説明

硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子及びその用途

本発明は、硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子及びその用途に関し、特に、香味安定性に優れた酒類を製造する醸造酵母、該酵母を用いて製造した酒類、その製造方法などに関する。さらに具体的には、本発明は、醸造酵母の硫酸アデニリルトランスフェラーゼであるMet3pをコードする遺伝子MET3について、特にビール酵母に特徴的なnonScMET3遺伝子の発現量を制御することによって、製品の香味安定化に寄与する亜硫酸の生成能を制御した酵母、当該酵母を用いた酒類の製造方法などに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子及びその用途に関し、特に、香味安定性に優れた酒類を製造する醸造酵母、該酵母を用いて製造した酒類、その製造方法などに関する。さらに具体的には、本発明は、醸造酵母の硫酸アデニリルトランスフェラーゼであるMet3pをコードする遺伝子MET3について、特にビール酵母に特徴的なnonScMET3遺伝子の発現量を制御することによって、製品の香味安定化に寄与する亜硫酸の生成能を制御した酵母、当該酵母を用いた酒類の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
亜硫酸は抗酸化効果の高い化合物として知られ、食品や飲料、医薬品などの分野において酸化防止剤として広く使用されている(例えば特開平06-040907号公報(特許文献1)、特開2000-093096号公報(特許文献2)など)。酒類においても亜硫酸は酸化防止剤として利用されており、例えば長期間の熟成を必要とするワインではその品質保持に重要な役割を果たすことから、日本国内では厚生労働省により残留濃度350ppm以下までの添加が許可されている。また、ビール醸造においても製品に含まれる亜硫酸濃度に依存して品質保持期間が変化することが知られており、この物質を強化することは、香味安定性などの点で非常に重要である。
【0003】
製品中の亜硫酸含量を増大させる最も簡単な方法は、亜硫酸を添加することであるが、その場合食品添加物としての扱いとなり、商品開発の自由度や食品添加物に対する消費者のマイナスイメージなどが問題となる。
ところで、酵母は自身の生命活動に必要な含硫化合物を生合成しており、亜硫酸はその中間代謝産物として生成される。すなわち、酵母のこの能力を利用することによって、外部から添加することなく、製品中の亜硫酸量を増加させることが可能である。
醸造工程で発酵液中の亜硫酸濃度を上昇させる方法としては、1) プロセス制御による方法と、2) 酵母の育種による方法がある。プロセス制御による方法とは、醸造中の亜硫酸の生成が初期酸素供給量と逆比例することから、発酵液への酸素供給量を低減させ、亜硫酸の生成量を増加させるとともにその酸化を抑制する方法である。
【0004】
一方、酵母の育種による方法では遺伝子操作技術が利用されている。酵母の硫黄代謝において亜硫酸は含硫アミノ酸や含硫ビタミン生合成の中間体であり、細胞外から取り込まれた硫酸イオンが3段階の反応で還元され、生成される。ここでMET3遺伝子は第1反応を、MET14遺伝子は第2反応を触媒する酵素をコードする遺伝子である。コルヒらはこの2つの遺伝子の発現量を増加させることによって、酵母の亜硫酸生成能を向上させることを試み、MET14の方がより効果的であることを明らかにした(C. Korch et al., Proc. Eur. Brew. Conv. Conger., Lisbon, 201-208, 1991:非特許文献1)。このとき用いられたMET3遺伝子はワイン酵母から単離されたものであったが、得られた結果は実際のビール製品中に含まれる亜硫酸濃度の1割程度(約0.8ppm)であった。また、ハンセンらは亜硫酸イオンの還元酵素をコードするMET10遺伝子を破壊し、生成した亜硫酸イオンの還元を防ぐことによって亜硫酸生成量を増加させることを試みた(J. Hansen et al., Nature Biotech., 1587-1591, 1996:非特許文献2)。
【0005】
また藤村らは、酵母の亜硫酸イオン排出ポンプをコードするSSU1遺伝子のうち、特にビール酵母に特有なnonScSSU1遺伝子の発現量を高めることによって、菌体内に生成した亜硫酸の菌体外への排出を促進し、ビール中の亜硫酸濃度を増加させることを試みた(藤村ら、2003年度日本農芸化学会年次大会要旨集、159、2003:非特許文献3)。
【非特許文献1】C. Korch et al., Proc. Eur. Brew. Conv. Conger., Lisbon, 201-208, 1991
【非特許文献2】J. Hansen et al., Nature Biotech., 1587-1591, 1996
【非特許文献3】藤村ら、2003年度日本農芸化学会年次大会要旨集、159、2003
【特許文献1】特開平06-040907号公報
【特許文献2】特開2000-093096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、製品中の亜硫酸含量を増大させる最も簡単な方法は亜硫酸を添加することであるが、近年消費者の間では無添加・天然素材志向が強く、食品添加物の使用は最低限とすることが望ましい。そこで、酵母自身の生命活動を利用して、亜硫酸を外部から添加することなく、香味安定性に有効な亜硫酸濃度を達成することが有効である。しかしながら、先に述べたプロセス制御による方法では酸素不足によって酵母の増殖速度が低下し、発酵遅延や品質の低下を引き起こす場合があるため、必ずしも実用的とはいえない。
【0007】
また、遺伝子操作技術を利用した酵母の育種では親株の10倍以上の亜硫酸濃度を達成したという結果も報告されている(J. Hansen et al., Nature Biotech., 1587-1591, 1996)が、その一方で発酵遅延や、好ましくない香味成分であるアセトアルデヒドおよび1-プロパノールの増加が認められ、実用酵母とするには問題があった。これらのことから、発酵速度や製品の品質を損なうことなく、充分量の亜硫酸を生産できる酵母の育種方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ビール酵母から既知のタンパク質より有利な効果を奏する硫酸アデニリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を同定・単離することに成功した。また、得られた遺伝子を酵母に導入し発現させた形質転換酵母を作製し、亜硫酸生成量が増加することを確認して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、ビール酵母に特徴的に存在する新規な硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子、該遺伝子がコードするタンパク質、該遺伝子の発現が調節された形質転換酵母、該遺伝子の発現が調節された酵母を用いることによる製品中の亜硫酸生成量の制御方法などに関する。本発明は、具体的には、次に示すポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクター、該ベクターが導入された形質転換酵母、該形質転換酵母を用いる酒類の製造方法などを提供する。
【0010】
(1)以下の(a)〜(f)から選択されるポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【0011】
(2)以下の(g)〜(i)から選択される上記(1)に記載のポリヌクレオチド:
(g)配列番号:2のアミノ酸配列又は配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(i)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
(3)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する上記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(4)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する上記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(5)DNAである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【0012】
(6)以下の(j)〜(m)から選択されるポリヌクレオチド:
(j) 上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物に対して相補的な塩基配列を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;
(k) 上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド;
(l) 上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物を特異的に切断する活性を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;及び
(m) 上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を共抑制効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド。
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
(8)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
(8a)以下の(x)〜(z)の構成要素を含む発現カセットを含む上記(8)に記載のベクター:
(x)酵母細胞内で転写可能なプロモーター
(y)該プロモーターにセンス方向またはアンチセンス方向で結合した、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;及び
(z)RNA分子の転写終結およびポリアデニル化に関し、酵母で機能するシグナル。
(9) 上記(6)に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
(10)上記(8)又は(9)に記載のベクターが導入された酵母。
(11)上記(8)に記載のベクターを導入することによって、亜硫酸生成能が増強された上記(10)に記載の酵母。
【0013】
(12)上記(9)に記載のベクターを導入することによって、または、上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)に係る遺伝子を破壊することによって、上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現が抑制された酵母。
(13)上記(7)に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって亜硫酸生成能が向上した上記(10)に記載の酵母。
(14)上記(10)〜(13)のいずれかに記載の酵母を用いた酒類の製造方法。
(15)醸造する酒類が麦芽飲料である上記(14)に記載の酒類の製造方法。
(16)醸造する酒類がワインである上記(14)に記載の酒類の製造方法。
(17)上記(14)〜(16)のいずれかに記載の方法で製造された酒類。
(18)配列番号:1の塩基配列を有する硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーまたはプローブを用いて、被検酵母の亜硫酸生成能について評価する方法。
(18a)上記(18)に記載の方法によって、亜硫酸生成能が高いあるいは低い酵母を選別する方法。
(18b)上記(18a)に記載の方法によって選別された酵母を用いて酒類(例えば、ビール)を製造する方法。
(19)被検酵母を培養し、配列番号:1の塩基配列を有する硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の発現量を測定することによって、被検酵母の亜硫酸生成能を評価する方法。
(19a)上記(19)に記載の方法で、被検酵母を評価し、硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の発現量が高い酵母を選別する、亜硫酸生成能の高い酵母を選別する方法。
(19b)上記(19a)に記載の方法によって選別された酵母を用いて酒類(例えば、ビール)を製造する方法。
【0014】
(20)被検酵母を培養して、上記(7)に記載のタンパク質を定量または配列番号:1の塩基配列を有する硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の発現量を測定し、目的とする亜硫酸生成能に応じた前記タンパク質量または前記遺伝子発現量の被検酵母を選択する、酵母の選択方法。
(21)基準酵母および被検酵母を培養して配列番号:1の塩基配列を有する硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の各酵母における発現量を測定し、基準酵母よりも該遺伝子が高発現、または低発現している被検酵母を選択する、上記(20)に記載の酵母の選択方法。
(22)基準酵母および被検酵母を培養して各酵母における上記(7)に記載のタンパク質を定量し、基準酵母よりも該タンパク質量の多い、または少ない被検酵母を選択する、上記(20)に記載の酵母の選択方法。
(23)上記(10)〜(13)に記載の酵母および上記(20)〜(22)に記載の方法により選択された酵母のいずれかの酵母を用いて酒類製造のための発酵を行い、亜硫酸含有量を調節することを特徴とする、酒類の製造方法。
本発明の形質転換酵母を用いる酒類の製造法によれば、製品中で抗酸化作用をもつ亜硫酸含量を増大させることができるため、香味安定性に優れ、より品質保持期間の長い酒類を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
従来公知の亜硫酸イオン排出ポンプの発現量を増強させる方法では、菌体内に余剰の亜硫酸が蓄積しないため良好な発酵速度を保つことができたが、菌体内における亜硫酸の生合成反応が律速となる可能性が考えられた。このことから、出発物質である硫酸イオンから亜硫酸への還元経路を強化することによって、さらに効率よく亜硫酸を生成させることが可能であると考えた。本発明者らは、このような着想に基づいて研究を重ね、特開2004-283169に開示の方法で解読したビール酵母ゲノム情報を基に、ビール酵母特有の硫酸アデニリルトランスフェラーゼをコードするnonScMET3遺伝子を単離・同定した。この塩基配列を配列番号:1に示す。またこの遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0016】
1. 本発明のポリヌクレオチド
まず、本発明は、(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド(具体的には、DNA、以下、これらを単に「DNA」とも称する);及び(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを提供する。
本発明で対象とするDNAは、上記のビール酵母由来の硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAに限定されるものではなく、このタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする他のDNAを含む。機能的に同等なタンパク質としては、例えば、(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0017】
このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸配列において、例えば、1〜100個、1〜90個、1〜80個、1〜70個、1〜60個、1〜50個、1〜40個、1〜39個、1〜38個、1〜37個、1〜36個、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加の数は、一般的には小さい程好ましい。また、このようなタンパク質としては、(d)配列番号:2のアミノ酸配列と約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。
【0018】
なお、硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性は、例えばKlonusらの方法(Plant J. 1994 Jul;6(1):105-12.)によって測定することができる。
また、本発明は、(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドも包含する。
【0019】
ここで、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNA)」とは、配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA又は配列番号:2のアミノ酸配列をコードするDNAの全部または一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法またはサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるDNAをいう。ハイブリダイゼーションの方法としては、例えばMolecular Cloning 3rd Ed.、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997などに記載されている方法を利用することができる。
本明細書でいう「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0020】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling Reagents(アマシャムファルマシア社製)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1% (w/v) SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。
これ以外にハイブリダイズ可能なDNAとしては、FASTA、BLASTなどの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメータを用いて計算したときに、配列番号:2のアミノ酸配列をコードするDNAと60%以上、70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するDNAをあげることができる。
【0021】
なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268, 1990; Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0022】
さらに、本発明のポリヌクレオチドは、(j) 上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物に対して相補的な塩基配列を有するRNAをコードするポリヌクレオチド; (k)上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド; (l) 上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物を特異的に切断する活性を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;及び(m)上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を共抑制効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチドを含む。これらのポリヌクレオチドは、ベクターに組込まれ、さらにそのベクターが導入された形質転換細胞において上記(a)〜(i)のポリヌクレオチド(DNA)の発現を抑制することができる。したがって、上記DNAの発現を抑制することが好ましい場合に好適に利用することができる。
【0023】
本明細書中、「DNAの転写産物に対して相補的な塩基配列を有するRNAをコードするポリヌクレオチド」とは、いわゆるアンチセンスDNAのことをいう。アンチセンス技術は、特定の内在性遺伝子の発現を抑制する方法として公知であり、種々の文献に記載されている(例えば、平島および井上: 新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現 (日本生化学会編, 東京化学同人) pp.319-347, 1993などを参照)。アンチセンスDNAの配列は、内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンスDNAの長さは少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。
【0024】
本明細書中、「DNAの発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド」とは、RNA interference(RNAi)によって内在性遺伝子の発現を抑制するためのポリヌクレオチドのことをいう。「RNAi」とは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNAを細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象のことを指す。ここで用いられるRNAとしては、例えば、21〜25塩基長のRNA干渉を生ずる二重鎖RNA、例えば、dsRNA (double strand RNA)、siRNA(small interfering RNA)又はshRNA(short hairpin RNA)が挙げられる。このようなRNAは、リポソームなどの送達システムにより所望の部位に局所送達させることも可能であり、また上記二重鎖RNAが生成されるようなベクターを用いてこれを局所発現させることができる。このような二重鎖RNA(dsRNA、siRNA又はshRNA)の調製方法、使用方法などは、多くの文献から公知である(特表2002-516062号公報; 米国公開許第2002/086356A号; Nature Genetics, 24(2), 180-183, 2000 Feb.; Genesis, 26(4), 240-244, 2000 April; Nature, 407:6802, 319-20, 2002 Sep. 21; Genes & Dev., Vol.16, (8), 948-958, 2002 Apr.15; Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 99(8), 5515-5520, 2002 Apr. 16; Science, 296(5567), 550-553, 2002 Apr. 19; Proc Natl. Acad. Sci. USA, 99:9, 6047-6052, 2002 Apr. 30; Nature Biotechnology, Vol.20 (5), 497-500, 2002 May; Nature Biotechnology, Vol. 20(5), 500-505, 2002 May; Nucleic Acids Res., 30:10, e46,2002 May 15等参照)。
【0025】
本明細書中、「DNAの転写産物を特異的に切断する活性を有するRNAをコードするポリヌクレオチド」とは、一般に、リボザイムのことをいう。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいい、ターゲットとするDNAの転写産物を切断することにより、その遺伝子の機能を阻害する。リボザイムの設計についても種々の公知文献を参照することができる(例えば、FEBS Lett. 228: 228, 1988; FEBS Lett. 239: 285, 1988; Nucl. Acids. Res. 17: 7059, 1989; Nature 323: 349, 1986; Nucl. Acids. Res. 19: 6751, 1991; Protein Eng 3: 733, 1990; Nucl. Acids Res. 19: 3875, 1991; Nucl. Acids Res. 19: 5125, 1991; Biochem Biophys Res Commun 186: 1271, 1992など参照)。また、「DNAの発現を共抑制効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド」とは、「共抑制」によって、ターゲットとなるDNAの機能を阻害するヌクレオチドをいう。
本明細書中、「共抑制」とは、細胞中に、標的内在性遺伝子と同一もしくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入することにより、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象のことをいう。共抑制効果を有するポリヌクレオチドの設計についても種々の公知文献を参照することができる(例えば、Smyth DR: Curr. Biol. 7: R793, 1997、Martienssen R: Curr. Biol. 6: 810, 1996など参照)。
【0026】
2. 本発明のタンパク質
本発明は、上記ポリヌクレオチド(a)〜(f)のいずれかにコードされるタンパク質も提供する。本発明の好ましいタンパク質は、配列番号:2のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質である。
【0027】
このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸配列において、上記したような数のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。また、このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸配列と上記したような相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。このようなタンパク質は、「モレキュラークローニング第3版」、「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー」、“Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)”、“Gene, 34, 315 (1985)”、“Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)”等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。
【0028】
本発明のタンパク質のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたとは、同一配列中の任意かつ1もしくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1または複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加があることを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン; B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸; C群:アスパラギン、グルタミン; D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸; E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン; F群:セリン、スレオニン、ホモセリン; G群:フェニルアラニン、チロシン。
また、本発明のタンパク質は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。また、アドバンスドケムテック社製、パーキンエルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジーインストゥルメント社製、シンセセルーベガ社製、パーセプティブ社製、島津製作所社製等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
【0029】
3.本発明のベクター及びこれを導入した形質転換酵母
次に、本発明は、上記したポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。本発明のベクターは、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA)又は上記(j)〜(m)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有する。また、本発明のベクターは、通常、(x)酵母細胞内で転写可能なプロモーター;(y)該プロモーターにセンス方向またはアンチセンス方向で結合した、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA);及び(z)RNA分子の転写終結およびポリアデニル化に関し、酵母で機能するシグナルを構成要素として含む発現カセットを含むように構成される。本発明においては、後述するビールの醸造において、上記本発明のタンパク質を高発現させる場合は、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を促進するようにこれらのポリヌクレオチドを該プロモーターに対してセンス方向に導入する。また、上記本発明のタンパク質の発現を抑制させる場合は、上記(j)〜(m)のいずれかに記載のポリヌクレオチドが発現可能なようにベクターに導入することもできる。なお、本発明においては、ターゲットとする上記遺伝子(DNA)を破壊することによって、上記DNAの発現または上記タンパク質の発現を抑制することができる。遺伝子の破壊は、ターゲットとする遺伝子における遺伝子産物の発現に関与する領域、例えば、コード領域やプロモーター領域の内部へ単一あるいは複数の塩基を付加あるいは欠失させたり、これらの領域全体を欠失させることにより行うことができる。このような遺伝子破壊の手法は、公知の文献を参照することができる(例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76, 4951(1979) 、Methods in Enzymology, 101, 202(1983)、特開平6-253826号公報など参照)。
【0030】
酵母に導入する際に用いるベクターとしては、多コピー型(YEp型)、単コピー型(YCp型)、染色体組み込み型(YIp型)のいずれもが利用可能である。例えば、YEp型ベクターとしてはYEp24 (J. R. Broach et al., Experimental Manipulation of Gene Expression, Academic Press, New York, 83, 1983) 、YCp型ベクターとしてはYCp50 (M. D. Rose et al., gene, 60, 237, 1987) 、YIp型ベクターとしてはYIp5 (K. Struhl et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USP, 76, 1035, 1979) が知られており、容易に入手することができる。
酵母での遺伝子発現を調節するためのプロモーター/ターミネーターとしては、醸造用酵母中で機能するとともに、もろみ中の成分に影響を受けなければ、任意の組み合わせでよい。例えばグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)のプロモーター、3-ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子(PGK1)のプロモーターなどが利用可能である。これらの遺伝子はすでにクローニングされており、例えばM. F. Tuite et al., EMBO J., 1, 603 (1982) に詳細に記載されており、既知の方法により容易に入手することができる。
【0031】
形質転換の際に用いる選択マーカーとしては、醸造用酵母の場合は栄養要求性マーカーが利用できないので、ジェネチシン耐性遺伝子(G418r)、銅耐性遺伝子(CUP1)(Marin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 337 1984)、セルレニン耐性遺伝子(fas2m, PDR4)(それぞれ猪腰淳嗣ら, 生化学, 64, 660, 1992; Hussain et al., gene, 101, 149, 1991)などが利用可能である。
上記のように構築されるベクターは、宿主酵母に導入される。宿主酵母としては、醸造用に使用可能な任意の酵母、例えばビール,ワイン、清酒等の醸造用酵母等が挙げられる。具体的には、サッカロマイセス(Saccharomyces)属等の酵母が挙げられるが、本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセス パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)W34/70等、サッカロマイセス カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)NCYC453、NCYC456等、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC1951、NBRC1952、NBRC1953、NBRC1954等が使用できる。さらにウイスキー酵母、例えばサッカロマイセス セレビシエNCYC90等、ワイン酵母、例えば協会ぶどう酒用1号、同3号、同4号等、清酒酵母、例えば協会酵母 清酒用7号、同9号等も用いることができるが、これに限定されない。本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセス パストリアヌスが好ましく用いられる。
【0032】
酵母の形質転換方法としては一般に用いられる公知の方法が利用できる。例えば、エレクトロポレーション法“Meth. Enzym., 194, p182 (1990)”、スフェロプラスト法“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929(1978)”、酢酸リチウム法“J.Bacteriology, 153, p163(1983)”、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929 (1978)、Methods in yeast genetics, 2000 Edition : A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manualなどに記載の方法で実施可能であるが、これに限定されない。
より具体的には、宿主酵母を標準酵母栄養培地(例えばYEPD培地“Genetic Engineering. Vo1.1, Plenum Press, New York, 117(1979)”等)で、OD600nmの値が1〜6となるように培養する。この培養酵母を遠心分離して集め、洗浄し、濃度約1〜2Mのアルカリイオン金属イオン、好ましくはリチウムイオンで前処理する。この細胞を約30℃で、約60分間静置した後、導入するDNA(約1〜20μg)とともに約30℃で、約60分間静置する。ポリエチレングリコール、好ましくは約4,000ダルトンのポリエチレングリコールを、最終濃度が約20%〜50%となるように加える。約30℃で、約30分間静置した後、この細胞を約42℃で約5分間加熱処理する。好ましくは、この細胞懸濁液を標準酵母栄養培地で洗浄し、所定量の新鮮な標準酵母栄養培地に入れて、約30℃で約60分間静置する。その後、選択マーカーとして用いる抗生物質等を含む標準寒天培地上に植えつけ、形質転換体を取得する。
その他、一般的なクローニング技術に関しては、「モレキュラークローニング第3版」、“Methods in Yeast Genitics、A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, NY)”等を参照することができる。
【0033】
4. 本発明の酒類の製法及びその製法によって得られる酒類
上述した本発明のベクターを製造対象となる酒類の醸造に適した酵母に導入し、その酵母を用いることによって所望の酒類でかつ亜硫酸含量が増加し、香味を増した酒類を製造することができる。また、下記の本発明の酵母の評価方法によって選択された酵母も同様に用いることができる。対象となる酒類としては、これらに限定されないが、例えば、ビール、ワイン、ウイスキー、清酒などが挙げられる。
【0034】
これらの酒類を製造する場合は、親株の代わりに本発明において得られた醸造酵母を用いる以外は公知の手法を利用することができる。したがって、原料、製造設備、製造管理等は従来法と全く同一でよく、亜硫酸含量を増加させた酒類を製造するためのコストの増加はない。つまり、本発明によれば、香味安定性等に優れた酒類を、既存の施設を用い、コストを増加させることなく製造することができる。
さらに、当該遺伝子が高発現している酵母では、培地中の硫酸イオンが効率よく還元され、増殖に必要な含硫化合物を生合成することができることから、硫黄源に乏しい原料、例えばビールの場合麦芽比率の低い麦汁を用いた場合にも、良好な酵母増殖やアルコール醗酵が可能である。
【0035】
また、含硫アミノ酸合成系の働きが強すぎる酵母では、当該経路の中間代謝物である硫化水素をはじめ、酒類には好ましくないオフフレーバーとなる含硫化合物類が大量に生成、蓄積する場合がある。このような酵母に対しては、当該遺伝子の機能を抑制あるいは破壊し、当該代謝経路を抑制してやることによって、オフフレーバーの軽減された酒類を製造することができる。
【0036】
5. 本発明の酵母の評価方法
本発明は、配列番号:1の塩基配列を有する硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーまたはプローブを用いて、被検酵母の亜硫酸生成能について評価する方法に関する。プライマーまたはプローブを用いる評価方法の一般的手法は公知であり、例えば、WO01/040514号公報、特開平8−205900号公報などに記載されている。以下、この評価方法について簡単に説明する。
まず、被検酵母のゲノムを調製する。調製方法は、Hereford法や酢酸カリウム法など、公知の如何なる方法を用いることができる(例えば、Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory Press, p130 (1990))。得られたゲノムを対象にして、硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の塩基配列(好ましくは、ORF配列)に基づいて設計したプライマーまたはプローブを用いて、被検酵母のゲノムにその遺伝子あるいはその遺伝子に特異的な配列が存在するか否かを調べる。プライマーまたはプローブの設計は公知の手法を用いて行うことができる。
【0037】
遺伝子または特異的な配列の検出は、公知の手法を用いて実施することができる。例えば、特異的配列の一部または全部を含むポリヌクレオチドまたはその塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチドを一つのプライマーとして用い、もう一方のプライマーとしてこの配列よりも上流あるいは下流の配列の一部または全部を含むポリヌクレオチドまたはその塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチドを用いて、PCR 法によって酵母の核酸を増幅し、増幅物の有無、増幅物の分子量の大きさなどを測定する。プライマーに使用するポリヌクレオチドの塩基数は、通常、10bp以上であり、15〜25bpであることが好ましい。また、挟み込む部分の塩基数は、通常、300〜2000bpが適当である。
【0038】
PCR 法の反応条件は、特に限定されないが、例えば、変性温度:90〜95℃、アニーリング温度:40〜60℃、伸長温度:60〜75℃、サイクル数:10回以上などの条件を用いることができる。得られる反応生成物はアガロースゲルなどを用いた電気泳動法等によって分離され、増幅産物の分子量を測定することができる。この方法により、増幅産物の分子量が特異部分のDNA 分子を含む大きさかどうかによって、その酵母の亜硫酸生産能について予測・評価する。また、増幅物の塩基配列を分析することによって、さらに上記性能についてより正確に予測・評価することが可能である。
【0039】
また、本発明においては、被検酵母を培養し、配列番号:1の塩基配列を有する硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の発現量を測定することによって、被検酵母の亜硫酸生成能を評価することもできる。なお、硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の発現量の測定は、被検酵母を培養し、硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の産物であるmRNA又はタンパク質を定量することによって可能である。mRNA又はタンパク質の定量は、公知の手法を用いて行うことができる。例えば、mRNAの定量は例えばノーザンハイブリダイゼーションや定量的RT−PCRによって、タンパク質の定量は例えばウエスタンブロッティングによって行うことができる(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1994-2003)。
【0040】
さらに、被検酵母を培養して、配列番号:1の塩基配列を有する硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の発現量を測定し、目的とする亜硫酸生成能に応じた前記遺伝子発現量の酵母を選択することによって、所望の酒類の醸造に好適な酵母を選択することができる。また、基準酵母および被検酵母を培養し、各酵母における前記遺伝子発現量を測定し、基準酵母と被検酵母の前記遺伝子発現量を比較して、所望の酵母を選択してもよい。具体的には、例えば、基準酵母および被検酵母を培養して配列番号:1の塩基配列を有する硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の各酵母における発現量を測定し、基準酵母よりも該遺伝子が高発現である被検酵母を選択することによって所望の酒類の醸造に好適な酵母を選択することができる。
【0041】
あるいは、被検酵母を培養して、亜硫酸生成能の高い、あるいは硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性の高い酵母を選択することによって、所望の酒類の醸造に好適な被検酵母を選択することができる。
これらの場合、被検酵母または基準酵母としては、例えば、上述した本発明のベクターを導入した酵母、上述した本発明のポリヌクレオチド(DNA)の発現が促進あるいは抑制された酵母、突然変異処理が施された酵母、自然変異した酵母などが使用され得る。硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性は、例えばKlonusらの方法(Plant J. 1994 Jul;6(1):105-12.)によって測定することができる。突然変異処理は、例えば、紫外線照射や放射線照射などの物理的方法、EMS(エチルメタンスルホネート)、N−メチル−N−ニトロソグアニジンなどの薬剤処理による化学的方法など、いかなる方法を用いてもよい(例えば、大嶋泰治編著、生物化学実験法39 酵母分子遺伝学実験法、p67-75、学会出版センターなど参照)。
【0042】
なお、基準酵母、被検酵母として使用され得る酵母としては、醸造用に使用可能な任意の酵母、例えばビール、ワイン、清酒等の醸造用酵母等が挙げられる。具体的には、サッカロマイセス(Saccharomyces)属等の酵母が挙げられるが、本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセス パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)W34/70等、サッカロマイセス カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)NCYC453、NCYC456等、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC1951、NBRC1952、NBRC1953、NBRC1954等が使用できる。さらにワイン酵母、例えば協会ぶどう酒用1号、同3号、同4号等、清酒酵母、例えば協会酵母 清酒用7号、同9号等も用いることができるが、これに限定されない。本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセス パストリアヌスが好ましく用いられる。基準酵母、被検酵母は、上記酵母から任意の組み合わせで選択しても良い。
【0043】
実 施 例
以下、実施例によって本発明の詳細を述べるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
新規硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子(nonScMET3)のクローニング
特開2004-283169に記載の比較データベースを用いて検索した結果、ビール酵母に特有の新規硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子、nonScMET3を見出した(配列番号:1)。得られた塩基配列情報を基に、それぞれ全長遺伝子を増幅するためのプライマーnonScMET3_F(配列番号:3)/nonScMET3_R(配列番号:4)を設計し、ゲノム解読株サッカロマイセス パストリアヌス バイヘンステファン34/70株(W34/70株)の染色体DNAを鋳型としたPCRによってnonScMET3の全長遺伝子を含むDNA断片を取得した。
上記のようにして得られたnonScMET3遺伝子断片を、TAクローニングによってpCR2.1-TOPOベクター(インビトロジェン社製)に挿入した。nonScMET3遺伝子の塩基配列をサンガーの方法 (F. Sanger, Science, 214, 1215, 1981) で分析し、塩基配列を確認した。
【実施例2】
【0045】
ビール試醸中のnonScMET3遺伝子発現解析
ビール酵母サッカロマイセス パストリアヌスW34/70株を用いてビール試醸を行い、発酵中のビール酵母菌体から抽出したmRNAをビール酵母DNAマイクロアレイで検出した。
麦汁エキス濃度 12.69%
麦汁容量 70L
麦汁溶存酸素濃度 8.6ppm
発酵温度 15℃
酵母投入量 12.8×106cells/mL
【0046】
発酵液を経時的にサンプリングし、酵母増殖量(図1)、外観エキス濃度(図2)の経時変化を観察した。またこれと同時に酵母菌体をサンプリングし、調製したmRNAをビオチンラベルして、特開2004-283169に記載のビール酵母DNAマイクロアレイにハイブリダイズさせた。シグナルの検出はジーンチップオペレーティングシステム(GCOS;GeneChip Operating Software 1.0、アフィメトリクス社製)を用いて行った。nonScMET3遺伝子の発現パターンを(図3)に示す。この結果より、通常のビール発酵においてnonScMET3遺伝子が発現していることを確認した。
【実施例3】
【0047】
nonScMET3遺伝子の構成的発現
実施例1に記載のnonScMET3/pCR2.1-TOPOを制限酵素SacIおよびNotIで消化し、nonScMET3遺伝子を含むDNA断片を調製した。これを制限酵素SacIおよびNotI処理したpUP3GLP2に連結させ、nonScMET3構成的発現ベクターpUP-nonScMET3を構築した。pUP3GLP2とは相同組換え部位としてオロチジン5リン酸デカルボキシラーゼ遺伝子URA3を含むYIp型(染色体組み込み型)の酵母発現ベクターであり、導入された遺伝子はグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子TDH3のプロモーター/ターミネーターによって構成的に発現される。酵母での選択マーカーとして、ガラクトキナーゼ遺伝子GAL1のプロモーター/ターミネーターの制御下に薬剤耐性遺伝子YAP1が組み込まれており、ガラクトースを含む培地で発現が誘導される。また大腸菌での選択マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子Amprを含んでいる。
【0048】
上述の方法で作製した構成的発現ベクターを用い、特開平07-303475に記載された方法でサッカロマイセス パストリアヌス バイヘンステファン34/70株を形質転換した。まず、生成した亜硫酸が菌体内に蓄積すると、酵母自身が亜硫酸によるダメージを受けてしまい当該遺伝子の効果を正しく評価することができないため、特開2004-283169に記載の方法で亜硫酸排出ポンプをコードするnonScSSU1遺伝子高発現株を取得し、これを親株とした。得られた株をpUP-nonScMET3で形質転換し、セルレニン1.0mg/Lを含むYPGal平板培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%ガラクトース、2%寒天)でセルレニン耐性株を選択した。
【実施例4】
【0049】
ビール試験醸造における亜硫酸生成量の解析
親株ならびに実施例3で得られたnonScMET3高発現株2株を用いた発酵試験を以下の条件で行った。
麦汁エキス濃度 11.96%
麦汁容量 1L
麦汁溶存酸素濃度 約10ppm
発酵温度 15℃一定
酵母投入量 6g湿酵母菌体/L麦汁
【0050】
発酵醪を経時的にサンプリングし、酵母増殖量(OD660)(図4)、エキス消費量の経時変化(図5)を調べた。発酵終了時における亜硫酸濃度の定量は、酸性下で蒸留により亜硫酸を過酸化水素水に捕集した後、アルカリで滴定することによって行った((財)日本醸造協会 改訂BCOJビール分析法)。
図6より、発酵終了時における亜硫酸生成量は、親株の25.4ppmに対してnonScMET3高発現株でそれぞれ32.3、33.8ppmであった。この結果より、nonScMET3高発現によって亜硫酸生成量が約30%増大することが明らかとなった。またこのとき、親株と高発現株の間で、増殖速度およびエキス消費速度には差がみられなかった。
以上の結果から、本発明で開示されたビール酵母特有の硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子を構成的に発現させることによって亜硫酸の生成能が強化された酵母では、発酵工程や発酵期間を変えることなく、ビールの抗酸化剤として作用する亜硫酸の生成量を特異的に増加させることが可能となった。これによって香味安定性に優れ、より品質保持期間の長い酒類を製造することが可能となった。
【実施例5】
【0051】
低硫黄源麦汁を用いたビール試験醸造
実施例3で作製した高発現ベクターでW34/70株を形質転換し、それぞれScおよびnon-ScMET3(単独)高発現株を取得する。次に、低硫黄源麦汁として麦芽比率24%の麦汁を調製し、親株および得られた高発現株を用いて以下の条件でビール試験醸造を行う。
麦汁エキス濃度 13%
麦汁容量 2L
麦汁溶存酸素濃度 約 8ppm
発酵温度 15℃一定
酵母投入量 10.5g湿酵母菌体/2L麦汁
醗酵もろみを経時的にサンプリングし、酵母増殖量(OD660)、エキス消費量の経時変化を調べる。
【実施例6】
【0052】
MET3遺伝子の破壊
文献 (Goldstein et al., yeast. 15 1541 (1999)) の方法にしたがい、薬剤耐性マーカーを含むプラスミド(pFA6a (G418r) あるいはpAG25 (nat1)) をテンプレートとしたPCRによってMET3遺伝子破壊用断片を作製する。
作製した遺伝子破壊用断片でW34/70株あるいは胞子クローンW34/70-2株を形質転換する。形質転換は特開平07-303475に記載された方法で行い、選択薬剤の濃度はそれぞれgeneticin 300 mg/L、nourseothricin 50 mg/Lとする。
【実施例7】
【0053】
ビール試験醸造における含硫化合物生成量の解析
親株および実施例6で得られた破壊株を用いて以下の条件でビール試験醸造を行う。
麦汁エキス濃度 13%
麦汁容量 2L
麦汁溶存酸素濃度 約 8ppm
発酵温度 15℃一定
酵母投入量 10.5g湿酵母菌体/2L麦汁
醗酵もろみを経時的にサンプリングし、酵母増殖量(OD660)、エキス消費量の経時変化を調べる。もろみ中の含硫化合物類の分析はヘッドスペースガスクロマトグラフィーで行う。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の酒類製造法によれば、製品中で抗酸化作用をもつ亜硫酸含量が増大するため、香味安定性に優れ、より品質保持期間の長い酒類を製造することが可能となる。また、本発明による酵母は硫黄源として取り込んだ硫酸イオンを効率よく還元し、増殖に必要な含硫化合物を生合成することができるため、含硫アミノ酸含量の低い原料、例えば発泡酒麦汁でも良好なアルコール発酵を行うことができる。さらには、オフフレーバーとなる含硫化合物類の生成量が高い酵母に対しても、当該遺伝子の発現を抑制することによって、好ましい香味の酒類を製造することが可能となる。
本出願は、日本国特許出願第2005−235011号(2005年8月12日出願)および日本国特許出願第2006−84289号(2006年3月24日出願)の優先権の利益を主張するもので、その出願の記載は全て本出願に取り込まれる。また、他の全ての引用文献の記載もまた全て本出願に取り込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、ビール試験醸造における酵母増殖量の経時変化を示す図である。横軸は発酵時間を、縦軸はOD660の値を示している。
【図2】図2は、ビール試験醸造におけるエキス消費量の経時変化を示す図である。横軸は発酵時間、縦軸は外観エキス濃度(w/w%)を示している。
【図3】図3は、ビール試験醸造中の酵母におけるnonScMET3遺伝子の発現挙動を示す図である。横軸は発酵時間、縦軸は検出されたシグナル輝度を示している。
【図4】図4は、nonScMET3高発現株を用いた試験醸造における酵母増殖量の経時変化を示す図である。横軸は発酵時間を、縦軸はOD660の値を示している。
【図5】図5は、nonScMET3高発現株を用いたビール試験醸造におけるエキス消費量の経時変化を示す図である。横軸は発酵時間、縦軸は外観エキス濃度(w/w%)を示している。
【図6】図6は、nonScMET3高発現株を用いたビール試験醸造終了時におけるもろみ中の亜硫酸濃度を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0056】
[配列番号:3] プライマー
[配列番号:4] プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(f)から選択されるポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
以下の(g)〜(i)から選択される請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(g)配列番号:2のアミノ酸配列又は配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(i)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ硫酸アデニリルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
DNAである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
以下の(j)〜(m)から選択されるポリヌクレオチド:
(j) 請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物に対して相補的な塩基配列を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;
(k) 請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド;
(l) 請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物を特異的に切断する活性を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;及び
(m) 請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を共抑制効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項9】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のベクターが導入された酵母。
【請求項11】
請求項8に記載のベクターを導入することによって、亜硫酸生成能が増強された請求項10に記載の酵母。
【請求項12】
請求項9に記載のベクターを導入することによって、または、請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)に係る遺伝子を破壊することによって、請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現が抑制された酵母。
【請求項13】
請求項7に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって、亜硫酸生成能が向上した請求項10に記載の酵母。
【請求項14】
請求項10から13のいずれかに記載の酵母を用いた酒類の製造方法。
【請求項15】
醸造する酒類が麦芽飲料である請求項14に記載の酒類の製造方法。
【請求項16】
醸造する酒類がワインである請求項14に記載の酒類の製造方法。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれかに記載の方法で製造された酒類。
【請求項18】
配列番号:1の塩基配列を有する硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーまたはプローブを用いて、被検酵母の亜硫酸生成能について評価する方法。
【請求項19】
被検酵母を培養し、配列番号:1の塩基配列を有する硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の発現量を測定することによって、被検酵母の亜硫酸生成能を評価する方法。
【請求項20】
被検酵母を培養して、請求項7に記載のタンパク質を定量または配列番号:1の塩基配列を有する硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の発現量を測定し、目的とする亜硫酸生成能に応じた前記タンパク質量または前記遺伝子発現量の被検酵母を選択する、酵母の選択方法。
【請求項21】
基準酵母および被検酵母を培養して配列番号:1の塩基配列を有する硫酸アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子の各酵母における発現量を測定し、基準酵母よりも該遺伝子が高発現、または低発現している被検酵母を選択する、請求項20に記載の酵母の選択方法。
【請求項22】
基準酵母および被検酵母を培養して各酵母における請求項7に記載のタンパク質を定量し、基準酵母よりも該タンパク質量の多い、または少ない被検酵母を選択する、請求項20に記載の酵母の選択方法。
【請求項23】
請求項10〜13に記載の酵母および請求項20〜22に記載の方法により選択された酵母のいずれかの酵母を用いて酒類製造のための発酵を行い、亜硫酸含有量を調節することを特徴とする、酒類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−504133(P2009−504133A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551886(P2007−551886)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【国際出願番号】PCT/JP2006/316203
【国際公開番号】WO2007/020989
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】