す。
角棒8を整列させて固定し基板固定冶具5とし、角棒8同士で短冊状基板4を挟み込む構造である。
ここでdは短冊状基板4の面間距離、wは短冊状基板4の短尺方向の長さ、tは基板固定冶具5による短冊状基板4の挟み込み代である。hは基板固定冶具5の表面から短冊状基板の先端までの距離で、w−tの長さである。
短冊状基板4に均一に成膜させるためには、互いに隣に位置する短冊状基板4の影響を受けないようにするためにdを確保する必要があるが、生産性の観点からはdを小さくして多数の基板を搭載することが好ましい。
【0020】
このようなことから、dとhの関係として0.2 ≦ d/h ≦ 1.2とすることが好ましい。d/h <0.2の範囲では膜厚の均一性が不十分であり、d/h > 1.2の範囲では搭載できる基板の数量が少なくなって生産性が減少してしまう。また、基板上の成膜面積を大とするにはwに比較してtを可能な範囲で小さくする必要があり、t/w ≦ 0.2の範囲とすることが好ましい。
【0021】
短冊状基板4が取り付けられた基板固定冶具5は、基板ホルダー3に設置される。
次に真空槽7内の空気を真空排気した後、スパッタリングに必要なArガスを導入して真空槽7内を0.2〜1Paにする。短冊状基板4と基板固定冶具5を取り付けた基板ホルダー3を10〜120回転/分で回転させる。
【0022】
次に、スパッタ源1及びスパッタ源2に直流電圧を印加してマグネトロン放電を発生させてスパッタ源1及びスパッタ源2の蒸発を開始する。スパッタ源の形状と寸法は膜厚分布、付着効率などから決められる。
【0023】
スパッタ源の材質としては、金属、酸化物、窒化物、ホウ素化物、炭化物、有機物など各種材料を処理目的にあわせて組み合わせて用いることができる。所定の時間、成膜を行ったら、真空槽内を大気圧に戻し、成膜された基板を取り出す。
【0024】
本発明の基板固定冶具は、図1に示すような基板ホルダーを用いる並行平板型のスパッタリング装置だけでなく、円筒形の基板ホルダーを用いるカルーセル型スパッタリング装置などの種々のスパッタリング装置に装着することができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を示し、具体的に本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されることはない。
【0026】
(実施例1)
厚さ50μm、幅6mm、長さ100mmの短冊状基板4において幅6mmのうちの片端の1mmを基板固定冶具5への挟みこみ代とし、6mmの面間距離で計10枚を基板固定冶具5に取付けた。
この要領で短冊状基板4が取付けられた8個の基板固定冶具5を直径550mmの基板ホルダー3上に取り付けた。短冊状基板4は合計80枚である。
【0027】
スパッタ源1にはCrターゲット、スパッタ源2にはNiターゲットを装着した。
上記の短冊状基板4とスパッタ源1及びスパッタ源2の取り付けが終了した後、以下の手順で成膜を実施した。
【0028】
まず、真空槽7を1×10−3Pa以下の圧力に排気後、高純度Arガスを導入し、槽内を0.3Pa に保持した。
次に、基板ホルダー3を100回/分で回転させた。
【0029】
次に、スパッタ電源1(Crターゲット)に300W、スパッタ電源2(Niターゲット)に1000W 電力を印加してスパッタ成膜を開始すると同時に、基板ホルダー3に、負のパルスバイアス電圧を印加した。負のパルスバイアス電圧は約450Vで周波数は67Hzとし、パルス間隔はt-onを 0.01秒とし、t-offを0.005秒とした。
【0030】
この状態を30分間維持し、短冊状基板4にNi-Cr合金膜を成膜した。
真空槽7を大気に戻して、成膜された短冊状基板4を80枚を取り出した。80枚の中から無作為に1枚を選び、基板断面をSEM観察してNiCr膜厚を測定した。短辺方向の位置はスパッタ源1またはスパッタ源2側の短冊状基板4の端を原点とする距離で表した。また短冊状基板4の両面をA面、B面として区別した。A面、B面の膜厚を表1の実施例1に示す。
【0031】
(比較例1)
負のパルスバイアス電圧を印加しなかった以外は実施例1と同様にして短冊状基板にNi-Cr合金膜を成膜した。実施例1と同様に無作為に基板を選んでその断面をSEM観察してNiCr膜厚を測定した。A面、B面の膜厚を表1の比較例1に示す。
【0032】
実施例1における標準偏差σの2倍の2σの値は十分に小さく、均一な膜厚が得られた。これに対して比較例1では2σの値は大きく均一な膜厚は得られていない。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、短冊状基板の両面に同時に均一な成膜を得ることができるので、例えば、チップ基板の成膜に利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例を示した図。
【図2】角棒を整列し固定し作成した基板固定冶具に短冊状基板を設置した状況を示す図。
【符号の説明】
【0036】
1 スパッタ源 Cr
2 スパッタ源 Ni
3 基板ホルダー
4 短冊状基板
5 基板固定冶具
6 基板パルスバイアス電源
7 真空槽
8 角棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネトロン方式スパッタリング装置を使用し、短冊状基板を取り付けた基板固定冶具を基板ホルダーに設置し、同時に短冊状基板の両面に成膜する方法であって、短冊状基板をスパッタ源の法線方向に対して0度±10度の範囲となるように設置し、基板ホルダーを回転させ、基板に負のパルスバイアス電圧を印加し、負のパルスバイアス電圧を100V以上1000V以下の範囲とし、かつ電源offの継続時間t-offと電源onの継続時間t-onの比であるt-off/t-onを0.1≦ t-off/t-on ≦ 1の範囲として、短冊状基板の両面へ同時に成膜することを特徴とする短冊状基板の成膜方法。
【請求項2】
短冊状基板の短尺方向の辺の長さwのうち、長さtの部分を基板固定冶具で固定して立直姿勢で短冊状基板を設置し、短冊状基板の長尺方向の辺と短尺方向の辺で作る面が平行となるように面間距離dの間隔で基板固定冶具に短冊状基板を複数配置させ、基板固定冶具の表面から短冊状基板の先端までの距離hと面間距離dの比であるd/hを0.2 ≦ d/h ≦ 1.2の範囲とし、wとtとの比t/wをt/w≦0.2の範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の短冊状基板の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−37576(P2010−37576A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199157(P2008−199157)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】