説明

研磨スラリーの調製方法

【課題】コロイダルシリカを含み、pHが1〜5の研磨スラリーの調製方法であって、酸性となるようにpH調整する際に、コロイダルシリカが凝集することが抑制された研磨スラリーの調製方法の提供。
【解決手段】コロイダルシリカを含み、pHが1〜5の研磨スラリーの調製方法であって、pH調整時において、コロイダルシリカを含むスラリー原液と、酸と、の混合液のpHを0.5〜5に保持することを特徴とする研磨スラリーの調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨スラリーの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)や、フォトマスク用ガラス基板、あるいは、ハードディスク用ガラス基板の研磨のような高度に平滑な面が求められる研磨では、コロイダルシリカを含む研磨スラリーと、研磨パッドとを用いた機械研磨が用いられることが一般的である(特許文献1〜3参照)。フォトマスク用ガラス基板、特にEUVリソグラフィに使用される反射型マスク用のガラス基板の研磨では、研磨後の基板の表面に半導体製造プロセスの露光においてウェハに転写される欠点が一つでもあるとデバイスの性能に問題を引き起こすため、研磨後の基板表面の欠点には厳しい要求が求められている(特許文献3参照)。そのためフォトマスク用ガラス基板の研磨では、コロイダルシリカを含む研磨スラリーと、特に軟質な発泡ポリウレタン製の研磨パッドとを用いた機械研磨が行われる。この点に関して、特許文献4,5には、「研磨パッドのナップ層は、圧縮率が10%以上であることが好ましく、15〜60%であればより好ましく、30〜60%であれば更に好ましい。また、その圧縮弾性率は85%以上が好ましく、より好ましくは90〜100%、更に好ましくは95〜100%である。」と記載されている(特許文献4段落[0043]、特許文献5段落[0043]参照)。また、特許文献6の段落[0010]には、「ガラス基板表面の精密研磨に用いる研磨パッドの硬度(Asker−C)を65以下とすることにより、精密研磨終了直前の基板に対する研磨速度を遅くでき、また精密研磨における加工圧力を小さくできるので、ガラス基板表面の微小な凸状、凹状の表面欠陥の発生を抑えることができる。」と記載されている。
特許文献1〜5では、酸性となるようにpH調整した研磨スラリーを用いて機械研磨を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−240025号公報
【特許文献2】特開2003−211351号公報
【特許文献3】特開2006−35413号公報
【特許文献4】特開2007−213020号公報
【特許文献5】特開2008−307631号公報
【特許文献6】特開2005−66781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜5には記載されていないが、酸性となるようにpH調整した研磨スラリーを用いる理由には以下の理由がある。
【0005】
上述するような特に軟質な発泡ポリウレタン製の研磨パッドを製造する際には、整泡剤としてアニオン系のポリマーが使用される。整泡剤としてアニオン系ポリマーが使用される理由は、カチオン系ポリマーを使用した場合、機械研磨実施時に発泡ポリウレタン製の研磨パッドに残留するカチオン系ポリマーが、研磨スラリー中のコロイダルシリカの周りに吸着されることにより、コロイダルシリカの表面電位がプラスになり、表面電位がマイナスであるガラス基板表面に吸着されてしまうためである。整泡剤としてノニオン系ポリマーを使用した場合、コロイダルシリカの表面電位はゼロであるが、電位的な反発がないため、コロイダルシリカがガラス基板表面に吸着されてしまう。
これに対して、整泡剤としてアニオン系ポリマーを使用すると、発泡ポリウレタン製の研磨パッドに残留するアニオン系ポリマーが研磨スラリー中のコロイダルシリカの周りに吸着した場合に、コロイダルシリカの表面電位がマイナスとなり、表面電位がマイナスであるガラス基板表面とは、表面電位が反発の関係にあるため、ガラス基板表面にコロイダルシリカが吸着しないことになる。
【0006】
但し、整泡剤としてアニオン系ポリマーを使用した場合であっても、研磨スラリーのpHがアルカリ性だと、加水分解によってコロイダルシリカの表面が活性化されるため、機械研磨実施時に局所的に大きな研磨荷重がかかると、表面電位が反発の関係であっても、ガラス基板表面にコロイダルシリカが強固に吸着されてしまう。こうなった場合は、機械研磨実施中にガラス基板表面からコロイダルシリカが脱離されることがない。機械研磨実施後の洗浄によりコロイダルシリカは除去することができるが、コロイダルシリカが吸着していた部分は機械研磨されないので、ガラス基板表面に凸状欠陥を生じさせる。
これに対し、研磨スラリーが酸性の場合、加水分解が起こらず、コロイダルシリカの表面が活性化されることがないため、機械研磨実施時に局所的に大きな研磨荷重がかかった場合であっても、ガラス基板表面にコロイダルシリカが強固に吸着されることがない。
このような理由から、フォトマスク用ガラス基板の研磨では、酸性となるようにpH調整した研磨スラリーが用いられる。
【0007】
一般的に使用される水ガラス法によって製造されるコロイダルシリカは、製造した時点ではアルカリ性であるため、コロイダルシリカを含むスラリー原液に酸を投入してpH調整する必要がある。
ところが、pH調整をするためにスラリー原液に酸を投入した際に、コロイダルシリカが凝集する問題があることが明らかとなった。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、コロイダルシリカを含み、pHが1〜5の研磨スラリーの調製方法であって、酸性となるようにpH調整する際に、コロイダルシリカが凝集することが抑制された研磨スラリーの調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明は、コロイダルシリカを含み、pHが1〜5の研磨スラリーの調製方法であって、pH調整時において、コロイダルシリカを含むスラリー原液と、酸と、の混合液のpHを0.5〜5に保持することを特徴とする研磨スラリーの調製方法。
【0010】
本発明の研磨スラリーの調製方法において、酸に対してスラリー原液を投入することにより、スラリー原液と、酸と、の混合液のpHを0.5〜5に保持することが好ましい。
【0011】
本発明の研磨スラリーの調製方法において、酸に対するスラリー原液の投入速度を500ml/sec以下に保持することが好ましい。
【0012】
本発明の研磨スラリーの調製方法において、前記酸が、0.00003〜0.3規定の硝酸水溶液または塩酸水溶液であることが好ましい。
【0013】
本発明の研磨スラリーの調製方法において、前記スラリー原液に含まれるコロイダルシリカが、水ガラス法またはゾルゲル法によって製造されることが好ましい。
【0014】
本発明の研磨スラリーの調製方法において、pHの調製時、スラリー原液と、酸と、の混合液を撹拌することが好ましい。
【0015】
本発明の研磨スラリーの調製方法において、pHの調製時、スラリー原液と、酸と、の混合液の温度を50℃以下に保持することが好ましい。
【0016】
本発明の研磨スラリーの調製方法において、調製後の研磨スラリー中のコロイダルシリカが、平均粒径が5〜100nmであり、かつ、D90が5〜200nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コロイダルシリカを含むスラリー原液を、pHが1〜5となるようにpH調整する際に、コロイダルシリカが凝集することを抑制することができる。
本発明によれば、調製後の研磨スラリー中のコロイダルシリカが、平均粒径が5〜100nmであり、かつ、D90が5〜200nmと、粒径が小さく、かつ、粒度分布が少ないため、フォトマスク用ガラス基板、特にEUVリソグラフィに使用される反射型マスク用のガラス基板の機械研磨に使用するのに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の研磨スラリーの調製方法について説明する。
研磨スラリーとは、研磨粒子と、該研磨粒子の分散媒体と、を含む流体である。
本発明では、粒径が数nm〜数十nmと小さく、かつ、粒径が揃った粒子が得られること、および、不純物が少ないことから、研磨粒子としてコロイダルシリカを用いる。
【0019】
研磨スラリーに用いるコロイダルシリカの製造法は特に限定されないが、水ガラス法またはゾルゲル法によって製造されるものが、特に粒径が揃った粒子が得られることから好ましい。
【0020】
研磨スラリーに用いるコロイダルシリカは、粒径が大きすぎると研磨スラリーを用いて研磨されるガラス基板表面の表面粗さが大きくなる。研磨後のガラス基板の用途が、EUVリソグラフィに使用される反射型マスク用のガラス基板の場合、ガラス基板表面の表面粗さが大きいと、該ガラス基板を用いて作製した反射型マスクをEUVリソグラフィに使用した際に、EUV光の反射率が低下するので問題となる。一方、粒径が小さすぎると、研磨速度が低下し、十分な研磨速度が得られない。これらの理由から、研磨スラリーに用いるコロイダルシリカは、平均一次粒子径が5〜100nmであることが好ましく、5〜50nmであることがより好ましい。
【0021】
研磨粒子がコロイダルシリカの場合、分散媒も粗大粒子が除去されている必要がある。分散媒としては、フィルターで粗大粒子を除去することが容易であることから、水が好ましい。
【0022】
スラリー原液は、コロイダルシリカを含む流体であり、水ガラス法によって製造されたコロイダルシリカを用いる場合は、コロイダルシリカを製造する過程で生じたナトリウム、カリウム、リチウムなどを含むため、そのpHが9以上と、アルカリ性である。
ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカを用いる場合は、製造した時点では中性であるが、より安定した状態で保管するためにアルカリ性に調整される場合がある。
【0023】
上述した理由により、コロイダルシリカを含む研磨スラリーをフォトマスク用ガラス基板の機械研磨に使用する場合、研磨スラリーが酸性となるようにpH調整する必要がある。
本発明では、研磨スラリーのpHを1〜5に調整する。研磨スラリーのpHを1〜5に調整する理由については詳しくは後述するが、研磨スラリー中でコロイダルシリカ表面が活性化されることがないため、研磨スラリーが安定性であり、かつ、機械研磨実施時に局所的に大きな研磨荷重がかかった場合であっても、ガラス基板表面にコロイダルシリカが強固に吸着されることがないからである。
【0024】
アルカリ性(pHが9以上)のスラリー原液を、pHが1〜5の酸性となるように調整する場合、pHを調整しやすいことから、通常は、スラリー原液に対して、酸(例えば、希釈硝酸水溶液または希釈塩酸水溶液)を投入する。
【0025】
しかしながら、酸性となるようにpH調整する目的で、アルカリ性のスラリー原液に対して、酸を投入するとコロイダルシリカが凝集する。
この現象について、本願発明者は、鋭意検討した結果、スラリー原液と、酸と、の混合液(すなわち、スラリー)におけるpHの変化が影響していること、具体的には、混合液(スラリー)のpHが弱酸性〜弱アルカリ性の領域(pHが5.0超9.0以下の領域)を通過する時間が長いことが、コロイダルシリカが凝集する原因であることを見出した。この点について、コロイダルシリカ粒子の表面電位(ゼータ電位)、および、コロイダルシリカ粒子の表面活性の観点から説明する。
【0026】
下記表1は、スラリー(スラリー原液と酸との混合液に相当)のpHと、コロイダルシリカ粒子の表面電位(ゼータ電位)と、の関係を示している。
【表1】

コロイダルシリカ粒子の表面電位(ゼータ電位)の絶対値が大きいほど、コロイダルシリカ粒子同士の電位反発力が大きくなる。電位反発力が大きいほどコロイダルシリカ粒子同士が接近しにくくなる。
表1から明らかなように、スラリーのpHが9.0よりも大きい領域だと、コロイダルシリカ粒子同士の電位反発力が大きく、コロイダルシリカ粒子同士が接近しにくいのに対して、pHが小さくなるにつれて、コロイダルシリカ粒子同士の電位反発力が大きく、コロイダルシリカ粒子同士が接近しやすくなる。
【0027】
下記表2は、スラリー(スラリー原液と酸との混合液に相当)のpHと、コロイダルシリカ粒子の表面活性と、の関係を示している。
【表2】

コロイダルシリカ粒子表面が活性であるほど、コロイダルシリカ粒子同士が接近した時に粒子同士の凝集が起こりやすい。
表2から明らかなように、スラリーのpHが1.0から5.0の酸性領域だと、コロイダルシリカ粒子表面が不活性であり、コロイダルシリカ粒子同士が接近した際に凝集が起こりにくいのに対して、pHがそれ以外の領域(pHが1よりも小さい領域、pHが5.0よりも大きい領域では電位反発力が大きく、コロイダルシリカ粒子同士が接近しやすくなる。
【0028】
スラリー(スラリー原液と酸との混合液に相当)の安定性は、コロイダルシリカ粒子の表面電位(ゼータ電位)に起因する電位反発力による『コロイダルシリカ粒子同士の接近しにくさ(A)』と、コロイダルシリカ粒子の表面活性による『コロイダルシリカ粒子同士が接近した際の凝集の起こりやすさ(B)』によって決まる。
この関係を下記表3に示す。
【表3】

表3において、製造後、pHを調整する前のスラリー原液は、アルカリ性であり、pHが9.0よりも大きいため、該スラリー中のコロイダルシリカ粒子同士が接近しにくく、また、コロイダルシリカ粒子同士が接近した際は凝集が起こりやすい状態であるが、この状態では、研磨時のように大きな圧力がかかりコロイダルシリカ粒子同士が接近することはないため安定である。
pHを調整する目的で、スラリー原液に酸を投入した場合、スラリー(スラリー原液と酸との混合液に相当)のpHが5.0超9.0以下の領域を通過する時間が長くなる。該領域を通過する時間が長くなることにより、この間にスラリーの安定性が低下し、コロイダルシリカが凝集すると考えられる。
【0029】
これに対し、表3に示すように、pH調整時におけるスラリーのpHが1〜5に保持されていれば、スラリーの安定性が高いため、コロイダルシリカの凝集を抑制することができる。
但し、上述したように、スラリー原液に酸を投入すると、(スラリー原液と酸との混合液に相当)のpHが5.0超9.0以下の領域を通過する時間が長くなるので、本発明では、pH調整時において、酸に対してスラリー原液を投入することで、pH調整時におけるスラリー(スラリー原液と酸との混合液に相当)のpHを1〜5に保持することが好ましい。酸に対してスラリー原液を投入した場合でも、pHが5.0超9.0以下の領域を通過する部分が局所的に生じうるが、その通過時間が瞬間的であるのでその影響は無視できると考えられる。
酸に対してスラリー原液を投入した場合、スラリー原液を投入し始めるところでは、pHが0.5〜1の値になる場合がある。表3には、スラリー(スラリー原液と酸との混合液に相当)のpHが1よりも低い領域もスラリーの安定性が低いことが示されている。
しかしながら、スラリー原液を投入し始めたところでは、コロイダルシリカの密度が非常に低いため、pHが0.5〜1の値になっても凝集が起こらない。
このような理由から、本発明では、pH調整時において、スラリー原液と、酸と、の混合液のpHを0.5〜5に保持することで、スラリー中のコロイダルシリカが凝集するのを防止することができる。
【0030】
pH調整時において、酸に対するスラリー原液の投入量が大きすぎると、pHが5.0超9.0以下の領域を通過する部分が局所的に生じ、かつ、該領域を通過する時間が長くなるおそれがある。該領域を通過する時間が長くなることにより、その部分ではスラリーの安定性が低下し、コロイダルシリカが凝集するおそれがある。
このため、酸に対するスラリー原液の投入量は、500ml/sec以下であることが好ましく、300ml/sec以下であることがより好ましく、100ml/sec以下であることがさらに好ましい。
【0031】
また、pH調整時において、スラリー原液と、酸と、の混合液中にpHが5.0超9.0以下の領域を通過する部分が局所的に生じるのを防止するため、または、局所的に生じる場合でもその通過時間が瞬間的になるようにするため、該混合液を撹拌することが好ましい。すなわち、スラリー原液を投入する際、該混合液を撹拌することが好ましい。混合液の攪拌には、棒状やプロペラ形状の攪拌器を用いて行ってもよいし、混合液を循環させることで攪拌を行ってもよい。
また、混合液中にpHが5.0超9.0以下の領域を通過する部分が局所的に生じるのを防止するため、または、局所的に生じる場合でもその通過時間が瞬間的になるようにするため、スラリー原液を一定量投入した後、混合液をしばらく撹拌した後、スラリー原液をさらに投入することが好ましい。
【0032】
pH調整時には、アルカリ性のスラリー原液と、酸との中和反応が起こるため、該混合液の温度が上昇する。混合液の温度が上昇し過ぎると、混合液中の低沸点成分、たとえば、水の蒸発により、該混合液中のコロイダルシリカ濃度が上昇して、該混合液中のコロイダルシリカが凝集するおそれがある。
このため、pH調整時において、混合液の温度を50℃以下に保持することが好ましい。
pH調整時において、混合液の温度上昇を防止する方法としては、該混合液を冷却しながら、スラリー原液を投入する方法がある。
また、スラリー原液を一定量投入した後、混合液をしばらく撹拌した後、スラリー原液をさらに投入することも、混合液の温度上昇を防止するうえでも好ましい。
混合液が好ましい。
【0033】
本発明では、研磨スラリーのpH調整に使用する酸は特に限定されず、無機酸、及び有機酸のいずれも用いることができる。例えば、無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸などが挙げられる。有機酸としては、シュウ酸、クエン酸などが挙げられる。これらの中でも、硝酸、塩酸がpHを調整しやすいこと、および、pH1〜5でのゼータ電位がマイナスで絶対値が十分に大きいことから好ましく、特に、0.00003〜0.3規定の硝酸水溶液または塩酸水溶液が、スラリー原液を投入し始めるところで、混合液のpHが0.5よりも小さくなることがないことから好ましい。
0.00003〜0.3規定の硝酸水溶液または塩酸水溶液を調製する場合、濃硝酸または濃塩酸に対して水を投入してもよいし、水に対して濃硝酸または濃塩酸を投入してもよい。但し、調製に用いる容器(例えば、スラリー調合タンク)の強酸による劣化を防ぐ理由から、水に対して濃硝酸または濃塩酸を投入することが好ましい。
【0034】
本発明では、pH調整時におけるコロイダルシリカの凝集が抑制されることにより、調製後の研磨スラリー中のコロイダルシリカが、粒径が小さく、かつ、粒度分布が少ない。
具体的には、研磨スラリー中のコロイダルシリカの平均粒径が5〜100nmであり、好ましくは、5〜50nm、より好ましくは5〜30nmである。また、研磨スラリー中のコロイダルシリカのD90が5〜200nmであり、好ましくは、5〜100nm、より好ましくは5〜50nmである。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
スラリー調合タンクに純水を26リットル入れた。次に、スラリー調合タンクに16N規定の硝酸を200cc入れて、0.1N規定の硝酸の希釈水溶液を調製した。
コロイダルシリカを含有するスラリー原液を準備した。スラリー原液は、水ガラス法によって製造された平均一次粒子径が20nmのコロイダルシリカを含有し、そのpHは9である。
スラリー調合タンク内の硝酸希釈水溶液に対して下記手順でスラリー原液を投入した。
スラリー調合タンク内の硝酸希釈水溶液を撹拌しながら、投入速度4.5L/40sec≒110ml/secで40秒間スラリー原液を投入し、その後、40秒間混合液を攪拌する手順を繰り返して、トータルで28リットルのスラリー原液を硝酸希釈水溶液に投入して、pHが2の研磨スラリーを調製した。
なお、pH調整時(スラリー原液の投入時、および、その後の混合液の撹拌時)において、混合液のpHは0.5〜5に保持した。
調製後の研磨スラリーを目視で確認したところ若干白濁していた。また、マイクロトラック(日機装製UPA−EX150)を用いて、調製後の研磨スラリー中のコロイダルシリカの粒度分布を測定したところ、コロイダルシリカ粒子の平均粒径は24nmであり、D90の粒径は34nmであった。
【0036】
[実施例2]
スラリー原液の投入速度を500ml/secとした以外は実施例1と同じ手順でpHが2の研磨スラリーを調製した。
調製後の研磨スラリーを目視で確認したところほぼ透明であった。また、マイクロトラック(日機装製UPA−EX150)を用いて、調製後の研磨スラリー中のコロイダルシリカの粒度分布を測定したところ、コロイダルシリカ粒子の平均粒径は21nmであり、D90の粒径は29nmであった。
【0037】
[実施例3]
使用する酸を塩酸とした以外は実施例2と同じ手順でpH2の研磨スラリーを調整した。なお、スラリー調合タンクに純水を26リットル入れた。次に、スラリー調合タンクに16N規定の塩酸を200cc入れて、0.1N規定の塩酸の希釈水溶液を調製した。
調整後の研磨スラリーを目視で確認したところほぼ透明であった。また、マイクロトラック(日機装製UPA−EX150)を用いて、調整後の研磨スラリー中のコロイダルシリカの粒度分布を測定したところ、コロイダルシリカ粒子の平均粒径は20nmであり、D90の粒径は30nmであった。
【0038】
[比較例1]
調合タンクに実施例1と同じスラリー原液28リットルを入れた。
16N規定の硝酸200ccを純水26リットルで希釈して、0.1N規定の硝酸希釈水溶液を調合タンク内のスラリー原液に投入して研磨スラリーを調製した。
調製したスラリーを目視で確認したところ白濁していた。また、マイクロトラック(日機装製UPA−EX150)を用いて、調製後の研磨スラリー中のコロイダルシリカの粒度分布を測定することを試みたが、コロイダルシリカの粒度分布は測定できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカを含み、pHが1〜5の研磨スラリーの調製方法であって、pH調整時において、コロイダルシリカを含むスラリー原液と、酸と、の混合液のpHを0.5〜5に保持することを特徴とする研磨スラリーの調製方法。
【請求項2】
酸に対してスラリー原液を投入することにより、スラリー原液と、酸と、の混合液のpHを0.5〜5に保持する、請求項1に記載の研磨スラリーの調製方法。
【請求項3】
酸に対するスラリー原液の投入速度を500ml/sec以下に保持する、請求項2に記載の研磨スラリーの調製方法。
【請求項4】
前記酸が、0.00003〜0.3規定の硝酸水溶液または塩酸水溶液である、請求項1〜3のいずれかに記載の研磨スラリーの調製方法。
【請求項5】
前記スラリー原液に含まれるコロイダルシリカが水ガラス法またはゾルゲル法によって製造される、請求項1〜4のいずれかに記載の研磨スラリーの調製方法。
ことが好ましい。
【請求項6】
pHの調製時、スラリー原液と、酸と、の混合液を撹拌する、請求項1〜5のいずれかに記載の研磨スラリーの調製方法。
【請求項7】
pHの調製時、スラリー原液と、酸と、の混合液の温度を50℃以下に保持する、請求項1〜6のいずれかに記載の研磨スラリーの調製方法。
【請求項8】
調製後の研磨スラリー中のコロイダルシリカが、平均粒径が5〜100nmであり、かつ、D90が5〜200nmである、請求項1〜7のいずれかに記載の研磨スラリーの調製方法。

【公開番号】特開2013−836(P2013−836A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134168(P2011−134168)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】