説明

研磨フィルム及びこれを用いた研磨方法

【課題】スクラッチの発生を抑えた、平滑性の高い仕上げ研磨が可能となる研磨フィルム及びこれを使用した研磨方法の提供。
【解決手段】研磨フィルム10aの基材である基材フィルム11と、基材フィルム11上に形成された研磨層15aとを備え、研磨層15aは、研磨粒子12と、研磨粒子12を固着するバインダー樹脂14とを含んで成り、バインダー樹脂14が、水溶性のバインダー樹脂14であることを特徴とする研磨フィルム及びこれを使用した研磨方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨フィルム及びこれを用いた研磨方法に関し、具体的には、光ファイバーコネクタの光ファイバー接続部の端面、半導体基板等の仕上げ研磨に好適な研磨フィルム及びこの研磨フィルムを用いた研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバーコネクタは、光ファイバーと光ファイバーとを接続する部材であり、光ファイバーの接続部の周りをフェルールと呼ばれるジルコニアで被覆し、その接続部の端面(以下、「接続部端面」という)を鏡面加工して、接続部端面同士を突き合わせて接続するものである。
【0003】
光ファイバーコネクタの接続部端面の鏡面加工は、研磨材の粒子サイズを順次小さくしていく、粗研磨から最終の仕上げ研磨までの複数段階の研磨によって行われている。
【0004】
光ファイバーは、その中心に位置するコア内を光が通過するため、光ファイバーの接続に際しては、接続部端面の加工精度の向上が求められ、特に最終の仕上げ研磨の加工精度は、光学特性に直接影響を及ぼす。
【0005】
そのため、光ファイバーの接続部端面は、最終仕上げ研磨において、光ファイバーの端部が、接続部端面から100nm以上突き出したり、あるいは50nm以上窪んだりしないように、表面仕上げ研磨をする必要がある。また、用途によっては、接続部端面に対して光ファイバーの端部を、±50nm以下とする要求もある。
【0006】
光ファイバーの端部に傷が生じたり、光ファイバーとフェルールとの境界に窪みが発生したり、あるいは光ファイバーの端部が過度に研磨されて変形していると、光ファイバーの端部で光散乱等が発生し、通信システム全体の伝送特性が設計どおりのものとならなくなる。そのため、光ファイバーの接続部端面については、高い平滑性と加工精度とが要求される。
【0007】
従来、光ファイバーの接続部端面は、その接続面における損失や反射戻り光を少なくするために、凸状球面に研磨されており、この研磨技術として、固定砥粒研磨シートで研磨する方法やプラスチックシートに遊離砥粒液を供給して研磨する方法が提案されている。
【0008】
例えば、研磨材を含有しないセルロース系の樹脂フィルムに一定の張力を付与し、この樹脂フィルムの面に、光コネクタのフェルールの先端を押し圧しながら摺動させつつ、その接触部分にシリカ系の研磨材を有する研磨液を供給して研磨する方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0009】
しかし、上記のような研磨方法においては、セラミック素材(ジルコニア)のフェルールとガラス素材の光ファイバーとの材質の違いに起因する研磨特性の差のため、接続部端面を凸状球面に研磨するためには、遊離砥粒の均一供給等の研磨条件を維持するなるなどの管理が煩雑となり、凸状球面となるように研磨するには困難な面があった。また、供給された研磨粒子が樹脂フィルム面で固定されずに逃げてしまうため、研磨力が発揮されない、という問題も生じていた。
【0010】
また、他の仕上げ研磨技術として、研磨液を使用せずに、アルミナ、シリカ等の研磨粒子を含む研磨層を有する研磨媒体(固定砥粒シート)を使用した研磨方法が提案されている(特許文献3、4参照)。この研磨方法により、接続部端面の研磨を行うことで、前述の研磨液の使用により生じる問題を解消している。
【0011】
しかしながら、上記方法では、光ファイバーの接続部端面の研磨中に、研磨によって発生した光ファイバー又はフェルールの研磨屑と、研磨層の脱落粒子とが介在することにより、光ファイバー又はフェルールの端面に研磨傷(スクラッチ)が発生し、研磨後の接続端面の光学特性に悪影響をおよぼすという問題が生じている。
【0012】
上記問題に対応するために、研磨媒体(固定粒子研磨シート)においては、砥粒がバインダーから脱落しないように強固なバインダー材料が使用されているが、研磨が進行するにつれて、研磨粒子の脱落やバインダー樹脂の剥離が起こり、その破片により、スクラッチが増加し、さらに、光ファイバーの部分も接続端面より凹んでしまう、という問題が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平3−81708号公報
【特許文献2】特開平4−100008号公報
【特許文献3】特開平8−336758号公報
【特許文献4】特開2002−192472公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、光ファイバーコネクタの光ファイバー接続部端面等の被研磨体の仕上げ研磨において、研磨面におけるスクラッチの発生を抑え、平滑性の高い研磨が可能となる研磨フィルム及びこれを使用した研磨方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明が提供するのは、研磨フィルムの基材である基材フィルムと、該基材フィルム上に形成された研磨層とを備え、前記研磨層が、研磨粒子と、該研磨粒子を固着するバインダー樹脂とを含んで成り、該バインダー樹脂が、水溶性のバインダー樹脂であることを特徴とする研磨フィルムである。
【0016】
このように、研磨粒子を固着するバインダー樹脂が、水溶性のバインダー樹脂であるので、研磨層の表面に一定量の水又は潤滑剤を含む水溶液を滴下して研磨すれば、研磨中に研磨層表面の一部のバインダー樹脂が溶解し、この溶解した部分の研磨粒子が遊離砥粒として作用する。特に、研磨中に被研磨体と研磨層とが押付けられた部分では、押付け圧力によって徐々にバインダー樹脂が溶解するので、研磨中に遊離砥粒が常時供給されることになり、固定砥粒と併せて研磨に寄与することができる。
【0017】
光ファイバーの接続部端面の研磨おいて、上記研磨フィルムを使用すると、光ファイバーの接続部端面に流動的に研磨粒子が存在することになるので、スクラッチの発生を抑え、接続部端面に対して光ファイバー端部が、許容段差以内(例えば、±50nm以下)となる滑らかな仕上げ研磨が可能となる。
【0018】
水溶性のバインダー樹脂として、水に可溶な高分子材料、水に可溶なセルロース系樹脂が使用される。特に、水溶性のバインダー樹脂としては、ケン化度が85mol%〜97mol%の範囲にある、部分ケン化型のポリビニルアルコールを含んでなるものであることが好ましい。また、水溶性のバインダー樹脂が、ケン化度が85mol%〜97mol%の部分ケン化型のポリビニルアルコールからなるもの、あるいは主成分とするものであることが好ましい。
【0019】
ケン化度が上記範囲にある、部分ケン化型のポリビニルアルコールであれば、研磨中に研磨層の表面のバインダーが徐々に溶解し、この溶解によって遊離した研磨粒子と、研磨層に固定された研磨粒子とで、研磨面を均一に研磨することができる。
【0020】
また、研磨層は、グリコール系化合物を、更に含んで成ることが好ましい。グリコール系化合物を研磨層に添加することで、潤滑作用が増し、微細なスクラッチの低減に有効となる。
【0021】
前記研磨粒子は、平均粒子径が10nm〜30nmの範囲にあるコロイダルシリカ粒子とし、その量として前記研磨層に対して、80重量%〜98重量%の範囲にあることが好ましい。
【0022】
また、前記研磨粒子は、平均粒子径が10nm〜30nmの範囲にあるコロイダルシリカ粒子であり、前記研磨層には、さらに平均粒子径70nm〜150nmの範囲にある球状補助粒子とを含み、前記コロイダルシリカ粒子と前記球状補助粒子との重量比率が、90:10〜70:30の範囲とすることが好ましく、さらに、前記コロイダルシリカ粒子と、前記球状補助粒子との総和量が、前記研磨層に対し80重量%〜98重量%の範囲であることが好ましい。
【0023】
また、本発明がさらに提供するのは、上記した研磨フィルムを使用する研磨方法であって、研磨装置の研磨盤上に固定された前記研磨フィルムの研磨層に、被研磨体の表面を押圧する第1の工程と、前記研磨フィルムが固定された前記研磨盤と、前記研磨層に押圧された前記被研磨体の表面とを、前記押圧の状態を維持しつつ相対的に移動させて研磨する第2の工程とを有して成り、前記第2の工程では、予め前記研磨層の表面に一定量の水又は潤滑剤を含む水溶液を滴下することを特徴とする研磨方法である。
【0024】
このように、予め研磨層の表面に一定量の水又は潤滑剤を含む水溶液を滴下した後に、前記研磨層に押圧された前記被研磨体の表面を、前記押圧の状態を維持しつつ相対的に移動させて研磨するので、水溶性のバインダー樹脂の溶解により、研磨層から遊離した研磨粒子が常に研磨面に存在するため、研磨面でのスラッチの発生を抑え、平滑な研磨ができる。
【0025】
前記第2の工程では、前記研磨盤が、自転運動と公転運動とを伴う回転運動としてもよい。
【0026】
さらに、前記被研磨体の表面を、光ファイバーコネクタにおける光ファイバー接続部端面とすることができる。前記研磨方法は、スクラッチの発生を抑えた、平滑な仕上げ研磨が必要な光ファイバー接続部端面の研磨として好適である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、研磨体の研磨面におけるスクラッチの発生を抑えた、平滑性の高い仕上げ研磨が可能となる。
【0028】
特に、光ファイバーコネクタの接続部端面の仕上げ研磨において、スクラッチの発生を抑え、接続部端面を許容範囲内の段差にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1(a)は、本発明に係る研磨フィルムの第1実施形態の断面模式図であり、図1(b)は、本発明に係る研磨フィルムの第2実施形態の断面模式図である。
【図2】図2は本発明の研磨方法により研磨された光ファイバー接続部の模式図であり、図2(a)は、光ファイバー接続部の断面模式図であり、図2(b)は、光ファイバー接続部端面の正面模式図で、図2(a)のA−A矢視図である。
【図3】図3は、本発明の研磨方法に使用する研磨装置の概略断面図である。
【図4】図4は、本発明に係る研磨フィルムを使用した、光ファイバーコネクタの光ファイバー接続部端面の研磨方法の一態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
<研磨フィルム>
本発明の第1実施形態の研磨フィルム10aは、図1(a)に図示するように、ベースとなる基材フィルム11と、基材フィルム上に形成された研磨層15aとで構成されている。研磨層15aは、研磨粒子12と、研磨粒子12を研磨層15に固着する、水に可溶である水溶性のバインダー樹脂14とで形成されている。また、研磨層15aの表面には、10μm〜200μmのピッチの断面三角形状のひび割れ16が、網目のように形成されている。このひび割れ16は、研磨屑の取り込み用に設けられている。
【0031】
本発明の第2実施形態の研磨フィルム10bは、図1(b)に図示するように、研磨層15bが、、研磨粒子12のほかに、研磨粒子12よりも粒子径の大きい球状補助粒子13を加えた構成となっている。研磨フィルム10bは、球状補助粒子13を加えたことが、研磨フィルム10aと相違する点である。
【0032】
研磨粒子12は、被研磨体の研磨面の研磨に直接寄与するものであり、一方、球状補助粒子13は、研磨粒子12よりも粒子径が大きく、研磨面への摩擦抵抗を低減し、バインダー樹脂の研磨面への付着を少なくして研磨効率を高める役割を有す、また、球状補助粒子13は、被研磨体と研磨フィルム10bとの間を維持するためのスペーサとしての役割をも有する。これらの役割を機能させ、かつ、研磨粒子12の機能を損なうことのないように、研磨粒子12よりも少ない量とすることが必要である。
【0033】
また、粒子径の大きい球状補助粒子13を適当量介在させることによって、研磨粒子12及び球状補助粒子13と、バインダー樹脂14との接着強度が向上し、研磨層15bの耐久性が向上すると解される。なお、球状補助粒子13は、被研磨体の研磨面にスクラッチが発生するのを防止するためにも、形状は球状であることが好ましい。
【0034】
上記したように、第1実施形態の研磨フィルム10aと、第2実施形態の研磨フィルム10bとは、その相違点が球状補助粒子13の有無のみであり、この相違点の説明を適宜加えつつ、共通事項を以下に説明する。
【0035】
研磨フィルム10a、10bの基材フィルム11は、柔軟性を有する合成樹脂製のプラスチックフィルムが使用される。合成樹脂製のプラスチックフィルムとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール又はメタアクリルアルコールを主成分とするアクリル系樹脂、ポリカーボネート等からなるフィルムが挙げられる。
【0036】
このうち、実用的には、研磨フィルムを製造するフィルムの取り扱いが容易であるため、ポリエチレンテレフタレートを基材フィルム11として使用することが好ましい。
【0037】
また、基材フィルム11に、予め表面にプライマー処理が施されたものを使用することによって、基材フィルム11と研磨層15a、15bとの剥離が防止でき、研磨層15a、15bの耐久性も向上する。
【0038】
なお、基材フィルム11の厚さは、特に限定されないが、5μm以上100μm以下の範囲であり、好適には、10μm以上75μm以下の範囲である。
【0039】
研磨フィルム10a、10bの研磨粒子12としては、シリカ、アルミナ、ダイヤモンド等の微細粒子が用いられる。特に、光ファイバーの接続部端面の研磨には、球状のシリカ粒子(コロイダルシリカ)を研磨粒子12とすることが好ましい。特に、10nm〜30nmの平均粒子径の範囲にあるコロイダルシリカ粒子が使用される。平均粒子径が10nm未満では研磨力が低下するばかりでなく、光ファイバーの接続部端面等の研磨面にバインダー樹脂や研磨粒子の付着物が残るため、研磨後に付着物を除去する工程が必要となるからである。また、平均粒子径が30nm以上になると、研磨面に発生するスクラッチが増加するからである。
【0040】
研磨粒子12は、平均粒子径が10nm〜30nmの範囲であれば、1種類であっても、又は2種類のものを適当な比率として配合したものでも良い。
【0041】
第2実施形態の研磨フィルム10bの研磨層15bには、研磨粒子12の外に、さらに、平均粒子径が70nm〜150nmの球状補助粒子13が固着されている。球状補助粒子13が、70nm未満であると研磨粒子として作用し、研磨面でのスクラッチが増加する傾向となり、また150nmを越えると研磨面に深いスクラッチが増加する傾向となる。
【0042】
研磨粒子12と球状補助粒子13との重量比率は、90:10〜70:30の範囲が好ましい。研磨粒子12と球状補助粒子13との重量比が90:10未満であると、研磨面に対する摩擦抵抗が増加し、研磨後に研磨面への付着物が増加し、研磨層の耐久性も悪くなる。一方、前記重量比が70:30を超えると、研磨面におけるスクラッチが増加し、被研磨体が光ファイバーの接続部端面であるときは、接続部端面における光ファイバーの端部の凹みが大きくなる。
【0043】
また、球状補助粒子13は、コロイダルシリカに換えて、アクリル、ポリエステル、ウレタンからなる球状樹脂粒子が使用できる。
【0044】
研磨粒子12や球状補助粒子13は、アルコール類やメチルエチルケトン等の分散液に分散したものが使用される。分散液としては、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)に予め、研磨粒子12や球状補助粒子13を、20〜40重量%分散したものが使用される。
【0045】
研磨層15a、15bのバインダー樹脂としては、水溶性のポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ヒアルロン酸等を挙げることができる。
【0046】
上記のバインダー樹脂のうち、硬化した後、水によって一度に溶解するのではなく、被研磨体と研磨層とが、押付け圧力によって接触した表面から徐々に溶解するという条件を満足するものが好ましい。この条件を満足するバインダー樹脂として、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0047】
水に可溶なポリビニルアルコールは、酢酸ビニルを重合し、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られる。ケン化工程は、メタノール溶媒中で、アルカリ触媒を用いてポリ酢酸ビニルの酢酸基を水酸基に置換し、ポリビニルアルコールにする反応である。この工程で水酸基の量を調整して、ケン化度が決まる。なお、ケン化度は、水酸基と酢酸基との総和数量である重合度に対する、水酸基の数量の割合(mol%)である。ポリビニルアルコールの水への可溶度は、主にケン化度と重合度とによって決まる。
【0048】
バインダー樹脂14として使用するポリビニルアルコールのケン化度は、85〜97mol%の範囲が好ましい。また、推定重合度は1700〜2550の範囲が使用される。ケン化度が85mol%未満では、研磨層が軟らかくなり、光ファイバーの接続部端面の研磨においては、研磨層表面が光ファイバー端部に食い込み、接続部端面におけるファイバー端部が窪んでしまうことになる。また、研磨層の耐久性も低下してしまう。一方、ケン化度が、97mol%を越えると、バインダーの溶解性が悪くなり、研磨面でのスクラッチが増加してしまう。
【0049】
なお、水に可溶な水溶性バインダー樹脂としては、上記のポリビニルアルコールに換えて、セルロース系の樹脂を使用できる。セルロース系樹脂は、親水基である水酸基(−OH)を多数持っているが、そのままでは水に可溶ではない。その理由は、分子間で水酸基同士が強い水素結合の結晶構造となっているため、セルロース間に水が入り込めないからである。
【0050】
そこで、セルロースの水酸基の水素原子の一部をメチル基(−CH)、ヒドロキシプロピル基(−CHCHOHCH)、あるいはヒドロキシエチル基(−CHCHOH)等で置換することにより、水素結合を消失させて、水溶性としたものを研磨層15a、15bのバインダー樹脂14として使用することができる。このようなセルロースとして、カルボキシメチルセルロース(CMC)を使用することができる(例えば、ダイセル化学工業製、CMCダイセル、1350)。
【0051】
さらに、研磨層15a、15bには、上記の水溶性のバインダー樹脂に加えて、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール及びジプロピレングリコールなどのグリコール類を潤滑剤として添加することができる。グリコール系化合物は研磨中に微細な研磨粒子12と球状補助粒子13とに対して潤滑剤として作用して、摩擦抵抗の低減を図り、スクラッチや加工変質層をの発生を抑えるように作用する。
【0052】
図1(a)に図示した第1実施形態の研磨フィルム10aの製造は、ケン化度85〜97mol%のポリビニルアルコール等の水溶性のバインダー樹脂と、有機溶剤(イソプロピルアルコール)に分散した研磨粒子12とを混合し、十分攪拌して、塗布溶液を製造する。さらに、この塗布溶液にグリコール系化合物を添加して、研磨粒子12に分散性と、潤滑性とを持たせる。さらに、界面活性剤を添加しても良い。
【0053】
研磨粒子12として、平均粒子径が10nm〜30nmのコロイダルシリカ粒子を使用する。研磨粒子12の量は、研磨粒子12とバインダー樹脂14とを含んでなる研磨層15aに対して、80重量%〜98重量%の範囲となることが好ましい。
【0054】
塗布溶液は、研磨層10aが均一になるように、その粘度が調整される。塗布溶液の粘度としては、5cps〜200cpsの範囲が好ましい。
【0055】
次に、この塗布溶液を基材フィルム11の表面に塗布し、塗布溶液を乾燥、硬化させ、さらに所定の形状に加工して、図1(a)に図示する第1実施形態の研磨フィルム10aが得られる。
【0056】
研磨粒子12を分散させた塗布溶液を基材フィルム11の表面に塗布するために、ブレードコータ、ダイコータ、グラビアコータ、ナイフコータ、リバースロールコータ、キャストコータ、スプレーコータ及びコーテンコータ等を使用することができる。
【0057】
図1(b)に図示した第2実施形態の研磨フィルム10bの製造は、研磨粒子12のほかに、更に、平均粒子径が70nm〜150nmの球状補助粒子13が加えられる。球状補助粒子の材料は、コロイダルシリカの外に、アクリル、ポリエステル、ウレタンとすることができる。また、研磨粒子12と球状補助粒子13との重量比率は、90:10〜70:30の範囲とする。さらに、研磨粒子12と球状補助粒子13との総和量は、研磨層15aに対して、80重量%〜98重量%の範囲となることが好ましい。
【0058】
上記の球状補助粒子13を加えた塗布溶液を、第1実施形態の研磨フィルム10aの製造方法と同様に製造し、基材フィルム11に塗布し、塗布溶液を乾燥、硬化させ、さらに所定の形状に加工して、図1(b)に図示する第2実施形態の研磨フィルム10bが得られる。
<研磨方法>
以下、本発明に係る研磨フィルムを用いた研磨方法について説明する。
【0059】
図2は、以下に説明する本発明の研磨方法により研磨された被研磨体である光ファイバーコネクタの光ファイバー接続部の断面模式図を図2(a)に示し、その研磨面である光ファイバー接続部端面の正面模式図である図2(a)のA−A矢視図を図2(b)に示す。
【0060】
図2(a)、図2(b)に図示するように、光ファイバーコネクタにおける光ファイバー接続部20は、石英ガラスからなる光ファイバー21と、光ファイバー21の周囲をジルコニアで被覆したフェルール22とから成り、光ファイバー21は、フェルール22の中心に沿って位置し、接着用樹脂23でフェルール22に固定されている。
【0061】
研磨後の光ファイバーの接続部端面24は、図2(a)に示すように、光ファイバー21の位置する中心部分が凸となるような略曲面状になり、かつ光ファイバー21とフェルールとの間に段差が許容範囲内(±50nm以内)にあるように研磨されている。このように、光ファイバーの接続部端面が研磨されることで、光ファイバー同士の接合部において、光散乱等の発生を抑え、さらに光量伝達の損失を抑えることができる。
【0062】
上記した研磨は、以下に説明する本発明に係る研磨方法により達成することができる。
【0063】
本発明に係る研磨方法に使用する研磨装置の概略断面図を図3に示す。図3にその概略を図示された研磨装置は、周知の構造のものである(特開平6−179161号公報参照)。
【0064】
図3に図示するように、研磨装置30は、主に、研磨盤33と、これを一体に支持している回転円板32、及び回転円板32を回転駆動する円板駆動機構(図示せず)を内部に有する研磨装置基盤35を備えている。
【0065】
研磨装置基盤35には、研磨ホルダー支持部材36が設けられており、その上面に光ファイバー固定板37が、位置決めピン38で研磨ホルダー支持部材に対して位置決めされている。研磨ホルダー支持部材36は、上下に移動可能になっており、研磨面である光ファイバー接続部端面の高さ位置を調整することができるようになっている。
【0066】
研磨フィルム34(本発明の研磨フィルム10a、10bのいずれかを選択)は、回転円板32の上に設置された弾性体(ゴム板)からなる研磨盤33上に保持される。円板駆動機構により、回転円板32は、その中心Xを回転中心とした自転運動と、その回転中心より所要量(E)偏心した位置Yを回転中心とした公転運動とを行うように設定されている。研磨フィルム34の使用が、その一部に偏在しないようにしたものである。
【0067】
被研磨体である光ファイバーコネクタの光ファイバー接続部(20a、20b、20c、20d、20e、20f、20g、20h、20i、20j、20k、20l)は、12本セットとして、円形の光ファイバー固定板37の外周部に均等に分けられた穴に、固定ナット40により光ファイバー固定板37に取り付けられている(図3では、光ファイバー接続部20a、20bのみ図示する。以下、総称として、「光ファイバー接続部20」という)。
【0068】
研磨装置30は、光ファイバー接続部20の12本全体に均一に荷重が掛かるように、金属重り39が光ファイバー固定板37の中心に載置され、研磨シート34に直交する上下方向にスライド可能に支持されるようにすると共に、研磨時には所定の圧力で光ファイバー接続部20を研磨フィルム34に押圧する支持部材(図示せず)が設けられている。
【0069】
本発明の研磨方法による光ファイバー接続部端面の研磨中の模式図を図4に示す(図4では、光ファイバー接続部20aを図示する)。図4に図示するように、弾性体(ゴム板)からなる研磨盤33上に、本発明の研磨フィルム10b(図1(b))を配置し、研磨フィルム10bの表面に光ファイバー接続部20aの接続部端面24を押圧した状態で、研磨盤33(図3参照)を自転運動と、その回転中心より所要量(E)偏心した位置を回転半径とした公転運動とを同時に行って、接続部端面24を研磨する。
【0070】
なお、本実施形態では、研磨前に潤滑液として一定量の水を研磨フィルム10bの上にスプレーする。1回目の研磨は、この所定量の水で研磨され、追加のスプレーは行わない。終了後、次の2回目の研磨では、1回目の研磨液を拭い取り、1回目と同様に一定量の水を散布して研磨が行われる。
【0071】
研磨フィルム10bでは、研磨中に研磨層15bの表面の一部のバインダーが溶解し、この溶解した部分の研磨粒子12及び球状補助粒子13が遊離砥粒18として作用する。バインダー樹脂14として、水に可溶な高分子材料であるポリビニルアルコールが使用されており、そのポリビニルアルコールは、一度に溶解するのではなく、光ファイバー接続部20の接続部端面24と、押付け圧力によって接触した研磨層15bの表面から徐々に溶解する。
【0072】
このように、研磨中に遊離した研磨粒子12及び球状補助粒子13を、均一に光ファイバーの接続部端面24に供給することができる。そのため、固定研磨粒子のみで研磨する従来の研磨フィルムよりも、光ファイバーの接続部端面24に流動的に研磨粒子が存在するため、スクラッチの発生を抑え、許容段差以内(±50nm以内)の滑らかな仕上げ研磨面が得られる。また、同時に研磨する他の光ファイバー接続部に対しても均一な研磨が可能となる。
【0073】
研磨粒子12及び球状補助粒子13を含む研磨フィルム10bを使用した研磨方法について説明したが、球状補助粒子13を含まない研磨フィルム10aを使用した場合も、バインダー樹脂14として、水に可溶な高分子材料のポリビニルアルコールを使用するので、光ファイバーの接続部端面24に流動的に研磨粒子14が存在し、スクラッチの発生を抑え、許容段差以内(±50nm以内)の、凸状の滑らかな仕上げ研磨面が得られる。
【0074】
本発明に係る研磨フィルムを使用する研磨方法は、被研磨体と研磨層とを、水又は潤滑剤を含む水溶液を介して、押圧し、相対移動させて研磨するので、研磨中に研磨層表面の一部のバインダー樹脂が溶解し、これに伴って研磨粒子の一部(又は、研磨粒子及び球状補助粒子のそれぞれ一部)が遊離研磨粒子として作用する。そのため、本発明の研磨方法では、研磨フィルムに固定された研磨粒子と、遊離した研磨粒子(又は、研磨粒子及び球状補助粒子)の両方の作用によって研磨が進行する。その結果、異種材料で構成された光ファイバー接続部の端面のように、研磨面が異種材料からなる、仕上げ研磨においては、異種材料間の段差の発生を許容範囲に抑えた、滑らかな仕上げ研磨ができる。
<実施例>
以下に、本発明の実施例と比較例とを検討し、その特性の評価結果を示す。
<実施例1、2及び比較例1、2>
実施例1、2及び比較例1、2では、研磨層に含まれる研磨粒子の平均粒子径の関係について対比する。
(実施例1)
実施例1は、ポリビニルアルコール粉末(商品名:EG−25、日本合成化学社製:けん化度86.5〜89.0mol%、推定重合度1700〜1850)(固形分6重量%)をバインダー樹脂として純水に溶解し、バインダー液を作製した。
【0075】
このバインダー液に、研磨粒子となる平均粒子径10〜15nmのコロイダルシリカをイソプロピルアルコールに均一に分散した液(商品名IPA−ST、日産化学社製:30重量%分散液)が、その固形分を94重量%になるように加え、プロペラ攪拌及び超音波振動を加えて十分に攪拌した後、アルキレングリコール液(商品名MFDG、佐藤特殊製油社製)を9g加え、さらに攪拌して、塗布溶液を作製した。
(実施例2)
実施例2は、研磨粒子となる平均粒子径17〜23nmのコロイダルシリカが分散されたアルコール溶液(商品名IPA−ST−MS、日産化学社製:30重量%分散液)を使用した。
【0076】
実施例1及び実施例2において使用するポリビニルアルコールは、酢酸ビニルを重合し、これをけん化して得られるポリビニール樹脂で、けん化度85mol%〜97mol%の範囲のものを使用した。
【0077】
次に、作製した実施例1、2のそれぞれの塗布溶液を厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの表面に、リバースコータ式塗布機によって上記塗布液を一様に塗布(厚さ、約80μm)し、その後乾燥機で110℃、1分間加熱(バインダー樹脂中の溶剤を蒸発)した。さらに、100℃の雰囲気中で60分間加熱処理して研磨層(厚さ5μm)を形成した。
【0078】
次に、この研磨シートを所定の円盤に加工し、試験用の実施例1及び実施例2の研磨シートを得た。そして、実施例1及び実施例2の研磨シートを、それぞれ光ファイバー接続部端面の仕上げ研磨に使用した。ここで、PETフィルムとして、PETとポリエステル系樹脂とを一緒に押出した後に延伸加工したもの、すなわち、プライマー処理されたものを使用した。
(比較例1、2)
比較例1では、研磨粒子であるコロイダルシリカの平均粒子径を40〜50nm(商品名IPA−ST−L、日産化学社製:30重量%分散液)とし、比較例2では、研磨粒子としてコロイダルシリカの平均粒子径を70から100nm(商品名IPA−ST−ZL、日産化学社製:30重量%分散液)とした。
【0079】
比較例1、2とも上記研磨粒子以外は、実施例1と同様にした。
【0080】
実施例1、2及び比較例1、2の研磨フィルムについて、それぞれ通常の研磨工程に従い、光ファイバーの接続端面の仕上げ研磨を行い、スクラッチ、加工段差、付着物及び研磨フィルムの耐久性について試験した。
【0081】
研磨試験に用いた光ファイバーの接続部は、複数段の研磨を行った後、#8000(平均粒子径1μm)のダイヤモンド粒子で研磨仕上げしたものを使用した。
【0082】
研磨試験装置は、精工技研社製の研磨装置(SFP−120A)を使用した。実施例1、2及び比較例1、2として製造した研磨ファイルを、それぞれ直径127mmの円盤状に加工し、5mm厚みのゴム製パッド(硬度:80デュロー)の回転板上に貼り付けた。
【0083】
一方、外形2.5mmの光ファイバー接続部を12本セットした治具を用意した。そして、研磨直前に、研磨フィルムの表面にイオン交換水1ccを滴下し、その上に光ファイバー接続部12本全体に、4.8kgの荷重をかけて、回転板を70rpmで回転させながら、光ファイバー接続部を研磨ファイル上で自転と公転を伴う遊星運動をさせ、接続部端面を一定時間(60秒)研磨した。研磨後、水洗浄を行い、接続部端面をクリーニングした後、研磨された接続部端面の評価を行った。
【0084】
スクラッチは、光の反射損失に影響を与えるため、ファイバー部にないことが望まれる。また、フェルール部にスクラッチがあることは、ファイバー部にも生じている可能性があるので同じ評価とした。スクラッチのある光ファイバーコネクタは、再研磨の対象となる。
【0085】
加工段差は、±50nm以内であれば問題ないが、光ファイバーの端部が接続部端面よりも窪んだ状態の−値(凹)よりも、突出した状態の若干+値(凸)の方が好ましい。
【0086】
付着物は、通常の純水洗浄で除去可能のものは問題ないが、不織布等で拭い取る必要がある場合は、洗浄工程が増加するので問題となる。
【0087】
研磨後の光ファイバー接続部端面の傷(スクラッチ)は、倍率400倍の顕微鏡で研磨した端面を観察し、研磨した光ファイバー接続部12本中に傷の発生しているファイバーの数でそれぞれ判定した。スクラッチがあるものが、0本のときを記号◎とし、1〜2本のときを記号○とし、3〜4本のときを記号△とし、5本以上のときを記号×と評価した。
【0088】
光ファイバー接続部端面における、光ファイバー端部とフェルール端部との段差の測定を行った(測定機:Direct Optical Research 社製、ZX−1、ARRAYを使用)。評価は、フェルール端面の仮想曲線の中心位置と、光ファイバー端面の中心位置との高さの差が段差である。段差が+値のときは光ファイバー端面がフェルール端面より突出したものであり、−値は窪んだものとなり、段差が±0nm近傍となったときが最適で、±50nmが許容値である。
【0089】
耐久性は、研磨装置に配置した、1枚の研磨フィルムで良好に研磨できる研磨回数(研磨フィルムの寿命)で表示した。
【0090】
実施例1及び実施例2、並びに比較例1及び比較例2の評価結果1を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示すように、実施例1及び実施例2では、バインダー樹脂として水に可溶なポリビニルアルコールと平均粒子径が10〜15nm、及び17〜23nmのコロイダルシリカ粒子とで形成した研磨層で仕上げ研磨をした結果、削り屑によって光ファイバー接続部端面にスクラッチ傷をつけることなく、許容段差範囲内の良好な研磨ができた。ただし、耐久性については、まだ十分とはいえない。
【0093】
これに対して、比較例1及び比較例2は、実施例1及び実施例2と同様にバインダー樹脂として水に可溶なポリビニルアルコールを使用したものの、研磨粒子の平均粒子径が40〜50nm及び70〜100nmと大きいため、ファイバー端面にスクラッチが発生し、凹みの段差が大きくなっている。
(実施例3〜実施例8、及び比較例3〜比較例6)
次に研磨粒子と補助粒子との組合せ、及びその含有重量比率の関係についての実施例と比較例とを以下に比較する。
【0094】
研磨粒子としては、粒子径が10〜15nm、17〜23nm、40〜50nmのコロイダルシリカを使用し、球状補助粒子としては、40〜50nm、70〜100nmのコロイダルシリカ粒子及び平均粒子径100nmの球状アクリル粒子(製品名、テクノポリマーXX−02GQ、積水化成品工業社製)を使用し、それぞれ研磨粒子と球状補助粒子を混合したイソプロピルアルコール分散液を用いた。その他の添加剤、製造方法は、実施例1と同様にした。研磨粒子と球状補助粒子の配合条件を表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
(実施例3)
実施例3は、研磨粒子に粒子径10〜15nmのコロイダルシリカ粒子を用い、補助粒子は粒子径が70〜100nmのコロイダルシリカ粒子を用い、その重量比率を80:20になるように混合した。研磨層中の研磨粒子と補助粒子の含有量は94重量%、バインダー樹脂を6重量%になるように調整した。その他は、実施例1と同様にした。
(実施例4)
実施例4は、実施例3の研磨粒子と補助粒子重量比率を90:10と換え、その他は実施例3と同様にした。
(実施例5)
実施例5は、実施例3の研磨粒子と補助粒子の重量比率を70:30と換え、その他は実施例3と同様にした。
(実施例6)
実施例6は、実施例3の研磨粒子を粒子径17〜23nmのコロイダルシリカ粒子に換え、その他は実施例3と同様にした。
(実施例7)
実施例7は、実施例3の補助粒子を平均粒子径100nmの球状アクリル粒子に換え、その他は実施例3と同様にした。
(比較例3)
比較例3は、実施例3の研磨粒子と補助粒子との重量比率を60:40と換え、その他は実施例3と同様にした。
(比較例4)
比較例4は、実施例3の補助粒子を、平均粒子径40〜50nmのコロイダルシリカ粒子に換え、その他は実施例3と同様にした。
(比較例5)
比較例5は、実施例3の研磨粒子を平均粒子径40〜50nmのコロイダルシリカ粒子換え、その他は実施例3と同様にした。
【0097】
上記の実施例3〜実施7及び比較例3〜比較例5の研磨フィルムを使用して、前記の評価1と同様の研磨試験を行い、研磨特性を評価した評価結果2として表3に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
表2に示すように、実施例3〜実施7では、平均粒子径が10〜15nm及び17〜23nmのコロイダルシリカの研磨粒子と、平均粒子径が70〜100の範囲の球状補助粒子とを、含有比率として70:30〜90:10の範囲でそれぞれ混合し、これをポリビニルアルコールのバインダー樹脂で固定した研磨フィルムを使用して研磨した。表3の評価結果2に示すように、実施例3〜実施例7においては、スクラッチ及び加工段差の少ない仕上げ研磨ができた。さらに、5回以上の耐久性の優れた研磨フィルムとして研磨ができた。
【0100】
特に、実施例7では、球状補助粒子として、コロイダルシリカ粒子でなく、平均粒子径が100nmの球状アクリル粒子としたが、良好な研磨ができた。また、実施例4では付着物が検出されたが、洗浄で容易に除去できるものであり、特に問題となるものではなかった。
【0101】
これに対して、比較例3〜比較例5は、研磨粒子と補助粒子の含有比率を60:40(比較例3)、補助粒子の平均粒子径を40〜50nm(比較例4)、球状補助粒子の平均粒子径を40〜50nm(比較例5)と、それぞれ実施例3〜実施例7の範囲以外に設定したものであるが、スクラッチ、加工段差及び付着物の何れかの値が不合格となっている。
【0102】
次に、バインダー樹脂として使用するポリビニルアルコールのケン化度を変えて製造した研磨フィルムをそれぞれ用いて、光ファイバー接続部端面を研磨した研磨特性について説明する。
【0103】
実施例8、9、及び比較例6、7は、バインダー樹脂としてポリビニルアルコールのケン化度が下記にようにそれぞれ異なるものを使用した。それ以外は、それぞれ研磨フィルムの製造は、実施例3と同様とした。
(実施例8)
実施例8は、バインダー樹脂として、ケン化度86.5〜89.0 mol%のポリビニルアルコール(GH−17、日本合成化学工業)を使用した。
(実施例9)
実施例9は、バインダー樹脂として、ケン化度97.0〜98.5 mol%のポリビニルアルコール(AH−17、日本合成化学工業)を使用した。
(比較例6)
比較例6は、バインダー樹脂として、ケン化度98.0〜99.0mol%のポリビニルアルコール(N−300、日本合成化学工業)を使用した。
(比較例7)
比較例7は、バインダー樹脂として、ケン化度78.5〜81.5mol%のポリビニルアルコール(KH−17、日本合成化学工業)を使用した。
【0104】
実施例8、9、及び比較例6、7の研磨フィルムをそれぞれ使用して、前記の評価1と同様の研磨試験を行った。研磨特性を評価した評価結果3として表4に示す。
【0105】
【表4】

【0106】
表4に示すように、実施例8及び実施9では、ポリビニルアルコールのケン化度86.5〜89.0mol%と97.0〜98.5mol%とを使用したことにより、スクラッチ、加工段差、付着物、共に良好な結果が得られ、耐久性も15回以上であった。なお、実施例9は、加工段差が−40nmとなり、許容範囲(±50nm以内)の限界に近いことから、バインダー樹脂として使用するポリビニルアルコールのケン化度は、上記結果を考慮して、85〜97mol%が好ましい数値範囲である。
【0107】
これに対して、比較例6では、ケン化度98.0〜99.0mol%と大きく、ポリビニルアルコールが水に溶け難い状態になっており、研磨中に生成される削り屑により、光ファイバー端面のファイバー部が過度に研磨され、加工段差の許容範囲(±50nm以内)を超えた窪みとなる凹部ができ、スクラッチも発生した。
【0108】
比較例7は、ケン化度78.5〜81.5mol%と低いために、ポリビニルアルコール自体が軟らかく粘着性があり、光ファイバー接続部端面全体に付着物ができ、この付着物が固着してしまい、高精度の研磨加工ができなかった。また、研磨層が軟らかいため、1回の研磨で研磨層全体が磨耗してしまった。
【0109】
以上のように本発明によれば、光ファイバーコネクタにおける光ファイバー接続部端面のように、被研磨面が2種類の異なる材料からなる仕上げ研磨においても、段差を許容範囲に抑え、かつスクラッチのない滑らかな研磨ができる。
【0110】
本願発明に係る研磨フィルム及びこれを用いた研磨方法は、光ファイバーコネクタの接続部端面の研磨に限定することなく、磁気ハードディスク用の薄膜ヘッドの浮上面研磨、半導体デバイス素子面の研磨およびレンズ、結晶材料等の仕上げ研磨に有効となるものである。
【符号の説明】
【0111】
10a、10b 研磨フィルム
11 基材フィルム
12 研磨粒子
13 球状補助粒子
14 バインダー樹脂
15a、15b 研磨層
20、20a、20b 光ファイバー接続部
21 光ファイバー
22 フェルール
24 光ファイバー接続部端面



【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨フィルムの基材である基材フィルムと、該基材フィルム上に形成された研磨層とを備え、
前記研磨層は、研磨粒子と、該研磨粒子を固着するバインダー樹脂とを含んで成り、該バインダー樹脂が、水溶性のバインダー樹脂であることを特徴とする研磨フィルム。
【請求項2】
前記バインダー樹脂は、ケン化度が85mol%〜97mol%の範囲にある、部分ケン化型のポリビニルアルコールを含んでなることを特徴とする請求項1に記載の研磨フィルム。
【請求項3】
前記研磨層は、グリコール系化合物を、更に含んで成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の研磨フィルム。
【請求項4】
前記研磨粒子は、平均粒子径が10nm〜30nmの範囲にあるコロイダルシリカ粒子であることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一項に記載の研磨フィルム。
【請求項5】
前記コロイダルシリカ粒子は、前記研磨層に対し、80重量%〜98重量%であることを特徴とする請求項4に記載の研磨フィルム。
【請求項6】
前記研磨粒子は、平均粒子径が10nm〜30nmの範囲にあるコロイダルシリカ粒子であり、前記研磨層には、更に平均粒子径が70nm〜150nmの範囲にある球状補助粒子とを含み、前記コロイダルシリカ粒子と前記球状補助粒子との重量比率が、90:10〜70:30の範囲にあることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一項に記載の研磨フィルム。
【請求項7】
前記コロイダルシリカ粒子と、前記球状補助粒子との総和量が、前記研磨層に対し80重量%〜98重量%の範囲であることを特徴とする請求項6に記載の研磨フィルム。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の研磨フィルムを使用する研磨方法であって、
研磨装置の研磨盤上に固定された前記研磨フィルムの研磨層に、被研磨体の表面を押圧する第1の工程と、
前記研磨フィルムが固定された前記研磨盤と、前記研磨層に押圧された前記被研磨体の表面とを、前記押圧の状態を維持しつつ相対的に移動させて研磨する第2の工程とを有して成り、
前記第2の工程では、予め前記研磨層の表面に一定量の水又は潤滑剤を含む水溶液を滴下することを特徴とする研磨方法。
【請求項9】
前記第2の工程では、前記研磨盤が、自転運動と公転運動とを伴う回転運動を行うことを特徴とする請求項8に記載の研磨方法。
【請求項10】
前記被研磨体の表面が、光ファイバーコネクタにおける光ファイバー接続部端面であることを特徴とする請求項8又は9に記載の研磨方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−274348(P2010−274348A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127572(P2009−127572)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(390037165)日本ミクロコーティング株式会社 (79)
【Fターム(参考)】