説明

研磨パッド

【課題】被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド10のポリウレタン樹脂製の発泡シート2を備えている。発泡シート2は発泡3が連続発泡状に形成されている。発泡シート2は、研磨面Pから全体の厚さに対して50%の厚み範囲に中空状の樹脂微粒子4が60%以上局在するように含有されている。発泡シート2の研磨面P側に研削処理が施され、微粒子4は研磨面P側で開孔し開孔5が形成されている。発泡シート2は、研磨面Pの単位面積あたりに形成され開孔径が1μmを超える開孔のうち、微粒子4で形成された開孔5の数が、発泡3で形成された開孔の数より大きくなるように形成されている。スラリの分散供給が均一化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドに係り、特に、湿式成膜法により発泡が連続発泡状に形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂製発泡体を備えた研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用基板、半導体、半導体デバイス用シリコンウエハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板等、高精度に平坦性が要求される材料(被研磨物)では、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。半導体デバイスでは、半導体回路の集積度が急激に増大するにつれて高密度化を目的とした微細化や多層配線化が進み、研磨面を一層高度に平坦化する技術が重要となっている。一方、液晶ディスプレイ用ガラス基板では、液晶ディスプレイの大型化に伴い、表面のより高度な平坦性が要求されている。
【0003】
一般に、ハードディスク用基板や半導体デバイス用シリコンウエハ等の研磨方法としては、化学的機械的研磨(以下、CMPと略記する。)法が用いられている。CMP法では、通常、研磨加工時に、砥粒(研磨粒子)をアルカリ溶液や酸溶液に分散させたスラリ(研磨液)を供給する、いわゆる遊離砥粒方式が採用されている。すなわち、被研磨物(の加工面)は、スラリ中の砥粒による機械的研磨作用と、アルカリ溶液や酸溶液による化学的研磨作用とで研磨される。加工面に要求される平坦性の高度化に伴い、CMP法に求められる研磨精度や研磨効率等の研磨特性、換言すれば、研磨パッドに要求される性能も高まっている。
【0004】
CMP法では、ポリウレタン発泡体を有する研磨パッドが広く使用されている。このような研磨パッドの製造では、湿式成膜法および乾式成形法で形成されたポリウレタン樹脂製の発泡体を備えた研磨パッドが使用されている。湿式成膜法では、ポリウレタン樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂がシート状に凝固再生される。得られた発泡体では、内部にポリウレタン樹脂の凝固再生に伴う多数の発泡が形成されている。すなわち、被研磨物を研磨加工するための研磨面側に微多孔が形成された表面層(スキン層)を有し、表面層より内側に発泡が連続状に形成されている。通常、表面層側に研削処理や、ドレス処理(軽度なサンディング)が施されることで、表面(研磨面)に開孔が形成されている。一方、乾式成形法では、イソシアネート基含有化合物と、活性水素化合物とを反応により硬化させることで、発泡構造のポリウレタン発泡体が形成される。発泡構造を形成するために、例えば、樹脂性の外殻を有する中空球状微粒子を混合する技術(特許文献1〜特許文献5参照)、水を添加する技術(特許文献6参照)、不活性気体を混合する技術(特許文献7参照)、水溶性微粒子を混合する技術(特許文献8参照)が開示されている。得られたポリウレタン発泡体の表面が研削処理されるか、または、ポリウレタン発泡体がシート状にスライスされることで、表面に開孔が形成された研磨パッドが製造される。これらの技術で製造された研磨パッドでは、研磨加工時に研磨面に形成された開孔にスラリが保持されるため、遊離砥粒方式により被研磨物の研磨加工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3013105号公報
【特許文献2】特許3425894号公報
【特許文献3】特許3801998号公報
【特許文献4】特開2006−186394号公報
【特許文献5】特開2007−184638号公報
【特許文献6】特開2005−68168号公報
【特許文献7】特許3455208号公報
【特許文献8】特開2000−34416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献6〜特許文献7の技術では、水や不活性気体により表面に開孔が形成されるものの、水分がイソシアネート基と反応することでポリウレタン発泡体に発泡不良が生じることがあり、発泡構造が不均一となる。特許文献8の技術では、水溶性微粒子がスラリによって溶出することで表面に開孔が形成されるが、ポリウレタン発泡体中に水溶性微粒子を均一分散させることは容易でなく、開孔径が不均一となりやすい。また、水溶性微粒子が水分を含みやすいため、この僅かな水分によっても巨大発泡が形成され、発泡構造が不均一となり、供給した砥粒が二次凝集を起こし、被研磨物の加工面にスクラッチ(キズ)等を生じさせることもある。この点、特許文献1〜特許文献5の技術では、中空球状微粒子を混合するため、発泡不良を抑制することはできるものの、中空球状微粒子が研磨面で開孔しない場合は、中空球状微粒子の硬さが低減せず、外殻成分が異物としてスクラッチ等を招き被研磨物の平坦性を低下させることがある。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、湿式成膜法により発泡が連続発泡状に形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面に開孔が形成された樹脂製発泡体を備えた研磨パッドにおいて、前記発泡体は、前記研磨面から一定の厚み範囲に局在するように多数の中空状の樹脂微粒子が含有されていると共に、前記研磨面の単位面積あたりに形成され開孔径が1μmを超える開孔のうち、前記微粒子で形成された開孔の数が前記発泡で形成された開孔の数より大きいことを特徴とする。
【0009】
本発明では、研磨面の単位面積あたりに形成され開孔径が1μmを超える開孔のうち、微粒子で形成された開孔の数が発泡で形成された開孔の数より大きいため、研磨液が略均一に研磨面に保持され安定した研磨加工を行うことができると共に、発泡が連続発泡状に形成されていることでクッション性が発揮され、研磨面の面圧が一定となるように微粒子が支持されるため、スクラッチの抑制効果が高まり、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0010】
この場合において、発泡体は、研磨面から発泡体全体の厚さに対して50%の厚み範囲に微粒子の60%以上が局在するように含有されていることが好ましい。また、発泡体は、研磨面から全体の厚さに対して5%の厚さ分を除いたとき、平均開孔径を5〜40μmの範囲、開孔径が50μmを超える開孔を10個/mm以下に調整することができる。発泡体は、研磨面から全体の厚さに対して50%の厚さ分を除いたとき、開孔径が50μmを超える開孔を15〜50個/mmの範囲としてもよい。発泡体のショアA硬度を20〜90度の範囲とすることができる。発泡体は、湿式成膜法により一体成形されていることが好適である。微粒子は、均一の孔径を有することが好ましい。微粒子を球体状または多面体状とすることができる。更に、発泡体は、微粒子より小さい孔径の微多孔が連続的に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、研磨面の単位面積あたりに形成され開孔径が1μmを超える開孔のうち、微粒子で形成された開孔の数が発泡で形成された開孔の数より大きいため、研磨液が略均一に研磨面に保持され安定した研磨加工を行うことができると共に、発泡が連続発泡状に形成されていることでクッション性が発揮され、研磨面の面圧が一定となるように微粒子が支持されるため、スクラッチの抑制効果が高まり、被研磨物の平坦性を向上させることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0014】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド10は、樹脂製発泡体としての発泡シート2を備えている。発泡シート2は湿式成膜法によりポリウレタン樹脂で一体形成され、略平坦な研磨面Pを有している。
【0015】
発泡シート2は、本例では、湿式成膜時に緻密な微多孔が形成された表面層(スキン層)が研削処理やドレス処理により除去され、その表面に研磨面Pが構成されている。発泡シート2には、中空状の樹脂微粒子4が研磨面Pから一定の厚み範囲に局在するように含有されている。発泡シート2には、発泡シート2の厚さ方向に沿って縦長で丸みを帯びた断面三角形状の発泡3が形成されている。発泡3は、研磨面P側の径の大きさが、研磨面Pと反対の面側の径より小さく形成されている。すなわち、発泡3は研磨面P側で縮径されている。発泡3の間のポリウレタン樹脂中には、発泡3より小さい孔径の微多孔が形成されているが、図1ではそれらの微多孔を省略している。発泡3および微多孔は、不図示の連通孔で網目状につながっている。すなわち、発泡シート2は、湿式成膜法により形成された連続状の発泡構造を有している。
【0016】
微粒子4は、発泡シート2の内部に研磨面Pから全体の厚さに対して50%の厚み範囲に60%以上が局在するように含有されている。微粒子4の含有量は、発泡シート2の100部に対して1〜50部の重量割合に設定されている。含有された微粒子4のうちの60%以上が研磨面P側に局在している。発泡シート2は、研磨面Pに研削処理やドレス処理が施されているため、研磨面Pでは、表面近傍に位置する一部の微粒子4が開孔し開孔5が形成されている。研磨面Pの単位面積あたりに形成され開孔径が1μmを超える開孔のうち、微粒子4で形成された開孔5の数は、発泡3で形成された開孔の数より大きくなるように形成されている。また、微粒子4の孔径は、5〜40μmの範囲に調整され、均一となるように調整されている。このため、研磨加工中に供給されるスラリが被研磨物の加工面に略均一に分散供給される。
【0017】
微粒子4としては、球体状または多面体状のものを用いることができ、例えば、低沸点炭化水素が内包され、外殻が熱可塑性樹脂で形成された微小球体を用いることができる。外殻を形成する熱可塑性樹脂の軟化温度が、内包した低沸点炭化水素の沸点より高温であるものが好ましい。膨張前の微粒子は、熱可塑性樹脂の軟化温度以上の熱が加えられると、熱可塑性樹脂が軟化すると共に低沸点炭化水素が気化することで体積膨張して中空となる。外殻の熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリロニトリル−塩化ビニリデン共重合体、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、スチレン系ポリマー、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アミド樹脂等を挙げることができる。これらの外殻の熱可塑性樹脂は、発泡シート2の作製時に用いるポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒に対して安定なものがよく、必要に応じて架橋処理等が施されていることが好ましい。内包される低沸点炭化水素としては、例えば、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、石油エーテル等を挙げることができる。内包させる低沸点炭化水素の量を調整することで、膨張後の粒径を調整することができるが、本例では、予め膨張させたもので、膨張後の微粒子4の粒径が、5〜40μmの範囲のものを用いる。
【0018】
発泡シート2の全体の厚さtは、0.3〜3mmの範囲に調整されている。研磨面P側から全体の厚さtに対して5%の厚さ(0.05t)分を除いたとき、平均開孔径が5〜40μmの範囲で、開孔径が50μmを超える開孔が10個/mm以下となるように調整されている。また、研磨面P側から全体の厚さtに対して50%の厚さ(0.5t)分を除いたとき、開孔径が50μmを超える開孔が15〜50個/mmの範囲となるように調整されている。発泡シート2では、ショアA硬度は20〜90度の範囲に調整されている。このようにすれば、発泡シート2の硬度が適正化されるため、研磨加工時にスクラッチ等の発生を低減することができる。
【0019】
また、研磨パッド10は、発泡シート2の研磨面Pと反対の面側に、研磨機に研磨パッド10を装着するための両面テープ6が貼り合わされている。両面テープ6は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルム等の基材の両面に接着材層を有している。図1では、基材および接着材層を省略している。接着材層の接着材としては、例えば、アクリル系接着材等を挙げることができる。両面テープ6は、一面側の接着材層で発泡シート2と貼り合わされており、他面側の接着材層が剥離紙7で覆われている。
【0020】
(製造)
研磨パッド10は、ポリウレタン樹脂を溶解させ微粒子4を含有させた樹脂溶液を準備する準備工程、樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布する塗布工程、水系凝固液中でポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる凝固再生工程、凝固再生したポリウレタン樹脂を洗浄し乾燥させる洗浄・乾燥工程、バフ処理により厚みを均一化させるバフ処理工程、発泡シート2に両面テープ6を貼付するラミネート加工工程を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0021】
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN、N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)、微粒子4および添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。水混和性の有機溶媒としては、水と任意の割合で混ざり合う有機溶媒であればよく、DMF以外に、例えばN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン等を用いてもよい。ポリウレタン樹脂は、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用いられ、例えば、ポリウレタン樹脂が30重量%となるようにDMFに溶解させる。微粒子4は略均一に混合、分散させる。添加剤としては、発泡3の厚さ方向の長さや単位体積あたりの個数を制御するため、カーボンブラック等の顔料、発泡の生成を促進させる親水性活性剤及びポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を減圧下で脱泡して樹脂溶液を得る。
【0022】
塗布工程では、準備工程で得られた樹脂溶液を常温下でナイフコータ等により帯状の成膜基材に略均一となるように、連続的に塗布する。このとき、ナイフコータ等と成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、ポリウレタン樹脂溶液の塗布厚さ(塗布量)が調整される。成膜基材にはPET樹脂等の樹脂製の不織布やフィルムを用いることができるが、本例では、成膜基材としてPET製フィルムが用いられる。
【0023】
凝固再生工程では、成膜基材に塗布された樹脂溶液を、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液に案内する。凝固液中では、まず、塗布された樹脂溶液の表面側に微多孔が形成され厚さ数μm程度のスキン層が形成される。その後、樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材上にシート状に凝固再生する。DMFが樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することで、スキン層より内側のポリウレタン樹脂中に発泡3および微多孔が形成され、発泡3および微多孔が網目状に連通する。このとき、成膜基材のPETシートが水を浸透させないため、樹脂溶液の表面側(スキン層側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きな発泡3が形成される。DMFが樹脂溶液から脱溶媒され表面側へ移動するに伴い、微粒子4は、表面側に局在するように分散される。
【0024】
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生したシート状のポリウレタン樹脂(以下、成膜樹脂という。)を成膜基材から剥離し、水等の洗浄液中で洗浄して成膜樹脂中に残留するDMFを除去する。洗浄後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後の成膜樹脂をロール状に巻き取る。
【0025】
バフ処理工程では、成膜樹脂の表面に形成されたスキン層側にバフ処理を施す。すなわち、圧接治具の略平坦な表面を成膜樹脂のスキン層と反対側の面に圧接し、スキン層側にバフ処理を施す。これにより、一部の微粒子4が研磨面Pに開孔して開孔5が形成され、成膜樹脂の厚みが均一化され、発泡シート2が得られる。
【0026】
ラミネート加工工程では、発泡シート2の研磨面Pと反対側の面に両面テープ6を貼り合わせる。両面テープ6の他面側は剥離紙7で覆われている。汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨パッド10を完成させる。
【0027】
(作用等)
次に、本実施形態の研磨パッド10の作用等について説明する。
【0028】
本実施形態の研磨パッド10では、発泡シート2の研磨面P側に微粒子4が局在するように含有されている。研磨面Pでは微粒子4の開孔により開孔5が形成されている。研磨面Pの単位面積あたりに形成され開孔径が1μmを超える開孔のうち、微粒子4で形成された開孔5の数は、発泡3で形成された開孔の数より大きい。このため、研磨加工時に供給されるスラリが開孔5に保持されつつ被研磨物の加工面を略均一に移動することで研磨加工に寄与する、すなわち、スラリの分散供給が均一化されるため、研磨効率や研磨精度等の研磨特性を安定化させることができる。
【0029】
また、本実施形態の研磨パッド10では、発泡3や微多孔が連通孔で網目状につながり、連続発泡状に形成されている。このため、研磨加工時にクッション性が発揮されることで、研磨面Pの面圧が一定となるように、微粒子4が支持される。これにより、微粒子4の外殻により局部的に圧力が上昇することが抑制されるため、スクラッチの抑制効果が高まり、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0030】
更に、本実施形態の研磨パッド10では、発泡シート2の研磨面Pから全体の厚さに対して50%の厚み範囲に微粒子4が60%以上局在するように含有され、研磨面Pで微粒子4が開孔して開孔5が形成されている。研磨加工時には、発泡シート2の研磨面P側が摩耗する。また、研磨効率の向上を図るため、ドレス処理が研磨面P側に施される。研磨面P側のドレス処理や摩耗により研磨面Pの近傍に含有された微粒子4が随時開孔され開孔5が形成される。このため、摩耗が進んでも、研磨面Pに開孔5が随時形成されるため、被研磨物の加工面に略均一にスラリを分散させることができると共に、スラリ保持性を維持することができる。発泡シート2の研磨面Pから全体の厚さに対して50%の厚み範囲に微粒子4が60%以上局在していないと、発泡3の孔径が大きくなる部分に含まれる微粒子4の割合が増えるため、研磨に関与しない無駄な微粒子4の割合が増えるばかりか、安定なクッション性を損ないやすくなるので好ましくない。
【0031】
また更に、本実施形態の研磨パッド10では、研磨面Pから全体の厚さに対して5%の厚さ分を除いたとき、平均開孔径が5〜40μmの範囲で、開孔径が50μmを超える開孔が10個/mm以下に調整されている。また、研磨面Pから全体の厚さに対して50%の厚さ分を除いたとき、開孔径が50μmを超える開孔が15〜50個/mmの範囲に調整されている。すわなち、研磨加工時に発泡シート2が摩耗するのに従い、発泡3が開孔し、その孔径が大きくなる。このため、研磨により発生する研磨屑(スラッジ)や微粒子4の外殻成分が発泡3内に入り込むため、被研磨物にスクラッチが形成されることを抑制することができる。研磨面Pから全体の厚さに対して5%の厚さ分を除いたときの平均開孔径が5μmより小さいと、研磨屑(スラッジ)やスラリ凝集物による目詰まりが生じやすく、反対に40μmより大きいと被研磨物の平坦性が得られにくくなるので好ましくない。また、このときの開孔径が50μmを超える開孔が10個/mmを超えると、被研磨物の平坦性が損なわれるので好ましくない。研磨面Pから全体の厚さに対して50%の厚さ分を除いたときに開孔径が50μmを超える開孔が15個/mmより少ないと、十分なクッション性が得られにくくなるので、スクラッチを招きやすく、反対に50個/mmより多いと、研磨面圧にバラツキが生じやすく、被研磨物の平坦性が損なわれるので好ましくない。
【0032】
また、本実施形態の研磨パッド10では、発泡シート2のショアA硬度が20〜90度の範囲に調整されている。このため、硬度が適正化され、研磨面Pから摩耗屑を除去しやすくなり、ドレス性を向上させることができる。また、摩耗が過度になるおそれがないため、長期間研磨加工を継続することができ、長寿命化を図ることができる。
【0033】
更に、本実施形態の研磨パッド10では、発泡シート2が湿式成膜法により一体成形されている。このため、発泡シートに他の材質が貼り合わされたものと比較すると、研磨加工中に積層された面で剥離することがない。また、貼り合わされたものは、厚みが増すにつれて研磨パッドの厚みムラが生じることがあるが、研磨パッド10は、発泡シート2が一体成形されているため厚みムラを防ぐことができ、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0034】
また更に、本実施形態の研磨パッド10では、微粒子4が球体状または多面体状で、均一の孔径となるように調整されている。これにより、開孔5を開孔径が略均一となるように容易に形成することができる。従って、研磨加工時には、スラリが被研磨物の加工面を略均一に移動することができ、スラリの保持性が確保され、目詰まりが抑制されるので、研磨効率や研磨精度を向上させることができる。また、極端に大きな開孔が形成されず目詰まりも抑制されることで研磨粒子等の凝集物の形成が抑制されるので、被研磨物にスクラッチ(キズ)を発生させることなく平坦性を向上させることができる。
【0035】
なお、本実施形態では、発泡シートとしてポリウレタン樹脂製のシートを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の樹脂を使用してもよい。例えば、ポリ塩化ビニル樹脂等を使用してもよい。ポリウレタン樹脂を用いるようにすれば、湿式成膜法により連続状の発泡構造を容易に形成することができる。
【0036】
また、本実施形態では、発泡シート2の作製時に、ポリウレタン樹脂を凝固再生させた後、成膜基材を剥離して、両面テープ6を貼り合わせる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、成膜基材を剥離した後、両面テープ6と発泡シート2との間に支持体を貼り合わせてもよい。また、ポリウレタン樹脂を凝固再生させた後、成膜基材を剥離せず、両面テープ6を貼り合わせ、成膜基材を支持体としてもよい。例えば、成膜基材に不織布を用いた場合は、発泡シートから剥離することが難しいため、成膜基材を剥離せずそのまま乾燥させてもよい。つまり、不織布の成膜基材が研磨パッド10の支持体となる。更に、両面テープ6としては、基材の両面に粘着剤が塗布されていてもよく、基材を有することなく粘着剤のみで構成されてもよい。
【0037】
更に、本実施形態では、発泡シート2に両面テープ6が貼り合わされている例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、製造工程において、例えば、成膜基材上にPET−PU(ポリウレタン)共重合樹脂を塗布し、乾燥させた後、PET−PU共重合樹脂の成膜基材と反対の面側にポリウレタン樹脂溶液を塗布し、ポリウレタン樹脂を凝固再生させてもよい。このようにすれば、PET−PU共重合樹脂は、成膜基材(支持体)とポリウレタン樹脂(発泡シート)とを定着固定させる接着材の役割を果たすため、研磨加工中に発泡シートと支持体が剥離することを抑制することができる。
【0038】
また更に、本実施形態では、発泡シートの研磨面P側にバフ機やスライス機等により研削処理を施してスキン層を除去する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、発泡シート2の研磨面P側と反対面側に研削処理を施してもよい。このようにすれば、スキン層を残したまま厚みのバラツキ等を改善することができる。また、発泡シート2の研磨面P側に研削処理を施さずにスキン層を残してもよい。
【0039】
更にまた、本実施形態では、特に言及していないが、発泡シート2に、被研磨物の研磨加工状態を光学的に検出するための光透過を許容する光透過部を、例えば、光透過部が発泡シート2の厚み方向の全体にわたり貫通するように形成するようにしてもよい。光透過部を形成するには、例えば、発泡シート2に貫通口を形成しておき、発泡シート2と別の光透過性を有する部材を貫通口にはめ込むことで実現することができる。また、発泡シート2を構成する材料または光透過部を構成する材料が固化する前に両者を接触させて一体化させることで実現することもできる。光透過部を形成すれば、例えば、研磨機側に備えられた発光ダイオード等の発光素子、フォトトランジスタ等の受光素子により、研磨加工中に光透過部を通して被研磨物の加工面の研磨加工状態を検出することができる。これにより、研磨加工の終点を適正に検出することができ、研磨効率の向上を図ることができる。
【0040】
また、本実施形態では、発泡シート2に断面三角形状の発泡3や微多孔が連続発泡状に形成されている例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、準備工程において、ポリウレタン樹脂溶液に更に別の有機溶媒を加え、凝固再生工程でポリウレタン樹脂溶液の凝固を遅らせることで、発泡3を形成させずに発泡3より小さいミクロ発泡を厚み方向に均一に立体網目状に形成するようにしてもよい。この場合、ポリウレタン樹脂は比較的低い粘度のものを用い、比重の小さい微粒子4を分散させ、成膜基材に塗布後、微粒子4を成膜基材と反対側に局在させてから凝固再生させる。このようにすれば、微粒子4を研磨面から一定の厚み範囲に局在させることができ、上述したように安定した研磨レートで研磨加工を行うことができる。
【0041】
更に、本実施形態では、予め膨張させた微粒子4を用いる例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、微粒子4を膨張させる前の状態のものを用いてもよい。この場合、微粒子4は、洗浄・乾燥工程で加熱されたときに膨張する。また、本実施形態では、微粒子4に、低沸点炭化水素が内包された微小球体を例示したが、本発明は、これに制限されるものではない。例えば、低沸点炭化水素を内包させず、元々中空のものを用いてもよい。また、外殻は完全に覆われていなくてもよく、例えば実質的にポリウレタン樹脂が空隙を埋めきらない程度に開孔した断面が馬蹄形や半円状の中空微粒子であっても構わない。更に、中空シリカやアルミノシリケート系マイクロバルーンのような外殻が無機系の材質であってもよい。
【実施例】
【0042】
次に、本実施形態に従い製造した研磨パッド10の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0043】
(実施例1)
実施例1では、ポリウレタン樹脂としてポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)を用いた。このポリウレタン樹脂を30重量%でDMFに溶解させた溶液100部に対して、微粒子4を10部、粘度調整用のDMFの45部、カーボンブラックを30重量%含むDMF分散液の40部、疎水性活性剤の2部を混合してポリウレタン樹脂溶液を調製した。微粒子4は、殻部分がアクリロニトリル−塩化ビニリデン共重合体からなり、殻内にイソブタンガスが内包された既膨張タイプの中空球状微粒子(エクスパンセル社製、商品名:EXPANCEL 551 DE20)であり、平均粒径が20μmである。得られたポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に塗布した後、凝固液中で凝固再生させた。洗浄・乾燥させた後、発泡シート2を作製し実施例1の研磨パッド10を製造した。
【0044】
(比較例1)
比較例1では、微粒子4を含有させなかったこと以外は実施例1と同様にして比較例1の研磨パッドを製造した。すなわち、比較例1は、微粒子4が含有されていない従来の研磨パッドである。
【0045】
(評価1)
実施例1および比較例1の研磨パッドについて、厚み、研磨面Pにおける平均開孔径、開孔径が50μmを超える開孔数、微粒子4の局在率および発泡シートのショアA硬度を測定した。厚みの測定では、ダイヤルゲージ(最小目盛り0.01mm)を使用し加重100g/cmをかけて測定した。縦1m×横1mの発泡シートを縦横10cmピッチで最小目盛りの10分の1(0.001mm)まで読み取り、厚さの平均値を求めた。ショアA硬度の測定では、発泡シートから試料片(10cm×10cm)を切り出し、複数枚の試料片を厚さが4.5mm以上となるように重ね、A型硬度計(日本工業規格、JIS K 7311)にて測定した。例えば、1枚の試料片の厚さが1.4mmの場合は、4枚を重ねて測定した.平均開孔径および開孔径が50μmを超える開孔数の測定では、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−5500LV)で約1mm四方の範囲を5000倍に拡大し9カ所観察した。この画像を画像処理ソフト(Image Analyzer V20LAB Ver.1.3)により処理し開孔径(平均値)および開孔数を算出した。微粒子4の局在率の測定では、走査型電子顕微鏡で試料片の断面を100倍〜1000倍に拡大し、一定幅に対する厚み方向での微粒子の数を9カ所計数し、発泡体全体の厚さに対して50%の厚み範囲での微粒子の割合を算出した。厚み、研磨面Pにおける平均開孔径、開孔径が50μmを超える開孔数、微粒子4の局在率および発泡シートのショアA硬度の測定結果を下表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、比較例1の研磨パッドでは、研磨面から全体の厚さに対して5%の厚さ分を除いたときに形成される開孔の平均開孔径が35μm、開孔径が50μmを超える開孔が24個/mm、研磨面から全体の厚さに対して50%の厚さ分を除いたときに形成される開孔径が50μmを超える開孔が22個/mm、A硬度が38度であった。これに対して、実施例1の研磨パッド10では、平均開孔径が20μm、開孔径が50μmを超える開孔が5個/mm、研磨面から全体の厚さに対して50%の厚さ分を除いたときに形成される開孔径が50μmを超える開孔が21個/mm、A硬度が42度であった。比較例1では微粒子4が含有されておらず、発泡3による開孔のみが形成されたため、研磨面から全体の厚さに対して5%の厚さ分を除いたときに形成される開孔径が50μmを超える開孔数が大きい値を示した。これに対して、実施例1では、微粒子4が含有されている分、比較例1と比較し開孔径が50μmを超える開孔数が小さい値を示した。このため、実施例1では、微粒子4による開孔5に研磨加工中に供給されるスラリが均一に保持されやすくなり、スラリの均一分散性が確保され、研磨特性を向上させることができたと考えられる。また、実施例1では、研磨面Pの単位面積あたりに形成され開孔径が1μmを超える開孔のうち、微粒子4で形成された開孔5の数が、発泡3で形成された開孔の数より大きいため、被研磨物の加工面にスラリが略均一に保持されるため、安定した研磨特性を得ることが期待できる。更に、実施例1では、研磨面Pから発泡シート2全体の厚さに対して50%の厚み範囲に微粒子4の75%が局在しており、研磨面Pから全体の厚さに対して50%の厚さ分を除いたときに形成される開孔径が50μmを超える開孔が21個/mm形成されているので、安定したクッション性を得ることが期待できる。
【0048】
(評価2)
実施例1および比較例1の研磨パッドを用いて、以下の研磨条件でアルミニウム基板の研磨加工を行った。研磨後のアルミニウム基板について、目視で表面に対するスクラッチ発生の有無を外観評価した。
(研磨条件)
使用研磨機:スピードファム社製、9B−5Pポリッシングマシン
研磨速度(回転数):30rpm
加工圧力:90g/cm
スラリ:アルミナスラリ(平均粒子径:0.8μm)
スラリ供給量:100cc/min
被研磨物:95mmφハードディスク用アルミニウム基板
研磨時間:300秒
【0049】
比較例1の研磨パッドで研磨加工を行い、スクラッチ発生の有無を評価した結果、アルミニウム基板の表面に多数のスクラッチが認められた。これに対して、実施例1の研磨パッド10で研磨加工を行い、スクラッチ発生の有無を外観評価したところ、スクラッチは見られなかった。これは、実施例1の研磨パッド10では連続発泡構造が形成されていることで、研磨加工中にクッション性が発揮され、研磨面Pの面圧が一定となるように微粒子4が支持されたことで、スクラッチの抑制効果が向上したためと考えられる。従って、実施例1の研磨パッド10は、スラリ保持性を確保できると共に、被研磨物の平坦性を向上させることができることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供するものであるため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0051】
P 研磨面
t 発泡体全体の厚さ
2 発泡シート(樹脂製発泡体)
3 発泡
4 微粒子(樹脂製微粒子)
5 開孔
10 研磨パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式成膜法により発泡が連続発泡状に形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面に開孔が形成された樹脂製発泡体を備えた研磨パッドにおいて、前記発泡体は、前記研磨面から一定の厚み範囲に局在するように多数の中空状の樹脂微粒子が含有されていると共に、前記研磨面の単位面積あたりに形成され開孔径が1μmを超える開孔のうち、前記微粒子で形成された開孔の数が前記発泡で形成された開孔の数より大きいことを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記発泡体は、前記研磨面から前記発泡体全体の厚さに対して50%の厚み範囲に前記微粒子の60%以上が局在するように含有されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記発泡体は、前記研磨面から全体の厚さに対して5%の厚さ分を除いたときに形成される開孔の平均開孔径が5μm〜40μmの範囲であり、開孔径が50μmを超える開孔が10個/mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記発泡体は、前記研磨面から全体の厚さに対して50%の厚さ分を除いたときに形成され開孔径が50μmを超える開孔が15個/mm〜50個/mmの範囲であることを特徴とする請求項3に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記発泡体は、ショアA硬度が20度〜90度の範囲であることを特徴とする請求項4に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記発泡体は、湿式成膜法により一体成形されたものであることを特徴とする請求項5に記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記微粒子は、均一の孔径を有することを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項8】
前記微粒子は、球体状または多面体状であることを特徴とする請求項7に記載の研磨パッド。
【請求項9】
前記発泡体は、前記微粒子より小さい孔径の微多孔が連続的に形成されていることを特徴とする請求項8に記載の研磨パッド。

【図1】
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【公開番号】特開2011−73085(P2011−73085A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225354(P2009−225354)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】