説明

研磨装置

【課題】簡単な構造で異物の吸い込みによる吸着機能の低下を改善する。
【解決手段】多孔質体2に保持部材1の吸引孔1aと連通する連絡穴2aを、多孔質体2のワーク対向面2bに向けて延長形成することにより、多孔質体2の内部に研削屑などの異物が吸い込まれても、吸引孔1a及び連絡穴2aを通って真空源からの吸引力が、多孔質体2のワーク対向面2bまで低下することなく到達するため、板状ワークWの吸着機能が劣化し難いとともに、多孔部材2のワーク対向面2bの表面層近くに吸い込まれた異物は、洗浄によって容易に除去可能であるため、短時間で多孔質体2を初期状態に戻すことが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体シリコンウエハなどの製造過程において、ウエハなどの片面を吸着保持し、その吸着側の面と反対側の面を鏡面研磨(ポリッシング)加工や研削加工するために用いられる研削装置を含む研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の研磨装置の吸着構造としては、半導体装置の製造工程において、円板形状の多孔質体を接着剤により器状の緻密質体からなる支持部に接合し、この支持部に形成された吸引孔から真空吸引することにより、多孔質体の表面に半導体ウエハなどの基板を吸着保持する真空吸着装置がある(例えば、特許文献1の図1参照)。
また、円板状のセラミックス多孔質体と、この多孔質体の吸着保持部を除く全体を取り囲むように設けられた凹型吸引部と、これら多孔質体及び凹型吸引部を支持する器状の支持部とを備え、多孔質体及び支持部が、凹型吸引部と実質的に隙間なく直接接合されており、凹型吸引部の平均気孔径を多孔質体の平均気孔径よりも大きくした真空吸着装置がある(例えば、特許文献1の図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−224402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし乍ら、このような従来の研磨装置の吸着構造では、例えば研削屑(切り粉)や塵芥などの異物が多孔質体の内部に吸い込まれて目詰まりを起こし、ウエハなどの板状ワークの吸着が不均一になったり、異物がウエハなどの板状ワークの裏面に転移して汚染したりするおそれがあるため、目詰まりした異物を除去する必要がある。
そこで、このような多孔質体の洗浄は、一般的に水酸化ナトリウムなどによる超音波洗浄を行っているが、多孔質体の内部深いところまで吸い込まれた異物を除去することは困難で、異物の除去作業に時間を要するだけでなく、洗浄の程度が不明であった。
それにより、超音波洗浄を行っても多孔質体の内部のどこかに異物が残存するため、板状ワークの吸着がその面内で部分的に不均一となり、この状態で研磨を実施すると、板状ワークの研磨面全体で均一な加工が行えず、板状ワークの品質にバラツキが生じるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題に対処することを課題とするものであり、簡単な構造で異物の吸い込みによる吸着機能の低下を改善すること、加工時において保持部材に対する多孔質体の位置ズレを防止すること、連絡穴を容易に作成すること、などを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために本発明は、真空源に通じる吸引孔が設けられる保持部材と、前記保持部材に前記吸引孔と連通するように設けられて板状ワークの一面と対向する多孔質体と、前記板状ワークの他面と対向する加工面が設けられて前記保持部材との相対移動により該板状ワークの他面を加工する定盤とを備え、前記多孔質体に前記保持部材の前記吸引孔と連通する連絡穴を、該多孔質体のワーク対向面に向けて延長形成したことを特徴とする。
【0007】
前述した特徴に加えて、前記保持部材に凹部を形成し、該凹部内に前記多孔質体を配置したことを特徴とする。
【0008】
さらに前述した特徴に加えて、前記保持部材の前記吸引孔を前記保持部材の厚さ方向へ向け直線状に開穿し、前記保持部材に対して前記多孔質体が固着され、前記吸引孔から前記多孔質体に向けて前記連絡を延長形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
前述した特徴を有する本発明は、多孔質体に保持部材の吸引孔と連通する連絡穴を、多孔質体のワーク対向面に向けて延長形成することにより、多孔質体の内部に研削屑などの異物が吸い込まれても、吸引孔及び連絡穴を通って真空源からの吸引力が、多孔質体のワーク対向面まで低下することなく到達するため、板状ワークの吸着機能が劣化し難いとともに、多孔部材のワーク対向面の表面層近くに吸い込まれた異物は、洗浄によって容易に除去可能であるため、短時間で多孔質体を初期状態に戻すことが可能であるので、簡単な構造で異物の吸い込みによる吸着機能の低下を改善することができる。
その結果、保持部材の吸引孔に多孔質体が接合されている従来のものに比べ、異物による目詰まりが発生し難くなり、異物の洗浄作業を行う間隔も延長できて、長期間に亘り板状ワークを高精度に研磨できるとともに、1回の異物の洗浄作業に要する時間を短縮化できて稼働率の低下を最小限度に抑えることができる。
さらに、保持部材に吸引孔1aと連通するように多孔質体が接合されている従来のものに追加して、吸引孔を延長するだけで、板状ワークの加工精度を向上させる改良が行え、改造のコストを安く抑えることができる。
【0010】
さらに、前記保持部材に凹部を形成し、該凹部内に前記多孔質体を配置した場合には、保持部材に対して多孔質体が一体的に組み付けられるので、加工時において保持部材に対する多孔質体の位置ズレを防止することができる。
その結果、板状ワークの研磨精度を安定させることができる。
【0011】
また、前記保持部材の前記吸引孔を前記保持部材の厚さ方向へ向け直線状に開穿し、前記保持部材に対して前記多孔質体が固着され、前記吸引孔から前記多孔質体に向けて前記連絡を延長形成した場合には、保持部材から多孔質体を取外すことなく、連絡穴が延長形成可能となるので、連絡穴を容易に作成することができる。
その結果、保持部材の凹部に多孔質体が固着されている従来のものであっても、簡単に板状ワークの研磨精度を向上させる改良が行え、改造のコストを安く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る研磨装置を示す縦断図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る研磨装置Aは、図1に示すように、吸引孔1aが設けられる保持部材1と、この保持部材1に吸引孔1aと連通するように設けられる多孔質体2と、この多孔質体2と対向するように加工面3aが設けられる定盤3とを備え、多孔質体2に対し、例えば半導体シリコンウエハなどの板状ワークWをその一面(裏面)W1が対向するように吸着保持して、保持部材1及び多孔質体2と定盤3とを相対的に移動させることにより、板状ワークWの他面(表面)W2を加工面3aに押し付けて鏡面研磨(ポリッシング)加工や平面研削などの加工が行われるものである。
すなわち、本発明の実施形態に係る研磨装置Aは、板状ワークWの他面(表面)W2を鏡面研磨(ポリッシング)加工するためのいわゆる研磨装置に限らず、板状ワークWの他面(表面)W2を平面研削加工するためのいわゆる研削装置も含まれる。
【0014】
保持部材1は、例えばセラミックスやガラスなどの化学的に侵され難く、且つ経年変化や荷重に対して変形の少ない材質により板状に形成され、後述する多孔質体2を挟んで板状ワークWと対向する個所には、多孔質体2に向けて多数の吸引孔1aを開穿している。
吸引孔1aは、その一端が例えば真空ポンプなど真空源(図示しない)に連結し、他端が保持部材1において後述する多孔質体2との境界面1bに開口している。
吸引孔1aの一例としては、その直径が約1ミリメートル以下で数ミリメートルの間隔で多数開穿され、保持部材1の厚さ方向へ向け直線状に開穿することが好ましい。
ここで、「吸引孔1aを保持部材1の厚さ方向へ向け直線状に開穿する」とは、保持部材1の厚さ方向全長に亘って吸引孔1aが直線状に開穿されることを言い、それには、保持部材1の境界面1bに対し直交する方向へ吸引孔1aを直線状に開穿するだけでなく、境界面1bに対して交差する方向(斜め方向)へ吸引孔1aを直線状に開穿することも含まれる。
さらに、保持部材1の表面には、後述する多孔質体2が収納配置される凹部1cを形成することが好ましい。
【0015】
多孔質体2は、例えば多孔質セラミックスなどの内部に無数の微細な孔(図示しない)が空いている材料で、板状ワークWとほぼ同じ大きさ又はそれよりも大きな板状に形成され、保持部材の吸引孔1aと連通する連絡穴2aを、多孔質体2のワーク対向面2bに向けてそれぞれ延長形成している。
連絡穴2aの先端面2cは、多孔質体2のワーク対向面2bと可能な限り近く配置する方が好ましいものの、ワーク対向面2bと接近したことで破損し易くなるため、多孔質体2の材料強度に応じて先端面2cからワーク対向面2bまでの間隔を調整することが好ましい。
さらに、多孔質体2が保持部材1の境界面1bに対して多孔質体2が固着され、且つ吸引孔1aが保持部材1の厚さ方向へ向け直線状に開穿される場合には、吸引孔1a側から多孔質体2に向けて連絡穴2aを延長形成することが好ましい。
すなわち、保持部材1の方から吸引孔1aに沿って多孔質体2に向け穴開け加工を行うことで、連絡穴2aが吸引孔1aと連続する一直線状に延長して開設される。
【0016】
定盤3は、保持部材1及び多孔質体2と対向する表面に沿って、例えば研磨布などを着脱自在に張架することで加工面3aが設けられ、この加工面3aを保持部材1及び多孔質体2と相対的に移動するように構成し、更に必要に応じて研磨砥粒液(スラリー)を、板状ワークWの他面W2と加工面3aとの間に供給することにより、加工面3aが板状ワークWの他面W2に対し所定圧力で圧接するように構成されている。
【0017】
このような本発明の実施形態に係る研磨装置Aによると、例えば真空ポンプなど真空源を作動開始することで、吸引力が吸引孔1a及び連絡穴2aを介して多孔質体2のワーク対向面2bまで行き渡るため、ウエハなどの板状ワークWの一面W1が吸着保持され、定盤3との相対移動により、板状ワークWの他面W2が加工面3aに押し付けられて鏡面研磨加工や研削加工される。
この加工により発生した研削屑(切り粉)や塵芥などの異物が、多孔質体2の微細な孔から内部に吸い込まれてしまう。
しかし、吸引孔1a及び連絡穴2aを通って真空源からの吸引力が、多孔質体2のワーク対向面2bまで低下することなく到達するため、多少の異物が多孔質体2の微細な孔から内部に吸い込まれても、板状ワークWに対する吸着機能が劣化し難いとともに、多孔部材2のワーク対向面2bの表面層近くに吸い込まれた異物は、例えば水酸化ナトリウムなどによる超音波洗浄によって容易に除去可能であるため、短時間で多孔質体2を初期状態に戻すことが可能である。
それにより、簡単な構造でありながら異物の吸い込みによる吸着機能の低下を改善することができ、長期間に亘り板状ワークWを高精度に研磨できる。
次に、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0018】
この実施例は、図1に示すように、保持部材1が回転軸1dを中心として定盤3の回転方向へ自転する円板状のトップリングで、多孔質体2との境界面1bに凹部1cを形成して円板状の多孔質体2が収納配置され、例えばガラスや合成樹脂などの接着剤で固着されるとともに、定盤3が駆動軸3bを中心として回転するターンテーブルであり、これらトップリングの自転とターンテーブルの回転により、板状ワークWとして例えば拡散ウエハの非拡散面などが高平坦でキズや不純物の無い高品質な鏡面に磨き上げられる場合を示すものである。
【0019】
図1に示される例では、吸引孔1a及び連絡穴2aが、保持部材1と多孔質体2との境界面1bに対して直交する方向へ直線状に開穿されている。
その他の例として図示しないが、吸引孔1a及び連絡穴2aを、境界面1bに対して交差する方向(斜め方向)へ直線状に開穿することも可能である。
さらに、連絡穴2aの先端面2cを、先端面2cからワーク対向面2bの厚さ寸法が、多孔質体2全体の厚さ寸法の約1/2以下、詳しくは1/3以下となるようにワーク対向面2bと接近させて配置している。
【0020】
また、図1に示される例では、保持部材1となるトップリングに対して一つの多孔質体2と一枚の板状ワークWのみを示し、他の多孔質体2及び板状ワークWを省略しているが、トップリングの円周方向へ所定間隔毎に複数の多孔質体2と、これに対応する数の板状ワークWを配置することも可能である。
【0021】
このような本発明の実施例に係る研磨装置Aによると、保持部材1となるトップリングの境界面1bに多孔質体2が収納される凹部1cを形成して接着剤で固着することにより、保持部材1の凹部1cに対して多孔質体2が一体的に組み付けられるため、保持部材1となるトップリングの自転や定盤3となるターンテーブルの回転による研磨時において保持部材1に対し多孔質体2が位置ズレしない。
それにより、板状ワークWの研磨精度を安定させることができるという利点がある。
【0022】
さらに、保持部材1の方から吸引孔1aに沿って多孔質体2に向け穴開け加工を行って、連絡穴2aが吸引孔1aと連続する一直線状に延長して開設すると、保持部材1の凹部1cから多孔質体2を取外すことなく、連絡穴2aが延長形成可能となる。
それにより、保持部材1の凹部1cに対して多孔質体2を固着したままの状態であっても連絡穴2aを容易に作成することができるという利点がある。
【0023】
なお、前示実施例では、保持部材1がトップリングで、定盤3がターンテーブルであり、これらトップリングの自転とターンテーブルの回転により、板状ワークWとして例えば拡散ウエハの非拡散面などを鏡面研磨する場合を示したが、これに限定されず、板状ワークWとして拡散ウエハとは別のウエハなどの表面を鏡面研磨したり、拡散ウエハの非拡散面や拡散ウエハとは別のウエハなどの片面を目的の厚さまで平面状に研削して除去しても良い。
これらの場合も、前述した実施例と同様な作用効果が得られる。
また、保持部材1の境界面1bに凹部1cを形成して円板状の多孔質体2が収納配置され、例えばガラスや合成樹脂などの接着剤で固着したが、これに限定されず、保持部材1に凹部1cが形成されずに多孔質体2を接着剤で固着しても良い。
【符号の説明】
【0024】
1 保持部材 1a 吸引孔
1c 凹部 2 多孔質体
2a 連絡穴 2b ワーク対向面
3 定盤 3a 加工面
W 板状ワーク W1 一面
W2 他面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空源に通じる吸引孔(1a)が設けられる保持部材(1)と、
前記保持部材(1)に前記吸引孔(1a)と連通するように設けられて板状ワーク(W)の一面(W1)と対向する多孔質体(2)と、
前記板状ワーク(W)の他面(W2)と対向する加工面(3a)が設けられて前記保持部材(1)との相対移動により該板状ワーク(W)の他面(W2)を加工する定盤(3)とを備え、
前記多孔質体(2)に前記保持部材(1)の前記吸引孔(1a)と連通する連絡穴(2a)を、該多孔質体(2)のワーク対向面(2b)に向けて延長形成したことを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記保持部材(1)に凹部(1c)を形成し、該凹部(1c)内に前記多孔質体(2)を配置したことを特徴とする請求項1記載の研磨装置。
【請求項3】
前記保持部材(1)の前記吸引孔(1a)を前記保持部材(1)の厚さ方向へ向け直線状に開穿し、前記保持部材(1)に対して前記多孔質体(2)が固着され、前記吸引孔(1a)から前記多孔質体(2)に向けて前記連絡穴(2a)を延長形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の研磨装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−218473(P2011−218473A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88931(P2010−88931)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000214928)直江津電子工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】