説明

硬質膜及びその製造方法

【課題】運搬の容易な、固形のハフニウム及び/又はジルコニウム層状化合物を利用して、簡単に形成することのできる硬質膜及びそのような硬質膜を製造することのできる方法を提供すること。
【解決手段】ハフニウム及び/又はジルコニウムと酸素とを含有し、アモルファスである片状体が、基材の表面を被覆してなることを特徴とする硬質膜、及びハフニア及び/又はジルコニアとカルボニル基とを含有する層状化合物と有機酸とを含有する水溶液中に基材を浸漬することにより、基材表面に硬質膜形成用前駆体膜を形成し、その硬質膜形成用前駆体膜に紫外線照射及び/又は加熱することを特徴とする硬質膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、硬質膜及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、引っ張り強度及び曲げ強度などの機械的強度に優れると共に大きな硬度を有する硬質膜及び基材表面にそのような硬質膜を形成することのできる硬質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な無機層状化合物としては、粘土鉱物であるケイ酸塩又はアルミノケイ酸塩が古くから知られている。また、近年では、薄板状含水ジルコニア微結晶及びその製造方法が知られている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−223018号公報
【特許文献2】特開昭62−7629号公報
【0004】
前記特許文献1に記載の発明は、
「Zrを主とする金属のイオンと、Oを主とする陰イオンとから成る層状構造の化合物で、ZrとOの相互位置がZrO結晶と類似してその粉末X線回折図形の主要ピークのいくつかが正方又は立方型ZrOとほぼ同じ位置にある結晶で、層面に平行方向に広がり、厚さが200Å以下であることを特徴とする薄板状含水ジルコニア微結晶。」
及び
「可溶性ジルコニウム塩をZrとして0.1〜1.0g・atom/L、SO2−イオンを0.2〜2.0g・atom/L含有するpH2以下の酸性水溶液を100〜300℃熱処理して先ず薄板状の含SO2−ジルコニア微結晶を生成させ、この微結晶を塩基性水溶液中で熟成してSO2−イオンを置換除去することを特徴とする薄板状含水ジルコニア微結晶の製造方法。」
である。
【0005】
前記特許文献1には、
「本発明は・・・昭和60年特許願第147238号(本願出願人による註:この特許出願は特開昭62−7629号公報として公開された。その公開公報は上記特許文献2である。)の追加の発明であり、発明の目的、用途はほぼ同じで、加熱により一層優れた薄板状ジルコニア微結晶に変化する薄板状含水ジルコニア微結晶及び製造方法に関するものである。」
との記載がある(特許文献1の第1頁左欄第20行〜第1頁右欄第4行参照)。
【0006】
また、前記特許文献1には、
「本発明の薄板状含水ジルコニア微結晶は可溶性ジルコニウム塩をZrとして0.1〜1.0g・atom/L、SO2−イオンを0.2〜2.0g・atom/L含有するPH2以下の酸性水溶液を100〜300℃熱処理して先ず薄板状の含SO2−ジルコニア微結晶を生成させ、この微結晶を塩基性水溶液中で熟成してSO2−イオンを置換除去することにより得ることができる。」
との記載がある(特許文献1の第2頁左上欄第9行〜第15行参照)。
【0007】
前記特許文献2に記載の発明は、
「 1)Zrを主とする金属イオンと、その原子数のほぼ2/5のSO2−イオンを含有する層状構造の化合物で、層面に垂直に六方もしくは三方対称の結晶軸を持ち、ZrとOの相互位置がZrOの結晶と類似し、その粉末X線回折図形の主要ピークのいくつかが正方もしくは立方晶ZrOとほぼ同じ位置になる結晶であり、層面に平行に広がり、厚さが500Å以下であることを特徴とする薄板状ジルコニア系微結晶。
【0008】
2)粉末粒子が、厚さ500Å以下、広さ方向がその5倍以上ある薄板状の形状を持つ緻密質又は多孔質のジルコニア微結晶から成ることを特徴とする薄板状ジルコニア微結晶粉末。
【0009】
3)水溶性ジルコニウム塩をZrとして0.1〜1.5g・atom/L、SO2−イオンを0.3〜3.0g・atom/L含有するpH1.0以下の酸性水溶液を110〜350℃に熱処理することを特徴とする薄板状ジルコニア系微結晶の製造方法。
【0010】
4)可溶性ジルコニウム塩をZrとして0.1〜1.5g・atom/L、SO2−イオンを0.3〜3.0g・atom/L含有するPH1.0以下の酸性水溶液を110〜350℃に熱処理することにより、薄板状微結晶を合成し、この微結晶を加熱脱硫処理して酸化物の薄板状微粒子とすることを特徴とする薄板状ジルコニア微結晶粉末の製造方法。」
である。
【0011】
前記特許文献1における特許請求の範囲第1項には、「Zrを主とする金属イオンと、Oを主とする陰イオンとからなる層状構造の化合物」という記載があるが、前記特許文献1にて開示された「層状構造の化合物」は、硫酸(陰)イオンがZr原子に配位している構造であって、このような構造以外の層状構造を有する化合物の開示がなく、また、前記特許文献1に記載の発明が前記特許文献2の発明の目的及び用途が同じであることから、「Zrを主とする金属イオンと、Oを主とする陰イオンとからなる層状構造の化合物」は、「Zrを主とする金属イオンと、SO2−イオンとからなる層状構造の化合物」であると、解される。
【0012】
前記特許文献1に記載の薄板状微結晶の製造方法は、硫酸と可溶性ジルコニウム塩とを混合することであって、かかる製造方法以外の方法が開示されていない。
【0013】
また、前記特許文献1には、ハフニウム及び/又はジルコニウムとカルボニル基とを含有する層状化合物を用いて硬質膜を形成することについての記載はなく、これを示唆する記載もない。
【0014】
前記特許文献2に記載の発明は、特許文献1に記載の発明と同様の内容である。
【0015】
ハフニア及び/ジルコニアで形成された硬質膜及びその製造方法が、特許文献3及び4に開示されている。
【0016】
【特許文献3】特開2005−54116号公報
【特許文献4】特開2005−52774号公報
【0017】
特許文献3は、「周期表3族、4族及び5族から選ばれた少なくとも一種の金属の酸化物ゾルを、低くとも50%相対湿度環境下で基材の表面に塗布し、次いで、前記基材の表面に塗布された前記金属の酸化物ゾルを硬化処理することを特徴とする硬質塗膜の製造方法」が、開示されている。特許文献4は、「ハフニア及び/又はジルコニアとタンニン若しくはウルシオールを構成成分とする天然高分子、及び/又は光硬化性モノマーとを含有するゾルを基材の表面に塗布することを特徴とする硬質塗膜の製造方法」が、開示されている。
【0018】
特許文献3及び4のいずれにも「ハフニウム及び/又はジルコニウムとカルボニル基とを含有する層状化合物」についての記載も示唆もなく、特許文献3及び4に記載された製造方法では層状化合物を製造することができない。また、特許文献3及び4のいずれにも層状化合物と有機酸とを反応させることにより硬質膜の製造し得ることの記載も示唆もない。
【0019】
また、基材上に硬質膜を形成するためには、硬質膜の原材料を含む溶液(「塗布液」とも称される。)を基材上に塗布し、その後に硬化処理を施すのが一般的である。ここで,塗布は基材を塗布液に浸漬して引き上げることによるディップ法、基材の上に塗布液を少量滴下し、基材を高速で回転することにより塗布するスピンナー法、基材を一定速度で移動しその上に一定の速度で塗布液を層状に供給することにより塗布するフロー法、塗布液を微細な多数の液滴として基材上へ噴霧することにより塗布するスプレー法などが用いられる。これらはいずれも塗布液を何らかの方法により、塗布液中の膜形成成分を基材表面に付着乃至接着することにより膜を形成する方法である。この方法は平板やある程度の3次元形状の基材には容易に膜を形成できる。しかし、この方法では複雑な3次元形状の基材には塗布が困難であるという問題点があった。さらに、この方法によると、織布及び不織布には塗布液を塗布することができるものの、繊維の間に塗布液が浸透して膜が繊維を固結することにより、織布や不織布に特有の折り曲げ性が損なわれるという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
この発明は、前記特許文献1〜2に記載の発明とは異なり、運搬の容易な、固形のハフニウム及び/又はジルコニウムと酸素とを有する層状化合物を利用して、簡単に形成することのできる硬質膜及びそのような硬質膜を製造することのできる方法を提供することを課題とする。この発明はまた、運搬の容易な、固形のハフニウム及び/又はジルコニウムと酸素とを有する層状化合物を利用して、機械的強度に優れ、撥水性を有する硬質膜及びそのような硬質膜を簡単に製造することのできる方法を提供することを課題とする。この発明はさらに、固形のハフニウム及び/又はジルコニウムと酸素とを有する層状化合物を利用して、繊維製品に特有の折り曲げ性を損なうことなく、繊維製品特に繊維表面に形成される、機械的強度の大きな硬質膜及び繊維上に形成される硬質膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明の前記課題を解決するための手段は、
請求項1は、
ハフニウム及び/又はジルコニウムと酸素とを含有し、アモルファスである片状体が、基材の表面を被覆してなることを特徴とする硬質膜であり、
請求項2は、
前記片状体は、その片状体における片状面が基材の表面に対して平行となり、かつ基材の表面に平行な方向において片状体同士の間に間隙を有するように、基材の表面上に存在してなる前記請求項1に記載の硬質膜であり、
請求項3は、
前記片状体は、その片状体における片状面が基材の表面に対して縦方向及び/又は斜め方向に配向し、かつ基材の表面に平行な方向において片状体同士の間に間隙を有するように、基材の表面上に存在して成る前記請求項1に記載の硬質膜であり、
請求項4は、
前記間隙は、空隙率が20〜95%となるように形成されて成る前記請求項2又は3に記載の硬質膜であり、
請求項5は、
前記基材が、織布、不織布及び編物から成る群から選択される少なくとも一種である前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬質膜であり、
請求項6は、
前記基材が、ガラス繊維である前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬質膜であり、
請求項7は、
ハフニア及び/又はジルコニアとカルボニル基とを含有する層状化合物と有機酸とを含有する水溶液中に基材を浸漬することにより、基材表面に硬質膜形成用前駆体膜を形成し、その硬質膜形成用前駆体膜に紫外線照射及び/又は加熱することを特徴とする硬質膜の製造方法であり、
請求項8は、
前記水溶液が静止状態である前記請求項7に記載の硬質膜の製造方法であり、
請求項9は、
前記水溶液が流通状態である前記請求項7に記載の硬質膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
この発明の方法における、ハフニア及び/又はジルコニアとカルボニルとを含有する固形の層状化合物は、固形であるからその運搬及び取り扱いが容易である。したがって、この発明によると、基材に撥水性及び硬質性を付与する現場に前記層状化合物を運び込み、現場で、前記層状化合物の水溶液と有機酸と基材とを、液中に基材が浸漬する状態で接触させ、これによってその基材の表面に形成された硬質膜形成用前駆体膜に紫外製照射及び/又は加熱することにより、現場で、基材の表面に簡易に形成することができる硬質膜及びその製造方法を提供することができる。この硬質膜の製造方法は、現場施工型の方法である。
【0023】
また、この発明によると、層状化合物を、水酸化ハフニウム及び/又は水酸化ジルコニウムと水とカルボン酸とを混合し、加熱することにより簡単に製造することができる。
【0024】
さらに、この発明によると、基材上に、鉛筆硬度7H以上特に9H以上の硬質膜を形成することができる。特に基材が織布、不織布及び編物から成る群から選択される少なくとも一種である場合、特に基材がガラス繊維である場合には、繊維製品を曲げたり、折り畳んだりしても繊維の表面に形成された硬質膜の機械的強度が失われず、しかも撥水性及び高硬度の硬質膜が繊維表面に形成されることができる。注目されるべきことは、この発明の硬質膜は、所謂ディッピング法によって水溶液中の特定成分が基材表面に付着又は接着により形成されるのではないことである。前記ハフニア及び/又はジルコニアとカルボニル基とを含有する層状化合物及び有機酸を含有する水溶液に基材を浸漬すると、その水溶液中に存在する基材表面において層状化合物と有機酸との反応が進行して水溶液中で初めて硬質膜形成用前駆体膜が形成される。この硬質膜形成用前駆体膜に紫外線照射及び/又は加熱をすることにより硬化膜が形成される。したがって、この発明の硬化膜は、単なるディッピング法では実現できないような、例えば複雑な形状をした三次元立体構造物の表面にも、形成されることができる。
【0025】
特に、ハフニア及び/又はジルコニアとカルボニル基とを含有する層状化合物の水溶液及び有機酸を含有する液に基材を浸漬すると、基材表面に層状化合物が片状結晶となって析出して成る硬質膜形成用前駆体膜が形成され、この硬質膜形成用前駆体膜に紫外線照射又は加熱をすることにより、多孔質の硬質膜が形成される。この多孔質の硬質膜は、硬質膜形成用前駆体を形成していた片状結晶により形成されていた片状形状が保存されていることにより片状体の集合物となっている。
【0026】
片状体の集合物は、硬質膜形成用前駆体を形成するときの条件に応じて異なる形態を採る。
【0027】
前記層状化合物の水溶液及び有機酸を含有する混合液を静止した状態に維持したままでその混合液に基材を浸漬すると、基材表面に層状化合物の片状結晶が、その片状結晶における片状面が基材の表面に平行になった状態で析出し、しかもこの発明においてはその片状結晶同士が間隔を有して析出する。基材の表面に、平らになった状態で、しかも相互に間隔を設けて形成される片状結晶は、基材表面において単層となっている場合もあり、また、複数層となって形成される場合もある。複数層となっている片状結晶の積層体に着目すると、最上層に存在する片状結晶同士は相互に間隙を有する。
【0028】
このように片状結晶が平らに配列した状態となっている硬質膜形成用前駆体膜に紫外線照射又は加熱といった硬化処理をすると、片状結晶が互いに間隔を設けて平らに配列した状態がそのまま保存されて硬質膜が形成される。この硬質膜は、片状結晶が硬化してなる片状体が平らに基材表面に配列された状態となって、基材表面に存在する。
【0029】
一方、前記層状化合物の水溶液及び有機酸を含有する混合液を一方向に流れる流通状態に維持したままでその流通状態の混合液に基材を浸漬すると、基材表面に層状化合物の片状結晶が、その片状結晶における片状面が基材の表面に対して縦方向及び/又は斜め方向になった状態で析出し、しかもこの発明においてはその片状結晶同士が間隔を有して析出する。
【0030】
このように片状結晶が基材表面に対して平らではなくして起立して配列された状態となっている硬質膜形成用前駆体膜に紫外線照射又は加熱といった硬化処理をすると、片状結晶が互いに間隔を設けて起立状態で配列した構造がそのまま保存されて硬質膜が形成される。この硬質膜は、片状結晶が硬化してなる片状体が起立状態で基材表面に配列された状態となって、基材表面に存在する。
【0031】
硬質膜の表面においては、片状体と片状体との間に間隙(この間隙を「空隙」と称することもある。)が形成されていることがある。したがって、この硬質膜は、所定の空隙率を有する。この空隙率は、硬質膜の見かけ上の体積に対する、硬質膜が緻密であると仮定したときの硬質膜の体積の割合であるが、実際上は、硬質膜の表面電子顕微鏡写真により撮影された硬質膜を観察して、硬質膜を形成している物質の面積(A)と硬質膜における空隙部分(B)とから、空隙率(P)(単位は%)が以下の式にて求められる。
【0032】
P=[B/(A+B)]×100
この発明に係る硬質膜を形成する前記片状体はアモルファスである。
【0033】
この発明の方法により製造される硬質膜は、特に、起立した、又は平らになった片状体が集合し、配列した構造体である硬質膜は、その表面が片状体同士で形成される間隙とで微細な凹凸面が形成され、この凹凸面により高い撥水性が実現される。
【0034】
よって、この発明によると、基材上に、高硬度であり、高い撥水性を有する硬質膜を有する硬質膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
この発明における層状化合物は、ハフニウム及び/又はジルコニウムと酸素原子とを含有する化合物である。
【0036】
この発明における層状化合物は、ハフニウム及び/又はジルコニウムと酸素原子とを含有することにより特長づけられる。前記酸素原子がカルボニル基における酸素原子である場合には、ハフニウムイオン及び/又はジルコニウムイオンとカルボニル基中の酸素原子とが配位結合しているものと推測される。層状化合物に含まれるカルボニル基は、RCOOH(ただし、Rは水素原子又は低級アルキル基例えば炭素数1〜3のアルキル基を示す。)で示されるカルボン酸に由来することができる。
【0037】
前記層状化合物は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、多数の片状結晶が積層して成る構造を有するものとして観察される。この層状化合物は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による定性分析の結果、Hf(又はZr)、C、及びOを含有していることが確認される。また、S、Cl及びNは観測されなかったので、SO2−イオン、ClイオンやNH4+イオンは含有されていないことが明らかである。
【0038】
さらに、前記層状化合物は、フーリエ変換赤外吸収スペクトル(FTIRスペクトル)によって、COO基に基づく吸収が観測される。また、前記層状化合物は、X線回折(XRD)によると、2θ=10°(CuKα線使用)付近に反射ピークが観測され、層状構造であることが示されている。この層状化合物は、水溶性である。したがって、この層状化合物は、水性溶媒例えば水、並びに、メチルアルコール及びエチルアルコールなどの低級水溶性アルコールなどの混合溶媒などに溶解することができる。
【0039】
さらに、この発明における層状化合物は、ハフニウムとカルボニル基とを含有する化合物及びジルコニウムとカルボニル基とを含有する化合物のそれぞれの単独層状化合物であってもよく、両者の混合層状化合物であってもよい。両者の混合割合に特に制限はない。
【0040】
一般に、ゾル−ゲル法などの湿式法による硬質膜などの皮膜の形成においては、ゾルを塗工液として用いる。一般に、このゾル中の固形分量は、1〜10質量%であり、他の成分は、アルコールなどの溶媒である。ゾルの塗布により溶媒は除去され、有用な固形分のみが残存して皮膜が形成される。したがって、ゾルの運搬時、皮膜の形成に直接寄与しない溶媒も同時に運搬しなければならず、このことは、輸送コストに反映されることとなる。また、ゾルのポットライフは、長くとも1年であり、一層の改良が要求されている。
【0041】
この発明における層状化合物は、固形であり、皮膜の形成に有用な成分のみであることから、前記ゾルに比して軽量であって運搬が容易であり、輸送コストを低減することができる。また、この発明における層状化合物は、室温下で安定であり、少なくとも1年は、構造の変化を生じることはない。したがって、硬質膜の形成材料として、長寿命を維持することができる。しかも、この発明における層状化合物は、水溶性であることから、前記硬質膜の形成に用いる塗工液の調製が簡便であり、現場施工により、容易に硬質膜を形成することができる。
【0042】
この発明に係る層状化合物は、この発明に係る製造方法により、すなわち、水酸化ハフニウム及び/又は水酸化ジルコニウムと水とカルボン酸とを混合し、加熱することにより製造されることができる。
【0043】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩を含有する塩溶液又は前記元素のアルコキシドを含有するアルコキシド溶液とアンモニア水及び/又はアミン類とを混合することにより、得ることができる。
【0044】
前記ハフニウム又はジルコニウムの塩としては、ハロゲン化物、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩などが挙げられ、好適な塩はハロゲン化物である。
【0045】
前記ハフニウムのハロゲン化物としては、四塩化ハフニウム、四フッ化ハフニウム、四臭化ハフニウム、四ヨウ化ハフニウム、四塩化ハフニウムが好ましい。
【0046】
前記ジルコニウムのハロゲン化物としては、四塩化ジルコニウム、四フッ化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、四ヨウ化ジルコニウム、二塩化酸化ジルコニウム・八水和物を挙げることができる。
【0047】
前記ハフニウム又はジルコニウムのアルコキシドとしては特に制限はないが、炭素数5以下のアルコキシド、具体的には、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド、ペントキシドが好ましい。
【0048】
上述の塩溶液又はアルコキシド溶液における溶媒として、水又はアルコール、ケトン、アミン、アミドなどの有機溶媒が挙げられるが、好ましく用いられる溶媒は水である。有機溶媒を用いるときは、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール、ビニルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサンなどの水溶性有機溶媒が好ましい。
【0049】
上記元素の塩溶液又はアルコキシド溶液と混合されるアンモニア溶液又はアミン類は、アンモニア及び/又はアミン類を含有する。前記アミン類としては、第1級アミン類、第2級アミン類、第3級アミン類などを挙げることができる。
【0050】
前記塩化ハフニウム水溶液における塩化ハフニウムの濃度に制限はないが、通常は1〜70質量%、好ましくは1〜50質量%とされる。また、前記アンモニア水の添加量にも特に制限はないが、前記塩化ハフニウム水溶液のpHが7〜14となる量とすることが好ましい。
【0051】
この発明における硬質膜の製造方法において用いる水酸化ジルコニウムは、前記塩化ハフニウムに代えて、塩化ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウムなどのジルコニウム化合物を用いること以外には、特に、前記水酸化ハフニウムの製造と異なるところはない。また、塩化ハフニウムと塩化ジルコニウムとの混合物の水溶液を調製し、前記と同様にして、水酸化ハフニウムと水酸化ジルコニウムとの混合物を製造してもよい。水酸化ハフニウムと水酸化ジルコニウムとの混合割合は、任意である。
【0052】
このようにして製造された水酸化ハフニウム及び/又は水酸化ジルコニウムに、水とカルボン酸とを添加、混合し、加熱することによって、この発明における層状化合物を製造することができる。
【0053】
前記カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸などを挙げることができ、中でも、ギ酸、酢酸、シュウ酸及びマロン酸が好ましい。
【0054】
前記水及びカルボン酸の添加量にも特に制限はないが、水酸化ハフニウム又は水酸化ジルコニウム100質量部に対し、水の添加量が、通常は50〜1000質量部、好ましくは100〜600質量部であり、カルボン酸の添加量が、通常は900質量部以上、好ましくは900〜5000質量部である。
【0055】
また、前記加熱の条件としては、通常は50〜100℃、好ましくは65〜95℃の加熱温度の範囲から、通常は0.1〜30時間、好ましくは1〜24時間の加熱時間の範囲から、適宜、選択された条件を採用することができる。
【0056】
この発明における層状化合物の製造に用いる水酸化ハフニウム又は水酸化ジルコニウム及びカルボン酸の混合物は、水に溶解することから、この発明における層状化合物の製造方法は、多数の工程を経ることなく、かつ複雑な手段を採ることのない、効率的に層状化合物を製造することのできる方法である。
【0057】
この発明における硬質膜は、前記層状化合物の水溶液と有機酸と基材とを、前記基材を浸漬した状態にして、接触させる工程を経て得ることができる。このとき、前記基材を浸漬した状態は、前記層状化合物の水溶液と有機酸との混合液が静止(つまり、流れていないこと。)していてもよく、前記層状化合物の水溶液と有機酸との混合液が一方向に流れていてもよい。
【0058】
前記工程の態様としては、前記層状化合物の水溶液を調製し、その水溶液にさらに有機酸を添加し、次いで得られる液中に、この液が静止した状態又は一方向に流れている状態で、基材を浸漬する工程(1)、前記層状化合物を水に溶解して得られる水溶液に基材を浸漬した状態でさらに前記水溶液に有機酸を添加して最終水溶液を調製し、この最終水溶液中に、最終水溶液が静止した状態又は一方向に流れている状態で、基材を浸漬する工程(2)などを挙げることができる。なお、前記工程(1)における、基材を浸漬させる液は、前記工程(2)における最終水溶液と同じであるから、前記工程(1)における「次いで得られる液」もまた最終水溶液である。
【0059】
層状化合物を水に溶解して得られる水溶液における層状化合物の濃度としては、飽和濃度に達するまでの濃度であればよく、具体的な濃度は、どのような基材につきどのような処理によって硬質膜を形成するかに応じて適宜に決定される。多くの場合、前記水溶液における層状化合物の濃度は、通常は1〜40質量%、好ましくは1〜20質量%とされる。
【0060】
添加される有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸などを挙げることができ、中でも、ギ酸、酢酸、シュウ酸及びマロン酸が好ましく、特にギ酸が好ましい。
【0061】
水溶液に添加される前記有機酸の濃度としては、通常の場合、前記層状化合物1モルに対して100〜1000モル、好ましくは100〜500モルである。
【0062】
前記層状化合物を溶解した水溶液と有機酸とを混合してから、又は基材を浸漬した前記水溶液と有機酸とを混合してから、常温で又は加温しながら撹拌することにより最終水溶液(以下において「反応液」と称することがある。)が調製される。撹拌混合する時間としては特に制限がないのであるが、通常の場合、0.1〜2時間である。
【0063】
前記基材が浸漬される反応液は、静止した状態又は一方向に流れている状態にある。反応液を静止させるか一方向に流すかによって、硬質膜の構造・形態を変化させることができる。例えば、静止した状態にある反応液に基材を浸漬させると、多くの層状化合物の片状結晶(シート状結晶と形容することもできる。)が基材表面に略平行となるように配列されて成る単層又は積層の硬質膜形成用前駆体膜が形成され、一方、一方向に流れている状態にある反応液に基材を浸漬させると、多くの層状化合物の前記片状結晶が基材表面に垂直又は傾斜するように、起立状態に配列されて成る硬質膜形成用前駆体膜が形成される。
【0064】
反応液が静止した状態は、反応液を攪拌などの手段により積極的に又は強制的に流動させない状態であり、例えば、反応液を加熱することによって生じる対流及び自然対流などにより反応液が流動している状態などを含まない。このような反応液の静止状態としては、例えば、反応液を反応容器などに単に収納した状態などが挙げられる。
【0065】
反応液が一方向に流れている状態は、少なくとも基材上を反応液が連続して一方向に流れている状態であればよく、例えば、固定された基板上に反応液を流延する流延法及び基板に作用する遠心力によって反応液を基板上に流延するスピンナー法などにおける反応液が流れている状態は含まれない。したがって、反応液が一方向に流れている状態は、後述する硬質膜形成用前駆体膜が形成される間中反応液が連続して一方向に流れている状態であるのが好ましく、後述する硬質膜形成用前駆体膜が形成される間中反応液が連続して一方向に、少なくとも基材上を一定の流速で流れている状態であるのがさらに好ましい。このような反応液が流れている状態は、例えば、基材が配置されるところの、一方向に延在する流路内に反応液を流動させる方法などによって実現することができる。
【0066】
基材上を一方向に流れる反応液の流速は、特に限定されることなく、例えば、0.001〜0.1m/sに調整されるのが好ましく、0.005〜0.05m/sに調整されるのが特に好ましい。反応液の流速が前記範囲内にあると、層状化合物の片状結晶が基材上に起立状態に配列されて、片状結晶の集合体が形成される。この片状結晶の集合体は、基材平面に対して縦方向又は斜め方向の碧開面を有する。
【0067】
浸漬される基材の材料に制限はないが、好ましい材料として、ガラス、金属、プラスチック、天然繊維などを挙げることができる。
【0068】
前記ガラスとしては、例えば、石英ガラス、96%石英ガラス、ソーダライムガラス、ソーダ石灰ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、硼珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、無アルカリガラス、鉛ガラスなどのガラスを挙げることができる。
【0069】
前記金属としては、例えば、普通鋼、構造用定合金鋼、高張力鋼、耐熱鋼、高クロム系耐熱鋼、高ニッケル−クロム系耐熱鋼などの合金鋼、ステンレス鋼などの鉄鋼材料、工業用純アルミニウム、5000系の合金、Al−Mg系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金などのアルミニウム合金、銀入銅、錫入銅、クロム銅、クロム・ジルコニウム銅、ジルコニウム銅などの銅合金、純チタン、抗力チタン合金、耐食性チタン合金などのチタン合金などを挙げることができる。
【0070】
また、前記プラスチックとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンンテレフタレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフイド、ポリイミドなどを挙げることができる。
【0071】
さらに、例えば、前記プラスチックの表面に、また、ムライト磁器、アルミナ磁器、ジルコン磁器、コーディエライト磁器、ステアタイト磁器などのセラミックスの表面に、さらには、スチール、ステンレスなどの各種金属の表面に、金メッキ、ニッケルメッキ、クロムメッキなどのメッキを施した材料をも挙げることができる。
【0072】
この発明における硬質膜が形成される基材の膜形成領域は平面であっても、湾曲面であっても、また立体面であってもよく、硬質膜が形成される基材の態様としては、織布、不織布、及び編物であっても良い。
【0073】
この発明において興味深いことは、天然繊維、合成繊維及び/又は無機繊維の織布、不織布、編物及び紙などの繊維の表面にハフニア及び/又はジルコニアと有機酸との反応生成物を硬化してなる硬質膜を形成することのできることである。
【0074】
前記天然繊維としては、木綿などの植物繊維、羊毛などの動物繊維を挙げることができ、合成繊維としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができ、無機繊維としてはガラス繊維などを挙げることができる。
【0075】
天然繊維、合成繊維及び/又は無機繊維で形成された織布、不織布、編物で形成された基材としては、例えば衣料、工業用布資材、業務用資材などを挙げることができる。前記衣料としては、通常の服飾品、業務用服飾品などを挙げることができ、工業用資材としてはテント、搬送用ベルト、広告用幟及び広告用旗などを挙げることができ、また、業務用資材として車両の内装品、防音用繊維集合体、緩衝用繊維集合体などを挙げることができる。
【0076】
また、この発明の硬質膜の製造方法を適用することのできる対象としての基材が繊維である場合には、その繊維を使用した各種の繊維製品を挙げることができる。その繊維製品としては、例えば、機能衣料、生活関連繊維製品、衛生用繊維製品、光ファイバー、航空・宇宙・交通・運輸用繊維製品、製造装置・製造機械・包装用繊維製品、電機・電子・情報・通信・音響用繊維製品、農業・林業・水産・海洋用繊維製品、土木・建築用繊維製品、安全・環境保全用繊維製品、スポーツ・レジャー用グッヅ繊維製品、及び医用繊維などを挙げることができる。
【0077】
これら各種の基材を浸漬状態にしてこれらの基材を前記最終水溶液で処理する場合、前記基材表面を清浄化することが好ましい。基材表面を清浄化することにより、はじきを生じることなく、均一に清浄化された塗工表面を形成することができるからである。
【0078】
前記清浄化の手段としては、例えば、基材がガラスの場合は、洗剤、特に中性洗剤を用いて洗浄処理する手段を挙げることができ、基材が金属の場合は、脱脂剤を用いて金属表面を脱脂処理する手段を挙げることができる。
【0079】
前記脱脂剤としては、塩基性の化合物を含有する脱脂剤が好適であり、この塩基性の化合物として、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、及びホウ酸ナトリウムなどを挙げることができる。前記脱脂剤としては、市販のアルカリ性クリーナ、例えば、アトテックジャパン(株)から市販されているクリーナーE33(商品名)、大同化学工業(株)から市販されているダイクリーナー(商品名)、メルテックス(株)から市販されているクリーナーS−61(商品名)、エンボンドCA−S(商品名)、エンボンドQ−547(商品名)及びクリーナー160(商品名)、奥野製薬工業(株)から市販されているトップクリーン(商品名)、トップクリーナー(商品名)及びエースクリーン(商品名)などを容易に入手することができる。これら脱脂剤は、溶媒に溶解させた溶液として用いられ、溶媒としては、通常、水が用いられる。前記脱脂剤を含有する溶液における前記脱脂剤の濃度は、通常、0.1〜60質量%である。
【0080】
前記層状化合物の水溶液と有機酸と基材とを、浸漬状態で接触させると、基材の表面に、紫外線照射及び/又は加熱をすることにより硬質膜に変化する硬質膜形成用前駆体膜が、形成される。
【0081】
前記基材を浸漬している前記最終水溶液は、加熱するのが好ましい。加熱温度としては、通常の場合、10〜90℃であり、好ましくは30〜80℃である。加熱温度が前記温度の下限値未満であると、前記硬質膜形成用前駆体膜の形成速度が著しく遅延して効率的ではなくなり、また前記温度の上限値を超えても上限値を越えるに見合った技術的効果の奏されないことがある。前記水溶液に基材を浸漬しておく時間としては、通常の場合、0.1〜10時間であり、好ましくは0.1〜6時間である。
【0082】
前記水溶液に基材を浸漬することにより硬質膜形成用前駆体膜を形成する方法は,in-situ growth法又はin-situ deposition法ともいわれる。この方法により硬質膜形成用前駆体膜が形成される機序は次のようであると考えられる。
【0083】
すなわち、基材を前記最終水溶液に浸漬したまま加熱することにより、層状化合物を形成している分子種と有機酸とが反応する一方、基材上に層状化合物の結晶核が形成される。その結晶核に対して溶液中より分子種とカルボン酸とが供給され、層状化合物から成る結晶が成長する。基材上に多数の核が生成するとその核を中心にして基材上に硬質膜形成用前駆体が多数形成され、片状結晶同士が間隙を有する片状結晶の集合体である硬質膜形成用前駆体膜が形成される。このとき、最終水溶液が静止状態にあると、まず、層状化合物から成る結晶が基材表面に対して略平行に成長し、次いで、成長した結晶の上に積層するように、別の層状化合物の結晶が基材表面に対して略平行に成長し、このような過程を繰り返すことにより、層状化合物の片状結晶が、基材表面に略平行になるように、換言すると、層状化合物の片状結晶が基材上に横倒状態となるように、形成されて、硬質膜形成用前駆体膜が形成される。一方、最終水溶液が一方向に流れている状態にあると、層状化合物の片状結晶が基材表面に対して垂直方向又はある角度方向に向かって、すなわち、層状化合物の片状結晶が基材表面から突出するように成長することにより、層状化合物の片状結晶が基材表面上に起立状態となるように配列されて、硬質膜形成用前駆体膜が形成される。この反応は反応液中において層状化合物を形成する分子種とカルボン酸との反応により元の層状化合物と同様の硬質膜形成用前駆体膜が作製されるのであるが、その形成反応を基材上に形成された核で行わせることにより、基材上に層状化合物と同様の硬質膜形成用前駆体膜が形成されるのである。この反応は本発明において特徴的なものである。
【0084】
基材上に形成された前記硬質膜形成用前駆体膜は、さらに紫外線照射処理及び/又は加熱処理といった硬化処理がなされることにより、硬質膜となる。
【0085】
紫外線の照射に際して用いる光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、エキシマレーザー、Nd:YAGレーザーなどを挙げることができる。これらの光源を使用することにより、紫外線を廉価に照射することができる。照射時間は、通常、1分〜1時間である。
【0086】
硬質膜形成用前駆体膜を加熱する手段としては特に制限なく、前記温度範囲内の温度に硬質膜形成用前駆体膜を加熱することができる限り特に制限がなく、例えば電気ヒータなどを挙げることができる。硬質膜形成用前駆体膜を加熱する温度は、通常の場合、100〜400℃で十分である。加熱時間は1分〜1時間である。
【0087】
基材表面に存在する硬質膜形成用前駆体膜に紫外線照射及び/又は加熱を行うと、硬質膜形成用前駆体膜中に存在する有機酸が脱離して、ハフニウム及び/又はジルコニウムと酸素原子とを含み、場合によってはカルボニル基を更に含む硬質膜が形成される。例えば、層状化合物の片状結晶が基材表面に略平行になるように配列又は積層されて成る硬質膜形成用前駆体膜に、紫外線照射及び/又は加熱を行うと、アモルファスであるハフニア及び/又はジルコニアを含むシート状物(薄片状といっても良い。)が基材表面に略平行となるように単層に配列又は複数層に積層されて成る構造となった硬質膜が形成される。一方、層状化合物の片状結晶が基材表面に垂直又は傾斜するように起立状態に配列されて成る硬質膜形成用前駆体膜に、紫外線照射及び/又は加熱を行うと、アモルファスのハフニア及び/又はジルコニアを含有するシート状物(薄片状といっても良い。)が基材表面に垂直又は傾斜するように起立し、しかもその起立したシート状物が基材の表面に平行な方向に配列されて成る硬質膜が形成される。これらの硬質膜には、硬化処理の条件によって、カルボニル基が残存することもあり、またカルボニル基が消失していることもある。
【0088】
基材表面に存在する硬質膜形成用前駆体膜に紫外線照射及び/又は加熱を行う前に、硬質膜形成用前駆体膜が形成された基材を洗浄してもよい。例えば、基材を前記有機酸の水溶液に浸漬した後に乾燥する工程などを採用することができる。
【0089】
この硬質膜の硬度は、鉛筆硬度法(JIS K 5400)によって評価することができる。この発明の方法により製造される硬質膜の鉛筆硬度は、7H以上、特に9H以上である。
【0090】
また、この発明の方法により形成される硬質膜は疎水性である。この疎水性は、接触角計を用いて測定される水滴の接触角によって評価することができる。この発明の硬質膜の接触角は、85°以上である。
【0091】
さらに、この発明の方法により形成される硬質膜は、X線回折装置によって、この発明の硬質膜は、無定形(アモルファス)であることを確認することができる。
【0092】
特に、最終水溶液が一方向に流れている状態で形成される硬質膜は、例えば図4に示されるように、層状化合物の片状結晶が形成する起立状態を保存している。片状結晶における片状面の起立状態は、基材表面に対して、垂直に起立していてもよく、ある程度の角度で傾斜して起立していてもよく、基材表面に形成された片状結晶のすべてがその片状面を起立させた状態に配列されていなくてもよい。この硬質膜の表面は、起立した片状面を有する片状結晶体と片状結晶体同士で形成される間隙とにより凹凸形状となっている。前記間隙の幅は極めて小さいので極めて大きな撥水性が実現される(ウェンゼルのモデル参照。)。このように、層状化合物の片状結晶が起立状態に配列されてなると、硬質膜は、形成直後において高い疎水性を有し、経時によって高い疎水性を損なうことはない。この硬質膜の疎水性は、前記のように、水滴の接触角によって評価することができ、具体的には、硬質膜の形成直後における接触角は90°以上であり、形成後にこの接触角が大きく低下することはない。したがって、この硬質膜は、製造直後から所望の高い疎水性を発揮するから、所望の疎水性を発揮するまで硬質膜を熟成などする必要はなく、生産性に優れる。それ故、この発明によれば、熟成しなくても、すなわち、製造直後から、高い疎水性を発揮する硬質膜を提供するという目的を達成することができる。
【0093】
この硬質膜における空隙率Pは、通常、20〜95%の範囲にあり、30〜80%の範囲にあるのが好ましい。空隙率Pについては既述したとおりである。前記空隙率Pが前記範囲にあると、硬質膜の表面がより一層高い撥水性を有する表面形状となる。したがって、この発明に係る、層状化合物の片状結晶が起立状態に配列されて成る配列構造を保存してなる硬質膜も、層状化合物の片状構成物が基材表面に略平行となるように配列されて成る構造を保存してなる硬質膜も、熟成を要しなくても、高い撥水性を発揮する。
【0094】
硬質膜中に存在する空隙の大きさ、つまり片状面と隣接する片状面との間隔は、通常、10〜700nmの範囲にあり、100〜500nmの範囲にあるのが好ましい。空隙の大きさは、硬質膜の所定範囲の表面を観測して得られた表面電子顕微鏡写真において、片状構成物間の距離を測定し、測定された距離を算術平均することによって、算出される。前記空隙の大きさが前記範囲にあると、硬質膜の表面がより一層高い撥水性を有する表面形状となる。
【0095】
硬質膜に形成されている片状体の配列構造における各片状体の厚さは通常1〜700nmの範囲にあり、その算術平均厚さは通常1〜400nm程度である。前記層の厚さは、例えば各種電子顕微鏡を用いて、加圧電圧10.0kV、WD10mmの条件下、カーボンペースト上に硬質膜を固定して、硬質膜の断面を観測して、片状をした層の厚さを測定し、測定された厚さを算術平均することによって、算出される。片状をした層つまり片状体の厚さが前記範囲にあると、硬質膜の表面がより一層高い撥水性を有する表面形状となる。
【0096】
高い硬度を有し、疎水処理が必要とされ、又は望まれる、各種の設備、装置、機械器具、例えば、自動車の窓ガラス、自動車の塗装表面、台所設備、台所用品、台所設備に付設される排気装置、入浴設備、洗面設備、医療用施設、医療用機械器具、鏡、眼鏡などの表面に、この発明の方法により硬質膜を形成することによって、この発明における硬質膜は、その機能を存分に果たすこととなる。
【0097】
特に、最終水溶液が一方向に流れている状態で形成される硬質膜は、高硬度であり形成直後から高い疎水性を示すから、自動車の窓ガラス又はサイドミラー、入浴設備又は洗面設備、及び、内視鏡などの医療用機械器具などの表面に、好適に形成されて、その機能を存分に果たすことができる。したがって、この発明における層状化合物の片状結晶が基材上に起立状態に配列されて成る積層構造の保存された硬質膜及びこの硬質膜の製造方法は、自動車のガラス、入浴設備、洗面設備及び医療用機械器具などの機能性膜(例えば、保護膜、撥水性膜など)として、特に好適に適用される。
【実施例】
【0098】
以下に、実施例を挙げてこの発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例によってこの発明はなんら限定されるものではない。
【0099】
(実施例1)
この実施例は、板状の基材の表面に硬質膜を形成したことを、示す。
【0100】
塩化ハフニウム(HfCl)16.3gを窒素雰囲気下、水96g中に溶解した。得られた溶液に、pH9.0になるまで29%アンモニア水27mLを添加し、生成した水酸化ハフニウムの沈殿物をろ過して、ろ液がpH7以下になるまで、沈殿物を純水により洗浄した。洗浄を終えた沈殿物(洗浄後沈殿物と称することがある。)に純水41gとギ酸158gとを添加し、80〜90℃の温度範囲内に成るように加熱温度を調節しながら5時間、撹拌した後、室温まで冷却した。生成した白色沈殿物を吸引ろ過し、風乾して、ハフニウム含有の層状化合物(Hf−1)を得た。この層状化合物(Hf−1)の電子顕微鏡写真を図1に、この層状化合物(Hf−1)のX線回折チャート図を図2に示した。
【0101】
このようにして得られた層状化合物(Hf−1)5.0gを水95gに添加し、50〜60℃の温度に加温しながら30分間加熱撹拌することにより、5質量%の水溶液を調製した。
【0102】
この水溶液10gと98%ギ酸21.9gとを混合して最終水溶液(「反応液」と称することがある。)を調製した。
【0103】
一方、前記反応液に浸漬するべき基材である基板として縦1cm及び横2cmの寸法を有する無アルカリガラス板を採用し、この無アルカリガラス板の表面を洗剤及び純水を用いて洗浄し、エアガンで空気を吹き付けて水滴を除去して清浄にした。
【0104】
この清浄な無アルカリガラス板を前記反応液(積極的に流動させていない)に浸漬し、50〜60℃に4時間加熱した。前記の時間が経過してから前記無アルカリガラス板を反応液から取り出し、静置状態にある98%ギ酸水溶液に縦状態にしたまま直ちに浸漬し、5秒後にその無アルカリガラス板をとりだして洗浄し、風乾して、表面に硬質膜形成用前駆体膜を無アルカリガラスの表面に有してなる試料(1)を得た。
【0105】
この試料(1)における硬質膜形成用前駆体膜に、紫外線照射装置(東芝ライテック株式会社製、H100L、高圧水銀灯)で、硬質膜形成用前駆体膜から9cmの高さから紫外線を照射した。照射時間は10分であった。このようにして基板上に形成された硬質膜を試料(1A)とした。図5にこの試料(1A)のSEM写真を示した。
【0106】
また、前記試料(1)における硬質膜形成用前駆体膜を200℃で30分焼成することにより硬質膜を形成した。この硬質膜を試料(1B)とした。前記試料(1)における硬質膜形成用前駆体膜を5℃/分の昇温速度で200℃まで加熱し、次いでその温度に30分間維持し、その後室温に戻して硬質膜を形成した。この硬質膜を試料(1C)とした。
【0107】
前記試料(1A)、(1B)及び(1C)それぞれは、透明であった。前記硬質膜の鉛筆硬度は9H以上であった。また、前記硬質膜の水に対する接触角を、接触角計(CA−D、協和界面科学(株)製)によって測定した(このとき、硬質膜が形成されたガラス基板を室内に放置して、7日後に測定した)。接触角は92°であった。さらに、前記硬質膜の構造を、X線回折装置(RAD−2B、リガク(株)製)によって調べた。2θ=5〜90°まで測定したが、ガラスのハローパターン以外、鋭い反射ピークは観測できなかった。このことから、前記硬質膜はアモルファスであることが分った。また、試料(1A)、(1B)及び(1C)の空隙率はいずれも66%であった。
【0108】
(実施例2)
実施例1で作製した試料(1)における硬質膜形成用前駆体膜に、紫外線照射装置(東芝ライテック株式会社製、H100L、高圧水銀灯)で、硬質膜形成用前駆体膜から9cmの高さから紫外線を照射した。照射時間は20分であった。このようにして基板上に形成された硬質膜を試料(2A)とした。
【0109】
また、前記試料(1)における硬質膜形成用前駆体膜を400℃で20分焼成することにより硬質膜を形成した。この硬質膜を試料(2B)とした。
【0110】
前記試料(2A)及び(2B)それぞれは、透明であり,鉛筆硬度は9H以上であった。また、この硬質膜の水に対する接触角を、接触角計(CA−D、協和界面科学(株)製)によって測定した(このとき、硬質膜が形成されたガラス基板を室内に放置して、7日後に測定した)。接触角は90°であった。さらに、前記硬質膜の構造を、X線回折装置(RAD−2B、リガク(株)製)によって調べた。2θ=5〜90°まで測定したが、ガラスのハローパターン以外、鋭い反射ピークは観測できなかった。このことから、前記硬質膜はアモルファスであることが分った。
【0111】
(実施例3)
この実施例は、基材であるガラスクロスにおけるガラス繊維の表面に硬質膜を形成したことを、示す。
【0112】
前記実施例1で作成したのと同じ層状化合物(Hf−1)を溶解した濃度5質量%の水溶液10gと98%ギ酸水溶液32.9gとを混合して反応液を調製した。
【0113】
基材として、厚み200μm、単位重量209g/m、織組織(経/inch×緯/inch)44×32、単繊維径9μm、本数400本のガラスクロスを採用した。
【0114】
前記反応液(積極的に流動させていない)に前記ガラスクロスを浸漬し、50〜60℃に2時間加熱した。前記時間の経過後に前記反応液から前記ガラスクロスを取り出し、直ちに98%ギ酸水溶液に縦状態にしたまま浸漬し、5秒後にそのガラスクロスをとりだして洗浄し、風乾して、ガラスクロスの表面に硬質膜形成用前駆体膜を有してなる試料(3)を得た。
【0115】
この試料(3)における硬質膜形成用前駆体膜に、紫外線照射装置(東芝ライテック株式会社製、H100L、高圧水銀灯)で、硬質膜形成用前駆体膜から9cmの高さから紫外線を照射した。照射時間は10分であった。このようにしてガラスクロスのガラス繊維上に形成された硬質膜を試料(3A)とした。
【0116】
また、4個の前記試料(3)における硬質膜形成用前駆体膜を100℃、200℃、300℃及び400℃で30分それぞれ焼成することにより硬質膜を形成した。この硬質膜を試料(3B)〜(3E)とした。
【0117】
試料(3A)〜(3E)のグラスクロスを100回の折り曲げ操作を繰り返したが、グラスクロスに折損が認められなかった。これはグラスクロスの柔軟性が損なわれることなくガラス繊維に硬質膜が形成されていることを示す。また、試料(3A)〜(3E)の空隙率はいずれも60%であった。
【0118】
(実施例4)
前記実施例1で作成したのと同じ層状化合物(Hf−1)を溶解した濃度5質量%の水溶液10gと98%ギ酸水溶液40gとを混合して反応液を調製した。
【0119】
基材として、厚み50μm、単位重量47g/m、織組織(経/inch×緯/inch)60×46、単繊維径4.5μm、本数200本のガラスクロスを採用した。
【0120】
前記反応液(積極的に流動させていない)に前記ガラスクロスを浸漬し、50〜60℃に1.5時間加熱した。前記時間の経過後に前記反応液から前記ガラスクロスを取り出し、直ちに98%ギ酸水溶液に縦状態にしたまま浸漬し、5秒後にそのガラスクロスをとりだして洗浄し、風乾して、ガラス繊維の表面に硬質膜形成用前駆体膜を有してなる試料(4)を得た。
【0121】
この試料(4)における硬質膜形成用前駆体膜に、紫外線照射装置(東芝ライテック(株)製、H100L、高圧水銀灯)で、硬質膜形成用前駆体膜から9cmの高さから紫外線を照射した。照射時間は10分であった。このようにしてガラスクロスのガラス繊維上に形成された硬質膜を試料(4A)とした。
【0122】
また、4個の前記試料(4)における硬質膜形成用前駆体膜を100℃、200℃、300℃及び400℃で30分それぞれ焼成することにより硬質膜を形成した。この硬質膜を試料(4B)〜(4E)とした。
【0123】
試料(4A)〜(4E)のグラスクロスを100回の折り曲げ操作を繰り返したが、グラスクロスに折損が認められなかった。これはグラスクロスの柔軟性が損なわれることなくガラス繊維に硬質膜が形成されていることを示す。また、試料(4A)〜(4E)の空隙率はいずれも58%であった。
【0124】
(実施例5)
実施例1において層状化合物の水溶液に基板を浸漬し、その後ギ酸を添加して最終水溶液とした以外は、実施例1と同様に行った。得られた試料はすべて実施例1と同様の結果を示した。
【0125】
(実施例6)
実施例3において、層状化合物の水溶液に基板を浸漬し、その後ギ酸を添加して最終水溶液とした以外は、実施例3と同様に行った。得られた試料はすべて実施例3と同様の結果を示した。
【0126】
(実施例7)
塩化酸化ジルコニウム(ZrClO・8HO)16.4gを水97g中に溶解した。得られた溶液に、29%アンモニア水11mLを添加して溶液のpHを9.0にし、生成した水酸化ジルコニウムの沈殿物をろ過して、ろ液がpH7以下になるまで、沈殿物を純水により洗浄した。洗浄を終えた沈殿物(洗浄沈殿物と称することがある。)に純水97gとギ酸180gとを添加し、80〜90℃の温度範囲になるように温度調節しながら3時間加熱撹拌した後、室温まで冷却した。生成した白色沈殿物を吸引ろ過し、風乾して、ジルコニウム含有の層状化合物(Zr−1)を得た。
【0127】
このようにして得られた層状化合物(Zr−1)5.0gを水95gに添加し、50〜60℃の温度に加温しながら30分間加熱撹拌することにより、5%の水溶液を調製した。
【0128】
この水溶液10gと98%ギ酸21.9gとを混合して水溶液(「反応液」と称することがある。)を調製した。
【0129】
一方、前記反応液に浸漬するべき基材である基板として縦3cm及び横3cmの寸法を有する無アルカリガラス板を採用し、この無アルカリガラス板の表面を洗剤及び純水を用いて洗浄し、エアガンで空気を吹き付けて水滴を除去して清浄にした。
【0130】
この清浄な無アルカリガラス板を前記反応液(積極的に流動させていない)に浸漬し、50〜60℃に4時間加熱した。前記の時間が経過してから前記無アルカリガラス板を反応液から取り出し、直ちに98%ギ酸水溶液に縦状態にしたまま浸漬し、5秒後にその無アルカリガラス板をとりだして洗浄し、風乾して、表面に硬質膜形成用前駆体膜を無アルカリガラスの表面に有してなる試料(7)を得た。
【0131】
この試料(7)における硬質膜形成用前駆体膜に、紫外線照射装置(東芝ライテック(株)製、H100L、高圧水銀灯)で、硬質膜形成用前駆体膜から9cmの高さから紫外線を照射した。照射時間は10分であった。このようにして基板上に形成された硬質膜を試料(7A)とした。
【0132】
また、3個の前記試料(7)における硬質膜形成用前駆体膜を200、300及び400℃で30分焼成することにより硬質膜を形成した。この硬質膜をそれぞれ試料(7B),(7C)及び(7D)とした。
【0133】
前記試料(7A)、(7B)、(7C)及び(7D)それぞれは、透明であり,その鉛筆硬度は9H以上であった。また、前記硬質膜の水に対する接触角を、接触角計(CA−D、協和界面科学(株)製)によって測定した(このとき、硬質膜が形成されたガラス基板を室内に放置して、7日後に測定した)。接触角は87°であった。さらに、前記硬質膜の構造を、X線回折装置(RAD−2B、リガク(株)製)によって調べた。2θ=5〜90°まで測定したが、ガラスのハローパターン以外、鋭い反射ピークは観測できなかった。このことから、前記硬質膜はアモルファスであることが分った。また、試料(7A)〜(7D)の空隙率はいずれも56%であった。
【0134】
(実施例8)
前記実施例7で作成したのと同じ層状化合物(Zr−1)を溶解した濃度5質量%の水溶液10gと98%ギ酸水溶液40gとを混合して反応液を調製した。
【0135】
基材として、厚み200μm、単位重量209g/m、織組織(経/inch×緯/inch)44×32、単繊維径9μm、本数400本のガラスクロスを採用した。
【0136】
前記反応液(積極的に流動させていない)に前記ガラスクロスを浸漬し、50〜60℃に1時間加熱した。前記時間の経過後に前記反応液から前記ガラスクロスを取り出し、直ちに98%ギ酸水溶液に縦状態にしたまま浸漬し、5秒後にそのガラスクロスをとりだして洗浄し、風乾して、ガラスクロスの表面に硬質膜形成用前駆体膜を有してなる試料(8)を得た。
【0137】
この試料(8)における硬質膜形成用前駆体膜に、紫外線照射装置(東芝ライテック(株)製、H100L、高圧水銀灯)で、硬質膜形成用前駆体膜から9cmの高さから紫外線を照射した。照射時間は10分であった。このようにしてガラスクロスのガラス繊維上に形成された硬質膜を試料(8A)とした。
【0138】
また、4個の前記試料(8)における硬質膜形成用前駆体膜を100℃、200℃、300℃及び400℃で30分それぞれ焼成することにより硬質膜を形成した。この硬質膜を試料(8B)〜(8E)とした。
【0139】
試料(8A)〜(8E)のグラスクロスを100回の折り曲げ操作を繰り返したが、グラスクロスに折損が認められなかった。これはグラスクロスの柔軟性が損なわれることなくガラス繊維に硬質膜が形成されていることを示す。また、試料(8A)〜(8E)の空隙率はいずれも58%であった。
【0140】
(実施例9)
この実施例は、一方向に流れる反応液中に板状の基材を浸漬して、基材の表面に層状化合物の片状結晶が起立状態に配列されて成る配列構造を保存した硬質膜を形成したことを、示す。
【0141】
実施例1と同様にして得られた層状化合物(Hf−1)3.1gを水59.4gに添加し、50〜60℃の温度に加温しながら30分間加熱撹拌した後、室温まで冷却し、重量減少分の水を添加し、ろ過して、層状化合物(Hf−1)の5質量%の水溶液を調製した。この水溶液と98%ギ酸137.5gとを混合して最終水溶液(「反応液」と称することがある。)を調製した。
【0142】
一方、前記反応液に浸漬するべき基材である基板として縦1cm及び横2cmの寸法を有する無アルカリガラス板(AF−45、ショット)を採用し、この無アルカリガラス板の表面を洗剤及び純水を用いて洗浄し、エアガンで空気を吹き付けて水滴を除去して清浄にした。
【0143】
反応液を一方向に流す流路(幅10mm、長さ60mm)を形成し、この流路内に前記無アルカリガラス板2枚を流れ方向に直列に配置した。この流路に無アルカリガラス板が十分に浸漬する量の反応液を9.9×10−3m/sの速度で一方向に連続して流して、無アルカリガラス板を反応液に浸漬させ、流れている反応液を基材ごと50〜60℃に4.5時間加熱した。
【0144】
前記の時間が経過してから下流側に配置された無アルカリガラス板を反応液から取り出し、直ちに98%ギ酸水溶液25mLに垂直状態にしたまま浸漬し、5秒後にその無アルカリガラス板を取り出して洗浄した。別の98%ギ酸水溶液25mLで同様に洗浄した後、風乾して、硬質膜形成用前駆体膜を無アルカリガラスの表面に有してなる試料(9)を得た。
【0145】
この試料(9)における硬質膜形成用前駆体膜に、紫外線照射装置(東芝ライテック(株)製、H1000L、高圧水銀灯、1kW)で、硬質膜形成用前駆体膜から9cmの高さから紫外線を照射した。照射時間は10分であった。このようにして基板上に形成され
た硬質膜を試料(9A)とした。
【0146】
(実施例10)
反応液の流速を1.4×10−2m/sに調整した以外は、実施例9と同様にして、試料(10)を得、さらに、実施例9と同様にして紫外線を照射して硬質膜を形成した。このようにして形成された硬質膜を試料(10A)とした。
【0147】
(実施例11)
反応液の流速を3.3×10−2m/sに調整した以外は、実施例9と同様にして、試料(11)を得、さらに、実施例9と同様にして紫外線を照射して硬質膜を形成した。このようにして形成された硬質膜を試料(11A)とした。
【0148】
このようにして得られた試料(9A)における表面の電子顕微鏡(電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)「JSM−6500F」、日本電子株式会社製)写真(加圧電圧10.0kV、WD10mmの条件下で撮影)を図3に、試料(9A)における断面の電子顕微鏡写真を図4に示した。図3及び図4から明らかなように、これらの硬質膜は、ハフニウム及び/又はジルコニウムとカルボニル基とを含有する層状化合物の片状結晶が基材上に起立状態に配列されてなる、間隙を有する配列構造を保存した膜であることが確認された。なお、試料(10A)及び(11A)の電子顕微鏡写真により観測された形態は試料(9A)の電子顕微鏡写真により観測された形態と同様の形態であった。
【0149】
これらの硬質膜における前記測定方法による空隙率はそれぞれ50%、45%及び35%であり、これらの硬質膜における空隙の大きさはいずれも300〜400nmの範囲にあり、これらの硬質膜における片状結晶の厚さはいずれも200〜300nmの範囲にあり、算術平均厚さは250nmであった。
【0150】
前記硬質膜の水に対する接触角を、接触角計(CA−D、協和界面科学(株)製)によって測定した。接触角の測定は、前記硬質膜の作製直後、作製した各硬質膜を室内に放置して7日後に、行った。その結果、試料作製後の接触角は、試料(9A)が91°、試料(10A)が90°及び試料(11A)が90°であり、7日後の接触角は、試料(9A)が99°、試料(10A)が95°及び試料(11A)が96°であった。このように、一方向に流れる反応液中に板状の基材を浸漬して、基材の表面に硬質膜を形成すると、硬質膜は作製直後においても90°以上の水に対する接触角を有し、作製直後から高い疎水性を発揮することが分った。なお、試料作製後、1〜11日まで1日おきに接触角を測定したが、測定値は大きく変動せず、90°〜99°の範囲にあった。
【0151】
前記硬質膜それぞれは、透明であり、鉛筆硬度はいずれも9H以上であった。さらに、前記硬質膜の構造を、X線回折装置(RAD−2B、リガク(株)製)によって調べた。2θ=5〜90°まで測定したが、層状化合物のピークが2θ=10°付近に、また、ガラスのピークが2θ=20〜30°に観測された以外は、鋭いピークは観測できなかった。このことから、これらの硬質膜はアモルファスであることが分った。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】図1は、実施例1で得られた層状化合物の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】図2は、実施例1で得られた層状化合物のX線回折図である。
【図3】図3は、実施例9で得られた試料(9A)における表面の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】図4は、実施例9で得られた試料(9A)における断面の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図5】図5は、実施例1で得られた硬質膜の電子顕微鏡写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハフニウム及び/又はジルコニウムと酸素とを含有し、アモルファスである片状体が、基材の表面を被覆してなることを特徴とする硬質膜。
【請求項2】
前記片状体は、その片状体における片状面が基材の表面に対して平行となり、かつ基材の表面に平行な方向において片状体同士の間に間隙を有するように、基材の表面上に存在してなる前記請求項1に記載の硬質膜。
【請求項3】
前記片状体は、その片状体における片状面が基材の表面に対して縦方向及び/又は斜め方向に配向し、かつ基材の表面に平行な方向において片状体同士の間に間隙を有するように、基材の表面上に存在して成る前記請求項1に記載の硬質膜。
【請求項4】
前記間隙は、空隙率が20〜95%となるように形成されて成る前記請求項2又は3に記載の硬質膜。
【請求項5】
前記基材が、織布、不織布及び編物から成る群から選択される少なくとも一種である前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬質膜。
【請求項6】
前記基材が、ガラス繊維である前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬質膜。
【請求項7】
ハフニア及び/又はジルコニアとカルボニル基とを含有する層状化合物と有機酸とを含有する水溶液中に基材を浸漬することにより、基材表面に硬質膜形成用前駆体膜を形成し、その硬質膜形成用前駆体膜に紫外線照射及び/又は加熱することを特徴とする硬質膜の製造方法。
【請求項8】
前記水溶液が静止状態である前記請求項7に記載の硬質膜の製造方法。
【請求項9】
前記水溶液が流通状態である前記請求項7に記載の硬質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−301556(P2007−301556A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104897(P2007−104897)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】