説明

研磨用組成物および研磨方法

【課題】半導体集積回路の製造において、金属を研磨する工程で用いられ、酸化剤を添加した後の、研磨用組成物のpH変化の安定化ができる研磨用組成物およびそれを用いた研磨方法を提供する。
【解決手段】 本発明の研磨用組成物は、水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質と、pH緩衝剤を含有する研磨用組成物であって、研磨用組成物100gに対して、31重量%の過酸化水素水を5.16g添加した場合の8日後のpH変化の絶対値が0.5以下であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体集積回路(以下「LSI」という。)における、金属を含む基板表面(以下「研磨対象物」という。)の研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化・高速化に伴って、新たな微細加工技術が開発されている。化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing、以下「CMP」という。)法もその一つであり、LSI製造工程、特に、多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、コンタクトプラグの形成、埋め込み配線の形成に適用されている。この技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
コンタクトプラグの形成においては、埋め込み材料およびその相互拡散バリアの材料等としてタングステンが用いられている。前記コンタクトプラグの形成においては、コンタクトプラグ以外の余分な部分をCMPにより除去する製造方法が用いられている。また、埋め込み配線の形成においては、最近はLSIを高性能化するために、配線材料となる導電性物質として、銅または銅合金の利用が試みられている。銅または銅合金は、従来のアルミニウム合金配線の形成で頻繁に用いられたドライエッチング法による微細加工が困難である為、予め溝を形成してある絶縁膜上に、銅または銅合金の薄膜を堆積して埋め込み、溝部以外の前記薄膜を、CMPにより除去して埋め込み配線を形成する、いわゆるダマシン法が主に採用されている。CMPに用いられる金属用の研磨用組成物では、酸などの研磨促進剤および酸化剤を含有し、さらに必要に応じて砥粒を含有することが一般的である。また、研磨後の研磨対象物の平坦性を改善するべく、金属防食剤をさらに添加した研磨用組成物を使用することも提案されている。例えば、特許文献2には、アミノ酢酸および/またはアミド硫酸、酸化剤、ベンゾトリアゾールおよび水を含有した研磨用組成物を使用することの開示がある。
【0004】
しかし、一方で研磨用組成物に酸化剤を添加すると、経時的に研磨性能が変化する課題が認められている。研磨性能の変化についてはさまざまな要因が確認されているが、そのひとつの因子として、研磨促進剤や金属防食剤等の研磨用組成物中の化学物質が酸化剤と相互作用し、pHが変化することが挙げられる。
【0005】
金属用の研磨組成物の設計においては、pHは非常に重要であり、プールベ(Pourbaix)線図に基づいて行われることが一般的である。たとえば銅用の研磨組成物について、酸化銅(I)を形成するためには約6.0のpHが重要であることが、特許文献3に開示されている。研磨組成物のpHが低下すると、酸化銅は銅の表面上に形成されにくくなり、金属の溶解が増大する。また研磨組成物のpHが高くなると、除去された銅は溶液から析出し、ウェーハ表面に付着してスクラッチを生じさせ得る。従って、金属用の研磨組成物は、CMP後の欠陥のない平坦な表面を保証する為に、研磨時にpHを安定化させる事が求められている。そのような銅研磨中の研磨用組成物のpHを安定化させる技術として特許文献4が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献4は数分程度の研磨時のpH安定化に関する技術であり、研磨組成物の長期間におけるpHの経時的な変化を抑制することについては、具体的な開示はなく、技術的にも困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−102543号公報
【特許文献2】特開平8−83780号公報
【特許文献3】特表2000−501771号公報
【特許文献4】特表2006−506809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、LSI製造において、研磨対象物を研磨する工程で用いられ、酸化剤を添加した後の、研磨用組成物のpHの経時的な変化を抑制できる研磨用組成物、それを用いた研磨方法、およびその研磨方法を用いた基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の研磨用組成物が、研磨時のみならず、研磨使用のために酸化剤等を加えた後に使い切るまでの長期にわたり研磨用組成物として安定していることを見出した。
即ち、本発明の一態様では、水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質と、pH緩衝剤を含有する研磨用組成物であって、研磨用組成物100gに対して、31重量%の過酸化水素水を5.16g(過酸化水素として1.6g)添加した直後のpHに対する、8日間静置保管した後のpH変化の絶対値が0.5以下であることを特徴とする研磨用組成物を提供する。
【0010】
本発明の別の態様では、上記態様に係る研磨用組成物を用いて、金属を研磨する研磨方法を提供する。また、本発明の更なる別の態様では、前記の研磨方法を用いる工程を有する金属を含む基板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、LSIにおいて、研磨対象物の研磨工程に使用され、pHの経時的な変化を抑制して安定化させることができる研磨用組成物、それを用いた研磨方法、およびその研磨方法を用いた基板の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質と、pH緩衝剤を含み、さらに任意で砥粒、他の添加剤とともに、水などの溶媒に混合して調製される。
【0013】
本実施形態の研磨用組成物は、先に背景技術欄において説明したようなLSIを製造するための研磨、特に金属用の研磨工程で主に使用される。従って、この研磨用組成物は、LSI製造で金属が用いられる配線やコンタクトホール、ビアホールを形成する研磨用途等で使用される。その際の金属としては、例えば、銅、タングステン、タンタル、チタン、コバルト、ルテニウム、ならびにそれらの酸化物、合金および化合物が挙げられる。その中でも銅、タンタル、チタン、ルテニウムならびにそれらの酸化物、合金および化合物が好ましく、銅ならびにそれらの酸化物、合金および化合物がより好ましい。
【0014】
(酸化剤)
酸化剤は研磨対象物の表面を酸化する作用を有し、研磨用組成物中に酸化剤を加えた場合には、研磨用組成物による研磨速度が向上する有利がある。
【0015】
使用可能な酸化剤は、例えば過酸化物である。過酸化物の具体例としては、例えば、過酸化水素、過酢酸、過炭酸塩、過酸化尿素および過塩素酸、ならびに過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩が挙げられる。中でも過硫酸塩および過酸化水素が研磨速度の観点から好ましく、水溶液中での安定性および環境負荷への観点から過酸化水素が特に好ましい。
【0016】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量は、0.1g/L以上であることが好ましく、より好ましくは1g/L以上、さらに好ましくは3g/L以上である。酸化剤の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する有利がある。
【0017】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量はまた、200g/L以下であることが好ましく、より好ましくは100g/L以下、さらに好ましくは40g/L以下である。酸化剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる有利がある。また、酸化剤による研磨対象物表面の過剰な酸化が起こりにくくなる有利もある。
【0018】
(水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質)
水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質としては、界面活性剤、水溶性高分子、アミン化合物、金属防食剤、有機溶剤等の一部が挙げられる。その定義を以下に説明する。先ず、界面活性剤または水溶性高分子の場合は0.05重量%、アミン化合物、金属防食剤または有機溶剤等の場合は、5mmol/L、および水酸化カリウムまたは硫酸をpH調節剤として含有させ、pHを約7.5に調整した水溶液を用意する。そして、当該水溶液100gに対して、31重量%の過酸化水素水を10.32g(過酸化水素として3.2g)添加した直後のpHに対して、当該水溶液を常温(23℃〜27℃)で8日間静置保管した後のpH変化の絶対値が0.5以上となる条件を満たすものを水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質として定義する。
【0019】
水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる界面活性剤の例としては、ポリオキシアルキレン基を有する非イオン性界面活性剤が挙げられる。その具体例としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられる。
【0020】
水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる水溶性高分子の例としては、その構造中に窒素原子を有する水溶性高分子が挙げられる。構造中に窒素原子を有する水溶性高分子の具体例としては、第1の原料モノマーとして、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、エチルアミノエチルアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、メチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、2−ヒドロキシアミノプロピルアミン、メチルビス−(3−アミノプロピル)アミン、ジメチルアミノエトキシプロピルアミン、1,2−ビス−(3−アミノプロポキシ)−エタン、1,3−ビス−(3−アミノプロポキシ)−2,2−ジメチルプロパン、α,ω−ビス−(3−アミノプロポキシ)−ポリエチレングリコールエーテル、イミノビスプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、ラウリルアミノプロピルアミン、ジエタノールアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペリジン、N−アミノエチルピペコリン、N−アミノエチルモルホリン、N−アミノプロピルピペリンジン、N−アミノプロピル−2−ピペコリン、N−アミノプロピル−4−ピペコリン、N−アミノプロピル−4−モルホリンおよびN−アミノプロピルモルホリンなどのアミノ基を2つ以上有する塩基から選ばれる1種以上と、第2のモノマーとして、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸およびピメリン酸から選ばれる多塩基酸の1種以上との反応縮合物が挙げられる。また、構造中に窒素原子を有する水溶性高分子の別の具体例としては、前記第1の原料モノマーと、前記第2の原料モノマーから得られる反応縮合物に対して、さらに第三の原料として、例えば、尿素およびエピハロヒドリンから選ばれる1種以上とを反応させたものが挙げられる。
【0021】
水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させるアミン化合物の例としては、アミノ基を有する化合物が挙げられる。その具体的としては、例えば、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、N−メチルエチレンジアミン、N,N,N,N−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、N,N−ジ−tert−ブチルエタン−1,2−ジアミンが挙げられる。
【0022】
水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる金属防食剤の具体例としては、例えば、1H−ベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]−4−メチルベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]−5−メチルベンゾトリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプトメチル−4H−1,2,4−トリアゾール、ベンゾイルヒドラジン、サリチルヒドラジド、4−ヒドロキシベンゾヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ベンゾヒドロキサム酸またはサリチルヒドロキサム酸、1H−ベンゾトリアゾール−1−メタノール、2,2−ビフェノールが挙げられる。
【0023】
水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる有機溶剤の例としては、アルコール性水酸基を有する化合物が挙げられる。その具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0024】
上記具体例の一部を、過酸化水素と共存させた場合のpHの経時変化を表1に記載した。
表1には、上記具体例の化合物名称を記載すると共に、各化合物それぞれを含有し、水酸化カリウムまたは硫酸でpHを約7.5にした水溶液100gに対して、31重量%の過酸化水素水を10.32g(過酸化水素として3.2g)を添加した水溶液と、添加しない水溶液を調製した。そして当該水溶液に対して、調製直後のpH、8日間静置保管後のpH、および8日間静置保管後のpHから混合直後のpHの値を差し引いたpH変化値を記載した。なお、静置保管作業は恒温槽を用いて常温(23℃〜27℃)の環境下で行い、pH測定はpHメーター(株式会社堀場製作所製のF−52)を用いて各水溶液を常温(23℃〜27℃)に保った状態で行った。
【0025】
【表1】

【0026】
(pH緩衝剤)
pH緩衝剤としては、水溶液中において、水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質と、pH緩衝剤を含有する研磨用組成物を調製した場合に、その研磨用組成物100gに対して、31重量%の過酸化水素水を5.16g(過酸化水素として1.6g)添加した場合の8日後のpH変化の絶対値を0.5以下にする効果を有する化学物質を使用する事ができる。pH変化の絶対値を0.5以下に抑える事ができれば、研磨性能の経時変化を実用的に問題ない程度まで抑えることができる、安定性に優れた研磨用組成物を提供できる。
【0027】
pH緩衝剤としては、アミド基を有するものが好ましく、アミド基と共に、スルホ基およびカルボキシル基の1種以上を含有する両性アミノ酸がより好ましい。又、下記の一般式(1)で示される化合物がさらに好ましい。
【0028】
【化1】

【0029】
ここで、一般式(1)において、RはおよびRはそれぞれ独立に炭素原子数が1〜4の無置換または置換の直鎖アルキル基を示す。Rは水素原子、ヒドロキシル基、スルホ基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバモイル基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基、ハロゲン基、フェニル基、アセチル基、炭素原子数が1〜4の無置換または置換アルキル基で表される官能基のいずれかを示し、Xはスルホ基またはカルボキシル基、およびそれらの塩で表される官能基のいずれかを示す。
【0030】
その中でも、N−(2−アセトアミド)−イミノ二酢酸、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸から選ばれる1種以上がさらにより好ましく、
最も好ましいのは、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸である。
【0031】
pH変化を抑制する反応機構は明らかにはできていないが、スルホ基およびカルボキシル基は酸の解離定数が低く、酸化剤と水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質とを共存させた時に、新たに発生するプロトンとの酸解離平衡反応が期待できること、またアミド基は酸化剤による加水分解でアンモニアを発生させ、上記プロトンを中和する作用があると思われる。
【0032】
研磨用組成物中のpH緩衝剤の含有量は、0.01mmol/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.1mmol/L以上、さらに好ましくは0.5mmol/L以上、さらにより好ましくは3.0mmol/L以上、最も好ましくは5.0mmol/L以上である。pH緩衝剤の量が多くなるにつれて、pHを安定化させる効果が向上する点で望ましい。
研磨用組成物中のpH緩衝剤の含有量はまた、300mmol/L以下であることが好ましく、より好ましくは150mmol/L以下、さらに好ましくは100mmol/L以下、特に好ましくは50mmol/L以下である。pH緩衝剤の含有量が少なくなるにつれて、製造コストが抑えられる点で、有利である。特に50mmol/L以下であれば、pHの経時的な変化を抑制する効果に加えて、研磨レートを高く維持できる点で、もっとも好ましい。
【0033】
(研磨用組成物のpH)
研磨用組成物のpHは、3以上であることが好ましく、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは6以上である。pHが大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物表面の過剰なエッチングが起こりにくくなる有利がある。
【0034】
研磨用組成物のpHはまた、9以下であることが好ましく、より好ましくは8以下である。pHが小さくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物表面のスクラッチを抑制できる有利がある。
【0035】
(研磨促進剤)
研磨用組成物には、酸化剤、水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質、およびpH緩衝剤以外に、それらのカテゴリーに含まれない研磨促進剤をさらに含有させることができる。研磨用組成物中に含まれる研磨促進剤は、研磨対象物の表面を化学的にエッチングする作用を有し、研磨用組成物による研磨速度を向上させる働きをする。
【0036】
使用可能な研磨促進剤は、例えば、水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質、およびpH緩衝剤に含まれない、無機酸、有機酸、およびアミノ酸である。
【0037】
無機酸の具体例としては、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸が挙げられる。
【0038】
有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸などの有機硫酸も使用可能である。
【0039】
無機酸または有機酸の代わりにあるいは無機酸または有機酸と組み合わせて、無機酸または有機酸のアンモニウム塩やアルカリ金属塩などの塩を用いてもよい。弱酸と強塩基、強酸と弱塩基、または弱酸と弱塩基の組み合わせの場合には、pHの緩衝作用を期待することができる。
【0040】
アミノ酸の具体例としては、例えば、グリシン、α−アラニン、β−アラニン、N−メチルグリシン、N,N−ジメチルグリシン、2−アミノ酪酸、ノルバリン、バリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、サルコシン、オルニチン、リシン、タウリン、セリン、トレオニン、ホモセリン、チロシン、ビシン、トリシン、3,5−ジヨード−チロシン、β−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アラニン、チロキシン、4−ヒドロキシ−プロリン、システイン、メチオニン、エチオニン、ランチオニン、シスタチオニン、シスチン、システイン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、S−(カルボキシメチル)−システイン、4−アミノ酪酸、アスパラギン、グルタミン、アザセリン、アルギニン、カナバニン、シトルリン、δ−ヒドロキシ−リシン、クレアチン、ヒスチジン、1−メチル−ヒスチジン、3−メチル−ヒスチジンおよびトリプトファンが挙げられる。
【0041】
その中でも研磨促進剤としては、研磨向上の観点から、グリシン、アラニン、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、イセチオン酸またはそれらのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が好ましい。
【0042】
研磨用組成物中の研磨促進剤の含有量は、0.01g/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.1g/L以上、さらに好ましくは1g/L以上である。研磨促進剤の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する有利がある。
【0043】
研磨用組成物中の研磨促進剤の含有量はまた、50g/L以下であることが好ましく、より好ましくは30g/L以下、さらに好ましくは15g/L以下である。研磨促進剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨促進剤による研磨対象物表面の過剰なエッチングが起こりにくくなる有利がある。
【0044】
(界面活性剤)
研磨用組成物には、酸化剤、水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質、およびpH緩衝剤以外に、それらのカテゴリーに含まれない界面活性剤をさらに含有させることができる。研磨用組成物中に上記カテゴリーに含まれない界面活性剤を加えた場合には、研磨用組成物を用いた研磨により形成される配線の脇に凹みがより生じにくくなるのに加え、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にディッシングがより生じにくくなる有利がある。
【0045】
使用される、その界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。複数種類の界面活性剤を組み合わせて使用してもよく、特に陰イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤を組み合わせて使用することが、配線の脇に凹みやディッシングの観点から好ましい。
【0046】
そのような陰イオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル酢酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、アルキル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルエーテル硫酸およびそれらの塩が挙げられる。ここに具体例として開示されたものは、研磨対象物表面への化学的または物理的吸着力が高いために、より強固な保護膜を研磨対象物表面に形成する。このことは、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の平坦性を向上させるうえで有利である。
【0047】
そのような陽イオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、およびアルキルアミン塩が挙げられる。
【0048】
そのような両性界面活性剤の具体例としては、例えば、アルキルベタインおよびアルキルアミンオキシドが挙げられる。
【0049】
そのような非イオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびアルキルアルカノールアミドが挙げられる。ここに具体例として開示されたものは、研磨対象物表面への化学的または物理的吸着力が高いために、より強固な保護膜を研磨対象物表面に形成する。このことは、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の平坦性を向上させるうえで有利である。
【0050】
研磨用組成物中の界面活性剤の含有量は、0.001g/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.005g/L以上、さらに好ましくは0.01g/L以上である。界面活性剤の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の平坦性が向上する有利がある。
【0051】
研磨用組成物中の界面活性剤の含有量はまた、10g/L以下であることが好ましく、より好ましくは5g/L以下、さらに好ましくは1g/L以下である。界面活性剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する有利がある。
【0052】
(金属防食剤)
研磨用組成物には、酸化剤、水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質、およびpH緩衝剤以外に、それらのカテゴリーに含まれない金属防食剤をさらに含有させることができる。研磨用組成物中に上記カテゴリーに含まれない金属防食剤を加えた場合には、界面活性剤を加えた場合と同様、研磨用組成物を用いた研磨により形成される配線の脇に凹みがより生じにくくなるのに加え、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にディッシングがより生じにくくなる有利がある。また、その金属防食剤は、研磨用組成物中に酸化剤が含まれている場合には、酸化剤による研磨対象物表面の酸化を緩和するとともに、酸化剤による研磨対象物表面の金属の酸化により生じる金属イオンと反応して不溶性の錯体を生成する働きをする。この金属防食剤の働きは、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の平坦性を向上させる。
【0053】
使用される、その金属防食剤の種類は、特に限定されないが、好ましくは複素環式化合物である。複素環式化合物中の複素環の員数は特に限定されない。また、複素環式化合物は、単環化合物であってもよいし、縮合環を有する多環化合物であってもよい。
【0054】
その金属防食剤として使用可能な複素環化合物の具体例としては、例えば、ピロール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、ピリジン化合物、ピラジン化合物、ピリダジン化合物、ピリンジン化合物、インドリジン化合物、インドール化合物、イソインドール化合物、インダゾール化合物、プリン化合物、キノリジン化合物、キノリン化合物、イソキノリン化合物、ナフチリジン化合物、フタラジン化合物、キノキサリン化合物、キナゾリン化合物、シンノリン化合物、ブテリジン化合物、チアゾール化合物、イソチアゾール化合物、オキサゾール化合物、イソオキサゾール化合物およびフラザン化合物などの含窒素複素環化合物が挙げられる。
【0055】
ピラゾール化合物の具体例として、例えば、1H−ピラゾール、4−ニトロ−3−ピラゾールカルボン酸および3,5−ピラゾールカルボン酸が挙げられる。
【0056】
イミダゾール化合物の具体例としては、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルピラゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、5,6−ジメチルベンゾイミダゾール、2−アミノベンゾイミダゾール、2−クロロベンゾイミダゾールおよび2−メチルベンゾイミダゾールが挙げられる。
【0057】
トリアゾール化合物の具体例としては、例えば、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、1−メチル−1,2,4−トリアゾール、メチル−1H−1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシレート、1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸、1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸メチル、3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−ベンジル−4H−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メチル−4H−1,2,4−トリアゾール、3−ニトロ−1,2,4−トリアゾール、3−ブロモ−5−ニトロ−1,2,4−トリアゾール、4−(1,2,4−トリアゾール−1−イル)フェノール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−3,5−ジプロピル−4H−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−3,5−ジメチル−4H−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−3,5−ジペプチル−4H−1,2,4−トリアゾール、5−メチル−1,2,4−トリアゾール−3,4−ジアミン、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、1−アミノベンゾトリアゾール、1−カルボキシベンゾトリアゾール、5−クロロ−1H−ベンゾトリアゾール、5−ニトロ−1H−ベンゾトリアゾール、5−カルボキシ−1H−ベンゾトリアゾール、5,6−ジメチル−1H−ベンゾトリアゾール、1−(1’’,2’−ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0058】
テトラゾール化合物の具体例としては、例えば、1H−テトラゾール、5−メチルテトラゾール、5−アミノテトラゾール、および5−フェニルテトラゾールが挙げられる。
インドール化合物の具体例としては、例えば、1H−インドール、1−メチル−1H−インドール、2−メチル−1H−インドール、3−メチル−1H−インドール、4−メチル−1H−インドール、5−メチル−1H−インドール、6−メチル−1H−インドール、および7−メチル−1H−インドールが挙げられる。
【0059】
インダゾール化合物の具体例としては、例えば、1H−インダゾールおよび5−アミノ−1H−インダゾールが挙げられる。
【0060】
中でも好ましい複素環化合物はトリアゾール骨格を有する化合物であり、とりわけ1,2,3−トリアゾール、および1,2,4−トリアゾールは特に好ましい。これらの複素環化合物は、研磨対象物表面への化学的または物理的吸着力が高いため、より強固な保護膜を研磨対象物表面に形成する。このことは、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の平坦性を向上させるうえで有利である。
【0061】
研磨用組成物中の金属防食剤の含有量は、0.001g/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.005g/L以上、さらに好ましくは0.01g/L以上である。金属防食剤の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の平坦性が向上する有利がある。
【0062】
研磨用組成物中の金属防食剤の含有量はまた、10g/L以下であることが好ましく、より好ましくは5g/L以下、さらに好ましくは1g/L以下である。金属防食剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する有利がある。
【0063】
(水溶性高分子)
研磨用組成物には、酸化剤、水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質、およびpH緩衝剤以外に、それらのカテゴリーに含まれない水溶性高分子をさらに含有させることができる。研磨用組成物中に上記カテゴリーに含まれない水溶性ポリマーを加えた場合には、砥粒の表面または研磨対象物の表面に、その水溶性ポリマーが吸着することにより研磨用組成物による研磨速度をコントロールすることが可能であることに加え、研磨中に生じる不溶性の成分を研磨用組成物中で安定化することができる有利がある。
【0064】
使用可能な、その水溶性高分子は、例えば、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、カードランおよびプルランなどの多糖類;ポリカルボン酸およびその塩;ポリビニルアルコールおよびポリアクロレインなどのビニル系ポリマー;ポリグリセリンおよびポリグリセリンエステルである。中でもカルボキシメチルセルロース、プルラン、ポリカルボン酸およびその塩、ポリビニルアルコールが好ましく、特に好ましいのはプルラン、ポリビニルアルコールである。
【0065】
(砥粒)
砥粒は研磨対象物を機械的に研磨する作用を有し、研磨用組成物中に砥粒を加えた場合には、研磨用組成物による研磨速度が向上する有利がある。
使用される砥粒は、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニアなどの金属酸化物からなる粒子、ならびに窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子および窒化ホウ素粒子が挙げられる。中でもシリカが好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。有機粒子の具体例としては、例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。
【0066】
使用される砥粒の平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、より好ましくは7nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する有利がある。
【0067】
使用される砥粒の平均一次粒子径はまた、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは40nm以下である。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にディッシングが生じにくくなる有利がある。なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて、式: 平均一次粒子径[nm]=定数/比表面積[m/g]により計算される。なお、砥粒がシリカまたはコロイダルシリカの場合は、上記の定数は2121となる。
【0068】
研磨用組成物中の砥粒の含有量は、0.005質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。砥粒の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する有利がある。
【0069】
研磨用組成物中の砥粒の含有量はまた、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。砥粒の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にディッシングが生じにくくなる有利がある。
【0070】
前記実施形態は次のように変更されてもよい。
・前記実施形態の研磨用組成物は、防腐剤や防カビ剤のような公知の添加剤を必要に応じてさらに含有してもよい。防腐剤および防カビ剤の具体例としては、例えば、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類およびフェノキシエタノールが挙げられる。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、半導体デバイスの配線を形成するための研磨以外の用途で使用されてもよい。
【0071】
次に、本発明の実施例および比較例を説明する。
酸化剤としての過酸化水素、水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質、pH緩衝剤、研磨促進剤、界面活性剤および砥粒を水に混合し、実施例1〜9の研磨用組成物を調製した。また、酸化剤としての過酸化水素、水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質、pH緩衝剤に代わる物質、研磨促進剤、界面活性剤および砥粒を水に混合し、比較例1〜5の研磨用組成物を調製した。各例の研磨用組成物中のpH緩衝剤またはpH緩衝剤に代わる物質の詳細を表2の“pH緩衝剤またはそれに代わる化合物”欄の“名称”と“含有量”部分に記載し、後述するpHのデータを“pH”欄の “過酸化水素あり”の部分に、後述する研磨速度を“研磨速度”の欄に記載した。なお、表2には示していないが、実施例1〜9および比較例1〜5の研磨用組成物はいずれも、酸化剤としての51.6g/Lの31重量%の過酸化水素水(過酸化水素として16g/L)、水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質として、0.5g/Lのポリオキシエチレンアルキルエーテル、および0.15g/Lの1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]−5−メチルベンゾトリアゾールと、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]−4−メチルベンゾトリアゾールの1:1混合物と、研磨促進剤としての10g/Lのグリシンと、界面活性剤としての0.3g/Lのラウリルエーテル硫酸アンモニウムと、砥粒としての0.1質量%のコロイダルシリカ(BET法による平均一次粒子径30nm)とを含有している。また、これらの研磨用組成物はいずれも、水酸化カリウムを用いてpHを約7.5に調整している。また、実施例1〜9および比較例1〜5のpH変化の規準として、実施例、比較例の各例について、過酸化水素を含有しないものを同時に調製し、表2の“pH”欄の“過酸化水素なし”の部分に後述するpHのデータとして記載した。
【0072】
【表2】

【0073】
<pH>
実施例1〜9および比較例1〜5ならびにそれらから過酸化水素を除いた各組成物について、混合直後のpHと8日間静置保管後のpHを測定し、8日間静置保管後のpHから混合直後のpHの値を差し引いてpH変化値を求めた。なお、静置保管作業は、恒温槽を用いて常温(23℃〜27℃)の環境下で行い、pH測定はpHメーター(株式会社堀場製作所製のF−52)を用いて各組成物の液温を常温(23℃〜27℃)に保った状態で行った。
【0074】
<研磨速度>
過酸化水素を含有する、各例の研磨用組成物を用いて、銅ブランケットウェーハの表面を、表3に記載の第1の研磨条件および表4に記載の第2の研磨条件で60秒間研磨したときの第1の研磨条件における研磨速度を表2の“研磨速度”欄の“高圧条件”部分に、第2の研磨条件のおける研磨速度を表2の“研磨速度”欄の“低圧条件”部分に記載した。研磨速度の値は、シート抵抗測定器 VR−120/08SD(株式会社日立国際電気製)を用いて測定される研磨前後の銅ブランケットウェーハの厚みの差を研磨時間で除することにより求めた。また、研磨速度の変化率は、(8日後の研磨速度 − 混合直後の研磨速度)/混合直後の研磨速度×100にて求め、“研磨速度変化率”の部分に、パーセント表示で記載した。
【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
表2に示すように、過酸化水素を添加しない場合は、実施例、比較例共にpH変化は測定の誤差範囲内であった。過酸化水素を含む、実施例1〜9の研磨用組成物を使用した場合には、8日間でのpH変化は、変化の絶対値として、0.5以下であり、良好であった。それに対し、比較例1〜5の研磨用組成物を使用した場合には、8日間でのpH変化の絶対値は0.6よりも大きく、pH変化が大きいことが示された。このことは、研磨速度の変化率にも表れており、実施例1〜9では高圧条件での研磨速度、低圧条件での研磨速度ともに、研磨速度の変化率は±5%以下で良好であった。この実験結果は、研磨用組成物のpH変化の安定化を行うことにより、研磨速度の変化率が少なくなり、研磨性能が安定化する効果が得られたことを示している。
【0078】
また、実施例5と実施例9を比較した場合、N−(2−アセトアミド)−イミノ二酢酸よりもN−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸を含有した研磨組成物の方が、pH変化の絶対値および研磨速度の変化率ともに良好であった。さらに、実施例1〜7から、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸を0.5mmol/L以上含む研磨組成物は、研磨速度の変化率が±2%以下で良好であり、研磨性能を安定化させる観点から非常に良好であった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中において酸化剤との共存下でpHを低下させる物質、およびpH緩衝剤を含有する研磨用組成物であって、研磨用組成物100gに対して、31重量%の過酸化水素水を5.16g添加した場合の8日後のpH変化の絶対値が0.5以下であることを特徴とする研磨用組成物。

【請求項2】
pH緩衝剤がアミド基を有することを特徴とする、請求項1に記載の研磨用組成物。

【請求項3】
pH緩衝剤がスルホ基およびカルボキシル基から選ばれる1種以上の官能基を含有する両性アミノ酸であることを特徴とする、請求項1または2に記載の研磨用組成物。

【請求項4】
pH緩衝剤が、下記の一般式(1)の構造を有し、式中、RおよびRはそれぞれ独立に炭素原子数が1〜4の無置換または置換の直鎖アルキル基を示し、Rは水素原子、ヒドロキシル基、スルホ基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバモイル基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基、ハロゲン基、フェニル基、アセチル基、炭素原子数が1〜4の無置換または置換アルキル基で表される官能基のいずれかを示し、Xはスルホ基またはカルボキシル基、およびそれらの塩で表される官能基のいずれかを示す、請求項1〜3のいずれかに記載の研磨用組成物。
【化1】

【請求項5】
一般式(1)において、Xはスルホ基またはその塩で表される官能基であることを特徴とする請求項4に記載の研磨組成物。

【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の研磨用組成物を用いて、金属を研磨する方法。

【請求項7】
研磨時に酸化剤を混合することを特徴とする請求項6に記載の研磨方法。

【請求項8】
請求項6または7に記載の研磨方法を用いる工程を有する、金属を含む基板の製造方法。




【公開番号】特開2012−212723(P2012−212723A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76475(P2011−76475)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【Fターム(参考)】