説明

研磨フィルム

【課題】繰り返し使用による研磨フィルムの劣化が抑制された研磨フィルムの提供。
【解決手段】フィルムの一方の面に、研磨層を有する研磨フィルムにおいて、該研磨層がバインダー樹脂と研磨粒子とからなり、かつ、該研磨粒子は、表面に複数の突起、このましくは疣状突起を有する球状シリカ微粒子であることを特徴とする研磨フィルム。前記球状シリカ微粒子は、該球状シリカ微粒子のBET法により測定された比表面積を(SA1)とし、画像解析法により測定される該シリカ微粒子の平均粒子径(D2)から換算した比表面積を(SA2)としたときの表面粗度(SA1)/(SA2)の値が、2.0〜5.0の範囲にあり、該平均粒子径(D2)が10〜150nmの範囲にあり、前記球状シリカ微粒子の粒子径の変動係数が4.0〜20%の範囲にある球状シリカ微粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、光学部品などの表面を研磨するための研磨フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光学部材、FD(フレキシブルディスク)、HD(ハードディスク)、半導体ウエハ、磁気ヘッド、感光ドラム等の研磨に使用される研磨フィルムとしては、基材フィルムと、その基材フィルム上に少なくとも研磨材粒子およびバインダーから形成されてなる研磨層とを有した研磨フィルムが広く知られている。
【0003】
このような研磨フィルムの例としては、例えば次のような例が知られている。
合成樹脂フイルムの少なくとも一方の面に、(A)水溶性尿素‐ホルマリン初期縮合物、(B)アクリル系エマルジョン、(C)平均粒径0.5〜10.0μmでモース硬度7以下の無機質微粒子及び(D)架橋触媒から成る組成物の硬化層を設けた研磨用フイルム(特許文献1)。
【0004】
基材フィルムと、当該基材フィルム上に少なくとも研磨材粒子およびバインダー樹脂から形成されてなる研磨層とを有する研磨フィルムにおいて、前記研磨層の表面に微細な凹溝が形成されていることを特徴とする研磨フィルム(特許文献2)。
【0005】
基材フィルムと、複数の研磨層が積層されてなる研磨体と、からなることを特徴とする研磨フィルム(特許文献3)。
【0006】
基材フィルムの一方の面に、研磨層を有する研磨フィルムにおいて、該研磨層がバインダと研磨粒子と造粒粒子とからなり、該造粒粒子は造粒バインダを実質的に含まず、かつ、平均粒径が1〜30μmであり、かつまた、1〜500nmの一次粒子を造粒してなることを特徴とする研磨フィルム(特許文献4)。
【0007】
ポリエステル基材フィルム上に、砥粒とバインダーとを備えてなる研磨層が設けられてなる研磨フィルムであって、前記バインダーが、ポリオール成分とエポキシ成分と架橋剤とを反応硬化させてなるエポキシウレタンであることを特徴とする研磨フィルム(特許文献5)。
研磨用途に適用する研磨フィルムについては、一般に繰り返し使用による劣化の問題があり、その原因の一つとして研磨フィルムからの研磨粒子の脱落が知られている。
【0008】
【特許文献1】特開平05−222356号
【特許文献2】特開2002―239926号
【特許文献3】特開2003−71729号
【特許文献4】特開2004―34199号
【特許文献5】特開2007―190613号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、研磨フィルムの繰り返し使用によっても研磨粒子の脱落が生じ難い研磨フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願の第1の発明は、フィルムの一方の面に、研磨層を有する研磨フィルムにおいて、該研磨層がバインダー樹脂と研磨粒子とからなり、かつ、該研磨粒子は、表面に複数の突起を有する球状シリカ微粒子であることを特徴とする研磨フィルムである。
本出願の第2の発明は、前記球状シリカ微粒子が、該球状シリカ微粒子のBET法により測定された比表面積を(SA1)とし、画像解析法により測定される該シリカ微粒子の平均粒子径(D2)から換算した比表面積を(SA2)としたときの表面粗度(SA1)/(SA2)の値が、2.0〜5.0の範囲にあり、該平均粒子径(D2)が10〜150nmの範囲にあり、前記球状シリカ微粒子の粒子径の変動係数が4.0〜20%の範囲にある球状シリカ微粒子であることを特徴とする前記研磨用フィルムである。
本出願の第3の発明は、前記研磨層における前記バインダー樹脂に対する前記球状シリカ微粒子の質量比が100:25〜100:2000の範囲にあることを特徴とする前記研磨フィルムである。
本出願の第4の発明は、前記フィルムの厚さが10〜500μmの範囲にあり、前記研磨層の厚さが2〜250μmの範囲にあることを特徴とする前記研磨フィルムである。
本出願の第5の発明は、前記フィルムと研磨層の間にプライマーを有することを特徴とする前記研磨フィルムである。
本出願の第6の発明は、バインダー形成成分、表面に複数の突起を有する球状シリカ微粒子及び硬化触媒を含む研磨層形成用組成物をフィルムの片方の面に塗布し、硬化させることを特徴とする研磨フィルムの製造方法である。
前記突起の形状は、とくに制限はないが、たとえば疣状のものなどを挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る研磨フィルムは、繰り返し使用による、研磨粒子の脱落を防止したものであり、研磨フィルムの繰り返し使用に好適なものである。本発明に係る研磨フィルムの使用により、繰り返し使用による研磨速度の低下が抑制され、被研磨面上でのスクラッチ発生も抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る研磨フィルムは、フィルムの一方の面に、研磨層を有する研磨フィルムにおいて、該研磨層がバインダー樹脂と研磨粒子とからなり、かつ、該研磨粒子は、表面に複数の突起好ましくは疣状の突起を有する球状シリカ微粒子であることを特徴とするものである。この研磨粒子の有する突起とくに疣状の突起は、バインダー樹脂層にくいこんだかたちで分散しており、これにより、研磨フィルムの繰り返し使用による、研磨粒子の脱落が抑制される。本発明に係る研磨フィルムについて、以下に述べる。
【0013】
[フィルム]
基材となる前記フィルムとしては、研磨時の機械的強度と、研磨剤の塗工に伴う寸法変化が少ないフィルムが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリエチレンナフタレ−ト、ポリエチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体、テレフタル酸−シクロヘキサンジメタノール‐エチレングリコール共重合体、などのポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂、ポリアクリレート、ポリメタアクリレート、ポリメチルメタアクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリイミド・ポリアミドイミド・ポリエーテルイミドなどのイミド系樹脂、ポリアリレ−ト・ポリスルホン・ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエ−テル・ポリフェニレンスルフィド(PPS)・ポリエーテルケトン、ポリエーテル‐エーテルケトン、ポリエーテルサルファイトなどのエンジニアリング樹脂、ポリカ−ボネ−ト、ポリスチレン、ABS樹脂などのスチレン系樹脂、セロファン・セルローストリアセテート・セルロースダイアセテート・ニトロセルロースなどのセルロース系フィルムなどを挙げることができる。
【0014】
基材となる前記フィルムの厚さは、被研磨材の材質、大きさ、厚さなどから適宜選択すれば良いが、その厚さは、例えば、10〜500μmの範囲が好ましい。
【0015】
基材となる前記フィルムについては、好適には、研磨層を設ける側のフィルム面にプライマー層を形成して、研磨層とフィルムの接着性を向上させることが望ましい。ここでプライマーとしては、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、エチレンと酢酸ビニル或いはアクリル酸などとの共重合体、エポキシ樹脂等を、適宜溶剤に溶解してプライマーとする。そして、このようなプライマーを基材となるフィルムに塗布し、乾燥して、プライマー層とする。なお、プライマーは、反応開始剤、硬化剤または架橋剤を含んでも構わない。前記プライマー層の厚さとしては、通常は、0.05〜5μmで設けられるが、この範囲に限定されるものではない。
【0016】
[研磨層及びバインダー樹脂]
前記研磨層は、バインダー樹脂中に研磨粒子が分散してなるものである。研磨層は、通常はバインダー樹脂の溶液中に、研磨粒子を分散させた研磨層形成用組成物を調製し、フィルムに塗布し、乾燥、加熱又は電離放射線照射により硬化させて形成する。
【0017】
バインダー樹脂としては、研磨フィルムに適用できる強度を有するものであれば使用することができる。通常は、塗布乾燥型の熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、電離放射線で硬化させる紫外線(UV)硬化樹脂、電子線で硬化させる電子線(EB)硬化樹脂が適用できる。
【0018】
研磨層に適用されるバインダー樹脂のうち、塗布乾燥型のバインダー樹脂としては、シリコーン樹脂などのシロシキサン結合を有する樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ゴム及びその誘導体、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂などの熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0019】
同じく、熱硬化型のバインダー樹脂としては、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリアクリレートポリオール等のヒドロキシル基含有化合物などを挙げることができる。
なお、このような熱硬化型のバインダー樹脂とともに使用する硬化剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアナート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアナート(HMDI)、イソホロンジイソシアナート(IPDI)などのイソシアネート系硬化剤などを挙げることができる。
【0020】
また、電離放射線硬化型のバインダー樹脂としては、電離放射線で硬化するバインダ前駆体が適用でき、紫外線硬化の場合は光重合開始剤を添加し、エネルギーの高い電子線硬化の場合は添加しないで良く、また、適正な触媒が存在すれば、熱エネルギーでも硬化できる。上記電離放射線としては、紫外線、可視光線、ガンマー線、X線、又は電子線などが適用できるが、紫外線(UV)、電子線(EB)が好適である。
【0021】
研磨層における、バインダー樹脂と研磨粒子の比率については、バインダー樹脂100質量部に対して、研磨粒子が、25〜2000質量部が好ましい。25質量部未満では、研磨性能が不十分であり、2000質量部を超えると研磨層の耐久性が低下する場合がある。バインダー樹脂100質量部に対する研磨粒子のより好適な配合比としては、50〜500質量部の範囲が推奨される。
【0022】
[研磨粒子]
前記研磨粒子としては、表面に複数の突起、好ましくは疣状の突起を有する球状シリカ微粒子であって、該球状シリカ微粒子のBET法により測定された比表面積を(SA1)とし、画像解析法により測定される該シリカ微粒子の平均粒子径(D2)から換算した比表面積を(SA2)としたときの表面粗度(SA1)/(SA2)の値が、2.0〜5.0の範囲にあり、該平均粒子径(D2)が10〜150nmの範囲にあり、ナトリウム含有割合が100質量ppm以下、炭素含有割合が0.1〜5質量%の範囲にあり、前記球状シリカ微粒子の粒子径の変動係数が4.0〜20%の範囲にあることを特徴とする球状シリカ微粒子が使用される。
【0023】
[表面粗度]
前記球状シリカ微粒子は、その表面に複数の突起、好ましくは疣状の突起を有し、凹凸に富むものである。この様な複数の疣状突起を有する表面については表面粗度によりその範囲が規定される。本発明において表面粗度は、BET法により測定された比表面積(単位質量当りの表面積)の値を(SA1)とし、画像解析法により測定された平均粒子径(D2)から換算された比表面積の値を(SA2)としたとき、表面粗度=(SA1)/(SA2)として定義される。
【0024】
画像解析法により測定された平均粒子径(D2)から換算された比表面積(SA2)については、透過型電子顕微鏡により、試料シリカゾルを倍率25万倍で写真撮影して得られる写真投影図における、任意の50個の粒子について、その最大径(DL)を測定し、その平均値を平均粒子径(D2)とした。また、平均粒子径(D2)の値を次の式(2)に代入して、比表面積(SA2)を求めた。
【0025】
D2=6000/(ρ×SA2)・・・(1)
ここで、D2は前記平均粒子径[nm]、ρは試料の密度[g/cm]であり、ここではシリカの密度2.2を使用した。
この比表面積(SA2)の値は、平均粒子径D2を有する球状で表面が平滑なシリカ微粒子の比表面積に対応するものと言える。
【0026】
他方、BET法は、粒子への気体(通常は窒素ガス)の吸着量から、比表面積を算定する方法であり、実際の表面状態に対応した表面積を反映したものと言える。
ここで比表面積は単位質量当りの表面積を示すから、表面粗度(SA1)/(SA2)の値については、球状粒子の場合、粒子表面に多くの突起を有する程、(SA1)/(SA2)の値は大きくなる。また、粒子表面の突起が少なく、平滑であるほど、(SA1)/(SA2)の値は小さくなり、その値は1に近づく傾向にある。
【0027】
本発明において、前記シリカ微粒子の表面粗度は1.9〜5.0の範囲が好適である。表面粗度が1.9未満の場合、突起の割合が少ないかあるいは、突起自体がシリカ微粒子の粒子径に比べて小さ過ぎ、球状シリカ微粒子に近くなるため、研磨処理の際に研磨フィルムから脱離すやすくなる。表面粗度の値が5.0を超える場合は、合成が容易ではない。表面粗度のより好適な範囲としては、2.0〜4.0の範囲が推奨される。また、更に好適には、2.1〜3.7の範囲が推奨される。
【0028】
[真球度]
前記研磨粒子については、球状シリカ微粒子は、球状であることが必要であり、棒状、勾玉状、細長い形状、数珠状、卵状など、いわゆる異形粒子が含まれない。本発明において、球状とは、真球度が0.70〜1.00の範囲にある場合を言う。ここで真球度とは、透過型電子顕微鏡により写真撮影して得られる写真投影図における任意の50個の粒子について、それぞれ最大径(DL)を測定し、該最大径上で、該最大径を2等分する点(中心点)を求め、該中心点を通過し、該最大径に直交する径の長さ(DS)を測定し、(DL)/(DS)の値を求め、50個の粒子について平均値をとり、これを真球度とした。
【0029】
真球度が0.7未満の場合は、シリカ微粒子が球状とはいえず、前記の異形粒子に該当する場合が生じる。真球度の範囲については、より好適には0.80〜1.00の範囲が推奨される。また、更に好適には0.90〜1.00の範囲が推奨される。
【0030】
[平均粒子径]
前記球状シリカ微粒子の画像解析法により測定される平均粒子径(D2)については、10〜150nmの範囲が好適である。10nm未満の場合は、必要な表面粗度をもった球状シリカ微粒子を調製することが容易ではない。平均粒子径(D2)が150nm超える場合は、原料の核微粒子の大きさにもよるが、一般に突起が平坦化する傾向が著しくなるため良好な性状の球状シリカ微粒子を得ることが容易ではない。平均粒子径の範囲については、より好適には、20〜100nmの範囲が推奨される。また、より好適には25〜50nmの範囲が推奨される。
【0031】
なお、前記球状シリカ微粒子の比表面積については、格別に限定されるものではないが、通常は10〜1000m/gの範囲が推奨される。また、好適には100〜600m2/gの範囲が推奨される。
[粒子径の変動係数(CV値)]
本発明に係るシリカゾルの分散質である球状シリカ微粒子の表面状態については、前記表面粗度で定められるものであるが、望ましくは、粒子径の変動係数(CV値)が3.0〜20%の範囲にあるものが推奨される。
【0032】
ここで、粒子径の変動係数(CV値)とは、粒子半径の不均一性の度合を意味する。具体的には、電子顕微鏡による写真投影図における球状シリカ微粒子の最長径を2等分する位置を該球状シリカ微粒子の中心とし、該中心から最長径の一方の端を角度0度とし、そこから10度づつ0度から180度までの半径を測定し、それらの値から半径の平均値および標準偏差を算定する。更に該標準偏差を該平均値で除すことにより、粒子径の変動係数(相対標準偏差)を求める。本出願においては、任意の50個の粒子について、それぞれ粒子径の変動係数を求め、それらの平均値を粒子径の変動係数(CV値)とした。粒子径の変動係数(CV値)については、好適には4.0〜20%の範囲が好ましい。粒子径の変動係数が4.0%未満の場合は、表面の起伏が少ない球状粒子に近くなるため、研磨処理により研磨フィルムから研磨粒子が脱離し易くなる。粒子径の変動係数が20%を超える場合については、表面が極めて起伏に富む状態になるが、本発明に係る製造方法によって調製することは容易ではない。また、その様なシリカ微粒子は、その組成によっては、突起部分の強度が低くなる場合があり、研磨材用途に適さない場合が生じかねない。粒子径の変動係数(CV値)については、好ましくは4.1〜15%の範囲が推奨される。また、更に好ましくは、5.0〜12%の範囲が推奨される。
【0033】
[研磨フィルムの製造方法]
本発明に係る研磨フィルムの製造方法は、研磨層形成用組成物を基材となるフィルムに塗布し、乾燥、加熱、紫外線照射または電子線照射により硬化させることにより行われる。
【0034】
[研磨層形成用組成物]
研磨層形成用組成物は、バインダー形成成分、表面に複数の突起を有する球状シリカ微粒子を含み、必要に応じて硬化触媒、架橋剤を含むものであり、通常は水及び/または有機溶媒に分散されてなるものである。
バインダー形成成分は、硬化して3次元構造を有する樹脂となり、研磨粒子のバインダーとなることができるものが使用される。硬化性モノマー、オリゴマーまたはポリマーなどの樹脂前駆体または有機樹脂の溶液がこれに相当する。バインダー形成成分には、必要に応じて、可塑剤、滑剤、染料や顔料などの着色剤、増量やブロッキング防止などの体質顔料や樹脂などの充填剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、チクソトロピー性付与剤等の添加剤を、適宜加えても良い。
【0035】
表面に複数の突起を有する球状シリカ微粒子については、前記のものが使用される。バインダー形成成分(固形分)と前記シリカ微粒子の配合比については、固形分換算で、質量比が100:25〜100:2000の範囲で配合することが好ましい。
前記有機溶剤については、バインダー樹脂の種類に応じて、例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エタノール、イソプロピルアルコール、アノン、ソルベッソ等からなる単独溶剤あるいはこれらの2種以上の混合溶剤等が使用され、また、必要に応じて、粘度調整剤、分散剤、帯電防止剤、可塑剤、顔料などを添加しても良く、塗布方法に相応しい粘度と印刷適性を研磨層形成用組成物に調製する。
【0036】
研磨層については、基材となるフィルムに研磨層形成用組成物を基材フィルムの一方の面へ、又は必要に応じてプライマ層を介して、全面又は任意のパターン形状に設ければよい。全面に設けれるには、公知のロールコート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、キスコート、コンマコート、ロッドコ−ト、ブレードコート、バーコート、ワイヤーバーコート、ナイフコート、スクイズコート、エアードクターコート、エアナイフコート、ダイコート、リップコート、カーテンコート、フローコートなどのコーティング法や、スクリーン印刷、グラビア印刷などの印刷法が適用できる。好ましくは、ロールコート、リバースロールコート、キスコート、コンマコート、ロッドコ−ト、ブレードコート、バーコート、ワイヤーバーコートである。また、任意のパターン形状に設けるには、スクリーン印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷などが適用できるが、製版の容易さや版持ち性などからスクリーン印刷が好適である。
研磨層の厚さは、使用する研磨粒子の粒子径などによっても異なるが2μm〜50μmの範囲が好ましく、更に好適には5〜30μの範囲が推奨される。
〔産業上の利用分野〕
【0037】
本発明に係る研磨フィルムは、光学部材、FD(フレキシブルディスク)、HD(ハードディスク)、半導体ウエハ、磁気ヘッド、感光ドラム等の研磨に好適に使用することができる。
【0038】
[実施例および比較例で用いた測定方法等]
[1]動的光散乱法による平均粒子径の測定方法
試料シリカゾルを0.58%アンモニア水にて希釈して、シリカ濃度1質量調整し、下記粒径測定装置を用いて平均粒子径を測定した。
【0039】
〔粒径測定装置〕
レーザーパーティクルアナライザー(製造元:大塚電子社、型番「レーザー粒径解析システム、LP−510モデルPAR−III」、測定原理 動的光散乱法 測定角度90°、受光素子 光電子倍増管2インチ、測定範囲3nm〜5μm、光源 He−Neレーザー 5mW 632.8nm、温度調整範囲5〜90℃、温度調整方式ペルチェ素子(冷却)、セラミックヒーター(加熱)、セル 10mm角 プラスチックセル、測定対象:コロイド粒子
【0040】
[2]BET法(窒素吸着法)による比表面積測定方法
シリカゾル50mlをHNOでpH3.5に調整し、1−プロパノール40mlを加え、110℃で16時間乾燥した試料について、乳鉢で粉砕後、マッフル炉にて500℃、1時間焼成し、測定用試料とした。そして、比表面積測定装置(ユアサアイオニクス製、型番マルチソーブ12)を用いて窒素吸着法(BET法)を用いて、窒素の吸着量から、BET1点法により比表面積を算出した。
【0041】
具体的には、試料0.5gを測定セルに取り、窒素30v%/ヘリウム70v%混合ガス気流中、300℃で20分間脱ガス処理を行い、その上で試料を上記混合ガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を試料に平衡吸着させる。次に、上記混合ガスを流しながら試料温度を徐々に室温まで上昇させ、その間に脱離した窒素の量を検出し、予め作成した検量線により、シリカゾルの比表面積を算出した。
【0042】
[3]画像解析による平均粒子径(D2)の測定方法および比表面積(SA2)の算定方法
透過型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、H−800)により、試料シリカゾルを倍率25万倍で写真撮影して得られる写真投影図における、任意の50個の粒子について、その最大径(DL)を測定し、その平均値を平均粒子径(D2)とした。また、平均粒子径(D2)の値を次の式(2)に代入して、比表面積(SA2)を求めた。
【0043】
D2=6000/(ρ×SA2)・・・(1)
ここで、D2は平均粒子径[nm]、ρは試料の密度[g/cm]であり、ここではシリカの密度2.2を使用した。
【0044】
[4]真球度の測定方法
透過型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、H−800)により、試料シリカゾルを倍率25万倍で写真撮影して得られる写真投影図における、任意の50個の粒子について、それぞれ最大径(DL)を測定し、該最大径上で、該最大径を2等分する点(中心点)を求め、該中心点を通過し、該最大径に直交する径の長さ(DS)を測定し、(DL)/(DS)の値を求め、50個の粒子について平均値をとり、これを真球度とした。
【0045】
[5]粒子径の変動係数の算定
透過型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、H−800)により、試料シリカゾルを倍率25万倍ないし50万倍で写真撮影して得られる写真投影図における球状シリカ微粒子の最長径を2等分する位置を該球状シリカ微粒子の中心とし、該中心から最長径の一方の端を角度0度とし、そこから10度づつ0度から180度までの半径を測定する。そして、その値から半径の平均値および標準偏差を算定する。更に該標準偏差を該平均値で除すことにより粒子径の変動係数(相対標準偏差)を求めた。この測定および算定を任意の50個の粒子について行い、粒子径の変動係数の平均値をとり、その値を粒子径の変動係数(CV値)とした。なお、粒子径の変動係数(CV値)については、粒子径の変動係数(CV値)[%]=(粒子径の標準偏差/粒子径の平均値)×100として表示した。
【0046】
[6]研磨試験
被研磨基板
被研磨基板として、65mmφの強化ガラス製のハードディスク用ガラス基板を使用した。このハードディスク用ガラス基板は、一次研磨済みであり、表面粗さは最大で0.21μmである。
研磨処理実施例で作成した各研磨フィルムを、テープ式シリコンウェハエッジ研磨機(スピードファームマイペック社製、Momentum型)へセットして、荷重1N/cmにて1分間研磨した。そして、研磨前後の被研磨基材の重量変化を求めて研磨速度を計算した。この研磨処理を合計5回行い、それぞれ研磨速度を計算した。
【0047】
線状痕の測定
スクラッチの発生状況については、ガラス基板を上記と同様に研磨処理した後、超微細欠陥・可視化マクロ装置(VISION PSYTEC社製、製品名:Micro−MAX)を使用し、Zoom15にて全面観察し、65.97cmに相当する研磨処理された基板表面のスクラッチ(線状痕)の個数を数えて合計した。
線状痕(個数)
A: 0〜5個
B: 6〜10個
C: 11個〜15個
D: 16個以上
【実施例】
【0048】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0049】
(合成例1)
超純水237.3gにエタノール355.8gとを混合した混合溶媒を65℃に加熱して、これにテトラエトキシシラン(多摩化学製エチルシリケート28、SiO=28.8質量%)1188gとエタノール2255gを混合したテトラエトキシラン溶液、および超純水100gと29.1%アンモニア水溶液40.5gを混合したアンモニア希釈液とを同時に3時間かけて添加した。添加終了後、さらに65℃で3時間熟成した。そして、限外濾過膜で固形分濃度15質量%まで濃縮し、未反応のテトラエトキシシランを除去した。さらにロータリーエバポレーターでエタノール、アンモニアをほぼ除去し、固形分濃度12.6質量%のシリカゾルを得た。このシリカゾルの分散質である疣状突起を有するシリカ微粒子に関する測定結果を表1に記す。
【0050】
(合成例2)
実施例1の混合溶媒に代えて、超純水177gにエタノール416.1gを添加してなる混合溶媒を使用し、さらに、実施例1のアンモニア希釈液に代えて、エタノール160.3gと29.1%アンモニア水溶液40.5gを混合したアンモニア希釈液を使用し、それ以外は、実施例1と同様にシリカゾルの調製を行った。このシリカゾルの分散質である疣状突起を有するシリカ微粒子に関する測定結果を表1に記す。
【0051】
(合成例3)
実施例1のアンモニア希釈液に代えて、エタノール100gと29.1%アンモニア水溶液40.5gを混合したアンモニア希釈液を使用し、テトラエトキシラン溶液とアンモニア希釈液の添加時間を6時間とし、それ以外は実施例1と同様にシリカゾルの調製を行った。このシリカゾルの分散質である疣状突起を有するシリカ微粒子に関する測定結果を表1に記す。
【0052】
(合成例4)
触媒化成工業株式会社製カタロイド(商標)SI−50(BET法により測定された比表面積から換算された平均粒子径:25nm)をシリカ濃度20質量%に調整し、疣状突起を有するシリカ微粒子の分散液とした。
【0053】
(合成例5)
超純水599gにエタノール899gとを混合した混合溶媒を65℃に加熱して、これにテトラエトキシシラン(多摩化学製エチルシリケート28、SiO2=28.8質量%)10.00kgとエタノール18.99kgを混合したテトラエトキシラン溶液、および超純水10.41kgと29.1%アンモニア水溶液169.5gを混合したアンモニア希釈液とを同時に10時間かけて添加した。
添加終了後、さらに65℃で3時間熟成した。そして、限外濾過膜で固形分濃度15質量%まで濃縮し未反応のテトラエトキシシランを除去した。さらに、ロータリーエバポレーターでエタノール、アンモニアをほぼ除去し固形分濃度12.6質量%の疣状突起を有するシリカ微粒子の分散液を得た。
【0054】
(実施例1)
下記A、B及びCからなる研磨層形成用組成物を調製し、基材フィルムとして、厚さが200μmのポリエステルフィルムの一方の面へ、乾燥後の厚さが8μmになるように、塗布し80℃で、10分間乾燥して、研磨層を形成した。
A ポリビニルアルコール 100質量部
B ホウ酸 1質量部
C 合成例1で調製した疣状突起を有する球状シリカ微粒子分散液100質量部(シリカ固形分換算)
なお、ポリビニルアルコールとしては粉体状のポリビニルアルコールを使用した。以下の実施例および比較例も同様。
【0055】
(実施例2)
下記A、B及びCからなる研磨層形成用組成物を調製し、基材フィルムとして、厚さが200μmのポリエステルフィルムの一方の面へ、乾燥後の厚さが8μmになるように、塗布し80℃で、10分間』乾燥して、研磨層を形成した。
A ポリビニルアルコール100質量部
B ホウ酸 1質量部
C 合成例2で調製した疣状突起を有する球状シリカ微粒子分散液100質量部(シリカ固形分換算)
【0056】
(実施例3)
下記A、B及びCからなる研磨層形成用組成物を調製し、基材フィルムとして、厚さが200μmのポリエステルフィルムの一方の面へ、乾燥後の厚さが8μmになるように、塗布し80℃で、10分間乾燥して、研磨層を形成した。
A ポリビニルアルコール100質量部
B ホウ酸 1質量部
C 合成例3で調製した疣状突起を有する球状シリカ微粒子分散液100質量部(シリカ固形分換算)
【0057】
比較例1
実施例1のC成分を合成例4のシリカ微粒子分散液100質量部(シリカ分)に変更した他は、実施例1と同様にして研磨層形成用組成物を調製し、実施例1と同様にして、厚さが200μmのポリエステルフィルムの一方の面へ研磨層を形成した。
【0058】
比較例2
実施例1のC成分を合成例5で調製したシリカ微粒子分散液100質量部(シリカ分)に変更した他は、実施例1と同様にして研磨層形成用組成物を調製し、実施例1と同様にして、厚さが200μmのポリエステルフィルムの一方の面へ研磨層を形成した。
【表1】

【表2】

【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの一方の面に、研磨層を有する研磨フィルムにおいて、該研磨層がバインダー樹脂と研磨粒子とからなり、かつ、該研磨粒子は、表面に複数の突起を有する球状シリカ微粒子であることを特徴とする研磨フィルム。
【請求項2】
前記球状シリカ微粒子が、該球状シリカ微粒子のBET法により測定された比表面積を(SA1)とし、画像解析法により測定される該シリカ微粒子の平均粒子径(D2)から換算した比表面積を(SA2)としたときの表面粗度(SA1)/(SA2)の値が、2.0〜5.0の範囲にあり、該平均粒子径(D2)が10〜150nmの範囲にあり、前記球状シリカ微粒子の粒子径の変動係数が4.0〜20%の範囲にある球状シリカ微粒子であることを特徴とする請求項1記載の研磨用フィルム。
【請求項3】
前記研磨層における前記バインダー樹脂に対する前記球状シリカ微粒子の質量比が100:25〜100:2000の範囲にあることを特徴とする請求項1または請求項2記載の研磨フィルム。
【請求項4】
前記フィルムの厚さが10〜500μmの範囲にあり、前記研磨層の厚さが2〜250μmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の研磨フィルム。
【請求項5】
前記フィルムと研磨層の間にプライマー層を有することを特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の研磨フィルム。
【請求項6】
バインダー形成成分、表面に複数の突起を有する球状シリカ微粒子及び硬化触媒を含む研磨層形成用組成物をフィルムの片方の面に塗布し、硬化させることを特徴とする研磨フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−149256(P2010−149256A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332210(P2008−332210)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】