説明

研削方法および研削盤

【課題】研削面の加工変質状態を検出し、砥石車を適正な状態で無駄なく使用し、不良工作物を製造しない研削方法および研削盤。
【解決手段】研削加工中に工作物Wの研削面の加工変質状態を検出できる加工変質検出装置9を砥石台3に設け、工作物Wの研削加工面の加工変質層の厚みを仕上げ研削工程の前に渦電流サンサ12で計測し、加工変質層の厚みが仕上げ研削工程の半径研削量に達する前に、砥石車7の整形工程を実施し砥石車7の切れ味を復元させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤の研削作動の制御に関するものであり、詳しくは研削作用面の加工変質状態を検出し変質の状態に応じて砥石車の整形の要否判定をする研削方法および研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高能率な研削を行うと、発生する熱の影響で工作物の加工面に加工変質を生じることがある。熱の発生は一定の研削能率の設定でも砥石車の切れ味により異なる。砥石車の切れ味は研削に伴う砥石車の砥粒の磨耗や脱落で研削量の増加に伴い低下する。このため、発熱は研削量と共に増加していき所定以上に達すると加工変質が発生し、加工不良を発生する。これを防止するため、加工変質の発生する前に余裕を見た加工量で砥石車を整形して切れ味の復元向上を図っている。また、研削中に加工変質の発生状況を監視し、その状況に対応して研削条件を変更する従来技術(例えば、特許文献1参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平05−21705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、加工変質の発生する前に余裕を見た加工量で砥石車の整形を実施するため砥石車を無駄に消耗していた。
また、参考文献の技術では検出した加工変質の状態に応じて研削条件を変更することで加工変質を防止している、したがって、研削時間の変動を伴い一定の研削サイクル時間を維持することができない。そのため、工作物を多工程に分割して加工する加工ラインを構成する場合、当該研削盤の最長のサイクルタイムがラインサイクルタイムとなりラインとしての加工能率が低下する恐れがあった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、砥石を無駄なく使用し、サイクルタイムが一定で不良工作物を製造しない研削方法および研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、工作物を支持する工作物支持手段と、砥石車を支持し回転駆動させる砥石車支持手段と、前記砥石車の研削作用面を整形する砥石車整形手段と、工作物加工面の加工変質を検出する加工変質検出手段とを備えた研削盤を用いた研削方法において、
前記工作物支持手段と前記砥石車支持手段とを複数の送り速度と複数の送り量で相対移動させて前記工作物を研削する複数の研削工程と、
前記複数の研削工程の内の最終の研削工程の前に、前記加工変質を検出する加工変質検出工程と、
前記加工変質検出工程で検出した加工変質量が、所定の量である所定変質量に達したかどうかを判定する判定工程と、
前記判定工程で前記加工変質量が前記所定変質量に達したと判定された場合に、所定の時期に前記砥石車整形手段により前記砥石車の整形をする砥石車整形工程を備えたことである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、最終の研削工程の直前に前記加工変質検出工程を備えたことである。
【0008】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記最終研削工程における半径研削深さ以下の加工変質層の厚みを前記所定変質量とすることである。
【0009】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記加工変質検出手段を渦電流検出センサとすることである。
【0010】
請求項5に係る発明の特徴は、工作物を支持する工作物支持手段と、
砥石車を支持し回転駆動させる砥石車支持手段と、
前記工作物支持手段と前記砥石車支持手段とを相対移動させ、前記砥石車で前記工作物を研削する駆動手段と、
前記砥石車の研削作用面を整形する砥石車整形手段と、
研削作用中の工作物加工面の加工変質を検出する加工変質検出手段と、
研削工程の最終工程の前の工程において、前記加工変質検出手段で検出した加工変質層が、所定の厚みに達したかどうかを判定する判定手段と、
所定の厚みに達した場合に前記砥石車整形手段により前記砥石車を整形する制御手段を備えたことである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1と請求項2に係る発明によれば、研削終了後の加工変質層の厚みが所定の厚みに達するまで砥石車を使用し、所定の厚みを超えたときに砥石車整形手段により砥石車の整形をすることが可能となる。そのため、砥石車を無駄なく使用し、研削サイクルタイムが一定で、不良工作物を製造しない研削加工を実現できる
【0012】
請求項3に係る発明によれば、研削工程終了後に加工変質層が残らない限界まで砥石車を使用し、加工変質層が残る直前で砥石車整形手段により砥石車の整形をすることが可能となる。そのため、砥石車を無駄なく使用し、研削サイクルタイムが一定で、不良工作物を製造しない研削加工を実現できる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、渦電流検出センサで研削面の焼け、割れ、白層、軟化を加工変質として検出できる。
【0014】
請求項5に係る発明によれば、研削終了後の加工変質層の厚みが所定の厚みに達するまで砥石車を使用し、所定の厚みを超えたときに、砥石車整形手段により砥石車の整形をすることが可能となる。このため、砥石車を無駄なく使用し、研削サイクルタイムが一定で、不良工作物を製造しない研削盤を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の研削盤の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】本実施形態の研削作用時の工作物と加工変質検出装置を示す側面図である。
【図4】本実施形態の研削方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を円筒状の工作物を回転駆動させながら研削する円筒研削盤の実施事例に基づき、図1〜図4を参照しつつ説明する。
図1に示すように、研削盤1は、ベッド2を備え、ベッド2上にX軸方向に往復可能な砥石台3と、X軸に直交するZ軸方向に往復可能なテーブル4を備えている。砥石台3は砥石車7を回転自在に支持し、砥石車7を回転させる砥石軸回転モータ(図示省略する)を備えており、砥石車7は回転駆動される。テーブル4上には、工作物Wの一端を把持して回転自在に支持し主軸モータ(図示省略する)により回転駆動される主軸5と、工作物Wの他端を回転自在に支持する心押し台6を備えており、工作物Wは主軸5と心押し台6により支持されて、研削加工時に回転駆動される。ツルーイングモータ10により回転駆動されるツルーイングロール8を回転自在に支持した砥石車整形装置9が、主軸5に付設されている。工作物Wの研削面の加工変質を検出する加工変質検出装置11が砥石台3の上面に設置されており、加工変質検出装置11の先端に検出ヘッド12が研削中に工作物Wの研削面に接触し加工変質を検出可能となるように配置されている。
加工変質検出装置11としては一般に知られている渦電流検出センサやバルクハウゼンノイズ検出センサなどを用いればよい。
【0017】
この研削盤1は、所定のプログラムを実行することで自動化された研削加工や砥石車整形を実行する制御装置30を備えている。制御装置30の機能的構成として、砥石台3の送りを制御するX軸制御手段31、テーブル4の送りを制御するZ軸制御手段32、砥石車整形装置9を制御する砥石車整形装置制御手段33、砥石車7の回転を制御する砥石軸制御手段34、加工変質検出装置11を制御する加工変質検出装置制御手段35、加工変質検出データを判定する判定手段36などを具備している。
【0018】
1サイクルの研削は砥石車7と工作物Wを回転させながら、図4に示すフローチャートのように行う。
砥石車7が工作物Wの研削位置に対向する位置へテーブル4を割出す(STP1)。砥石台3を速送りで前進させ砥石車7を工作物Wに接近した研削開始位置に送る(STP2)。次に、加工変質検出装置11により検出ヘッド12が工作物加工面に接触する位置まで送る(STP3)。次に、荒研削工程で研削切込み速度V1で砥石車7を所定量切込む(STP4)。次に、中仕上げ研削工程で荒研削より小さな研削切込み速度V2で砥石車7を所定量切込む(STP1)、このとき、加工変質検出装置11により研削面の加工変質層の厚みTを検出し加工変質検出制御手段に加工変質層厚みTとして格納する(STP6)。次に、仕上げ研削工程で中仕上げ研削より小さな研削切込み速度V3で砥石車7を所定量切込み(STP7)、一連の研削工程を終了する。砥石台を研削盤源位置まで後退させる(STP8)。次に、変質層の厚みTとあらかじめ格納されている基準値Hを判定手段36で比較し(STP9)、T<Hならば研削の1サイクルを終了する。T≧Hならば砥石車整形が必要と判定され、砥石車整形サイクルを実行し(STP10)、砥石車整形サイクル終了後研削の1サイクルを終了する。
ここで、最終研削工程の直前に加工変質検出工程を実施するとは加工変質検出工程と最終研削工程の間に研削を伴わない別の工程を挿入した場合も含み、上記の仕上げ研削工程の直前に加工変質検出工程を実施したのと同等の効果がある。
【0019】
上記の研削サイクルで研削された工作物の加工変質層の厚みEは、仕上げ研削工程での半径研削深さをSとするとE=T−Sとなる。T≦Sに設定しておくと、中仕上げ工程で残っていた加工変質層は仕上げ工程で除去されることになる。つまり、基準値Hの値を仕上げ研削工程での半径研削深さSに対してS≧Hと設定することで、砥石車7の切れ味が研削に連れて低下してTが増加してS≧Tの状態になると砥石整形サイクルを実施する。このため、加工終了後に加工変質層が残る状態に達する以前に砥石整形サイクルを実施して砥石車の切れ味を復元向上させることができる。
以上の結果、工作物の不良品を製造することなく、砥石を寿命限界まで有効利用できる。
【0020】
<本実施形態の変形態様>
上記の実施形態では、加工変質検出装置11を砥石台3に設置したが、テーブル4上に設置してもよい。
砥石車の送りを停止したスパークアウト工程を仕上げ研削工程の後に付加した研削サイクルの場合は、スパークアウト工程における半径研削深さをPとするとS+P≧Hと設定してもよい。
また、仕上げ研削工程での半径研削深さSに代えて、仕上げ研削工程での切込み量の値を用いてもよい。
また、研削終了後にある程度の加工変質層が残ってもよい場合は、許容変質層の厚みをRとすると、S+R≧Hと設定してもよい。
【符号の説明】
【0021】
W:工作物 3:砥石台 4:テーブル 5:主軸 6:心押代 7:砥石車 9:砥石車整形装置 11:加工変質検出装置 12:加工変質検出ヘッド 30:制御装置 35:加工変質検出装置制御手段 36:判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物を支持する工作物支持手段と、砥石車を支持し回転駆動させる砥石車支持手段と、前記砥石車の研削作用面を整形する砥石車整形手段と、工作物加工面の加工変質を検出する加工変質検出手段とを備えた研削盤を用いた研削方法において、
前記工作物支持手段と前記砥石車支持手段とを複数の送り速度と複数の送り量で相対移動させて前記工作物を研削する複数の研削工程と、
前記複数の研削工程の内の最終の研削工程の前に、前記加工変質を検出する加工変質検出工程と、
前記加工変質検出工程で検出した加工変質量が、所定の量である所定変質量に達したかどうかを判定する判定工程と、
前記判定工程で前記加工変質量が前記所定変質量に達したと判定された場合に、所定の時期に前記砥石車整形手段により前記砥石車の整形をする砥石車整形工程を備えた研削方法。
【請求項2】
最終の研削工程の直前に前記加工変質検出工程を備えた請求項1に記載の研削方法。
【請求項3】
前記最終研削工程における半径研削深さ以下の加工変質層の厚みを前記所定変質量とする請求項1または請求項2に記載の研削方法。
【請求項4】
前記加工変質検出手段を渦電流検出センサとする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の研削方法。
【請求項5】
工作物を支持する工作物支持手段と、
砥石車を支持し回転駆動させる砥石車支持手段と、
前記工作物支持手段と前記砥石車支持手段とを相対移動させ、前記砥石車で前記工作物を研削する駆動手段と、
前記砥石車の研削作用面を整形する砥石車整形手段と、
研削作用中の工作物加工面の加工変質を検出する加工変質検出手段と、
研削工程の最終工程の前の工程において、前記加工変質検出手段で検出した加工変質層が、所定の厚みに達したかどうかを判定する判定手段と、
所定の厚みに達した場合に前記砥石車整形手段により前記砥石車を整形する制御手段を備えた研削盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−245592(P2011−245592A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121124(P2010−121124)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】