説明

硫化リチウム及びその製造方法

【課題】特殊な設備を必要とせず、使用後の溶媒の処理が容易であり、かつ有機物等の不純物の副生が少ない硫化リチウムの製造方法を提供する。
【解決手段】水溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素を反応させて硫化リチウムを製造する硫化リチウムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫化リチウム及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、リチウム電池に用いられる硫化物系固体電解質の原料として特に有用な硫化リチウム、及びそれを用いた固体電解質、それを用いたリチウム電池、それを搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硫化リチウムの製造方法として特許文献1及び特許文献2には、水酸化リチウムと非プロトン性有機溶媒からなるスラリー中に硫化水素を吹き込み、水硫化リチウム作製後、脱水・脱硫化水素することにより無水硫化リチウムを製造する方法と、硫化水素を連続して吹き込み、直接無水硫化リチウムを作製する方法が開示されている。
また、アルカリ金属硫化物の製造方法として、特許文献3には、含水アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物水溶液を反応させて得られる無水アルカリ金属硫化物を、非水溶性の分散媒と接触させ脱水することを特徴とする製造方法が開示されている。
一方、特許文献4では、粒径を0.1mm〜1.5mmに制御した固体状の水酸化リチウムに、水素ガスと硫黄ガスを同時に、又は硫化水素を吹き込み、130℃〜445℃の温度で硫化リチウムを製造する方法が開示されている。
【0003】
上記特許文献1〜3に記載の硫化リチウムの製造方法では、溶媒に有機溶媒を用いるため、有機物の不純物が副生される。
また、特許文献1〜3に記載の製造方法で使用される有機溶媒を処理するためには、最終的には焼却しなければならず、溶媒処理の負担が大きかった。
一方、特許文献4では、有機溶媒を使用せずに硫化リチウムを製造しているが、固体状の水酸化リチウムと気体の硫化水素を反応させて硫化リチウムを製造しているため、露点を−30℃以下にしなければならない上、可燃性ガスである水素と硫黄の混合ガスや硫化水素ガスを高温下で使用するため、爆発防止の観点からも特殊な設備が必要であった。
また、硫化リチウム粒子と硫化リン粒子とを有機溶媒中で反応させ、硫化物系の固体電解質を製造する技術がある(特許文献5)。しかしながら、硫化リチウム粒子の表面積が大きい方がより効率的に固体電解質を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−330312号公報
【特許文献2】特開2006−016281号公報
【特許文献3】WO2004/106232
【特許文献4】特開平9−278423号公報
【特許文献5】WO2009/047977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特殊な設備を必要とせず、使用後の溶媒の処理が容易であり、かつ有機物等の不純物の副生が少ない硫化リチウムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の硫化リチウムの製造方法等が提供される。
1.水溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素を反応させて硫化リチウムを製造する硫化リチウムの製造方法。
2.前記水酸化リチウムを含有する水溶媒中に気体の硫化水素を導入する1に記載の硫化リチウムの製造方法。
3.上記1又は2に記載の硫化リチウムの製造方法により製造した硫化リチウム。
4.上記3に記載の硫化リチウムと、リン、ケイ素、ホウ素及びゲルマニウムの中から選択される1種以上の元素を含む硫化物と、から合成される硫化物系固体電解質。
5.上記4に記載の固体電解質から製造される固体電解質層、4に記載の固体電解質から製造される正極、及び4に記載の固体電解質から製造される負極の内、少なくとも1つを備えるリチウム電池。
6.上記5に記載のリチウム電池を備える装置。
【発明の効果】
【0007】
本願発明は、特殊な設備を必要とせず、使用後の溶媒の処理が容易であり、かつ有機物等の不純物の副生が少ない硫化リチウムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で製造した硫化リチウムのSEM写真である。
【図2】比較例1で製造した硫化リチウムのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願発明に係る硫化リチウムの製造方法は、水溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素を反応させて硫化リチウムを製造することを特徴とする。水溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素を反応させると、生成した硫化リチウムが水溶媒中に析出する。
本発明では、例えば、水酸化リチウムを添加した水溶媒(水酸化リチウム水溶液が好ましい)中に、気体の硫化水素を導入することが好ましい。
【0010】
原料である水酸化リチウムは、特に制限はなく、工業的に市販されているものが使用できる。高純度な硫化リチウムを得ることができるため、不純物含有量の少ない水酸化リチウムを使用することが好ましい。また、必要に応じて水酸化リチウム水溶液中の不溶物をろ過等により除去してもよい。
本発明に係る硫化リチウムの製造方法では、水に溶解した水酸化リチウムを用いるため、特許文献4のように特殊な水酸化リチウムの形状を必要としない。
【0011】
溶媒である水(HO)は、特に制限はないが、通常適用される蒸留水やイオン交換水が好ましく使用できる。高純度の硫化リチウムを得ることができるためである。
本発明では溶媒に水を使用するため、有機溶媒を使用したときに副生される不純物は発生しない。また、リチウムを含む不純物(例えば、溶媒としてNMPを使用した場合に副生するN−メチル−アミノ酪酸リチウム)が発生することが無いことから、リチウムの使用効率を向上することができる。また、水は原料である水酸化リチウムや硫化水素との反応性が低く、不純物をほとんど生成しない。そのため、不純物を除去する精製工程が不要となり、大幅な製造プロセスの簡素化が図れる。
【0012】
水酸化リチウムと水を混合する際、水酸化リチウムの仕込み量は、特に制限はなく、飽和濃度を越えてスラリーとしてもよい。取り扱いや移送を考慮して適切な濃度とすればよい。
従って、本発明では、水溶媒と水酸化リチウムとは、水酸化リチウム水溶液、又は水酸化リチウム水溶液と水酸化リチウム粉末との混合物であるスラリーを意味する(以下、「水酸化リチウム水溶液等」という。)。
【0013】
本発明で使用する硫化水素は気体である。硫化水素の純度は、特に制限はないが、二酸化炭素やアンモニアガス等の不純物含有量の少ない硫化水素を使用することが好ましい。不純物の少ない硫化水素を用いると高純度の硫化リチウムを得ることができるためである。
【0014】
本発明の製造方法においては、例えば、水酸化リチウム水溶液等に、硫化水素を吹き込み、水酸化リチウム水溶液等の中の水酸化リチウムと硫化水素を反応させる。
硫化水素の吹き込み方法は、特に制限されず、水酸化リチウム水溶液等の中に硫化水素を吹き込む吹き込み口を入れてもよく、また、水酸化リチウム水溶液等の外部に設けられた吹き込み口から硫化水素を吹き込んでもよい。
硫化水素の吹き込み速度は、反応系の規模や反応条件等により適宜調整すればよい。
尚、本発明の製造方法では、水酸化リチウム水溶液等に溶解している水酸化リチウムと硫化水素が反応するだけではなく、スラリー中の水酸化リチウムと硫化水素も反応する。
【0015】
反応時の温度は、特に制限はないが、常圧下であれば水の沸点である100℃以下であることが好ましい。反応後に温度を水の沸点以上に上昇させ、反応により生じた水分と水溶媒を除去することができる。
反応時間は、一般的には水酸化リチウムと硫化水素の反応により生成する水分の発生が止まるまでである。
【0016】
反応圧力について、反応圧力を変化させる場合は、その圧力下における水の沸点以下に反応温度を制御することが好ましい。反応圧力を高めた場合、水溶媒中への硫化水素の溶解度を調整できるため反応速度を制御することが可能となる。
【0017】
上記製造方法により製造された硫化リチウムと水を分離する方法は特に制限されない。例えば、製造した硫化リチウムは水との混合状態(スラリー)であるため、温度を水の沸点以上に上昇させ、反応により生じた水分と水溶媒を除去することができる。
尚、反応完了後も硫化水素を吹き込むことにより、生成した硫化リチウムと水による加水分解反応を抑制することができる。
【0018】
本発明に適用される製造装置としては、特に限定されるものではないが、反応槽、撹拌翼を有し、硫化水素の導入流出機構、水分除去機構、加熱冷却機構等が装備されていることが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法では、水酸化リチウム水溶液等に硫化水素を導入し、硫化水素導入量が水酸化リチウム水溶液等中の水酸化リチウムの1/2モル量となるまでは硫化リチウムが生成する。水酸化リチウムの1/2モル量を超えて、さらに、硫化水素を導入すると、水硫化リチウムが生成する。その後、硫化水素存在下で昇温等により水を蒸発させると、水硫化リチウムの脱硫化水素も進行し硫化リチウムとなる。そして、飽和溶解度を超えた硫化リチウムが析出する。この水硫化リチウムから硫化リチウムに至る反応は、水分が概ね留去された後の高温乾燥時に進行する。
【0020】
反応が進行し、反応系から原料である水酸化リチウムが消失すると、反応による水の発生が止まる。本発明では、反応系の水が蒸発し乾燥状態となるまで硫化水素の吹き込みを続けることが好ましい。水分が完全に留去される前に硫化水素の吹き込みを止めると、硫化リチウムの加水分解が進行するおそれがある。
水分の留去後に、不活性ガスを吹き込んで過剰の硫化水素を系外に除去する。
【0021】
水は、加熱等により反応系から蒸発した水蒸気をコンデンサ等で凝縮することで系外に除去できる。水分の除去に伴い、硫化リチウムが析出しスラリー濃度が上昇するため、粘度が増加する。そのため、適当な粘度に達した時点で撹拌を停止し、乾燥工程に移行する。この間、硫化水素の吹き込みを継続し、系内の全水分を除去、乾燥した時点で反応が終了する。
乾燥後、固体成分となった硫化リチウムを回収する。
【0022】
本発明による硫化リチウムは、水溶媒中で反応が進行し、生成後に飽和溶解度を超えた硫化リチウムが器壁や撹拌翼に析出する。そのため、回収される硫化リチウムは鱗片状を呈する。
【0023】
本発明に係る硫化リチウムは鱗片状であるため、粒状の硫化リチウムの場合と比べて、固体電解質の製造時間を短縮できる。従って、硫化物系固体電解質の原料として好適である。
続いて、本発明の硫化物系固体電解質について説明する。
本発明の硫化物系固体電解質は、上述した本発明の硫化リチウム(LiS)と、リン、ケイ素、ホウ素及びゲルマニウムの中から選択される1種以上の元素を含む硫化物から合成される。
リン、ケイ素、ホウ素及びゲルマニウムの中から選択される1種以上の元素を含む硫化物としては、P、SiS、GeS、P、B等が挙げられる。
【0024】
LiSと上記硫化物からなる無機固体電解質の製造方法としては、簡便な方法としてメカニカルミリング法が適用できる。Pと上記硫化物を所定量乳鉢にて混合し、メカニカルミリング法にて所定時間反応させることにより、硫化物系固体電解質ガラスが得られる。
【0025】
上記原料を用いたメカニカルミリング法は、室温で反応を行うことができる。MM法によれば、室温でガラス状電解質を製造できるため、原料の熱分解が起らず、仕込み組成のガラス状電解質を得ることができるという利点がある。また、MM法では、ガラス状電解質の製造と同時に、ガラス状電解質を微粉末化できるという利点もある。
MM法は種々の形式の粉砕法を用いることができるが、遊星型ボールミルを使用するのが特に好ましい。遊星型ボールミルは、ポットが自転回転しながら、台盤が公転回転し、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができ、製造に適している。
MM法の回転速度及び処理時間は特に限定されないが、回転速度が速いほど、ガラス状電解質の生成速度は速くなり、処理時間が長いほどガラス質状電解質ヘの原料の転化率は高くなる。
このようにして得られた電解質は、ガラス状電解質である。例えば、硫化物としてPを使用した場合、通常、イオン伝導度は1.0×10−5〜8.0×10−4(S/cm)程度である。
MM法の条件としては、例えば、遊星型ボールミル機を使用した場合、回転速度を数十〜数百回転/分とし、0.5時間〜100時間処理すればよい。
以上、MM法による硫化物ガラスの具体例を説明したが、温度条件や処理時間等の製造条件は、使用設備等に合わせて適宜調整することができる。また、硫化リチウム及び他の硫化物の融点以上、具体的には1000℃程度に加熱した後、急冷する溶融急冷法においても同様に硫化物ガラスを調製することができる。
【0026】
その後、得られた硫化物系固体電解質ガラスを所定の温度で熱処理することにより、結晶成分を含有する硫化物系固体電解質ガラスセラミックが生成する。
このような固体電解質を生成させる熱処理温度は、好ましくは190℃〜340℃、より好ましくは、195℃〜335℃、特に好ましくは、200℃〜330℃である。190℃より低いと高イオン伝導性の結晶が得られにくい場合があり、340℃より高いとイオン伝導性の低い結晶が生じる恐れがある。
熱処理時間は、190℃以上220℃以下の温度の場合は、3〜240時間が好ましく、特に4〜230時間が好ましい。また、220℃より高く340℃以下の温度の場合は、0.1〜240時間が好ましく、特に0.2〜235時間が好ましく、さらに、0.3〜230時間が好ましい。熱処理時間が0.1時間より短いと、高イオン伝導性の結晶が得られにくい場合があり、240時間より長いと、イオン伝導性の低い結晶が生じるとなる恐れがある。
【0027】
このようにして得られた、結晶成分を含有する硫化物系固体電解質ガラスセラミックリチウムイオン伝導性無機固体電解質は、通常のイオン伝導度は、7.0×10−4〜5.0×10−3(S/cm)程度である。
このリチウムイオン伝導性無機固体電解質は、X線回折(CuKα:λ=1.5418Å)において、2θ=17.8±0.3deg,18.2±0.3deg,19.8±0.3deg,21.8±0.3deg,23.8±0.3deg,25.9±0.3deg,29.5±0.3deg,30.0±0.3degに回折ピークを有する。このような結晶構造を有するは固体電解質が、極めて高いリチウムイオン伝導性を有する。
【0028】
上記方法等により製造された固体電解質は、平均粒径は数μmから数十μm程度の不定形であり、乾粉あるいはスラリー状で使用される。
本発明の固体電解質は、リチウム電池の構成部材、例えば、電解質層、正極層、負極層等に好適に使用できる。
【0029】
本発明に係るリチウム電池は、電解質層、正極及び負極を有し、これらの少なくとも1つが上述した本発明の固体電解質から製造されたものであることを特徴とする。尚、本発明の固体電解質から製造されたもの以外の電解質層、正極及び負極は、通常、リチウム電池に使用されているもの(例えば、電解液やポリマー電解質をセパレータに浸漬した物、ポリマー電解質を硬化させた固体電解質)でよい。
【0030】
本発明のリチウム電池は、二次電池及び一次電池のいずれにもすることができ、時計、携帯電話機、パソコン、自動車、発電機等の装置に用いることができる。
上述の装置のうち、自動車には、駆動源が電動機である電気自動車、及び駆動源として電動機と内燃機関を組み合わせて用いるハイブリッド電気自動車が含まれ、これら自動車は大電流及び大電圧を必要する。
本発明のリチウム電池は、直列及び/又は並列に繋いで電池セルとすることでより大きな電力を取り出すことができる。複数の電池セルをさらに直列及び/又は並列に接続して電池モジュール(電池パック、電池ユニット)とすることで、上記自動車が必要とする大電流・大電圧を満たす電池とすることができる。
【実施例】
【0031】
実施例1
窒素気流下で水溶媒として蒸留水(広島和光製試薬)45gを200mlセパラブルフラスコに加え、続いて水酸化リチウム5g(本荘ケミカル製)を投入し、フルゾーン撹拌翼300rpmで撹拌しながら、25℃に保持した。続いて、液中に硫化水素(巴商会製)を300ml/分の供給速度で吹き込みながら加熱を始めた。水溶媒存在下では、25℃で硫化水素を吹き込むと即座に反応が開始する。また、系内がおおむね90℃以上に加熱されると、反応と共に水分が蒸発し、セパラブルフラスコから水が連続的に排出されるので、系外のコンデンサで凝縮させた。反応が進行し、水分が蒸発するにつれて、水分量は徐々に減少し、系内はペースト状化した。硫化水素導入後5時間、150℃で水の留出は認められなくなった(水分量は総量で49mlであった)。この後、2時間かけて205℃まで昇温した。
尚、水分が除去されるにつれ、硫化リチウムの析出が器壁や撹拌翼で発生し、溶液粘度も上昇する。そのため、ペースト状態になった時点で撹拌を停止し乾燥工程に移行した。この乾燥工程中も硫化水素を吹き込み続け、系内から完全に水分を除去した。
この後、硫化水素を窒素に切り替え300ml/分で2時間流通した。
【0032】
乾燥して得た白色粉末を塩酸滴定及び硝酸銀滴定で分析したところ、硫化リチウムの純度は99.6%であった。X線回折測定の結果、硫化リチウムの結晶パターン以外のピークが検出されないことを確認した。
図1に得られた硫化リチウムの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。写真から、硫化リチウムが鱗片状の粉末で得られたことが確認できた。
この粉末のイオンクロマト分析や滴定分析等の結果、不純物は全て500ppm以下であった。
【0033】
比較例1
従来から知られている特許第3528866号に記載の方法に準じて硫化リチウムを合成した。まず、第一の工程として、極性溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン溶媒(以下NMPとする:広島和光製試薬)270gを600mlセパラブルフラスコに加え、続いて水酸化リチウム30g(本荘ケミカル製)を投入し、フルゾーン撹拌翼300rpmで撹拌しながら、130℃に保持した。ここで、液中に硫化水素(巴商会製)を300ml/分の供給速度で2時間吹き込んだ。その結果、LiOH+HS→LiSH+HO反応に従い水流化リチウム(LiSH)溶液が生成された。続いて、第二の工程としてこの反応液を窒素気流下(50ml/分)で昇温し水流化リチウムを脱硫化水素化した。前述の反応により副生成する水分が昇温するに従って蒸発するため、系外にコンデンサにより凝縮させて留去した。水分の留去に伴い温度が上昇するが、200℃の時点で温度を保持した。保持時間は脱硫化水素反応が終了し硫化リチウムが安定に存在する2時間とした。冷却後、ガラス製フィルタにより減圧ろ過し、固形分をNMP溶媒により2倍希釈洗浄を3回実施し、さらにトルエン溶媒により同様に2回洗浄した。
【0034】
乾燥して得られた白色粉末をX線回折測定し、硫化リチウムの結晶パターン以外のピークが検出されないことを確認した。
図2に得られた硫化リチウムの走査型電子顕微鏡写真を示す。写真から硫化リチウムが六面体構造を含む粉末であることが確認できた。この硫化リチウム粉末の平均粒径は31.2μmであった。
生成固体のイオンクロマト分析や滴定分析等を行なった結果、LiSOが0.31wt%、LiSOが0.14wt%、LMAB(N−メチルアミノ酪酸リチウム)が4.96wt%であった。
【0035】
比較例2
比較例1と同様に、第一の工程として極性溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミド溶媒(以下DMFとする:広島和光製試薬)270gを600mlセパラブルフラスコに加え、続いて水酸化リチウム30g(本荘ケミカル製)を投入し、フルゾーン撹拌翼にて300rpmで撹拌しながら、100℃に保持した。ここで、液中に硫化水素(巴商会製)を300ml/分の供給速度で吹き込んだところ、水硫化リチウムの生成が確認されたが、セパラブルフラスコの気相部壁面や系外コンデンサまでの上部配管に多量の白色固体が付着した。また、反応液粘度の上昇も認められた。白色固体はアミン臭がしたため、水分存在下における極性溶媒DMFの分解に由来する生成物(強アルカリである水酸化リチウムによる加水分解反応から生じたアミンと硫化水素の化合物)と推定される。白色固体による上部配管の閉塞の危険があったため、第二の工程である脱硫化水素反応を実施することができなった。
【0036】
評価例1[固体電解質の作製例]
上記実施例1及び比較例1により製造したLiS16.27gと平均粒径50μm程度のP(アルドリッチ社製)33.73gを10mmφアルミナボール175個が入った500mlアルミナ製容器に入れ密閉した。上記計量、密閉作業はすべてグローブボックス内で実施し、使用する器具類はすべて乾燥機で事前に水分除去したものを用いた。
この密閉したアルミナ容器を、遊星ボールミル(レッチェ社製PM400)にて室温下、所定時間メカニカルミリング処理を実施し、得られた白黄色の固体電解質ガラス粒子のX線回折測定(CuKα:λ=1.5418Å)を行なった。比較例1のLiSでは、LiS結晶ピークが消滅するまでに36時間を要した。それに対し、実施例1のLiSでは30時間の処理でLiSピークが消滅した。
【0037】
評価例2[リチウム電池の作製例]
正極集電体であるアルミニウム箔上に正極合材を積層させ1MPa〜68MPaで加圧プレスし正極合材層を形成した。正極合材は、上記評価例1で、実施例1のLiSを使用して作製した固体電解質30重量部と、正極活物質であるコバルト酸リチウム系複合酸化物70重量部を混合して作製した。
同様に、負極集電体であるアルミニウム箔上に、固体電解質40重量部に対して負極活物質であるカーボン60重量部を混合した負極合材を用いて負極合材層を形成した。
先述の正極合材層上に先述の固体電解質を用いて固体電解質層を同様に形成した。以上により、正負極集電体で挟持され、正極合材層,固体電解質層,負極合材層の3層で構成された電池を作製した。この積層体に対して、さらに1MPa〜300MPaの圧力を印加して薄膜化した。
この積層体をアルミラミネートフィルムで挟み、真空状態下で加熱密閉化しリチウム電池(電池セル)を作製した。
【0038】
尚、正極活物質としてはコバルト酸リチウムの他、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、これらの複合酸化物等を使用した場合でも、電池として充放電可能なことを確認した。
同様に、負極活物質としては、黒鉛をはじめとするカーボンブラック系、及びこれらの混合物、スズやケイ素等の金属粉末を使用した場合でも、電池として充放電可能なことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の硫化リチウムの製造方法により、固体電解質の原料として好適な硫化リチウムが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素を反応させて硫化リチウムを製造する硫化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記水酸化リチウムを含有する水溶媒中に気体の硫化水素を導入する請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の硫化リチウムの製造方法により製造した硫化リチウム。
【請求項4】
請求項3に記載の硫化リチウムと、
リン、ケイ素、ホウ素及びゲルマニウムの中から選択される1種以上の元素を含む硫化物と、から合成される硫化物系固体電解質。
【請求項5】
請求項4に記載の固体電解質から製造される固体電解質層、請求項4に記載の固体電解質から製造される正極、及び請求項4に記載の固体電解質から製造される負極の内、少なくとも1つを備えるリチウム電池。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウム電池を備える装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−84438(P2011−84438A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238952(P2009−238952)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】