説明

研磨用基布

【課題】十分な研磨性を有しながら、被研磨物の平滑性に優れた研磨用基布を提供すること。
【解決手段】極細繊維からなる立毛を有する繊維質基材であって、該極細繊維が無機化合物粒子を含むことを特徴とする。さらには、無機化合物粒子の一次粒子径が1〜500nmであること、無機化合物粒子の極細繊維重量に対する含有率が1〜30重量%であること、無機化合物粒子がカーボンブラックであることが好ましい。また、繊維質基材が弾性高分子を含むことや、繊維質基材が不織布であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用基布に関し、さらに詳しくは高精度の仕上げを要求される磁気記録媒体及び類似材料を製造する際に用いられる、特にテクスチャー加工用に適した研磨用基布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年コンピューターなどの情報処理技術の発達に伴い、磁気記録媒体やシリコンウエハーに対する高精度の表面仕上げが要求されている。例えば磁気記録媒体のハードディスク等を製造する場合、基盤となるアルミニウム、ガラス等の表面を平滑化する加工を行うが、それに用いる研磨用基布に対する要求もますます高くなってきている。また、この平滑化加工の最後の段階で、デイスク表面に微細な溝を形成させるために砥粒を分散させたスラリーと研磨用基布を用いたテクスチャー加工と呼ばれる表面加工処理がおこなわれることが増加しており、高容量化、高密度化のために最適な研磨用基布が求められている。
【0003】
このような研磨用基布としては例えば特許文献1には、20本以上の極細繊維が収束してなる繊維束を用いた研磨用基布が開示されている。しかしこの研磨用基布をもってしてもまだ十分な研磨性、平滑性が得られていないという問題があった。
【特許文献1】特開2002−172555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、十分な研磨性を有しながら、被研磨物の平滑性に優れた研磨用基布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の研磨用基布は、極細繊維からなる立毛を有する繊維質基材であって、該極細繊維が無機化合物粒子を含むことを特徴とする。さらには、無機化合物粒子の一次粒子径が1〜500nmであること、無機化合物粒子の極細繊維重量に対する含有率が1〜30重量%であること、無機化合物粒子がカーボンブラックであることが好ましい。また、繊維質基材が弾性高分子を含むことや、繊維質基材が不織布であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、十分な研磨性を有しながら、被研磨物の平滑性に優れた研磨用基布が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の研磨用基布は極細繊維からなる立毛をその表面に有するものである。この表面に存在する極細繊維としては0.0001〜0.1dtexの繊度であることが好ましい。平均直径が小さい場合には極細繊維の強度が低下しがちであり、研磨時の表面強度や、繊維質基材としての強度も低下する傾向にある。また平均直径が大きすぎる場合には、研磨工程時に被研磨基材を傷つけやすい傾向にある。
【0008】
極細繊維を構成する繊維成分としてはナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12などのポリアミド繊維、またはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維などを挙げることができる。特にナイロン等のポリアミド繊維を用いた場合にはモジュラスが低く、研磨時にスクラッチ傷が発生しにくく適している。
【0009】
また、本発明の研磨用基布は、表面にこのような極細繊維からなる立毛を有する繊維質基材から構成されているものである。繊維質基材としては、繊維のみからなる、織編物や不織布でも良いが、基材が弾性高分子を含むことが好ましく、極細繊維と弾性高分子からなる繊維質基材であることが最も好ましい。さらには繊維質基材が極細繊維が収束してなる繊維束によって構成されていることが好ましい。繊維質基材がこのような極細繊維からなる繊維束と弾性高分子から構成されている場合には、その基材内部では主に弾性高分子が繊維束の外部に存在しており、繊維束内には弾性高分子が存在していないことが好ましい。研磨用基布が柔軟になり研磨傷の発生が抑制される傾向にある。
【0010】
繊維質基材に用いられうる弾性高分子としては、ポリウレタン系樹脂、ポリウレタン・ポリウレア系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリスチレン・ブタジエン系樹脂、ポリアクリロニトリル・ブタジエン系樹脂などが挙げられるが、加工性、耐摩耗性、耐加水分解性等の点よりポリウレタン系樹脂が好ましい。中でも研磨砥粒のスラリーがアルカリ性または酸性でポリウレタン系樹脂の加水分解劣化を伴うような場合には、エーテル系、またはカーボネート系ポリウレタンであることが好ましい。弾性高分子の繊維に対する重量比率は10/90〜60/40であることが好ましい。また弾性高分子は湿式凝固法などによる多孔質状であることが、砥粒を把持しスクラッチなどの欠点を発生させることなく研磨する上で好ましい。
【0011】
本発明の研磨用基布は、このような繊維質基材からなるものであるが、この繊維質基材を構成する極細繊維は無機化合物粒子を含むことを必須とするものである。無機化合物粒子としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン、酸化アルミ、炭化ケイ素、ゼオライト、ダイアモンド、ルビーなどの鉱物粒子、金属粒子、金属化合物、合金粒子などが挙げられる。これらの無機化合物粒子は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。中でも入手しやすさ、加工性の高さからカーボンブラックであることが好ましい。
【0012】
この無機化合物粒子の一次粒子径は1〜500nmの範囲であることが好ましい。さらには5〜200nmであることが好ましく、最も好ましくは、10〜50nmの範囲で
ある。粒子径が大きすぎると繊維強度が低下しすぎ紡糸時における断糸が頻繁に発生しその製造に問題が発生する傾向にある。逆に粒子径が小さすぎると繊維中に安定して分散されやすくなり繊維強度の低下が少なくなるものの、本発明の効果が得られにくくなる傾向にある。
【0013】
本発明においては、このような無機化合物粒子を含有することにより、微細な研磨砥粒の研磨用基布への付着性が向上し、また無機化合物粒子と研磨砥粒との相互作用から、効果的、効率的に研磨を行うことができる。また、無機化合物粒子を含む極細繊維は、極細繊維どうしのからみ合いが減少するため、立毛面に太い繊維束状の形態が発生しにくくなり、研磨傷の発生が減少する効果がある。
【0014】
本発明の研磨用基布の形状は長さ方向、幅方向で厚さが均一であることが好ましい。研磨用基布の幅は5〜300mm、さらに好ましくは7〜200mmであることが好ましく、長さ方向が幅方向よりも長いテープ状であることが好ましい。また厚さとしては0.3〜1.2mmが好ましく、0.3mm未満では強度が不足する傾向にあり、1.2mm以上では厚く作業性が低下する傾向にある。厚さを最適化するため、または生産性を上げるために得られた基布をスライスするのも良い方法である。
【0015】
このような本発明の研磨用基布は、例えば以下の加工によって得ることができる。
すなわち、まず無機化合物粒子を含む極細繊維形成性繊維によって、不織布を作成する。極細繊維成形性繊維としては、例えば、溶剤溶解性の異なる2種以上の繊維形成性高分子を用い公知の紡糸法で繊維を作成した後、一成分を抽出除去する方法があり、紡糸後の延伸により繊維に必要な強度を与えることもできる。なかでもナイロン6/ポリエチレンの組み合わせが工業的に生産しやすいため好ましい。この場合には抽出除去されない残存する成分であるナイロン中に無機化合物粒子が練り込まれる。得られた繊維はニードルパンチングなどにより不織布に加工される。このとき不織布にカレンダー加工を施し、不織布表面の平滑性と、不織布内部密度を高めることが好ましい。次に、従来公知の方法にて、得られた不織布に弾性高分子を充填し、その後基材中の極細繊維形成性繊維を極細化することによって、極細繊維からなる繊維質基材が得られる。この繊維質基材の表面をサンドペーパーなどでバフがけする事によって極細繊維からなる立毛を有する繊維質基材であって、極細繊維が無機化合物粒子を含む本発明の研磨用基布が製造される。
【0016】
このようにして本発明の研磨用基布は特に磁気記録基板の研磨に好ましく用いられる。例えばハードディスクを製造する際のテクスチャー加工では、本発明の研磨用基布と研磨砥粒を分散させたスラリーによっておこなわれる。研磨用基布と共に使用される研磨砥粒スラリーは酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、窒化珪素、単または多結晶ダイアモンド、などでありそれぞれ粒径は0.05〜0.5μm程度のものが好ましく使用される。またテクスチャー加工以外にも例えば、そのようにしてテクスチャー加工して得たハードディスクの表面を、必要に応じて水、薬剤等を加え本発明の研磨用基布でブラッシングすることにより、ハードディスク表面に残存した砥粒粒子や各種破片を除去することが出来る。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。
[実施例1]
(1)極細繊維の製造
ナイロン−6とポリエチレンをチップの状態で50:50の重量比で混合して押出機により溶融紡糸を行いポリエチレンが海成分の海島断面混合紡糸繊維を紡糸し、繊維を得た。このときナイロン−6チップは、あらかじめ平均一次粒径がそれぞれ17nmのカーボンブラックをナイロン100重量部に対して10重量部練りこんだものであった。このナイロン成分中にカーボンブラックが練りこまれた繊維を延伸、捲縮、カットして8dtexとし、51mm長の短繊維を作製した。得られた繊維の海成分であるポリエチレンを溶解除去して極細繊維化し、任意の繊維束の断面を電子顕微鏡写真にて2000倍に拡大・観察したところ、島成分の平均直径から算出した繊維の平均繊度は、0.0052dtexであった。
【0018】
ちなみに、ナイロンに練りこむカーボンブラックの平均一次粒径を17nmから800nmに変更したところ、得られた繊維はその延伸時に断糸等が頻繁に発生し、満足のいく短繊維を得ることが出来なかった。
【0019】
(2)研磨用基布の作成
上記の極細化する前の平均一次粒径が17nmのカーボンブラックを練りこまれた短繊維を、カードおよびクロスレイヤーを用いて積層し、3バーブのニードル針を用い1400本/cmの針密度でニードルパンチして不織布を作成した。得られた不織布は黒色であり、目付570g/m、厚さ2.5mmであった。該不織布を150℃の乾燥機で加熱し、30℃の金属ロールで冷却ニップし固定化した。このニップ処理された不織布の目付は、560g/m、厚さ1.9mmであった。
【0020】
ニップ処理後の該不織布に、ポリエーテルエステル系ポリウレタン14%濃度のDMF溶液にシリコーン系の凝固調節剤を添加したものを1060g/m含浸し、不織布表面を基材厚さの70%にスクイーズして、余分なポリウレタン樹脂を除去した後、10%ジメチルホルムアミド(以下DMFとする)水溶液の水バス中で凝固し、140℃で乾燥した。その後、80℃のトルエンでディップ、ニップを繰り返し、ポリエチレンを抽出した。得られた極細繊維からなる基材は、目付445g/mであった。該基材表面にDMF溶液を用いて200メッシュで2ロール塗布し、乾燥後、320メッシュのサンドペーパーで研磨し、さらに、400メッシュのサンドペーパーで逆方向から研磨し基材表面を立毛させ、表面が多くの立毛繊維により覆われている基材を得た。該基体を3.5cmにスリットしアルミニウムハードデイスクのテクスチャー加工に適した研磨用基布を得た。該研磨用基布を用い、研磨剤に0.07μmの多結晶ダイアモンド砥粒を含有しておりアニオン性の分散剤を含んでいるものを用いてテクスチャー加工を実施した。テクスチャー加工後のディスクの表面平均粗さRa=2.0Åと良好であるうえ、スクラッチなどの欠点が非常に少ないテクスチャー加工が行われた。
【0021】
[比較例1]
(1)極細繊維の製造
ナイロン−6とポリエチレンをチップの状態で50:50の重量比で混合して押出機により溶融紡糸を行いポリエチレンが海成分の海島断面混合紡糸繊維を紡糸し、繊維を得た。この繊維を延伸、捲縮、カットして8dtexとし、51mm長の短繊維を作製した。得られた繊維の海成分であるポリエチレンを溶解除去して極細繊維化し、任意の繊維束の断面を電子顕微鏡写真にて2000倍に拡大・観察したところ、島成分の平均直径から算出した繊維の平均繊度は、0.0035dtexであった。
【0022】
(2)研磨用基布の作成
上記の極細化する前の短繊維を、カードおよびクロスレイヤーを用いて積層し、3バーブのニードル針を用い1400本/cmの針密度でニードルパンチして不織布を作成した。得られた不織布は白色であり、目付570g/m、厚さ2.5mmであった。該不織布を150℃の乾燥機で加熱し、30℃の金属ロールで冷却ニップし固定化した。このニップ処理された不織布の目付は、560g/m、厚さ1.9mmであった。
【0023】
ニップ処理後の該不織布に、ポリエーテルエステル系ポリウレタン14%濃度のDMF溶液にシリコーン系の凝固調節剤を添加したものを1060g/m含浸し、不織布表面を基材厚さの70%にスクイーズして、余分なポリウレタン樹脂を除去した後、10%DMF水溶液の水バス中で凝固し、140℃で乾燥した。その後、80℃のトルエンでディップ、ニップを繰り返し、ポリエチレンを抽出した。得られた極細繊維からなる基材は、目付445g/mであった。該基材表面にDMF溶液を用いて200メッシュで2ロール塗布し、乾燥後、320メッシュのサンドペーパーで研磨し、さらに、400メッシュのサンドペーパーで逆方向から研磨し基材表面を立毛させ、表面が多くの立毛繊維により覆われている基材を得た。該基体を3.5cmにスリットし、研磨用基布を得た。該研磨用基布を用い、研磨剤に0.07μmの多結晶ダイアモンド砥粒を含有しておりアニオン性の分散剤を含んでいるものを用いてテクスチャー加工を実施した。テクスチャー加工後のディスクの表面平均粗さRa=2.1Åと良好であったが、スクラッチなどの欠点の発生がみられ、ディスクの歩留まりは低いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維からなる立毛を有する繊維質基材であって、該極細繊維が無機化合物粒子を含むことを特徴とする研磨用基布。
【請求項2】
無機化合物粒子の一次粒子径が1〜500nmである請求項1記載の研磨用基布。
【請求項3】
無機化合物粒子の極細繊維重量に対する含有率が1〜30重量%である請求項1または2に記載の研磨用基布。
【請求項4】
無機化合物粒子がカーボンブラックである請求項1〜3のいずれか1項記載の研磨用基布。
【請求項5】
繊維質基材が弾性高分子を含む請求項1〜4のいずれか1項記載の研磨用基布。
【請求項6】
繊維質基材が不織布である請求項1〜5のいずれか1項記載の研磨用基布。

【公開番号】特開2006−62051(P2006−62051A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249739(P2004−249739)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】