説明

石英ガラスルツボ及びその製造方法、並びにシリコン単結晶の製造方法

【課題】 シリコン単結晶を製造する際のシリコン単結晶の有転位化を回避し、かつ、高い耐熱性を有し、生産性、歩留まりの低下を抑制することができる石英ガラスルツボ及びその製造方法、並びにそのような石英ガラスルツボを用いたシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくとも、直接法又はスート法により合成石英ガラス材を作製する工程と、前記合成石英ガラス材を、粉砕することなくルツボ形状に加工する工程と、前記ルツボ形状に加工された合成石英ガラス材の外壁にシリカ粉末を溶着させる工程と、を含むことを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げに用いられる石英ガラスルツボ及びその製造方法、並びにそのような石英ガラスルツボを用いたシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造には、チョクラルスキー法(CZ法)と呼ばれる方法が広く採用されている。このチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造では、一般に、石英ガラスルツボ(石英ルツボとも呼ばれる)の内部に多結晶シリコン(ポリシリコン)を充填し、加熱により溶融してシリコン融液とし、このシリコン融液に種結晶を浸漬した後引き上げ、シリコン単結晶インゴットを育成する。
【0003】
従来より、シリコン単結晶の育成中に、高温下で石英ガラスルツボに含まれる気泡が膨張し、ルツボ内表面が剥離してシリコン単結晶が有転位化すること(例えば、特許文献1参照)や、石英ガラスルツボ表面がアモルファスからクリストバライトに変わり、このクリストバライトの剥離によってシリコン単結晶が有転位化すること(例えば、特許文献2参照)が言われている。
【0004】
チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造中の石英ガラスルツボ表面のクリストバライト化(結晶化)については、特許文献3や特許文献4によると、「結晶化の初期段階では結晶生成核を基点として点状に発生し、単結晶引上げの進行にともなって、結晶化はリング状に広がる」、「このような結晶化の進展現象により結晶化斑点が生成される。この結晶化斑点の外周部は茶色を呈しているので、茶褐色斑点と呼ばれることもある。」、「結晶化斑点は、単結晶引上げ時間、すなわち、シリコン融液と石英ルツボの内表面とが直接接触する時間の経過とともに増加するが、所定の時間が経過すると結晶化斑点は一定の密度に収束して推移する」と記載されている。また、「かかる結晶化斑点はいったん生成した後、シリコン融液により溶解し始め、次第に結晶化斑点の大きさが小さくなる」とも記載されている。
【0005】
この石英ガラスルツボ表面のクリストバライト化は、ルツボ中のアルカリ金属などの不純物濃度が高いと促進されると言われている。また、デバイス特性への影響を考えても、不純物濃度は低い方が良い。よって、石英ガラスルツボには気泡がないことや不純物濃度が低いことが求められる。
【0006】
気泡が無く、不純物濃度も極めて低い合成石英ガラスの製造方法として、直接法やスート法が挙げられる。直接法とは、四塩化ケイ素(SiCl)などのケイ素化合物を酸水素火炎中で加水分解することにより直接堆積・ガラス化させて合成する方法である。また、スート法とは、以下のような手順で合成石英ガラスを製造する方法である。まず、直接法よりも低温の約1100℃で、四塩化ケイ素(SiCl)などのケイ素化合物を酸水素火炎中で加水分解することにより、多孔質のシリカのかたまり(スート)を合成する。これを、塩素系化合物などの適当なガス中で熱処理して水分を除去する。最後に、約1500℃以上の温度で回転させながらスートを引き下げて下端から順に加熱してガラス化していく(非特許文献1参照)。
【0007】
これらの合成石英ガラスを用いて石英ガラスルツボを作ればシリコン単結晶の有転位化を回避できるが、ルツボ自体の耐熱性(耐熱変形性、変形耐性とも言う)が低い(すなわち、高温下で変形しやすい)という問題がある。この耐熱性の問題を解決する方法として、例えば、(1)シラン化合物から合成された合成石英ガラスを粉砕し、真空下で加熱溶融し、ルツボに成形する方法(特許文献5)や、(2)シラン化合物の直接火炎法によって製造された、水素分子含有量が1×1017molecules/cm以上である合成石英ガラス部材を粉砕、粒度調整、洗浄の各工程を経て合成石英ガラス粉としたのち、これを真空下にて1500〜1900℃で電気溶融し、成型する方法(特許文献6)が挙げられる。
【0008】
特許文献5の方法では、合成石英ガラスを粉砕し、その際の粒度を600μm以下と規定して、これを10−1Torr、1500〜1900℃で真空加熱溶融をすることにより水酸基・塩素の含有量を低下させて耐熱性の良い合成石英ガラスルツボを作ることができる。真空加熱溶融なのでルツボ内に1mm以上の気泡は無い。これは、通常のアーク溶融法によって製造した石英ガラスルツボの気泡レベル(例えば、ルツボ1つあたり、1〜2mmの気泡3個程度、2mm以上の気泡なし)よりも良好である。なお、アーク溶融法とは、回転している型内に原料粉を供給しルツボ状の原料粉体層を形成し、その内側からアーク放電加熱し溶融して石英ガラスルツボを製造する方法(例えば、特許文献7参照)や、1組のアーク電極付近に原料粉を供給し、供給された原料粉をアーク放電加熱し溶融して、対象物に溶着及び堆積させる方法のことをいう。
【0009】
また、特許文献6の方法によれば、合成石英ガラス部材を水素分子含有量が1×1016molecules/cm以上で歪点が1130℃以上、OH基含有量、塩素含有量がいずれも1ppm以下のものとしたものは、高純度であり、高温における粘度が例えば1400℃で1010ポイズ以上とすることができ、したがってこれをシリコン単結晶引き上げ用ルツボ材とすることができる。
【0010】
また、特許文献8には、石英原料粉を不活性ガス雰囲気下で溶融し、さらに2000℃以上、0.05torr以上の真空度に5時間以上保持して精製して得た石英ガラス片を、石英ガラスルツボの内表面に貼り合わせ、加熱溶融して一体化する方法が開示されている。また、その加熱溶融方法として、アーク放電や酸水素炎バーナ等を用いることが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−329493号公報
【特許文献2】特開2001−342029号公報
【特許文献3】特開2001−240494号公報
【特許文献4】特開平11−228291号公報
【特許文献5】特開平8−40735号公報
【特許文献6】特開平8−48532号公報
【特許文献7】特開2005−239533号公報
【特許文献8】特開2004−2082号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】非晶質シリカ材料応用ハンドブック、リアライズ社、1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げの際のシリコン単結晶の有転位化の回避のため、石英ガラスルツボは高純度(すなわち、不純物が少ない)で、かつ気泡が無いものが求められ、さらに、同時にルツボの耐熱性も必要である。
【0014】
特許文献5及び特許文献6の方法のいずれも合成石英を粉砕しているため、アーク溶融法よりはルツボ内の気泡が少ないといえども皆無ではない。そのため、昨今のシリコン単結晶の大型化により石英ガラスルツボへの熱負荷も大きくなっている現状では、シリコン単結晶製造中にルツボ内の気泡が膨張してしまう。これが原因となってシリコン単結晶が有転位化する場合が多いという問題があった。
【0015】
また、特許文献8の方法で用いている石英材料は、合成石英の粉を溶融し、精製した石英ガラス片である。従って、石英ガラス片中に少なからず気泡が存在している。そのため、特許文献8に開示された石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶を製造しても、シリコン単結晶の有転位化を十分抑制できないという問題がある。また、加熱溶融方法にしても、ガラス片を石英ガラスルツボに酸水素炎バーナで溶着することは、うまく熱を伝えることができず、現実的には非常に難しい。また、ルツボが大型化すると、酸水素炎バーナやアーク放電では局所的な加熱による大きな温度勾配によりルツボや石英ガラス片が割れる可能性が高く、現実に溶着するのは非常に困難である。
【0016】
このような問題点を解決する方法として、直接法またはスート法により合成石英ガラスを作製し、該合成石英ガラスを粉砕することなくルツボ形状に加工し、該ルツボ形状に加工された合成石英ガラスを、石英ガラスからなるルツボ基材の内面に溶着させて石英ガラスルツボを製造する方法を考案した。
【0017】
このような方法であれば、実質的に気泡を含まず、また、不純物濃度も極めて低い内ルツボ(ルツボ形状に加工された合成石英ガラス)を作製することができる。そしてこの内ルツボを外ルツボ(ルツボ基材)の内面に溶着するので、気泡やクリストバライトに起因するシリコン単結晶の有転位化を回避することができる耐熱性にも優れた石英ガラスルツボを製造することができる。
【0018】
しかしこのような方法においては、外ルツボの内面形状にぴったりと合った外面形状を持つ内ルツボを作るのは容易ではなく、内ルツボの外壁と外ルツボの内壁との間に間隙が出来てしまう場合がある。この間隙が単結晶製造時の加熱によって広がり、ルツボが膨張してしまうと、操業の経過に伴うルツボの上昇によりルツボ上部にある炉内部品と干渉して破損してしまう危険がある。従って、このようなルツボの膨張が確認された場合には操業を途中で止めざるを得ず、これによって引き上げ中の結晶を規定長さ通りに引き上げることが出来なくなり、また複数本の単結晶棒を引き上げる場合はマルチ回数(多結晶シリコン原料のルツボへの再充填回数のことをいう。)を減らすことになり、生産性、歩留まりが低下してしまう問題があった。
【0019】
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、シリコン単結晶を製造する際のシリコン単結晶の有転位化を回避し、かつ、高い耐熱性を有し、生産性、歩留まりの低下を抑制することができる石英ガラスルツボ及びその製造方法、並びにそのような石英ガラスルツボを用いたシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、少なくとも、直接法又はスート法により合成石英ガラス材を作製する工程と、前記合成石英ガラス材を、粉砕することなくルツボ形状に加工する工程と、前記ルツボ形状に加工された合成石英ガラス材の外壁にシリカ粉末を溶着させる工程と、を含むことを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法を提供する。
【0021】
このような方法であれば、直接法又はスート法により作製された合成石英ガラス材を粉砕することなくルツボ形状に加工するため、実質的に気泡を含まず、また、不純物濃度も極めて低いままルツボ形状を有する合成石英ガラス材とすることができる。また、この合成石英ガラス材の外壁にシリカ粉末を溶着するので、製造される石英ガラスルツボのうち、この合成石英ガラス材からなる部分を、シリコン単結晶を製造する際のシリコン融液と接触するルツボ内面とすることができ、気泡やクリストバライトに起因するシリコン単結晶の有転位化を回避することができる。
【0022】
さらに、合成石英ガラス材の外壁にシリカ粉末を溶着させ、不透明シリカ層として堆積させることによって石英ガラスルツボとするため、内ルツボである合成石英ガラス材と外ルツボである不透明シリカ層との間には間隙が存在しない。従って、気泡やクリストバライトに起因するシリコン単結晶の有転位化を回避することができ、またシリコン単結晶引上げ時の加熱によって、従来技術において生じていた内ルツボの外壁と外ルツボの内壁との間が広がってしまい、これによってルツボが膨張し、炉内装置やルツボを破損させて操業を停止させなければならない事態に陥ってしまうようなことは起こらないため、生産性、歩留まりの低下を抑制できる石英ガラスルツボを製造することができる。
【0023】
またこのとき、前記シリカ粉末の溶着を、アーク溶融法を用いて行うことができる。
【0024】
このように、アーク溶融法であれば、容易にかつ低コストで合成ガラスルツボの外壁にシリカ粉末を溶着させることができるため、本発明においては特に好適である。
【0025】
またこのとき、前記シリカ粉末の溶着を、前記ルツボ形状に加工した合成石英ガラス材の内部に、該合成石英ガラス材の変形を防ぐための型を配置して行うことができる。
【0026】
このような型を配置してシリカ粉末の溶着を行えば、溶着時における熱によって合成石英ガラス材が変形してしまうことを防止することができる。
【0027】
また、本発明の石英ガラスルツボの製造方法では、前記合成石英ガラス材の作製において、前記合成石英ガラス材を厚さ1mm以上の板状のものとして作製することが好ましい。
【0028】
このように、合成石英ガラス材を厚さ1mm以上の板状のものとして作製すれば、ルツボ形状への加工の際の破損を防止することができる。
【0029】
また、本発明の石英ガラスルツボの製造方法では、前記合成石英ガラス材のルツボ形状への加工において、一つの又は複数の前記合成石英ガラス材から前記ルツボ形状を構成することができる。
【0030】
このように、合成石英ガラス材のルツボ形状への加工は、一つの合成石英ガラス材からルツボ形状としてもよいし、複数の合成石英ガラス材を溶接等によって組み合わせてルツボ形状としてもよい。
【0031】
また、本発明は、少なくとも、粉砕されることなくルツボ形状に加工された合成石英ガラス材を具備し、該合成石英ガラス材は直接法又はスート法により作製され、実質的に気泡を含まないものであって、前記合成石英ガラス材の外壁に、シリカ粉末が溶着されることによって、不透明シリカ層が堆積されたものであることを特徴とする石英ガラスルツボを提供する。
【0032】
このような石英ガラスルツボであれば、直接法又はスート法により作製された合成石英ガラス材、すなわち、実質的に気泡を含まず、また、不純物濃度も極めて低い合成石英ガラス材の外壁に不透明シリカ層を堆積した石英ガラスルツボであるので、シリコン単結晶を製造する際に、気泡やクリストバライトに起因するシリコン単結晶の有転位化を回避することができる。また、石英ガラスルツボの耐熱性を確保することができる。
さらに、合成石英ガラス材の外壁に、シリカ粉末が溶着されることによって不透明シリカ層が堆積されているため、合成石英ガラス材と不透明シリカ層との間には間隙が存在しない。従って単結晶製造時の加熱によってルツボが膨張し、操業を停止させなければならない事態に陥るようなことは起こらないため、生産性、歩留まりの低下を抑制することができる。
【0033】
また、前記合成石英ガラス材は、厚さが1mm以上であることが好ましい。
【0034】
このように、合成石英ガラス材の厚さを1mm以上とすれば、ルツボ形状への加工の際の破損を防止することができる。また、シリコン単結晶の製造中に、合成石英ガラス材の溶解による、シリコン融液と不透明シリカ層の接触を防止することができる。これにより、シリコン融液を、実質的に気泡を含まず、また、不純物濃度も極めて低い合成石英ガラス材の内表面と常に接触させることができ、より効果的にシリコン単結晶の有転位化を回避することができる。
【0035】
また、本発明は、上記のいずれかの石英ガラスルツボの内部にシリコン融液を保持し、該シリコン融液からチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げることによってシリコン単結晶を製造することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0036】
このように、本発明の石英ガラスルツボを用いたチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であれば、気泡やクリストバライトに起因するシリコン単結晶の有転位化を回避し、さらにはルツボの膨張による操業の停止に起因する生産性、歩留まりの低下を抑制しながらシリコン単結晶を製造することができる。
【発明の効果】
【0037】
以上のように、本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法であれば、直接法又はスート法により作製され、粉砕もされていないことから、実質的に気泡を含まず、また、不純物濃度も極めて低い合成石英ガラス材を、シリコン単結晶を製造する際のシリコン融液と接触するルツボ内面として石英ガラスルツボを製造することができる。また、合成石英ガラス材の外壁にシリカ粉末を溶着させ、不透明シリカ層を堆積させることによって、単結晶製造時の加熱によるルツボの膨張を抑制することができる。そしてこのような石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の製造を行えば、気泡やクリストバライトに起因するシリコン単結晶の有転位化を回避し、さらに炉内装置やルツボの破損による操業の停止を回避し、生産性、歩留まりの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の石英ガラスルツボの概略断面図を示した図である。
【図2】アーク溶融法により、シリカ粉末を合成石英ガラス材の外壁に溶着させるときの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
本発明の石英ガラスルツボの一例として、図1に示したような石英ガラスルツボについて説明する。
本発明の石英ガラスルツボ10は、少なくとも、ルツボ形状の合成石英ガラス材30と、合成石英ガラス材30の外壁に堆積された不透明シリカ層20とを具備する。この合成石英ガラス材30は、直接法又はスート法により作製され、実質的に気泡を含まないものである。
【0041】
合成石英ガラス材30は、後述するように、直接法又はスート法により作製した合成石英ガラス材を、粉砕することなくルツボ形状に加工して形成したものである。
石英ガラスルツボ10を構成する材料として、熱変形しやすい合成石英ガラス材30を用いても、不透明シリカ層20の内部に位置するので、耐熱性を不透明シリカ層20に担わせることができ、石英ガラスルツボ10の耐熱性を確保することができる。
【0042】
ここで、不透明シリカ層20の性質は特には限定されず、層の厚さ、含まれる気泡のサイズ、密度、表面の平坦度等は通常用いられる石英ルツボと同程度のものであれば良い。
【0043】
このような石英ガラスルツボ10は、以下のようにして製造することができる。
【0044】
まず、ルツボ形状の合成石英ガラス材30を以下のようにして準備する。
【0045】
直接法又はスート法により合成石英ガラス材を作製する(工程a)。直接法又はスート法によれば、実質的に気泡を含まず、また、不純物濃度も極めて低い合成石英ガラス材を作製することができる。
【0046】
ここで、直接法とは、四塩化ケイ素(SiCl)などのケイ素化合物を酸水素火炎中で加水分解することにより直接堆積・ガラス化させて合成する方法である(非特許文献1参照)。
【0047】
また、スート法とは、以下のような手順で合成石英ガラスを製造する方法である(非特許文献1参照)。まず、直接法よりも低温の約1100℃で、四塩化ケイ素(SiCl)などのケイ素化合物を酸水素火炎中で加水分解することにより、多孔質のシリカのかたまり(スート)を合成する。これを、塩素系化合物などの適当なガス中で熱処理して水分を除去する。最後に、約1500℃以上の温度で回転させながらスートを引き下げて下端から順に加熱してガラス化していくことにより、合成石英ガラス材を得ることができる。
【0048】
このとき、合成石英ガラス材を厚さ1mm以上の板状のものとして作製することが好ましい。合成石英ガラス材の厚さが1mm以上であれば、後述のように、ルツボ形状への加工の際の破損を防止することができる。一方、合成石英ガラス材の厚さは10mm以下であることが望ましい。このような厚さであれば、R加工などの工数が増えすぎることがない。また、板状の合成石英ガラス材はフォトマスク用などとして市販もされており、容易に入手可能である。
【0049】
次に、合成石英ガラス材を、粉砕することなくルツボ形状に加工する(工程b)。これにより、図1に示したようなルツボ形状を有する、合成石英ガラス材30とすることができる。
【0050】
この工程では、直接法又はスート法により作製された合成石英ガラス材を粉砕することなく加工するため、実質的に気泡を含まず、また、不純物濃度も極めて低いまま、ルツボ形状の合成石英ガラス材30とすることができる。また、工程数も減少することから、安価に準備することができる。
【0051】
なお、本発明の石英ガラスルツボの製造では行わない、「合成石英ガラス材の粉砕」とは、合成石英ガラス材から粉末(例えば、平均粒径1mm以下の粉末)への加工を意味し、すなわち、直接法またはスート法により製造した合成石英ガラス材から塊状、板状等の形状に切り出し、加工すること等は含まない。本発明の石英ガラスルツボの製造においては、このような切り出し、加工等を行うことができる。
【0052】
この工程bでは、合成石英ガラス材がルツボ形状となるように加工すればよく、その具体的な方法は特に限定されない。ルツボ形状の合成石英ガラス材30の作製の際には適宜歪除去熱処理や、加工工程中に導入された不純物を除去するための酸洗浄などを行うことができる。また、合成石英ガラス材のルツボ形状への加工において、一つの合成石英ガラス材からルツボ形状を構成してもよいし、複数の合成石英ガラス材からルツボ形状を構成してもよい。
【0053】
一つの合成石英ガラス材からルツボ形状を構成するには、例えば、カーボン製や合成石英製の治具に熱をかけながら押し付け、または合成石英ガラス材の自重により一気にルツボ形状へと加工することができる。このような場合、合成石英ガラス材を板状としておけば加工が容易となり、好ましい。
【0054】
複数の合成石英ガラス材からルツボ形状を構成する場合には、各々の合成石英ガラス材をルツボ形状へと加工しやすい合成石英ガラス片とすることができる。このような合成石英ガラス片の個々の形状は特に限定されない。
複数の合成石英ガラス材は、R加工等や酸水素炎バーナー等を用いた溶接により、複数の合成石英ガラス材からルツボ形状を構成するようにすることができる。このような加工及び溶接等は、後述のシリカ粉末を溶着する工程(工程c)よりも前に行えばよい。
【0055】
以上のような工程a及び工程bを経て、ルツボ形状の合成石英ガラス材30が準備される
【0056】
次に、ルツボ形状に加工した合成石英ガラス材30の外壁に、シリカ粉末を溶着し(工程c)不透明シリカ層20として堆積させて、石英ガラスルツボ10を製造する。
【0057】
ここで、シリカ粉末の溶着方法としては、アーク溶融法を用いることが好ましい。アーク溶融法を用いて溶着を行う場合、具体的には以下のようにすることができる。
【0058】
まず、図2のようにルツボ形状の合成石英ガラス材30の開口部を下にするか、もしくは上にした状態で蓋をすることによって、合成石英ガラス材30の内部にシリカ粉末が入らないようにする。
次に合成石英ガラス材30の外側に1組のアーク電極40を用意し、シリカ粉末50をアーク電極40付近へと供給するためのシリカ粉末供給手段60を用いて、シリカ粉末50をアーク電極付近に供給する。
そしてシリカ粉末50を溶融ガラス化させ、不透明シリカ層20を合成石英ガラス材30の外壁に堆積させ、石英ガラスルツボ10を製造する。
【0059】
このとき、合成石英ガラス材30がアーク溶融による熱によって変形してしまうことを抑止するため、合成石英ガラス材30の内側に型70を配置しても良い。またこの型70は、その後製造される石英ガラスルツボ10を用いてシリコン単結晶を引上げる際にシリコン融液を汚染しないように、石英ガラス製であることが好ましい。
さらに、前記型70を石英ガラス製の型とした場合、この石英ガラス製の型が熱によって変形するのを抑止するために、内部にカーボン製やステンレス製等の型を入れても良い。この場合、内部の型がステンレス製の場合は水冷構造とするのが好ましい。
【0060】
以上のような工程a〜cを経て、図1に示した石英ガラスルツボ10を製造することができる。
【0061】
このような本発明に係る石英ガラスルツボ10を用いてチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造すれば、気泡やクリストバライトに起因するシリコン単結晶の有転位化を回避してシリコン単結晶を製造することができる。
【0062】
本発明の石英ガラスルツボ10を用いること以外は、通常通りのチョクラルスキー法によってシリコン単結晶を製造することができる。すなわち、本発明の石英ガラスルツボ10の内部にシリコン融液を保持し、該シリコン融液からチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げることによってシリコン単結晶を製造する。また、磁場をかけながらシリコン単結晶の育成を行うなど、チョクラルスキー法に関する公知の手法を適宜行うことができる。
【0063】
なお、石英ガラスルツボ10を構成する合成石英ガラス材30は厚さ1mm以上とすることが好ましい。このようにするためには、例えば、合成石英ガラス材の作製(工程a)において合成石英ガラス材を厚さ1mm以上の板状のものとして作製し、これをルツボ形状に加工し、シリカ粉末を溶着して不透明シリカ層20を堆積することなどにより行うことができる。
【0064】
合成石英ガラス材30が厚さ1mm以上であれば、ルツボ形状への加工の際の破損を防止することができる。また、シリコン単結晶の製造中に、合成石英ガラス材30の溶解による、シリコン融液と不透明シリカ層20の接触を防止することができる。これにより、シリコン融液を、実質的に気泡を含まず、また、不純物濃度も極めて低い合成石英ガラス材30の内表面と常に接触させることができ、より効果的にシリコン単結晶の有転位化を回避することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0066】
(実施例1)
直接法で作製した厚さ5mmの合成石英ガラスの板を直径620mmのルツボ形状に変形・加工したもの用意し、これの外壁にアーク溶融法でシリカ粉末を溶着し、厚さ20mmの不透明シリカ層を堆積させ、石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボに170kgの多結晶シリコン原料を充填し、多結晶シリコン原料の溶融を行った。
このようなルツボを10個(10バッチ)用意して、それぞれのルツボにおいて2本引きでシリコン結晶を引き上げた。その結果、全てのルツボで1本目、2本目共にルツボは膨張や変形をしなかった。そして1本目も2本目もシリコン結晶は一度も有転位化することなく、再溶融無しで全20本の結晶がDF(無転位)で引き上がり、当初の予定通りに2本引きの操業を終えることが出来た。このときの結果を下記表1に示す。
【0067】
(比較例1)
直径660mmの石英ルツボの内側に、直径620mmの、直接法で作製した厚さ5mmの合成石英ガラスの板をルツボ形状に変形・加工したものをセットし、外ルツボである従来の石英ルツボの内壁と、内ルツボであるルツボ形状に加工した合成石英ガラスの板の外壁とを、電気炉を用いて溶着させた。これに170kgの多結晶シリコン原料を充填し、多結晶シリコン原料の溶融を行った。このとき、内ルツボと外ルツボの間には間隙が生じていた。
このようなルツボを10個(10バッチ)用意して、それぞれのルツボにおいて2本引きでシリコン結晶を引き上げた。その結果、全てのルツボで1本目は内ルツボと外ルツボの間隙が膨らむことは無く、内ルツボは膨張しなかった。また、シリコン結晶は一度も有転位化することなく、再溶融無しで10本のDF(無転位)結晶を得ることが出来た。しかし2本目では、2個のルツボで内ルツボが膨張してしまい、結晶引き上げを断念せざるを得なかった。このときの結果を下記表1に示す。
【0068】
(比較例2)
従来の直径660mmの石英ルツボ(合成石英ガラスを用いず、アーク溶融法により作製されたもの)に170kgの多結晶シリコン原料を充填し、多結晶シリコン原料の溶融を行った。
このようなルツボを10個(=10バッチ)用意して、それぞれのルツボにおいて2本引きでシリコン結晶を引き上げた。その結果、10個のルツボの合計で、1本目では9回、2本目では5回、シリコン結晶は有転位化した。これらは再溶融をすることで最終的には全20本のDF(無転位)結晶を得ることが出来たが、再溶融による生産性の低下が発生した。このときの結果を下記表1に示す。
尚、比較例2においては従来の外ルツボのみで構成される石英ルツボを用いているため、内ルツボと外ルツボとの間隙が単結晶製造時の加熱によって広がってしまうことに起因するルツボの膨張は当然発生しない。このため下記表1においては、実施例1の結果と区別できるように斜線で示してある。
【0069】
【表1】

【0070】
表1からわかるように、本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法に従い、気泡が無く、不純物濃度も極めて低い合成石英ガラス材をルツボ内面部の構成材料とすれば、シリコン単結晶の有転位化を抑制することができる。またその際に、合成石英ガラス材の外壁にシリカ粉末を溶着させ、不透明シリカ層を堆積させることにより、これら合成石英ガラス材と不透明シリカ層との間に間隙は生じないため、単結晶製造時の加熱によって製造中のルツボが膨張してしまうことを抑制することができる。
【0071】
なお、上記の比較例において、有転位化した場合には、その後に再溶融を行い、再びシリコン単結晶を育成しており、最終的には無転位のシリコン単結晶が得られている。しかし製造時間を短縮して生産性を向上するためには有転位化を回避することが求められるため、本発明は生産性向上に極めて有効である。しかも、シリコン融液に接しているのは、高純度の合成石英ガラスであるので、得られるシリコン単結晶の高純度化も図ることができる。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0073】
10…本発明の石英ガラスルツボ、 20…不透明シリカ層、
30…ルツボ形状の合成石英ガラス材、 40…アーク電極、 50…シリカ粉末、
60…シリカ粉末供給手段、 70…型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
直接法又はスート法により合成石英ガラス材を作製する工程と、
前記合成石英ガラス材を、粉砕することなくルツボ形状に加工する工程と、
前記ルツボ形状に加工された合成石英ガラス材の外壁にシリカ粉末を溶着させる工程と、
を含むことを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項2】
前記シリカ粉末の溶着を、アーク溶融法を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項3】
前記シリカ粉末の溶着を、前記ルツボ形状に加工した合成石英ガラス材の内部に、該合成石英ガラス材の変形を防ぐための型を配置して行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項4】
前記合成石英ガラス材の作製において、前記合成石英ガラス材を厚さ1mm以上の板状のものとして作製することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項5】
前記合成石英ガラス材のルツボ形状への加工において、一つの又は複数の前記合成石英ガラス材から前記ルツボ形状を構成することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項6】
少なくとも、粉砕されることなくルツボ形状に加工された合成石英ガラス材を具備し、
該合成石英ガラス材は直接法又はスート法により作製され、実質的に気泡を含まないものであって、前記合成石英ガラス材の外壁に、シリカ粉末が溶着されることによって、不透明シリカ層が堆積されたものであることを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項7】
前記合成石英ガラス材は、厚さが1mm以上であることを特徴とする請求項6に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の石英ガラスルツボの内部にシリコン融液を保持し、該シリコン融液からチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げることによってシリコン単結晶を製造することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−218980(P2012−218980A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87092(P2011−87092)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】