説明

研磨用組成物

【課題】例えばポリシリコンからなる疎水性のケイ素含有部分と例えば酸化シリコン又は窒化シリコンからなる親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨する用途で好適に用いることができる研磨用組成物を提供する。
【解決手段】本発明の研磨用組成物は、親水性基を有する水溶性重合体、及び砥粒を含有する。研磨用組成物を用いて研磨した後の疎水性のケイ素含有部分の水接触角は、この研磨用組成物から水溶性重合体を除いた組成を有する別の組成物を用いて研磨した後の疎水性のケイ素含有部分の水接触角と比較して小さく、好ましくは57度以下である。このような水溶性重合体の例としては、多糖類又はアルコール化合物が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物の研磨に適した研磨用組成物に関する。本発明はまた、その研磨用組成物を用いた研磨方法及び基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置の銅等の金属配線を形成するための化学的機械的研磨において、ファング(あるいはシーム)と呼ばれる欠陥が研磨後に生じることが問題となっており、このような欠陥の発生を防ぐ目的で、特許文献1〜5に開示されているような研磨用組成物の開発が行われている。
【0003】
一方、半導体装置のプラグ(コンタクトプラグ)やパッド(コンタクトパッド)を、化学的機械的研磨を通じてポリシリコン(多結晶ケイ素)から形成することが行われている。このようなプラグやパッドの形成に際しては一般に、ポリシリコンからなる部分に加えて、その周辺に設けられている酸化シリコン又は窒化シリコンからなる部分も同時に研磨をすることが必要である。この場合、金属配線の形成時と同様のファングに加え、エッジオーバーエロージョン(以下、EOEという)と呼ばれる欠陥も研磨後に生じることがある。このファング及びEOEの発生は、ポリシリコン部分が疎水性であるのに対して酸化シリコン部分又は窒化シリコン部分が親水性であることが原因と考えられる。なお、ここでいうファングとは、ポリシリコン部分と酸化シリコン部分又は窒化シリコン部分との境界で局所的なエロージョンが起こることをいい、特に比較的幅広のポリシリコン部分の両脇で見られるものである。一方、EOEとは、比較的幅狭のポリシリコン部分があまり間隔を空けずに並んだ領域の両脇で局所的なエロージョンが起こることをいう。また同時に、ファングやEOEに加えて、ポリシリコン部分が必要以上に研磨除去されることによりポリシリコン部分の上面のレベルが低下して皿状の凹み、すなわちディッシングが生じるという問題もある。このようなポリシリコンからなるプラグやパッドの形成に際してのファングやEOE、ディッシングなどの欠陥の発生は、特許文献1〜5の研磨用組成物を使用しても防止することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/005143号
【特許文献2】特開2010−41029号公報
【特許文献3】特開2009−256184号公報
【特許文献4】特開2006−86462号公報
【特許文献5】国際公開第2008/004579号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨する用途で好適に用いることができる研磨用組成物を提供すること、またその研磨用組成物を用いた研磨方法及び基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様では、親水性基を有する水溶性重合体、及び砥粒を含有する研磨用組成物を提供する。研磨用組成物を用いて疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨した後の疎水性のケイ素含有部分の水接触角は、この研磨用組成物から水溶性重合体を除いた組成を有する別の組成物を用いて同じ研磨対象物を研磨した後の疎水性のケイ素含有部分の水接触角と比較して小さく、好ましくは57度以下である。
【0007】
水溶性重合体が有する親水性基の数は一分子当たり3個以上であることが好ましい。
水溶性重合体は、多糖類又はアルコール化合物であること、特にポリエーテルであることが好ましい。
【0008】
砥粒は、有機酸を固定化したシリカであることが好ましい。
研磨用組成物は、疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨する用途で使用される。疎水性のケイ素含有部分は例えばポリシリコンからなる。
【0009】
本発明の第2の態様では、上記第1の態様の研磨用組成物を用いて、疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨する方法を提供する。
本発明の第3の態様では、上記第1の態様の研磨用組成物を用いて、疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨することにより、基板を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨する用途で好適に用いることができる研磨用組成物と、その研磨用組成物を用いた研磨方法及び基板の製造方法とが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、砥粒及び水溶性重合体を水に混合することにより調製される。従って、研磨用組成物は、砥粒及び水溶性重合体を含有する。
【0012】
この研磨用組成物は、疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨する用途、さらに言えばその研磨対象物を研磨して基板を製造する用途で使用される。疎水性のケイ素含有部分は、例えばポリシリコンからなるものである。親水性のケイ素含有部分は、例えば酸化シリコン又は窒化シリコンからなるものである。本実施形態の研磨用組成物を用いてそのような研磨対象物を研磨した場合には、疎水性のケイ素含有部分の表面に研磨用組成物中の水溶性重合体が吸着することにより当該表面の濡れ性が向上する結果、ファング及びEOEの発生を抑えることができ、場合によってはさらにディッシングの発生も抑えることができる。
【0013】
本実施形態の研磨用組成物は、このように金属を研磨する用途での使用を意図していないため、金属研磨用の組成物に通常含まれている酸化剤や金属防食剤のような成分を含有してはいない。
【0014】
研磨用組成物中に含まれる水溶性重合体は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基及びエーテル基等の親水性基を有するものである。具体的には例えば、多糖類、アルコール化合物、ポリエーテル、ポリカルボン酸及びその塩等が使用可能である。あるいは、ポリオキシアルキレン鎖を有するノニオン性化合物も使用が可能である。
【0015】
水溶性重合体が有する親水性基の数は、一分子当たり3個以上であることが好ましく、より好ましくは5個以上、さらに好ましくは10個以上である。水溶性重合体が有する親水性基の数が多いほど、研磨対象物、特に疎水性のケイ素含有部分に対する親水効果が高まり、その結果としてファング及びEOEの発生、場合によってはさらにディッシングの発生をより抑えることができる。
【0016】
また、水溶性重合体は、研磨用組成物を用いて疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨した後の疎水性のケイ素含有部分の水接触角が、この研磨用組成物から水溶性重合体を除いた組成を有する別の組成物を用いて同じ研磨対象物を研磨した後の疎水性のケイ素含有部分の水接触角と比較して小さくなるような種類の化合物、好ましくは57度以下、より好ましくは50度以下、さらに好ましくは45度以下となるような種類の化合物の中から選択して使用される。研磨用組成物を用いて研磨後の疎水性のケイ素含有部分の水接触角が小さくなるほど、ファング及びEOEの発生、場合によってはさらにディッシングの発生をより抑えることができる。
【0017】
このような水溶性重合体の具体例としては、多糖類であるアルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、デンプン、寒天、カードラン及びプルラン、
アルコール化合物であるポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ペンタノール、ポリプロピレングリコール及びポリビニルアルコール(このうちポリエチレングリコール、ポリグリセリン及びポリプロピレングリコールはアルコール化合物であってかつポリエーテルである)、
ポリオキシアルキレン鎖を有するノニオン性化合物であるポリオキシエチレン(以下、POEという)アルキレンジグリセルエーテル、POEアルキルエーテル及びモノオレイン酸POE(6)ソルビタン、
ポリカルボン酸又はその塩であるポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリリンゴ酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アンモニウム塩、ポリメタクリル酸ナトリウム塩、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリ(p−スチレンカルボン酸)、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、アミノポリアクリルアミド、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸アンモニウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリアミド酸、ポリアミド酸アンモニウム塩、ポリアミド酸ナトリウム塩、ポリグリオキシル酸、ポリカルボン酸アミド、ポリカルボン酸エステル及びポリカルボン酸塩が挙げられる。
【0018】
研磨用組成物中の水溶性重合体の含有量は10質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは50質量ppm以上、さらに好ましくは100質量ppm以上である。水溶性重合体の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨後の疎水性のケイ素含有部分の水接触角が小さくなり、その結果としてファング及びEOEの発生、場合によってはさらにディッシングの発生をより抑えることができる。
【0019】
研磨用組成物中の水溶性重合体の含有量はまた、100000質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは50000質量ppm以下、さらに好ましくは10000質量ppm以下である。水溶性重合体の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物中の砥粒の凝集が起こりにくくなり、その結果として研磨用組成物の保存安定性が向上する有利がある。
【0020】
水溶性重合体の分子量は100以上であることが好ましく、より好ましくは300以上である。水溶性重合体の分子量が大きくなるにつれて、疎水性のケイ素含有部分の表面に水溶性重合体が効果的に吸着することができ、その結果として研磨用組成物を用いて研磨後の疎水性のケイ素含有部分の水接触角がより小さくなる有利がある。
【0021】
水溶性重合体の分子量は500000以下であることが好ましく、より好ましくは300000以下である。水溶性重合体の分子量が小さくなるにつれて、研磨用組成物中の砥粒の凝集が起こりにくくなり、その結果として研磨用組成物の保存安定性が向上する有利がある。
【0022】
研磨用組成物中に含まれる砥粒は、無機粒子、有機粒子、及び有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニアなどの金属酸化物からなる粒子、並びに窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子及び窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。その中でもシリカ粒子が好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。
【0023】
砥粒は表面修飾されていてもよい。通常のコロイダルシリカは、酸性条件下でゼータ電位の値がゼロに近いために、酸性条件下ではシリカ粒子同士が互いに電気的に反発せず凝集を起こしやすい。これに対し、酸性条件でもゼータ電位が比較的大きな負の値を有するように表面修飾された砥粒は、酸性条件下においても互いに強く反発して良好に分散する結果、研磨用組成物の保存安定性を向上させることになる。このような表面修飾砥粒は、例えば、アルミニウム、チタン又はジルコニウムなどの金属あるいはそれらの酸化物を砥粒と混合して砥粒の表面にドープさせることにより得ることができる。
【0024】
あるいは、研磨用組成物中の表面修飾砥粒は、有機酸を固定化したシリカであってもよい。中でも有機酸を固定化したコロイダルシリカを好ましく使用することができる。コロイダルシリカへの有機酸の固定化は、コロイダルシリカの表面に有機酸の官能基を化学的に結合させることにより行われる。コロイダルシリカと有機酸を単に共存させただけではコロイダルシリカへの有機酸の固定化は果たされない。有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2−ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0025】
研磨用組成物中の砥粒の含有量は0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である。砥粒の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による疎水性のケイ素含有部分及び親水性のケイ素含有部分の除去速度が向上する有利がある。
【0026】
研磨用組成物中の砥粒の含有量はまた、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。砥粒の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、砥粒の凝集が起こりにくい。また、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによりスクラッチの少ない研磨面を得られやすい。
【0027】
砥粒の平均一次粒子径は5nm以上であることが好ましく、より好ましくは7nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による疎水性のケイ素含有部分及び親水性のケイ素含有部分の除去速度が向上する有利がある。なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて計算することができる。
【0028】
砥粒の平均一次粒子径はまた、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは90nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによりスクラッチの少ない研磨面を得られやすい。
【0029】
砥粒の平均二次粒子径は150nm以下であることが好ましく、より好ましくは120nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。砥粒の平均二次粒子径の値は、例えば、レーザー光散乱法により測定することができる。
【0030】
砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる砥粒の平均会合度は1.2以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上である。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による疎水性のケイ素含有部分及び親水性のケイ素含有部分の除去速度が向上する有利がある。
【0031】
砥粒の平均会合度はまた、4以下であることが好ましく、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下である。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによりスクラッチの少ない研磨面を得られやすい。
【0032】
研磨用組成物のpHは12以下であることが好ましく、より好ましくは11以下、さらに好ましくは10以下である。研磨用組成物のpHが小さくなるにつれて、研磨用組成物による疎水性のケイ素含有部分のエッチングが起こりにくくなり、その結果としてディッシングの発生をより抑えることができる。
【0033】
研磨用組成物のpHを所望の値に調整するために必要に応じて使用されるpH調整剤は酸及びアルカリのいずれであってもよく、また無機及び有機の化合物のいずれであってもよい。
【0034】
本実施形態によれば以下の作用及び効果が得られる。
・ 本実施形態の研磨用組成物に含まれている水溶性重合体は親水性基を有しているため、疎水性のケイ素含有部分の表面にこの水溶性重合体が吸着することにより当該表面の濡れ性を向上することができる。このことが、本実施形態の研磨用組成物を用いて疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨した場合にファング及びEOEの発生を抑えることができ、場合によってはさらにディッシングの発生も抑えることができる理由と考えられる。そのため、本実施形態の研磨用組成物は、そのような研磨対象物を研磨する用途で好適に使用することができる。
【0035】
・ 研磨用組成物のpHが酸性(例えばpH6以下)であってかつ研磨用組成物中に含まれる砥粒として有機酸を固定化したコロイダルシリカを使用した場合には、ファング、EOE及びディッシングの発生をさらに抑えることができる。その理由は、有機酸を固定化したコロイダルシリカのゼータ電位が酸性のpH領域で負の値を示すのに対し、研磨対象物のポリシリコンなどの疎水性のケイ素含有部分のゼータ電位もまた酸性のpH領域で負の値を示すためである。つまり、酸性のpH領域では研磨用組成物中の砥粒が研磨対象物の疎水性のケイ素含有部分に対して電気的に反発し、その結果、砥粒による疎水性のケイ素含有部分の過剰研磨が原因のファング、EOE及びディッシングは生じにくい。
【0036】
・ 研磨用組成物のpHが酸性(例えばpH6以下)であってかつ研磨用組成物中に含まれる砥粒として有機酸を固定化したコロイダルシリカを使用した場合には、研磨用組成物による研磨対象物の親水性のケイ素含有部分の研磨速度が向上する。その理由は、有機酸を固定化したコロイダルシリカのゼータ電位が酸性のpH領域で負の値を示すのに対し、研磨対象物の酸化シリコンや窒化シリコンなどの親水性のケイ素含有部分のゼータ電位が酸性のpH領域で正の値を示すためである。つまり、酸性のpH領域では研磨用組成物中の砥粒が研磨対象物の親水性のケイ素含有部分に対して電気的に反発せず、その結果、砥粒による親水性のケイ素含有部分の機械的研磨が促進される。
【0037】
・ 研磨用組成物中に含まれる砥粒として有機酸を固定化したコロイダルシリカを使用した場合には、長期にわたり優れた分散安定性を有する研磨用組成物が得られる。その理由は、有機酸を固定化したコロイダルシリカは、有機酸が固定化されていない通常のコロイダルシリカに比べて、研磨用組成物中でのゼータ電位の絶対値が大きい傾向があるためである。研磨用組成物中でのゼータ電位の絶対値が大きくなるにつれて、シリカ粒子同士の間の静電的斥力が強まるために、ファンデルワールス力による引力が原因のコロイダルシリカの凝集は起こりにくくなる。例えば酸性のpH領域において、有機酸を固定化したコロイダルシリカのゼータ電位は一般に−15mV以下の負の値を示すのに対し、通常のコロイダルシリカのゼータ電位はゼロに近い値を示す。
【0038】
前記実施形態は次のように変更されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、水溶性重合体を二種類以上含有してもよい。この場合、一部の水溶性重合体については必ずしも親水性基を有している必要はなく、また疎水性のケイ素含有部分の水接触角を小さくする作用を必ずしも有している必要もない。
【0039】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、防腐剤のような公知の添加剤を必要に応じてさらに含有してもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型を始めとする多液型であってもよい。
【0040】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水で希釈することにより調製されてもよい。
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0041】
コロイダルシリカゾルを水で希釈し、pH調整剤として有機酸を添加してpHの値を3に調整することにより比較例1の研磨用組成物を調製した。コロイダルシリカゾルを水で希釈し、そこに水溶性重合体を加えた後、有機酸を添加してpHの値を3に調整することにより実施例1〜12及び比較例2,3の研磨用組成物を調製した。各研磨用組成物中の水溶性重合体の詳細は表1に示すとおりである。
【0042】
なお、表1中には示していないが、実施例1〜12及び比較例1〜3の研磨用組成物はいずれも、スルホン酸を固定化したコロイダルシリカ(平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径70nm、平均会合度2)を5質量%含有している。
【0043】
【表1】

実施例1〜12及び比較例1〜3の各研磨用組成物について、分散安定性を評価した結果を表2の“分散安定性”欄に示す。同欄中の“×”は、調製直後の研磨用組成物においてゲル化が認められたことを示し、“△”は、調製直後にはゲル化が認められなかったものの60℃の高温加速条件で1週間保管した後にゲル化が認められたことを示し、“○”は60℃の高温加速条件で1週間保管した後にもゲル化が認められなかったことを示す。
【0044】
実施例1〜12及び比較例1〜3の各研磨用組成物を用いて、ポリシリコンからなる部分と高密度プラズマCVD酸化シリコンからなる部分とを有する直径200mmのpoly-Si/HDPパターンウェーハを、表3に示す条件で研磨した。このパターンウェーハの研磨は、ポリシリコン部分の上面が露出した後、15秒だけさらに継続の後に終了させた。
【0045】
研磨後の各パターンウェーハを純水でリンスし、乾燥空気を吹き付けて乾燥した後、市販の接触角評価装置を用いてθ/2法で、ポリシリコン部分の水接触角を測定した。その結果を表2の“水接触角”欄に示す。
【0046】
研磨後の各パターンウェーハについて、100μm幅のポリシリコン部分が100μm間隔で形成されている領域で、原子間力顕微鏡を用いて、ファングの進行量及びディッシングの進行量を測定した。その結果を表2の“100μm/100μm領域”欄の“ファング進行量”欄及び“ディッシング進行量”欄に示す。
【0047】
同じく研磨後の各パターンウェーハについて、0.25μm幅のポリシリコン部分が0.25μm間隔で形成されている領域で、原子間力顕微鏡を用いて、EOEの進行量及びディッシングの進行量を測定した。その結果を表2の“0.25μm/0.25μm領域”欄の“EOE進行量”欄及び“ディッシング進行量”欄に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

表2に示すように、実施例1〜12の研磨用組成物を用いた場合には、水溶性重合体を含有しない比較例1の研磨用組成物を用いた場合に比べて研磨後のポリシリコン部分の水接触角が小さく、この場合、比較例1の研磨用組成物を用いた場合に比べてファング進行量及びEOE進行量のいずれも減少が認められた。中でも実施例1〜3,6〜12の研磨用組成物を用いた場合には、ファング進行量及びEOE進行量に加えてディッシング進行量ついても、比較例1の研磨用組成物を用いた場合に比べて減少が認められた。それに対し、比較例2,3の研磨用組成物を用いた場合には、比較例1の研磨用組成物を用いた場合に比べて研磨後のポリシリコン部分の水接触角が大きく、この場合、比較例1の研磨用組成物を用いた場合に比べて少なくともEOE進行量で減少が認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物であって、
親水性基を有する水溶性重合体、及び砥粒を含有し、
前記研磨用組成物を用いて前記研磨対象物を研磨した後の疎水性のケイ素含有部分の水接触角が、前記研磨用組成物から水溶性重合体を除いた組成を有する別の組成物を用いて前記研磨対象物を研磨した後の疎水性のケイ素含有部分の水接触角と比較して小さい
ことを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
前記研磨用組成物を用いて前記研磨対象物を研磨した後の疎水性のケイ素含有部分の水接触角は57度以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記水溶性重合体が有する親水性基の数は一分子当たり3個以上である、請求項1又は2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記水溶性重合体は、多糖類又はアルコール化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記アルコール化合物はポリエーテルである、請求項4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記疎水性のケイ素含有部分はポリシリコンからなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記砥粒は有機酸を固定化したシリカである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて、疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨することを特徴とする研磨方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて、疎水性のケイ素含有部分と親水性のケイ素含有部分とを有する研磨対象物を研磨する工程を有することを特徴とする基板の製造方法。

【公開番号】特開2013−21291(P2013−21291A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−284285(P2011−284285)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【Fターム(参考)】