説明

研磨定盤の製造方法及び研磨定盤を用いた磁気ヘッドスライダの製造方法

【課題】
磁気ヘッドの浮上面の研磨には砥粒が埋め込まれた研磨定盤が使用され、平滑な浮上面表面を得るためには砥粒の切れ刃高さのばらつきを小さくしなければならない反面、研磨速度の極端な低下という製造上の大きな問題点を抱えている。
【解決手段】
上記の問題を解決するために、研磨定盤の押し込まれた従来方法の砥粒に対して、新たに砥粒周辺の定盤表面を選択的に研磨する砥粒掘り起こし処理を行い、更に掘り起こされた砥粒に対してその切れ刃高さを揃えるための均一化処理を行うようにした。
このふたつの処理によって、研磨定盤に埋め込まれた砥粒は定盤表面からの突き出し高さが大きく、しかもその高さばらつきの少ない状態にすることが可能になった。その結果、従来の一般的な研磨定盤を用いて研磨する場合に比較して高速で、かつ平坦性に優れた浮上面を得ることが出来た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド砥粒を埋め込んだ研磨定盤の製造方法及びその研磨定盤を用いた磁気ヘッドスライダの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置は、取り扱い情報量の増大に伴い高記録密度化が急速に進展している。この要求に応えるために、磁気ヘッドの磁気記録媒体に対する浮上量を更に低減させて記録情報を読み書きする際の信号の検出感度と信号出力をより高めることが重要である。そして、この浮上量の更なる低減を実現するには、回転する磁気記録媒体に対面させて配置する磁気ヘッドの浮上面をより一層平滑に加工することが不可欠である。
【0003】
一般に磁気ヘッドの製造方法は、Al−TiC(アルミナチタンカーバイト)等のセラミック基板上に、絶縁層、磁気再生素子、磁気記録素子、保護層をリソグラフィ法を用いた薄膜プロセスにより順次積層しながら形成する。次に、ダイサー等を用いて、この基板から磁気記録素子及び磁気再生素子を含む磁気ヘッドとなる構造体が複数個繋がった短冊片(以後、ローバーと呼ぶ)に切り出す。そして、切断後のひずみを両面ラップ等の方法を用いて除去した後、磁気記録媒体に対向させる面(浮上面)を高精度に研磨加工する。その後、浮上面にDLC(Diamond−Like−Carbon)膜等の保護膜を形成した後、イオンミリング等により浮上面に磁気ヘッドを磁気記録媒体の表面から浮上させるためのレール形状を形成する。そして、ローバーから磁気記録素子及び磁気再生素子を含む小片(スライダー)を個々に切り出して、磁気ヘッドが完成する。
【0004】
ローバーの研磨工程は、通常、粗研磨を行う工程と表面粗さを極力低減する仕上げ研磨を行う工程からなる。粗研磨は、通常、回転する軟質金属系の定盤上にダイヤモンドなどの砥粒を含んだラップ液を滴下しながら、研磨治具に固定したローバーを押圧摺動させる方法が用いられる。仕上げ研磨は、あらかじめダイヤモンドなどの砥粒を埋め込んだ定盤上に砥粒を含まないラップ液を滴下しながら、研磨治具に固定した短冊片を押圧摺動させる方法が用いられる。なお、粗研磨でも仕上げ研磨より粒径の大きな砥粒を埋め込んだ定盤を用いる場合もある。
【0005】
また、粗研磨工程では、磁気記録素子または磁気再生素子の抵抗値を検知する、あるいは別途設けられたELG(Electric Lapping Guide)素子の抵抗値を検知しながらローバーに付加する圧力を部分的に調整して加工することで、磁気記録素子または磁気再生素子の素子高さを規格範囲内に収める寸法制御も行う。
【0006】
研磨定盤への砥粒の埋め込み方法として、特許文献1にに記載された方法が開示されている。即ち、回転させた研磨定盤上にダイヤモンドスラリーを供給しつつ、埋め込み用治具を回転させながら定盤表面に押し付けてダイヤモンド砥粒を埋め込む。その後、定盤表面に残留する定盤に保持されていない砥粒を洗浄により除去し、砥粒が埋め込まれた研磨定盤が完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−253274
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したローバーの研磨工程において、浮上面の表面粗さを支配する大きな要因のひとつはローバーに対する砥粒の切り込み深さであり、特に工具である研磨定盤に埋め込まれた砥粒の切れ刃高さとそのばらつきが影響する。そして、この砥粒の切れ刃高さはローバー自身の研磨速度にも影響する。
【0009】
特許文献1に開示された砥粒の埋め込み方法において、砥粒の埋め込み直後の状態では砥粒の切れ刃高さとばらつきが大きいため、研磨量の増加に伴って砥粒が沈み込みながら切れ刃高さが揃っていくことになる。従って、研磨荷重が常に一定であれば研磨量の増加に伴って研磨速度が低下し、これに合わせて浮上面の表面粗さも減少する傾向を示すことになる。しかしながら、研磨速度が極めて小さくなると平坦な浮上面を得るまでの研磨時間が異常に長くなり、磁気ヘッド素子そのものの生産性に深刻な支障をきたす。
【0010】
上記した従来技術における研磨速度と浮上面の面粗さとの相反する関係の中で、可能な限り高効率で短時間に磁気ヘッドの浮上面を所望の形状に研磨加工することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明は、第1の砥粒を埋め込んだ後、定盤上に第2の砥粒を供給しながら、表面に凹凸を有する不織布等を用いて供給された第2の砥粒を研磨定盤上に押し付けつつ、埋め込まれた第1の砥粒(固定砥粒)の周辺に存在する金属を除去するようにした。(以後、この工程を砥粒掘り起こし処理と呼ぶ。)
その後、上記の砥粒掘り起こし処理の施された研磨定盤に対してセラミック基板等を圧力を調整して押圧することによって、研磨定盤に埋め込まれた第1の砥粒の切れ刃高さのばらつきを小さくする処理を行った。(以後、この工程を切れ刃高さ均一化処理と呼ぶ。)
このように砥粒掘り起こし処理及び切れ刃高さ均一化処理の施された研磨定盤を用いて下記に示す手順に従って磁気ヘッド素子を製造した。即ち、セラミック基板上に複数の磁気記録素子または磁気再生素子と保護層とを形成するステップと、このセラミック基板をローバーに切り出すステップと、浮上面となるローバーの面をダイヤモンドなどの砥粒を含んだラップ液が滴下されている回転する軟質金属系の定盤あるいは砥粒を含まないラップ液が滴下されている次工程の仕上げ研磨工程より粒径の大きな砥粒が埋め込まれた定盤上に押圧摺動させて研磨するステップと、ローバーの同面を上記の砥粒掘り起こし処理と刃先均一化処理により得た研磨定盤に押圧摺動させて研磨するステップと、研磨したローバーの面に保護膜を形成するステップと、保護膜を形成したローバーの面に浮上レールを形成するステップと、ローバーを磁気記録及び再生素子を含むようにして切断し、個々の薄膜磁気ヘッドを得るステップを経て薄膜磁気ヘッドが完成する。
【発明の効果】
【0012】
表面に凹凸を有する不織布等を用いた砥粒掘り起こし処理及び続いて行われるセラミック基板等を用いた切れ刃高さ均一化処理を経て研磨定盤を作製することにより、砥粒の切れ刃高さが大きく、その高さばらつきの小さい研磨定盤、言い換えれば研磨物に対して平滑な研磨面を長時間に亘って維持可能な研磨定盤を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明である砥粒掘り起こし処理を説明するための概略図である。
【図2】砥粒埋め込み工程を行った後の第1の砥粒の平均切れ刃高さと切れ刃高さばらつきとの関係を説明するための説明図であり、同図(a)は砥粒掘り起こし処理前の状態を、同図(b)は砥粒掘り起こし処理後の状態を表わす。
【図3】本発明の砥粒掘り起こし処理における掘り起こし処理時間と平均切れ刃高さの変化量の関係を示す図である。
【図4】本発明の切れ刃高さ均一化処理を行うためのコンディショニング治具を説明するための概略図である。
【図5】本発明である切れ刃高さ均一化処理を説明するための説明図であり、同図(a)は全体の概略図を示し、同図(b)は研磨定盤とセラミック基板との関係を表わす拡大図である。
【図6】本発明の切れ刃高さ均一化処理後の切れ刃高さとばらつきの関係を説明するための概略図である。
【図7】第1の砥粒を埋め込んだ研磨定盤の平均切れ刃高さと切れ刃高さばらつきの関係であって、砥粒掘り起こし処理及びその切れ刃高さ均一化処理を施さない場合の説明図である。
【図8】第1の砥粒埋め込み後、砥粒掘り起こし処理及びその切れ刃高さ均一化処理を行った定盤における第1の砥粒の平均切れ刃高さとそのばらつきとの関係を示す説明図である。
【図9】本発明の磁気ヘッドの製造方法を説明するための工程図である。
【図10】本発明の研磨定盤を用いて実施した磁気ヘッド素子の浮上面粗さと仕上げ研磨速度との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の砥粒掘り起こし処理を説明するための概略図である。図1において、定盤1の表面には従来から知られた砥粒埋め込み用治具を用いてダイヤモンド砥粒2(以下、断りのない限り第1の砥粒を表わす)が埋め込まれている。また、定盤1の中央には凹み8があり、この凹み8には供給された研磨液6の排出用穴(図示しない)が設けられている。
【0015】
砥粒5(以下、断りのない限り第2の砥粒を表わす)を含む研磨液6を供給チューブ7から定盤1の表面に供給しながら、不織布3が表面に貼り付けられたドレッシング治具4を回転させて定盤1の表面に押し付ける。これにより、ドレッシング治具4の下部では、不織布3によって砥粒5が定盤1のダイヤモンド砥粒2の埋め込まれていない領域であって、研磨定盤1の金属表面を加工し、既に埋め込まれていた砥粒2の切れ刃高さを増加させることが出来る。
【0016】
不織布3の機能として、埋め込まれたダイヤモンド砥粒2に妨げられることなく定盤1の表面に砥粒5を押し付けることが必要であり、そのためには不織布3の表面に凹凸が形成されている、もしくは表面の形状が押し付け時に変形可能な弾性が必要である。材質の一例として、ウレタン含浸不織布や発砲ポリウレタンやスエード等を用いることができる。
【0017】
研磨液6には分散剤や界面活性剤等を含み砥粒5を分散した状態で維持できる液体を用いる。研磨液6と共に研磨定盤1の上に供給される砥粒5の粒径は、埋め込まれたダイヤモンド砥粒2の間隙に入り込ませるために、ダイヤモンド砥粒2と同程度かそれ以下の寸法が好ましい。砥粒5の材質としては、定盤1の軟質金属(錫、その合金等)からなる表面を加工する能力があればよく、一例としてダイヤモンド砥粒2と同じ材質のダイヤモンド、炭化ケイ素、アルミナ等を用いることができるし、それらの混合物であってもよい。
【0018】
図2は本発明の特徴でもある砥粒2を研磨定盤1に埋め込んだ後、埋め込まれた砥粒2の掘り起こし処理を説明するための図である。図2(a)は砥粒掘り起こし処理を行う前の砥粒の平均切れ刃高さと切れ刃高さばらつきとの関係を説明するための概略図である。Hcは砥粒埋め込み工程後のダイヤモンド砥粒2の平均切れ刃高さを示し、Vcは切れ刃高さばらつきを示している。砥粒埋め込み工程の初期で定盤1に保持されたダイヤモンド砥粒2は、砥粒埋め込み工程の進行に伴って定盤1の内部に沈み込むためその切れ刃高さが徐々に低くなる。このことは砥粒2の初期粒径が大きくても過大の埋め込み処理がなされるとその砥粒の切れ刃高さが減少するので、結果的に大きな研磨速度を得ることが出来ない。
【0019】
また、上記した砥粒埋め込み工程では、ダイヤモンド砥粒2の粒径の約2/3程度が定盤1へ埋没することになる。従って、砥粒2の粒径が小さいほど砥粒埋め込み工程直後の平均切れ刃高さHcは小さくなる。このため、平均粒径が小さくなるほど、研磨工程において初期から研磨速度が低くなる。平均粒径の小さい砥粒を用いて平均切れ刃高さHcを大きくしようとしても定盤1への十分な保持力が得られないため、安定した砥粒密度を得るのが難しい。砥粒密度が極めて低くなると、研磨工程において一つの砥粒に荷重が集中して切り込みが深くなり、表面粗さが大きくなる。このため砥粒密度としては、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて10000倍程度で観察した場合、1μm角当たりに5個以上埋め込まれていることが好ましい。
【0020】
図2(b)は、砥粒埋め込み工程の後に行われた砥粒掘り起こし処理を実施したときの砥粒2の平均切れ刃高さと切れ刃高さばらつきの関係を説明するための概略図である。Hdは砥粒掘り起こり処理後のダイヤモンド砥粒2の平均切れ刃高さであり、Vdは切れ刃高さばらつきを示す。砥粒掘り起こし処理により、主に定盤1の軟質金属(錫、その合金等)の表面が研磨除去されるため、図2(a)で示した砥粒2の平均切れ刃高さHcはHdに増大する。
【0021】
一方、砥粒切れ刃高さばらつきVdは砥粒掘り起こし処理における定盤1表面に対する加工量が一定であれば、砥粒掘り起こし処理後の切れ刃高さばらつきは図2(a)の場合と同程度(Vc)になり、加工量にばらつきを有する場合はVcより大きくなる。
【0022】
磁気ヘッドの浮上面の仕上げ研磨に用いる定盤の埋め込み砥粒の粒径は、通常、平均粒径100nm程度のものが用いられる。このような砥粒を埋め込んだ場合、平均切れ刃高さは20〜40nm程度となる。このサイズの砥粒を用いた場合、砥粒の保持力を維持するために砥粒掘り起こしによる定盤金属表面の加工量は5〜20nm程度が好ましい。しかしながら、砥粒2が埋め込まれた定盤面内を数nmから数十nmの加工量で高精度に均一に加工するのは現実的には難しく、切れ刃高さばらつきをVcより小さくするためには、後述する切れ刃高さ均一化処理が必要になる。
【0023】
図3に砥粒2の掘り起こし処理における掘り起こし処理時間と平均切れ刃高さの変化量との関係を示す。定盤として錫製の直径φ380mmの軟質金属定盤を用い、その表面に深さ7μm、幅20μm、ピッチ45μmの矩形溝を螺旋状に形成し、その後、セラミック製の埋め込み用治具を用いて、平均粒径φ80nmのダイヤモンドスラリー(エンギス社製)を、溝以外の定盤表面に埋め込んだ。
【0024】
砥粒掘り起こし処理は、平均粒径φ50nmのダイヤモンドスラリー(エンギス社製)を回転させた定盤上に供給し、外形φ140mmで幅10mmのドーナツ状のドレッシング治具の表面に研磨パッド(エンギス社 530N)を貼り付けて、回転させながら定盤表面に押し付けて行った。
【0025】
また、ここでは砥粒2の平均切れ刃高さを次のように定義した。即ち、定盤1上の任意の場所(少なくとも10箇所以上、望ましくは、内周、中周、外周から45度間隔で24箇所)について、それぞれ5μm角の領域を原子力間顕微鏡(AFM)にて定盤1の表面形状を測定し、埋め込まれた砥粒の高さを各測定点で高い順に10点選択し、選択した砥粒の全領域における平均値を求め、これを平均切れ刃高さとした。
【0026】
図3では、研磨パッドの押し付け圧力を約2倍に変えた場合(記号●:0.8kPa、記号▲:1.7kPa)と、押し付け圧力を1.7kPaとし、砥粒5を含まない研磨液6を供給した場合の結果を示した。砥粒5を含まない研磨液6を供給した場合、処理時間の増加に対して平均切れ刃高さの増加は見られず、砥粒を含まない研磨液と研磨パッドの組み合わせでは砥粒の掘り起こし効果、言い換えれば定盤1の金属表面の研磨加工の効果がないことが分かる。
【0027】
一方、砥粒5を含むダイヤモンドスラリーを供給した場合、砥粒2の平均切れ刃高さは処理時間の増加に対してほぼ一様に増加する。そして、研磨パッドの押し付け圧力を高くすることで、砥粒2の切れ刃高さを短時間に増加させることが可能である。即ち、処理時間と研磨パッドの押し付け圧力の調整により、砥粒2の平均切れ刃高さをコントロールすることが可能である。
【0028】
次に、砥粒2の切れ刃高さ均一化処理について、図5〜9を用いて説明する。
図4は、砥粒2の切れ刃高さ均一化処理に用いるコンディショニング治具の概略図である。コンディショニング治具13の表面に粘着性を有する弾性体12を介してセラミック基板11が複数保持されている。刃先均一化処理では、セラミック基板11が定盤表面に対面するように配置する。コンディショニング治具13の質量とセラミック基板11の全面積を用いて押し付け圧力を算出し、必要に応じてその圧力を調整する。
【0029】
図5は、砥粒2の切れ刃高さ均一化処理を説明するための概略図である。図5(a)は均一化処理を行うための処理装置全体の概略図を示し、図5(b)は研磨定盤1とセラミック基板11との関係を表わす拡大図である。図5(a)において、前述の砥粒掘り起こし処理が終了した定盤1を回転させながら、砥粒を含まない研磨液9を供給チューブ10から定盤表面に供給し、コンディショニング治具13を回転させて粘着性を有する弾性体12に保持されたセラミック基板11を定盤1のダイヤモンド砥粒2が埋め込まれた面に押し付ける。尚、セラミック基板に限定させることなく、同様の効果が発揮できる材料であれば構わない。
【0030】
図5(b)において、セラミック基板11の押し込み圧力と、砥粒を含まない研磨液9の物性によりセラミック基板11と定盤1の表面との距離(ギャップ)が決定される。そこで、セラミック基板11の押し込み圧力の調整によりギャップを大き目にすることにより砥粒2の切れ刃高さが大きく、定盤1の表面から突出した砥粒2が選択的に押し込まれることになる。その結果、砥粒2の平均切れ刃高さの減少が少なく、しかも切れ刃高さばらつきの小さい研磨定盤が実現する。
【0031】
例えば、砥粒を含まない研磨液9の動粘度を1.8×10−6/sに調整し、セラミック基板11の押し込み圧力を約150kPaにした場合、切れ刃高さ均一化処理後の砥粒2の平均切れ刃高さは約27nmとなる。セラミック基板11の押し込み圧力を約255kPaに増加させた場合、砥粒2の平均切れ刃高さは約19nmになる。従って、砥粒を含まない研磨液9が同じであればセラミック基板11の押し込み圧力を調整することで切れ刃高さ均一化処理後の砥粒2の平均切れ刃高さを調整することができる。
【0032】
また、セラミック基板11と定盤1の表面とのギャップを一定に保ったまま処理を行えば、そのギャップより切れ刃高さの大きい砥粒は押し込まれ、ギャップと同等になるとそこで押し込みが停止するため、砥粒2の切れ刃高さばらつきを減少させることが可能である。
【0033】
尚、砥粒2の平均切れ刃高さは高い方が小さい研磨圧力で高い研磨速度が得られる。従って、砥粒2の刃先均一化処理では、砥粒掘り起こし処理後の砥粒2の平均切れ刃高さに対してその減少量が出来るだけ少ない条件均一化処理を行うことが好ましい。
【0034】
図6は切れ刃高さ均一化処理後の砥粒2の切れ刃高さとそのばらつきとの関係を説明するための概略図である。Huは刃先均一化処理後のダイヤモンド砥粒2の平均切れ刃高さであり、Vuは切れ刃高さばらつきを示す。図2(b)で示した砥粒掘り起こし処理後の平均切れ刃高さHdに比べて若干の減少量でHuは留まり、切れ刃高さばらつきVuは砥粒掘り起こし後の切れ刃高さばらつきVdに比べて減少する。
【0035】
上記したように、砥粒掘り起こし処理と切れ刃高さ均一化処理とを連続的に行うことでこれらの処理を行わない従来の一般的な研磨定盤に比べて、砥粒2の平均切れ刃高さが大きく、その切れ刃高さばらつきが改善された研磨定盤を得ることができる。
【0036】
図7に、従来方式で砥粒を埋め込んだ定盤の平均切れ刃高さと切れ刃高さばらつきの関係を示す。砥粒埋め込み工程で使用した定盤および部材は図3で示したものと同じものを用いた。同じ条件で2枚の定盤を製作し、ローバーを研磨しながら、研磨速度が低下する途中で数回にわたり、平均切れ刃高さおよび切れ刃高さばらつきを測定した結果である。
【0037】
この図から明らかのように、砥粒2の平均切れ刃高さが大きい場合はその切れ刃高さばらつきも大きく、平均切れ刃高さの減少に伴って切れ刃高さばらつきが減少している。これは研磨作業あるいは研磨回数が進むにつれて被加工物であるローバーによって研磨定盤の表面から突き出したダイヤモンド砥粒2が押し込まれ、かつ全体の砥粒も押し込まれて沈み込んでいくことを意味している。即ち、従来の砥粒埋め込み方式とその定盤を用いた研磨方法では、砥粒を沈み込ませながら、切れ刃高さばらつきが減少してしまうため、産業上で利用可能な研磨定盤(砥粒の平均切れ刃高さが高く、かつ切れ刃高さばらつきが小さい定盤)を得ることが困難であることを示している。
【0038】
図8に、従来方式で砥粒を埋め込んだ後、砥粒掘り起こし処理と切れ刃高さ均一化処理を行った定盤の各工程における平均切れ刃高さと切れ刃高さばらつきを測定した結果を示す。砥粒の埋め込み工程と砥粒掘り起こし処理に使用した定盤および部材は図3で示したものと同じものを用いた。尚、砥粒掘り起こし処理は、0.8kPaの研磨パッドの押し込み圧力で30分間処理して、平均切れ刃高さが約5nm増加する条件で行った。また、刃先均一化処理は、砥粒掘り起こし処理後の定盤表面に砥粒を含まない研磨液(炭化水素系潤滑油)供給しながら、表面に粘着性を有するポリウレタンシートにて50mm×1mm×0.23mmのローバーを3本保持した外形φ140mmのコンディショニング治具を回転させながら149kPaの圧力で押圧し、20分間処理を行った。
【0039】
図8の結果から明らかのように、砥粒埋め込み工程後(従来の一般的な方法)に比べて、砥粒掘り起し処理を行うことによって砥粒2の平均切れ刃高さが約6.0nm増加し、更に続けて砥粒の切れ刃高さ均一化処理を行うことによって砥粒2の平均切れ刃高さが約2.5nm、切れ刃高さばらつきが約7.5nm減少している。砥粒埋め込み工程直後の段階で砥粒2の平均切れ刃高さ約25.0nm、その切れ刃高さばらつきが約14.8nmであった研磨定盤が、砥粒掘り起こし処理と切れ刃高さ均一化処理とを行うことによって、平均切れ刃高さが約28.5nm、切れ刃高さばらつきが約9.5nmなる定盤が得られ、その結果として研磨速度が速く、しかも研磨面の平坦性に優れた研磨加工が可能になった。
【0040】
次に、図9に上記した新しい方法で作製された研磨定盤を用いて薄膜磁気ヘッドの製造方法を説明する。Al-TiC(アルミナチタンカーバイト)等からなる4〜6インチサイズのウェハ(基板)上に、薄膜形成プロセスにより、膜厚2〜10μmのAl(アルミナ)等からなる絶縁層、再生素子および記録素子からなる磁気記録・再生素子、膜厚約50μmのAl(アルミナ)等からなる保護層を形成する(S21)。続いて、この基板を、ダイサー等を用いて2インチ程度の長さのローバーに切り出す(S22)。その後、ローバーの浮上面となる面を、回転する軟質金属系の定盤上にダイヤモンドなどの砥粒を含んだラップ液を滴下しながら、研磨治具に固定したローバーを押圧摺動させて研磨する、あるいは、次工程の仕上げ研磨より粒径の大きな砥粒を埋め込んだ定盤を用いて、砥粒を含まないラップ液を滴下しながら、同様に研磨する。この時、ローバーに備えられている磁気記録・再生素子の抵抗あるいはELG(Electric Lapping Guide)素子の抵抗を検知して、磁気抵抗素子の寸法が規格範囲に収めるように制御しながら行う(S23)。
【0041】
続いて、ローバーの浮上面となる面を、溝形成(S31)と砥粒埋め込み工程(S32)と砥粒掘り起こし処理(S33)と刃先均一化処理(S34)を行った定盤を用いて仕上げ研磨する(S24)。
【0042】
その後、研磨したローバーの浮上面となる面にDLC(Diamond−Like−Carbon)膜等の保護膜を形成(S25)した後、イオンミリング等により浮上レールを形成する(S26)。そして、ローバーからダイシングやワイヤソー等で個々の磁気記録・再生素子を含む小片(スライダー)を切断し(S27)、磁気ヘッドが完成する。
【0043】
尚、図9に示した工程図では磁気ヘッドの製造工程と研磨定盤の製造工程とを併記し、両者の製造工程を用いて磁気ヘッドが製造される形態を示しているが、研磨定盤の製造工程は磁気ヘッドの製造工程とは別に行われてもよい。要は磁気ヘッドの製造工程における仕上げ研磨工程(S24)で使用される研磨定盤が、研磨定盤の製造工程に示された手順に従って作製された研磨定盤であればよい。
【0044】
図9に示した製造工程に従って作製された磁気ヘッド浮上面の表面粗さと研磨速度との関係を図10(記号●参照)に示す。また、参考例として、本発明の処理(砥粒掘り起こし処理及び刃先均一化処理)を行わない従来の方法で作製された磁気ヘッドの場合を記号◇で示した。
【0045】
砥粒の埋め込み工程と砥粒掘り起こし処理および刃先均一化処理に使用した定盤および部材は図8で示したものと同じものを用いた。なお、研磨速度はローバー内の20箇所についてローバーに設けたELG素子の抵抗を研磨前後で測定し、その変化量と研磨時間から算出した。また、研磨圧力は160kPaの一定条件で、再生素子寸法の平均加工量が5nmになるように研磨を行った。
【0046】
浮上面の表面粗さは、原子力間顕微鏡を用いて、浮上面の再生素子を中心として5μm角の範囲を測定し、再生素子周辺の幅約5μm×高さ1μmの範囲の算術平均粗さRaを求めてこれを用いた。
【0047】
図10から明らかのように、従来方式で砥粒を埋め込んだ定盤で加工した場合(記号◇)に比べて、砥粒掘り起こし処理と切れ刃高さ均一化処理を行った定盤で加工した場合(記号●参照)の方が研磨速度の大きさによらず、総じて浮上面の表面粗さを低減させることが可能である。このことは図8における従来方法(記号○)と本発明(記号●)とで示した研磨定盤上の砥粒の状態を端的に表わしている。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上で説明したように、砥粒を埋め込んだ研磨定盤に対して更に砥粒掘り起こし処理及び砥粒切れ刃均一化処理を施した研磨定盤を用いることによって、浮上面の極めて平坦な磁気ヘッド素子を効率よく製造することが出来る。
【符号の説明】
【0049】
1…研磨定盤、2…ダイヤモンド砥粒(第1の砥粒)、3…不織布、4…ドレッシング治具、5…砥粒(第2の砥粒)、6…砥粒を含む研磨液、7…供給チューブ、8…凹み、9…砥粒を含まない研磨液、10…供給チューブ、11…セラミック基板、12…粘着性を有する弾性体、13…コンディショニング治具、Hc…砥粒埋め込み工程直後の平均切れ刃高さ、Vc…砥粒埋め込み工程直後の切れ刃高さばらつき、Hd…砥粒掘り起こし処理後の平均切れ刃高さ、Vd…砥粒掘り起こし処理後の切れ刃高さばらつき、Hu…切れ刃高さ均一化処理後の平均切れ刃高さ、Vu…切れ刃高さ均一化処理後の切れ刃高さばらつき、S21…ウエハ工程、S22…ローバー切り出し工程、S23…粗研磨工程、S24…仕上げ研磨工程、S25…保護膜形成工程、S26…浮上レール形成工程、S27…チップ切断工程、S31…溝形成工程、S32…砥粒埋め込み工程、S33…砥粒掘り起こし処理工程、S34…切れ刃高さ均一化処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面の研磨に用いる研磨定盤の製造方法であって、該研磨定盤の金属表面に対して第1の砥粒を押し込み固定した後、第2の砥粒を含む液体を前記第1の砥粒を固定した前記研磨定盤の金属表面に供給し、表面に凹凸を有する弾性体を用いて前記第1の砥粒周辺の金属表面を研磨加工する第1の砥粒掘り起こし工程を備えたことを特徴とする研磨定盤の製造方法。
【請求項2】
前記第1の砥粒掘り起こし工程の後に、前記第1の砥粒に対して砥粒の切れ刃高さを揃えるための切れ刃高さ処理工程を更に行うことを特徴とする請求項1記載の研磨定盤の製造方法。
【請求項3】
前記第2の砥粒の平均粒径が前記第1の砥粒の平均粒径に等しい、またはそれ以下であることを特徴とする請求項1記載の研磨定盤の製造方法。
【請求項4】
前記第1の砥粒がダイヤモンド砥粒であり、前記第2の砥粒がダイヤモンド、炭化ケイ素またはアルミナから選ばれた砥粒またはその混合物であることを特徴とする請求項1記載の研磨定盤の製造方法。
【請求項5】
前記弾性体がウレタン含浸不織布、発砲ポリウレタンまたはスエードから選ばれた部材であることを特徴とする請求項1記載の研磨定盤の製造方法。
【請求項6】
前記切れ刃高さ処理工程は、前記第1の砥粒にセラミック板を押し当てて行われることを特徴とする請求項2記載の研磨定盤の製造方法。
【請求項7】
基板上に複数の磁気記録素子及び磁気記録再生素子と保護層とを形成するステップと、前記基板を短冊片に切り出すステップと、前記短冊片の表面を研磨して浮上面を形成するステップと、前記短冊片から磁気記録素子及び磁気記録再生素子とを含む磁気ヘッドを切り出すステップとを備えた磁気ヘッドの製造方法であって、前記浮上面を形成するステップにおいて、研磨定盤に埋め込まれた砥粒に対して該砥粒の掘り起こし処理及び砥粒の切れ刃均一化処理のなされた研磨定盤に前記浮上面を押し当てて研磨加工を行うことを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−212752(P2011−212752A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80099(P2010−80099)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】