説明

研磨装置

【課題】研磨液を研磨工具と被加工面の間に介在させて研磨加工を施す研磨装置において、研磨工具が研磨液に水没して浮力を発生するのを防ぐ。
【解決手段】研磨工具3は回転しながら被加工物5の被加工面5aに圧接され、被加工面5aの研磨加工を行う。研磨液は、研磨液供給手段19によって研磨工具3の加工部3aに供給され、研磨液排出手段20によって排出される。研磨液供給手段19及び研磨液排出手段20は、回転ステージ17a及び上下ステージ17bによって研磨工具3に対する相対位置を変化させ、常時、研磨工具3の下側から研磨液を排出することで、研磨工具3が研磨液に水没するのを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い形状精度が要求される光学素子等を研磨加工する研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、X線やさらなる短波長を光源とする露光装置に用いられる光学素子を研磨加工する高精度な研磨装置においては、数ナノメートルの研磨除去量精度が必要となる。その場合研磨工具と被加工物との圧接部の荷重は、研磨除去量に比例しており、高い正確さが求められる。
【0003】
従来の研磨装置は、上記圧接部の荷重を所望に保つために、例えば特許文献1に開示されたように、研磨工具の研磨液に対する水没量を検出し、検出した水没量を予め定めた設定値と比較して、研磨タブ内の研磨液を増減させる。
【0004】
また、特許文献2に開示されたものは、研磨工具を被加工物に押付ける加重手段と、研磨工具を回転させる回転手段とを有する研磨ヘッドにおいて、加重手段に、その可動部の自重をキャンセルするためのスプリングを装着する。さらに、加重軸の変位、研磨ヘッドの傾き及び研磨液面の高さを検出する手段と、スプリングの反力変化、研磨ヘッドの傾き時の自重変化及び弾性球体である研磨工具の浮力変化を制御するエアシリンダと、を有する。加重軸の変位、研磨ヘッドの傾き及び研磨液面の高さを検出する手段からの信号を元に、エアシリンダで発生する力を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3367957号公報
【特許文献2】特許第3113002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術は、研磨工具と被加工物との圧接部の荷重を所望に保つために、研磨液を工具中心や近傍から噴出する構成であるため、被加工物が凹面の場合、被加工物の凹部に研磨液が溜まり、研磨工具が水没して浮力が発生する。
【0007】
研磨工具の水没量を検出する構成では、研磨工具の水没量及び液面の高さ検出のために研磨液面を計測する手段が、研磨工具の回転で生じる研磨液の飛散によって汚れ、誤測定が生じる。また、研磨工具が回転して研磨液が流れを生じると液面が揺れ、被加工面近傍の液面を正確に測定できない場合が生じ、研磨工具の水没量及び液面の高さの検出が不正確となり、実際の浮力値との相違が生じるおそれがあった。
【0008】
本発明は、被加工物の凹部に研磨液が溜まり、研磨工具が水没することによる浮力の発生を抑制することのできる研磨装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の研磨装置は、研磨工具と、前記研磨工具を被加工物に圧接して回転させる手段と、前記研磨工具の加工部に研磨液を供給する研磨液供給手段と、前記研磨工具の加工部から研磨液を排出する研磨液排出手段と、前記研磨液供給手段及び前記研磨液排出手段を前記研磨工具の周囲に保持しながら、前記研磨工具とともに被加工物の被加工面に倣って移動させる手段と、前記研磨工具に対する、前記研磨液供給手段及び前記研磨液排出手段の相対位置を制御するステージ機構と、を有し、前記ステージ機構は、被加工物の被加工面に倣って移動する前記研磨工具の下側に、前記研磨液排出手段の相対位置を保つことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
研磨工具の移動とともに、研磨液排出手段を研磨工具の下側に移動させて研磨液を排出することにより、研磨工具の水没を回避して、浮力の発生を抑制する。これによって、研磨荷重の変動を防ぎ、安定した高精度な研磨加工を行うことができる。また、研磨工具の水没量及び液面の高さ検出等が不要となり、研磨加工の効率化を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1による研磨装置を示すもので、(a)はその装置構成を示す模式断面図、(b)は研磨工具の加工部と研磨液供給手段及び研磨液排出手段の位置関係を説明する平面図である。
【図2】図1(b)のB位置及びC位置における研磨工具と研磨液供給手段及び研磨液排出手段の位置関係を説明する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0012】
図1に示すように、研磨ヘッドの筐体1は、回転駆動源であるモータ2を支持し、モータ2は、研磨工具3に連結された研磨工具軸4に回転運動を伝える。これによって研磨工具3は回転し、被加工物5の被加工面5aの法線方向に沿って角度及び位置を変化させて、逐次被加工物5に圧接されることで研磨加工を行う。角型のリニアエアーベアリング6は、筐体1に固定され、エアーの供給によって可動子7がラジアル方向に拘束され、摺動抵抗の少ないスラスト方向の移動を行う。可動子7は、中心にベアリング8を配し、これによって研磨工具軸4を回転支持する。被加工物5は加工テーブル9上に保持される。可動子7上のモータ取付け部材10はモータ2を支持し、モータドライバコントローラ11は、モータ2の回転をコントロールする。
【0013】
研磨工具3と被加工物5との圧接部である加工部3aの荷重は、研磨工具3、研磨工具軸4、ベアリング8、可動子7、モータ取付け部材10及びモータ2によるものであり、0.7Nとなる。研磨工具3の先端径はφ20mm、厚さ5mmである。被加工物5は外形105mm、R120mm、深さ15mmの凹形状である。本実施例においては予めその近傍に加工を施したものを用いた。研磨液は、酸化セリウムの微粒子を研磨液溶媒である純水に混合させたものである。
【0014】
このように構成された研磨ヘッドは、パラレルリンクコントローラ12の指令により、自在に角度及び高さが変更できるパラレルリンク機構13に設置される。被加工物5を保持する加工テーブル9は、加工テーブルコントローラ14の指令によりX、Y方向に移動する。
【0015】
加工物形状データ計算機15は、被加工物5の形状データから被加工面5aの法線軸上に研磨工具3の軸中心を一致させる法線追従を行うべく、研磨ヘッドの角度及び位置を計算し、逐次、角度位置変更制御装置16へ情報を送信する。この情報から、角度位置変更制御装置16は、パラレルリンクコントローラ12及び加工テーブルコントローラ14へ指令を送り、研磨ヘッドの傾斜角度及び被加工物5の位置変更を逐次行う。
【0016】
筐体1は、回転ステージ17a及び上下ステージ17bからなるステージ機構を保持し、これらは、研磨工具3とともに移動する。回転ステージ17aは、回転ステージコントローラ18aの指令により、研磨工具軸4と同芯で回転し、研磨工具3に対する研磨液供給手段19及び研磨液排出手段20の回転位置(回転方向の相対位置)を制御する。研磨液供給手段19及び研磨液排出手段20は、互に対向して研磨工具3の周囲に保持されている。上下ステージ17bは、上下ステージコントローラ18bの指令により、回転ステージ17aを上下動させることで、研磨工具3の周囲において、研磨液供給手段19及び研磨液排出手段20の上下位置(上下方向の相対位置)を制御する。
【0017】
研磨液供排機構位置計算機21は、加工物形状データ計算機15からの研磨ヘッドの角度及び位置の計算情報を受信し、逐次回転ステージコントローラ18aに情報を送信する。この情報から回転ステージコントローラ18aは、回転ステージ17aへ指令を送り、研磨液供給手段19及び研磨液排出手段20の回転位置の変更を逐次行う。
【0018】
研磨液供排機構位置計算機22は、研磨液供給手段19及び研磨液排出手段20の先端部が被加工物5に接触しない位置を計算し、上下ステージコントローラ18bに情報を送信する。この情報から上下ステージコントローラ18bは、上下ステージ17bへ指令を送り、研磨液供給手段19及び研磨液排出手段20の上下位置の変更を逐次行う。
【0019】
研磨液供給ポンプ22は、研磨液供給手段19へ繋がり研磨液を供給する。研磨液排出ポンプ23は、研磨液排出手段20へ繋がり研磨液を排出する。
【0020】
図1(b)におけるA位置では、被加工物5の中心を加工し、B位置では、傾斜角度をもつ図中右斜め上方向を加工する。C位置では、傾斜角度をもつ図中右斜め上方向を加工する。被加工物5の法線軸上に研磨工具3の軸中心を一致させて加工を行う場合には、A位置は被加工物5の中心であるから、研磨工具3の軸中心は垂直であり、B位置及びC位置は傾斜を成す。
【0021】
A位置では、研磨液が被加工面5aの底部に位置する研磨液供給手段19から研磨工具3の加工部3aに供給され、すぐさま研磨液排出手段20から排出されるため、研磨工具3は研磨液に水没しない。従って浮力による変動はゼロである。
【0022】
図2(a)、(b)にそれぞれ示すように、傾斜角度をもつB位置及びC位置においても、研磨液排出手段20が研磨工具3の下側に相対移動して研磨液を排出するため、研磨工具3は研磨液に水没しない。従って浮力による変動はゼロである。
【0023】
実際にモータドライバコントローラ15からの指令で研磨工具3を30Hzで回転させ、被加工物5を研磨加工を施した結果、研磨液の浮力による荷重変動が抑制された高精度な研磨加工を行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
X線及びさらなる短波長を光源とする露光装置に用いられる高い精度のレンズやミラーの加工に適用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 筐体
2 モータ
3 研磨工具
4 研磨工具軸
17a 回転ステージ
17b 上下ステージ
19 研磨液供給手段
20 研磨液排出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨工具と、
前記研磨工具を被加工物に圧接して回転させる手段と、
前記研磨工具の加工部に研磨液を供給する研磨液供給手段と、
前記研磨工具の加工部から研磨液を排出する研磨液排出手段と、
前記研磨液供給手段及び前記研磨液排出手段を前記研磨工具の周囲に保持しながら、前記研磨工具とともに被加工物の被加工面に倣って移動させる手段と、
前記研磨工具に対する、前記研磨液供給手段及び前記研磨液排出手段の相対位置を制御するステージ機構と、を有し、
前記ステージ機構は、被加工物の被加工面に倣って移動する前記研磨工具の下側に、前記研磨液排出手段の相対位置を保つことを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記ステージ機構は、
前記研磨液供給手段及び前記研磨液排出手段を前記研磨工具のまわりに回転させる回転ステージと、
前記研磨液供給手段及び前記研磨液排出手段を前記研磨工具の周囲において上下動させる上下ステージと、を有することを特徴とする請求項1に記載の研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−156628(P2011−156628A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21159(P2010−21159)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】