説明

研磨液及びこの研磨液を用いた基板の研磨方法

【課題】 基板の表面に形成された被研磨膜を研磨するCMP技術において、被研磨膜の酸化珪素と窒化珪素の研磨速度比を向上させることが可能な研磨液及びこの研磨液を用いた基板の研磨方法を提供する。
【解決手段】 酸化セリウム粒子と、ヒドロキシ酸化合物及び/又はその塩と、水とを含有する研磨液。被研磨膜が形成された基板の被研磨膜を研磨定盤の研磨布に押圧した状態で、酸化セリウム粒子と、ヒドロキシ酸化合物及び/又はその塩と、水とを含有する研磨液を被研磨膜と研磨布との間に供給しながら、基板と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨膜を研磨する研磨方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨液及びこの研磨液を用いた基板の研磨方法に関する。より詳細には、本発明は、半導体素子製造技術である、基板表面の平坦化工程、特に、層間絶縁膜、BPSG膜(ボロン、リンをドープした二酸化珪素膜)の平坦化工程、シャロートレンチ分離(以下、「STI」という。)の形成工程等において使用される、研磨液及びこの研磨液を用いた基板の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のULSI半導体素子製造工程では、半導体素子の高密度・微細化のための加工技術が研究開発されている。その加工技術の一つであるCMP(ケミカルメカニカルポリッシング:化学機械研磨)技術は、半導体素子製造工程において、層間絶縁膜の平坦化、STI形成、プラグ及び埋め込み金属配線形成等を行う際に、必須の技術となってきている。
【0003】
従来、半導体素子製造工程において、酸化珪素膜等の無機絶縁膜はプラズマ−CVD(化学気相成長)、低圧−CVD(化学気相成長)等の方法で形成されている。この無機絶縁膜を平坦化するための化学機械研磨液として、フュームドシリカ系の研磨液を用いることが一般的に検討されている。フュームドシリカ系の研磨液は、四塩化珪素を熱分解する等の方法で粒成長させて得られた粒子が配合されたスラリのpHを調整することによって製造される。但し、この様なフュームドシリカ系の研磨液は、研磨速度が低いという技術課題がある。
【0004】
また、デザインルール0.25μm以降の世代では、集積回路内の素子分離にSTIが用いられている。STIでは、基板上に成膜した余分な酸化珪素膜を取り除くためにCMP技術が使用される。この場合、任意の深さにて研磨を停止させるために、酸化珪素膜の下に研磨速度の低いストッパ膜が形成される。ストッパ膜には、窒化珪素膜等が使用される。余分な酸化珪素膜を効率的に取り除くとともに、その後の研磨の進行を充分に抑制するには、酸化珪素膜とストッパ膜との研磨速度比が大きいことが望ましい。しかし、従来のコロイダルシリカ系の研磨液は、酸化珪素膜とストッパ膜との研磨速度比が3程度と小さく、STI用としては実用に耐える特性を有していない。
【0005】
一方、フォトマスクやレンズ等のガラス表面に対する研磨液として、酸化セリウム粒子を含む酸化セリウム研磨液が用いられている。酸化セリウム粒子は、シリカ粒子やアルミナ粒子に比べ硬度が低く、研磨に際し研磨表面に傷が入りにくいことから、仕上げ鏡面研磨に有用である。また、酸化セリウム研磨液は、フュームドシリカ系やコロイダルシリカ系等のシリカ研磨液に比べ、研磨速度が速い利点がある。
【0006】
酸化セリウム研磨液として、下記特許文献1には、高純度酸化セリウム砥粒を用いた半導体用CMP研磨液が記載されている。また、下記特許文献2には、酸化セリウム研磨液の研磨速度を制御し、グローバルな平坦性を向上させるために添加剤を加える技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−106994号公報
【特許文献2】特許第3278532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、配線やSTIのデザインルールの微細化の進展に伴い、上記のような酸化セリウム研磨液に対して更なる平坦性の向上が求められている。そのためには、酸化珪素膜とストッパ膜である窒化珪素膜の研磨速度差を大きくすることが求められている。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、基板の表面に形成された被研磨膜を研磨するCMP技術において、被研磨膜である酸化珪素膜とストッパ膜である窒化珪素膜の研磨速度差を大きく向上させることが可能な研磨液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、酸化セリウム粒子と、ヒドロキシ酸化合物及びヒドロキシ酸化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤と、水とを含有してなる研磨液を提供する。
【0011】
本発明の研磨液によれば、基板の表面に形成された被研磨膜(STI膜)を研磨するCMP技術において、被研磨膜である酸化珪素膜とストッパ膜である窒化珪素膜の研磨速度差を向上させることができる。
【0012】
本発明の研磨液は、ヒドロキシ酸化合物としてリンゴ酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸、酒石酸、サリチル酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。この場合、被研磨膜である酸化珪素膜とストッパ膜である窒化珪素膜の研磨速度差を更に向上させることができる。
【0013】
なお、前記ヒドロキシ酸におけるヒドロキシル基は、フェノール性のヒドロキシル基ではないことが好ましい。
【0014】
ヒドロキシ酸化合物の含有量は、研磨液全質量基準で0.0001〜5質量%であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の研磨液は、アルコール化合物を含有しないことが好ましい。
【0016】
本発明の研磨液は、酸化セリウム粒子及び水を含む第1の液と、添加剤及び水を含む第2の液とに構成成分を分けた二液式研磨液として保存してもよい。
【0017】
また、本発明は、被研磨膜が形成された基板の該被研磨膜を研磨定盤の研磨布に押圧した状態で、本発明の研磨液を被研磨膜と研磨布との間に供給しながら、基板と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨膜を研磨する、基板の研磨方法を提供する。
【0018】
本発明の基板の研磨方法によれば、本発明の研磨液を用いることにより、基板の表面に形成された被研磨膜(例えばSTI膜)を研磨するCMP技術において、被研磨膜である酸化珪素膜とストッパ膜である窒化珪素膜の研磨速度差を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基板の表面に形成された被研磨膜(例えばSTI膜)を研磨するCMP技術において、被研磨膜である酸化珪素膜とストッパ膜である窒化珪素膜の研磨速度差を向上させることが可能な研磨液及びこの研磨液を用いた基板の研磨方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明に係る研磨液は、酸化セリウム粒子と、添加剤と、水とを含有する。以下、本発明に係る研磨液に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0021】
(酸化セリウム粒子)
酸化セリウム粒子としては、特に制限はなく、公知のものを使用することができる。一般に酸化セリウムは、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、しゅう酸塩等のセリウム化合物を酸化することによって得られる。酸化セリウム粒子を作製する方法としては、焼成又は過酸化水素等による酸化法が挙げられる。
【0022】
テトラエトキシシラン(以下、「TEOS」という。)をSi源に用いるTEOS−CVD法等で形成される酸化珪素膜の研磨に酸化セリウム粒子を使用する場合、酸化セリウム粒子の結晶子径(結晶子の直径)が大きく、かつ結晶歪みが少ない程、即ち結晶性が良い程、高速研磨が可能であるが、被研磨膜に研磨傷が入りやすい傾向がある。このような観点から、酸化セリウム粒子は、2個以上の結晶子から構成され、結晶粒界を有する粒子が好ましく、結晶子径が5〜300nmである粒子がより好ましい。
【0023】
酸化セリウム粒子中のアルカリ金属及びハロゲン類の含有率は、半導体素子の製造に係る研磨に好適に用いられることから、10ppm以下であることが好ましい。
【0024】
酸化セリウム粒子の平均粒径は、1〜500nmであることが好ましく、1〜400nmであることがより好ましく、1〜300nmであることが更に好ましい。酸化セリウム粒子の平均粒径が1nm以上であれば、良好な研磨速度が得られる傾向があり、500nm以下であれば、被研磨膜に傷がつきにくくなる傾向がある。
【0025】
ここで、酸化セリウム粒子の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布計(例えばMalvern社製、商品名:Master Sizer Microplus、屈折率:1.93、光源:He−Neレーザ、吸収0)で測定したD50の値(体積分布のメジアン径、累積中央値)を意味する。平均粒径の測定には、適切な濃度(例えば、He−Neレーザに対する測定時透過率(H)が60〜70%となる濃度)に研磨液を希釈したサンプルを用いる。また、酸化セリウム研磨液が、後述するように酸化セリウム粒子を水に分散させた酸化セリウムスラリと、添加剤を水に溶解させた添加液とに分けて保存されている場合は、酸化セリウムスラリを適切な濃度に希釈して測定することができる。
【0026】
酸化セリウム粒子の含有量は、研磨液全質量基準で0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.5〜1.5質量%が更に好ましい。酸化セリウム粒子の含有量が0.1質量%以上であれば、良好な研磨速度が得られる傾向があり、20質量%以下であれば、粒子の凝集が抑制されて被研磨膜に傷がつきにくくなる傾向がある。
【0027】
(添加剤)
[ヒドロキシ酸化合物]
本発明に係る研磨液は、添加剤としてヒドロキシ酸化合物及び/又はその塩を含有する。これにより、被研磨膜である酸化珪素膜とストッパ膜である窒化珪素膜の研磨速度差を向上させることができる。この効果は、ヒドロキシ酸化合物と酸化セリウム粒子とを併用することにより、より効率的に得られる。
【0028】
ヒドロキシ酸化合物とは、アルコール性水酸基とカルボキシル基をいずれも少なくとも1個有する化合物である。このような化合物としては、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸、酒石酸、サリチル酸からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。これらは1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
ヒドロキシ酸化合物及び/又はその塩の含有量は、研磨液全質量基準で0.0001〜5質量%が好ましく、0.001〜2質量%がより好ましい。ヒドロキシ酸化合物の含有量が0.0001質量%以上であれば、酸化珪素膜と窒化珪素膜研磨速度差を容易に向上できる傾向があり、5質量%以下であれば、被研磨膜の研磨速度差が更に向上する傾向がある。
【0030】
[その他の添加剤]
本発明に係る研磨液には、ヒドロキシ酸化合物及びその塩とは別の添加剤として水溶性高分子を使用することができる。このような水溶性高分子としては、例えば、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、寒天、カードラン及びプルラン等の多糖類;ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリリンゴ酸、ポリアミド酸、ポリアミド酸アンモニウム塩、ポリアミド酸ナトリウム塩及びポリグリオキシル酸等のポリカルボン酸及びその塩;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリアクロレイン等のビニル系ポリマー等が挙げられる。
【0031】
これら水溶性高分子の重量平均分子量は、500以上が好ましい。なお、重量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography:ゲル浸透クロマトグラフィー)で測定し、標準ポリオキシエチレン換算した値である。また、これら水溶性高分子の含有量は、研磨液全質量基準で0.01〜5質量%が好ましい。
【0032】
(水)
水としては、特に制限されないが、脱イオン水、イオン交換水、超純水等が好ましい。水の含有量は、上記各含有成分の含有量の残部でよく、研磨液中に含有されていれば特に限定されない。なお、研磨液は、必要に応じて水以外の溶媒、例えばエタノール、酢酸、アセトン等の極性溶媒等を更に含有してもよい。
【0033】
(分散剤)
本発明に係る研磨液には、酸化セリウム粒子を分散させるための分散剤を用いることができる。分散剤としては、例えば、水溶性陰イオン性分散剤、水溶性非イオン性分散剤、水溶性陽イオン性分散剤、水溶性両性分散剤等が挙げられ、中でも、水溶性陰イオン性分散剤が好ましい。これらは、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
水溶性陰イオン性分散剤としては、共重合成分としてアクリル酸を含む高分子及びその塩が好ましく、当該高分子の塩がより好ましい。共重合成分としてアクリル酸を含む高分子及びその塩としては、例えば、ポリアクリル酸及びそのアンモニウム塩、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体及びそのアンモニウム塩、並びに、アクリル酸アミドとアクリル酸との共重合体及びそのアンモニウム塩等が挙げられる。
【0035】
その他の水溶性陰イオン性分散剤としては、例えば、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、特殊ポリカルボン酸型高分子分散剤等が挙げられる。
【0036】
また、水溶性非イオン性分散剤としては、例えば、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0037】
水溶性陽イオン性分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。
【0038】
水溶性両性分散剤としては、例えば、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0039】
分散剤の含有量は、酸化セリウム粒子の分散性を向上させて沈降を抑制し、被研磨膜の研磨傷を更に減らす観点から、研磨液全質量基準で0.01〜10質量%の範囲が好ましい。
【0040】
分散剤の重量平均分子量は、特に制限はないが、100〜150000が好ましく、1000〜20000がより好ましい。分散剤の分子量が100以上であれば、酸化珪素膜又は窒化珪素膜等の被研磨膜を研磨するときに、良好な研磨速度が得られやすい傾向がある。分散剤の重量平均分子量が150000以下であれば、研磨液の保存安定性が低下しにくい傾向がある。なお、重量平均分子量は、GPCで測定し、標準ポリオキシエチレン換算した値である。
【0041】
本発明に係る研磨液を半導体素子の製造における研磨に使用する場合には、分散剤中のナトリウムイオン等のアルカリ金属、及びハロゲン、イオウの含有率は、10ppm以下であることが好ましい。
【0042】
(研磨液の調製・保存・研磨方法)
本発明に係る研磨液は、例えば、酸化セリウム粒子と水とを配合して粒子を分散させ、更にヒドロキシ酸化合物を添加することによって得られる。本発明に係る研磨液は、酸化セリウム粒子、ヒドロキシ酸化合物、水、及び、任意に水溶性高分子を含む一液式研磨液として保存してもよく、酸化セリウム粒子及び水を含む酸化セリウムスラリ(第1の液)と、ヒドロキシ酸化合物及び水を含む添加液(第2の液)とに構成成分を分けた二液式研磨液として保存してもよい。
【0043】
なお、二液式研磨液の場合は、分散剤は酸化セリウムスラリに含まれることが好ましい。ヒドロキシ酸化合物以外の添加剤は、酸化セリウムスラリと添加液のいずれに含まれてもよいが、酸化セリウム粒子の分散安定性に影響がない点で、添加液に含まれることが好ましい。
【0044】
酸化セリウムスラリと添加液とを分けた二液式研磨液として保存する場合、これら二液の配合を任意に変えることにより平坦化特性と研磨速度の調整が可能となる。二液式研磨液を用いて研磨する場合、酸化セリウムスラリ及び添加液をそれぞれ別の配管で送液し、これらの配管を供給配管出口の直前で合流させて両液を混合して研磨定盤上に供給する方法や、研磨直前に酸化セリウムスラリと添加液とを混合する方法を用いることができる。
【0045】
本発明に係る研磨液は、所望のpHに調整して研磨に供することができる。pH調整剤としては特に制限はないが、アルカリ金属類、アンモニア水、酸成分が挙げられる。研磨液が半導体研磨に使用される場合には、アルカリ金属類よりも、アンモニア水、酸成分が好適に使用される。pH調整剤としては、予めアンモニアで部分的に中和された水溶性高分子のアンモニウム塩を使用することができる。
【0046】
本発明の研磨液のpHは3〜12の範囲であることが好ましい。上記範囲であることにより研磨液の保存安定性が向上する傾向があり、被研磨膜の傷の発生数が減少する傾向がある。このような観点で、pHとしては4以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましく、5.5以上であることが特に好ましく、6以上であることが極めて好ましい。また、同様の観点でpHとしては、11以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましく、9以下であることが特に好ましく、8以下であることが極めて好ましい。研磨液のpHは、pHメータ(例えば、横河電機株式会社製、商品名:Model PH81)で測定することができる。例えば、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.21(25℃)、中性りん酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃))を用いて2点校正した後、電極を研磨液に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定する。
【0047】
本発明に係る基板の研磨方法は、被研磨膜が形成された基板の被研磨膜を研磨定盤の研磨布に押圧した状態で、上記研磨液を被研磨膜と研磨布との間に供給しながら、基板と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨膜を研磨する。
【0048】
基板としては、半導体素子製造に係る基板、例えば回路素子と配線パターンが形成された段階の半導体基板、回路素子が形成された段階の半導体基板等の半導体基板上に無機絶縁が形成された基板が挙げられる。そして、被研磨膜としては、例えば酸化珪素膜、あるいは窒化珪素膜及び酸化珪素膜の複合膜等の無機絶縁膜が挙げられる。このような半導体基板上に形成された無機絶縁膜を、本発明に係る研磨液で研磨することによって、無機絶縁膜表面の凹凸を解消し、半導体基板全面にわたって平滑な面とすることができる。また、本発明に係る研磨液は、シャロートレンチ分離にも使用できる。
【0049】
以下、無機絶縁膜が形成された半導体基板の場合を例に挙げて、基板の研磨方法を更に詳細に説明する。
【0050】
研磨装置としては、半導体基板等の被研磨膜を有する基板を保持するホルダーと、回転数が変更可能なモータ等が取り付けてあり、研磨布(パッド)を貼り付け可能な研磨定盤と、を有する一般的な研磨装置が使用できる。研磨装置としては、例えば、株式会社荏原製作所製、商品名:EPO−111等を使用できる。
【0051】
研磨布としては、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用できる。また、研磨布には、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0052】
研磨条件に制限はないが、定盤の回転速度は、半導体基板が飛び出さないように200回転/分以下の低回転が好ましく、半導体基板にかける圧力(加工荷重)は、研磨後に傷が発生しないように100kPa以下が好ましい。研磨している間は、研磨布に研磨液をポンプ等で連続的に供給する。この供給量に制限はないが、研磨布の表面が常に研磨液で覆われていることが好ましい。
【0053】
研磨終了後の半導体基板は、流水中で良く洗浄後、スピンドライヤ等を用いて半導体基板上に付着した水滴を払い落として、乾燥させることが好ましい。
【0054】
このように被研磨膜である無機絶縁膜を研磨液で研磨することによって、表面の凹凸を解消し、半導体基板全面にわたって平滑な面が得られる。平坦化されたシャロートレンチを形成した後は、無機絶縁膜の上にアルミニウム配線を形成し、その配線間及び配線上に再度無機絶縁膜を形成後、研磨液を用いて当該無機絶縁膜を研磨して平滑な面を得る。この工程を所定数繰り返すことにより、所望の層数を有する半導体基板を製造することができる。
【0055】
本発明に係る研磨液により研磨される無機絶縁膜としては、例えば酸化珪素膜、窒化珪素膜が挙げられる。酸化珪素膜は、リン、ホウ素等の元素がドープされていても良い。無機絶縁膜の作製方法としては、低圧CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。
【0056】
低圧CVD法による酸化珪素膜形成は、Si源としてモノシラン:SiH、酸素源として酸素:Oを用いる。このSiH−O系酸化反応を、400℃以下の低温で行うことにより酸化珪素膜が得られる。場合によっては、CVDにより得られた酸化珪素膜は、1000℃又はそれ以下の温度で熱処理される。高温リフローによる表面平坦化を図るために、酸化珪素膜にリン:Pをドープするときには、SiH−O−PH系反応ガスを用いることが好ましい。
【0057】
プラズマCVD法は、通常の熱平衡下では高温を必要とする化学反応が低温でできる利点を有する。プラズマ発生法には、容量結合型と誘導結合型の2つが挙げられる。反応ガスとしては、Si源としてSiH、酸素源としてNOを用いたSiH−NO系ガスとテトラエトキシシラン(TEOS)をSi源に用いるTEOS−O系ガス(TEOS−プラズマCVD法)が挙げられる。基板温度は、250〜400℃、反応圧力は、67〜400Paが好ましい。
【0058】
低圧CVD法による窒化珪素膜形成は、Si源としてジクロルシラン:SiHCl、窒素源としてアンモニア:NHを用いる。このSiHCl−NH系酸化反応を、900℃の高温で行わせることにより得られる。プラズマCVD法による窒化珪素膜形成は、反応ガスとしては、Si源としてSiH、窒素源としてNHを用いるSiH−NH系ガスが挙げられる。基板温度は、300〜400℃が好ましい。
【0059】
本発明に係る研磨液及び基板の研磨方法は、半導体基板に形成された無機絶縁膜だけでなく、各種半導体装置の製造プロセス等にも適用することができる。本発明に係る研磨液及び基板の研磨方法は、例えば、所定の配線を有する配線板に形成される酸化珪素膜、ガラス、窒化珪素等の無機絶縁膜、ポリシリコン、Al、Cu、Ti、TiN、W、Ta、TaN等を主として含有する膜、フォトマスク、レンズ、プリズム等の光学ガラス、ITO等の無機導電膜、ガラス及び結晶質材料で構成される光集積回路、光スイッチング素子、光導波路、光ファイバーの端面、シンチレータ等の光学用単結晶、固体レーザ単結晶、青色レーザLED用サファイヤ基板、SiC、GaP、GaAs等の半導体単結晶、磁気ディスク用ガラス基板、磁気ヘッド等を研磨することにも適用することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0061】
(酸化セリウム粉末の作製)
市販の炭酸セリウム水和物:40kgをアルミナ製容器に入れ、830℃、空気中で2時間焼成することにより黄白色の粉末を20kg得た。この粉末の相同定をX線回折法で行ったところ、酸化セリウムであることを確認した。得られた酸化セリウム粉末:20kgを、ジェットミルを用いて乾式粉砕し、粉末状の酸化セリウムを得た。
【0062】
(酸化セリウムスラリの作製)
前記で作製した酸化セリウム:200gと、脱イオン水:795gとを混合し、ポリアクリル酸アンモニウム水溶液(重量平均分子量:8000、40質量%)を5g添加して、攪拌しながら超音波分散を行い、酸化セリウム分散液を得た。超音波分散は、超音波周波数:400kHz、分散時間:20分で行った。
【0063】
その後、1リットル容器(高さ:170mm)に1kgの酸化セリウム分散液を入れて静置し、沈降分級を行なった。分級時間:15時間後、容器底からの高さ:10mm以上の上澄みをポンプでくみ上げた。得られた上澄みの酸化セリウム分散液を、次いで固形分濃度が5質量%になるように、脱イオン水で希釈して酸化セリウムスラリを得た。
【0064】
酸化セリウムスラリ中における酸化セリウムの平均粒径(D50)を測定するため、He−Neレーザに対する測定時透過率(H)が60〜70%になるように前記スラリを希釈して、測定サンプルとした。この測定サンプルをレーザ回折式粒度分布計(Malvern社製、商品名:Master Sizer Microplus)を用い、屈折率:1.93、吸収:0として測定したところ、D50の値は200nmであった。
【0065】
(実施例1)
ヒドロキシ酸化合物としてリンゴ酸:30gと、脱イオン水:250gとを混合し、アンモニア水(25質量%)を20g加えてpH:6.5に調整した。なお、pHは、pHメータ(横河電機株式会社製、商品名:Model PH81)を用いて、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.21(25℃)、中性りん酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃))を用いて2点校正した後、電極を測定対象に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定した。更に脱イオン水を加えて2700gのリンゴ酸添加液とした。
【0066】
ここに、前記の酸化セリウムスラリを300g添加して3000gの酸化セリウム研磨液(砥粒濃度:0.5質量%、ヒドロキシ酸化合物:1質量%)を作製した。
【0067】
また、前記と同様に測定サンプルを調製して、研磨液中の粒子の平均粒径をレーザ回折式粒度分布計で測定した結果、D50の値は200nmであった。また、前記と同様にpHを測定したところ、pHは7.3であった。
【0068】
(絶縁膜の研磨)
研磨試験ウエハとして、シリコン基板上に酸化珪素が形成された酸化珪素のブランケットウエハとシリコン基板上に窒化珪素が形成された窒化珪素膜ブランケットウエハ(直径:200mm)を用いた。
【0069】
このような研磨試験ウエハの研磨には研磨装置(株式会社荏原製作所製、商品名:EPO−111)を用いた。基板取り付け用の吸着パッドを貼り付けたホルダーに研磨試験ウエハをセットした。研磨装置の直径600mmの研磨定盤に、多孔質ウレタン樹脂製の研磨布(溝形状=パーフォレートタイプ:Rohm and Haas社製、商品名:IC1000)を貼り付けた。更に、前記の各ブランケットウエハを、被研磨膜である酸化珪素被膜面又は窒化珪素被膜面を下にして前記ホルダーを研磨定盤上に載せ、加工荷重を350gf/cm(34.3kPa)に設定した。
【0070】
前記研磨定盤上に前記酸化セリウム研磨液を200ミリリットル/分の速度で滴下しながら、研磨定盤と研磨試験ウエハとをそれぞれ50回転/分で作動させて、60秒間研磨試験ウエハを研磨した。研磨後の研磨試験ウエハは、純水で良く洗浄後、乾燥した。
【0071】
研磨後の研磨試験ウエハのそれぞれについて、酸化珪素膜及び窒化珪素膜の残膜厚を干渉式膜厚測定装置(ナノメトリクス社製、商品名:ナノスペック/AFT5100)を用いて測定した所、酸化珪素膜の研磨速度が3200Å/分、窒化珪素膜の研磨速度が32Å/分となり、酸化珪素膜と窒化珪素膜の研磨速度比は100と大きく、良好な結果が得られた。
【0072】
(実施例2)
ヒドロキシ酸化合物としてクエン酸:30gと、脱イオン水:243gを混合し、アンモニア水(25質量%)を27g加えてpH:6.5に調整し、更に脱イオン水を1100g加えてクエン酸添加液を作製した。
【0073】
また、実施例1にて作製した酸化セリウムスラリ(固形分:5質量%):300gに脱イオン水を1200g添加して希釈し、酸化セリウム固形分濃度が1質量%の酸化セリウムスラリを作製した。実施例1と同様に測定サンプルを調製して、研磨液中の粒子の平均粒径をレーザ回折式粒度分布計で測定した結果、D50の値は200nmであった。また、前記と同様にpHを測定したところ、pHは7.3であった。
【0074】
(絶縁膜の研磨)
上記で作製した1質量%の酸化セリウムスラリ:1000gとヒドロキシ酸添加液:1000gとを研磨直前に混合して酸化セリウム研磨液(固形分:0.5質量%)を得たこと以外は実施例1と同様にして、研磨試験ウエハの研磨を行った。酸化珪素膜の研磨速度が3340Å/分、窒化珪素膜の研磨速度が35Å/分となり、酸化珪素膜と窒化珪素膜の研磨速度比は95と大きく、良好な結果を得られた。
【0075】
(比較例1)
ヒドロキシ酸化合物としてリンゴ酸の代わりにプロピオン酸:30gを用いた以外は実施例1と同様にして酸化セリウム研磨液を作製した。実施例1と同様に測定サンプルを調製して、研磨液中の粒子の平均粒径をレーザ回折式粒度分布計で測定した結果、D50の値は200nmであった。また、前記と同様にpHを測定したところ、pHは7.3であった。実施例1と同様にして、研磨試験ウエハの研磨を行った。酸化珪素膜の研磨速度が1552Å/分、窒化珪素膜の研磨速度が120Å/分となり、酸化珪素膜と窒化珪素膜の研磨速度比は13と、ヒドロキシ酸化合物を含有する場合より小さかった。
【0076】
(比較例2)
ポリアクリル酸アンモニウム水溶液(質量平均分子量:8000、40質量%):23gと、脱イオン水:2673gを混合し、アンモニア水(25質量%)を4g加えてpH:4.8に調整した。更に、実施例1にて作製した酸化セリウムスラリ(固形分:5質量%)を300g添加して、酸化セリウム研磨液(固形分:0.5質量%)を作製した。実施例1と同様に測定サンプルを調製して、研磨液中の粒子の平均粒径をレーザ回折式粒度分布計で測定した結果、D50の値は200nmであった。また、前記と同様にpHを測定したところ、pHは5.1であった。
【0077】
(絶縁膜の研磨)
上記で作製した研磨液を用いた以外は実施例1と同様にして研磨試験ウエハの研磨を行った。酸化珪素膜の研磨速度が2700Å/分、窒化珪素膜の研磨速度が68Å/分となり、酸化珪素膜と窒化珪素膜の研磨速度比は40とヒドロキシ酸化合物を含有する場合より小さかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウム粒子と、ヒドロキシ酸化合物及びヒドロキシ酸化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤と、水とを含有してなる研磨液。
【請求項2】
前記ヒドロキシ酸化合物が、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸、酒石酸、サリチル酸からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の研磨液。
【請求項3】
前記添加剤の含有量が、研磨液全質量基準で0.0001〜5質量%である、請求項1又は2に記載の研磨液。
【請求項4】
アルコール化合物を含有しない請求項1〜3のいずれかに記載の研磨液。
【請求項5】
前記酸化セリウム粒子及び水を含む第1の液と、前記添加剤及び水を含む第2の液とに構成成分を分けた二液式研磨液として保存される、請求項1〜4のいずれかに記載の研磨液。
【請求項6】
被研磨膜が形成された基板の該被研磨膜を研磨定盤の研磨布に押圧した状態で、請求項1〜5のいずれかに記載の研磨液を前記被研磨膜と前記研磨布との間に供給しながら、前記基板と前記研磨定盤とを相対的に動かして前記被研磨膜を研磨する、基板の研磨方法。

【公開番号】特開2012−186339(P2012−186339A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48864(P2011−48864)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】