説明

硫化物固体電解質

【課題】優れたイオン伝導度を有する硫化物固体電解質、及び、当該硫化物固体電解質中に含まれる結晶化ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)に示す化学式で表される結晶化ガラスを含むことを特徴とする、硫化物固体電解質。
75LiS・(25―x)P・xP 式(1)
(上記式(1)中、0<x<25)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたイオン伝導度を有する硫化物固体電解質、及び、当該硫化物固体電解質中に含まれる結晶化ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、化学反応に伴う化学エネルギーの減少分を電気エネルギーに変換し、放電を行うことができる他に、放電時と逆方向に電流を流すことにより、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して蓄積(充電)することが可能な電池のことである。二次電池の中でも、リチウム二次電池は、エネルギー密度が高いため、ノート型のパーソナルコンピューターや、携帯電話機等の電源として幅広く応用されている。
【0003】
リチウム二次電池においては、負極活物質としてグラファイト(Cと表現する)を用いた場合、放電時において、負極では(I)式の反応が進行する。
Li → C + Li + e(I)
(I)式で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、正極に到達する。そして、(I)式で生じたリチウムイオン(Li)は、負極と正極に挟持された電解質内を、負極側から正極側に電気浸透により移動する。
【0004】
また、正極活物質としてコバルト酸リチウム(Li0.4CoO)を用いた場合、放電時において、正極では(II)式の反応が進行する。
Li0.4CoO + 0.6Li + 0.6e → LiCoO(II)
充電時においては、負極及び正極において、それぞれ上記式(I)及び式(II)の逆反応が進行し、負極においてはグラファイトインターカレーションによりリチウムが入り込んだグラファイト(CLi)が、正極においてはコバルト酸リチウム(Li0.4CoO)が再生するため、再放電が可能となる。
【0005】
リチウム二次電池の中でも、電解質を固体電解質とし、電池を全固体化したリチウム電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全かつ装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。さらに、このような固体電解質に用いられる固体電解質材料として、硫化物固体電解質が知られている。
【0006】
硫化物固体電解質に関する技術は、従来から多数開発されており、非特許文献1には、75{(1−x)LiO・xLiS}・25Pの化学式で表されるアモルファス構造の硫化物固体電解質に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Jpn.Soc.Powder and Powder Metallurgy,51(2004)91−97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記非特許文献1においては、電解質内の化学構造がもたらすイオン伝導度の変化については、全く考察がされていない。
本発明は、上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、優れたイオン伝導度を有する硫化物固体電解質、及び、当該硫化物固体電解質中に含まれる結晶化ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の硫化物固体電解質は、下記式(1)に示す化学式で表される結晶化ガラスを含むことを特徴とする。
75LiS・(25―x)P・xP 式(1)
(上記式(1)中、0<x<25)
【0010】
このような構成の硫化物固体電解質は、上記式(1)に示す組成の結晶化ガラスを含むため、上記式(1)に示す組成のアモルファスガラスのみで構成される硫化物固体電解質と比較してリチウムイオン伝導パスがより秩序立って形成されており、したがって、当該アモルファスガラスのみで構成される硫化物固体電解質よりも高いリチウムイオン伝導能を発揮することができる。また、このような構成の硫化物固体電解質は、架橋硫黄を含まないオルト組成の結晶化ガラスを含むため、硫化水素の発生を低減させることができる。
【0011】
本発明の硫化物固体電解質は、前記結晶化ガラスの結晶化度が50〜100%であることが好ましい。
【0012】
このような構成の硫化物固体電解質は、秩序立ったリチウムイオン伝導パスを適度に有することにより、リチウムイオン伝導能を十分に発揮することができる。
【0013】
本発明の結晶化ガラスの製造方法は、LiS、P及びPを含み、且つ、前記LiS、P及びPの合計の含有量を100mol%とした時の、前記LiSの含有割合が75mol%となるように原料組成物を調製する原料組成物調製工程、前記原料組成物を非晶質化処理する非晶質化処理工程、及び、前記非晶質化処理工程により得られたガラスを加熱により結晶化させる結晶化工程、を有することを特徴とする。
【0014】
このような構成の結晶化ガラスの製造方法により、本発明に係る硫化物固体電解質に用いる結晶化ガラスを製造できる。また、このような構成の結晶化ガラスの製造方法は、前記原料組成物調製工程において、原料組成物内のLiSの含有割合を75mol%とすることにより、オルト組成の結晶化ガラスが得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記式(1)に示す組成の結晶化ガラスを含むため、上記式(1)に示す組成のアモルファスガラスのみで構成される硫化物固体電解質と比較してリチウムイオン伝導パスがより秩序立って形成されており、したがって、当該アモルファスガラスのみで構成される硫化物固体電解質よりも高いリチウムイオン伝導能を発揮することができる。また、本発明によれば、架橋硫黄を含まないオルト組成の結晶化ガラスを含むため、硫化水素の発生を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例、比較例及び参考例の硫化物固体電解質の硫化水素発生量を示したグラフである。
【図2】実施例の硫化物固体電解質を大気中に暴露する前(before)、暴露後10分(10min)、暴露後90分(90min)、暴露後21時間(21h)の各ラマン分光スペクトルである。
【図3】実施例(黒丸)及び参考例(白丸)の硫化物固体電解質についてのアレニウスプロットを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.硫化物固体電解質
本発明の硫化物固体電解質は、下記式(1)に示す化学式で表される結晶化ガラスを含むことを特徴とする。
75LiS・(25―x)P・xP 式(1)
(上記式(1)中、0<x<25)
【0018】
75LiS・25Pの組成中のPの一部をPに置換したガラス、すなわち上記式(1)で示されるガラスは、オルト組成を有しているため、水に対する安定性が高く、硫化水素発生量が低いと考えられる。
ここで、オルトとは、一般的に、同じ酸化物を水和して得られるオキソ酸の中で、最も水和度の高いものをいう。本発明のようなLiS−P系の硫化物固体電解質においては、Pに最もLiSが付加している結晶組成、すなわちLiPSがオルト組成に該当する。LiS−P系の硫化物固体電解質の場合、オルト組成の硫化物固体電解質中のLiSのモル分率は75%となる。
本発明の硫化物固体電解質に用いられる結晶化ガラスは、上記式(1)に示すように、LiSの合計のモル分率が全体の75%であるためオルト組成を有し、その結果架橋硫黄を実質的に含有しない。したがって、当該結晶化ガラスを含む本発明に係る硫化物固体電解質は、硫化水素発生量が少ない。
【0019】
ここで、「架橋硫黄」とは、LiSおよびPが反応してなるSP−S−PS中の2つのリン原子を架橋する硫黄のことである。このような架橋硫黄は、水と反応しやすく、硫化水素が発生しやすい。
本発明に係る硫化物固体電解質が架橋硫黄を実質的に含有しないことは、後述する実施例において示すように、ラマン分光スペクトルの測定により確認できた。ラマン分光スペクトルにおいて、SP−S−PSのピークは、通常402cm−1に表れる。後述するように、本発明に係る硫化物固体電解質のラマン分光スペクトルにおいては、402cm−1のピークは全く検出されなかった。また、本発明に係る硫化物固体電解質のラマン分光スペクトルにおいては、PS3−を示すピーク(417cm−1)も確認できた。
【0020】
本発明に係る硫化物固体電解質に含まれるガラスは、結晶質部の組成、及び、アモルファス質部の組成のいずれもが式(1)によって表される結晶化ガラスである。本発明に係る硫化物固体電解質は、このような組成の結晶化ガラスを含むため、上記式(1)に示す組成のアモルファスガラスのみで構成される硫化物固体電解質と比較してリチウムイオン伝導パスがより秩序立って形成され、したがって、当該アモルファスガラスのみで構成される硫化物固体電解質よりも高いリチウムイオン伝導能を発揮することができる。
【0021】
本願発明に用いられる結晶化ガラスの結晶化度は、50〜100%であることが好ましい。仮に結晶化度が50%未満であるとすると、リチウムイオン伝導パスの秩序が乱れ、望みのリチウムイオン伝導度が得られないおそれがある。なお、本願発明に用いられる結晶化ガラスの結晶化度は、70〜100%であることがより好ましく、90〜100%であることが特に好ましい。
【0022】
上記式(1)のxの値は、3≦x≦20であるのが好ましい。仮にx<3であるとすると、結晶化ガラス構造中のPの含有割合が低すぎるため、硫化水素発生量の低減が十分に実現できないおそれがある。また、仮にx>20であるとすると、結晶化ガラス構造中のPの含有割合が低すぎるため、十分なリチウムイオン伝導度が得られないおそれがある。
なお、5≦x≦20であるのが特に好ましく、5≦x≦15であるのが最も好ましい。
【0023】
本発明に係る硫化物固体電解質は、所定の硫化水素量測定試験において、測定開始から6000秒間における硫化水素発生量が、0.5cc/g以下であることが好ましく、0.45cc/g以下であることがより好ましく、0.4cc/g以下であることがさらに好ましく、0.35cc/g以下であることが特に好ましい。硫化水素発生量が少ないことで、より安全性の高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。
ここで、硫化水素量測定試験とは、以下の試験をいう。すなわち、アルゴン雰囲気中で、硫化物固体電解質材料を100mg秤量し、その試料を、面積1cmの成形部を有するペレット成形機を用いて、5.1ton/cmの圧力でプレスし、ペレットを形成する。その後、得られたペレットをデシケータ内(1950cc)に配置する。ペレットを収容したデシケータ内は、一度真空に引いた後、温度25℃、湿度58%の大気を導入する。最初の6000秒間で発生した硫化水素の発生量を、硫化水素センサーを用いて測定する。
【0024】
本発明に係る硫化物固体電解質は、Liイオン伝導度の値が10−5S/cm以上であることが好ましく、10−4S/cm以上であることがより好ましい。また、本発明に係る硫化物固体電解質は、通常粉末状であり、その平均径は例えば0.1〜100μmの範囲内である。また、本発明に係る硫化物固体電解質の用途としては、例えば、リチウム電池用途を挙げることができる。
【0025】
2.結晶化ガラスの製造方法
本発明の結晶化ガラスの製造方法は、LiS、P及びPを含み、且つ、前記LiS、P及びPの合計の含有量を100mol%とした時の、前記LiSの含有割合が75mol%となるように原料組成物を調製する原料組成物調製工程、前記原料組成物を非晶質化処理する非晶質化処理工程、及び、前記非晶質化処理工程により得られたガラスを加熱により結晶化させる結晶化工程、を有することを特徴とする。
以下、本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法について、工程ごとに説明する。なお、本発明においては、後述する各工程を不活性ガス雰囲気下(例えばArガス雰囲気下)で行うことが好ましい。
【0026】
2−1.原料組成物調製工程
本発明における原料組成物調製工程は、LiS、P及びPを含み、且つ、前記LiS、P及びPの合計の含有量を100mol%とした時の、前記LiSの含有割合が75mol%となるように原料組成物を調製する工程である。このように原料組成物内のLiSの含有割合を75mol%とすることにより、後述する非晶質化工程、結晶化工程を経た後、オルト組成の結晶化ガラスが得られる。
本発明に係る製造方法に用いられる原料組成物は、LiS、P及びPを含有するものである。さらに、原料組成物はその他の化合物を含有していても良い。
原料組成物に含まれるLiSは、副反応抑制の観点から、不純物が少ないことが好ましい。LiSの合成方法としては、例えば特開平7−330312号公報に記載された方法等を挙げることができる。さらに、LiSは、WO2005/040039に記載された方法等を用いて精製されていることが好ましい。
及びPについては、市販のものを用いることもできるし、また、常法により合成・精製したものを用いることもできる。
【0027】
また、原料組成物は、LiS、P及びPの他に、LiPO等のオルトオキソ酸リチウムを含有していても良い。このようなオルトオキソ酸リチウムを加えることで、より安定な硫化物固体電解質を得ることができる。
【0028】
2−2.非晶質化工程
本発明における非晶質化工程は、上記原料組成物を非晶質化処理する工程である。これにより、通常、硫化物ガラスが得られる。非晶質化処理としては、例えばメカニカルミリング法および溶融急冷法を挙げることができ、中でも常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるという観点から、メカニカルミリング法が好ましい。
【0029】
メカニカルミリングは、原料組成物を、機械的エネルギーを付与しながら混合する方法であれば特に限定されるものではないが、例えばボールミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でもボールミルが好ましく、特にオルト組成を有するガラスを効率良く得ることができるという観点から、遊星型ボールミルが好ましい。
【0030】
また、メカニカルミリングの各種条件は、架橋硫黄を実質的に含有しないオルト組成を有するガラスを得ることができる程度に設定することが好ましい。例えば、遊星型ボールミルによりオルト組成を有するガラスを合成する場合、ポット内に、原料組成物および粉砕用ボールを加え、所定の回転数および時間で処理を行う。一般的に、回転数が大きいほど、オルト組成を有するガラスの生成速度は速くなり、処理時間が長いほど、原料組成物からオルト組成を有するガラスへの転化率は高くなる。遊星型ボールミルを行う際の回転数としては、例えば200rpm〜500rpmの範囲内、中でも250rpm〜400rpmの範囲内であることが好ましい。また、遊星型ボールミルを行う際の処理時間は、例えば1時間〜100時間の範囲内、中でも1時間〜50時間の範囲内であることが好ましい。
【0031】
2−3.結晶化工程
本発明における結晶化工程は、上述した非晶質化工程において得られたガラスを、加熱により結晶化させる工程である。この工程を経ることにより、結晶化した硫化物ガラスが得られる。なお、熱処理の条件によっては、架橋硫黄が生成する可能性や準安定相が生成する可能性があるため、本発明においては、これらが生成しないように、180〜400℃の熱処理温度下で、30秒〜10時間熱処理を行うことが好ましい。
【0032】
上記結晶化ガラスの製造方法によって得られた結晶化ガラスを用いて、例えば必要に応じて、当該結晶化ガラスにリチウムイオン伝導性を有する添加剤等を混合することにより、本発明に係る硫化物固体電解質を得ることができる。
【0033】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0034】
1.硫化物固体電解質の製造
[実施例]
出発原料として、硫化リチウム(LiS)、五硫化二リン(P)及び五酸化二リン(P)を用いた。これらの粉末をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、75LiS・15P・10Pのモル比となるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、原料組成物を得た。
次に、得られた原料組成物1gを45mlのジルコニアポットに投入し、さらにジルコニアボール(φ4mm、500個)を投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機に取り付け、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行い、オルト組成を有するガラスを得た。
その後、得られたガラスに対して、アルゴン雰囲気化で290℃、2時間の条件で熱処理を行ったところ、実施例の硫化物固体電解質(結晶化ガラス)を得た。
【0035】
[比較例]
出発原料として、硫化リチウム(LiS)及び五硫化二リン(P)を用いた。これらの粉末をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、75LiS・25Pのモル比となるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、原料組成物を得た。
次に、得られた原料組成物1gを45mlのジルコニアポットに投入し、さらにジルコニアボール(φ4mm、500個)を投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機に取り付け、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行い、比較例の硫化物固体電解質(アモルファスガラス)を得た。
【0036】
[参考例]
出発原料として、硫化リチウム(LiS)、五硫化二リン(P)及び五酸化二リン(P)を用いた。これらの粉末をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、75LiS・15P・10Pのモル比となるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、原料組成物を得た。
次に、得られた原料組成物1gを45mlのジルコニアポットに投入し、さらにジルコニアボール(φ4mm、500個)を投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機に取り付け、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行い、参考例の硫化物固体電解質(アモルファスガラス)を得た。
【0037】
2.硫化水素発生量の測定
実施例、比較例及び参考例の硫化物固体電解質をそれぞれ100mg秤量し、これらの試料を、面積1cmの成形部を有するペレット成形機を用いて、5.1ton/cmの圧力でプレスし、ペレットを得た。その後、得られたペレットをデシケータ内(1950cc)に配置した。ペレットを収容したデシケータ内は、一度真空に引いた後、温度25℃、湿度58%の大気を導入した。最初の6000秒間でペレットから発生した硫化水素の発生量を、硫化水素センサーを用いて測定した。これらの結果を図1に示す。
図1に示すように、実施例(黒三角)及び参考例(黒四角)の硫化物固体電解質は、比較例(黒菱形)の硫化物固体電解質と比較して硫化水素発生量が低いことが確認された。また、比較例の硫化物固体電解質の場合には、時間経過とともに硫化水素発生量が急激に増加したのに対し、参考例の硫化物固体電解質の場合には、測定時間内では硫化水素発生量がほとんど変化せず、実施例の硫化物固体電解質の場合には、時間経過とともに硫化水素発生量が減少した。その結果、6000秒後の硫化水素発生量は、実施例の硫化物固体電解質を用いた場合が最も少ない結果となった。
【0038】
3.ラマン分光測定
実施例の硫化物固体電解質(結晶化ガラス)を用いて、ラマン分光測定を行った。
図2は、実施例の硫化物固体電解質を大気中に暴露する前(before)、暴露後10分(10min)、暴露後90分(90min)、暴露後21時間(21h)の各ラマン分光スペクトルである。
図2から分かるように、S−S構造に係る散乱(470cm−1)、PS3−構造に係る散乱(417cm−1)はいずれのスペクトルにも見られるが、P4−の架橋硫黄構造に係る散乱(402cm−1)は、いずれのスペクトルにも含まれていない。このことから、実施例の硫化物固体電解質は架橋硫黄を実質的に有しておらず、したがって、上記「2.硫化水素発生量の測定」に述べたような、硫化水素発生量の低減が実現できたと考えられる。
【0039】
4.インピーダンス測定
実施例及び参考例の硫化物固体電解質について、交流インピーダンス測定を行った。交流インピーダンス測定は、乾燥アルゴン雰囲気下において、インピーダンスアナライザー(Solartron社製、1260型)を用いて、10Hz〜8MHzの周波数領域について行った。なお、測定温度は23℃〜280℃とした。
図3は、実施例(黒丸)及び参考例(白丸)の硫化物固体電解質についてのアレニウスプロットを示した図である。図3から分かるように、実施例の硫化物固体電解質は、参考例の硫化物固体電解質と比較して、Li伝導度が最大で1桁向上し、25℃において2×10−4S/cmの高い値となった。
このことから、75LiS・15P・10Pのガラスは、PS3−構造を母体とするため、架橋硫黄を含まない状態で結晶化でき、且つ、酸化物(P)を添加することで低下したLi伝導度が、結晶化することによってPS3−構造中の非架橋硫黄が整列しLi伝導パスが形成されることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示す化学式で表される結晶化ガラスを含むことを特徴とする、硫化物固体電解質。
75LiS・(25―x)P・xP 式(1)
(上記式(1)中、0<x<25)
【請求項2】
前記結晶化ガラスの結晶化度が50〜100%である、請求項1に記載の硫化物固体電解質。
【請求項3】
LiS、P及びPを含み、且つ、前記LiS、P及びPの合計の含有量を100mol%とした時の、前記LiSの含有割合が75mol%となるように原料組成物を調製する原料組成物調製工程、
前記原料組成物を非晶質化処理する非晶質化処理工程、及び、
前記非晶質化処理工程により得られたガラスを加熱により結晶化させる結晶化工程、
を有することを特徴とする、結晶化ガラスの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−57500(P2011−57500A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208227(P2009−208227)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】