説明

硬化性混合物を充填剤を含む耐高温プラスチックの成形品に結合させるコンディショニング剤及び方法

本発明は、コンディショニング剤、成形品への硬化性混合物の接着を調整する上でのその使用、及びそれらの成形品に対する硬化性混合物のより良好な接着を目的とし、充填剤を含む耐高温プラスチックでつくられる成形品の表面を前処理する方法を記載し、さらにまた、該方法から得られる製品、特にコンディショニングされた成形品を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品に対する硬化性混合物のより良好な接着の目的で、充填剤を含む耐高温プラスチックの成形品表面を前処理する、コンディショニング剤、成形品に対する硬化性混合物の接着を調整する上でのその使用、及び方法を記載し、また、該方法から得られる製品、特にコンディショニングされた成形品も記載している。
【背景技術】
【0002】
耐高温ポリマーから成る成形部材は一般的に、概ね化学的に不活性であるとみなすことができる。また、それらを、例えばアセトン、エタノール、酢酸エチル等の溶媒によって部分溶解することは、一般的に不可能であるか又はほとんど不可能である。
【0003】
耐高温プラスチックの成形品上に接合させることは、さらなる材料をしばしば必要とする。しかしながら、これは、とりわけ、接合が全く可視レベルだけで成されるのでなく、機械的に負荷を受ける可能性がある場合、単純なことではない。
【0004】
耐高温プラスチックとして、例えば、アモルファスであっても結晶質であってもよい高温熱可塑性プラスチック、例えば、ポリアリレート、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルホン、液晶ポリマー、特に液晶ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアリールエーテルケトン及びポリエーテルエーテルケトン又はポリオキシメチレンが言及され得る。
【0005】
重合性メタクリレート材料への結合を目的とし、ポリアクリレート、ポリメタクリレート及びポリカーボネートプラスチックでつくられる部分溶解性の非耐高温成形品の表面を前処理するための、メタクリレートをベースとする重合性コンディショニング剤が知られている。
【0006】
特許文献1は、メタクリレートをベースとする光重合性材料を記載しており、これは、アクリレートプラスチックでつくられる部材を互いに又はまだ硬化していないメタクリレート材料に結合させるための接着剤又は結合剤として好適である。光重合のための開始剤に加えて、光重合性材料は、極性有機化合物としてアクリル酸又はメタクリル酸、架橋ジメタクリレート、及び希釈剤又は溶媒としてメタクリレート又は塩化メチレンを含む。光重合性材料は、損傷を受けた義歯を修復するために、又はアクリレートプラスチックでつくられる義歯を、義歯床を形成するメタクリレート材料に結合するために、特に、歯科分野において、メタクリレート材料でつくられる義歯の製造に使用される。
【0007】
特許文献2には、メチルメタクリレート、メチルメタクリレートポリマー及び光開始剤に加えて、多官能アクリレート又はメタクリレート、好ましくはトリアクリレート若しくはテトラアクリレート及び/又はメタクリレートを1重量%〜20重量%の量で含む光重合接着剤が、クレームされている。この接着剤は、アクリレートプラスチックの成形品を他のプラスチック成形品に結合させるのに好適であり、この場合、関与するプラスチック成形品の少なくとも1つが、硬化に用いられる照射に十分に透過性でなければならない。
【0008】
特許文献3には、ポリカーボネートプラスチックの成形部材を互いに結合する接着剤が言及されている。この接着剤は、低温重合のための触媒として過酸化物/アミン系を含み、使用前に互いに混合させる必要がある2つの成分から構成される。この接着剤には、過酸化物/アミン系に加えて、アルキルメタクリレート、2,2−ビス[4−(メタクリロイルオキシアルコキシ)フェニル]プロパン、アルカンジオールのジメタクリレート及び/又はアルカントリオールのトリメタクリレート、並びにポリメチルメタクリレートも含まれる。
【0009】
充填剤を含むメタクリレートプラスチックでつくられる歯列矯正ブラケットは、特許文献4から既知である。歯列矯正ブラケットは、光硬化接着剤を利用して天然歯に固定される表面上に、接着剤に部分溶解性又は膨潤性のメタクリレートプラスチックの薄層を保持する。薄いメタクリレートプラスチック層は、A)30〜70重量%の単官能メタクリレート、30〜70重量%のメタクリレートホモポリマー又はコポリマー、及び0.01〜1重量%の重合触媒、又はB)5〜24重量%の多官能メタクリレート、0〜24重量%の単官能メタクリレート、50〜90重量%の二酸化ケイ素充填剤、及び0.01〜1重量%の重合触媒の混合物を塗布及び重合することによって得られる。
【0010】
特許文献5には、メタクリレートをベースとする重合性コンディショニング剤、及び重合性メタクリレート材料の塗布及びコンディショニング剤の使用の前に、ポリアクリレート、ポリメタクリレート及びポリカーボネートプラスチックでつくられる成形品の表面を前処理する方法が記載されている。コンディショニング剤又は接着剤は、50〜75重量%のアルキルメタクリレート、又は少なくとも50重量%のアルキルメタクリレートを有する、アルキルメタクリレートとブタンジオールジメタクリレートとの混合物、15〜40重量%のジウレタンジメタクリレート、1〜15重量%のポリメチルメタクリレート、0〜5重量%のトリメタクリレート、テトラメタクリレート又はそれらの混合物、0.01〜1重量%の単環式テルペン炭化水素、及び0.1重量%の重合触媒を含有する。アルキルメタクリレートは、メチルメタクリレート及び/又はエチルメタクリレートであり、トリメタクリレートは、トリメチロールプロパントリメタクリレートであり、且つ単環式テルペン炭化水素はテルピノレンである。ポリアクリレート、ポリメタクリレート及びポリカーボネートプラスチックでつくられる成形品の表面を前処理する方法は、接着剤又はコンディショニング剤の薄層を塗布することから成る。
【0011】
言及した全ての文献には、重合性アクリレート及び/又はメタクリレート材料への結合を目的として、非耐高温性で、一般的に部分溶解性のポリアクリレート、ポリメタクリレート及びポリカーボネートプラスチックでつくられる成形品の表面を前処理するコンディショニング剤又は接着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】EP 0142172 A2
【特許文献2】DE 4000171 A1
【特許文献3】EP 0452540 B1
【特許文献4】EP 0476789 A1
【特許文献5】EP 0591716 B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、耐高温プラスチックの成形品に対する硬化性混合物の接着を調整するためのコンディショニング剤、キット形態のコンディショニング剤の対応する供給、それらの成形品に対する硬化性混合物のより良好な接着の目的で、充填剤を含む耐高温プラスチックでつくられる成形品の表面を前処理する方法、及び該方法から得られる製品、特にコンディショニングされた成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によって、少なくとも、充填剤が添加されている非部分溶解性の耐高温プラスチックに関する課題を解決することが可能となった。
【0015】
かかる充填剤を含むプラスチックは、例えばWO2006/108647に記載されている。
【0016】
したがって、耐高温プラスチックと充填剤とを含む成形品に対する硬化性混合物の接着を調整するためのコンディショニング剤を用いて一連の課題を解決することを可能にした。このコンディショニング剤は、以下の成分を含む:
a)成形品の充填剤に及び硬化性混合物の少なくとも1つの成分に接着することができる接着剤、
b)所望により、成形品の充填剤に対する硬化性混合物の接着を調整するための及び/又は硬化性混合物の硬化のための1つ又は複数の触媒、
c)双極性を有する高沸点溶媒、
d)所望により、低沸点溶媒、
e)所望により、安定化剤、阻害剤、酸化防止剤、及び/又は単官能及び/又は多官能(メタ)アクリレート等の添加剤。
【0017】
医療分野又は歯科分野における用途では、プラスチックマトリックスから突出する充填剤粒子による生体組織の刺激を最小限にするために、充填剤を含む耐高温熱可塑性プラスチックを硬化性混合物で被覆することが有利である。硬化性混合物で成形品を被覆することは、しばしば必要とされる。さらに、それによって、大量生産型成形品の表面形状を、個々の患者に特有の要件に注文どおり適合させることが可能である。歯科分野において、これらの成形品は、例えば、義歯、義歯の一部、クラウン、ブリッジ、インレー、アンレー等であり得る。また、柔らかさを残す被覆との組み合わせが、この状況では有益である。
【0018】
硬化性混合物を成形品に十分に接着させるために、且つ本発明によるコンディショニング剤で特に良好な結果を得るために、成形品は好ましくは、例えば、研磨、サンドブラスト、粉砕又は類似の方法等の機械方法によって前処理することができる。
【0019】
本発明によれば、コンディショニング剤は、好ましくはキットの形態で成形品と共に利用され、この場合、所望により、硬化性混合物がさらに利用される。したがって、本発明はまた、以下を含む、キットに関する:
(i)耐高温プラスチックスと充填剤とを含む成形品、
(ii)接着剤と、双極性を有する高沸点溶媒とを含むコンディショニング剤、及び
(iii)所望により、硬化性混合物。
【0020】
好適な充填剤を含む耐高温プラスチックとして、ポリアリレート、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリールエーテルケトン、又は上記ポリマーの少なくとも2つの共重合生成物、若しくは上記ポリマーの少なくとも2つの配合物が検討される。医療分野における用途に関して、この状況では、WO2006/108647A1に公開されているような、例えば、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)又はポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)等のポリアリールエーテルケトン(PAEK)が特に好ましい。
【0021】
本出願において、用語「耐高温プラスチック」、「耐高温ポリマー」、「高温熱可塑性プラスチック」及び「耐高温熱可塑性プラスチック」は、同義語として理解されるものとする。用語「耐高温」とは、プラスチックが、少なくとも200℃の温度まで、好ましくは少なくとも250℃の温度まで、耐性である、すなわち、それらが形状を変えないことを意味する。成形に関する物質のこの顕著な起こり得る加熱によって、機械特性の改善、及び固有応力や収縮や変形の低下がもたらされ、その結果、成形部材の機械特性が改善され、より良好な寸法安定性及び寸法精度が与えられる。とりわけ、機械特性は全方向で安定化され、成形部材に等方性がもたらされ、成形部材は全方向において同じ機械特性を有する。これは歯科分野における使用において特に重要であり、咀嚼及び歯の固有移動度の結果として、極めて高いねじり荷重が歯科用成形部材に生じる可能性がある。
【0022】
本発明により用いられる充填剤は、鉱物粉末又はポリマー粉末等、無機型あるいは有機型のものでよい。しかしながら、それらの充填剤が、化学的活性及び結合性である場合には、無機型の、例えば、鉱物粉末である充填剤が好ましい。この関連における例としては、極微小のグラスファイバー、ガラス球、ガラス粉末、ケイ酸、石英粉末、マイカ、コランダム、カオリン、タルク、無機顔料、アパタイト等が挙げられる。
【0023】
上記の充填剤は、各場合とも成形品に基づき、1〜90重量%、好ましくは5〜80重量%、特には20〜60重量%、より特に好ましくは25〜40重量%の量で含むことができる。それらはまた、例えば、ビニルシラン、メタクリルシラン、エポキシシラン、アミノシラン、ヒドロキシシラン等の官能性シラン、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、カルボン酸エステル及び/又はそれらの混合物で表面処理することができる。
【0024】
成形品に塗布される硬化性混合物は様々なタイプのものであり得る。それらは、例えば、ビニル、エポキシド、イソシアネート又は他の特性基を有するモノマーをベースとする重合混合物であってもよい。(メタ)アクリレートをベースとする重合混合物が好ましく、歯科用修復混合物に一般的なものが特に好ましい。
【0025】
本発明によるコンディショニング剤としては、耐高温プラスチックの充填剤に、及び/又は硬化性混合物の成分に結合できる接着剤を含む。接着剤として、官能性シラン、すなわち、官能基を有するシラン、例えば、ビニルシラン、(メタ)アクリルシラン、エポキシシラン、アミノシラン、ヒドロキシシラン等、及び/又はそれらの混合物が存在し得る。さらに、官能性リン酸エステル、ホスホン酸エステル及び/又はカルボン酸エステル、並びに/又はそれらの混合物が存在し得る。接着剤は、各場合ともコンディショニング剤に基づき、0.1〜100重量%、好ましくは0.1〜80重量%、より好ましくは1〜50重量%、さらにより好ましくは1〜25重量%の量でコンディショニング剤中に存在し得る。
【0026】
所望により、コンディショニング剤は、耐高温プラスチックの充填剤に硬化性混合物を結合させるための及び/又は硬化性混合物を硬化させるための1つ又は複数の触媒を含み得る。硬化性混合物の化学的性質に応じて、コンディショニング剤は、種々の触媒を含んでいてもよく、又は一成分系であっても多成分系であってもよい。多成分系の場合は使用のすぐ前に混合する。
【0027】
コンディショニング剤は、例えば、低温重合、高温重合及び/又は光重合のための触媒を含み得る。例えば、これらは、メタクリレートと低温重合をベースとする硬化性混合物に関しては、例えばジベンゾイル過酸化物/N,N−ジメチル−p−トルイジン等の過酸化物/アミン系であってもよく、光重合の場合には、例えばカンファーキノン/アミン等のケトン/アミン系、例えばジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド、及びそれらのプロパノン誘導体及び/又はそれらの混合物であってもよい。触媒の量は、各場合ともコンディショニング剤に基づき、好ましくは0.1〜1.0重量%、より好ましくは0.2〜0.7重量%である。
【0028】
本発明によれば、コンディショニング剤が、双極性を有する高沸点溶媒を含むことが重要である。双極性を有する高沸点溶媒は好ましくは、電気双極子モーメントを有する非プロトン性溶媒である。かかる高沸点溶媒は、常圧で100℃超の沸点を有することが好ましく、より好ましくは常圧で110℃超、及びさらに好ましくは常圧で120℃超である。これらは、耐高温プラスチックを適切に部分溶解することができないけれども、これらのプラスチックが充填剤を含有する場合に、想定外の好ましい効果を有する。双極性を有する特に好適な高沸点溶媒は、例えば、フェノール、ジフェニルスルホン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン及びエチレングリコール、特にジメチルスルホキシドである。双極性を有する高沸点溶媒の量は、各場合ともコンディショニング剤に基づき、5〜99.9重量%、好ましくは10〜98重量%、より好ましくは20〜95重量%である。
【0029】
所望により、低沸点溶媒もコンディショニング剤の構成成分であってもよい。かかる低沸点溶媒は好ましくは、常圧で100℃以下の沸点を有する。これらの溶媒は、例えば、各場合ともコンディショニング剤に基づき、0.1〜90重量%、好ましくは0.5〜50重量%、より好ましくは1〜30重量%の量の、水、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、例えばアセトン、メチルエチルケトン、ブタンジオン等のケトン及び/又はジケトン、並びに/又はそれらの混合物であり得る。
【0030】
これまでに挙げた構成成分に加えて、他の添加剤も有用であり得る。したがって、例えば、耐高温プラスチックの成形品にメタクリレートをベースとする硬化性混合物を塗布する場合、微量の、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ(メタ)アクリレート、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、並びに/又は、例えばウレタンジ(メタ)アクリレート、bis−フェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート及び/又はポリ(メタ)アクリレートを添加してもよい。
【0031】
さらなる構成成分はまた、安定化剤、阻害剤、酸化防止剤であり得る。
【0032】
例えば、耐高温プラスチック、充填剤、接着剤、高沸点溶媒等の個々の構成成分に関する上記の記述が、続く実施形態にも適用されることは自明である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明はさらに、耐高温プラスチックと充填剤とを含む成形品への硬化性混合物の接着を調整する上での、接着剤と、双極性を有する高沸点溶媒とを含むコンディショニング剤の使用を含む。
【0034】
本発明はまた、耐高温プラスチックと充填剤とを含むコンディショニングされた成形品に関し、該成形品はコンディショニング剤でコンディショニングされ、そしてコンディショニング剤は接着剤と双極性を有する高沸点溶媒とを含む。本発明によるコンディショニングされた成形品にはさらに、硬化性混合物を備えることができる。
【0035】
さらに、本発明は、耐高温プラスチックと充填剤とを含む成形品の表面の少なくとも一部を、接着剤と、双極性を有する高沸点溶媒とを含むコンディショニング剤を用いて、コンディショニングする方法に関し、該方法は次の工程を含む:
・成形品の表面の少なくとも一部にコンディショニング剤を塗布する工程
・コンディショニング剤を染み込ませる工程、及び
・所望により、コンディショニング剤でコンディショニングされた成形品の表面に硬化性混合物を塗布する工程。
【0036】
「成形品の表面の少なくとも一部」との表現は、成形品の表面の少なくとも面積で10%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは成形品の表面の実質的に全てがコンディショニング剤で処理されることを意味する。
【0037】
本発明によるコンディショニング剤は、200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下の温度で、特には室温で使用することができる。それらは好ましくは、0.01〜0.2mmの薄層に塗布され、成形品の表面上における、1〜60分、好ましくは1〜30分、特には1〜15分の染み込み時間を有する。
【0038】
本発明はまた、上記方法によって得られるコンディショニングされた成形品に関する。
【0039】
本発明によるコンディショニングされた成形品は、歯科用成形品、好ましくは義歯、義歯の一部、クラウン、ブリッジ、インレー、アンレー等であり得る。
【0040】
本発明による記載のコンディショニング剤は、耐高温熱可塑性プラスチックへの硬化性混合物の良好な接合を作製するのに非常によく適している。
【0041】
歯科分野における用途は、例えば、化粧張り(veneers)として光重合性の美しいメタクリレート複合物塊とともに、耐高温熱可塑性プラスチック、例えばPEEKでつくられる、前製造、例えば射出成形又は粉砕された、半製品のクラウン又はコーピングの化粧張りであり得る。
【0042】
続く実施例は、光硬化性メタクリレート複合材(NEPA(登録商標)FIL、Merz Dental, Germany)と、グラスファイバー充填剤を含む耐高温のPEEK熱可塑性プラスチック(Dentanium, Wegold, Germany)との間の結合剤として、本発明によるコンディショニング剤の作用をより詳細に説明するように意図している。
【実施例】
【0043】
剪断から得られる接着値に関して、Dentanium製の試験片をコランダム(50μm)でブラストし、実施例1〜実施例6による種々のコンディショニング剤で浸潤させ、そして2分間染み込ませた。その後、コンディショニング剤に清浄空気流を吹きかけ、光硬化性歯科用プラスチック(NEPA(登録商標)FIL、Merz Dental)の約3mmの直径を有するシリンダーを塗布し、Dentacolor(登録商標)XS光硬化装置(Heraeus Kulzer)で90秒間硬化させた。
【0044】
剪断を測定する方法は好ましくは、Goebel R及びWelker D, Quintessenz Zahntech (2001) 27:197-203、Goebel R及びWelker D, Quintessenz Zahntech (2000) 26:733-743, Goebel R及びWelker D, ZWR (2004) 113:306-313に従って実行した。
【0045】
本発明による実施形態、特に本発明による方法、本発明によるコンディショニングされた成形品及び本発明によるコンディショニング剤を用いて、上記測定方法により、少なくとも8MPa、好ましくは少なくとも10MPa、より好ましくは少なくとも12MPa、及びさらに好ましくは少なくとも14MPaの測定値を得ることが可能である。
【0046】
剪断による接着試験に関して、試験片を60℃の水中で1時間保存した後、剪断をかけた。接着試験結果を以下にまとめた。
【0047】
比較例1では、コンディショニングをさらに行うことなくDentanium上に複合材を重合させた。(4.2MPa)。
【0048】
比較例2では、エタノールを用いた本発明によるものでないコンディショニング剤を使用してDentanium上に複合材を重合させた。(4.8MPa)。
【0049】
比較例3では、DMSO用いた本発明によるものでないコンディショニング剤を使用してDentanium上に複合材を重合させた。(5.2MPa)。
【0050】
比較例4では、エタノールに溶解させたメタクリルシラン(Fantestic CerBond、R-Dental)を用いた本発明によるものでないコンディショニング剤を使用してDentanium上に複合材を重合させた。(5.0MPa)。
【0051】
本発明による実施例5では、98部のDMSOと2部のメタクリルシラン(Fantestic CerBond、R-Dental)から成る本発明によるコンディショニング剤を使用してDentanium上に複合材を重合させた。(15.2MPa)。
【0052】
本発明による実施例6では、50部のDMSO、48部のエタノール、及び2部のメタクリルシラン(Fantestic CerBond、R-Dental)から成る本発明によるコンディショニング剤を使用してDentanium上に複合材を重合させた。(14.4MPa)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐高温プラスチックと充填剤とを含む成形品の表面を、接着剤と、双極性を有する高沸点溶媒とを含むコンディショニング剤を用いてコンディショニングする方法であって、該方法は以下の工程を含む成形品の表面をコンディショニングする方法:
・成形品の表面の少なくとも一部にコンディショニング剤を塗布する工程、
・コンディショニング剤を染み込ませる工程、及び
・所望により、コンディショニング剤でコンディショニングされた成形品の前記表面に硬化性混合物を塗布する工程。
【請求項2】
コンディショニング剤は、200℃以下、好ましくは100℃以下の温度、より好ましくは室温で使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
成形品の表面におけるコンディショニング剤の染み込み時間が、1〜60分、好ましくは1〜30分、より好ましくは1〜15分である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法によって得られる、コンディショニングされた成形品。
【請求項5】
歯科用成形品の形態であることを特徴とする、請求項4に記載のコンディショニングされた成形品。
【請求項6】
義歯、義歯の一部、クラウン、ブリッジ、インレー、アンレー等の形態であることを特徴とする、請求項5に記載のコンディショニングされた成形品。
【請求項7】
(i)耐高温プラスチックと充填剤とを含む成形品、
(ii)接着剤と、双極性を有する高沸点溶媒とを含むコンディショニング剤、及び
(iii)所望により、硬化性混合物
を含む、キット。
【請求項8】
耐高温プラスチックが、ポリアリレート、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリールエーテルケトン、又は前記ポリマーの少なくとも2つの共重合生成物、若しくは前記ポリマーの少なくとも2つの配合物である、請求項4〜6のいずれか一項に記載のコンディショニングされた成形品、又は請求項7に記載のキット。
【請求項9】
成形品中に存在する前記充填剤が、グラスファイバー、ガラス球、ガラス粉末、ケイ酸、石英粉末、マイカ、コランダム、カオリン、タルク、無機顔料、アパタイト及び/又はそれらの混合物を含む、請求項4〜6のいずれか一項に記載のコンディショニングされた成形品、又は請求項7又は8に記載のキット。
【請求項10】
充填剤が、例えば、官能性シラン、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、カルボン酸エステル、及び/又はそれらの混合物で表面処理される、請求項4〜6のいずれか一項に記載のコンディショニングされた成形品、又は請求項7〜9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】
コンディショニング剤が、以下の構成成分:
・1つ又は複数の触媒、
・低沸点溶媒、及び/又は
・添加剤、例えば安定化剤、阻害剤、酸化防止剤、及び/又は単官能及び/又は多官能(メタ)アクリレート
の1つ又は複数をさらに含む、請求項4〜6のいずれか一項に記載のコンディショニングされた成形品、又は請求項7〜10のいずれか一項に記載のキット。
【請求項12】
接着剤が、官能性シラン、例えば、ビニルシラン、(メタ)アクリルシラン、エポキシシラン、アミノシラン、ヒドロキシシラン、及び/又はそれらの混合物、又は官能性リン酸エステル、ホスホン酸エステル及び/又はカルボン酸エステル、並びに/又はそれらの混合物である、請求項4〜6のいずれか一項に記載のコンディショニングされた成形品、又は請求項7〜11のいずれか一項に記載のキット。
【請求項13】
接着剤が、(メタ)アクリレート、ビニル、エポキシド、イソシアネート及び/又は他の特性基を有するモノマーをベースとする前記硬化性混合物の構成成分を含む、請求項4〜6のいずれか一項に記載のコンディショニングされた成形品、又は請求項7〜12のいずれか一項に記載のキット。
【請求項14】
双極性を有する高沸点溶媒が、ジメチルスルホキシド、フェノール、ジフェニルスルホン、アセチルアセトン及び/又はエチレングリコールの群から選択される、請求項4〜6のいずれか一項に記載のコンディショニングされた成形品、又は請求項7〜13のいずれか一項に記載のキット。
【請求項15】
硬化性混合物が、(メタ)アクリレート、ビニル、エポキシド、イソシアネート及び/又は他の特性基を有するモノマーに基づいて形成される、請求項4〜6のいずれか一項に記載のコンディショニングされた成形品、又は請求項7〜14のいずれか一項に記載のキット。
【請求項16】
耐高温プラスチックと充填剤とを含む成形品への硬化性混合物の接着を調整する上での、接着剤と、双極性を有する高沸点溶媒とを含むコンディショニング剤の使用。
【請求項17】
耐高温プラスチックと充填剤とを含むコンディショニングされた成形品であって、該成形品がコンディショニング剤でコンディショニングされ、そして該コンディショニング剤が、接着剤と、双極性を有する高沸点溶媒とを含む、コンディショニングされた成形品。
【請求項18】
コンディショニングされた成形品はさらに硬化性混合物を備える、請求項17に記載のコンディショニングされた成形品。

【公表番号】特表2010−521257(P2010−521257A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553961(P2009−553961)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/002112
【国際公開番号】WO2008/113541
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(502207769)エス アンド シー ポリマー シリコン−ウント コンポジテ スペジアリターテン ジーエムビーエイチ (1)
【Fターム(参考)】