説明

硫黄含有化合物を生産するための微生物

本発明は、微生物と、微生物による少なくとも1つのタイプの硫黄含有化合物の生産方法と、に関する。好ましい実施形態では、当該発明は、微生物と、Corynebacterium glutamicumによるL-メチオニンまたはL-システインの生産方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の硫黄含有化合物を生産するための微生物および方法に関する。特定的には、本発明は、Corynebacterium glutamicumによるL-メチオニンまたはL-システインの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸は、動物およびヒトの栄養においてさまざまな目的で添加剤として使用される。たとえば、グルタミン酸は、典型的には、風味向上剤として使用される。メチオニンは、食品により摂取しなければならない必須アミノ酸である。メチオニンもシステインのような他の硫黄含有アミノ酸も、タンパク質の生合成に不可欠であるだけでなく、グルタチオン、S-アデノシルメチオニン、およびビオチンのようなさまざまな代謝産物の前駆体としても、さらにはさまざまな細胞過程においてメチル基ドナーとしても、機能する。
【0003】
アミノ酸の全世界の消費量は、現在、200万トンを超えると推定される。グルタミン酸のようなアミノ酸、または主に、L-リシン、L-メチオニン、およびL-トレオニンよりなる飼料添加剤、の年間需要は、アミノ酸1種あたり100万トンを超えると推定される。医薬品だけでもアミノ酸の年間需要は、15,000トンに達する(Kusumoto, I. (2001), J. Nutr., 131, 2552-2555)。
【0004】
前世紀の初期には、アミノ酸は、主に化学的にまたは抽出により生産されたが、グルタミン酸などのような特定のアミノ酸の生産は、現在では、主に発酵過程により行われる。この点に関して、Escherichia coliやCorynebacterium glutamicumなどのような特定の微生物は、アミノ酸の発酵生産にとくに好適であることが明らかにされている。発酵によるアミノ酸の生産は、とくに、自然界で使用可能なL-アミノ酸が排他的に生成されるという利点を有するが、化学合成からは、通常、ラセミ混合物が生成されるので、時間とコストのかかる処理が必要になることが多い。
【0005】
とくに、食品工業、飼料工業、化粧品工業、および医薬品工業をはじめとする多くの工業分野で使用されるメチオニン、ホモシステイン、S-アデノシルメチオニン、グルタチオン、システイン、ビオチン、チアミン、リポ酸などのようないわゆる硫黄含有化合物が必要とされている。硫黄含有ファインケミカルとも呼ばれるこれらの物質としては、有機酸、タンパク質原性および非タンパク質原性のアミノ酸、ビタミン、ならびに補因子が挙げられる。
【0006】
前記硫黄含有化合物を生産するためにE. coliやC. glutamicumのような微生物を使用することが試みられた。硫黄含有化合物の重要性はきわめて高いので、とくに、たとえば、攪拌および酸素供給、栄養培地の組成などのような技術的発酵手段により、前記微生物の生産方法を改良する試みがなされた。
【0007】
このほかに、それぞれの非変異の野生型よりもかなり大量に前記硫黄含有化合物を生産する前記微生物の変異株を開発することが、古典的な株選択により試みられた。
【0008】
この点に関して、E. coliやC. glutamicumのような微生物の使用は、とくに、メチオニンやシステインのような硫黄含有アミノ酸を発酵により工業的に大量生産する場合、困難であることが判明した。しかしながら、数種以上の上述の硫黄含有化合物の前駆体化合物であることから、まさにそれらのアミノ酸が強く必要とされている。
【0009】
微生物によるメチオニンおよびシステインの工業規模の発酵生産で現在まで経済的利益が得られていない理由は、ほとんどの場合、メチオニンおよびシステインの生産をもたらす生合成経路または代謝経路にある。E. coliによるシステインおよびメチオニンの生合成は、広く知られている(たとえば、Voet and Voet (1995) Biochemistry, John Wiley and Sons, Inc. USAを参照されたい)。Corynebacterium glutamicumによるメチオニンおよびシステインの生合成は、集中的研究の対象であり、ごく最近、Rueckert et al. (Rueckert et al. (2003), J. of Biotechnology, 104, 213-228)さらにはLee et al. (Lee et al. (2003), Appl. Microbiol. Biotechnol., 62, 459-467)に報告された。
【0010】
メチオニンの生合成における主要な段階は、炭素骨格中への硫黄の組込みである。通常、硫黄源はスルフェートであり、微生物による摂取、活性化、および還元が行われなければならない。前記段階は、メチオニン1molあたり7molのATPおよび8モルのNADPHの消費を引き起こす(Neidhardt et al. (1990) Physiology of the bacterial cell: a molecular approach, Sunderland, Massachusetts, USA, Sinauer Associates, Inc.)。したがって、メチオニンは、それを生産するのに大量の細胞のエネルギーを必要とするアミノ酸の1つである。
【0011】
それに対応して、メチオニンを生産する微生物は、メチオニンの生産だけでなくシステインの生産に対しても厳密なレギュレーション制御下にある代謝経路を構築している。このことは、たとえば、フィードバックレギュレーション機序により、細胞が十分量のメチオニンを生産するとすぐに、メチオニンを利用する代謝経路の活性がダウンレギュレートされることを意味する。
【0012】
このため、現在までメチオニンは工業規模で排他的に化学生産される唯一のアミノ酸であるという事実につきあたることになるが、このため、後続処理でメチオニンのL形とD形とをエナンチオマー分離することが必要となる。
【0013】
したがって、Corynebacterium glutamicumのメチオニン生産変異種については、ほとんど知られていない。そのような変異種は、1975年という早い時期に同定された(Kase et al. (1975) Agric. Biol. Chem., 39, 153-160)。しかしながら、そこに記載される株は、微生物によるメチオニンの工業生産の対象にはなっていない。それ以来、改良はなされていない。
【0014】
メチオニンの生産を増大しうる微生物を生産する先行技術の方法は、現在まで、メチオニンおよび他の硫黄含有化合物の生合成経路に関与する遺伝子を同定することおよび続いてそれぞれの機能に応じて遺伝子の過剰発現または抑制によりメチオニンまたは他の化合物の生産を増大させることに焦点が当てられてきた。
【0015】
そのような試みについては、たとえば、WO 02/10209に記載されている。この点に関して、前記文献は、メチオニンなどの生産を増大させる個々の遺伝子の過剰発現または抑制について単に記載しているにすぎないことが問題であることが判明した。この方法では、通常、他の調節機序が影響を受けない状態でメチオニンなどの生合成の一合成段階に対する制御機序だけが不活性化されるにすぎないので、硫黄含有化合物の生産の増大は、限られた形で達成されうるにすぎない(Lee et al. vide supraの図3をも参照されたい)。したがって、硫黄含有化合物の生合成に関与する個々の遺伝子を過剰発現させることにより、通常、前記調節機序は、不十分に分断されるにすぎない。メチオニンまたは他の硫黄含有化合物の含有量の増大は、達成されるにしてもそれほど多くないので、工業規模で微生物による発酵生産を行うに値する方法を提供するには十分ではない。
【0016】
メチオニンのような硫黄含有化合物を微生物により生産する場合、メチオニンの生合成経路の遺伝子が微生物の環状ゲノム上に分布している可能性があるという特有の問題が生じる(Rueckert et al., vide supraを参照されたい)。このようにゲノム上に分布したメチオニンの生合成経路の遺伝子を有する微生物の例は、Corynebacterium glutamicum、Escherichia coli、Bacillus subtilisのようなBacillus、Serratia marcescensのようなSerratia、およびSalmonellaである。メチオニン生合成に関与する遺伝子の分布は、それらの遺伝子が1つのオペロン内すなわち共通の調節ユニット内に組織化されていることはないことを示唆するものと考えられうる。後者の場合、いくつかの調節機序を同時に分断できる可能性があるので、たとえば、前記オペロンをレギュレートする分子スイッチに影響を及ぼすことにより、すなわち、分子スイッチの過剰発現または抑制を行うことにより、微生物により生産されるメチオニンの量のより効率的な増大を達成できる可能性がある。Corynebacterium glutamicumのゲノムにおいてメチオニンの生合成に関与する遺伝子が分布しているにもかかわらず、原理的には、そのようなオペロンが存在しうるという事実が最近明からにされた(Rey et al. (2003), J. Biotechnol., 103, 51-65)。
【0017】
Reyらは、タンパク質McbRが、メチオニン生合成に関与する次の遺伝子:metY(O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼをコードする)、metK(S-アデノシル-メチオニンシンテターゼをコードする)、hom(ホモセリンデヒドロゲナーゼをコードする)、cysK(L-システインシンターゼをコードする)、cysI(NADPH依存性スルフィドレダクターゼをコードする)、およびssuD(アルカンスルホン酸モノオキシゲナーゼをコードする)の発現をレギュレートする転写リプレッサーであることを明らかにすることができた。前記酵素はすべて、メチオニンおよび/またはシステインの生合成に関与しており、それに対応して、著者らは、McbRに対するC. glutamicumのノックアウト株において増大された量のメチオニンが生産されることを明らかにすることができた。
【0018】
これらの結果に照らして、そのような中心的調節スイッチの過剰発現または抑制(機能に応じて)を行うことにより、有意に増大された量の硫黄含有化合物を生産する微生物を生産できるはずなので、微生物による硫黄含有化合物の生合成経路の中心的レギュレーションに関与するさらなる因子を同定することに強い関心が払われている。
【発明の開示】
【0019】
したがって、硫黄含有化合物を生産しうる微生物を提供することが本発明の根底をなす課題である。
【0020】
とくに、硫黄含有化合物の生合成経路の中心的調節エレメントを不活性化させることにより有意に増大された量の前記硫黄含有化合物を取得しうるように、E. coliまたはCorynebacterium glutamicumのような微生物によりメチオニンまたはシステインのような硫黄含有化合物を生産するための微生物および方法を提供することもまた、本発明の課題である。
【0021】
さらに、それぞれの野生型生物と比較してたとえばメチオニンおよび/またはシステインのような硫黄含有化合物を増大された量で生産する変異生物を生産するのに使用しうる核酸配列を同定することが、本発明の課題である。
【0022】
本発明の根底をなすこれらのおよびさらなる課題は、説明から明らかなように、独立請求項により解決される。
本発明の好ましい実施形態については、従属請求項に記載されている。
【0023】
本発明の範囲内で、C. glutamicumにおける新規な選択および変異機序により、C. glutamicumにおいて硫黄含有化合物とくにメチオニンのレギュレーションの中心的調節スイッチになる因子すなわちNCgl2640(Entrezデータベースhttp://www.ncbi.nlm.nih.govのGenBankアクセッション番号、配列番号1)を同定することが可能であった。NCgl2640(GenBankアクセッション番号:NP_601931、配列番号2)によりコードされるアミノ酸配列との相同性検索をNCBI(http:/www.ncbi.nlm.nih.gov)のBLASTプログラムにより行ったところ、いくつかの相同体がE. coliなどのような他の異なる生物中に存在するという結果が得られたので、アミノ酸および硫黄含有化合物の生合成経路の保存(とくに、異なる微生物間における保存)を考慮して、前記因子はまた、他の微生物において硫黄含有化合物の生合成経路の中心的レギュレーションに関与していると推定しうる。
【0024】
本発明の範囲内で明らかなように、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸の含有量および/または活性が野生型と比較して低減されている微生物は、硫黄含有化合物を生産するために使用可能である。
【0025】
したがって、本発明の目的は、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性が野生型の微生物と比較して低減されている微生物に関する。以下において、本発明のこの目的はまた、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸の含有量および/または活性が野生型の微生物と比較して低減されていることとして記述される。
【0026】
本発明のさらなる目的は、配列番号1で特定される配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の含有量/活性が野生型と比較して低減されていることに基づいて、または配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸の含有量/活性が野生型と比較して低減されていることに基づいて、L-メチオニン、L-システイン、L-ホモシステイン、L-シスタチオニン、S-アデノシル-L-メチオニン、グルタチオン、ビオチン、チアミン、および/またはリポ酸、好ましくは、L-メチオニンおよび/またはL-システインのような硫黄含有化合物を生産しうる前記微生物に関する。
【0027】
本発明のさらなる目的は、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性が、対応するゲノム核酸配列(複数可)の破壊および/または欠失により、野生型と比較して低減されている微生物に関する。
【0028】
本発明のさらなる目的は、ゲノム核酸配列中に変異を導入して、前記核酸によりコードされるタンパク質の非機能形の発現を引き起こすことにより、配列番号1で特定される配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の含有量および/もしくは活性、または前記核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性が、野生型と比較して低減されている微生物に関する。
【0029】
本発明のさらなる目的は、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸の含有量および/または活性が、アンチセンス法により、該核酸のmRNAに特異的なリボザイムの発現により、またはリボヌクレアーゼP構築物の発現により、野生型と比較して低減されている微生物に関する。
【0030】
本発明のさらなる目的は、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の含有量および/もしくは活性、または該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性が、該核酸によりコードされるタンパク質に特異的でありかつ微生物中でそれらの活性をブロックまたは阻害する組換え抗体の発現により、野生型と比較して低減されている微生物に関する。
【0031】
本発明のさらなる目的は、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の含有量および/もしくは活性、または該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性が、該核酸によりコードされるタンパク質の非機能形を細胞内で過剰発現することにより、野生型と比較して低減されている微生物に関する。
【0032】
本発明のさらなる目的は、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の含有量および/もしくは活性の低減、または該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性の低減に加えて、C. glutamicumに由来するMcbRもしくはその相同体をコードする核酸の含有量および/もしくは活性が野生型と比較して低減されている微生物に関する。
【0033】
したがって、本発明の目的は、そのほかに、配列番号3の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の含有量および/もしくは活性、または配列番号4の配列を有するタンパク質と同一であるかもしくは機能的に相同であるタンパク質の含有量および/もしくは活性が、野生型と比較して低減されている微生物に関する。この点に関して、含有量または活性の低減は、上記のものと同一の方法で実施可能である。
【0034】
本発明に係る微生物のとくに好ましい実施形態は、前記核酸配列またはそれによりコードされるタンパク質の発現が実質的に完全に抑制されている微生物に関する。
【0035】
本発明のさらなる目的は、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸またはそれによりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性の低減のほかに、所望の硫黄含有化合物の生合成経路の遺伝子産物をコードする少なくとも1種のさらなる核酸の含有量および/もしくは活性が野生型と比較して増大されている微生物に関する。そのような微生物では、最後に述べた核酸はまた、核酸によりコードされるタンパク質がその活性に関して代謝の産物により影響を受けないように変異させることが可能である。これらの微生物では、以上で述べたようなC. glutamicumに由来するMcbRまたは相同体の含有量および/または活性は、さらに低減させることが可能である。
【0036】
同じように、本発明のさらなる目的は、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸またはそれによりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性の低減のほかに、所望の硫黄含有化合物の生合成経路の遺伝子産物をコードする少なくとも1種のさらなる核酸の含有量および/もしくは活性が野生型と比較して低減されている微生物に関する。前記微生物では、以上で述べたようなC. glutamicumに由来するMcbRまたは相同体の含有量および/または活性は、さらに低減させることが可能である。
【0037】
本発明のさらなる目的は、本発明に係る微生物の培養を含む微生物による硫黄含有化合物の生産方法に関する。この点に関して、L-メチオニンおよび/またはL-システインのとくに好ましい生産方法は、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸または該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性が野生型と比較して低減されている微生物Corynebacterium glutamicumを利用する。
【0038】
本発明のさらなる目的は、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸または該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性の低減に加えて、さらなる前記核酸の含有量および/もしくは活性が前記方法により増大または低減されている微生物を用いるL-メチオニンおよび/またはL-システインの生産方法に関する。
【0039】
本発明のさらなる目的は、硫黄含有化合物の生産に使用しうる微生物を生産するための前記核酸の使用に関する。
【0040】
本発明の範囲内で、メチオニン生合成の新規なレギュレーターをC. glutamicumで特定することが可能である。これは、C. glutamicumのメチオニン過剰生産株を特定するために当技術分野で以前なされた試みと有意に異なる新規な選択および変異ストラテジーを用いて可能になった(実施例参照)。
【0041】
この点に関して、本発明の範囲内で、配列番号1を有する核酸配列(GenBankアクセッション番号:NCgl2640)が、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質(GenBankアクセッション番号:NP_601931)をコードし、C. glutamicumにおいてメチオニンの生合成経路のレギュレーションに積極的に関与することを、初めて明らかにすることができた。さらに、本発明の範囲内で、C. glutamicumにおいて配列番号1を有する核酸配列の欠失または機能的破壊を行うことにより、配列番号1によりコードされるタンパク質のレギュレーションが不活性化されることに基づいて、メチオニンを増量生産する株が得られることを、初めて明らかにすることができた。
【0042】
NCBIのBLAST検索から、C. glutamicumに由来するNCgl2640の相同体が多くの異なる微生物中に存在することが明らかになった。硫黄含有化合物の生合成経路が多くの異なる生物中で保存されているので、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸の含有量および/または活性が野生型と比較して低減されている微生物は、メチオニンおよび/または他の硫黄含有化合物(システインなど)を増量生産しうると推定される。
【0043】
本発明によれば、NCgl2640とは、配列番号1の配列を有する核酸分子を表すものと解釈される。そのような核酸分子によりコードされるタンパク質は、配列番号2の配列を有する。
【0044】
本発明によれば、配列番号1の配列を有する核酸または配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質に対する機能的相同体とは、配列番号1の配列を有する核酸または配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質に対して有意な相同性を呈する配列を有する核酸分子またはタンパク質を表すものと解釈される。
【0045】
本発明によれば、NCgl2640の含有量または配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の含有量とは、それぞれの微生物に対して決定されうる該核酸または該核酸によりコードされるタンパク質の量を表すものと解釈される。
【0046】
本発明によれば、NCgl2640の活性または配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の活性とは、該核酸配列によりコードされるタンパク質の細胞活性を表すものと解釈される。配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の細胞機能は、硫黄含有化合物とくにメチオニンの生合成のレギュレーションに見られる。配列番号1および2の配列と相同である核酸がC. glutamicumにおいて配列番号1または2の配列を有する核酸と同一の活性を有するかどうかは、容易に決定可能である。この目的のために、それぞれのゲノム核酸配列をそれぞれの微生物において欠失させて、D,L-エチオニンなどのようなメチオニンの構造類似体の添加にもかかわらず依然として微生物がメチオニンまたは他の硫黄含有化合物を生産しうるかどうかを決定する。
【0047】
本発明によれば、野生型と比較して配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の改変された含有量とは、野生型と比較して該核酸または該核酸によりコードされるタンパク質の低減された量を表すものと解釈される。該核酸または該核酸によりコードされるタンパク質の量の低減は、一般的には、配列番号1の配列を有する核酸またはそれと機能的に相同である核酸のいずれかである内因性核酸の含有量を低減することにより達成される。
【0048】
本発明によれば、野生型とは、遺伝子工学的処理の施されていない対応する元の生物を表すものと解釈される。
【0049】
配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸または該核酸によりコードされるタンパク質の活性の低減は、内因性核酸または該核酸によりコードされる内因性タンパク質の量すなわち含有量を低減することにより達成可能である。そのほかに、本発明によれば、前記核酸または該核酸によりコードされるタンパク質の活性の低減とは、内因性核酸または該内因性核酸によりコードされるタンパク質の活性は不変の状態に保持されるが、該核酸によりコードされるタンパク質とその細胞性結合パートナーとの相互作用が、たとえば、NP_601931もしくはその相同体の非機能形またはそれらに特異的な抗体の発現により、有意に阻害されることを表すものと解釈される。
【0050】
好ましくは、配列番号1で特定される配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸または該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性の低減(本発明に係る微生物中で生じる)は、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、とくに好ましくは少なくとも20%、同様にとくに好ましくは少なくとも40%、同様にとくに好ましくは少なくとも60%、なかでもとくに好ましくは少なくとも80%、同様になかでもとくに好ましくは少なくとも90%、同様になかでもとくに好ましくは少なくとも95%、同様になかでもとくに好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは100%である。
【0051】
本発明によれば、「配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸または該核酸によりコードされるタンパク質の発現の抑制」という用語は、「該核酸または該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性の低減」という用語と同義である。
【0052】
以上ですでに述べたように、NCBIのBLAST分析を介してNCgl2640の相同体を多くの異なる生物中で特定することが可能である。今後、多くの異なる微生物に対してますます多くの配列データが入手可能になるであろうから、本発明はまた、核酸またはそれによりコードされるタンパク質がそれらの含有量および/または活性に関して野生型と比較して低減されている微生物を包含する。ただし、該核酸または該核酸配列によりコードされるアミノ酸配列は、配列番号1の配列を有する核酸または配列番号2の配列を有するタンパク質との有意なまたは実質的な配列相同性を呈するものとする。
【0053】
2つの核酸またはタンパク質の同一性とは、特定の配列領域にわたる、好ましくは全配列長さにわたる核酸配列またはアミノ酸配列の同一性、とくに、CLUSTAL法(Higgins et al., 1989, Comput. Appl. Biosci., 5 (2), 151)を用いるDNA Star Inc., Madison, Wisconsin (USA)製のLasergeneソフトウェアの助けを借りて比較することにより計算される同一性を表すものと解釈される。相同性はまた、CLUSTAL方法(Higgins et al., 1989, Comput. Appl. Biosci., 5 (2), 151)を用いるDNA Star Inc., Madison, Wisconsin (USA)製のLasergeneソフトウェアの助けを借りて計算することも可能である。
【0054】
同一のヌクレオチドを同一の5'→3'の順次で有するのであれば、核酸分子は同一である。
【0055】
同一のアミノ酸を同一のN末端→C末端の順序で有するのであれば、アミノ酸分子は同一である。
【0056】
本発明によれば、有意なまたは実質的な配列相同性とは、一般的には、DNA分子の核酸配列もしくはタンパク質のアミノ酸配列が、それぞれ、配列番号1もしくは配列番号2の核酸配列もしくはアミノ酸配列と同一であるか、または少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、同様に好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも60%もしくは少なくとも70%、とくに好ましくは少なくとも90%、なかでもとくに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%のそれらの機能的等価部分であることを表すものと解釈される。好ましくは、相同性は、配列番号1または配列番号2の全配列長さにわたり決定される。
【0057】
したがって、相同性は、好ましくは、全アミノ酸配列領域または全核酸配列領域にわたり計算される。前記プログラムのほかに、当業者は、さまざまな配列を比較するためのさまざまなアルゴリズムに基づくさらなるプログラムを各自の裁量で有する。この点に関して、NeedlemanおよびWunschのアルゴリズムまたはSmithおよびWatermanのアルゴリズムは、とくに信頼性の高い結果を生じる。配列比較のために、たとえば、プログラムPile Aupa (J. Mol. Evolution. (1987), 25, 351-360; Higgins et al., (1989), Cabgos, 5, 151-153)を使用したり、またはGenetics Computer Group (575 Science Drive, Madison, Wisconsin, USA 53711)のGCG Software Packageに含まれるプログラムGap and Best Fit (Needleman and Wunsch, (1970), J. Mol. Biol., 48, 443-453 and Smith and Waterman (1981), Adv., Appl. Math., 2, 482-489)を利用したりすることも可能である。
【0058】
有意なまたは実質的な相同性または配列相同性とは、該配列が配列番号1および2を有する配列と機能的に相同であることを表すものとも解釈される。
【0059】
本発明の一実施形態は、野生型と比較して増大された量の硫黄含有化合物とくにメチオニンおよび/またはシステインを生産しうる微生物を生産するための前記核酸の使用に関する。この点に関して、当業者であれば、増大された量の硫黄含有化合物を生産しうる微生物を生成するために、いずれの場合にも、それぞれの生物においてC. glutamicumに由来するNCgl2640の機能的相同体に対応する核酸の含有量または活性を野生型と比較して低減させるという事実に気づく。
【0060】
高い相同性すなわち高い類似性または同一性を有するDNA配列は、配列番号1で特定される本発明に係る核酸の配列に対応するDNA配列の真正候補物質である。前記遺伝子配列は、たとえばPCRやハイブリダイゼーションのような標準的技術を介して単離可能であり、それらの機能は、当業者であれば、対応する酵素活性試験および他の実験により決定可能である。本発明によれば、さまざまな生物のDNA配列中で最も保存されている領域を最初に同定することによりPCRプライマーをデザインすべく、DNA配列の相同性比較を利用することが可能である。次に、そのようなPCRプライマーを用いて、第1の工程で、本発明に係る核酸と相同な核酸の成分であるDNA断片を単離することが可能である。
【0061】
そのような相同性比較または相同性検索に使用しうるさまざまな検索エンジンが存在する。前記検索エンジンとしては、たとえば、NCBIにより提供されるBLASTプログラムのCLUSTALプログラム群が挙げられる。
【0062】
さらに、本発明に係る配列と相同であるDNA配列を最も多様な生物から単離しうるさまざまな実験方法が当業者に公知である。該方法に含まれるのは、たとえば、cDNAライブラリーの作製および対応縮重プローブによるそのスクリーニングである。
【0063】
配列番号2と相同である配列は、たとえば、以下のタンパク質をコードする配列である:
NP_601931.1;NP_739184.1;NP_940366.1;NP_962856.1;ZP_00226250.1;NP_214947.1;NP_334857.1;ZP_00058595.1;NP_925240.1;NP_969100.1;ZP_00019148.1;ZP_00199594.1;ZP_00015952.1;ZP_00160492.1;NP_770404.1;NP_866130.1;ZP_00026378.1;NP_280238.1;ZP_00029745.1;ZP_00226340.1;NP_882643.1;NP_459575.1;NP_879442.1;ZP_00213193.1;ZP_00221250.1;NP_806026.1;NP_521417.1;NP_455160.1;ZP_00185946.2;ZP_00203540.1;NP_415113.1;NP_752598.1;NP_286306.1;NP_902574.1;ZP_00052011.1;NP_706431.1;NP_822174.1;NP_745396.1;NP_739496.1(いずれの場合にも、これらの数は、GenBankアクセッション番号に関係する)。
【0064】
すでに述べたように、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸または該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性の改変は、さまざまな方法で実施可能である。活性または含有量の低減は、たとえば、転写レベル、翻訳レベル、および/もしくはタンパク質レベルで刺激調節機序を不活性化させることにより、またはそれぞれの核酸の遺伝子発現を低減することにより、実施可能である。
【0065】
好ましい実施形態では、それぞれのゲノム配列の発現が低減されるであろう。好ましくは、これらは、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸のゲノム配列が不活性化されている微生物であろう。前記ゲノム配列の不活性化は、さまざまな形で実施可能である。実施可能な一手段としては、相同的組換えによりゲノム配列を欠失させることが挙げられる。実施可能な他の手段としては、結果として核酸の発現が阻止されるようにまたは非機能的タンパク質が生成されるようにゲノム配列中に挿入断片を導入することが挙げられる。
【0066】
本発明の範囲内で、非機能的タンパク質とは、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質またはそれと機能的に相同であるタンパク質の構造ひいては機能が、点変異、挿入、または欠失により改変されていて、これらのタンパク質が、もはや、硫黄含有化合物とくにメチオニンの生合成経路の中心的調節スイッチとして機能しなくなっているタンパク質またはタンパク質断片を表すものと解釈される。
【0067】
配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸のゲノム配列中に挿入、欠失、または変異を導入することにより非機能的なタンパク質またはタンパク質断片を取得しうるかどうかは、容易に決定可能である。この目的のために、D,L-エチオニンなどのようなメチオニンの構造類似体の存在下における生育能力に関して、推定の非機能的なタンパク質またはタンパク質断片を発現する微生物を試験する。もしこれが起こるのであれば、それらは、非機能的なタンパク質またはタンパク質断片である。
【0068】
ゲノム配列を欠失させて、または変異、挿入、もしくは欠失を導入して、非機能的なタンパク質またはタンパク質断片を生成させることによる、配列番号1と同一であるかもしくは機能的に相同であるゲノム配列の発現の低減は、一般的には、ゲノム配列の機能的破壊と呼ばれる。
【0069】
この点に関して、相同的組換えによるゲノムセグメントの欠失または機能的破壊は、以下の工程を含む方法により実施可能である:
a) 5'→3'方向に次の核酸配列を含むベクターを作製する工程:
・ 微生物中で機能するプロモーター配列、
・ それに機能的に連結されている、配列番号1を有する配列と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸配列の5'末端と同一であるかもしくは相同であるDNA配列、
・ それに機能的に連結されている、耐性遺伝子をコードするDNA配列、
・ それに機能的に連結されている、配列番号1を有する配列と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸配列の3'末端と同一であるかもしくは相同であるDNA配列、
・ それに機能的に連結されている、微生物中で機能する終止配列;および
b) a)のベクターを微生物に導入し、場合により、そのゲノム中にベクターを組み込む工程。
【0070】
相同的組換えの実施可能な一手段は、以下に与えられる実施例から取得しうる。たとえば、微生物による核酸配列の過剰発現用として公知である従来のプラスミドを、そのような相同的組換え用のベクターとして使用しうることは、当業者の熟知するところである。典型的には、抗生物質耐性が耐性遺伝子として使用されるであろう(下記参照)。
【0071】
機能的連結とは、コード配列の発現時に各調節エレメントがその機能を十分に発揮しうるような、プロモーター、コード配列、ターミネーター、および場合によりさらなる調節エレメントの逐次的配置を表すものと解釈される。機能的に連結可能な配列の例は、活性化配列、エンハンサーなどである。さらなる調節エレメントとしては、選択性マーカー、増幅シグナル、複製起点などが挙げられる。好適な調節配列は、たとえば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。
【0072】
非機能的なタンパク質またはタンパク質断片を生成させる点変異、挿入、または欠失を、ゲノム配列に導入しようとする場合、これは、先行技術で公知の方法により常法に従って行われる(とくに、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, (2001), 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, USA、およびStratagene, La Jolla, USAによるいわゆるQuikchange変異誘発法を参照されたい)。微生物のゲノム配列中に点変異、挿入、または欠失を導入するさらなる方法は、とくに、Jaeger et al., (1992) J. Bacteriol. 174, 5462-5465およびWO 02/070685に記載されている。
【0073】
前記核酸の含有量および/または活性を低減させるさらなる実施可能な手段は、たとえば、アンチセンスストラテジーによるものでありうる。この目的のために、たとえば、以下の工程を含む方法を使用することが可能である:
a) 5'→3'方向に次の核酸配列を含むベクターを作製する工程:
・ それぞれの微生物中で機能するプロモーター配列、
・ それに機能的に連結されている、配列番号1またはその機能的相同体に対するアンチセンス配列、
・ それに機能的に連結されている、それぞれの微生物中で機能する終止配列;および
b) a)のベクターを微生物に導入し、場合により、該微生物のゲノム中にベクターを組み込む工程。
【0074】
さらなる実施形態では、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸のmRNAを特異的に認識するリボザイムをコードするDNA配列を含むベクターが、本発明に係る微生物の生産に使用される。特定のmRNAに対してエンドヌクレアーゼ活性を有するリボザイムをどのように生産しうるかは、当業者に公知である。これについては、たとえば、Steinecke et al., (Steinecke et al. (1992) EMBO J., 11, 1525)に詳細に記載されている。また、本発明の範囲内で、リボザイムという用語は、実際のリボザイムのほかに、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸のmRNAに相補的なリーダー配列をも含むことにより、さらに標的化度を高めてmRNA特異的リボザイムがリボザイムのmRNA基質に方向付けられるようになっているRNA配列を表すものと解釈される。
【0075】
そのような方法は、たとえば、以下の工程を含む:
a) 5'→3'方向に次の核酸配列を含むベクターを作製する工程:
・ それぞれの微生物中で機能するプロモーター配列、
・ それに機能的に連結されている、配列番号1の核酸またはその機能的相同体のmRNAを特異的に認識するリボザイムをコードするDNA配列、
・ それに機能的に連結されている、それぞれの微生物中で機能する終止配列;および
b) a)のベクターを微生物に導入し、場合により、そのゲノム中にベクターを組み込む工程。
【0076】
本発明に係る微生物を生産するためのさらなる選択肢は、配列番号1で特定される配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸のアンチセンス配列とRNアーゼPをコードする配列とよりなるDNA配列を含む核酸をベクターにより導入することにより提供される。そのようなベクターの転写時、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸のmRNAにRNアーゼPを方向付けるリーダー配列(アンチセンス配列)を含むRNA分子が細胞内で合成され、それにより、RNアーゼPによるmRNAの切断が起こる(米国特許第5,168,053号をも参照されたい)。好ましくは、リーダー配列は、配列番号1で特定される配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸のDNA配列に相補的な10〜15ヌクレオチドを含む。
【0077】
そのような方法は、たとえば、以下の工程を含みうる:
a) 5'→3'方向に次の核酸配列を含むベクターを作製する工程:
・ それぞれの微生物中で機能するプロモーター配列、
・ それに機能的に連結されている、配列番号1の配列またはその機能的相同体もしくは一部分に相補的な核酸配列、
・ それに機能的に連結されている、リボヌクレアーゼPをコードするDNA配列、
・ それに機能的に連結されている、それぞれの微生物中で機能する終止配列;および
b) a)のベクターを微生物に導入し、場合により、該微生物のゲノム中にベクターを組み込む工程。
【0078】
相補性という用語は、相補的塩基間の水素結合に基づいて他の核酸分子にハイブリダイズする核酸分子の能力を記述する。互いにハイブリダイズできるようにするのに2つの核酸分子が100%相補的である必要はないことは、当業者に公知である。好ましくは、他の核酸にハイブリダイズさせることが意図される核酸は、他の核酸に対して、少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、同様に好ましくは少なくとも60%もしくは少なくとも70%、とくに好ましくは少なくとも80%、同様にとくに好ましくは少なくとも90%、なかでもとくに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%もしくは100%相補的である。
【0079】
好ましくは、相同度や同一度のような相補度は、タンパク質または核酸の全長にわたり測定されるであろう。
【0080】
ストリンジェントなin vitroハイブリダイゼーション条件は、当業者に公知であり、文献から取得可能である(たとえば、Sambrook et al., vide supraを参照されたい)。特異的ハイブリダイゼーションという用語は、特定の核酸配列を有する核酸がたとえばDNAまたはRNAの分子の複合混合物の一部分であるときに、ストリンジェントな条件下で分子が特定の核酸配列を有する核酸に優先的に結合する状況を意味する。
【0081】
したがって、ストリンジェントな条件という用語は、核酸が、標的配列を有する核酸には優先的に結合するが、異なる配列を有する核酸には結合しないかもしくは少なくとも実質的に減量されて結合する、条件を意味する。
【0082】
ストリンジェントな条件は、状況に依存する。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。一般的には、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度および規定のpH値でハイブリダイゼーション温度が特定の配列の融点(Tm)よりも約5℃低くなるように選択される。Tmとは、標的配列に相補的な分子の50%が該標的配列にハイブリダイズする温度(規定のpH値、規定のイオン強度、および規定の核酸濃度における温度)のことである。典型的には、ストリンジェントな条件は、0.01〜1.0Mのナトリウムイオン(または他の塩のイオン)の塩濃度および/または7.0〜8.3のpHを含む。温度は、より短い分子では、たとえば、10〜50ヌクレオチドを含む分子では、少なくとも30℃である。そのほかに、ストリンジェントな条件は、たとえばホルムアミドのような不安定化剤の添加を含みうる。
【0083】
典型的なハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液は、次の組成である。
プレハイブリダイゼーション溶液:
0.5% SDS
5×SSC
50mM NaPO4、pH6.8
0.1% ピロリン酸Na
5×Denhardt試薬
100μg/ml サケ精液
ハイブリダイゼーション溶液: プレハイブリダイゼーション溶液
1×106cpm/ml プローブ (5〜10分間、95℃)
20×SSC: 3M NaCl
0.3M クエン酸ナトリウム
HClを添加してpH7にする
50×Denhardt試薬: 5g フィコール
5g ポリビニルピロリドン
5g ウシ血清アルブミン
蒸留水を添加して500mlにする
【0084】
ハイブリダイゼーションは、以下のように常法に従って行われる:
オプション: 65℃において1×SSC/0.1% SDS中でブロットを30分間洗浄する
プレハイブリダイゼーション: 50〜55℃で少なくとも2時間
ハイブリダイゼーション: 55〜60℃で一晩
洗浄: 5分間 2×SSC/0.1% SDS ハイブリダイゼーション温度
30分間 2×SSC/0.1% SDS ハイブリダイゼーション温度
30分間 1×SSC/0.1% SDS ハイブリダイゼーション温度
45分間 0.2×SSC/0.1% SDS 65℃
5分間 0.1×SSC 室温
通常、アンチセンスストラテジーで導入される核酸は、20〜1,000ヌクレオチド、好ましくは20〜750ヌクレオチド、とくに好ましくは約400〜800および500〜750ヌクレオチドを含む。しかしながら、20〜500ヌクレオチド、同様にとくに好ましくは20〜300ヌクレオチド、なかでもとくに好ましくは20〜150ヌクレオチド、同様になかでもとくに好ましくは20〜75ヌクレオチド、最も好ましくは約20〜50ヌクレオチドを含む核酸を使用することも可能である。また、配列は、わずかに約20または25ヌクレオチドしか含まないこともありうる。
【0085】
配列番号1の配列またはその機能的相同配列を有する核酸のmRNAに相補的な配列を細胞内での転写により生じる核酸(たとえば、アンチセンスストラテジーのときの核酸など)を微生物に導入する場合、該配列は、mRNAに100%相補的である必要はない。該配列が少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、とくに好ましくは少なくとも70%、同様にとくに好ましくは少なくとも80%、なかでもとくに好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の相補性を有していれば、ほぼ十分である。この点に関して、逸脱(deviation)は、欠失、置換、および/または挿入により生じている可能性がある。
【0086】
一般的には、そのことは、配列番号1で特定される配列またはその機能的相同配列のmRNA領域に特異的にハイブリダイズしうる相補的配列だけが本発明に従って使用可能であるときに適用される。NP_601931またはそれに相同的なタンパク質を除くタンパク質のRNA領域にin vivoでハイブリダイズして後者の抑制を引き起こす配列は、本発明に係る方法に適していない。
【0087】
また、前記方法のいくつかは、配列番号1の配列またはそれに相補的な配列を有する核酸のmRNAのコード部分の構成要素でない配列を用いて実施することも可能である。たとえば、該配列が5'または3'非翻訳領域に由来する配列であっても、これらの調節配列が、配列番号1の配列またはそれに相同的な配列を有する核酸のmRNAに特有なものであるかぎり、十分でありうる。
【0088】
そのような配列は、とくに、mRNAの翻訳がアンチセンス構築物により阻害される場合に利用可能である。したがって、本発明によれば、mRNAという用語は、配列番号1の配列またはそれに相同的な配列を有する核酸のmRNAのコード成分を包含するだけではなく、配列番号1の配列またはそれに相同的な配列を有する核酸のmRNAに特有なpre-mRNAまたは成熟mRNAに存在するすべての調節配列をも包含する。同様に、このことはまた、DNA配列にもあてはまる。これは、たとえば、5'および3'非翻訳領域、プロモーター配列、上流活性化配列などに関連する。
【0089】
転写によりリーダー配列とRNアーゼPとよりなるRNA分子を生じるベクターを利用する場合、リーダー配列は、配列番号1の配列またはその相同配列を有する核酸のmRNAを特異的に認識するのに十分な程度に相補的でなければならない。それぞれの要件に応じて、mRNAのどの領域をリーダー配列により認識するかを選択することが可能である。好ましくは、そのようなリーダー配列は、約20ヌクレオチドを含むが、15ヌクレオチドよりも有意に短いものであってはならない。100%の相補性のリーダー配列を用いるのであれば、12ヌクレオチドでも十分であろう。当然ながら、リーダー配列は、100ヌクレオチドまでまたはそれ以上を含みうるが、これは単にそれぞれのmRNAに対するそれらの特異性を増大させるにすぎないであろう。
【0090】
本発明の範囲内でセンス配列が参照される場合、これは、NCgl2640もしくは相同体に対する遺伝子のコード鎖に対応するかまたはその一部分を含む配列を表すものと解釈される。この点に関して、前記配列は、配列番号1の配列またはその機能的相同体である。
【0091】
本発明の範囲内でアンチセンス配列が参照される場合、これは、NP_601931もしくはその相同体に対する遺伝子の非コードDNA鎖に対応する配列を表すものと解釈される。したがって、前記配列は、配列番号1またはその相同体に相補的である。当然ながら、前記配列は、非コードDNA鎖の配列と100%同一でなければならないわけではなく、前記相同度を有することが可能である。このことはまた、定義に基づく遺伝子のmRNAに相補的なアンチセンス配列が該mRNAに100%相補的でなければならないわけではない状況でも反映される。それらはまた、たとえば、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、とくに好ましくは少なくとも70%、さらにとくに好ましくは少なくとも80%、なかでもとくに好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%、98%、および/または100%相補的でありうる。以上で説明したように、アンチセンス配列は、配列番号1の配列を有する核酸のそれぞれの対象のmRNAに特異的にハイブリダイズしうるのであれば、十分である。ハイブリダイゼーションは、in vivo細胞条件下またはin vitroのいずれかで行うことが可能である。
【0092】
アンチセンス配列と内因性mRNA配列とのハイブリダイゼーションは、典型的には、in vivo細胞条件下またはin vitroで起こる。
【0093】
さらに、センスおよびアンチセンスという用語は、当業者に公知である。同様に、遺伝子発現の技術分野の当業者であれば、抑制に用いられる核酸分子がどれくらい長くなければならないか、またそれぞれの対象の配列に対してどの相同性または相補性を有している必要があるかわかる。本発明によれば、in vivoおよび/またはin vitroでNCgl2640やその相同体のコードセンス配列に特異的にハイブリダイズしえないアンチセンス配列(すなわち、これはまた、他のタンパク質クラスのコードセンス配列にはハイブリダイズ可能である)は、使用できない。
【0094】
原理的には、アンチセンスストラテジーは、リボザイム法と組み合わせることが可能である。リボザイムは、アンチセンス配列に結合したときに標的配列を触媒的に切断する触媒活性RNA配列である(Tanner et al., (1999) FEMS Microbiol Rev. 23 (3), 257-75)。これにより、アンチセンスストラテジーの効率を増大させることが可能である。
【0095】
さらに、たとえばジンクフィンガー転写因子などの特異的DNA結合因子を利用すれば、遺伝子抑制だけでなく遺伝子過剰発現も可能である。
【0096】
さらに、標的タンパク質自体を阻害する因子を細胞内に導入することも可能である。タンパク質結合因子は、たとえば、アプタマーでありうる(Famulok et al., (1999) Curr Top Microbiol Immunol. 243, 123-36)。
【0097】
抑制は、アプタマーにより行うことも可能である。アプタマーは、NP_601931に特異的に結合して競合反応によりタンパク質の活性を低減するようにデザイン可能である。通常、アプタマーの発現は、ベクターに基づく過剰発現を介して行われる。アプタマーのデザイン、選択、および発現については、当業者に周知である(Famulok et al., (1999) Curr Top Microbiol Immunol., 243,123-36)。
【0098】
前記タンパク質に対する特異的抗体は、さらなるタンパク質結合因子と考えられる。これが微生物により発現されると、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性が低下する。そのようなモノクローナル抗体、ポリクロナール抗体、または組換え抗体の生産は、標準的プロトコルに従って行われる(Guide to Protein Purification, Meth. Enzymol. 182, pp. 663-679 (1990), M. P. Deutscher, ed.)。抗体の発現については、文献からも公知である(Fiedler et al., (1997) Immunotechnology 3, 205-216; Maynard and Georgiou (2000) Annu. Rev. Biomed. Eng. 2, 339-76)。
【0099】
本発明に係る微生物を生産するためのさらなる方法は、微生物による該核酸またはタンパク質の非機能的変異体の発現により、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である内因性核酸またはそれによりコードされるタンパク質の活性を低下させることを目的とする。そのような非機能的な変異体または形態は、微生物による硫黄含有化合物とくにメチオニンの生合成のレギュレーションをもはや行うことができないかまたは少なくとも非常に限られた形で行いうる、核酸または核酸によりコードされるタンパク質の形態である。そのような非機能的変異体は、点変異、挿入、および/または欠失を有しうる。それらは、本発明に係る微生物の生産にとくに有用であり、この場合、内因性核酸またはこれらの核酸配列によりコードされるタンパク質の含有量は変化しないが、配列番号1で特定される配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である内因性核酸または該核酸配列によりコードされるタンパク質の活性は、前記非機能的変異体を過剰発現することによりブロックされる。
【0100】
本発明によれば、そのような非機能的変異体は、野生型形態(すなわち、たとえば、配列番号1および2の配列)と実質的に同一の核酸配列またはアミノ酸配列を有する。しかしながら、それらは、いくつかの位置でヌクレオチドまたはアミノ酸の点変異、挿入、または欠失を有しており、非機能的変異体が野生型形態とは対照的にそれらの細胞性結合パートナーとの相互作用を行うことができないかまたは非常に限られた形でのみ行いうるという効果を有する。このようにして、非機能的変異体は、野生型形態と細胞性結合パートナーとの相互作用を競合的に除去し、それにより硫黄含有化合物の生合成のレギュレーションを分断する。
【0101】
配列番号1の配列を有する本発明に係る核酸のそのような機能的または非機能的変異体は、当業者により容易に同定可能である。当業者は、配列番号1と同一であるかもしくは相同である核酸配列中への点変異(複数可)、挿入(複数可)、または欠失(複数可)の組込みを可能にするさまざまな技術を各自の裁量で有する(とくに、Sambrook (2001), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Jager et al., (1992) J. Bacteriol. 174, 5462-5465, WO 02/070685 and the so-called Quikchange mutagenesis method by Stratagene, La Jolla, USAを参照されたい)。点変異、挿入、および/または欠失の導入(一般的には変異と呼びうる)の後、当業者は、実施例に示されるかまたは先行技術から公知である対応する試験により、変異タンパク質がそれらの正常な活性を保持しているかどうかを決定することが可能である(上記をも参照されたい)。
【0102】
本発明によれば、「非機能的なタンパク質またはタンパク質断片」という用語は、アミノ酸レベルまたは核酸レベルでNCgl2640またはその相同体に対して実質的配列相同性を有していないタンパク質を包含しない。本発明の範囲内で、非機能的変異体は、不活性化タンパク質、不活性タンパク質、またはドミナントネガティブタンパク質とも呼ばれる。
【0103】
したがって、前記点変異(複数可)、挿入(複数可)、および/もしくは欠失(複数可)を保有する本発明に係る機能的もしくは非機能的変異体またはそれらの機能的等価部分は、NCgl2640に対する実質的配列相同性により特性付けられる。
【0104】
非機能的変異体が本発明の意味内の変異体であるかどうかは、当業者により容易に決定可能である。この目的のために、たとえば、相同的組換えまたは部位特異的変異誘発により、所望の変異、すなわち、点変異、挿入、欠失を、配列番号1と同一であるかもしくは機能的に相同であるゲノム核酸配列中に導入し、内因性核酸配列の含有量および/もしくは活性の前記低減により硫黄含有化合物の生合成のレギュレーションが分断される結果として該微生物が増大された量の該硫黄含有化合物を生産するかどうかを試験する。もしこれが起こるのであれば、それによりそれが非機能的変異であることが示される。
【0105】
次に、このように決定された非機能的変異を、ベクター中に位置し、かつ微生物中で機能するプロモーター配列およびターミネーター配列に機能的に連結されている、DNA配列に導入することが可能である。微生物中に前記ベクターを導入した後、非機能的変異体を過剰発現させることが可能であり、それらは、内因性野生型配列またはタンパク質と細胞性結合パートナーとの相互作用を競合的に除去する。
【0106】
そのような方法は、たとえば、以下の工程を含みうる:
a) 5'→3'方向に次の核酸配列を含むベクターを作製する工程:
・ 微生物中で機能するプロモーター配列、
・ それに機能的に連結されている、NCgl2640のドミナントネガティブ変異体またはその相同体をコードするDNA配列、
・ それに機能的に連結されている、微生物中で機能する終止配列、
b) a)のベクターを微生物に導入し、場合により、該微生物のゲノム中にベクターを組み込む工程。
【0107】
NP_601931またはその相同体をコードする核酸配列中に点変異(1つもしくは複数)、挿入変異(1つもしくは複数)、または欠失変異(1つもしくは複数)をどのように導入しうるかについては、当業者に公知である。たとえば、点変異を導入するには、PCR技術が好ましい("PCR technology: Principle and Applications for DNA Amplification", H. Ehrlich, id, Stockton Press)。そのほかに、配列番号1の配列を有する核酸中に点変異を導入する例は、実施例中に見いだしうる。
【0108】
本発明によれば、たとえば、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質と他の細胞性結合パートナーとの相互作用と特異的に競合する組換え抗体が微生物中で発現されるように、本発明に係る微生物を生産することも可能である。
【0109】
NP_601931またはその相同体に対するそのような組換え抗体をどのように単離し同定するかについては、当業者に公知であり、文献から取得可能である(Harlow et al., 1999, Using antibodies: a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0110】
本発明によれば、組換え抗体とは、たとえば、Skerra et al. (Curr. Opin. Immunol. (1993) 2, 250-262)に記載されるようなさまざまな公知の形態の組換え抗体を表すものと解釈される。この点に関して、本発明に係る組換え抗体としては、いわゆるFabフラグメント、Fvフラグメント、scFv抗体、scFvホモ二量体(ジスルフィド架橋により連結されている)、さらにはいわゆるVH鎖が挙げられる。Fabフラグメントは、完全な軽鎖とトランケート型重鎖とを集合してなり、一方、Fvフラグメントは、VH鎖とVL鎖とを非共有結合してなる。前記フラグメントおよび組換え抗体に関する概説は、Conrad et al. (Plant Mol. Biol. (1998) 38, 101-109)に見いだしうる。前記FabおよびFvフラグメントは、in vivoで互いに会合可能である。
【0111】
この方法は非常に効率的に行える可能性があるので、本発明によれば、scFv抗体の使用が好ましい。これらの抗体は、軽鎖の可変部分と重鎖の可変部分とをフレキシブルリンカーペプチドを介して融合してなる。そのようなscFv抗体の生産については、先行技術に詳述されている(とくに、Conrad et al., vide supra; Breitling et al. (1999) Recombinant Antibodies, John Wiley & Sons, New Yorkを参照されたい)。scFv抗体は、正常抗体と同一の抗原特異性および活性を有するが、それらは、他の自然抗体や組換え抗体のように個々の鎖からin vivoで集合させる必要はない。したがって、それらは、本発明に係る方法にとくに好適である。
【0112】
以上に挙げた参考文献には、本発明に係る好ましいscFv抗体をコードする核酸配列の単離および産生がどのように当業者により行われうるかについて、詳細に示されている。
【0113】
従来的には、この点に関して既存のハイブリドーマ細胞系がモノクローナル抗体を生産すると推定される。続いて、抗体の軽鎖および重鎖をコードするcDNAを単離し、第2の工程で、軽鎖および重鎖の可変領域に対するコード領域を融合一体化させて1分子を形成する。
【0114】
組換え抗体を産生するさらなる方法は、当業者には公知であるが、組換え抗体のライブラリーのスクリーニングである(いわゆるファージディスプレイライブラリー、Hoogenboom et al. (2000) Immunology Today 21, 371-378; Winter et al. (1994) Annu. Rev. Immunol. 12, 433-455; De Wildt et al. (2000) Nat. Biotechnol. 18, 989-994をも参照されたい)。前記方法において、当業者に公知の手順により、所与の抗原に対する組換え抗体の富化、選択、および単離を行うことが可能である。
【0115】
配列番号2の配列を有するタンパク質と同一であるかもしくは相同であるタンパク質に対する抗体を発現する方法は、たとえば、以下の工程を含みうる:
a) 5'→3'方向に次の核酸配列を含むベクターを作製する工程:
・ 微生物中で機能するプロモーター配列、
・ それに機能的に連結されている、配列番号2の配列を有するタンパク質と同一であるかもしくは相同であるタンパク質に特異的な組換え抗体をコードするDNA配列、
・ それに機能的に連結されている、微生物中で機能する終止配列;および
b) a)のベクターを微生物に導入し、場合により、該微生物のゲノム中にベクターを組み込む工程。
【0116】
本発明の範囲内で、配列番号1で特定される配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の含有量および/もしくは活性、または該配列によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性が、野生型と比較して低減されていると言われる場合、核酸の機能的発現が、低減されている、好ましくは完全に抑制されていると言うことによっても、同一の状況が記述される。
【0117】
本発明の範囲内で、硫黄含有化合物または硫黄含有ファインケミカルという用語は、少なくとも1個の共有結合硫黄原子を含有しかつ本発明に係る発酵法を介して取得可能である任意の化学化合物を包含する。
【0118】
本発明によれば、硫黄含有化合物としては、とくに、L-メチオニン、L-システイン、L-ホモシステイン、L-シスタチオニン、S-アデノシル-L-メチオニン、グルタチオン、ビオチン、チアミン、および/またはリポ酸、好ましくは、L-メチオニンおよび/またはL-システインが挙げられる。
【0119】
本発明によれば、微生物は、好ましくはActinobacteria、Cyanobacteria、Proteobacteria、Chloroflexus aurantiacus、Pirellula sp. 1、Halobacteria、および/またはMethanococci、好ましくはCorynebacteria、Mycobacteria、Streptomyces、Salmonellae、Escherichia coli、Shigella、および/またはPseudomonasである。とくに好ましいのは、Corynebacterium glutamicum、Escherichia coli、Bacillus属の微生物、とくにBacillus subtilis、およびStreptomyces属の微生物から選択される微生物である。
【0120】
代謝産物という用語は、生物の代謝において中間体またはさらには最終産物として存在しかつ化学成分としてのその能力のほかに酵素およびその触媒活性に対して調節作用を有しうる化学化合物を意味する。この点に関して、そのような代謝産物は、酵素の活性に対して阻害作用と刺激作用の両方を有しうることが文献から公知である(Stryer, Biochemistry, (1995) W.H. Freeman & Company, New York, New York, USA)。さらに、UV線、電離線、または変異誘発物質によるゲノムDNAの変異およびそれに続く選択のような手段により、代謝産物による影響が改変されている酵素を生物中で生産しうることについても、文献に記載されている(Sahm et al. (2000), Biological Chemistry 381(9-10): 899-910)。前記改変特性は、指令的手段により達成することも可能である。この点に関して、DNA配列の発現の結果として生じるタンパク質が新規な特異的性質(たとえば、代謝産物の調節作用が非改変タンパク質と比較して改変されている場合など)を有するように、酵素に対する遺伝子においてタンパク質をコードするDNAの特異的ヌクレオチドを指令的方法で改変することについても、当業者の熟知するところである。
【0121】
本発明に係る微生物としてとくに好適なのは、配列番号1で特定される配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の含有量および/もしくは活性または該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性が野生型と比較して低減されているコリネ型細菌である。
【0122】
前記微生物は、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、モラセス、デンプン、セルロースから、またはグリセロールおよびエタノールから、硫黄含有ファインケミカル、とくにL-メチオニンを生産しうる。L-アミノ酸を生産する能力を有することで知られるCorynebacterium属の種、とくにCorynebacterium glutamicum種が好適である。
【0123】
コリネ型細菌の好適な株の例は、Corynebacterium属の株、とくにCorynebacterium glutamicum(C. glutamicum)種、たとえば、
Corynebacterium glutamicum ATCC 13032、
Corynebacterium acetoglutamicum ATCC 15806、
Corynebacterium acetoacidophilum ATCC 13870、
Corynebacterium thermoaminogenes FERM BP-1539、および
Corynebacterium melassecola ATCC 17965、
もしくはBrevibacterium属の株、たとえば、
Brevibacterium flavum ATCC 14067、
Brevibacterium lactofermentum ATCC 13869、および
Brevibacterium divaricatum ATCC 14020;
またはそれらに由来する株、たとえば、
Corynebacterium glutamicum KFCC10065、および
Corynebacterium glutamicum ATCC21608、
であり、それらはまた、所望のファインケミカルまたはその前駆体(1種もしくは複数種)を生産する。
【0124】
頭字語KFCCは、the Korean Federation of Culture Collectionを表し、頭字語ATCCは、the American Type Strain Culture Collectionを表す。
【0125】
本発明に係るさらなる実施形態は、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の含有量および/もしくは活性または該配列によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性が低減されていることに加えて、配列番号3の配列を有する核酸と同一であるかもしくは相同である核酸の含有量および/もしくは活性または該最後に挙げた核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性が野生型と比較して低減されている微生物に関する。
【0126】
配列番号3の配列を有する核酸は、配列番号4のアミノ酸配列を有するC. glutamicum由来のタンパク質McbRをコードする核酸である。前記タンパク質は、C. glutamicumにおいて硫黄含有化合物とくにメチオニンの生合成経路の遺伝子に対する転写リプレッサーでありうることが明らかにされた(Rey et al., vide supra)。
【0127】
配列番号1および3の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の含有量および/もしくは活性を同時に低減させることにより、硫黄含有化合物の生産にとくに好適な微生物が提供される。前記硫黄含有化合物は、前記化合物でありうるが、メチオニンおよびシステインがとくに好ましい。微生物もまた、前記生物でありうるが、C. glutamicumおよびE. coliが好ましい。
【0128】
配列番号3で特定される配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の含有量および/もしくは活性または該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性を低減させるために、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸に関連してまたは最後に述べた核酸によりコードされるタンパク質に関連して上記したのと同一の方法および手順を使用することが可能である。この点に関して、相同性、相補性、機能形、ドミナントネガティブ変異体などのような用語は、同じようにして解釈されるものとする。
【0129】
本発明に係る微生物のさらなる実施形態は、配列番号1で特定される配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の活性もしくは含有量または該核酸によりコードされるタンパク質の活性もしくは含有量が野生型と比較して低減されているほかに、所望の硫黄含有化合物の生合成経路の遺伝子をコードする少なくとも1種のさらなる核酸の含有量および/もしくは活性が野生型と比較して低減されている微生物に関する。
【0130】
前記さらなる核酸は、好ましくは、
・ ホモセリンキナーゼをコードする遺伝子thrB(EP 1 108 790;DNA-配列番号3453)、
・ トレオニンデヒドラターゼをコードする遺伝子ilvA(EP 1 108 790;DNA-配列番号2328)、
・ トレオニンシンターゼをコードする遺伝子thrC(EP 1 108 790;DNA-配列番号3486)、
・ メソ-ジアミノピメリン酸-D-デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子ddh(EP 1 108 790;DNA-配列番号3494)、
・ ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼをコードする遺伝子pck(EP 1 108 790;DNA-配列番号3157)、
・ グルコース-6-リン酸-6-イソメラーゼをコードする遺伝子pgi(EP 1 108 790;DNA-配列番号950)、
・ ピルビン酸オキシダーゼをコードする遺伝子poxB(EP 1 108 790;DNA-配列番号2873)、
・ ジヒドロジピコリン酸シンターゼをコードする遺伝子dapA(EP 1 108 790;DNA-配列番号3476)、
・ ジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードする遺伝子dapB(EP 1 108 790;DNA-配列番号3477)、
・ ジアミノピコリン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子lysA(EP 1 108 790 A2;DNA-配列番号3451)、
・ グリコシルトランスフェラーゼ(GenBankアクセッション番号NP_600345)をコードする遺伝子(GenBankアクセッション番号NCgl1072)、および
・ 乳酸デヒドロゲナーゼ(GenBankアクセッション番号NP_602107)をコードする遺伝子(GenBankアクセッション番号NCgl2817)、
を含む群Iから選択される。
【0131】
そのほかに、本発明に係る後者の生物はまた、当然ながら、配列番号3の配列を有する核酸と同一であるかもしくは機能的に相同である核酸の含有量および/もしくは活性または該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性を野生型と比較して低減させたものでありうる。
【0132】
この点に関して、群Iで述べた核酸配列に関するまたは該配列によりコードされるタンパク質に関する含有量および/もしくは活性の低減は、たとえば、配列番号1〜4に関連して上記したのと同じようにして、達成可能である。この点に関して、相同性、ドミナントネガティブ変異体などのような用語は、以上に定義されるように解釈されるものとする。
【0133】
これまで述べた本発明の実施形態はすべて、前記硫黄含有化合物の生産に使用しうる微生物に関する。この点に関して、メチオニンおよび/またはシステインの生産に使用しうる微生物がとくに好ましく、該微生物は前記微生物でありうるが、C. glutamicumおよびE. coliが好ましい。この点に関して、前記核酸の含有量および/もしくは活性を低下させるために、前記方法を利用することが可能である。
【0134】
本発明のさらなる実施形態は、生産される硫黄含有化合物の生合成経路の遺伝子産物をコードする核酸の含有量および/もしくは活性がさらに野生型と比較して増大されている前記微生物に関する。この点に関して、硫黄同化、メチオニン代謝、トレハロース代謝、ピルビン酸代謝、システイン代謝、アスパラギン酸セミアルデヒド合成、解糖、アナプレローシス、ペントースリン酸代謝、クエン酸回路、またはアミノ酸輸出の生合成経路は、とくに、代謝経路として検討の対象となりうる。
【0135】
これに関連して、本発明のさらなる実施形態は、核酸の含有量および/もしくは活性または該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性が増大されている微生物に関し、ただし、該核酸は、
・ アスパラギン酸キナーゼをコードする遺伝子lysC(EP 1 108 790 A2;DNA-配列番号281)、
・ アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子asd(EP 1 108 790 A2;DNA-配列番号282)、
・ グリセリンアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子gap(Eikmanns (1992) Journal of Bacteriology 174: 6076-6086)、
・ 3-ホスホグリセリン酸キナーゼをコードする遺伝子pgk(Eikmanns (1992), Journal of Bacteriology 174: 6076-6086)、
・ ピルビン酸カルボキシラーゼをコードする遺伝子pyc(Eikmanns (1992), Journal of Bacteriology 174: 6076-6086)、
・ トリオースリン酸イソメラーゼをコードする遺伝子tpi(Eikmanns (1992), Journal of Bacteriology 174: 6076-6086)、
・ ホモセリンO-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子metA(EP 1 108 790;DNA-配列番号725)、
・ シスタチオニンγ-シンターゼをコードする遺伝子metB(EP 1 108 790;DNA-配列番号3491)、
・ シスタチオニンγ-リアーゼをコードする遺伝子metC(EP 1 108 790;DNA-配列番号3061)、
・ セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子glyA(EP 1 108 790;DNA-配列番号1110)、
・ O-アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼをコードする遺伝子metY(EP 1 108 790;DNA-配列番号726)、
・ メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼをコードする遺伝子metF(EP 1 108 790;DNA-配列番号2379)、
・ ホスホセリンアミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子serC(EP 1 108 790;DNA-配列番号928)、
・ ホスホセリンホスファターゼをコードする遺伝子serB(EP 1 108 790;DNA-配列番号334、DNA-配列番号467、DNA-配列番号2767)、
・ セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子cysE(EP 1 108 790;DNA-配列番号2818)、
・ ホモセリンデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子hom(EP 1 108 790;DNA-配列番号1306)、
・ メチオニンシンターゼをコードする遺伝子metH(EP 1 108 790;DNA-配列番号1663)、
・ メチオニンシンターゼ(GenBankアクセッション番号NP_600367)をコードする遺伝子metE(GenBankアクセッション番号NCgl1094)、
・ システインシンターゼ(GenBankアクセッション番号NP_601760)をコードする遺伝子(GenBankアクセッション番号NCgl2473)、
・ システインシンターゼ(GenBankアクセッション番号NP_601337)をコードする遺伝子(GenBankアクセッション番号NCgl2055)、
・ 亜硫酸レダクターゼ(GenBankアクセッション番号NP_602008)をコードする遺伝子(GenBankアクセッション番号NCgl2718)、
・ ホスホアデノシンホスホ硫酸レダクターゼ(GenBankアクセッション番号NP_602007)をコードする遺伝子cysH(GenBankアクセッション番号NCgl2717)
・ 硫酸アデニリルトランスフェラーゼサブユニット1(GenBankアクセッション番号NP_602005)をコードする遺伝子(GenBankアクセッション番号NCgl2715)、
・ CysN-硫酸アデニリルトランスフェラーゼサブユニット2(GenBankアクセッション番号NP_602006)をコードする遺伝子(GenBankアクセッション番号NCgl2716)、
・ フェレドキシンNADPレダクターゼ(GenBankアクセッション番号NP_602009)をコードする遺伝子(GenBankアクセッション番号NCgl2719)、
・ フェレドキシン(GenBankアクセッション番号NP_602010)をコードする遺伝子(GenBankアクセッション番号NCgl2720)、
・ グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(GenBankアクセッション番号NP_600790)をコードする遺伝子(GenBankアクセッション番号NCgl1514)、および
・ フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ(GenBankアクセッション番号NP_601294)をコードする遺伝子(GenBankアクセッション番号NCgl2014)
を含む群IIから選択される。
【0136】
好ましくは、群IIの核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性の増大は、本発明に係る微生物により引き起こされて、少なくとも5%、好ましくは少なくとも20%、同様に好ましくは少なくとも50%、とくに好ましくは少なくとも100%、同様にとくに好ましくは少なくとも5倍に達し;なかでもとくに好ましくは少なくとも10倍、同様になかでもとくに好ましくは少なくとも50倍、より好ましくは少なくとも100倍、最も好ましくは1000倍に増大される。
【0137】
群IIの核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性の増大は、さまざまな方法で達成可能である。好ましくは、それは、該核酸配列をDNA配列の形態でベクター中に導入することにより達成されるであろう。ただし、該ベクターは、さらに、微生物中で機能するプロモーター、微生物中で機能するリボソーム結合部位、および微生物中で機能するターミネーターを含む。次に、このベクターは、微生物に導入され、選択されたベクターに応じて、微生物と共に染色体外で複製されるか、または微生物のゲノム中に組み込まれる。この点に関して、特定の核酸の含有量および/もしくは活性またはそれによりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性を低減させることに関連して先に記載したのと実質的に同一のベクターまたはプラスミドを使用することが可能である。同じことが、使用される選択マーカーについてもあてはまる。
【0138】
さらに、群IIの核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性の増大は、微生物による該核酸の機能的等価体または機能的類似体または機能的相同体の発現により達成することも可能である。相同性、相補性などの用語については、以上に言及されている。
【0139】
本発明の範囲内で、明示的に開示されたポリペプチドの機能的等価体または機能的類似体は、該ポリペプチドと異なるポリペプチドであるが、さらに基質特異性などのような所望の生物学的活性を保持する。
【0140】
本発明によれば、機能的等価体とは、とくに、明記されたアミノ酸以外のアミノ酸を配列位置の少なくとも1ヶ所に有するが依然として以上で述べたような生物学的活性を呈する変異体を表すものと解釈される。したがって、機能的等価体は、アミノ酸の付加、置換、欠失、および/または逆位が1つ以上生じることにより取得可能な変異体を包含し、前記改変は、前記特性プロファイルを有する変異体を与えるかぎり、任意の配列位置で生じたものでありうる。とくに、変異ポリペプチドと非改変ポリペプチドとの間の反応性パターンが定性的に一致する場合にも、すなわち、たとえば、同一の基質が異なる速度で変換される場合にも、機能的等価性を与える。
【0141】
当然ながら、機能的等価体は、天然に存在する変種のような他の生物から入手可能なポリペプチドをも包含する。相同配列領域の部分は、たとえば、配列比較により決定可能であり、等価な酵素は、本発明の明示された明細事項に従って決定可能である。
【0142】
機能的等価体はまた、本発明に係るポリペプチドの断片、好ましくは個々のドメインまたは配列モチーフを包含し、たとえば、所望の生物学的機能を有する。
【0143】
さらに、機能的等価体は、機能的なN末端結合またはC末端結合により(すなわち、融合タンパク質エレメントの機能の実質的な相互障害を伴うことなく)、前記ポリペプチド配列のうちの1つまたはそれから誘導される等価体と、少なくとも1つのさらなる異種配列と、を有する融合タンパク質である。そのような異種配列の例は、シグナルペプチド、酵素、免疫グロブリン、表面抗原、レセプター、またはレセプターリガンドである。
【0144】
本発明に係る機能的等価体は、明示的に開示されたタンパク質の相同体である。それらは、前記明示的に開示された配列のうちの1つと少なくとも30%相同、もしくは約40%、50%相同、好ましくは少なくとも約60%、65%、70%、もしくは75%相同、特定的には少なくとも85%相同、たとえば、90%、95%、もしくは99%相同である。
【0145】
本発明に係るポリペプチドまたはタンパク質の相同体は、変異誘発により、たとえば、タンパク質の点変異またはトランケーションを介して、産生可能である。本明細書中で使用される相同体という用語は、タンパク質の活性のアゴニストまたはアンタゴニストとして機能するタンパク質の変異体に関係する。
【0146】
本発明に係るタンパク質の相同体は、たとえばトランケーション変異体のような変異体のコンビナトリアルバンクをスクリーニングすることにより同定可能である。たとえば、タンパク質変異体の多様化バンクは、合成オリゴヌクレオチドの混合物の酵素的連結などのような核酸レベルのコンビナトリアル変異誘発により作製可能である。縮重オリゴヌクレオチド配列から可能性のある相同体のバンクを作製するために使用しうる方法は、複数存在する。縮重遺伝子配列の化学合成は、DNA合成機により行なうことが可能であり、次に、合成遺伝子は、好適な発現ベクター中に連結させることが可能である。遺伝子の縮重セットを使用することにより、可能性のあるタンパク質配列の所望のセットをコードするすべての配列を混合物中に提供することが可能である。縮重オリゴヌクレオチドの合成方法は、当業者に公知である(たとえば、Narang al. (1983) Tetrahedron 39, 3; Itakura et al. (1984) Annu. Rev. Biochem. 53, 323; Itakura et al., (1984) Science 198, 1056; Ike et al. (1983) Nucleic Acids Res. 11, 477)。それに加えて、本発明に係るタンパク質の相同体のスクリーニングおよびそれに続く選択を行うためのタンパク質断片の多様化集団を作製するために、タンパク質コドンの断片のバンクを使用することが可能である。一実施形態では、コード配列断片のバンクは、ニッキングが1分子あたり約1回だけ起こる条件下でコード配列の二本鎖PCR断片をヌクレアーゼで処理することと;二本鎖DNAを変性させることと;DNAを復元することにより、さまざまなニック入り産物のセンス/アンチセンス対を含みうる二本鎖DNAを形成することと;S1ヌクレアーゼで処理することにより、新たに形成された二本鎖から一本鎖部分を除去することと;得られた断片バンクを発現ベクター中に連結することと;により作製可能である。前記方法により、本発明に係るタンパク質のさまざまなサイズのN末端断片、C末端断片、および内部断片をコードする発現バンクを誘導することが可能である。
【0147】
先行技術において、点変異またはトランケーションにより作製されたコンビナトリーバンクの遺伝子産物をスクリーニングするための技術および選択された性質を有する遺伝子産物に関してcDNAバンクをスクリーニングするための技術は、いくつか知られている。前記技術は、本発明に係る相同体のコンビナトリアル変異誘発により作製された遺伝子バンクの高速スクリーニングに適合化させうる。ハイスループット分析に付される大きい遺伝子バンクをスクリーニングするために最も頻繁に使用される技術は、遺伝子バンクを複製可能な発現ベクター中にクローニングすることと、得られたベクターバンクで好適な細胞をトランスフォームすることと、所望の活性の検出および検出された産物の遺伝子をコードするベクターの単離が単純化されている条件下でコンビナトリアル遺伝子を発現させることと、を含む。バンク中の機能的変異体の存在量を増大させる技術である反復的アンサンブル変異誘発(REM)は、相同体を同定するためのスクリーニング試験と併用可能である(Arkin et al. (1992) PNAS 89, 7811-7815; Delgrave et al. (1993) Protein Engineering 6(3), 327-331)。
【0148】
たとえば、前記群IIの生物由来のメチオニンシンターゼ酵素(EC 2.1.1.13)をコードするmetH遺伝子は、実際に知られるように単離可能である。
【0149】
前記群IIの生物由来のmetH遺伝子または同様に他の遺伝子を単離するために、最初に、前記生物の遺伝子バンクをE. coli中に構築する。遺伝子バンクの構築については、一般に知られる教科書およびマニュアルに詳細に記載されている。例としては、Winnackerの教科書: "Gene und Klone, Eine Einfuehrung in die Gentechnologie" (Verlag Chemie, Weinheim, Germany, 1990)またはSambrookらのマニュアル(vide supra)が挙げられる。周知の遺伝子バンクは、Koharaら(1987, Cell 50, 495-508)によりλベクターで構築されたE. coli K-12株W3110である。
【0150】
たとえば群IIの酵素の遺伝子バンクをE. coli中に作製するために、コスミドベクターSuperCos I(Wahl et al., (1987) PNAS, 84, 2160-2164)のようなコスミドのほかに、pBR322(BoliVal et al. (1979) Life Sciences, 25, 807-818 (1979))またはpUC9(Vieira et al. (1982), Gene, 19, 259-268)のようなプラスミドを利用することも可能である。制限および組換えに関して欠損のあるそのようなE. coli株は、宿主としてとくに好適である。この例は、Grantら(1990, PNAS, 87, 4645-4649)により記載された株DH5αmcrである。コスミドを用いてクローニングされた長いDNA断片は、続いて、配列決定に好適な従来のベクター中に再びサブクローニングすることが可能であり、次に、たとえば、Sanger et al. (1977, PNAS, 74, 5463-5467)に記載されるように、配列決定を行うことが可能である。
【0151】
次に、得られたDNA配列は、公知のアルゴリズムまたは配列解析プログラムにより、たとえば、Staden(1986, Nucleic Acids Research 14, 217-232)のプログラム、Marck(1988, Nucleic Acids Research 16, 1829-1836)のプログラム、またはButler(1998, Methods of Biochemical Analysis 39, 74-97)のGCGプログラムなどにより、調べることが可能である。
【0152】
ハイブリダイゼーションによるDNA配列の同定に関する説明は、当業者であれば、とくに、"The DIG System Users Guide for Filter Hybridization" by Boehringer Mannheim GmbH (Mannheim, Germany, 1993)のマニュアルおよびLiebl et al. (1991, International Journal of Systematic Bacteriology, 41, 255-260)に見いだしうる。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いるDNA配列の増幅に関する説明は、当業者であれば、とくに、Gait: Oligonucleotide synthesis: A Practical Approach (IRL Press, Oxford, UK, 1984)のマニュアルおよびNewton and Graham: PCR (Spektrum Akademischer Verlag, Heidelberg, Germany, 1994)に見いだしうる。
【0153】
そのほかに、タンパク質のN末端および/またはC末端の改変は、その機能を実質的に損なうことはなく、さらには安定化させる可能性があることが知られている。それに関する情報は、当業者であれば、とくに、Ben-Bassat et al. (1987, Journal of Bacteriology 169, 751-757)、O'Regan et al. (1989, Gene 77, 237-251)、Sahin-Toth et al. (1994, Protein Sciences 3, 240-247)、Hochuli et al. (1988, Biotechnology 6, 1321-1325)、ならびに遺伝学および分子生物学の公知の教科書に見いだしうる。
【0154】
コリネ型細菌中で複製されるプラスミドは、核酸の含有量および/もしくは活性またはそれによりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性を増大または低減させるための前記方法のいずれの場合にも、プラスミドとして好適である。多数の公知のプラスミドベクター、たとえば、pZ1(Menkel et al. (1989, Applied and Environmental Microbiology 64, 549-554))、pEKEx1(Eikmanns et al., (1991, Gene, 102, 93-98))、またはpHS2-1(Sonnen et al. (1991, Gene, 107, 69-74))などは、潜在プラスミドpHM1519、pBL1、またはpGA1をベースとする。他のプラスミドベクター、たとえば、pCLiK5MCS、またはpCG4(US-A 4,489,160)もしくはpNG2(Serwold-David et al. (1990) FEMS Microbiology Letters 66, 119-124)もしくはpAG1(US-A 5,158,891)などをベースとするようなプラスミドベクターも、同様に利用可能である。
【0155】
さらに、たとえば、hom-thrBオペロンの複製または増幅のためにReinscheidら(1994, Applied and Environmental Microbiology, 60, 126-132)により記載されたような染色体中への組込みによる遺伝子増幅法の利用を可能にするプラスミドベクターもまた、好適である。前記方法では、宿主(典型的にはE. coli)による複製は可能であるがC. glutamicumによる複製は可能でないプラスミドベクター中に全遺伝子がクローニングされる。たとえば、pSUP301(Sirnon et al. (1983), Biotechnology 1, 784-791)、pK18mobもしくはpK19mob(Schaefer et al., Gene 145, 69-73),(Bernard et al. (1993, Journal of Molecular Biology, 234, 534-541))、pEM1(Schrumpf et al. (1991), Journal of Bacteriology 173, 4510-4516)、またはpBGS8(Spratt et al. (1986), Gene 41, 337-342)がベクターとして検討の対象となりうる。続いて、増幅される遺伝子を含むプラスミドベクターは、トランスフォーメーションによりC. glutamicumの所望の株に導入される。トランスフォームするための方法は、たとえば、Thierbach et al. (1988, Applied Microbiology and Biotechnology 29, 356-362))、Dunican et al (1989, Biotechnology 7, 1067-1070)、およびTauch et al. (1994, FEMS Microbiological Letters 123, 343-347)に記載されている。
【0156】
発現のために、組換え核酸構築物または遺伝子構築物は、好適な宿主生物中に、好ましくは、宿主による遺伝子の最適発現を可能にする宿主特異的ベクター中に挿入される。ベクターは、当業者に周知であり、たとえば、"Cloning Vectors" (Pouwels P.H. et al., Ed., Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985)から選択可能である。プラスミドのほかに、たとえば、ファージ、トランスポゾン、ISエレメント、ファスミド、コスミド、および線状もしくは環状のDNAなどのような当業者に公知の他のベクターはすべて、同様にベクターとして解釈される。宿主生物において、前記ベクターは、自律的にまたは染色体により複製可能である。
【0157】
種々の抗生物質、たとえば、クロロアンピシリン、カナマイシン、ゲンタマイシン、G418、ブレオマイシン、ハイグロマイシンなどは、選択マーカーとして好適である。
【0158】
本発明の好ましい実施形態では、これらは、野生型と比較して含有量および/もしくは活性を低減させる対象となるタンパク質をコードする核酸が相同的組換えにより微生物のゲノムから除去されているかまたは該核酸配列がもはや機能的に発現されないように相同的組換えにより改変されている微生物である。
【0159】
このように、本発明に係る好ましい前記微生物は、配列番号1、配列番号3の配列を有する核酸および群Iに指定される配列と同一であるかもしくは機能的に相同であるゲノム核酸が、相同的組換えにより不活性化され、その結果、前記核酸によりコードされるタンパク質の機能的発現が、もはや起こらない。
【0160】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、これらは、群IIの核酸もしくはその機能的等価体と同一であるかもしくは相同である核酸をさらに過剰発現する微生物である。
【0161】
過剰発現を達成するために、当業者であれば、さまざまな手段を単独でまたは組み合わせて利用することが可能である。その際、対応する遺伝子のコピー数を増大させることが可能であるか、または構造遺伝子の上流に位置するプロモーターやレギュレーターの領域もしくはリボソーム結合部位を変異させることが可能である。構造遺伝子の上流に挿入される発現カセットも、同様に機能する。誘導プロモーターを用いれば、発酵によるL-メチオニン生産の過程で発現をさらに促進することが可能である。発現はまた、mRNAの寿命を延長する手段によっても改善される。さらに、酵素の分解を阻止することにより、酵素活性もまた向上する。遺伝子または遺伝子構築物は、さまざまなコピー数でプラスミド中に存在させることが可能であるか、または染色体中に組み込んで増幅させることが可能である。さらに、他の選択肢として、培地組成および培養手順を変更することにより、関連する遺伝子の過剰発現を達成することが可能である。
【0162】
それらに関する説明は、当業者であれば、とくに、Martin et al. (1987, Biotechnology 5, 137-146)、Guerrero et al. (1994, Gene 138, 35-41)、Tsuchiya et al. (1988, Biotechnology, 6, 428-430)、Eikmanns et al. (1991, Gene, 102, 93-98)、EP 0 472 869、US 4,601,893、Schwarzer et al. (1991, Biotechnology 9, 84-87)、Remscheid et al. (1994, Applied and Environmental Microbiology, 60, 126-132)、LaBarre et al. (1993, Journal of Bacteriology 175, 1001-1007)、WO 96/15246、Malumbres et al. (1993, Gene 134, 15-24)、JP-A-10-229891、Jensen et al. (1998, Biotechnology and Bioengineering, 58, 191-195)、Makrides (1996, Microbiological Reviews, 60, 512-538)、さらには遺伝学および分子生物学の公知の教科書に見いだしうる。
【0163】
本発明の範囲内で利用される方法に好適なプロモーターの例としては、Corynebacterium glutamicumに由来するプロモーターgroES、sod、eftu、ddh、amy、lysC、dapA、lysAのほかに、Bacillus subtilis and Its Closest Relatives, Sonenshein, Abraham L., Hoch, James A., Losick, Richard; ASM Press, District of Columbia, Washington および Patek M. , Eikmanns B. J., Patek J., Sahm H., Microbiology 1996, 142 1297-1309に記載されているようなグラム陽性プロモーターSPO2、さらには有利にはグラム陰性細菌で利用されるcos-、tac-、trp-、tet-、trp-tet-、lpp-、lac-、lpp-lac-、lacIq、T7-、T5-、T3-、gal-、trc-、ara-、SP6-、l-PR-、またはl-PL-プロモーターが挙げられる。誘導性プロモーター、たとえば、光誘導性プロモーター、とくに温度誘導性プロモーター(たとえばPrPl-プロモーター)を使用することが好ましい。原理的には、調節配列を有する天然プロモーターはすべて、使用可能である。さらに、合成プロモーターも有利に使用可能である。プロモーターのさらなる例は、Patek M. et al., J. Biotechnol. 2003, 104, 311-323に記載されている。
【0164】
前記調節配列は、核酸配列の指令発現および所望によりタンパク質の発現を可能にすると推測される。宿主生物に応じて、このことは、たとえば、遺伝子が誘導後にかぎり発現もしくは過剰発現されるかまたはただちに発現および/もしくは過剰発現されることを意味しうる。この点に関して、調節配列または調節因子は、ポジティブに影響を及ぼすことにより、発現を増大または低減させることが可能である。その際、調節エレメントの増強は、有利には、プロモーターおよび/またはエンハンサーのような強力な転写シグナルを用いて転写レベルで行うことが可能である。そのほかに、たとえば、mRNAの安定性を向上させることにより、翻訳の増強もまた可能である。
【0165】
この目的のために、たとえば、Current Protocols in Molecular Biology, 1993, John Wiley & Sons, Incorporated, New York, New York、PCR Methods, Gelfand, David H., Innis, Michael A., Sninsky, John J. 1999, Academic Press, Incorporated, California, San Diego、PCR Cloning Protocols, Methods in Molecular Biology Ser., Vol. 192, 2nd ed., Humana Press, New Jersey、Totowa. Sambrook et al., vide supra、およびT.J. Silhavy, M.L. Berman and L.W. Enquist, Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1984)、ならびにAusubel, F.M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience (1987)に記載されるような一般的な組換えおよびクローニングの技術が利用される。
【0166】
本発明はまた、硫黄含有化合物、好ましくは前記硫黄含有化合物、とくにメチオニンおよび/またはシステインの生産方法に関する。前記方法は、本発明に係る微生物を利用することと、これらの微生物の発酵培養により硫黄含有化合物が好ましくは細胞中または細胞培地中に富化されることと、を特徴とする。この点に関して、好ましい発酵方法を最適化することにより収率のさらなる増大を達成しうることは、当業者に公知である。本発明に係る方法では、本発明に従って生産される微生物は、硫黄含有化合物とくにL-メチオニンを生産するために、バッチ法またはフェドバッチ法または反復フェドバッチ法を用いて連続的または非連続的に培養可能である。公知の培養方法の概要は、Chmielの教科書(Gustav Fischer Verlag, Stuttgart, Germany, 1991))またはStorhasの教科書(Vieweg Verlag, Braunschweig/Wiesbaden, Germany, 1994))に見いだしうる。
【0167】
使用される培地は、対応する株に必要な要件を適切に満たすものでなければならない。さまざまな微生物用の培地についての説明は、"Manual of Methods for General Bacteriology" by the American Society for Bacteriology (Washington D. C., USA, 1981)のマニュアルに記載されている。
【0168】
本発明に従って使用可能な前記培地は、通常、1種以上の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミン、および/または痕跡元素を含む。
【0169】
好ましい炭素源は、単糖、二糖、または多糖のような糖である。とくに好適な炭素源は、たとえば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、ソルボース、リブロース、ラクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース、デンプン、またはセルロースである。糖はまた、モラセスのような複合化合物または糖精製の他の副生成物を介して培地に添加することも可能である。異なる炭素源の混合物を添加することが有利なこともある。さらなる可能な炭素源は、油脂、たとえば、ダイズ油、ヒマワリ油、ラッカセイ油、およびココナツ油、脂肪酸、たとえば、パルミチン酸、ステアリン酸、またはリノール酸、アルコール、たとえば、グリセリン、メタノール、またはエタノール、および有機酸、たとえば、酢酸または乳酸である。
【0170】
窒素源は、通常、有機もしくは無機の窒素化合物または該化合物を含む物質である。代表的な窒素源としては、アンモニアガスまたはアンモニア塩、たとえば、硫酸アンモニア、塩化アンモニア、リン酸アンモニア、炭酸アンモニア、もしくは硝酸アンモニア、ニトレート、ウレア、アミノ酸、または複合窒素源、たとえば、「コーンスティープリカー」、ダイズ粉、ダイズタンパク質、酵母抽出物、肉抽出物などが挙げられる。窒素源は、単独でまたは混合物として使用可能である。
【0171】
培地中に含まれうる無機塩化合物としては、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、銅、および鉄の塩化物塩、リン塩、または硫酸塩が挙げられる。
【0172】
無機硫黄含有化合物、たとえば、硫酸塩、亜硫酸塩、亜ジチオン酸塩、テトラチオン酸塩、チオ硫酸塩、および硫化物、さらには有機硫黄化合物、たとえば、メルカプタンおよびチオールは、硫黄含有ファインケミカルとくにメチオニンを生産するための硫黄源として使用可能である。
【0173】
リン酸、リン酸二水素カリウム、もしくはリン酸水素二カリウム、または対応するナトリウム含有塩は、リン源として使用可能である。
【0174】
キレート化剤は、溶液中の金属イオンを保持するために培地に添加可能である。とくに好適なキレート化剤としては、ジヒドロキシフェノール、たとえば、カテコールもしくはプロトカテクエート、または有機酸、たとえば、クエン酸が挙げられる。
【0175】
本発明に従って使用される発酵培地は、通常、他の増殖因子、たとえば、ビタミンまたは増殖促進剤、とくに、たとえば、ビオチン、リボフラビン、チアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテネート、およびピリドキシンをも含む。増殖因子および塩は、多くの場合、酵母抽出物、モラセス、「コーンスティープリカー」などのような複合培地成分に由来する。さらに、好適な前駆体を培地に添加することが可能である。培地化合物の正確な組成は、それぞれの実験に強く依存し、それぞれの特定の場合に合わせて個別的に選択される。培地の最適化に関する情報は、"Applied Microbiol. Physiology, A Practical Approach" (Ed. P.M. Rhodes, P.F. Stanbury, IRL Press (1997) p. 53-73, ISBN 0 19 963577 3)の教科書から入手可能である。また、増殖培地は、Standard 1(Merck)またはBHI(ブレインハートインフュージョン, DIFCO)などのように、供給業者から入手可能である。
【0176】
培地成分はすべて、加熱(1.5barかつ121℃で20分間)によりまたは滅菌濾過により、滅菌される。成分は、一緒にまたは必要であれば別々に、滅菌可能である。培地成分はすべて、培養の開始時に存在させうるか、または場合により、連続方式もしくはバッチ方式で添加しうる。
【0177】
通常、培養の温度は、15℃〜45℃、好ましくは25℃〜40℃であり、実験中、一定に保持しうるかまたは変化させうる。培地のpH値は、5〜8.5の範囲内、好ましくは約7.0でなければならない。培養の過程で、培養のpH値は、アルカリ性化合物、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、もしくはアンモニア水、または酸性化合物、たとえば、リン酸もしくは硫酸を添加することにより制御可能である。フォームの形成を抑制するために、消泡剤、たとえば、脂肪酸ポリグリコールエステルを使用することが可能である。プラスミドの安定性を保持するために、好適な選択的作用剤、たとえば、抗生物質を培地に添加することが可能である。好気的条件を保持するために、酸素または酸素含有ガス混合物、たとえば、周囲空気などを培養物中に導入する。最大量の所望の産物が生成されるまで、培養を継続する。通常、この目標は、10時間〜160時間以内で達成される。
【0178】
とくにL-メチオニンを含むこうして得られた発酵ブロスは、通常、7.5〜25重量%の乾燥塊を有する。
【0179】
しかしながら、さらにまた、発酵が、少なくとも終了時に、とくにその持続時間の少なくとも30%にわたり、糖制限条件下で行われるのであれば、有利である。このことは、この時間にわたり、発酵培地中の利用可能な糖の濃度が≧0〜3g/lに保持されるかまたは≧0〜3g/lに低減されることを意味する。
【0180】
続いて、発酵ブロスを処理する。要件に応じて、たとえば、遠心分離、濾過、傾瀉、または該方法の組合せのような分離法により、完全にまたは部分的に、発酵ブロスからバイオマスを取り出すことが可能であるか、または全バイオマスをブロス中に残存させることが可能である。
【0181】
続いて、公知の方法により、たとえば、回転蒸発器、薄膜蒸発器、流下膜蒸発器を用いて、逆浸透により、またはナノ濾過により、発酵ブロスを濃縮または再濃縮することが可能である。続いて、凍結乾燥、スプレー乾燥、スプレー顆粒化により、または他の方法により、前記再濃縮発酵ブロスを処理することが可能である。
【0182】
しかしながら、硫黄含有ファインケミカルとくにL-メチオニンをさらに精製することも可能である。したがって、バイオマスを除去した後、産物含有ブロスを好適な樹脂によるクロマトグラフィーに付し、所望の産物または汚染物質を完全にまたは部分的にクロマトグラフィー樹脂上に保持する。場合により、同一のもしくは異なるクロマトグラフィー樹脂を利用して前記クロマトグラフィー工程を反復する。好適なクロマトグラフィー樹脂の選択およびその最も効果的な利用については、当業者の熟知するところである。精製産物を濾過または限外濾過により濃縮し、産物の安定性が最大となる温度で貯蔵することが可能である。
【0183】
単離された化合物の同一性および純度は、先行技術の方法により決定可能である。これらとしては、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、分光法、染色法、薄膜クロマトグラフィー、NIRS、酵素試験、または微生物学的試験が挙げられる。前記分析法については、Patek et al. (1994, Appl. Environ. Microbiol. 60, 133-140)、Malakhova et al. (1996, Biotekhnologiya 11, 27-32)、Schmidt et al. (1998, Bioprocess Engineer. 19, 67-70)、Ulmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry (1996, Vol. A27, VCH: Weinheim, p. 89-90, p. 521-540, p. 540-547, p. 559-566, 575-581 and p. 581-587);Michal, G (1999, Biochemical Pathways: An Atlas of Biochemistry and Molecular Biology, John Wiley and Sons)、Fallon et al. (1987, Applications of HPLC in Biochemistry in: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, Vol. 17)にまとめられている。
【0184】
本発明に係る方法により、好ましくは、硫黄含有化合物とくにメチオニンまたはシステインの生産は、野生型と比較して、少なくとも5%、10%、50%、75%、好ましくは少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、7倍、10倍、とくに好ましくは少なくとも20倍、40倍、60倍、80倍、100倍、なかでもとくに200倍、500倍、1,000倍、最も好ましくは10,000倍の増大が達成される。絶対量に換算すると、とくに、発酵ブロス1リットルあたり1g〜150gのメチオニン収量が、本発明に係る方法により達成可能である。
【0185】
次に、以下の実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0186】
1. 材料および方法
1.1 細菌株、培地、およびプラスミド
CGXII最少培地(Keilhauer et al. (1993) J. Bacteriol. 175, 5595-5603)中で常法に従ってC. glutamicum ATCC 14752またはATCC 13032を培養した。トランスポゾン変異体をカナマイシン(15mg・ml-1)の存在下で培養した。E. coli DH5αを標準的クローニングに使用し、プラスミドをC. glutamicum中にトランスフォームする場合、E. coli ET12567をプラスミド増幅に使用した。
【0187】
本発明で使用される株およびプラスミドを表1に示す。対応する抗生物質(カナマイシン50μg・ml-1、クロラムフェニコール50μg・ml-1、アンピシリン100μg・ml-1)と混合されたLuriaブロス(LB)培地をE. coli株に対する標準培地として使用した。4mM MgSO4および10mM KClと混合されたLB培地(psiブロス)を化学的にトランスフォームされたE. coliに対する回収培地として使用した。エレクトロポレートされたC. glutamicum株に対する回収培地は、LBHIS(ブレインハートインフュージョンを含むLuriaブロス)およびSorbitol(Liebl et al. (1989) FEMS Microbiol Lett, 65, 299-304)であった。プラスミドpCGL0040(GenBankアクセッション番号U53587)をトランスポゾンTn5531(IS1207 Kmr)に対するドナーとして使用し、E. coli ET12567により増幅した。
【0188】
1.2 組換えDNA技術
プラスミドDNAによるE. coli細胞のトランスフォーメーションは、化学的コンピテントE. coli DH5αまたはET12567を用いて行った。塩化ルビジウム法[http://micro.nwfsc.noaa.gov/protocols/]に従って細胞を産生し、Sambrook et al. (vide supra)に記載されるようにトランスフォームした。コンピテントC. glutamicum細胞の産生およびエレクトロトランスフォーメーションは、文献(Ankri (1996), Plasmid, 35, 62-66; Liebl et al., vide supra)に記載されるように行った。
【0189】
ゲノムDNAは、Wizard(登録商標)Genomic DNA Purification Kit(Promega)を用いて単離した。E. coli細胞からのプラスミドの調製は、QIAprep Miniprep Kit(Qiagen)を用いて常法に従って行った。制限エンドヌクレアーゼは、Roche Diagnosticsから購入した。QIAEX II Gel Extraction Kit(Qiagen)を利用して、消化されたDNA断片をアガロースゲルから回収した。文献(Sambrook et al., vide supra)に記載されるように、標準的DNA法を実施した。DNA配列決定は、Global Edition IR2 System(LI-COR Inc., Lincoln, Nebr.)を用いて行った。
【0190】
ORFおよびプロモーターを同定するためのゲノムデータベースとして、ERGOデータベース(Integrated Genomics, Chicago, USA)を使用した。本文に与えられているNCgl番号は、NCBIのGenBankに基づくC. glutamicum ATCC 13032ゲノム配列(GenBankアクセッション番号NC 003450)を意味する。システインシンターゼ(NCgl2473、プロモーター位置2721625〜2721822)、亜硫酸レダクターゼ(NCgl2718、プロモーター位置3005188〜3005389)、およびO-アセチルホモセリンスルフヒドロラーゼ(metY、NCgl0625、プロモーター位置667771〜668107)に対するプロモーター(ERGOデータベースに由来する)をPCRにより増幅し、同一の制限酵素により切断されたプラスミドpClik(Cmr)中のプロモーターフリーlacZにXhoIおよびBamHIリンカーを介して融合した。得られたプラスミドをpClik-H185、pClik-H187、およびpClik-H217と記した(表1参照)。プライマー対2640-fwd-BglII(5'-CCGCTGCTGCTGGTGGCGCTAGATCTGCTAACGGC-3')および2640-rev-BglII(5'-ATGTGTTGGGAGATCTCTTAAGTTATTTAGTCCAG-3')を用いたPCRにより増幅されたNCgl2640を導入するために、前記プラスミド中のそれぞれの1つのBglII制限部位を使用した。増幅されたDNA断片は、NCgl2640遺伝子の上流の370塩基対まで位置する推定の調節エレメントを含んでいた。
【0191】
1.3 転位および変異誘発、スクリーニング、ならびに転位部位および挿入部位の位置特定
プラスミドpCGL0040をE. coli ET12567から単離した。続いて、エレクトロポレーションによりC. glutamicum ATCC 14752をプラスミドでトランスフォームした。20μg・ml-1のカナマイシンを含むLBHISにプレーティングすることにより、トランスポゾン挿入変異体を選択した。得られた変異体をすべてプールし、滅菌された0.9% NaClで2回洗浄し、合わせたプールの106稀釈液の100μlアリコートの形態で、カナマイシン(20μg・ml-1)およびエチオニン(7.5g・l-1)を含むCGXII培地にプレーティングした。最も増殖の速いクローンを選択し、詳しい分析に供した。
【0192】
トランスポゾン挿入部位の位置を特定するために、ゲノムDNAを変異体から単離した。次に、トランスポゾン染色体リンカー部位をpUC18中にクローニングしてからオリゴヌクレオチドTn5531-Eco(5'-CGGGTCTACACCGCTAGCCCAGG-3')(Simic et al. (2001) J. Bacteriol. 183, 5317-5324)を用いて配列決定することにより、挿入部位を決定した。次に、こうして得られた配列をNCBI GenBank配列およびERGOデータベースに対してBLASTnプログラムにより分析した。NCgl2640配列を用いてパターン検索およびプロファイル検索を行うために、種々の配列解析ツール(http://www.expasy.org/、http://npsa-pbil.ibcp.fr、またはhttp://pfam.wustl.edu/(タンパク質ファミリーデータベースPFAM))を利用した。
【0193】
1.4 C. glutamicum ATCC13032中のNCgl2640の染色体欠失
2つのプライマー対2640-SacB1(5' GAGAGGGCCCATCAGCAGAACCTGGAACC-3')/2640-SacB2(5' GATCCAGAGGTCCACAACC-3')および2640-SacB3(5' GATGGTTCAAGACGAACTCC-3')/2640-SacB4(5' GAGAGTCGACCAGAATCAATTCCAGCCTTC-3')により、NCgl2640の上流領域および下流領域をC. glutamicum ATCC13032の染色体DNAからPCRにより増幅した。得られた断片をApaI/XbaIまたはSpeI/SalIで消化し、ApaI/SalIで消化された非複製ベクターpClik-SacB中に連結クローニングし、それによりプラスミドpSdel-NCgl2640を得た。次に、エレクトロポレーションによりC. glutamicum ATCC13032を非複製プラスミドpSdel-NCgl2640でトランスフォームした。カナマイシンに対して耐性のあるクローンは、染色体に組み込まれたプラスミドを含有していた。続いて、Schaeferら(Schaefer et al. (1994) Gene 145:69-73)の方法に準拠してスクロースに対して耐性のある変異体に関してスクリーニングすることにより、プラスミド喪失に関して選択を行った。次に、PCR分析およびサザンブロッティングにより欠失を確認した。
【0194】
1.5 LacZ活性の測定
C. glutamicumの選択された変異株を、pClikプラスミドH185、H187、およびH217、またはNCgl2640で相補されたそれらの誘導体で、相補した(表1参照)。10mM L-メチオニンの存在下または不在下において、カナマイシン(20μg・ml-1)およびクロラムフェニコール(15μg・ml-1)を含むCGXII最少培地中でトランスフォーマントを培養した。初期対数期(OD600=1〜2)まで細胞を培養し、Sambrook et al. (Sambrook et al., vide supra)に記載されるようにβ-gal活性に関して調べた。アッセイは、4つの独立した試験系列でそれぞれ3回行った。
【0195】
1.6 DNA結合タンパク質の単離
磁気ビーズを用いてDNAアフィニティークロマトグラフィーによりDNA結合タンパク質を単離する原理は、Gabrielsen et al. (1993), Methods Enzymol., 218, 508-225に実質的に記載されており、C. glutamicumに対する詳細なプロトコルは、入手可能である。Rey et al. (vide supra)を参照されたい。ごくわずかな例外を除いて、ここでは、後者のプロトコルを利用した。溶出緩衝液を除いて、緩衝剤はすべて、2.5mM L-メチオニンと混合した。細胞破壊の直後、プロテアーゼ阻害剤(PMSF、アプロチニン、ロイペプチン(Rosenberg et al. (1996) Protein Analysis and Purification. Benchtop Techniques, Boston, Birkhaeuser))により、粗抽出物をタンパク質分解から保護した。粗抽出物の超遠心分離(200,000g、40分間、40℃)に続いて、タンパク質溶液をゲル濾過(Sephadex G25)により脱塩した。ビオチン化PCR増幅プロモーターDNAをストレプトアビジン被覆Dynabeads(登録商標)M270(Dynal Biotech.)上に固定した。陰性対照断片として、C. glutamicumに由来するgroES遺伝子の上流領域から460bp断片を増幅した。洗浄緩衝液は、多量の非特異的コンペティターDNA(サケ精子DNA、0.4mg・ml-1、Sigma)を含有していた。4%スタッキングゲルおよび12%ランニングゲル(Schaegger et al. (1987) Anal. Biochem. 166, 368-379)を用いてI D-SDS-PAGEを行い、コロイド状Coomassie Brilliant Blue G-250でタンパク質を染色した。トリプシン消化およびMALDI-TOF分析に対するプロトコルは、実質的にHermann et al. (2001) Electrophoresis, 22, 1712-1723に記載のプロトコルに対応する。
【0196】
1.7 細胞外および細胞内のメチオニン濃度の決定
HPLCによりメチオニンをそのo-フタルジアルデヒド誘導体の形態で定量した(Molnar-Perl et al. (2001), J. Chromatogr. 913, 283-302)。50〜100mlの培養容積を有する500ml振盪フラスコ内において30℃かつ225rpmで定常期までC. glutamicumを培養した。遠心分離(10,000g、10分間、4℃)により細胞を除去し、メチオニン濃度をHPLC分析により決定した。細胞内メチオニン濃度を決定するために、細胞を液体から取り出し、ケイ素油遠心分離により賦活した(Ebbighausen et al. (1989) Appl. Microbiol. Biotechnol., 31, 184-190)。続いて、超音波処理またはブルーキャップリボライザー(FastPrep(登録商標) Q-Biogene)により、細胞を溶解させた。上清中の可溶性タンパク質をBradfordアッセイに従って決定した。C. glutamicum中の可溶性タンパク質の細胞内含有量は、実験に基づいて250mg・ml-1と決定された。HPLC分析の後でメチオニン濃度を決定できるように、この値を基にしてサンプルの全内部細胞体積を計算した。
【0197】
2. 結果
2.1 エチオニン耐性トランスポゾン変異体の選択および同定
本発明の範囲内では、C. glutamicumによるメチオニン生合成のレギュレーションに関与していると思われる推定のリプレッサーを不活性化することにより達成しうるメチオニン過剰産生を介してエチオニン耐性を達成しうるという仮説に基づく推定を行った。この理由は、エチオニンが代謝不可能なメチオニンの構造類似体であるので高濃度のメチオニンの挙動をするという事実に依拠する。その結果、メチオニン生合成は、通常、ダウンレギュレートされ、生物は、メチオニンの欠如が原因となって最終的に死滅する。
【0198】
抗代謝剤により引き起こされるこの毒性を回避するために生物が利用しうる手段の1つは、天然代謝産物(この場合はメチオニン)の過剰生成により毒剤を競合的に排除することである。このようにして、1970年代にすでにメチオニン耐性株が生産された(Kase et al., vide supra)。しかしながら、おそらく、その時点で行われた選択実験では、主要なレギュレーターとしてメチオニンの生合成を不活性化させる変異体は同定されていないので、その時点ではメチオニンを有意に過剰生産する株を得ることができなかったであろう。このことは、トランスポゾン媒介変異誘発により変異を導入しようとする本試みの理由の1つであった。
【0199】
したがって、トランスポゾンTn5531のドナーとしてのpCGL0040でC. glutamicum ATCC 14752をトランスフォームした。このようにして、カナマイシンを有するLBHISプレート上で約7,000種の変異体を取得した。先行技術に記載されるように、前記変異体をプールし、7.5g・l-1 D,L-エチオニン+カナマイシンを有するCGXII培地の入ったプレート上にプレーティングした。エチオニン耐性の可能性のある変異体をすべて回収できるように、約100,000コロニー形成単位(CFU)をプレーティングした。6g・l-1のエチオニンを用いて、野生型の増殖を少なくとも4日間にわたり阻害した。2日後、11種のカナマイシン耐性かつエチオニン耐性の変異体を単離することができた。変異体はすべて、ORL NCgl2640中に同一のTn5531挿入断片を含んでいた。前記変異を14752-Δ2640と記し、以下の実験に供すべくクローンを選択した(表1)。
【0200】
2.2 トランスポゾン挿入部位の配列解析
株14752::2640中のトランスポゾン挿入部位が推定のタンパク質のC末端側半分の位置2918026/2918027(GenBankアクセッション番号NC 003450)に位置することを観測することができた。NCgl2640はNCgl2639から7塩基対だけ離れているので、両方の遺伝子はおそらく1つのオペロン内に組織化されているであろう。NCgl2639は、推定のヒドロラーゼまたはアセチルトランスフェラーゼとしてデータベース(GenBank)中に注釈が付されている(図2参照)。NCgl2640は、42kDaのタンパク質をコードする。相同性を介して、有意な相同性(e値<2e-20)を有する25種超の推定の細菌タンパク質を同定することができた。これらはいずれも、これまで機能的なものとして注釈が付されていないものである。保存ドメインを検索することにより、グルタミン酸システインリガーゼファミリーに特有であるタンパク質ファミリーデータベース(PFAM)のモチーフ04107の場合と同様に、高い有意性で、未知機能を有するタンパク質のコンセンサスパターン(COG2170)を同定することができた。それ以上のコンセンサスモチーフを同定することはできなかった。とくに、DNA結合タンパク質を同定することはできなかった。
【0201】
2.3 メチオニン耐性表現型の検証
次に、7.5g・l-1(変異体)または3.8g・l-1(野生型)のD,L-エチオニンの存在下または不在下において3g・l-1のグルコースを含むCGXII培地中で、C. glutamicum ATCC 14752および変異株を培養した。エチオニンの存在下における変異体の増殖は、メチオニンを用いない増殖およびエチオニンを用いない野生型の増殖のいずれとも識別できなかった。しかしながら、実質的により低い亜致死濃度のエチオニンの存在下における野生型の増殖は、有意に阻害された(図3参照)。
【0202】
他の部位の変異がエチオニン耐性表現型を形成する可能性を除外するために、C. glutamicum ATCC 13032中のNCgl2640を不活性化する効果を試験した。相同的組換えによりおよびスクロース耐性変異株の選択により、C. glutamicumのゲノムからNCgl2640を切り取った。13032::2640と記される前記変異体は、7.5g/lのD,L-エチオニンに対して耐性であったが、これらのプレート上で野生型ATCC 13032の増殖を検出することはできなかった。
【0203】
したがって、本発明の範囲内で、エチオニン耐性表現型は、確かに排他的にNCgl2640の不活性化に基づくことを証明することができた。
【0204】
2.4 NCgl2640変異体におけるメチオニン生合成遺伝子の改変発現
次に、メチオニン生合成の主要な過程である硫黄同化の通常の厳格なレギュレーションがNCgl2640変異体において改変されるかどうかを調べた。NCgl2640がC. glutamicumによる硫黄化合物の生合成の主要なレギュレーターであれば、それは硫黄の同化に関与する遺伝子の発現をレギュレートし、エチオニンに対する耐性の原因となりうる増大された量のメチオニンの発現が起こるはずであるという仮説に基づく推定を行った。metY、cysK、およびスルフェートオペロン遺伝子の発現レベルに及ぼすNCgl2640ノックアウトの影響に基づいて、前記仮説を検査した。この目的のために、NCgl2640が欠失している株14752::2640および野生型を、lacZレポータープラスミドpClik-PcysK、pClik-PmetY、およびpClik-Psulfatでトランスフォームした(表1も参照されたい)。次に、10mM L-メチオニンの添加を行ってまたは行わずにCGXII培地中で対数期(OD600=3)までATCC 14752野生型および変異株を培養し、lacZ活性により遺伝子発現を決定した。
【0205】
野生型では、メチオニンの存在は、検査されたすべての遺伝子の発現レベルを低下させた。スルフェートオペロンの発現は、完全に抑制された。変異株では、cysKおよびスルフェートオペロンに対する有意な抑制解除が観測された。両方の遺伝子で、メチオニンの発現が独立していることから、変異株バックグラウンドではメチオニンおよび他の硫黄含有化合物の生合成経路の完全な抑制解除(すなわち、完全なデレギュレーション)が示唆される(図4をも参照されたい)。隣接するNCgl2639(ヒドロラーゼまたはアセチルトランスフェラーゼ、図2参照)に及ぼすNCgl2640の不活性化の極性効果を除外するために、変異体においてNCgl2640をそのプロモーターを介して発現させ、野生型表現型を再構築した。すなわち、メチオニン誘導抑制および低減された(cysK)または増大された(スルフェートオペロン)基礎転写レベルが観測された(図4をも参照されたい)。前記表現型は、野生型のときよりも相補株のときのほうが多くの生成される。この理由は、おそらく、相補株では中コピープラスミドから生じるNCgl2640の発現が増大されるという事実に依拠する。
【0206】
2.5 NCgl2640は、cysK、metY、およびスルフェートオペロンのプロモーターに結合しない
本発明の範囲内で、cysK、スルフェートオペロン、さらにはmetYの発現が、主に、NCgl2640によりレギュレートされることを明らかにすることができた。NCgl2640の配列中に古典的DNA結合モチーフを同定することができなかったので、NCgl2640が前記遺伝子のそれぞれのプロモーター領域に結合しうるかどうか検査するために、いわゆるプルダウンアッセイのDNAアフィニティー精製を利用した。PCRにより増幅されてビーズ上に固定されたプロモーターを、10mM L-メチオニンの存在下または不在下で培養されたC. glutamicum細胞の粗抽出物と共に2.5mM L-メチオニンの存在下でインキュベートした。高い塩濃度(>200mM)でプロモーターから溶出するタンパク質を1D-SDS-PAGEにより分離し、MALDI-TOFにより分析した。
【0207】
類似の方法を用いて、Reyら(vide supra)は、metYプロモーターに特異的に結合すると思われる4種の他のタンパク質と共にMcbRリプレッサーをすでに同定している。これらの結果を本発明の範囲内で確認することができた。さらに、McbRがcysKのプロモーターおよびスルフェートオペロンにも結合することを明らかにすることができた(図5参照)。しかしながら、いずれの試験においても、NCgl2640を検出することができなかったので、直接的なDNA/タンパク質相互作用はNCgl2640媒介レギュレーションに関与していないことが示唆される。
【0208】
2.6 NCgl2640変異体におけるL-メチオニン量の増大
したがって、多量のエチオニンに対するC. glutamicum 14752::2640の耐性は、L-メチオニンの生合成の増大の結果であると思われる。前記仮説を確認するために、野生型および変異体におけるL-メチオニンの生産をCGXII最少培地バッチ培養で検討した。
【0209】
変異株が一般に野生型と比べて少なくとも2倍のメチオニンを生産することを明らかにすることができた。エチオニンの存在下において、変異体ではメチオニン分泌を刺激することができたが、野生型ではできなかった(図6A参照)。細胞内のメチオニン量も同様に変異体では2倍であったが、エチオニンは、メチオニン分泌の刺激に基づくと思われる細胞内のメチオニン量を低減させた(図6Bを参照)。メチオニンの全量は、野生型と比べて変異体では2倍であった。
【0210】
以上に示される実験から、NCgl2640に対するコード配列が欠失しているために該核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/もしくは活性が野生型と比較して低減されている微生物を用いてメチオニンを増量生産しうることが示された。
【0211】
硫黄代謝の遺伝子は、おそらくトランス作用性レギュレーターであるNCgl2640によりレギュレートされるので、本発明に係る微生物はまた、他の硫黄含有化合物を生産するために利用されることも可能である。このことは、微生物がシステインを生産するために硫黄の還元を引き起こす代謝経路にも頼らなければならず、しかもグルタチオンやS-アデノシルメチオニンなどのようなさらなる硫黄含有化合物がシステインおよび/またはメチオニンの存在に依存するという事実に依拠する。
【0212】
配列データ
配列番号1(GenBankアクセッション番号NCgl2640):
ATGGGCATTGAGTTTAAGCGTTCACCGCGACCCACCCTGGGCGTTGAGTGGGAAATTGCACTTGTTGATCCAGAAACACGTGATCTAGCCCCGCGCGCTGCAGAAATACTAGAGATTGTGGCCAAGAACCACCCTGAGGTGCACCTCGAGCGCGAATTCCTCCAAAACACCGTGGAGCTTGTCACCGGAGTGTGCGACACCGTCCCCGAAGCGGTGGCAGAGCTTTCCCACGATCTAGATGCGCTGAAAGAAGCAGCGGATTCTCTCGGGCTTCGGTTGTGGACCTCTGGATCCCACCCATTTTCGGATTTCCGCGAAAACCCAGTATCTGAAAAAGGCTCCTACGACGAGATCATCGCGCGCACCCAATACTGGGGAAACCAGATGTTGATTTGGGGCATTCACGTCCACGTGGGCATCAGCCATGAAGATCGCGTGTGGCCGATCATCAATGCGCTGCTGACAAATTACCCACATCTGTTGGCACTTTCTGCAAGCTCTCCAGCATGGGACGGACTTGATACCGGTTATGCCTCCAACCGGACGATGCTCTACCAACAGCTGCCTACAGCCGGACTGCCATACCAATTCCAAAGCTGGGATGAATGGTGCAGCTACATGGCGGATCAAGATAAATCCGGTGTCATCAACCACACCGGATCCATGCACTTTGATATCCGCCCCGCATCCAAATGGGGAACCATCGAAGTCCGCGTGGCCGATTCTACCTCCAACCTGCGGGAACTGTCTGCCATCGTGGCGTTGACCCACTGTCTCGTGGTGCACTACGACCGCATGATCGACGCTGGCGAAGAGCTTCCCTCCCTGCAACAATGGCACGTTTCGGAAAATAAATGGCGCGCGGCTAGGTATGGTCTGGATGCCGAAATCATCATTTCCAGAGACACCGATGAAGCGATGGTTCAAGACGAACTCCGCCGACTAGTAGCGCAATTGATGCCTCTAGCCAACGAACTCGGCTGCGCTCGTGAGCTTGAACTTGTGTTGGAAATCCTGGAACGTGGTGGTGGATACGAACGCCAACGCAGAGTGTTTAAAGAAACTGGCAGTTGGAAAGCTGCAGTTGATTTAGCCTGCGACGAACTCAACGACCTCAAAGCACTGGACTAA
配列番号2(GenBankアクセッション番号NP_601931):
MGIEFKRSPRPTLGVEWEIALVDPETRDLAPRAAEILEIVAKNHPEVHLEREFLQNTVELVTGVCDTVPEAVAELSHDLDALKEAADSLGLRLWTSGSHPFSDFRENPVSEKGSYDEIIARTQYWGNQMLIWGIHVHVGISHEDRVWPIINALLTNYPHLLALSASSPAWDGLDTGYASNRTMLYQQLPTAGLPYQFQSWDEWCSYMADQDKSGVINHTGSMHFDIRPASKWGTIEVRVADSTSNLRELSAIVALTHCLVVHYDRMIDAGEELPSLQQWHVSENKWRAARYGLDAEIIISRDTDEAMVQDELRRLVAQLMPLANELGCARELELVLEILERGGGYERQRRVFKETGSWKAAVDLACDELNDLKALD
配列番号3(McbR):
GTGGCTGCTAGCGCTTCAGGCAAGAGTAAAACAAGTGCCGGGGCAAACCGTCGTCGCAATCGACCAAGCCCCCGACAGCGTCTCCTCGATAGCGCAACCAACCTTTTCACCACAGAAGGTATTCGCGTCATCGGTATTGATCGTATCCTCCGTGAAGCTGACGTGGCGAAGGCGAGCCTCTATTCCCTTTTCGGATCGAAGGACGCCTTGGTTATTGCATACCTGGAGAACCTCGATCAGCTGTGGCGTGAAGCGTGGCGTGAGCGCACCGTCGGTATGAAGGATCCGGAAGATAAAATCATCGCGTTCTTTGATCAGTGCATTGAGGAAGAACCAGAAAAAGATTTCCGCGGCTCGCACTTTCAGAATGCGGCTAGTGAGTACCCTCGCCCCGAAACTGATAGCGAAAAGGGCATTGTTGCAGCAGTGTTAGAGCACCGCGAGTGGTGTCATAAGACTCTGACTGATTTGCTCACTGAGAAGAACGGCTACCCAGGCACCACCCAGGCGAATCAGCTGTTGGTGTTCCTTGATGGTGGACTTGCTGGATCTCGATTGGTCCACAACATCAGTCCTCTTGAGACGGCTCGCGATTTGGCTCGGCAGTTGTTGTCGGCTCCACCTGCGGACTACTCAATTTAG
配列番号4(GenBankアクセッション番号NP_602128):
MAASASGKSKTSAGANRRRNRPSPRQRLLDSATNLFTTEGIRVIGIDRILREADVAKASLYSLFGSKDALVIAYLENLDQLWREAWRERTVGMKDPEDKIIAFFDQCIEEEPEKDFRGSHFQNAASEYPRPETDSEKGIVAAVLEHREWCHKTLTDLLTEKNGYPGTTQANQLLVFLDGGLAGSRLVHNISPLETARDLARQLLSAPPADYSI
【表1】

【0213】
表1中の参考文献:
Ankri, S., Serebrijski, I., Reyes, O., and Leblon, G. (1996b) Mutations in the Corynebacterium glutamicum proline biosynthetic pathway: a natural bypass of th proA step. J Bacteriol 178, 4412-4419.
Follettie, M. T., Peoples, O. P., Agoropoulou, C., and Sinskey, A. J. (1993) Gene structure and expression of the Corynebacterium flavum N13 ask-asd operon. J Bacteriol 175, 4096-4103.
Hanahan, D. (1983) Studies on transformation of Escherichia coli with plasmids. J Mol Biol 166, 557-580.
Hwang, B.-J., Kim, Y., Kim, H.-B., Hwang, H.-J., Kim, J.-H., and Lee, H. S. (1999) Analysis of Corynebacterium glutamicum methionine biosynthetic pathway: isolation and analysis of metB encoding cystathionine γ-synthase. Mol Cells 9, 300-308.
Lee, H.-S., and Sinskey, A. J. (1994) Molecular characterization of AceB, a gene encoding malate synthase in Corynebacterium glutamicum. J Microbiol Biotechnol 4, 256-263.
MacNeil, D. J., Occi, J. L., Gewain, K. M., MacNeil, T., Gibbons, P. H., Ruby, C. L., and Danis, S. J. (1992) Complex organization of the Streptomyces avermitilis genes encoding the avermectin polyketide synthase. Gene 115, 119-125.
Simic, P., Sahm, H., and Eggeling, L. (2001) L-threonine export: use of peptides to identify a new translocator from Corynebacterium glutamicum. J Bacteriol 183, 5317-5324.
【図面の簡単な説明】
【0214】
【図1】メチオニン生合成における硫黄の取込みの個別経路 硫黄は、MetYにより触媒される直接的なスルフヒドロ化(A)により、またはトランススルフヒドロ化経路(B)を介して、組込み可能である。標識化遺伝子産物のプロモーターに対してlacZ融合体を調製した。NCgl2718のプロモーターは、スルフェートクラスター(NCgl2715-NCgl2720)中に組織化された遺伝子の発現をレギュレートする。次の略号を使用した:Ask、アスパラギン酸キナーゼ、AsDH、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、Hom、ホモセリンデヒドロゲナーゼ、MetA、ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ、MetB、シスタチオニン-γ-シンターゼ、MetC、シスタチオニン-β-リアーゼ、MetH、メチオニンシンターゼ、MetY、O-アセチルホモセリンスルフヒドロラーゼ、MetK、S-アデノシルメチオニンシンターゼ、NCgl2715、硫酸アデノシルトランスフェラーゼサブユニット1;NCgl2716、硫酸アデノシルトランスフェラーゼサブユニット2;NCgl2717、PAPSレダクターゼ;NCgl2718、スルフィドレダクターゼ(推定の亜硝酸レダクターゼと注釈が付されている);CysK、システインシンターゼ。
【図2】NCgl2640のゲノムのコンテキスト ORFに関して利用可能なGenBankの注釈: NCgl2638、分節Na+/H+アンチポーターとの類似性; NCgl2639、予測されたヒドロラーゼまたはアセチルトランスフェラーゼ、α/β-ヒドロラーゼスーパーファミリーに類似する; NCgl2640、推定タンパク質(特性付けされていないBCR); NCgl2641、推定タンパク質、注釈なし; Tn5531、トランスポゾン5531(IS1207)。黒三角は、NCgl2640中のTn5531の挿入部位を示す。
【図3】エチオニンの存在下または不在下においてCGXII培地で培養したときのC. glutamicumの野生型および変異体の増殖曲線 グルコース濃度は、3g・l-1であり;D,L-エチオニン濃度は、野生型または変異株に対して3.5g・l-1または7.5g・l-1であった。野生型は、7.5g・l-1のD,L-エチオニンの存在下で増殖が観測されないはずである。 黒記号:培養中にエチオニンが存在する; 白記号:エチオニンを用いない培養; 黒い三角 野生型; ● 変異株。
【図4】cysK、metY、およびスルフェートオペロンのメチオニン依存性発現に及ぼすNCgl2640ノックアウトの影響 C. glutamicum-ATCC 14752(野生型;WT)、変異株14752::2640、およびプラスミドに組み込まれたNCgl2640で相補された変異株(::2640-cpl)(レポータープラスミドpClik-PcysK、pClik-PmetY、またはpClik-Psulfatを含む)を、メチオニン(10mM)の存在下または不在下においてCGXII(3g/lのグルコース)培地で培養した。lacZ活性レポーターアッセイによりプロモーター活性を決定し、Miller単位で定量化した。暗色バー:増殖培地中にメチオニンなし; 白色バー:増殖培地中にL-メチオニンあり。
【図5】システインシンターゼ(cysK)、O-アセチルホモセリン-スルフヒドロラーゼ(metY)に対するC. glutamicum遺伝子および推定のスルフェートオペロンの遺伝子の推定のプロモーター領域に結合するタンパク質のSDS-PAGE 1、TetRに類似しておりRey et al. (vide supra)から公知であるレギュレーターMcbR; 2、エキソポリホスファターゼ(分解産物); 3、エキソポリホスファターゼ; 4、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ; 5、DNAポリメラーゼI。エキソポリホスファターゼおよびDNAポリメラーゼIを除いて、同定されたいずれのタンパク質も、groES対照プロモーター断片に結合しなかった。 GAP-DH、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼをマーカータンパク質(37kDa)として使用した;M、タンパク質マーカー。
【図6】エチオニンの存在下または不在下におけるC. glutamicum野生型およびNCgl2640ノックアウト変異株(::2640)の細胞外(A)および細胞内(B)のL-メチオニン量 暗色バー:インキュベーション中、エチオニンなし、白色バー:3.5g/l(野生型)または7.5g/l(::2640)のD,L-エチオニン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄含有化合物を生産するための微生物であって、該微生物の野生型と比較して、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸によりコードされる少なくとも1種のタンパク質の含有量および/または活性が低減されていることを特徴とする、上記微生物。
【請求項2】
前記硫黄含有化合物が、L-メチオニン、L-システイン、L-ホモシステイン、L-シスタチオニン、S-アデノシル-L-メチオニン、グルタチオン、ビオチン、チアミン、および/またはリポ酸、好ましくはL-メチオニンおよび/またはL-システインを包含することを特徴とする、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記微生物が、Actinobacteria、Cyanobacteria、Proteobacteria、および/またはChloroflexus aurantiacus、好ましくはCorynebacteria、Mycobacteria、Streptomycetes、Salmonellae、Escherichia coli、Shigella、Bacillus、Serratia、Salmonella、および/またはPseudomonasを包含することを特徴とする、請求項1または2に記載の微生物。
【請求項4】
前記核酸が、配列番号1の配列と少なくとも30%、40%、または50%同一、好ましくは少なくとも60%同一、同様に好ましくは少なくとも70%同一、とくに好ましくは少なくとも80%同一、なかでもとくに好ましくは少なくとも90%同一、最も好ましくは少なくとも95%同一である配列を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の微生物。
【請求項5】
前記微生物の野生型と比較して、さらに、硫黄含有化合物の生合成経路の少なくとも1種のタンパク質の含有量および/もしくは活性が増大されていること、ならびに/または硫黄含有化合物の生合成経路のタンパク質をコードする少なくとも1種の核酸が、変異されていて、該核酸によりコードされるタンパク質の活性が、生合成の代謝産物による影響を受けないようになっていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の微生物。
【請求項6】
硫黄含有化合物の生合成経路のタンパク質をコードする前記核酸が、
・ メチオニンシンターゼをコードする核酸metH、
・ アスパラギン酸キナーゼをコードする核酸lysC、
・ グリセリンアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼをコードする核酸gap、
・ 3-ホスホグリセリン酸キナーゼをコードする核酸pgk、
・ ピルビン酸カルボキシラーゼをコードする核酸pyc、
・ トリオースリン酸イソメラーゼをコードする核酸tpi、
・ ホモセリン-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする核酸metA、
・ シスタチオニン-γ-シンターゼをコードする核酸metB、
・ シスタチオニン-γ-リアーゼをコードする核酸metC、
・ セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードする核酸glyA、
・ O-アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼをコードする核酸metY、
・ ホスホセリンアミノトランスフェラーゼをコードする核酸serC、
・ ホスホセリンホスファターゼをコードする核酸serB、
・ セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする核酸cysE、
・ ホモセリンデヒドロゲナーゼをコードする核酸hom、
・ メチオニンシンターゼをコードする核酸metE、
・ システインシンターゼをコードする核酸、
・ 亜硫酸レダクターゼをコードする核酸、
・ ホスホアデノシンホスホ硫酸レダクターゼをコードする核酸cysH、
・ 硫酸アデニリルトランスフェラーゼサブユニット1をコードする核酸、
・ CysN硫酸アデニリルトランスフェラーゼサブユニット2をコードする核酸、
・ フェレドキシンNADPレダクターゼをコードする核酸、
・ フェレドキシンをコードする核酸、
・ グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼをコードする核酸、および/または
・ フルクトース-1,6-ビスホスファターゼをコードする核酸、
から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の微生物。
【請求項7】
硫黄含有化合物の生合成経路のタンパク質をコードする前記核酸が、請求項6に記載の核酸と機能的に相同であり、かつ好ましくは少なくとも50%同一、好ましくは少なくとも60%同一、同様に好ましくは少なくとも70%同一、とくに好ましくは少なくとも80%同一、なかでもとくに好ましくは少なくとも90%同一、最も好ましくは少なくとも95%同一であることを特徴とする、請求項6に記載の微生物。
【請求項8】
前記微生物の野生型と比較して、さらに、硫黄含有化合物の生合成経路の少なくとも1種のタンパク質の含有量および/または活性が低減されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の微生物。
【請求項9】
硫黄含有化合物の生合成経路のタンパク質をコードする前記核酸が、
・ ホモセリンキナーゼをコードする核酸thrB、
・ トレオニンデヒドラターゼをコードする核酸ilvA、
・ トレオニンシンターゼをコードする核酸thrC、
・ メソ-ジアミノピメリン酸-D-デヒドロゲナーゼをコードする核酸ddh、
・ ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼをコードする核酸pck、
・ グルコース-6-リン酸-6-イソメラーゼをコードする核酸pgi、
・ ピルビン酸オキシダーゼをコードする核酸poxB、
・ ジヒドロジピコリン酸シンターゼをコードする核酸dapA、
・ ジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードする核酸dapB、
・ ジアミノピコリン酸デカルボキシラーゼをコードする核酸lysA、
・ グリコシルトランスフェラーゼをコードする核酸、および/または
・ 乳酸デヒドロゲナーゼをコードする核酸、
から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の微生物。
【請求項10】
硫黄含有化合物の生合成経路のタンパク質をコードする核酸が、請求項9に記載の核酸と機能的に相同であり、かつ好ましくは少なくとも50%同一、好ましくは少なくとも60%同一、同様に好ましくは少なくとも70%同一、とくに好ましくは少なくとも80%同一、なかでもとくに好ましくは少なくとも90%同一、最も好ましくは少なくとも95%同一であることを特徴とする、請求項9に記載の微生物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の微生物の培養を含む、微生物による硫黄含有化合物の生産方法。
【請求項12】
前記硫黄含有化合物を培地中および/または微生物の細胞中で富化しかつそれから単離する発酵過程が関係することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記硫黄含有化合物が、L-メチオニン、L-システイン、L-ホモシステイン、L-シスタチオニン、S-アデノシル-L-メチオニン、グルタチオン、ビオチン、チアミン、および/またはリポ酸、好ましくはL-メチオニンおよび/またはL-システインを包含することを特徴とする、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記微生物が、Actinobacteria、Cyanobacteria、Proteobacteria、Chloroflexus aurantiacus、Pirellula sp. 1、Halobacteria、および/またはMethanococci、好ましくは、Corynebacteria、Mycobacteria、Streptomycetes、Salmonellae、Escherichia coli、Shigella、および/またはPseudomonasを包含することを特徴とする、請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記微生物がCorynebacterium glutamicumであることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性が、対応するゲノム核酸配列(複数可)の破壊および/または欠失により低減されることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性が、以下の工程:
a) 5'→3'方向に、次の核酸配列:
・ 微生物中で機能するプロモーター配列、
・ それに機能的に連結されている、配列番号1の配列の5'末端と同一であるかまたは機能的に相同であるDNA配列、
・ それに機能的に連結されている、耐性遺伝子をコードするDNA配列、
・ それに機能的に連結されている、配列番号1の配列の3'末端と同一であるかまたは機能的に相同であるDNA配列、
・ それに機能的に連結されている、微生物中で機能する終止配列、
を含むベクターを作製する工程、および
b) a)のベクターを微生物に導入し、場合により、そのゲノム中にベクターを組み込む工程
により低減されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性が、以下の工程:
a) 5'→3'方向に、次の核酸配列:
・ それぞれの微生物中で機能するプロモーター配列、
・ それに機能的に連結されている、配列番号1の配列またはその機能的相同体に対するアンチセンス配列、
・ それに機能的に連結されている、微生物中で機能する終止配列、
を含むベクターを作製する工程、および
b) a)のベクターを微生物に導入し、場合により、そのゲノム中にベクターを組み込む工程
により低減されることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性が、以下の工程:
a) 5'→3'方向に、次の核酸配列:
・ それぞれの微生物中で機能するプロモーター配列、
・ それに機能的に連結されている、配列番号1で特定される配列またはその機能的相同体またはそれらの一部分に相補的な核酸配列、
・ それに機能的に連結されている、リボヌクレアーゼPをコードするDNA配列、
・ それに機能的に連結されている、それぞれの微生物中で機能する終止配列、
を含むベクターを作製する工程、および
b) a)のベクターを微生物に導入し、場合により、そのゲノム中にベクターを組み込む工程
により低減されることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
配列番号1で特定される配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性が、以下の工程:
a) 5'→3'方向に、次の核酸配列:
・ それぞれの微生物中で機能するプロモーター配列、
・ それに機能的に連結されている、配列番号1の配列を有する核酸またはその機能的相同体のmRNAを特異的に認識するリボザイムをコードする核酸配列、
・ それに機能的に連結されている、それぞれの微生物中で機能する終止配列、
を含むベクターを作製する工程、および
b) a)のベクターを微生物に導入し、場合により、そのゲノム中にベクターを組み込む工程
により低減されることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性が、該タンパク質に特異的でありかつ硫黄含有化合物の代謝において該タンパク質の機能をブロックする少なくとも1種の組換え抗体の発現により低減されることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性が、配列番号1の配列もしくはその相同体またはそれらの一部分を有する核酸と比較して点変異(複数可)、欠失(複数可)、および/または挿入(複数可)を含む少なくとも1種の非機能的核酸の発現により、低減されることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸の機能的発現が、微生物の野生型と比較して本質的に完全に抑制されることを特徴とする、請求項11〜22に記載のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
さらに、配列番号3の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸によりコードされるタンパク質の含有量および/または活性が、微生物の野生型と比較して低減されることを特徴とする、請求項11〜23に記載のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
配列番号3の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸の機能的発現が、微生物の野生型と比較して本質的に完全に抑制されることを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
さらに、請求項6もしくは7に記載の少なくとも1種の核酸の機能的発現が増大されること、および/または請求項9もしくは10に記載の少なくとも1種の核酸の機能的発現が抑制されることを特徴とする、請求項11〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
硫黄含有化合物を生産するための、特定的にはL-メチオニンおよび/またはL-システインを生産するための、請求項1〜10のいずれかに記載の微生物の使用。
【請求項28】
硫黄含有化合物を生産するための、特定的にはL-メチオニンおよび/またはL-システインを生産するための、配列番号1の配列を有する核酸と同一であるかまたは機能的に相同である核酸の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−506408(P2008−506408A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521900(P2007−521900)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007925
【国際公開番号】WO2006/008152
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】