説明

研削方法

【課題】 良好な品質で研削を行う。
【解決手段】 (a)作用面上の周方向に沿って第1の方向が固定的に画定された砥石であって、作用面上に交差するドレッシング痕が形成されないように、作用面をドレスされた砥石を準備する。(b)被研削面に第2の方向が固定的に画定された研削対象物を準備する。(c)ドレスされた砥石の作用面を研削対象物の被研削面に接触させ、砥石を回転させながら、回転する砥石の作用面が第2の方向と平行な方向に沿って、研削対象物の被研削面上を移動するように、砥石と研削対象物とを相対的に移動させて、研削対象物の被研削面を研削する。工程(c)は、(c1)砥石が研削対象物の被研削面と接触する位置における第1の方向と、第2の方向とを同一の方向とする条件で、砥石を、第1の方向に回転させるとともに、研削対象物上を第2の方向に移動させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転砥石を用いて被加工物の被加工面を研削する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図10(A)〜(C)を参照して、従来の研削加工技術の概略について説明する。
【0003】
図10(A)は、研削装置を示す一部概略図である。ワーク20が、ステージ30にチャックされる。ステージ30は、ワーク20をx軸方向と平行な方向(図の左右方向)に移動可能に保持する。
【0004】
円筒状の砥石10が、y軸方向(紙面垂直方向)に延在する回転軸10aの周囲に回転可能に保持される。砥石10は、回転軸10aを介してモータにより、たとえばy軸負方向(紙面手前方向)から見たとき、反時計回りに790rpmの回転速度で、回転軸10aの周囲を回転(自転)する。
【0005】
回転する砥石10の円筒側面(作用面)をワーク20の被研削面20aに接触させ、ステージ30でワーク20をx軸負方向(図の左方向)に送りながら、被研削面20aの研削が行われる。ワーク20をx軸負方向に送りながら行う研削が終了したら、ワーク20はステージ30によりx軸正方向(図の右方向)に送られ、被研削面20aの同じ箇所が反対方向から研削される(往復研削)。ステージ30によるワーク20の送り速度は、x軸正方向、x軸負方向ともに、たとえば0.5m/secである。砥石10の回転方向、及び回転速度は、往路と復路で変化しない。
【0006】
なお、砥石10は、回転軸10を介して、z軸方向(図の上下方向)に移動させることができる。
【0007】
図10(B)に砥石10の平面図及び側面図を示す。砥石10の平面形状は、たとえば直径600mmの円形であり、作用面10bの幅は、たとえば100mmである。
【0008】
図10(C)を参照する。砥石10を用いた研削加工を長時間行うと、砥石10の作用面10bにたとえば目詰まりが生じ、研削効率の低下等の問題が生じる。
【0009】
そこで、目詰まり等の不具合を解消するために、砥石10のドレッシング(目直し)が行われる。ドレッシングとは、たとえば切れ刃の鋭利化とチップポケットの創成のため、ワークを研削する前に、ダイヤモンドで形成されたドレッサーで砥石10を削る作業をいう。
【0010】
ドレッシングに当たっては、たとえばy軸を回転中心としてその周囲を一方向(図のθ方向)に回転する砥石10の作用面10bに、固定的に配置されたドレッサー40を接触させる。そして、砥石10を、まずy軸負方向へ移動させて、ドレッサー40により作用面10bをドレッシングする。続いて、砥石10を、y軸正方向へ移動させて反対方向にドレッシングを行う(往復ドレス)。ドレッシングにおいて、砥石10の回転方向と回転速度は一定である。また、y軸正負方向への砥石10の移動速さは等しい一定値をとる。
【0011】
ワークを一方向に研削(片側研削)することで、毛羽立ちを抑止し、表面均一性に優れた、高い光沢の加工ワークを得る研削方法の発明が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0012】
また、ワーク20の研削においては、被研削面20aの加工方向(図10(A)においてはx軸方向)と直交する方向に、縞、いわゆる「びびり模様」が、砥石10の振動に起因して現れることが知られている。
【0013】
【特許文献1】特開2002−346888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、良好な品質で研削加工を行うことができる研削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一観点によれば、(a)作用面上の周方向に沿って第1の方向が固定的に画定された砥石であって、該作用面上に交差するドレッシング痕が形成されないように、該作用面をドレスされた砥石を準備する工程と、(b)被研削面に第2の方向が固定的に画定された研削対象物を準備する工程と、(c)前記ドレスされた砥石の作用面を前記研削対象物の被研削面に接触させ、前記砥石を回転させながら、前記回転する砥石の作用面が前記第2の方向と平行な方向に沿って、前記研削対象物の被研削面上を移動するように、前記砥石と前記研削対象物とを相対的に移動させて、前記研削対象物の被研削面を研削する工程とを有し、前記工程(c)は、(c1)前記砥石が前記研削対象物の被研削面と接触する位置における前記第1の方向と、前記第2の方向とを同一の方向とする条件で、前記砥石を、前記第1の方向に回転させるとともに、前記研削対象物上を前記第2の方向に移動させる工程、(c2)前記砥石が前記研削対象物の被研削面と接触する位置における前記第1の方向と、前記第2の方向とを同一の方向とする条件で、前記砥石を、前記第1の方向と反対方向に回転させるとともに、前記研削対象物上を前記第2の方向と反対方向に移動させる工程、(c3)前記砥石が前記研削対象物の被研削面と接触する位置における前記第1の方向と、前記第2の方向とを反対の方向とする条件で、前記砥石を、前記第1の方向に回転させるとともに、前記研削対象物上を前記第2の方向と反対方向に移動させる工程、(c4)前記砥石が前記研削対象物の被研削面と接触する位置における前記第1の方向と、前記第2の方向とを反対の方向とする条件で、前記砥石を、前記第1の方向と反対方向に回転させるとともに、前記研削対象物上を前記第2の方向に移動させる工程のいずれかを含む研削方法が提供される。
【0016】
また、本発明の他の観点によれば、(a)作用面上に交差するドレッシング痕が形成されないように、該作用面をドレスされた回転砥石を準備する工程と、(b)前記工程(a)で準備された回転砥石の作用面を研削対象物の被研削面に接触させた状態で、前記作用面のドレッシング痕の前記被研削面における転写痕が交差しないように、前記回転砥石を前記被研削面上を相対的に移動させて、前記研削対象物の被研削面を研削する工程とを有する研削方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、良好な品質の研削加工を実現可能な研削方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1(A)〜(C)を参照して、本願発明者らの予備的考察について説明する。
【0019】
本願発明者らは、従来の研削方法(往復ドレスされた砥石10で往復研削する研削方法)で研削加工されたワーク20の被研削面20aに、図1(A)に示すような、多くの菱形を画定するクロス模様の研削痕を発見し、これを砥石10の作用面10bとの関係において考察した。
【0020】
図1(B)及び(C)を参照して、図10(C)を用いて概説した砥石10のドレッシング(往復ドレス)について詳細に説明する。
【0021】
図1(B)は、砥石10の作用面10bを、y軸方向とθ方向に関して示す概略図である。固定的に配置されたドレッサー40を砥石10の作用面10bに接触させ、砥石10をθ方向に回転させるとともに、y軸負方向に移動させる。ドレッサー40は、作用面10b上を、相対的にy軸正方向に移動する。
【0022】
この方向へ移動させながら行うドレッシングによって、砥石10の作用面10b上には、本図においては、右下がりの斜線で示されるドレッシング痕が形成される。
【0023】
図1(C)を参照する。続いて、砥石10の回転方向はそのままθ方向とし、ドレッサー40を作用面10bに接触させたまま、砥石10をy軸正方向に移動させる。ドレッサー40は、作用面10b上を、相対的にy軸負方向に移動する。
【0024】
この方向へ移動させながら行うドレッシングによって、砥石10の作用面10b上には、新たに、右上がりの斜線で示されるドレッシング痕が形成される。
【0025】
このため、砥石10を一往復させた後には、往復ドレスの結果として、本図に示すようなクロス模様のドレッシング痕が形成される。
【0026】
本願発明者らは、往復ドレスされた砥石10で往復研削する従来の研削方法で加工されたワーク20の被研削面20aに現れるクロス模様の研削痕は、往復ドレスにより、砥石10の作用面10b上に形成されたクロス模様のドレッシング痕が転写されたものである場合と、往復研削によって被研削面20aに形成されたクロス模様である場合とがあることを見出した。
【0027】
図2(A)及び(B)を参照して、往復ドレスした砥石10で、ワーク20を一方向に研削(片側研削)した場合の研削痕について説明する。
【0028】
図2(A)に、往復ドレスした砥石10の作用面10bの概略を示す。往復ドレスの結果、作用面10bには、クロス模様のドレッシング痕が形成される。このようなドレッシング痕の形成された作用面10bを備える砥石10を用いて、ワーク20の片側研削を行う。
【0029】
図10(A)を参照して説明した往復研削においては、回転する砥石10の作用面をワーク20の被研削面20aに接触させ、ステージ30でワーク20をx軸負方向に送りながら被研削面20aの研削を行い、その後、ステージ30でワーク20を反対方向(x軸正方向)に送って、被研削面20aの同じ箇所を反対向きに研削した。
【0030】
片側研削においては、回転する砥石10の作用面をワーク20の被研削面20aに接触させ、ステージ30でワーク20をx軸負方向に送りながら被研削面20aの研削を行うのみで、往復研削のように、反対方向からの研削は行わない。
【0031】
図2(B)を参照する。往復ドレスした砥石10でワーク20を片側研削した場合にも、砥石10の作用面10bに形成されたクロス模様のドレッシング痕が、ワーク20の被研削面20aに転写される結果、本図に示すようなクロス模様の研削痕が、ワーク20の被研削面20aに形成される。
【0032】
図3(A)及び(B)を参照して、片側ドレスした砥石10で、ワーク20を往復研削した場合の研削痕について説明する。
【0033】
図3(A)に、片側ドレスした砥石10の作用面10bの概略を示す。片側ドレスとは、たとえば、図1(B)を参照して説明したように、固定的に配置されたドレッサー40を砥石10の作用面10bに接触させ、砥石10をθ方向に回転させるとともに、y軸負方向のみに移動させて行うドレッシングである。図1(C)を参照して説明したような、反対方向へのドレッシングは行わない。
【0034】
片側ドレスした砥石10の作用面10bには、たとえば本図においては、右下がりの斜線で示されるドレッシング痕が形成される。クロス模様のドレッシング痕は形成されない。
【0035】
図3(B)を参照する。片側ドレスした砥石10でワーク20を往復研削した場合、たとえば往路研削においては、図3(A)に示すドレッシング痕が転写されて、ワーク20の被研削面20aに右下がりの直線で示される研削痕が形成される。複路研削においては、図3(A)に示すドレッシング痕が反対方向に転写されて、ワーク20の被研削面20aに右上がりの直線で示される研削痕が形成される。
【0036】
この結果、片側ドレスした砥石10でワーク20を往復研削した場合にも、本図に示すようなクロス模様の研削痕が、ワーク20の被研削面20aに形成される。
【0037】
本願発明者らは、片側ドレスした砥石10で、ワーク20を往復研削した場合の研削痕につき、シミュレーション、及び実験による検証を行った。その結果を図4(A)〜(C)に示す。
【0038】
図4(A)には、片側ドレスした砥石10を回転させながら、位相ずれがない状態で、ワーク20の往復研削を行ったときの、ワーク20の被研削面20aに形成された研削痕のシミュレーション結果を示す。ここで位相ずれとは、往復する砥石の作用面が被研削面のある位置に接触する場合における、前回接触時の砥石の回転角度と、今回接触時の砥石の回転角度との差を意味する。
【0039】
図中にLで示す範囲が、砥石10の往路方向への一回転と復路方向への一回転とで形成された研削痕である。ワーク20の被研削面20aには、クロス模様の研削痕が形成され、その結果、加工方向(図の左右方向)と直交する方向(図の上下方向)に走る垂直縞Sが、加工方向に沿って、L/2の周期で現れているのが認められる。
【0040】
図4(B)には、片側ドレスした砥石10を回転させながら、位相ずれを180°として、ワーク20の往復研削を行ったときの、ワーク20の被研削面20aに形成された研削痕のシミュレーション結果を示す。
【0041】
180°の位相のずれがある場合には、垂直縞Sが、加工方向に沿って、L/4の周期で現れる。
【0042】
図4(C)は、実際に、片側ドレスした砥石10を回転させながら、往復研削したワーク20の被研削面20aを掏り取りし、加工方向(研削方向)と直交する方向に引き伸ばした画像である。
【0043】
図の左右方向が加工方向である。ワーク20の被研削面20aにクロス模様の研削痕が形成され、加工方向に直交する方向(図の上下方向)に、縞が現れているのがわかる。
【0044】
図5(A)〜(D)を参照して、実施例による研削方法について説明する。実施例による研削方法は、片側ドレスした砥石10で、ワーク20を片側研削する研削方法である。
【0045】
図5(A)は、砥石10の作用面10bを、y軸方向とθ方向に関して示す概略図である。固定的に配置されたドレッサー40を砥石10の作用面10bに接触させ、砥石10をθ方向に回転させるとともに、y軸負方向に移動させる。ドレッサー40は、作用面10b上を、相対的にy軸正方向に移動する。
【0046】
図5(B)に、砥石10の作用面10b上に形成されるドレッシング痕を示す。砥石10の作用面10b上には、ドレッシング痕が一定の方向にらせん状に形成される。らせん状のドレッシング痕は、本図においては、右下がりの斜線で示される。片側ドレスであるため、ドレッシング痕は交差しない。
【0047】
図5(C)を参照する。砥石10の作用面10bをワーク20の被研削面20aに接触させ、砥石10を回転軸10aの周囲に回転させるとともに、ステージ30でワーク20をx軸負方向(図の矢印方向)に送って、被研削面20aの研削を行う。砥石10の回転方向は、たとえば図のθ方向であり、回転速度は、たとえば790rpmである。また、ステージ30によるワーク20の送り速度は、たとえば0.5m/secである。
【0048】
図5(D)は、ワーク20の被研削面20aを示す概略的な平面図である。被研削面20aには、一方向に沿った、相互に平行な直線群で表される研削痕が形成される。これらは、図5(B)に示すドレッシング痕が転写された結果である。
【0049】
砥石10の作用面10bに形成されるドレッシング痕がクロスしていないので、ワーク20の被研削面20aに形成される研削痕もクロスしない。このため、被研削面20aには、たとえば図4(A)及び(B)に示したような垂直縞も現れない。したがって、実施例による研削方法によれば、良好な加工品質で研削加工を行うことができる。
【0050】
なお、ワーク20をx軸負方向に移動させて一方向への研削が終了したら、砥石10をz軸正方向に浮かし、その間にワーク20をステージ30でx軸正方向に移動させる。その後、再び、砥石10の作用面10bをワーク20の被研削面20aに接触させ、砥石10を回転軸10aの周囲にθ方向に回転させるとともに、ステージ30でワーク20をx軸負方向に送って、被研削面20aの同一領域の研削を行う。
【0051】
図6(A)に、実施例による研削方法で研削したワークの写真を示す。
【0052】
また、図6(B)に、従来技術(往復ドレス、往復研削)で研削されたワークの写真を示す。
【0053】
それぞれ6枚のワークが撮影されている。これらは砥石を異なる回転数で回転させて研削したワークである。
【0054】
両写真を比較すると、従来技術で研削されたワーク(図6(B))の研削面には、主に幅方向の端部に沿って、垂直縞が明瞭に認められるのに対して、実施例による研削方法で研削されたワーク(図6(A))の被研削面には垂直縞が見られない。実施例による研削方法によると、垂直縞の生じない、均一な研削加工面が得られることがわかる。
【0055】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0056】
実施例においては、ワーク20を一方向へ送って研削した後、砥石10をワークの被研削面から浮かし、その間にワーク20をステージ30で逆方向に移動させて、再び、ワーク20上の同じ方向に研削(片側研削)を行った。この際、砥石10の回転方向は一定方向であった。
【0057】
たとえば、図7(A)に示すように、ワーク20をx軸負方向に送って、被研削面20aの研削を行った後、砥石10を逆向き(θ方向と反対方向)に回転させて、ワーク20をx軸正方向に送り、被研削面20aの研削を行ってもよい。往復研削になるが、往路と復路で砥石10の回転方向が反対であるため、良好な品質で研削加工を行うことができる。
【0058】
また、図7(B)に示すように、ワーク20をx軸負方向に送って、被研削面20aの研削を行った後、砥石10をz軸に平行な軸の周囲に180°自転させて、ワーク20をx軸正方向に送り、被研削面20aの研削を行ってもよい。砥石10自体の回転方向は変化させないが、砥石10をz軸に平行な軸の周囲に180°自転させるため、図7(A)に示した例と同じ加工を行うことができる。
【0059】
更に、図7(C)に示すように、ワーク20をx軸負方向に送って、被研削面20aの研削を行った後、z軸に平行な軸の周囲に180°自転させたワーク20をx軸正方向に送り、被研削面20aの研削を行ってもよい。この場合、砥石10の回転方向を逆向きとする。この例においても、図7(A)に示した例と同じ加工を行うことができる。
【0060】
図8(A)及び(B)は、実施例及び変形例についてまとめた表である。
【0061】
図8(A)の「実施例(図5(C))」の欄を参照する。
【0062】
図5(C)に示す実施例において、砥石10の作用面10b上に、周方向に沿って固定的に画定された第1の方向を、たとえば図5(C)の反時計方向であるとする。実施例における砥石の回転方向はθ方向(反時計回り方向)であるため、「砥石の回転方向」は「第1の方向」である。
【0063】
また、図5(C)に示す実施例において、ワーク20の被研削面20a上に、x軸正方向に固定的に第2の方向が画定されているとする。実施例による研削方法では、砥石10は、ワーク20の被研削面20a上を、相対的にx軸正方向に移動するため、「ワーク上における砥石の移動方向」は「第2の方向」である。
【0064】
更に、「砥石とワークが接触する位置における第1の方向と、第2の方向との関係」は、接触位置における第1の方向は第2の方向と等しいため、「同じ方向」となる。
【0065】
図8(A)の「変形例(図7(A))」の欄を参照する。
【0066】
図7(A)に示す変形例においては、砥石10を逆回転させて、ワーク20をx軸正方向に送り、被研削面20aの復路研削を行う。このため、「砥石の回転方向」は「第1の方向と反対方向」であり、「ワーク上における砥石の移動方向」は「第2の方向と反対方向」である。
【0067】
なお、砥石の回転方向を変化させても、砥石10の作用面10b上に周方向に沿って固定的に画定された第1の方向に変化はないため、砥石10とワーク20の接触位置における第1の方向は、変わらずx軸正方向である。したがって、「砥石とワークが接触する位置における第1の方向と、第2の方向との関係」は「同じ方向」となる。
【0068】
図8(A)の「変形例(図7(B))」の欄を参照する。
【0069】
図7(B)に示す変形例においては、砥石10をz軸に平行な軸の周囲に180°自転させて、ワーク20をx軸正方向に送り、被研削面20aの復路研削を行う。砥石10は、変わらず「第1の方向」に回転している。「ワーク上における砥石の移動方向」は「第2の方向と反対方向」である。砥石10はz軸に平行な軸の周囲に180°自転されているので、砥石とワークが接触する位置における第1の方向はx軸負方向となる。これは、ワーク20の被研削面20a上に固定的に画定された第2の方向とは「反対方向」である。
【0070】
図8(A)の「変形例(図7(C))」の欄を参照する。
【0071】
図7(C)に示す変形例においては、砥石10の回転方向を逆向きとするので、「砥石の回転方向」は「第1の方向と反対方向」である。また、ワーク20をz軸に平行な軸の周囲に180°自転させるため、ワーク20上に固定された第2の方向は、x軸負方向になる。このため、「ワーク上における砥石の移動方向」は「第2の方向」である。
【0072】
更に、砥石10の回転方向を逆向きとしても、砥石10とワーク20の接触位置における第1の方向は、変わらずx軸正方向である。したがって「砥石とワークが接触する位置における第1の方向と、第2の方向との関係」は「反対方向」となる。
【0073】
図8(A)に示す4つの方法の一つ、または複数の組み合わせにより研削を行うことで、クロス模様の研削痕、及びそれに起因する垂直縞の発生しない、良質の研削加工を行うことができる。
【0074】
図8(B)を参照する。本図にパターン1〜4として示した研削方法を、図8(A)に示した研削方法と組み合わせた場合、クロス模様の研削痕や、それに起因する垂直縞の発生が見られる。しかし、パターン1〜4の4つの方法の一つで、または複数を組み合わせて研削を行うことで、クロス模様の研削痕、及びそれに起因する垂直縞の発生しない、良質の研削加工を行うことができる。
【0075】
図9(A)及び(B)に砥石の別例を示す。回転砥石は、円筒形状のものに限らず、様々な形状のものを使用することができる。図9(A)及び(B)に図示した砥石の作用面10bを被研削面に接触させ、砥石を一点鎖線で示した回転中心の周囲に回転させることで研削を行うことができる。
【0076】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【産業上の利用可能性】
【0077】
砥石を用いて行う研削加工に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】(A)〜(C)は、本願発明者らの予備的考察について説明するための図である。
【図2】(A)及び(B)は、往復ドレスした砥石10で、ワーク20を一方向に研削(片側研削)した場合の研削痕について説明する。
【図3】(A)及び(B)は、片側ドレスした砥石10で、ワーク20を往復研削した場合の研削痕について説明するための図である。
【図4】(A)〜(C)は、片側ドレスした砥石10で、ワーク20を往復研削した場合の研削痕について行った、シミュレーションの結果、及び実験による検証の結果を示す図である。
【図5】(A)〜(D)は、実施例による研削方法について説明するための図である。
【図6】(A)は、実施例による研削方法で研削されたワークの写真であり、(B)は、従来技術で研削されたワークの写真である。
【図7】(A)〜(C)は、実施例の変形例を説明するための図である。
【図8】(A)及び(B)は、実施例及び変形例についてまとめた表である。
【図9】(A)及び(B)は、砥石の別例を示す図である。
【図10】(A)〜(C)は、従来の研削加工技術の概略について説明するための図である。
【符号の説明】
【0079】

10 砥石
10a 回転軸
10b 作用面
20 ワーク
20a 被研削面
30 ステージ
40 ドレッサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)作用面上の周方向に沿って第1の方向が固定的に画定された砥石であって、該作用面上に交差するドレッシング痕が形成されないように、該作用面をドレスされた砥石を準備する工程と、
(b)被研削面に第2の方向が固定的に画定された研削対象物を準備する工程と、
(c)前記ドレスされた砥石の作用面を前記研削対象物の被研削面に接触させ、前記砥石を回転させながら、前記回転する砥石の作用面が前記第2の方向と平行な方向に沿って、前記研削対象物の被研削面上を移動するように、前記砥石と前記研削対象物とを相対的に移動させて、前記研削対象物の被研削面を研削する工程と
を有し、
前記工程(c)は、
(c1)前記砥石が前記研削対象物の被研削面と接触する位置における前記第1の方向と、前記第2の方向とを同一の方向とする条件で、前記砥石を、前記第1の方向に回転させるとともに、前記研削対象物上を前記第2の方向に移動させる工程、
(c2)前記砥石が前記研削対象物の被研削面と接触する位置における前記第1の方向と、前記第2の方向とを同一の方向とする条件で、前記砥石を、前記第1の方向と反対方向に回転させるとともに、前記研削対象物上を前記第2の方向と反対方向に移動させる工程、
(c3)前記砥石が前記研削対象物の被研削面と接触する位置における前記第1の方向と、前記第2の方向とを反対の方向とする条件で、前記砥石を、前記第1の方向に回転させるとともに、前記研削対象物上を前記第2の方向と反対方向に移動させる工程、
(c4)前記砥石が前記研削対象物の被研削面と接触する位置における前記第1の方向と、前記第2の方向とを反対の方向とする条件で、前記砥石を、前記第1の方向と反対方向に回転させるとともに、前記研削対象物上を前記第2の方向に移動させる工程
のいずれかを含む研削方法。
【請求項2】
(c5)前記砥石が前記研削対象物の被研削面と接触する位置における前記第1の方向と、前記第2の方向とを反対の方向とする条件で、前記砥石を、前記第1の方向に回転させるとともに、前記研削対象物上を前記第2の方向に移動させる工程、
(c6)前記砥石が前記研削対象物の被研削面と接触する位置における前記第1の方向と、前記第2の方向とを反対の方向とする条件で、前記砥石を、前記第1の方向と反対方向に回転させるとともに、前記研削対象物上を前記第2の方向と反対方向に移動させる工程、
(c7)前記砥石が前記研削対象物の被研削面と接触する位置における前記第1の方向と、前記第2の方向とを同一の方向とする条件で、前記砥石を、前記第1の方向に回転させるとともに、前記研削対象物上を前記第2の方向と反対方向に移動させる工程、
(c8)前記砥石が前記研削対象物の被研削面と接触する位置における前記第1の方向と、前記第2の方向とを同一の方向とする条件で、前記砥石を、前記第1の方向と反対方向に回転させるとともに、前記研削対象物上を前記第2の方向に移動させる工程
のいずれをも含まない請求項1に記載の研削方法。
【請求項3】
更に、前記工程(c)の後に、
(d)前記工程(c)のみを繰り返す工程
を含む請求項1に記載の研削方法。
【請求項4】
前記工程(a)において、
前記砥石の作用面を巡る一定方向のらせん状に、ドレッシング痕が形成された砥石を準備する請求項1〜3のいずれか1項に記載の研削方法。
【請求項5】
(a)作用面上に交差するドレッシング痕が形成されないように、該作用面をドレスされた回転砥石を準備する工程と、
(b)前記工程(a)で準備された回転砥石の作用面を研削対象物の被研削面に接触させた状態で、前記作用面のドレッシング痕の前記被研削面における転写痕が交差しないように、前記回転砥石を前記被研削面上を相対的に移動させて、前記研削対象物の被研削面を研削する工程と
を有する研削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−69564(P2010−69564A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238831(P2008−238831)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】