説明

研磨材

【課題】透明導電膜のスクラッチ等を抑制する。
【解決手段】研磨材は、ITOやFTO等の透明導電膜を加水分解可能な官能基を有する有機高分子化合物の微粒子で構成されている。官能基としては、アミノ基等のカチオン性基やカルボキシル基等のアニオン性基を採用でき、有機高分子化合物としては、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミドやポリスチレン等が好適である。研磨材は、少なくとも水を含む分散媒に分散して、遊離砥粒法による透明導電膜の化学機械研磨に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、透明導電膜の研磨に用いられる研磨材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ITO(インジウム酸化錫導電膜)やFTO(フッ素ドープ型酸化錫導電膜)に代表される透明導電膜は、可視光の透過率が非常に高く、高い導電性をもつため、液晶、有機ELや太陽電池の透明電極材料として不可欠な材料となっている。透明導電膜は、例えばスパッタリング法により基板を加熱しながら成膜され、基板表面に結晶粒が成長することで、最終的には数十ナノの凹凸を生じる。有機ELの場合、透明導電膜表面に大きな突起部が存在すると、この突起部に集中的に電流が流れることで、陽極と陰極との間でショートし、素子が発光しなくなることがある。有機ELや太陽電池のデバイス等の場合、透明導電膜の表面が凸凹であると、半導体層との接着強度が弱くなり、半導体層が不均一になるので、光電−電光変換効率が低下することがある。そのため、透明導電膜の平滑化制御は極めて重要である。
【0003】
そこで、透明導電膜を平滑化する方法としては、化学機械研磨(CMP)がある。化学機械研磨は、研磨対象物をキャリアで保持し、研磨布または研磨パッドを張った平板(ラップ)に押し付けて、硬質で微細な研磨材(砥粒)および化学成分を含んだ研磨液(スラリー)を流しながら、研磨対象物およびラップを相対運動させることで研磨を行う。これにより、研磨材の硬さによる機械的研磨作用によって研磨対象物を主に研磨するが、研磨液に含まれる化学成分によって機械的研磨作用を増大させることで、研磨対象物の平滑な研磨面を高速に得ている。このような化学機械研磨では、ダイヤモンド、コロイダルシリカ、セリア、ジルコニアなど無機系の硬質な微粒子が研磨材として用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、化学成分としては、酸やアルカリ等の研磨対象物の表面を改質する成分や界面活性剤等の研磨材の凝集を抑制する成分などが添加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−311652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の如く、研磨材は、研磨速度を優先するために硬質であることが一般的であるとされており、研磨材の硬さ故に、透明導電膜の研磨面の一部を深く傷付ける所謂スクラッチ、キャリヤやラップの回転時の微少な波打ちが研磨面に転写される所謂うねり等の研磨不良が生じることがある。しかも、無機系の研磨材によって透明導電膜を研磨すると、研磨前より研磨面の表面抵抗値が大きく上昇してしまい、有機ELやデバイス等の性能を低下してしまう問題も指摘される。
【0006】
しかも、無機系の研磨材は、透明導電膜に対する表面化学作用が弱い上に、凝集し易いので、酸やアルカリ等の表面改質成分や界面活性剤等の分散剤などの化学成分を添加して研磨液を調整する必要がある。そして、これらの化学成分は、被研磨体である透明導電膜に付着して、被研磨体の導電性の低下の原因になることがある。また、化学成分を研磨液から分離回収するのに手間がかかり、コストアップの要因の1つになっている。
【0007】
すなわち本発明は、従来の技術に係る研磨材に内在する前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、透明導電膜のスクラッチやうねり等の研磨不良を軽減できる研磨材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明の研磨材は、
少なくとも水を含む分散媒に分散して、遊離砥粒法による透明導電膜の化学機械研磨に用いられる研磨材であって、
前記透明導電膜を加水分解可能な官能基を有する有機高分子化合物の粒子から構成されることを特徴とする。
請求項1に係る発明によれば、有機高分子化合物の粒子がシリカ等の無機材料からなる研磨材と比べて柔らかいので、透明導電膜のスクラッチやうねり等の研磨不良を抑制しつつ、有機高分子化合物が有する官能基による透明導電膜に対する表面化学作用によって、無機材料からなる研磨材と同等またはそれ以上の透明導電膜の平滑性を達成できる。しかも、無機材料からなる研磨材と比べて研磨後の抵抗上昇を抑えることができる。また、研磨材自体の表面化学作用によって、透明導電膜を研磨するので、透明導電膜に対して表面化学作用を奏する酸や塩基等の助剤を分散媒から省略することができる。
【0009】
請求項2に係る発明では、前記官能基が、イオン性基であることを要旨とする。
請求項2に係る発明によれば、官能基としてイオン性基を有する有機高分子化合物によって、研磨液が塩基性または酸性に調整されるので、酸や塩基等の助剤を分散媒に加えなくても研磨環境を整えることができる。また、官能基をイオン性基とすることで、有機高分子化合物粒子が官能基同士で反発して凝集し難いので、界面活性剤等の研磨材の凝集を抑制する助剤を分散媒から省略することができる。
【0010】
請求項3に係る発明では、前記官能基を有する有機高分子化合物は、多座配位子であることを要旨とする。
請求項3に係る発明によれば、官能基によるキレート効果によって透明導電膜に対する表面化学作用が強くなり、透明導電膜をより好適に研磨することができる。また、透明導電膜の研磨屑は、官能基とキレート錯体を構成して研磨材に保持されるので、研磨屑の回収も容易になる。
【0011】
請求項4に係る発明では、前記有機高分子化合物の粒子は、表面に微細な孔を有することを要旨とする。
請求項4に係る発明によれば、有機高分子化合物粒子の表面の孔によって表面積が広がり、表面に存在する官能基が多くなるので、官能基による表面化学作用を向上することができる。
【0012】
請求項5に係る発明では、前記有機高分子化合物の粒子は、平均粒径が1μm〜100μmの範囲に設定されることを要旨とする。
請求項5に係る発明によれば、高分子化合物の平均粒径を上記範囲内に設定することで、透明導電膜の表面を適切に研磨できる。
【0013】
請求項6に係る発明では、前記有機高分子化合物に対して、前記官能基が0.1meq/g〜7.0meq/gの範囲で導入されることを要旨とする。
請求項6に係る発明によれば、官能基を上記範囲で有機高分子化合物粒子に導入することで、研磨速度と高分子化合物の柔軟性とのバランスを実用的な範囲にできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る研磨材によれば、透明導電膜のスクラッチやうねり等の研磨不良を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な実施例1および2に係る研磨材のモデル図である。
【図2】研磨実験に用いた研磨装置の概略説明図である。
【図3】実施例1の研磨材の走査型電子顕微鏡写真であって、(a)は製造例1−1を示し、(b)は製造例1−2を示し、(c)は製造例1−3を示し、(d)はジアミノ化する前の状態を示す。
【図4】実施例4に係る研磨材のモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る研磨材は、透明導電膜を加水分解可能な官能基を有する有機高分子化合物の粒子から構成される。すなわち、研磨材は、有機高分子化合物の粒子のみで構成され、シリカ等の無機化合物が該粒子に複合または混合等されるものではない。ここで、研磨材は、少なくとも水を含む液状の分散媒に分散した研磨液の状態で、インジウム錫酸化物(ITO)、フッ素ドープ型錫酸化物(FTO)あるいは酸化亜鉛系(ZnO,AZO,GZO)等からなる透明導電膜の遊離砥粒法による化学機械研磨(CMP)に好適に使用されるものである。なお、本発明に係る研磨材ならば、界面活性剤等の化学成分を必要とせず、分散媒として水だけで充分であるが、あえて添加するのであれば、カルボキル基が導入された粒子には、分散性をさらによくするためには、塩基性化合物を添加することもよい。また、アミノ基のような、カチオン性官能基を導入した粒子には、酸性化合物を添加することが挙げられる。何れにしても、無機系の研磨材を採用した場合と比べて、分散媒の化学成分を減らすことができる。
【0017】
本発明の研磨材を構成する有機高分子化合物としては、前述した透明導電膜を加水分解可能な官能基を導入できるものであればよく、ホモポリマーおよびコポリマーの何れであってもよい。また、有機高分子化合物は、ビニルポリマー、アクリルポリマーなど、付加重合体、ポリエステル等の縮合重合体などの合成高分子であっても、多糖類等の天然高分子であってもよい。合成高分子であれば、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリア(メタ)クリル酸エステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリア(メタ)クリルアミド、メラミン樹脂、ポリアミノ酸、シリコーン樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、フェノール樹脂、ポリブタジエン、ポリカルボン酸ビニル、ポリア(メタ)クリル酸、ポリエチレンイミン等を採用できる。また、天然高分子であれば、でんぷん、セルロース、キトサン、グルコマンナン、キチン、アルギン酸、タンパク質等を採用できる。
【0018】
前記有機高分子化合物は、ダイヤモンド、コロイダルシリカ、セリアまたはジルコニアなどの従来の研磨材に用いられる無機材料より高い柔軟性を有しているので、当該高分子粒子からなる研磨材についても、従来の研磨材と比べて柔軟性を備えている。また、有機高分子化合物の粒子は、柔軟性だけでなく、CMP工程においてキャリアと研磨パッドとの間に挟まれて圧力が加わっても砕けない程度の弾力性を有しているのが望ましい。このように、柔軟性、官能基の導入し易さ、粒径制御や球状等への粒子形状の調製等の観点から、合成高分子ならば、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミドまたはポリスチレンが有機高分子化合物として好ましい。また、天然高分子ならば、セルロース、デンプンまたはキトサンが有機高分子化合物として好ましい。
【0019】
前記有機高分子化合物の粒子は、円柱状、多角形や不定形であってもよいが、球状に形成するのが望ましい。また、有機高分子化合物の粒子は、その平均粒径を1μm〜100μmの範囲に設定するのが望ましい。研磨材は、粒子の平均粒径が1μm未満となると、該有機高分子化合物の柔軟性による機械的作用である緩衝効果を充分に得られず、粒子の平均粒径が100μmを越えると、その大きさ故に透明導電膜の微細な凹凸を充分に研磨できない。ここで、有機高分子化合物の粒子の平均粒径は、該粒子を吸水量以上の大過剰の水中に分散させて測定した値であって、マイクロスコープで得られた画像から画像処理装置によって体積平均粒径を算出したものである。なお、1μ以下のサイズの有機高分子化合物粒子は、光散乱法によって測定される。
【0020】
前記有機高分子化合物は、透明導電膜を加水分解可能な官能基を有し、研磨材は、分散媒に酸やアルカリ等の化学成分を包含しなくても、透明導電膜に対して単独で表面化学作用を及ぼすことができる。官能基としては、カチオン性またはアニオン性の何れのイオン性基を採用することができる。例えば、カチオン性基を有する有機高分子化合物の粒子を分散媒に分散することで、分散媒の環境を塩基性に変化させることができる。これに対して、アニオン性基を有する有機高分子化合物の粒子を分散媒に分散することで、分散媒の環境を酸性に変化させることができる。このように、イオン性基を有する有機高分子化合物の粒子からなる研磨材によれば、該有機高分子化合物によって研磨液が塩基性または酸性に調整されるので、酸や塩基等の助剤を分散媒に加えなくても研磨環境を整えることができる。そして、官能基としては、極性が同じイオン性基に揃えることで、有機高分子化合物粒子が官能基同士で反発して凝集し難いので、界面活性剤等の研磨材の凝集を抑制する助剤を分散媒から省略することができる。
【0021】
前記官能基は、カチオン性基であれば、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基または四級アンモニウムイオン等を選択することができ、アニオン性基であれば、カルボキシル基、スルホン酸基またはリン酸基等を選択することができる。有機高分子化合物の粒子は、水に親和することが好ましく、親和性を有することで分散媒に分散した際に、水によって膨潤し、柔軟性を向上させることができる。すなわち、官能基としてイオン性基を導入することで、その親水性によって水を高分子化合物の分子鎖に取り込めるようになるので、例えばポリアクリル酸エステル等の疎水性の高分子化合物を基体としても、導入したイオン性基によって研磨材は膨潤性を備えることになる。
【0022】
前記官能基としては、透明導電膜を構成する金属と錯体を形成するものが望ましい。なお、透明導電膜を構成する金属と錯体を形成する官能基(以下、特に区別する場合はキレート基という)としては、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、チオール基、スルホン酸基等を選択可能であり、この中でもアミノ基が好ましい。官能基としてキレート基を採用することで、官能基によるキレート効果によって透明導電膜に対する表面化学作用が強くなり、透明導電膜をより好適に研磨することができる。また、透明導電膜の研磨屑は、官能基とキレート錯体を構成して研磨材に保持されるので、研磨屑の回収も容易になる。更にはキレート基を有する有機高分子化合物が、多座配位子であるとよい。多座配位子によって生成される錯体は、キレーションによるエントロピー効果により単座の錯体よりも安定であるので、前述した表面化学作用がより強くなる。
【0023】
前記研磨材は、有機高分子化合物に対して官能基が0.1meq/g〜7.0meq/gの範囲で、より好ましくは1.5meq/g〜6.5meq/gの範囲で導入される。ここで、官能基の導入量が0.1meq/gより小さいと、得られる研磨材による化学表面作用が弱く、工業的な実用性に難がある。一方、官能基の導入量が7.0meq/gを越えると、研磨材の膨潤度が高くなり、柔軟になり過ぎてしまい、研磨時の緩衝作用が低下する不都合がある。
【0024】
前記有機高分子化合物の粒子には、表面に微細な孔が形成される。この孔は、原子サイズレベルのミクロポアから、2nm〜10nm程度のメソポア、それ以上のマクロポアを指し、そのサイズは、有機高分子化合物を微粒子化する際の多孔化剤によって制御することができる。粒子の表面は、孔によって表面積が広がり、透明導電膜を加水分解可能な官能基が表面に存在する割合が多くなる。このため、有機高分子化合物の官能基が透明導電膜および溶出した金属イオンと接触する機会が多くなり、有機高分子化合物の官能基による金属イオンの化学的な吸着等の化学表面作用がより働くことになる。
【0025】
本発明に係る研磨材によれば、高分子化合物がシリカ等の無機材料からなる研磨材と比べて柔らかいので、研磨時の機械的作用を緩衝することができ、透明導電膜のスクラッチやうねり等の研磨不良を抑制しつつ、高分子化合物が有する官能基による透明導電膜に対する表面化学作用によって、無機材料からなる研磨材と同等またはそれ以上の透明導電膜の平滑性を達成できる。しかも、無機材料からなる研磨材と比べて、研磨後の透明導電膜の抵抗の上昇を抑えることができる。また、研磨材自体の表面化学作用によって、透明導電膜を研磨するので、透明導電膜に対して表面化学作用を奏する酸や塩基等の助剤を分散媒から省略することができる。更に、研磨材は、基体となる有機高分子化合物が柔らかいので、分散媒に溶解せずに発生する研磨屑が有機高分子化合物の表面に食い込んでくっつく物理的な吸着作用があり、研磨屑によるスクラッチの発生等を防止することができる。
【実施例】
【0026】
(実施例1および2)
実施例1および実施例2では、官能基としてアミノ基を導入したアクリル酸系の有機高分子化合物の粒子からなる研磨材について説明する。実施例1および2の研磨材は、ポリアクリル酸エステルに対して官能基としてアミノ基を導入したカチオン性ポリマービーズである。図1に示すモデル図のように、実施例1および実施例2の研磨材を構成するカチオン性ポリマーは、多座配位子であり、透明導電膜を構成する金属(インジウムイオン:In3+)と配位結合してキレート錯体を形成するようになっている。なお、図1に示すRは、アルキレン基等の二価の脂肪族炭化水素基、またはフェニレン基等の二価の芳香族炭化水素基から選択される。
【0027】
実施例1の研磨材は、ポリアクリル酸エステルの球状粒子に、エチレンジアミンによるアミノリシス反応によってアミノ基を導入した球状微粒子で構成される。ここで、実施例1では、アミノリシス反応を行う反応時間を調節することで、製造例1−1の研磨材(PMA−24)、製造例1−2の研磨材(PMA−48)および製造例1−3の研磨材(PMA−96)を製造した。なお、実施例1の研磨材の製造に用いられる試薬は、以下の通りである。
・ポリアクリル酸エステル:積水化成品工業株式会社製、ARX-15(平均粒径15μm)
・エチレンジアミン:ナカライテスク株式会社製、15020-35
【0028】
実施例1の研磨材は、以下のように製造される。300mlの三ツ口フラスコにポリアクリル酸エステル(製造例1−1:20.12g、製造例1−2:20.00g、製造例1−3:20.10g)を入れ、次にエチレンジアミン150mlを加え、混合液の温度が90℃になるまでオイルバスを用いて加熱する。混合液が90℃になったら、かきまぜ棒、スリーワンモーター、オイルバスおよび還流冷却器を用いて、液温90℃で、回転速度100rpmの条件で所定の反応時間に亘ってかき混ぜる。所定の反応時間経過後、水で濾液のpHが7に近くなるまで洗浄し、凍結乾燥させて粒子を回収することで、エチレンジアミノ化されたポリアクリル酸エステルの球状微粒子からなる製造例1−1〜1−3の研磨材が得られる。ここで、製造例1−1は、反応時間を24時間に設定し、製造例1−2は、反応時間を48時間に設定し、製造例1−3は、反応時間を96時間に設定した。
【0029】
実施例2の研磨材は、反応溶媒の存在下でポリアクリル酸エステルの球状粒子に、エチレンジアミンによるアミノリシス反応によってアミノ基を導入した球状微粒子で構成される。ここで、実施例2では、使用する反応溶媒を変更することで、製造例2−1の研磨材および製造例2−2の研磨材を製造した。実施例2の研磨材の製造に用いられる試薬は、以下の通りである。
・ポリアクリル酸エステル:積水化成品工業株式会社製、ARX-15(平均粒径15μm)
・エチレンジアミン:ナカライテスク株式会社製、15020-35
・メタノール:ナカライテスク株式会社製、21915-64
・テトラヒドロフラン(THF):ナカライテスク株式会社製、33125-31
・ジエチルエーテル:和光純薬工業株式会社製、053-01151
【0030】
実施例2の研磨材は、以下のように製造される。製造例2−1では、300ml三ツ口フラスコにポリアクリル酸エステル10.22gを入れ、次にメタノール25mlを加え、混合液の温度が60℃になるまでウォーターバスを用いて加熱する。60℃になったら、エチレンジアミン75mlを加え、かきまぜ棒、スリーワンモーター、ウォーターバス、還流冷却器を用いて、液温60℃、回転速度100rpmの条件で24時間かき混ぜる。24時間後、水で濾液のpHが7に近くなるまで洗浄し、その後、メタノール20mlで5回、ジエチルエーテル20mlで5回洗浄し、減圧乾燥することで、製造例2−1に係る微粒子を回収する。
【0031】
製造例2−2では、300ml三ツ口フラスコにポリアクリル酸エステル10.04gを入れ、次にTHF37.5mlを加え、混合液の温度が66℃になるまでウォーターバスを用いて加熱する。66℃になったら、エチレンジアミン112.5mlを加え、かきまぜ棒、スリーワンモーター、ウォーターバス、還流冷却器を用いて、液温66℃、回転速度100rpmの条件で24時間かき混ぜる。24時間後、水で濾液のpHが7に近くなるまで洗浄し、その後、メタノール20mlで5回、ジエチルエーテル20mlで5回洗浄し、減圧乾燥することで、製造例2−2に係る微粒子を回収する。
【0032】
実施例1および2の研磨材について、逆滴定によりアミノ基の導入量を算出した。その結果を以下の表1に示す。なお、逆滴定は、製造例1−1〜1−3、製造例2−1,2−2に係る研磨材の夫々について以下のように行った。試料0.1gを100mlの三角フラスコに入れ、0.01Mの塩酸50mlを加え、撹拌子とスターラーとを用いて1時間かき混ぜる。三角フラスコ内を水で洗浄しながら濾過し、100mlにメスアップする。そして、三角フラスコからホールピペットで20ml採取し、0.01Mの水酸化ナトリウム水溶液で滴定する。なお、官能基の導入量(meq/g)は、次式で求める。
【数1】

【0033】
実施例1および2の研磨材について、水の含み易さを示す膨潤度を求めた。その結果を表1に示す。なお、膨潤度は、以下の方法で算出した。製造例1−1〜1−3および2−1,2−2の夫々について、粒子0.3gを10mlのメスシリンダーに入れ、水5mlを加える。研磨材を水に浸積させるために、アスピレーターを用いて2時間脱気し、脱気後、30℃の水浴中で24時間放置する。24時間放置した後、研磨材の体積を測定し、以下の式で膨潤度を算出する。
【数2】

【0034】
次に、実施例1および2の研磨材を用いて、透明導電膜の研磨実験を行った。研磨実験では、図2に概略的に示す化学機械研磨装置(LAPOLISH 15(LAPMASTER SFT CORP.製))10を用いた。研磨装置10は、モータによって公転するグラナイト定盤12の上に研磨パッド(LAM PLAN)14がセットされ、自転するキャリア16に保持された透明導電膜(ITO薄膜基板:ジオマテック株式会社製 膜厚330〜360nm、5cm×5cm)20を2200gの重り18で研磨パッド14に押し付けるようになっている。そして、実施例1および2の研磨材を含む研磨液Sおよび水性潤滑液(日本エンギス株式会社製:S-4889)を研磨パッド14上に流しながら、キャリア16およびグラナイト定盤12を回転数60rpmで4分間回転することで、透明導電膜20の研磨を行った。なお、研磨液Sは、2.0ml/minの条件で供給し、水性潤滑液は、1.5ml/minの条件で供給している。また、比較対象として、研磨材として平均粒径20nmのコロイダルシリカ(触媒化成工業株式会社製:SI-40)を用いた比較例1と、研磨材として平均粒径80nmのコロイダルシリカ(バイコウスキージャパン株式会社製:S080C)を用いた比較例2とについても、実施例1と同じ条件で使用した。なお、研磨液Sには、実施例1、比較例1および2の研磨材を水性潤滑剤(日本エンギス株式会社製:S-4889)に対して4wt%配合している。更に、研磨液に研磨材を入れない条件(比較例3)についても検証した。
【0035】
実施例1、実施例2、比較例1〜3の研磨材で研磨した透明導電膜の夫々について、原子間力顕微鏡(AFM:ビーコ・インスツルメンツ社製、Innova SPM)で観察し、併せて算術表面粗さRaおよび最大高さRmaxを算出した。また、実施例1、実施例2、比較例1〜3で研磨した透明導電膜の夫々について、三菱化学アナリテックの「抵抗率計・ロレスタGP」を用いた四端子法によって表面抵抗値を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示すように、製造例1−1〜1−3および2−1,2−2を対比すると、アミノリシス反応を行う反応時間が長くなるにつれて、ポリアクリル酸エステルへのアミノ基の導入量が増え、エチレンジアミン化が進行することが確認できる。そして、膨潤度測定の結果から判るように、アミノ基の導入量が増えるにつれて、研磨材は膨潤し易くなる傾向がある。製造例1−1,2−1および2−2の研磨材は、乾燥時と膨潤時とを比較しても粒径はほぼ変わらないが、製造例1−2および1−3は、膨潤時が乾燥時に比べて、粒径が大きくなる。すなわち、ポリアクリル酸エステルへのアミノ基の導入量が多い程、得られる研磨材は柔軟になる。
【0038】
図3は、走査型電子顕微鏡(商品名:S−4000;日立ハイテクノロジーズ株式会社製)により倍率5000倍で撮像した写真を示している。これによれば、製造例1−1〜1−3の研磨材は、エチレンジアミノ化する前のポリアクリル酸エステルの粒子と変わらずに球状形状であり、 エチレンジアミノ化反応が進行しても、球状を保ったままであることが確認できる。
【0039】
表1に示すように、実施例1(製造例1−1〜1−3)および実施例2(製造例2−1,2−2)の研磨材で研磨した透明導電膜の表面状態は、参考例に示す研磨前の状態より平滑になっている。また、製造例1−1〜1−3の研磨材は、同一の研磨条件で比較例1と同等の表面粗さRaおよび最大高さRmaxを達成できることが確認できる。比較例2では、最大高さRmaxが研磨前の状態より大きくなっており、スクラッチが生じていると考えられるが、製造例1−1〜1−3および2−2の研磨材により研磨した透明導電膜は、このようなスクラッチが生じていないことが、最大高さRmaxの値より確認できる。そして、製造例1−1〜1−3および2−2を比較すると、アミノ基の導入量が多くなるほど、透明導電膜の平滑化が進行している。すなわち、アミノ基の導入量が多くなるにつれて、透明導電膜とアミノ基との間で化学的作用が生じる機会が多くなると共に、前述の如く柔軟性が増して緩衝作用が高くなる。このように、製造例1−1〜1−3および2−2の研磨材によれば、スクラッチ等の研磨不良を起こすことなく、透明導電膜をコロイダルシリカと同等以上に平滑化することができる。
【0040】
表1に示すように、製造例1−1〜1−3および2−1,2−2で研磨した透明導電膜は、比較例1および2と比べて、研磨前の透明導電膜からの表面抵抗値の上昇が小さく、表面抵抗値をあまり上げずに平滑化が進行していることがわかる。
【0041】
(実施例3)
実施例3の研磨材は、官能基としてアミノ基を導入したセルロースの球状粒子から構成される。セルロースの球状粒子の製造方法としては、ビスコース相分離法や、アンモニアおよび銅の双方を錯体としてセルロースに配位結合させる銅アンモニア法や、セルロースをロダン金属塩水溶液に溶解させる方法等が挙げられるが、粒子表面の孔径等を調節し易いビスコース相分離法が好適である。実施例3では、以下のようにアミノ基を導入することで、アミノ化セルロースからなる製造例3−1〜3−4の研磨材を製造している。
実施例3の研磨材の製造に用いられる試薬は、以下の通りである。
・セルロース(50μm):株式会社興人製、D-50
・水酸化ナトリウム:和光純薬工業株式会社製、193-02127
・エピクロルヒドリン:和光純薬工業株式会社製、056-00166
・ジメチルスルホキシド:ナカライテスク株式会社製、13406-55
・アセトン:和光純薬工業株式会社製、014-00347
・28%アンモニア水:和光純薬工業株式会社製、016-03146
・エポキシセルロファイン:チッソ株式会社製
・メタノール:ナカライテスク株式会社製、21915-64
・ジエチルエーテル:和光純薬工業株式会社製、053-01151
・エチレンジアミン:ナカライテスク株式会社製、15020-35
【0042】
製造例3−1の研磨材は、以下のように製造される。500mlの三ツ口フラスコにセルロース5.0g、水酸化ナトリウム11.1g、水200mlを加え、かきまぜ棒、スリーワンモーター、ウォーターバスを用いて、液温60℃、回転速度100rpmの条件で1時間かき混ぜる。混合液にエピクロルヒドリンを10.8ml添加し、液温30℃、回転速度100rpmの条件で2時間かき混ぜる。2時間かき混ぜた後、反応液をガラスフィルターに移し、水洗、吸引濾過してエポキシ化セルロース粒子を採取し、凍結乾燥を経て回収する。500mlのビーカーに28%アンモニア水200mlを入れて、そこに前記エポキシ化セルロースを3.0g添加し、かきまぜ棒、スリーワンモーターを用いて、室温、回転速度100rpmの条件で2時間かき混ぜる。2時間後、反応液をガラスフィルターに移し、水洗、吸引濾過してアミノ化セルロース粒子を採取し、凍結乾燥を経て回収する。
【0043】
製造例3−2の研磨材は、以下のように製造される。500mlのビーカーに28%アンモニア水200mlを入れて、そこに前記エポキシ化セルロースを0.74g添加し、かきまぜ棒、スリーワンモーターを用いて、室温、回転速度100rpmの条件で5時間かき混ぜる。5時間後、反応液をガラスフィルターに移し、水洗、吸引濾過してアミノ化セルロース粒子を採取し、凍結乾燥を経て回収する。
【0044】
製造例3−3の研磨材は、以下のように製造される。イソプロピルアルコール中に分散しているエポキシセルロファイン(エポキシ化セルロース)を分散液ごとビーカーに移し、20g量り取る。量り取った分散液をガラスフィルターに移し、水気を含んだスラリー状を維持するように、50mlの水で5回洗浄した。スラリー状のエポキシセルロファイン粒子を、含水率からエポキシセルロファインが3g含まれる量採取し、200mlアンモニア水中に入れ、かきまぜ棒、スリーワンモーターを用いて、室温、回転速度100rpmの条件で5時間かき混ぜる。5時間後、反応液をガラスフィルターに移し、水洗、吸引濾過してアミノ化セルロース粒子を採取し、凍結乾燥を経て回収する。
【0045】
製造例3−4の研磨材は、以下のように製造される。イソプロピルアルコール中に分散しているエポキシセルロファイン(エポキシ化セルロース)を分散液ごとビーカーに移し、60g量り取る。量り取った分散液をガラスフィルターに移し、水気を含んだスラリー状を維持するように、50mlのアセトンで5回洗浄した。スラリー状のエポキシセルロファイン粒子を、含アセトン率からエポキシセルロファインが2g含まれる量採取し、50mlエチレンジアミン中に入れ、かきまぜ棒、スリーワンモーター、還流冷却器、ウォーターバスを用いて、液温35℃、回転速度100rpmの条件で5時間かき混ぜる。5時間後、反応液をガラスフィルターに移し、水洗,吸引濾過してアミノ化セルロース粒子を採取し、凍結乾燥を経て回収する。
【0046】
前述のように製造した製造例3−1〜3−4の研磨材につき、実施例1と同様に逆滴定によってアミノ基の導入量を算出した。その結果を以下の表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
(実施例4)
図4に示すモデル図のように、実施例4の研磨材は、官能基としてカルボキシル基を導入したアニオン系ポリマービーズであって、有機高分子化合物としてポリアクリル酸エステルが採用されている。なお、図4に示すRは、アルキレン基等の二価の脂肪族炭化水素基、またはフェニレン基等の二価の芳香族炭化水素基から選択される。実施例4の研磨材は、以下のように製造される。1000mlのセパラブルフラスコに水酸化ナトリウム37.4g、水262.6gを入れ、60℃まで昇温する。60℃になったら、アセトン100ml、ポリアクリル酸エステルを40.0153g加えて、かきまぜ棒、スリーワンモーター、ウォーターバス、還流冷却器を用いて、液温60℃、回転数500rpmの条件で6時間かき混ぜる。6時間後、純水で濾液のpHが7になるまで洗浄を繰り返す。最後に、回収した粒子を0.1M塩酸500ml中に入れ、回転速度100rpmで4時間かき混ぜた後、純水で濾液のpHが7になるまで洗浄を繰り返し、カルボキシル化されたポリアクリル酸エステルの微粒子を凍結乾燥して回収する。実施例4の微粒子におけるカルボキシル基の導入量は、0.213meq/gであり、これを用いて実施例1と同じ条件で研磨したITO薄膜の表面粗さRaは、2.78nm、最大高さRmaxは、26.9nmであった。
【0049】
(変更例)
実施例の構成に限定されず、以下のように変更することも可能である。
(1)高分子微粒子をアミノ化等することで官能基を導入する例を説明したが、これに限定されず、アミノ基等の官能基を有するモノマーを懸濁重合等によってポリマー微粒子化することで、官能基を有する有機高分子化合物の粒子を生成してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水を含む分散媒に分散して、遊離砥粒法による透明導電膜の化学機械研磨に用いられる研磨材であって、
前記透明導電膜を加水分解可能な官能基を有する有機高分子化合物の粒子から構成される
ことを特徴とする研磨材。
【請求項2】
前記官能基は、イオン性基である請求項1記載の研磨材。
【請求項3】
前記官能基を有する有機高分子化合物は、多座配位子である請求項1または2記載の研磨材。
【請求項4】
前記有機高分子化合物の粒子は、表面に微細な孔を有する請求項1〜3の何れか一項に記載の研磨材。
【請求項5】
前記有機高分子化合物の粒子は、平均粒径が1μm〜100μmの範囲に設定される請求項1〜4の何れか一項に記載の研磨材。
【請求項6】
前記有機高分子化合物に対して、前記官能基が0.1meq/g〜7.0meq/gの範囲で導入される請求項1〜5の何れか一項に記載の研磨材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−56073(P2012−56073A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204842(P2010−204842)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月30日 社団法人応用物理学会発行の「2010年秋季<第71回>応用物理学会学術講演会[講演予稿集](DVD−ROM)」に発表
【出願人】(591202155)熊本県 (17)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(506350252)西日本長瀬株式会社 (8)
【Fターム(参考)】