説明

研磨パッド

【課題】研磨加工状態を光学的に検出可能で研磨性能を向上させることができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド20は、ウレタンシート2を有している。ウレタンシート2は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有している。ウレタンシート2の少なくとも一部には、研磨加工時に供給される研磨液の浸潤を厚さの全体にわたり許容する親水樹脂部3が形成されている。ウレタンシート2は、親水樹脂部3と一体に形成されている。親水樹脂部3を含むウレタンシート2の内部には、半球体状の樹脂製外殻を有する中空状の微粒子13が含有され、微粒子13の窪みに配された空気により発泡5が形成されている。親水樹脂部3に研磨液が浸潤することで親水樹脂部3が光透過性を呈し、研磨面Pで開孔6が略均一に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに係り、特に、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂製の研磨層を備えた研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造や液晶ディスプレイ用ガラス基板等の材料(被研磨物)表面では、平坦性が求められるため、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。一般に、半導体デバイス等の加工面を平坦化する方法としては、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing、以下、CMPと略記する。)法が用いられている。CMP法では、被研磨物の加工面が研磨パッドに押し付けられた状態で、砥粒(研磨粒子)をアルカリ溶液または酸溶液に分散させたスラリ(研磨液)が供給される。使用される研磨パッドは、通常、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂製の研磨層を備えている。スラリ中の砥粒による機械的作用と、アルカリ溶液または酸溶液による化学的作用とで研磨される。加工面に要求される平坦性の高度化に伴い、CMP法に求められる研磨精度、換言すれば、研磨パッドに要求される性能も高まっている。
【0003】
このような研磨加工では、被研磨物の加工面を必要最小限で研磨加工し平坦性を向上させる。例えば、半導体デバイス等では、過剰な研磨加工により回路配線等を損傷する可能性があるため、研磨加工における終点(研磨終点)の検出が重要となる。従来研磨終点を検出するには、研磨加工を中断し加工面を検査することで行われている。ところが、この方法では、研磨加工を中断する度に加工面の洗浄や乾燥が必要なため、研磨時間が長くなりコスト高を招くこととなる。また、中断の時間を短くしても、中断前後で研磨条件が異なるため、予期した研磨加工量が得られず研磨効率を低下させる、という問題がある。一方、研磨終点を研磨時間を基準として検出することができる。この場合、予め、研磨加工による被研磨物の厚さ減少量と研磨時間とから平均の加工速度を求め、所望の研磨加工量に合わせて研磨終点までの標準の研磨時間を定めておく。ところが、被研磨物の材質やスラリ、さらには研磨装置等が異なるため、全ての組み合わせについて標準の研磨時間を定めておくことが難しく、却って効率低下を招くこととなる。
【0004】
また、研磨加工中に被研磨物の加工面の状態(研磨加工状態)を光学的手法で直接観測し、研磨終点を検出する方法が知られている。この方法では、例えば、研磨パッドを構成する研磨層の少なくとも一部に研磨終点検出用の光透過性を有する窓部を形成し、この窓部を通して加工面に光を照射し加工面からの光の反射状態を観測して研磨状態を判定する。このため、研磨加工を中断することなく、イン・シチュウ(in situ)で研磨終点を検出することができ、研磨加工に要する時間も短縮することができる。光学的に研磨終点を検出する方法としては、例えば、加工面からの反射光を撮像装置で観察する技術が開示されている(特許文献1、特許文献2参照)。また、研磨パッドの光透過部として透明なプラグを用いる技術(例えば、特許文献3、特許文献4参照)、研磨パッドに開口を形成し透明シートを重ねる技術(例えば、特許文献5参照)、光透過性を有する硬質で均一な樹脂シートを用いる技術(例えば、特許文献6、特許文献7参照)が開示されている。
【0005】
ところが、特許文献3、特許文献4、特許文献5の技術では、研磨層の全面に光透過部を形成する場合を除くと、研磨層と光透過部との間でスラリの液漏れを起こしやすい、という問題がある。液漏れを起こすと、研磨パッドが定盤から剥離する可能性があるうえ、定盤側に備えられた光源や光検出装置に悪影響を及ぼす可能性もある。この点、特許文献6、特許文献7の技術では、研磨層および光透過部の一方が液状状態で固化する前に両者を接触させるため、密着度合いが高くなり液漏れを起こしにくくなる。ところが、光透過部の表面には開孔が形成されずスラリを保持する能力を有していないので、研磨性能の低下や不均一化を招くばかりか、研磨加工終了後に被研磨物が光透過部に密着しすぎて被研磨物を取り外しにくくなるデチャックエラーを招きやすい、という問題がある。また、光透過部を研磨面の全面に配する場合は十分な研磨性能を得ることが難しくなる。
【0006】
透明で研磨能力を備えた光透過部を形成するために、光透過性のポリマーマトリックス(樹脂材)に液状コアを有するポリマーカプセル(樹脂微粒子)を含有させる技術が開示されている(例えば、特許文献8参照)。また、光透過部に水溶性微粒子を配合する技術が開示されている(例えば、特許文献9参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平7−52032号公報
【特許文献2】特許第3508747号公報
【特許文献3】特許第3431115号公報
【特許文献4】特許第3327817号公報
【特許文献5】特許第3913969号公報
【特許文献6】特許第3691852号公報
【特許文献7】特許第4019087号公報
【特許文献8】特開2007−83387号公報
【特許文献9】特開2002−324769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献8、特許文献9の技術では、光透過部にポリマーカプセルや水溶性微粒子が含有されるため、研磨パッド(研磨層)の摩耗により研磨面に開孔が形成されるが、これと同時に光透過部自体の硬さが減じてしまう。このため、研磨面内で硬さの異なる部分が形成され、研磨性能の低下や被研磨物の平坦性低下を招くこととなる。開孔が形成されても光透過部の硬さを研磨層と同程度にするためには、開孔が形成される前の状態で研磨層より硬い光透過部を形成しておく必要があるが、この場合にも、硬度差により研磨不良を招くおそれがある。また、研磨層に発泡を形成する一般的な技術により、光透過部に研磨能力を付与しようとすると、光が散乱してしまい十分な光透過性が得られにくくなる。さらには、水添加や不活性気体封入による発泡形成では、大きさの制御が難しく、直径が数百μmの巨大発泡が形成されることがあり、研磨不良を招くこととなる。また、中空微粒子を含有させることで大きさの制御は容易となるが、中空微粒子が開口せずに固さが減じないまま研磨面に露出するおそれがあり、研磨傷(スクラッチ)等の研磨不良を引き起こしやすくなる。
【0009】
本発明は上記事案に鑑み、研磨加工状態を光学的に検出可能で研磨性能を向上させることができる研磨パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂製の研磨層と、前記研磨層の少なくとも一部を構成し厚さの全体にわたり研磨液の浸潤を許容する浸潤許容部と、前記浸潤許容部を含む前記研磨層の内部に略均一に分散され半球体状または半多面体状の外殻を有する中空状の樹脂微粒子と、を備え、前記研磨層は前記樹脂微粒子の中空部分に予め配された気体または予め含有された含有成分により内部に発泡が形成され、かつ、前記浸潤許容部と一体に形成されたものであり、前記浸潤許容部は前記研磨面から前記研磨液が浸潤することで光透過性を呈することを特徴とする研磨パッドである。
【0011】
本発明では、研磨層が内部に略均一に分散された樹脂微粒子の中空部分の気体または含有成分により発泡が形成され、かつ、浸潤許容部と一体に形成されることで、研磨層全体の発泡構造が均一化され研磨液の漏出が抑制されるので、研磨性能を向上させることができると共に、研磨層の少なくとも一部を構成する浸潤許容部が、研磨面から厚さの全体にわたり研磨液が浸潤することで光散乱が抑制されて光透過性を呈するため、研磨加工中に被研磨物の加工面での光反射状態で研磨加工状態を光学的に検出することができる。
【0012】
この場合において、研磨層がポリウレタン樹脂で形成され、浸潤許容部を形成するポリウレタン樹脂が親水性を有することが好ましい。このとき、浸潤許容部を形成するポリウレタン樹脂が浸潤許容部以外の研磨層を形成するポリウレタン樹脂より小さい架橋密度を有していてもよい。また、少なくとも浸潤許容部に分散された樹脂微粒子では、外殻が親水性樹脂で形成されたものまたは外殻の表面が親水化処理されたものであり、光透過性を有することが好ましい。このとき、外殻をシリコーン樹脂製とし、その表面を界面活性剤により親水化処理することができる。浸潤許容部では、研磨液が浸潤したときに、波長190nm〜3500nmの範囲のいずれかの波長の光線に対し30%以上の透過率を示すようにすることができる。研磨層の研磨面に平均開孔径10μm〜150μmの範囲の開孔が形成されていることが好ましい。また、含有成分を常温で固体であり100℃〜260℃でガスを発生する化学発泡剤または水とすることができる。また、樹脂微粒子が浸潤許容部を含む研磨層の100部に対して5部〜50部の重量割合で分散されていてもよい。研磨層の研磨面側に溝加工またはエンボス加工を施すことができる。研磨層の研磨面と反対側の面に更にクッション材が貼り合わされていてもよい。このとき、クッション材には浸潤許容部に対応する位置に開口が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、研磨層が内部に略均一に分散された樹脂微粒子の中空部分の気体または含有成分により発泡が形成され、かつ、浸潤許容部と一体に形成されることで、研磨層全体の発泡構造が均一化され研磨液の漏出が抑制されるので、研磨性能を向上させることができると共に、研磨層の少なくとも一部を構成する浸潤許容部が、研磨面から厚さの全体にわたり研磨液が浸潤することで光散乱が抑制されて光透過性を呈するため、研磨加工中に被研磨物の加工面での光反射状態で研磨加工状態を光学的に検出することができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0015】
(研磨パッド)
図1に示すように、研磨パッド20は、研磨層としてのウレタンシート2を有している。ウレタンシート2は、イソシアネート基含有化合物を主成分としており、研磨加工時に被研磨物の被研磨面(加工面)を研磨加工するための研磨面Pを有している。
【0016】
ウレタンシート2の少なくとも一部には、研磨加工時に供給される研磨液(砥粒を含むスラリ)の液体成分の浸潤を許容する浸潤許容部としての親水樹脂部3が形成されている。親水樹脂部3では、ウレタンシート2の厚さの全体にわたり研磨液の液体成分の浸潤を許容する。図3(A)に示すように、研磨パッド20は円形状に形成されている。親水樹脂部3は、ウレタンシート2(研磨パッド20)の中心部と周縁部との間の1箇所に、円形状に形成されている。
【0017】
ウレタンシート2は、イソシアネート基含有化合物と、活性水素化合物と、を含む混合液を反応硬化させたポリウレタン成形体をスライス処理することで形成されている。親水樹脂部3は、親水性を有するイソシアネート基含有化合物と、活性水素化合物と、を含む混合液を反応硬化させることでウレタンシート2の少なくとも一部に形成されている。すなわち、ウレタンシート2はポリウレタン樹脂で形成されており、親水樹脂部3ではポリウレタン樹脂が親水性を有する親水化ポリウレタン樹脂で形成されている。また、ウレタンシート2は親水樹脂部3と一体に形成されている。親水樹脂部3を形成する親水化ポリウレタン樹脂は、ウレタンシート2の親水樹脂部3以外の部分を形成するポリウレタン樹脂より小さい架橋密度を有している。親水樹脂部3を含むウレタンシート2の内部には、半球体状の樹脂製外殻を有する中空状の微粒子(樹脂微粒子)13が略均等かつ略均一に分散した状態で含有(内添)されている。このような親水樹脂部3では、研磨加工時に研磨面Pから研磨液が浸潤することで光透過性を呈する。換言すれば、研磨液が浸潤した親水樹脂部3では、190〜3500nmの範囲のいずれかの波長の光線について30%以上の透過率を示す。
【0018】
図2に示すように、微粒子13は、半球体状の外殻13aを有しており、中央部に中空状の窪み13bが形成されている。換言すれば、微粒子13は中空球状の微粒子が略2分割されて開口が形成されたような椀状を呈している。微粒子13は、光透過性を有しており、外殻13aの表面が親水化処理されている。本例では、微粒子13の外殻13aがシリコーン樹脂で形成されており、その表面が界面活性剤で親水化処理されている。微粒子13の開口部分では、外径(粒径)の平均がおよそ10〜150μmの範囲となるように調整されている。また、微粒子13は、窪み13bに、ポリウレタン成形体の形成時に発泡を形成する発泡形成成分14が予め配されている。
【0019】
発泡形成成分14としては、気体または発泡成分(含有成分)を用いることができる。気体としては、ポリウレタン成形体の形成に用いられる材料に対して非反応性のものが用いられる。このような気体としては、例えば、空気や二酸化炭素等を挙げることができる。発泡形成成分14に気体を用いる場合、ポリウレタン成形体の形成時に気体が窪み13bに配された状態で混合される。気体がポリウレタン樹脂の硬化反応に伴う発熱で膨張し発泡が形成される。また、発泡成分としては、常温で固体であり100〜260℃で熱分解して分解ガスを発生する化学発泡剤または水を用いることができる。水の場合は、ポリウレタン成形体の形成時にイソシアネート基と反応することによりガスを発生し発泡が形成される。発泡成分は、微粒子13の100部に対して5〜50部の重量割合で窪み13bに保持されていることが好ましい。発泡成分が少なすぎると発泡形成が不十分となり、反対に多すぎると形成される発泡の大きさにバラツキが生じやすくなる。換言すれば、発泡成分は、微粒子13の粒径とほぼ同じ大きさの発泡を形成するのに要する量に調整されている。
【0020】
化学発泡剤としては、例えば、バリウムアゾジカルボキシレート、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、炭酸水素ナトリウム、アゾジカルボンアミド、4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジドおよびヒドラゾジカルボンアミドから選択される1種または2種以上を用いることができる。化学発泡剤の熱分解温度が100℃未満ではポリウレタン成形体の形成時に早期に分解が開始するため発泡の分散状態を均等化、均一化することが難しくなり、反対に260℃を超えるとポリウレタン成形体が形成されても分解せず発泡が形成されなくなるため好ましくない。
【0021】
図1に示すように、親水樹脂部3を含むウレタンシート2の内部には、微粒子13の窪み13bに予め配された気体または予め含有された発泡成分の発泡形成成分14により発泡5が略均等かつ略均一に形成されている。このため、ウレタンシート2、親水樹脂部3は発泡構造を有している。発泡形成成分14により発泡5が形成されるため、微粒子13が発泡5に内包されている。微粒子13の含有量は、親水樹脂部3を含むウレタンシート2の100部に対して5〜50部の重量割合に設定されている。微粒子13の含有量が少なすぎると形成される発泡5の数が少なくなりスラリ保持性が不十分となる。反対に、微粒子13の含有量が多すぎると発泡5の数が多くなる分でウレタンシート2の密度が小さくなり研磨性能を低下させるおそれがある。なお、図1では、ウレタンシート2、親水樹脂部3に形成されたそれぞれ1つの発泡5に微粒子13が内包された状態を示し、残りの発泡5では微粒子13を捨象して示している。
【0022】
また、ウレタンシート2は、ポリウレタン成形体をスライス処理等の表面研削処理することで形成されているため、研磨面Pに発泡5が開孔した開孔6が形成されている。開孔6は、発泡形成成分14により形成される発泡5が微粒子13の粒径とほぼ同じ大きさに形成されるため、平均開孔径が10〜150μmの範囲で形成されている。ウレタンシート2の厚さは、1.3〜2.5mmの範囲に設定されている。
【0023】
ウレタンシート2の研磨面Pと反対側の面には、クッションシート16が貼り合わされている。ウレタンシート2およびクッションシート16は、接着剤のみ、または、基材の両面に接着剤層が形成された両面テープで貼り合わされている。この貼り合わせに用いられる接着剤、両面テープはいずれも光透過性を有している。クッションシート16は、研磨パッド20にクッション性を付与する機能を果たしている。クッションシート16としては、弾性を有するシート材を用いることができ、本例では、ポリウレタン樹脂製のシート材が用いられている。クッションシート16には、親水樹脂部3に対応する位置に開口17が形成されている。開口17は、親水樹脂部3を支持できるよう、親水樹脂部3の研磨面Pでの面積より狭い開口面積で形成されている。クッションシート16のウレタンシート2と反対側の面には、研磨機に研磨パッド20を装着するための両面テープ18が貼り合わされている。両面テープ18は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルム等の基材の両面に接着剤層が形成されている。両面テープ18を構成する基材および接着剤層は、全体として光透過性を有している。接着剤層の接着剤としては、例えば、アクリル系接着剤等を挙げることができる。両面テープ18は、一面側の接着剤層でクッションシート16と貼り合わされており、他面側の接着剤層が図示しない剥離紙で覆われている。また、研磨パッド20の研磨面P側には、研磨加工時にスラリの移動や研磨屑の排出を促進するため、断面矩形状の溝8が形成されている。溝8は、研磨面P側から見て格子状に形成されている。
【0024】
(研磨パッドの製造)
研磨パッド20は、図4に示す各工程を経て製造される。すなわち、イソシアネート基含有化合物と、親水性を有するイソシアネート基含有化合物と、活性水素化合物と、微粒子13とをそれぞれ準備する準備工程、イソシアネート基含有化合物、活性水素化合物および微粒子13を混合した第1混合液と、親水性を有するイソシアネート基含有化合物、活性水素化合物および微粒子13を混合した第2混合液とを調製する混合工程、第1混合液を型枠内に注型し硬化反応を進行させ、その硬化反応が終了する前に第2混合液を注入し硬化させてポリウレタン成形体を形成する硬化成型工程、ポリウレタン成形体にスライス処理を施して親水樹脂部3を含むウレタンシート2を形成するシート形成工程、ウレタンシート2の研磨面P側に溝8を形成する溝加工工程、ウレタンシート2をクッションシート16、両面テープ18と貼り合わせるラミネート工程を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0025】
(準備工程)
準備工程では、イソシアネート基含有化合物、親水性を有するイソシアネート基含有化合物、活性水素化合物および微粒子13をそれぞれ準備する。準備するイソシアネート基含有化合物としては、分子内に2つ以上の水酸基を有するポリオール化合物と、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物とを反応させることで生成したイソシアネート末端ウレタンプレポリマ(以下、単に、プレポリマと略記する。)が用いられている。ポリオール化合物と、ジイソシアネート化合物とを反応させるときに、イソシアネート基のモル量を水酸基のモル量より大きくすることで、プレポリマを得ることができる。また、プレポリマは、粘度が高すぎると、流動性が悪くなり混合時に略均一に混合することが難しくなる。温度を上昇させて粘度を低くするとポットライフが短くなり(プレポリマの硬化反応が速くなり)、却って混合斑が生じて微粒子13の分散状態にバラツキが生じる。また、温度上昇により発泡形成成分14が発泡してしまい発泡5の大きさや分散状態にバラツキが生じることもある。反対に粘度が低すぎると、混合液中で微粒子13が移動してしまい、得られるポリウレタン成形体に略均等、略均一に微粒子13を分散させることが難しくなる。このため、プレポリマは、温度50〜80℃における粘度を500〜4000mPa・sの範囲に設定することが好ましい。例えば、プレポリマの分子量(重合度)を変えることで粘度を調整することができる。プレポリマは、50〜80℃程度に加熱され流動可能な状態とされる。
【0026】
プレポリマの生成に用いられるジイソシアネート化合物としては、特に制限されるものではないが、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレン−1,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン−1,2−ジイソシアネート、ブチレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン−1,4−ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等を挙げることができる。また、これらのジイソシアネート化合物の2種以上を併用してもよい。
【0027】
一方、プレポリマの生成に用いられるポリオール化合物としては、ジオール化合物、トリオール化合物等の化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール等の低分子量のポリオール化合物、および、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリエーテルポリオール化合物、エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール化合物、ポリカーボネートポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物等の高分子量のポリオール化合物のいずれも使用することができる。また、これらのポリオール化合物の2種以上を併用してもよい。
【0028】
親水性を有するイソシアネート基含有化合物としては、分子内に2つ以上の水酸基を有するポリオール化合物と、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物とを反応させることで生成したイソシアネート末端の親水化ウレタンプレポリマ(以下、単に、親水化プレポリマと略記する。)が用いられている。ポリオール化合物が主鎖中に、例えば、エーテル結合等の水と親和しやすい親水部分を有していれば親水化プレポリマを生成することができる。ジイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル量をポリオール化合物の水酸基のモル量より大きくすることで、親水化プレポリマを得ることができる。親水化プレポリマは、上述したプレポリマと同様に、温度50〜80℃における粘度を500〜4000mPa・sの範囲に設定することが好ましい。
【0029】
親水化プレポリマの生成に用いられるポリオール化合物としては、上述したプレポリマの生成に用いられるポリオール化合物のうち、ポリエーテルポリオール化合物、エチレングリコールとアジピン酸との反応物等を用いることができる。一方、親水化プレポリマの生成に用いられるジイソシアネート化合物としては、通常のプレポリマ生成に用いられるジイソシアネート化合物を挙げることができる。すなわち、親水化プレポリマの親水性は、親水性ポリオール化合物により付与することができる。
【0030】
準備する活性水素化合物としては、プレポリマ、親水化プレポリマの末端イソシアネート基と反応する活性水素基を有していればよく、ポリアミン化合物やポリオール化合物を用いることができる。活性水素化合物は、プレポリマや親水化プレポリマのイソシアネート基と反応することでハードセグメント(高融点で剛直性を付与するウレタン結合部)を形成する。ポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(以下、MOCAと略記する。)およびMOCAと同様の構造を有するポリアミン化合物等を挙げることができる。また、ポリアミン化合物が水酸基を有していてもよく、このようなアミン系化合物として、例えば、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等を挙げることができる。一方、ポリオール化合物としては、ジオール化合物、トリオール化合物等の化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール等の低分子量のポリオール化合物、および、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール化合物、エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール化合物、ポリカーボネートポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物等の高分子量のポリオール化合物を挙げることができる。活性水素化合物には、ポリアミン化合物およびポリオール化合物の少なくとも一方を用いればよく、ポリアミン化合物ないしポリオール化合物の2種以上を併用してもよい。トリアミン化合物やトリオール化合物等の多官能の活性水素化合物がプレポリマや親水化プレポリマと反応することで立体網目状の樹脂が形成されるが、多官能の活性水素化合物の配合割合を調整することで親水化ポリウレタン樹脂をポリウレタン樹脂より小さい架橋密度で形成することができる。
【0031】
また、窪み13bに発泡形成成分14を配した微粒子13は、例えば、次のようにして形成することができる。本例では、加水分解によりシラノール化合物を生成するシラノール基形成性ケイ素化合物、シラノール基形成性化合物を用いることで、外殻13aが有機シリコーン系の樹脂で形成される。すなわち、シラノール基形成性ケイ素化合物およびシラノール基形成性化合物を混合し、触媒存在下で水と接触させることで加水分解してシラノール化合物を生成させる。触媒としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の無機塩基類、アンモニアやトリメチルアミン等の有機塩基類、塩酸や硫酸等の無機酸類、酢酸やクエン酸等の有機酸類を用いることができる。生成したシラノール化合物を含む反応液を引き続き縮合反応に供し、有機シリコーン系樹脂製で半球体状の外殻13aを有する中空状の微粒子13を生成させる。縮合反応の触媒としては加水分解に用いる触媒を使用することができる。生成した微粒子13は、遠心分離法や加圧濾過法等により脱水し加熱乾燥させるが、分別処理することで、大きさのばらつきを低減し粒径の範囲を調整することができる。
【0032】
得られた微粒子13は、界面活性剤により外殻13aの表面が親水化処理される。親水化処理では、界面活性剤の溶液に微粒子13を浸漬し、減圧下で攪拌した後、乾燥させる。減圧下で窪み13bから気泡が抜け出すことで、本来疎水性を有する外殻13aの表面が界面活性剤と接触し、親水化される。用いる界面活性剤としては、脂肪族アミン塩、脂肪族アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤、脂肪酸石鹸、カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤、エーテル型、エーテルエステル型、エステル型等の非イオン系界面活性剤等を挙げることができ、これらの2種以上を併用することもできる。
【0033】
親水化処理した微粒子13の窪み13bに発泡形成成分14を保持させる。発泡形成成分14として水または化学発泡剤を用いるときは、微粒子13を発泡形成成分14の溶液中に浸漬し、減圧下で攪拌、混合した後、乾燥させる。減圧下で攪拌することで窪み13bから気泡が抜け出し、発泡形成成分14が窪み13bに入り込む。発泡形成成分14として気体を用いるときは、親水化処理した微粒子13をそのまま、用いる気体の雰囲気下にさらす。このとき、用いる気体中に水分が含まれていると、硬化成型工程でプレポリマや親水化プレポリマのイソシアネート基と反応することで予期せぬ発泡が形成されるおそれがあるため、予め水分除去することが望ましい。この状態で窪み13bに気体が保持され、後述する混合液の調製時に気体を配した状態で混合される。また、微粒子13の粒径範囲を調整することで、窪み13bの大きさがほぼ同じとなるように形成されるため、窪み13bに発泡形成成分14が微量でかつ量的にバラツキの少ない状態で保持される。本例では、発泡形成成分14として空気が用いられている。
【0034】
(混合工程、硬化成型工程)
図4に示すように、混合工程では、準備工程で準備したプレポリマ、活性水素化合物および微粒子13を混合した第1混合液と、親水化プレポリマ、活性水素化合物および微粒子13を混合した第2混合液とを調製する。このとき、微粒子13は、第1、第2混合液中での分散状態を均一化するため、予め活性水素化合物に略均一に混合、分散させておく。硬化成型工程では、第1混合液のプレポリマ、第2混合液の親水化プレポリマを2段階で架橋硬化させ、親水樹脂部を含むポリウレタン成形体を成型する。本例では、混合工程、硬化成型工程を連続して行う。
【0035】
混合工程では第1、第2混合液の調製にそれぞれ第1、第2混合機が用いられる。各混合機は、いずれも、攪拌翼が内蔵された混合槽を備えている。第1混合機では混合槽の上流側にプレポリマと、微粒子13を分散させた活性水素化合物とをそれぞれ収容した2つの供給槽が配置されており、第2混合機では混合槽の上流側に親水化プレポリマと、微粒子13を分散させた活性水素化合物とをそれぞれ収容した2つの供給槽が配置されている。各供給槽からの供給口はそれぞれの混合槽の上流端部に接続されている。攪拌翼は混合槽内の略中央部で上流側から下流側までにわたって配置された回転軸に固定されている。回転軸の回転に伴い攪拌翼が回転し、各成分を剪断するようにして混合する。なお、プレポリマや親水化プレポリマ、活性水素化合物の多くがいずれも常温で固体または流動しにくい状態のため、それぞれの供給槽は各成分が流動可能となるように加温されている。
【0036】
プレポリマまたは親水化プレポリマと、微粒子13を分散させた活性水素化合物とがそれぞれの供給槽から混合槽に供給され、攪拌翼の回転により混合される。各混合機での混合条件、すなわち、攪拌翼の速度、回転数を調整することで、各成分が略均等、略均一に混合されて第1、第2混合液がそれぞれ調製される。攪拌翼の速度が小さすぎると、微粒子13の分散状態が不均一となる。反対に速度が大きすぎると、攪拌翼および混合液間の摩擦による発熱で温度が上昇し混合液の粘度が低下する。このため、微粒子13が成型中に移動しやすくなり、成型体中の微粒子13の分散状態にバラツキが生じる。一方、回転数が少なすぎると微粒子13の分散状態を均一化することが難しく、反対に多すぎると温度上昇で粘度が低下し、微粒子13の分散状態にバラツキが生じる。
【0037】
調製された第1、第2混合液はそれぞれ混合槽の下流端部に形成された排出口から排出され連続して注型される。型枠としては、矩形状で上部が開放された開放型容器に、容器中心部と外壁との間に円柱状ブロックが取り外し可能な状態で固定されたものが用いられる。型枠は、本例では、大きさが1050mm(長さ)×1050mm(幅)×50mm(厚さ)に設定されており、円柱状ブロックの大きさが200mm(直径)×50mm(高さ)に設定されている。
【0038】
硬化成型工程では、第1混合液を型枠に注型し架橋硬化を進行させる。型枠に第1混合液を注型するときは、第1混合機の排出口から第1混合液を排出し、例えばフレキシブルパイプを通じて、型枠に略均等に注型する。プレポリマが活性水素化合物との反応により架橋硬化が進行する。型枠の上部が開放されているため、大気圧下で反応(架橋硬化)が進行する。第1混合液の架橋硬化が終了する前に、型枠内の円柱状ブロックを取り除くことで形成された開口部分に第2混合液を注入し架橋硬化を進行させる。このとき、第2混合機の排出口から第2混合液を排出し、例えばフレキシブルパイプを通じて、上述した開口部分に注入する。第1、第2混合液の架橋硬化が終了することにより、親水樹脂部を含むポリウレタン成形体が成型される。第1混合液の架橋硬化が終了する前に第2混合液を注入し架橋硬化を進行させるため、第1、第2混合液の境界部分でも架橋結合が形成される。また、この架橋硬化時に生じた反応熱により微粒子13の窪み13bに配された発泡形成成分14の空気の体積が膨張する。微粒子13が第1、第2混合液中に略均等、略均一に分散されているため、微粒子13の周囲で架橋硬化が進行することで、親水樹脂部を含むポリウレタン成形体中に、発泡5が略均等かつ略均一に形成される。
【0039】
(シート形成工程)
図4に示すように、シート形成工程では、硬化成型工程で得られたポリウレタン成形体をシート状にスライスし、必要に応じてバフ処理等の表面研削処理を施して親水樹脂部3を含むウレタンシート2を形成する。スライスには、一般的なスライス機を使用することができる。スライス時にはポリウレタン成形体の下層部分を保持し、上層部から順に所定厚さにスライスする。スライスする厚さは、本例では、1.3〜2.5mmの範囲に設定されている。本例で用いた厚さが50mmの型枠で成型したポリウレタン成形体では、例えば、ポリウレタン成形体の上層部および下層部の約10mm分をキズ等の関係から使用せず、中央部の約30mm分から10〜25枚のウレタンシート2を形成することができる。ウレタンシート2の厚さ精度を向上させるために、更にバフ処理等の表面研削処理を施すようにしてもよい。バフ処理には一般的なバフ機を使用することができる。硬化成型工程で親水樹脂部を含むウレタン成形体中に発泡5が略均等、略均一に形成されるため、シート形成工程で複数枚のウレタンシート2を形成したときは、表面に形成された開孔6の平均開孔径がいずれも10〜150μmの範囲となる。
【0040】
(ラミネート工程)
ラミネート工程では、シート形成工程で形成されたウレタンシート2とクッションシート16とが貼り合わされ、クッションシート16のウレタンシート2と反対側の面に両面テープ18が貼り合わされる。ウレタンシート2とクッションシート16との貼り合わせには、接着剤のみを用いてもよく、基材の両面に接着剤が塗着された両面テープを用いてもよいが、いずれの場合も光透過性を有することが望ましい。また、ウレタンシート2とクッションシート16とを貼り合わせるときは、ウレタンシート2の親水樹脂部3が形成された位置にクッションシート16の開口17が位置するようにする。そして、円形状に裁断した後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い研磨パッド20を完成させる。
【0041】
被研磨物の研磨加工を行うときは、研磨機の研磨定盤に研磨パッド20を装着する。研磨定盤に研磨パッド20を装着するときは、両面テープ18の剥離紙を取り除き、露出した接着剤層で研磨定盤に接着固定する。研磨定盤と対向するように配置された保持定盤に保持させた被研磨物を研磨面Pに押し付けると共に、外部からスラリを供給しながら研磨定盤ないし保持定盤を回転させることで、被研磨物の加工面が研磨加工される。供給されたスラリが研磨面Pに形成された開孔4に保持されつつ被研磨物の加工面が研磨加工される。また、スラリ中の液体成分が親水樹脂部3に浸潤することで、親水樹脂部3に光透過性が付与される。このとき、親水樹脂部3では、波長190〜3500nmの範囲のいずれかの波長の光線について、入射光エネルギーに対する透過光エネルギーの比を百分率で示した透過率が30%以上を示す。研磨機側に備えられた光源、光検出装置により、研磨加工中に被研磨物の研磨加工状態を親水樹脂部3を介して検出する。そして、研磨終点を光学的に検出したときに研磨加工を終了する。
【0042】
(作用等)
次に、本実施形態の研磨パッド20の作用等について説明する。
【0043】
本実施形態では、ウレタンシート2の少なくとも一部に親水樹脂部3が形成されている。親水樹脂部3を形成する親水化ポリウレタン樹脂がウレタンシート2の親水樹脂部3以外の部分を形成するポリウレタン樹脂より小さい架橋密度を有しているため、親水樹脂部3では研磨液(スラリ)の液体成分が浸潤しやすくなる。親水樹脂部3にスラリの液体成分が浸潤することで親水樹脂部3が光透過性を呈する。このため、研磨加工中に、例えば、研磨機(研磨定盤)に備えられた光源および光検出装置により、親水樹脂部3を介して被研磨物の加工面での光反射状態から研磨加工状態および研磨終点を光学的に検出することができる。これにより、中断することなく研磨終点まで研磨加工することができ、研磨加工の効率を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態では、親水樹脂部3の内部に含有された微粒子13がシリコーン樹脂製のため、光透過性を有しており、本来親水性ではないものの表面が界面活性剤で親水化処理されている。この微粒子13の窪み13bに配した空気により親水樹脂部3に発泡5が形成されている。親水樹脂部3に浸潤したスラリの液体成分が発泡5の内部に浸透すると共に、親水化処理された窪み13bにまで浸透するため、微粒子13の表面や窪み13bでの光散乱が抑えられ、親水樹脂部3の全体として光透過性を向上させることができる。親水樹脂部3では、190〜3500nmの範囲のいずれかの波長の光線について30%以上の透過率を示すことから、入射光が親水樹脂部3の厚さの2倍分(被研磨物の加工面で反射する往復分)を透過することで強度低下しても、研磨終点の検出に十分な強度の透過光を得ることができる。このような研磨パッド20では、研磨終点をイン・シチュウで検出することができるため、例えば、半導体デバイス等をCMP法で研磨加工する際の研磨パッドとして好適に使用することができる。
【0045】
更に、本実施形態では、ウレタンシート2の研磨面Pと反対側の面にクッションシート16が貼り合わされている。このため、研磨パッド20にクッション性が付与されることから、研磨定盤の凹凸等を吸収することができる。これにより、研磨加工を均一化し被研磨物の平坦性を向上させることができる。また、クッションシート16のウレタンシート2と反対側の面には両面テープ18が貼り合わされている。このため、研磨定盤への装着を容易にすることができる。更に、クッションシート16には開口17が形成されており、両面テープ18が全体として光透過性を有している。このため、親水樹脂部3の光透過性の阻害を回避することができる。
【0046】
また更に、本実施形態では、親水樹脂部3を含むウレタンシート2が微粒子13の略均一な大きさの窪み13bに配された空気(発泡形成成分14)により発泡5が形成されている。このため、巨大発泡が形成されることなく、親水樹脂部3を含むウレタンシート2全体の発泡構造が均一化される。これにより、研磨面Pで開孔6が略均等かつ略均一に形成されるので、スラリ保持性を確保しつつスラリの供給を均等化して研磨性能を向上させることができる。
【0047】
更にまた、従来中空微粒子を含有させた場合にはその樹脂製外殻が研磨面で開口せず固さが減じないまま被研磨物に接触して研磨傷を生じさせるおそれがある。これに対して、本実施形態では、微粒子13が半球体状で当初から開口しているため、固さが減じないまま研磨面に露出することがなく、研磨加工に対して異物となり得る外殻成分を最小限量に抑えることができる。これにより、被研磨物に研磨傷を生じさせることなく、平坦性向上を図ることができる。
【0048】
また、本実施形態では、ウレタンシート2を形成するポリウレタン樹脂の架橋硬化が終了する前に、親水樹脂部3を形成する親水化ポリウレタン樹脂(第2混合液)を注入し架橋硬化を進行させる。換言すれば、ポリウレタン樹脂が完全に固化する前に親水化ポリウレタン樹脂が液状のまま接触することとなる。このため、ポリウレタン樹脂と親水化ポリウレタン樹脂との間でも架橋反応が進行し、両者の密着度合いを向上させウレタンシート2および親水樹脂部3を一体に形成することができる。また、上述したように、親水化ポリウレタン樹脂の架橋密度がポリウレタン樹脂より小さいものの、分子レベルでの立体網目構造のため、スラリの液体成分が漏れ出すような通液性は認められない。従って、親水樹脂部3を形成しても、スラリの液体成分が漏れ出すことを抑制することができ、研磨機側への悪影響等を回避することができる。
【0049】
更に、本実施形態では、親水樹脂部3を含むウレタンシート2の研磨面P側に溝8が形成されている。このため、研磨加工時に供給されたスラリが移動することで研磨面全体に略均等に供給され、研磨屑の排出が促進されるので、研磨性能や研磨効率を向上させることができる。
【0050】
なお、本実施形態では、特に言及していないが、親水樹脂部3における光透過性を向上させるために、親水樹脂部3の研磨面Pと反対側に研削処理等を施すことにより親水樹脂部3の厚さを小さくするようにしてもよい。これは、親水樹脂部3に光を透過させた場合、その光の強度が親水樹脂部3の厚さの2乗に比例して減衰するためである。従って、親水樹脂部3の厚さを小さくすることで、光透過性を向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態では、研磨パッド20の中心部と周縁部との間の1箇所に円形状の親水樹脂部3を形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。円形状以外の形状としては矩形状や扇形状を挙げることができる。例えば、図3(B)に示すように、研磨パッド20の半径方向に長辺を有する矩形状の親水樹脂部23を形成するようにしてもよい。また、親水樹脂部3の数についても2箇所以上に形成してもよい。更に、本実施形態では、特に言及していないが、親水樹脂部3に必要に応じて親水性付与剤や光安定剤を配合してもよい。このようにすれば、親水樹脂部3の光透過性の向上や安定化を図ることができる。
【0052】
更に、本実施形態では、親水樹脂部3が光透過性を呈し、190〜3500nmの範囲のいずれかの波長の光線について30%以上の透過率を示す。例えば、可視領域の光線を用いることも可能である。可視領域の光線では、通常、波長が380〜780nmの範囲であり、この範囲の光線については親水樹脂部3が30%以上の透過率を示す。また、本実施形態では、特に例示していないが、研磨機側の光源(発光素子)として、例えば、発光ダイオード(LED)を挙げることができ、その検出装置(受光素子)としてはフォトトランジスタ等を挙げることができる。また、親水樹脂部3以外のウレタンシート2では、スラリの浸潤性が親水樹脂部3と比べて非常に小さく、発泡5が形成されていることを考えれば、親水樹脂部3より光散乱が大きく光透過性が小さくなる。
【0053】
また更に、本実施形態では、シラノール化合物を縮合反応させることで有機シリコーン系樹脂製の微粒子13を形成する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。半球体状の微粒子13を形成することができる方法であれば、いずれの方法も用いることができる。材質についても有機シリコーン系樹脂に限定されるものではなく、光透過性を有していればよい。また、有機シリコーン系樹脂が本来疎水性のため、界面活性剤で親水化処理する例を示したが、材質自体が親水性を有する樹脂であれば、親水化処理をしなくてもよい。更に、本実施形態では、微粒子13が半球体状の例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、半球体状に代えて半多面体状としてもよい。例えば、中空六面体状や中空八面体状の粒子を分割したような微粒子を用いることもできる。いずれの形状としても、窪み13bの形状に制限のないことはもちろんである。
【0054】
更にまた、本実施形態では、微粒子13を予め活性水素化合物と混合して各混合液を調製する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、プレポリマや親水化プレポリマと混合しておくこともできる。窪み13bに配する発泡形成成分14として水を用いる場合には、イソシアネート基との反応を回避するため、活性水素化合物と混合しておくことが好ましい。また、微粒子13を単独成分として混合するようにしてもよいが、この場合には、分散状態の均一化を図るために有機溶媒等に分散させておくことが好ましい。
【0055】
また、本実施形態では、混合液調製、注型、硬化成型を連続して行う例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、それぞれ独立して行うようにしてもよい。また、本実施形態では、型枠として開放型容器を用い大気圧下で成型する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、型枠を兼ねる容器中で混合液を調製し、その容器内で硬化成型するようにしてもよく、容器を密閉して加圧下で硬化成型してもよい。
【0056】
更に、本実施形態では、開放型容器内に円柱状ブロックを配した型枠を用い親水樹脂部を含むポリウレタン成形体を形成する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、親水化プレポリマ、活性水素化合物および微粒子13を混合した混合液を円柱状ブロックを配していない型枠に注型してウレタンシート2を形成するようにしてもよい。このようにすれば、ウレタンシート2の全体を親水樹脂部3とした研磨パッドを得ることができる。また、本実施形態では、ウレタンシート2がポリウレタン樹脂、親水樹脂部3が親水化ポリウレタン樹脂でそれぞれ形成される例を示したが、本発明は樹脂に制限されるものではなく、種々の樹脂を用いることができる。また、親水樹脂部を形成する樹脂と、親水樹脂部以外の研磨層を形成する樹脂とが同質であっても異質であってもよいが、両者を一体に形成することを考慮すれば、同質の樹脂であることが好ましい。
【0057】
また更に、本実施形態では、研磨パッド20の研磨面P側に、断面矩形状の溝8を格子状に形成する例を示したが本発明はこれに制限されるものではない。溝の形状については、放射状、螺旋状等としてもよく、断面形状についても矩形状以外に、U字状、V字状、半円状等としてもよい。溝のピッチ、幅、深さについても、研磨屑の排出やスラリの移動が可能であればよく、特に制限されるものではない。研磨パッドに溝加工を施した場合、例えば、研磨パッドの表面に孔径の大きな開孔が形成されていると、開孔と溝とが重なり突起状の角が形成されるため、研磨加工時に被研磨物に研磨傷を発生させる可能性がある。本実施形態では、研磨パッド20の開孔6が平均開孔径10〜150μmの範囲で略均一なため、溝加工を施しても研磨傷の発生を抑制することができる。更に、溝加工に代えてエンボス加工を施すようにしてもよく、溝加工と同等の効果を得ることができる。
【0058】
更にまた、本実施形態では、ウレタンシート2と両面テープ18との間にクッションシート16を介在させる例を示したが、クッションシート16を貼り合わせず研磨パッドを形成することもできる。研磨定盤や研磨パッドの凹凸、装着に伴う厚さムラ等を吸収し、被研磨物の研磨加工をより均一化することを考慮すれば、クッションシートを介在させることが好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド20の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0060】
(実施例1)
実施例1では、ポリオール化合物として平均分子量約2000のPTMGと、ジイソシアネート化合物として2,4−TDIとを反応させることで、温度50℃における粘度が5500mPa・s、NCO当量が549のプレポリマを得た。また、ポリオール化合物として平均分子量約2000のポリエチレングリコールと、ジイソシアネート化合物としてTDIとを反応させることで、温度50℃における粘度が5500mPa・s、NCO当量が549の親水化プレポリマを得た。活性水素化合物にはMOCAを用いた。微粒子13としては、平均粒径10μmの外殻13aを有機シリコーン系重合体で形成し、窪み13bに発泡形成成分14として空気を配した。プレポリマまたは親水化プレポリマ:MOCA:微粒子13を重量比で100部:22.8部:5.3部の割合で混合し、第1、第2混合液をそれぞれ調製した。混合時の攪拌条件は、回転数1689回、速度9425/秒に設定した。硬化成型後、厚さ1.3mmにスライスし研磨パッド20を作製した。
【0061】
(比較例1)
比較例1では、中空球状微粒子(松本油脂製薬株式会社製、マツモトマイクロビーズM−610、架橋アクリルタイプ)を用い、親水樹脂部3を形成しない以外は実施例1と同様にして比較例1の研磨パッドを製造した。すなわち、比較例1の研磨パッドは、従来の研磨パッドである。なお、中空球状微粒子の平均粒径は10μmに設定した。
【0062】
(物性測定)
各実施例および比較例の研磨パッドについて、開孔6の平均開孔径、親水樹脂部3の光透過性を測定した。平均開孔径は、マイクロスコープ(KEYENCE製、VH−6300)で約1.3mm四方の範囲を175倍に拡大して観察し、得られた画像を画像処理ソフト(Image Analyzer V20LAB Ver.1.3)により処理し算出した。光透過性は、各研磨パッドを水に浸漬させた後、波長500nmの光線についての透過率を測定し評価した。平均開孔径および光透過性の測定結果を下表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、中空球状微粒子が分散された比較例1の研磨パッドでは、研磨面Pでの平均開孔径が9.8μmを示した。これに対して、親水樹脂部3を形成し半球体状の微粒子13を分散させた実施例1の研磨パッド20では、平均開孔径が9.5μmを示した。このことから、比較例1のウレタンシート、実施例1のウレタンシート2には、それぞれ中空球状微粒子、微粒子13の粒径と同程度の大きさの発泡が形成されることが判った。また、比較例1ではウレタンシートの光透過率が10%であったのに対して、実施例1では光透過率が52%を示した。このことから、実施例1の研磨パッド20では、研磨加工中に研磨終点を光学的に検出することが可能であることが判った。
【0065】
(研磨性能評価)
次に、各実施例及び比較例の研磨パッドを用いて、以下の研磨条件でハードディスク用のアルミニウム基板の研磨加工を行い、研磨レートを測定した。研磨レートは、1分間当たりの研磨量を厚さで表したものであり、研磨加工前後のアルミニウム基板の重量減少から求めた研磨量、アルミニウム基板の研磨面積および比重から算出した。また、研磨加工によるアルミニウム基板上のスクラッチの有無を目視にて判定した。研磨レート、スクラッチの有無の測定結果を下表2に示す。
(研磨条件)
使用研磨機:スピードファム社製、9B−5Pポリッシングマシン
研磨速度(回転数):30rpm
加工圧力:100g/cm
スラリ:コロイダルシリカスラリ(pH:11.5)
スラリ供給量:100cc/min
被研磨物:ハードディスク用アルミニウム基板
(外径95mmφ、内径25mm、厚さ1.27mm)
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示すように、比較例1の研磨パッドでは、研磨レートが0.182μm/minを示し、スクラッチが確認された。これに対して、実施例1の研磨パッド20では、研磨レートが0.195μm/minと向上し、スクラッチは認められなかった。また、比較例1の研磨パッドでは研磨終点を判断するために研磨加工を中断して加工面を検査する必要があったのに対し、実施例1の研磨パッド20では光学的に研磨終点が検出できたため、中断することなく研磨加工を行うことができた。従って、親水樹脂部3を形成したウレタンシート2を用い、微粒子13の窪み13bに配した発泡形成成分14で親水樹脂部3を含むウレタンシート2に発泡5を形成することで、光学的に研磨終点を検出することができ、十分な研磨レートを得ることができることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は研磨加工状態を光学的に検出可能で研磨性能を向上させることができる研磨パッドを提供するため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨パッドに分散された微粒子を模式的に示す斜視図である。
【図3】研磨パッドを構成するウレタンシートに形成された親水樹脂部を模式的に示す平面図である。
【図4】実施形態の研磨パッドの製造方法の要部を示す工程図である。
【符号の説明】
【0070】
P 研磨面
2 ウレタンシート(研磨層)
3 親水樹脂部(浸潤許容部)
5 発泡
13 微粒子(樹脂微粒子)
13a 外殻
13b 窪み
20 研磨パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂製の研磨層と、
前記研磨層の少なくとも一部を構成し厚さの全体にわたり研磨液の浸潤を許容する浸潤許容部と、
前記浸潤許容部を含む前記研磨層の内部に略均一に分散され半球体状または半多面体状の外殻を有する中空状の樹脂微粒子と、
を備え、
前記研磨層は前記樹脂微粒子の中空部分に予め配された気体または予め含有された含有成分により内部に発泡が形成され、かつ、前記浸潤許容部と一体に形成されたものであり、前記浸潤許容部は前記研磨面から前記研磨液が浸潤することで光透過性を呈することを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記研磨層はポリウレタン樹脂で形成されており、前記浸潤許容部を形成するポリウレタン樹脂が親水性を有することを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記浸潤許容部を形成するポリウレタン樹脂は、前記浸潤許容部以外の研磨層を形成するポリウレタン樹脂より小さい架橋密度を有することを特徴とする請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
少なくとも前記浸潤許容部に分散された樹脂微粒子は、前記外殻が親水性樹脂で形成されたものまたは前記外殻の表面が親水化処理されたものであり、光透過性を有することを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記外殻は、シリコーン樹脂で形成されており、表面が界面活性剤により親水化処理されたことを特徴とする請求項4に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記浸潤許容部は、前記研磨液が浸潤したときに、波長190nm〜3500nmの範囲のいずれかの波長の光線に対し30%以上の透過率を示すことを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記研磨層は、前記研磨面に平均開孔径10μm〜150μmの範囲の開孔が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項8】
前記含有成分は、常温で固体であり100℃〜260℃でガスを発生する化学発泡剤または水であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項9】
前記樹脂微粒子は、前記研磨層の100部に対して5部〜50部の重量割合で分散されたことを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項10】
前記研磨層は、前記研磨面側に溝加工またはエンボス加工が施されたことを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項11】
前記研磨層の前記研磨面と反対側の面に更にクッション材が貼り合わされたことを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項12】
前記クッション材は、前記浸潤許容部に対応する位置に開口が形成されたことを特徴とする請求項11に記載の研磨パッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−23134(P2010−23134A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184462(P2008−184462)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】