磁場発生装置、磁場発生方法、スパッタ装置及びデバイスの製造方法
【課題】 ターゲット面近傍のプラズマ状態の更なる安定化を図ること。
【解決手段】 磁場発生装置は、永久磁石と、前記永久磁石の外周側面を囲むように配置されている磁性体よりなる分離されているヨークと、前記ヨークの間に位置する非磁性体と、を有する磁石組立が、少なくとも3個以上一直線に沿って配置されることにより構成される磁石組立群を備える。
【解決手段】 磁場発生装置は、永久磁石と、前記永久磁石の外周側面を囲むように配置されている磁性体よりなる分離されているヨークと、前記ヨークの間に位置する非磁性体と、を有する磁石組立が、少なくとも3個以上一直線に沿って配置されることにより構成される磁石組立群を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場発生装置、磁場発生方法、スパッタ装置及びデバイスの製造方法に関するものである。特に、スパッタ技術に関し、磁場によりプラズマをターゲット近傍に閉じ込めるマグネトロンスパッタ法を利用したスパッタ技術いわゆるマグネトロンスパッタに適用すると有効である。
【背景技術】
【0002】
基板への成膜処理や表面加工などが電子デバイスや半導体装置やフラットパネルディスプレイなどの製造過程で実施されており、この場合の製造技術としてスパッタ法が広く利用されている。
【0003】
スパッタ法では、被処理物であるターゲットの裏面側に磁石が配置されるマグネトロンスパッタが主流である。マグネトロンスパッタはターゲット表面に磁石による磁場を形成し、電子のドリフト運動を利用してプラズマをターゲット表面近傍に閉じ込め、その結果、高密度のプラズマを形成する方法である。このように高密度プラズマをターゲット表面近傍に存在させることにより、高速の成膜が可能となる。
【0004】
マグネトロンスパッタで使用される磁場発生装置は、一般に、平板状の磁性体であるヨークの上に磁石を設置して形成される。このとき、外周の磁石と内側の磁石は極性が反対であり、この二つの磁極間に生じる磁場により、ターゲット表面付近に電子が拘束される。そのため、ターゲットにはこの磁極間にエロージョンが形成される。
【0005】
磁石がターゲットに対して固定されていると、ターゲット上には、その磁石の形を反映したエロージョンが出現する。エロージョンは外周の磁石と磁極が反対の内側の磁石の間に生じているが、磁石の直上には現れない。このため、磁石を動かさない場合はターゲットの磁石直上部に、エロージョンが現れない領域(以下、非エロージョン領域と呼ぶ)が存在してしまう。
【0006】
この非エロージョン領域にはパーティクルなどが付着し、成膜中の基板にパーティクルが多くなるという課題がある。
【0007】
また、エロージョンが現れる領域が固定されている場合、ターゲットの体積に対するエロージョンの体積の比であるターゲット利用率が低下し経済的でない。また、基板に均一な膜厚の成膜を行うことが困難になるなどの課題がある。
【0008】
そこで、従来のスパッタ装置ではターゲットに対してヨークと一体に磁石を動かしながら成膜を行っている。動かし方は回転運動であったり、往復運動であったりする。このように磁石をターゲットに対して動かすことで、ターゲット上の非エロージョン領域が無くなりパーティクルの発生が減少する。また、ターゲット利用率が向上し、成膜した膜の膜厚均一性が良好となる。
【0009】
しかし、最近のフラットパネルディスプレイ用スパッタ成膜装置などでは、ターゲットが大型化しており、磁石を動かす機構が大掛かりになったり、構造が複雑になったりするという課題がある。
【0010】
そこで、特許文献1や特許文献2では、磁石全体を動かすのではなく、磁石を棒状にして棒状磁石を回転することによってエロージョン領域を動かす方法が示されている。この方法によれば、大型の装置でも磁石を動かす機構が簡単になり、機構を小型化することができる。
【0011】
また、特許文献3や特許文献4、5、6では、固定磁石と、回転可能に保持されている棒状磁石と、を組み合わせて棒状磁石の回転によりターゲット上のエロージョン領域を動かす方法が報告されている。この方法でも、大型の装置で磁石を動かす機構が簡単になり、機構を小型化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5-148642号公報
【特許文献2】特開2000-309867号公報
【特許文献3】米国特許第5399253号公報
【特許文献4】特開平11-158625号公報
【特許文献5】特開2007-204811号公報
【特許文献6】特開2001-32067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、棒状磁石を回転してエロージョン領域を動かす例を、特許文献1に開示の例(図11参照)を用いて説明する。図11中の斜線部分が、磁力線12で拘束された電子のドリフト運動によりターゲット面上に現れるエロージョン領域10である。複数の棒状磁石3-1,3-2,・・・3-10を回転させることにより、図に白抜き矢印で示す電子のドリフト運動の位置を図のX方向にずらすことができる。
【0014】
しかし、図11のAで示す箇所はY方向に磁石の間隔をある程度あける必要がある。図11のAの箇所ではY方向に磁石6-3のN極と磁石3-3のS極とによる磁場が形成されるが、磁石のN極とS極が近いとターゲット表面上でターゲット面に平行なY方向の磁束密度が低下してしまい、放電の維持が困難になる。
【0015】
その理由を図12を用いて説明する。図12はターゲット表面の磁場と磁石間隔の関係を示している。ターゲット表面の磁場はN極による磁場とS極による磁場の合成で作られる(図12(a))。磁石間隔によって合成磁場の強さは変化する。磁石間隔が極端に近い場合(図12(b))は合成磁場のターゲット表面に平行な成分が弱くなってしまう。
【0016】
したがって、図11のAの部分はY方向に磁石の間隔をある程度あける必要がある。
【0017】
また、図11中にBで示す箇所においては、磁石3-1、3-5若しくは3-9及びそれに対する磁石6-3の極性が同様にNとなる。その場合、磁石3-1、3-5若しくは3-9から発した磁場は磁石6-3に至らないで、図面に垂直な方向に伸びる。
【0018】
従って、Bで示す箇所に至った電子は磁力線に沿って紙面に垂直の方向に飛び出し、電子のドリフト運動が閉ループを描かなくなる。この結果、ターゲット面近傍のプラズマの状態が不安定になり最終的に放電維持が難しくなる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
そこで本発明は、課題を解決することができる磁場発生装置、その磁場発生装置を備えたスパッタ装置を提供することを目的とする。その目的の一例は、ターゲット面近傍のプラズマの状態が安定し、均一なスパッタを施すことが可能となる磁場発生装置を備えたスパッタ装置を提供することである。
【0020】
上記の目的を達成する本発明に係る磁場発生装置は、永久磁石と、前記永久磁石の外周側面を囲むように配置されている磁性体よりなる分離されているヨークと、前記ヨークの間に位置する非磁性体と、を有する磁石組立が、少なくとも3個以上一直線に沿って配置されることにより構成される磁石組立群を備え、
一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立が一の面側に一の極性を示し、
前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさは、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2以上の隣接した磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさより小さく、
前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立は、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立の極性と反対の極性を前記一の面側に示す磁石組立又は永久磁石に隣接して囲まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、マグネトロンスパッタリングにおいてターゲット面近傍のプラズマ状態の更なる安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一実施形態による磁場発生装置を備えたスパッタ装置を示す断面模式図である。
【図2】図1の磁場発生装置の詳細な構成を示す図である。
【図3】図2の磁石パーツの構造を示す断面模式図である。
【図4】図2の状態から棒状磁石を回転させて磁石の設定を変えた状態を示す図である。
【図5】図4の状態から棒状磁石を回転させて磁石の設定を変えた状態を示す図である。
【図6】図2、図4、図5に示す磁場発生装置をターゲット側から見た平面図である。
【図7】第二実施形態による磁場発生装置をターゲット側から見た平面図である。
【図8】第三実施形態による磁場発生装置をターゲット側から見た平面図である。
【図9】第四実施形態での磁石パーツの磁石設定を示す断面模式図である。
【図10】第四実施形態による磁場発生装置をターゲット側から見た平面図である。
【図11】棒状の磁石を回転してエロージョンを動かす従来例として特許文献1の構成を代表して示した平面図である。
【図12】図11に示すような従来の構成における課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0024】
(第一実施形態)
図1は本発明の第一実施形態による磁場発生装置を備えたスパッタ装置を示す断面模式図である。図示するスパッタ装置は内部を真空排気できるチャンバー21を有し、チャンバー21内には、ウェハ等の基板22を保持する基板ホルダー23が設置されている。
【0025】
図示していないが、チャンバーには排気のためのポンプやガス導入部などが接続されている。
【0026】
基板ホルダー23に対向するチャンバー21の内壁部は開口しており、この開口部を塞ぐように、バッキングプレート24が設置されている。バッキングプレート24はカソード絶縁部材25を介してチャンバー21の外壁に接続されている。
【0027】
バッキングプレート24にはターゲット26が基板22に対向して配置されている。ターゲット26にはバッキングプレート24を介して電源27より電力が供給される。
【0028】
ターゲット26の、基板22の側とは反対側に、磁場発生装置28が配置されている。この磁場発生装置28(マグネトロンユニットとも呼ばれる。)は、ターゲット26の基板22側の表面付近に磁力線29で示すような磁場を形成する。
【0029】
このようなターゲット26表面付近の磁界と、電源27によって投入された電力とにより、ターゲット26と基板22の間に高密度のプラズマが生成されて、基板22にスパッタリングによる成膜を行うことができる。
【0030】
次に、磁場発生装置28について説明する。
【0031】
図2に磁場発生装置28の詳細な構成を示す。この図を参照すると、バッキングプレート24にターゲット26が取り付けられている。ターゲット26の表面側が、図示しないチャンバーの室内に曝されている。ターゲット26が取り付けられたバッキングプレート24の面とは反対側には、磁場発生装置28が配置されている。
【0032】
磁場発生装置28は、磁性体の板状のベース部材からなるヨーク34と、複数の磁石組立(以下、「磁石パーツ31」ともいう)とを含む。磁石組立(磁石パーツ31)は、回転可能に支持されている永久磁石(棒状磁石33)と、永久磁石の外周側面を囲むように配置される磁性体よりなる分離されているヨーク30と、ヨークの間に位置する非磁性体35と、を有する。磁石組立(磁石パーツ31)が、少なくとも3個以上同一平面内に一の直線に沿って配置されることにより磁石組立群(以下、「磁石ユニット36」ともいう)が構成される。
【0033】
任意の磁石パーツ31のN極と、この磁石パーツと一つ置きに位置する他の磁石パーツ31のS極との間に形成される磁力線29はターゲット26表面付近にトンネル状の曲線を作る。この磁力線29がターゲット26表面と平行になる部分を中心に、ターゲット26表面にエロージョン領域32が形成される。
【0034】
磁石パーツ31の構成を以下に詳述する。図3は磁石パーツ31の構造を示す断面模式図である。
【0035】
磁石パーツ31は、棒状磁石33と、それを囲むヨーク34と、非磁性体35とを用いて構成される。
【0036】
棒状磁石33は例えば円筒形に形成された永久磁石である。磁化の方向は円筒の軸を通る一の平面に対して一の傾斜角をなす方向である。好ましくは、円筒の軸を通る一の平面と直角の方向である。棒状磁石33はその中心軸回りに回転できるようになっている。
【0037】
ヨーク34は磁性体で作製されており、2つの部分に分離されている。この2つの部分は、それぞれ棒状磁石33の円筒側面の曲率半径よりやや大きい曲率半径の凹面を有する。
【0038】
棒状磁石33は、2つの部分の凹面と隙間を開けて配置されている。2つの部分の凹面により棒状磁石33の円筒側面が囲まれている。また、2つの部分どうしは非磁性体35を介して接続されている。
【0039】
但し、棒状磁石33がヨーク34に対して回転できれば、必ずしも、ヨーク34の曲率半径が棒状磁石33の円筒側面の曲率半径よりも大きい必要はない。
【0040】
このような磁石構造は、特開平7-94321号公報に開示されている、マグネットチャックと基本的に同様のものである。
【0041】
上記の磁石パーツ31の構成では、図3(a)に示すように棒状磁石33の磁極が上下方向(ターゲット面に対し直交する方向)を向いているときは、磁力線29は棒状磁石33のN極からヨーク34内を通ってヨーク34の外に出て、再びヨーク34内を通って磁石33のS極に向かう。これは通常の磁石と同じ状態であり、この状態を以下では「ON状態」と呼ぶ。
【0042】
一方、図3(b)に示すように棒状磁石33の磁極が横方向に向いているときは、棒状磁石33から出た磁力線29はヨーク34内を通って棒状磁石33に戻り、磁力線29はヨーク34の外に出ない。このときは磁石パーツ31はターゲット上に電子を拘束するのに十分な大きさの磁束密度の磁場を形成しない。この状態を以下では「OFF状態」と呼ぶ。
【0043】
ヨーク34の厚さ(C部)は、磁石がOFF状態のときに磁束が十分に通る厚さにする必要がある。
【0044】
C部が薄いと、C部は磁気飽和を起こし磁力線29がヨーク34の外部空間に出てしまい、OFF状態の効果が小さくなってしまう。通常のスパッタ装置では、C部の厚さは10mm以上あれば磁気飽和を起こすことがなく、OFF状態が実現できる。本実施形態ではC部の厚さは10mmに設定されている。
【0045】
次に、ヨーク34を成すために2つに分割された部分を接続する箇所(図3(a)に寸法DとEで示される箇所)について説明する。
【0046】
この箇所は、ヨーク34を成す2つの部分を接続する非磁性体35が配置される部分であり、磁石のON状態とOFF状態を作るのに重要な部分である。
【0047】
磁石がON状態のときは、ヨーク34内を通った磁力線29はできるだけヨーク34の外の空間に漏れ出すようにしたい。そのほうが空間の磁場が強くなり、有効に電子を拘束できるからである。しかし、磁力線29は磁性体であるヨーク34内を通りやすく、非磁性体35内を通り抜けて、ヨーク34外の空間に出ないで、ヨーク34内を通って磁石に戻るものもある。
【0048】
そのため、磁気回路としてはヨーク34内を通って元に戻る磁力線29が多くならないように、ヨーク34に磁気抵抗を作る必要がある。磁気抵抗は寸法Dが小さいほど、また寸法Eが大きいほど大きくなる。
【0049】
但し、極端に寸法Dを小さくし、寸法Eを大きくして磁気抵抗を大きくすると、磁石がOFF状態のときに磁石から出た磁力線29がヨーク34内を通らずにヨーク34の外部空間に直接出てしまい、OFF状態が十分実現できなくなる。そのため、適度な磁気抵抗を与えられるDとEの寸法が重要である。
【0050】
磁場解析を実施した結果、寸法Dが1mmの場合は磁石がOFF状態のときにもヨーク34の外部空間に弱い磁場が形成されて十分なOFF状態とならなかった。しかし、寸法Dが2mm以上であれば磁石のOFF状態は十分に維持され有効であった。但し、Dの寸法は大きくなるにしたがって、磁石がON状態でヨーク34の外部空間の磁場が弱くなる。
【0051】
一方、非磁性体35の幅Eの寸法としては9mm以下が好ましいことがわかった。寸法Eが10mmより大きいの場合は磁石がOFF状態のときにもヨーク34の外部空間に弱い磁場が形成されて十分なOFF状態とならなかった。
【0052】
Eの寸法は小さくなるにしたがって、磁石がON状態でヨーク34の外部空間の磁場が弱くなっていくが、その変化は緩やかである。そのため、Eの寸法としては9mm以下であれば問題はない。
【0053】
本実施形態では十分なOFF状態を実現しつつ、ON状態の磁場をできるだけ強くするために寸法Dは2mm、寸法Eは5mmに設定されている。
【0054】
なお、DとEの寸法はヨーク34に対する寸法であり、非磁性体35の寸法は必ずしもこの寸法である必要はない。磁場が入り込む所の寸法Dと、磁場が通り抜ける所の寸法Eとが重要であり、非磁性体35の寸法自体は問題とならない。非磁性体35は、ヨーク34を成す2つの部分が磁力で近づこうとするが、それに抗して位置を維持する役割がある。
【0055】
図2に戻り、上記のような磁石パーツ31を持つ磁場発生装置28の説明を続ける。
【0056】
図2では、ヨーク30上に7つの磁石パーツ31が並べられている。各磁石パーツ31の棒状磁石33の軸は歯車aを介してモーターbと接続されている回転機構40により軸回転が可能である。図2には、他の図面を代表して、図右端の棒状磁石33のみにそれを回転させる歯車aとモーターbを示している。
【0057】
各磁石パーツ31のヨーク34のターゲット26に面する部位に、磁気センサ250が配置されている。磁気センサ250は、ターゲット26に面する側の磁場の情報(例えば、磁束密度)を検出することが可能である。コントローラ200は、磁気センサ250により検出された信号により回転機構40のモーターbの回転を制御して、それぞれの棒状磁石33の回転制御を行うことが可能である。図2には、他の図面を代表して、コントローラ200と、磁気センサ250とを示している。
【0058】
配列された磁石パーツ31ごとに棒状磁石33の磁の向きが異なっている。
【0059】
図2においては、一番左の磁石パーツ31がON状態でターゲット26に対してN極の磁石として働くとき、左から2番目の磁石パーツ31はOFF状態である。左から3番目の磁石パーツ31がON状態でターゲット26に対してS極として働くとき、左から4番目の磁石パーツ31はOFF状態である。左から5番目の磁石パーツ31がON状態でターゲット26に対してはN極として働くとき、左から6番目と7番目の磁石パーツはそれぞれOFF状態である。
【0060】
つまり図2の状態では、図の左から1番目と5番目の磁石パーツ31がターゲット26に対してN極として働き、図の左から3番目の磁石パーツ31がターゲット26に対してS極として働く。このようなターゲット26に対してN極とS極として働く磁石パーツ間に磁力線29が形成される。その他のOFF状態の磁石パーツは磁場形成には関与しない。
【0061】
次に、図2の状態から棒状磁石33を回転させて図4の状態にした場合を説明する。
【0062】
図4において、左から2番目と6番目の磁石パーツ31がON状態でN極としてターゲット26に作用するとき、左から4番目の磁石パーツ31がON状態でS極としてターゲット26に作用する。その他の磁石パーツ31はOFF状態である。
【0063】
このとき、図4中に矢印で示されるように磁力線29が形成され、この磁力線29がターゲット26の表面と平行になる部分を中心に、ターゲット26の表面にエロージョン領域32が形成される。図2と比較すると、エロージョン領域32の位置が図の右側に移動している。
【0064】
さらに、図4の状態から棒状磁石33を回転させて図5の状態にした場合を説明する。
【0065】
図5では、左から3番目と7番目の磁石パーツ31がON状態でN極としてターゲット26に作用するとき、左から5番目の磁石パーツ31がON状態でS極としてターゲット26に作用する。その他の磁石パーツ31はOFF状態である。
【0066】
このとき、図5中に矢印で示されるように磁力線29が形成され、この磁力線29がターゲット26の表面と平行になる部分を中心に、ターゲット26の表面にエロージョン領域32が形成される。図4と比較すると、エロージョン領域32の位置がさらに図右側に移動している。
【0067】
図2、図4、図5に基づいて上述したように、ターゲット26の裏面に沿って並ぶ各磁石パーツ31の棒状磁石33を回転させて磁石のON状態とOFF状態とを変えることにより、ターゲット26上のエロージョン領域32を動かすことができる。また、図2から図4の状態に、図4から図5の状態に、図5から図4の状態に、図4から図2の状態にするという一連の操作を繰り返すと、ターゲット26上の非エロージョン部がなくなり、エロージョンがターゲット26の全面にほぼ均一に形成される。
【0068】
図6は、上述した磁場発生装置28をターゲット26の側から見た平面図である。特に、図6(a)は図2の状態に、図6(b)は図4の状態に、図6(c)は図5の状態に対応する。
【0069】
磁場発生装置28は、図6に示すように複数の磁石ユニット36(図では7つ)が平板状のヨーク30上に平行に並べられている。
【0070】
各磁石ユニット36は3つの磁石パーツ31で構成されている磁石パーツ群である。磁石ユニット36ごとの3つの磁石パーツ31は、図6の上下方向(棒状磁石の中心軸方向)に一直線に並ぶように配置されている。各磁石パーツ31には、磁石パーツ31の長手方向(図6の上下方向)に沿って、図示しない棒状磁石33の回転の軸が設けられている。そして、各磁石パーツ31を構成する棒状磁石33の回転は独立に制御可能となっている。ここで、磁気パーツ31は一直線に並ぶように配置されているということは、上記したように各磁気パーツ31の棒状磁石は33は独立に回転可能であるので、必ずしも幾何学的な意味において各磁気パーツ31が一直線に並んで配置されている必要はない。外見的に見て、一直線に並んでいれば良いという意味である。この用語の使い方は、本明細書、特許請求の範囲及び図面を通して貫かれている。また、上記のように磁気パーツが一直線に並ぶように配置されていることを、一直線状に配列されているとも表することとする。
【0071】
各々の磁石ユニット36において、中央の磁石パーツ31と、この両端の磁石パーツ31の長さと、は中央部の方が長く、両端部の方が短くなっている。
【0072】
さらに、磁石ユニット36の磁石パーツの配列方向(図6の上下方向)両端に、横長の磁石(長尺磁石)37が複数の磁石ユニット36に亘って位置している。この磁石37は動かず、ターゲット26に対してN極の磁石として作用するものである。
【0073】
なお、図6中には、ON状態でN極としてターゲットに作用する磁石パーツ31に"N"と記載し、ON状態でターゲットにS極として作用する磁石パーツ31には"S"と記載してある。何も記載されていない磁石パーツ31はOFF状態を示している。
【0074】
図6(a)においては、左から1列目と5列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31が、ON状態でターゲットにN極として働くよう設定されている。
【0075】
このとき、左から3列目の磁石ユニット36の中央に位置する長い磁石パーツ31がON状態でターゲットにS極として働くよう設定される。また、このS極を取り囲んで隣接する各磁石パーツ31はOFF状態に設定されている。つまり、左から3列目の磁石ユニット36の両端に位置する短い2つの磁石パーツ31と、左から2列目と4列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31とがOFF状態である。その他の磁石パーツ31は、固定の磁石37を除いてOFF状態である。
【0076】
このような状態に各磁石を設定すると、図6(a)中に太い矢印38で示すように、S極とそれを取り囲むN極との間に電子のドリフト運動が生じて閉ループを描く。
【0077】
特に、左から2〜4列目の磁石ユニット36の長手方向両端にある短い磁石パーツ31はOFF状態となって、電子のドリフト運動38を阻害しないでいる。加えて、横長の固定の磁石37のN極と、左から3列目の磁石ユニット36の中央部の長い磁石パーツ31のS極と、の間隔(例えば図6(a)のF部)が短い磁石パーツ31の設置の為に十分にあけられるため、このF部にターゲット面に平行な方向の強い磁場を形成できる。
【0078】
さらに、横長の固定の磁石37のN極と、左から1列目と5列目の磁石ユニット36の中央部の長い磁石パーツ31のN極と、の間隔(例えば図6(a)のG部)に配置された短い磁石パーツ31がON状態でターゲットにN極として働くよう設定されている。そのため、図6(a)中に太い矢印38で示すドリフト運動する電子がG部から磁石の外に漏れ出るのを防止できる。
【0079】
複数の磁石組立群として例えば6個以上の磁石組立群のうち、隣接する5つの磁石組立群間では、(i)一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立が一の面側に一の極性を示す。(ii)一の磁石組立群を構成している一つ又2つ以上の隣接している磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立により生成される一の面側の磁束密度の大きさは、一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の磁石組立により生成される一の面側の磁束密度の大きさより小さい。(iii)一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を囲む包囲磁石組立は、一の磁石組立を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立の極性と反対の極性を一の面側に示す磁石組立又は永久磁石に隣接して囲まれる。(i),(ii),(iii)により磁場の相互関係が維持される。
【0080】
以上のような磁石設定により、図6(a)中に太い矢印38で示すような閉ループの電子のドリフト運動が起こり、このループに沿ってターゲット26上にエロージョンが形成される。電子のドリフト運動が閉ループとなると、安定した放電が得られ高密度のプラズマが形成できる。そのため、高速の成膜が可能となる。
【0081】
次に、磁石パーツ31の状態を図6(a)の状態から図6(b)の状態に変えた場合について説明する。
【0082】
図6(b)では、左から2列目と6列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31が、ON状態でターゲット26にN極として働くよう設定されている。
【0083】
このとき、左から4列目の磁石ユニット36の中央に位置する長い磁石パーツ31がON状態でターゲット26にS極として働くよう設定される。また、このS極を取り囲んで隣接する各磁石パーツ31はOFF状態に設定されている。つまり、左から4列目の磁石ユニット36の両端に位置する短い2つの磁石パーツ31と、左から3列目と5列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31と、がOFF状態である。その他の磁石パーツ31は、固定の磁石37を除いてOFF状態である。
【0084】
このように各磁石を設定すると、図6(a)の状態と比べて、電子のドリフト運動が生じる磁場が図右側に移動し、ターゲット26上のエロージョン領域を移動させることができる。この状態でも、前述したとおりの理由で、電子のドリフト運動は閉ループを描く。
【0085】
さらに、磁石パーツ31の状態を図6(b)の状態から図6(c)の状態に変えた場合について説明する。
【0086】
図6(c)では、左から3列目と7列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31が、ON状態でターゲットにN極として働くよう設定されている。
【0087】
このとき、左から5列目の磁石ユニット36の中央に位置する長い磁石パーツ31がON状態でターゲットにS極として働くよう設定される。また、このS極を取り囲んで隣接する各磁石パーツ31はOFF状態に設定されている。つまり、左から5列目の磁石ユニット36の両端に位置する短い2つの磁石パーツ31と、左から4列目と6列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31と、がOFF状態である。その他の磁石パーツ31は、固定の磁石37を除いてOFF状態である。
【0088】
このように各磁石を設定すると、図6(b)の状態と比べて、電子のドリフト運動が生じる磁場がさらに図右側に移動し、ターゲット26上のエロージョン領域を移動させることができる。
【0089】
さらに、図6(a)に示す状態→図6(b)に示す状態→図6(c)に示す状態→図6(b)に示す状態→図6(a)に示す状態→図6(b)に示す状態→図6(c)に示す状態→・・・という順番にターゲット26上のエロージョン領域の位置の移動を繰り返すことで、エロージョン領域がターゲット26の全面にほぼ均一に形成される。このとき、図6の各状態の保持時間を適当に変更することによって、エロージョンの均一化をさらに向上することが可能である。
【0090】
なお、ここでは、S極を取り囲むようにN極を設定する例を示したが、極性は逆でも同様の効果が得られる。この後に述べる実施例においても極性を逆にすることは可能である。
【0091】
次に、上述の磁場発生装置を備えたスパッタ装置での成膜手順を説明する。
【0092】
図1に示したスパッタ装置のチャンバー21内が真空排気された後、チャンバー21内に基板22が搬送され、ターゲット26に対向するように基板ホルダー23に保持される。ターゲット26としては、例えばアルミニウムターゲットなどが用いられる。チャンバー21にはプロセスガスが導入されてチャンバー21内が所定の圧力になる。プロセスガスとしては、たとえばアルゴンガスなどである。
【0093】
続いて、ターゲット26の裏面に設置された磁場発生装置28が、図2、図4、図5や図6に示した磁石の設定手順で動作する。
【0094】
例えば、図2および図6(a)の設定状態で電源27よりターゲット26に電力が供給される。電力はDC電力などである。するとチャンバー21内で放電が生じ、ターゲット26がスパッタされ、基板22上にアルミニウム膜が堆積する。
【0095】
所定の時間成膜後、スパッタ装置は、磁場発生装置28の各列の磁石を回転させて図4および図6(b)の状態に設定し、この設定状態でターゲット26をスパッタし、基板22を成膜する。さらに、所定の時間成膜後、スパッタ装置は、磁場発生装置28の各列の磁石を回転させて図5および図6(c)の状態に設定し、この設定状態でターゲット26をスパッタし、基板22を成膜する。
【0096】
このように磁場発生装置28の磁石の設定を変えてターゲット26上のエロージョン領域を移動させながら成膜が継続する。
【0097】
所定の時間成膜したら電力供給、磁場発生装置28の動作、およびプロセスガスの供給が停止され、チャンバー21内が真空排気される。
【0098】
最後に、チャンバー21から基板22が取り出される。
【0099】
このようにエロージョン領域を動かすことによってターゲット26の非エロージョン領域を無くし、成膜におけるパーティクル発生を抑制することができる。さらに、エロージョンの均一化が可能となりターゲット利用率が向上し、膜の均一性が良くなった。
【0100】
(第二実施形態)
図6に示したように一方向(図6の図面横方向)のみにエロージョン領域を動かした場合、図6の図面上下におけるエロージョン領域の端部の部分でエロージョンの重なりによりターゲット26が過度に削れてしまうことがある。その場合、ターゲットの利用率が低下してしまう。そのようなことを避けるため、エロージョン領域を図6の図面横方向だけでなく、図6の図面上下の方向にも動かすことが好ましい。
【0101】
この場合の形態を第二実施形態として説明する。
【0102】
図7は、第二実施形態による磁場発生装置28をターゲット26側から見た平面図である。特に、図7(a)、(f)は図2の状態に、図7(b)、(e)は図4の状態に、図7(c)、(d)は図5の状態に対応する。
【0103】
図7に示す磁場発生装置28は、第一実施形態と同様、複数の磁石ユニット36(図では7つ)が平板状のヨーク30上に平行に並べられている。
【0104】
各磁石ユニット36は、第二実施形態の場合、5つの磁石パーツ31で構成されている磁石パーツ群である。磁石ユニット36ごとの5つの磁石パーツ31は、図7の上下方向(棒状磁石の中心軸方向)に一直線に並ぶように配置されている。各磁石パーツ31には、磁石パーツ31の長手方向(図7の上下方向)に沿って、図示しない棒状磁石の回転の軸が設けられている。
【0105】
磁石パーツ31の構造は上述の第一実施形態と同様である(図3参照)。
【0106】
各々の磁石ユニット36において、中央部に他より長い磁石パーツ31が配置され、この両端に、中央部の磁石パーツ31よりも短い磁石パーツ31が2つずつ並んでいる。
【0107】
さらに、磁石ユニット36の磁石パーツ配列方向の両端(図7の上下方向の両端)に、横長の磁石が複数の磁石ユニット36に亘って位置している。この磁石も磁石パーツ31であり、この磁石にも、図7の横方向に沿って、図示しない棒状磁石の回転の軸が設けられている。
【0108】
なお、図7中には、ON状態でN極としてターゲットに作用する磁石パーツ31に"N"と記載し、ON状態でターゲットにS極として作用する磁石パーツ31には"S"と記載してある。何も記載されていない磁石パーツ31はOFF状態を示している。
【0109】
図7(a)では、左から3列目の磁石ユニット36の中央に位置する長い磁石パーツ31と、その図面上側の短い磁石パーツ31と、がON状態でターゲットにS極として働くよう設定される。このとき、これらのS極を取り囲んで隣接する各磁石パーツ31はOFF状態に設定される。
【0110】
さらに、そのOFF状態の磁石パーツ31を取り囲んで隣接する磁石パーツ31はN極のON状態とする。つまり、左から1列目と5列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31と、左から2〜4列目の磁石ユニット36の下から二番目の磁石パーツ31と、図面上側の横長の磁石パーツ31とが、ON状態でターゲットにN極として働くよう設定される。その他の磁石パーツ31はOFF状態である。
【0111】
このような状態に各磁石を設定すると、図7(a)中に太い矢印38で示すように、S極とそれを取り囲むN極との間に電子のドリフト運動が生じて閉ループを描く。このループに沿ってターゲット26上にエロージョンが形成される。
【0112】
次に、ターゲットにS極とこれを囲むようにN極とが働いている状態が図7(a)の右側に移動するように、磁石パーツ31の磁石設定が図7(b)、(c)のように順次変更される。すると、図7(b)、(c)中に太い矢印38で示すように、電子のドリフト運動の閉ループは図面右側に移動する。
【0113】
続いて図7(d)に示すように、左から5列目の磁石ユニット36の中央に位置する長い磁石パーツ31とその図面下側の短い磁石パーツ31とがON状態でターゲットにS極として働くよう設定される。このとき、これらのS極を取り囲んで隣接する各磁石パーツ31はOFF状態に設定されている。
【0114】
さらに、そのOFF状態の磁石パーツ31を取り囲んで隣接する磁石パーツ31はN極のON状態とする。つまり、左から3列目と7列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31と、左から4〜6列目の磁石ユニット36の上から二番目の磁石パーツ31と、図面下側の横長の磁石パーツ31とが、ON状態でターゲットにN極として働くよう設定される。その他の磁石パーツ31はOFF状態である。
【0115】
この図7(d)の場合、図中矢印38で示すように電子のドリフト運動の閉ループは図7(c)に比べて図面下側に移動する。
【0116】
次に、図7(e)、(f)に示すように磁石パーツ31の磁石設定が順次変更されて、ターゲットにS極とこれを囲むようにN極とが働いている状態が図面左側に移動する。すると、図7(e)、(f)中に太い矢印38で示すように、電子のドリフト運動の閉ループは図面左側に移動する。
【0117】
この後は図7(a)の状態に戻って、図7(a)〜(f)の状態を繰り返す。
【0118】
このように磁石の設定状態を変えることで、図面上下方向におけるエロージョン領域の端部の重なりが少なくなり、ターゲット26上で極端に深く削れる場所がなくなり、ターゲット利用率が向上する。
【0119】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態を説明する。
【0120】
図8は第三実施形態による磁場発生装置28をターゲット26側から見た平面図である。
【0121】
図8に示す磁場発生装置28は、第二実施形態よりも多い磁石ユニット36(図では14つ)が平板状のヨーク30上に平行に並べられている。
【0122】
各磁石ユニット36は、第二実施形態と同様、5つの磁石パーツ31で構成されている磁石パーツ群である。磁石ユニット36ごとの5つの磁石パーツ31は、図8の上下方向(棒状磁石の中心軸方向)に一直線に並ぶように配置されている。各磁石パーツ31には、磁石パーツ31の長手方向(図8の上下方向)に沿って、図示しない棒状磁石の回転の軸が設けられている。
【0123】
磁石パーツ31の構造は上述の第一実施形態と同様である(図3参照)。
【0124】
各々の磁石ユニット36において、中央部に他より長い磁石パーツ31が配置され、この両端に、中央部の磁石パーツ31よりも短い磁石パーツ31が2つずつ並んでいる。
【0125】
さらに、磁石ユニット36の磁石パーツの配列方向(図8の上下方向)両端に、横長の磁石(長尺磁石)が複数の磁石ユニット36に亘って位置している。この磁石も磁石パーツ31であり、この磁石にも、図8の横方向に沿って、図示しない棒状磁石の回転の軸が設けられている。
【0126】
なお、図8中には、ON状態でN極としてターゲットに作用する磁石パーツ31に"N"と記載し、ON状態でターゲットにS極として作用する磁石パーツ31には"S"と記載してある。何も記載されていない磁石パーツ31はOFF状態を示している。
【0127】
図8(a)では、左から3列目と7列目と11列目の磁石ユニット36の中央に位置する長い磁石パーツ31とその図面上側の短い磁石パーツ31とがON状態でターゲットにS極として働くよう設定される。このとき、それぞれのS極を取り囲んで隣接する各磁石パーツ31はOFF状態に設定される。
【0128】
さらに、そのOFF状態の磁石パーツ31を取り囲んで隣接する磁石パーツ31はN極のON状態とする。つまり、左から1列目と5列目と9列目と13列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31と、左から2〜4列目と6〜8列目と10〜12列目の磁石ユニット36の最下端の磁石パーツ31と、図面上側の横長の磁石パーツ31とが、ON状態でターゲットにN極として働くよう設定される。その他の磁石パーツ31はOFF状態である。
【0129】
このような状態に各磁石を設定すると、S極とそれを取り囲むN極との間に電子のドリフト運動が生じて閉ループを描く。本実施形態の場合、図8(a)中に太い矢印38で示すように、3つの閉ループを描く電子のドリフト運動が生じる。これらの閉ループに沿ってターゲット26上にエロージョンが形成される。
【0130】
次に、ターゲットにS極とこれを囲むようにN極とが働いている状態が図8(a)から図8(b)では図面右側に、図8(b)から図8(c)では図面下側に、図8(c)から図8(d)では図面左側に移動するように、磁石パーツ31の磁石設定が図8(b)〜(d)に示すように順次変更される。
【0131】
このように磁石の設定状態を変えて、3つの閉ループを描く電子のドリフト運動を同時に動かしていき、こうした動きを繰り返す。
【0132】
このように本実施形態によれば、広いターゲットに対しても複数の電子のドリフト運動の閉ループを形成して同時に動かすことができ、ターゲットの非エロージョン領域の解消とエロージョンの均一化が可能となる。
【0133】
(第四実施形態)
次に第四実施形態を説明する。
【0134】
磁石を使用したマグネトロンスパッタでは、成膜の膜厚分布の調整や、ターゲット利用率の向上などの目的で、一度作製した磁石を後で磁場調整して使用することがある。従来はこの磁場調整を、磁石の交換や磁石の加工により形状を変更したり、磁石の表面に薄い磁性体の板を貼って磁力を弱めたりして行っていた。
【0135】
一般に、ターゲット26上のターゲット面に平行な磁束密度成分が大きいところはエロージョンが深くなり、小さいところは浅くなることが知られている。
【0136】
そこで、本発明に係る磁石パーツ31を用いた磁場調整について述べる。
【0137】
本発明に係る磁石パーツ31は磁石のON/OFFだけでなく、その間の磁束密度にその強度を調整可能である。図9に示すように棒状磁石33を回転してONとOFFの中間の状態で、磁極を斜めの位置で止めると、ターゲット26上の磁束密度は磁石がON状態のときより弱くなる。このとき、ターゲット26上のターゲット面に平行な磁束密度成分の強度が弱くなるのみで、磁力線29の形はほとんど変化しない。棒状磁石のみの単純な磁石構造では斜めに磁石の磁極を停止すると磁束密度の変化と同時に磁力線の形も変化してしまう。
【0138】
図9の状態では、図の左から1番目と5番目の磁石パーツ31がターゲット26に対して弱いN極として働き、図の左から3番目の磁石パーツ31がターゲット26に対して弱いS極として働く。その他の磁石パーツ31はOFF状態である。
【0139】
このような弱いN極と弱いS極を結ぶ磁力線29がターゲット26のターゲット面と平行になる場所を中心にエロージョン領域32が形成される。この場合のエロージョンは磁石パーツ31がON状態のときに形成されるエロージョンよりも浅くなる。
【0140】
この特性を使って、ターゲット26上の磁束密度を調整する場合の実施形態を図10に示す。
【0141】
本実施形態は図6に示した形態と同じで、エロージョンを図10の横方向のみ動かす例である。図6では各列の磁石ユニット36において磁石パーツ31が図の上下方向に3つ並べられていたが、本実施形態では6つ並べられている。
【0142】
任意の磁石ユニット36を構成する各磁石パーツ31の磁束密度が棒状磁石の回転角度で調整される。図10では図面上下方向の中央付近に在る2つの磁石パーツ31の磁力を弱くした例が示されている。
【0143】
なお、図10中には、弱いN極としてターゲットに作用する磁石パーツ31に"弱N"と記載し、弱いS極としてターゲットに作用する磁石パーツ31には"弱S"と記載してある。また、通常のON状態の磁石パーツ31には"N"または"S"と記述し、OFF状態の磁石パーツ31には何も記載していない。
【0144】
図10に示すように磁石設定すると、図面上下方向中央付近のエロージョンは浅くなり、それ以外のエロージョンは深くなる。エロージョン速度が低いターゲット中央部に対応する基板部位は成膜速度が低くなり、エロージョン速度が高いターゲット端部に対応する基板部位は成膜速度が高くなる。
【0145】
また、図6から図8に於けるように磁石ユニットの上下方向に磁場密度の大きさが一定の場合は、ターゲット中央部に対面する基板部分には四方からスパッタ粒子が飛来するので、成膜速度は高くなる。一方、ターゲット端部に対面する基板分では片側からのスパッタ粒子の飛来である為、成膜速度は低くなる。その結果、基板面内での膜厚分布が悪化する。
【0146】
しかし、本実施形態のようにターゲット上の場所に応じて磁場調整を施すことで基板の膜厚分布が良好になる。
【0147】
本発明によれば、磁石パーツ31の棒状磁石の回転角度で磁場調整が行えるため、磁場調整作業が容易になった。
【0148】
また本実施形態においても、図10(a)に示す状態→図10(b)に示す状態→図10(c)に示す状態→図10(b)に示す状態→図10(a)に示す状態→図10(b)に示す状態→図10(c)に示す状態→・・・という順番に磁石設定を変えながらターゲット26上のエロージョン領域の移動を繰り返すことで、エロージョン領域がターゲット26の全面にほぼ均一に形成される。この場合、第三実施形態および第四実施形態の手法を本実施形態に適用できることは言うまでもない。
【0149】
また、本実施形態に於いては、棒状磁石33が磁性体のヨーク34で囲まれているが、これにより隣接の棒状磁石33に至る磁束密度が減少する。棒状磁石33内で棒状磁石33の回転に伴い磁束密度が時間的に変化するといわゆる渦電流が誘起される。その結果、棒状磁石33内でジュール熱が発生し、その結果、棒状磁石33の磁力が弱まる。しかし、本発明においては、ヨーク34により、隣接する棒状磁石33に至る磁束密度が減少する為、上記問題の影響を減少できるという有利な効果がある。
【0150】
以上本発明の実施形態について図面をもとに説明したが、本発明の技術思想を逸脱しない範囲において、図示した構造に限定することなく、上記実施形態を適宜変更することも可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場発生装置、磁場発生方法、スパッタ装置及びデバイスの製造方法に関するものである。特に、スパッタ技術に関し、磁場によりプラズマをターゲット近傍に閉じ込めるマグネトロンスパッタ法を利用したスパッタ技術いわゆるマグネトロンスパッタに適用すると有効である。
【背景技術】
【0002】
基板への成膜処理や表面加工などが電子デバイスや半導体装置やフラットパネルディスプレイなどの製造過程で実施されており、この場合の製造技術としてスパッタ法が広く利用されている。
【0003】
スパッタ法では、被処理物であるターゲットの裏面側に磁石が配置されるマグネトロンスパッタが主流である。マグネトロンスパッタはターゲット表面に磁石による磁場を形成し、電子のドリフト運動を利用してプラズマをターゲット表面近傍に閉じ込め、その結果、高密度のプラズマを形成する方法である。このように高密度プラズマをターゲット表面近傍に存在させることにより、高速の成膜が可能となる。
【0004】
マグネトロンスパッタで使用される磁場発生装置は、一般に、平板状の磁性体であるヨークの上に磁石を設置して形成される。このとき、外周の磁石と内側の磁石は極性が反対であり、この二つの磁極間に生じる磁場により、ターゲット表面付近に電子が拘束される。そのため、ターゲットにはこの磁極間にエロージョンが形成される。
【0005】
磁石がターゲットに対して固定されていると、ターゲット上には、その磁石の形を反映したエロージョンが出現する。エロージョンは外周の磁石と磁極が反対の内側の磁石の間に生じているが、磁石の直上には現れない。このため、磁石を動かさない場合はターゲットの磁石直上部に、エロージョンが現れない領域(以下、非エロージョン領域と呼ぶ)が存在してしまう。
【0006】
この非エロージョン領域にはパーティクルなどが付着し、成膜中の基板にパーティクルが多くなるという課題がある。
【0007】
また、エロージョンが現れる領域が固定されている場合、ターゲットの体積に対するエロージョンの体積の比であるターゲット利用率が低下し経済的でない。また、基板に均一な膜厚の成膜を行うことが困難になるなどの課題がある。
【0008】
そこで、従来のスパッタ装置ではターゲットに対してヨークと一体に磁石を動かしながら成膜を行っている。動かし方は回転運動であったり、往復運動であったりする。このように磁石をターゲットに対して動かすことで、ターゲット上の非エロージョン領域が無くなりパーティクルの発生が減少する。また、ターゲット利用率が向上し、成膜した膜の膜厚均一性が良好となる。
【0009】
しかし、最近のフラットパネルディスプレイ用スパッタ成膜装置などでは、ターゲットが大型化しており、磁石を動かす機構が大掛かりになったり、構造が複雑になったりするという課題がある。
【0010】
そこで、特許文献1や特許文献2では、磁石全体を動かすのではなく、磁石を棒状にして棒状磁石を回転することによってエロージョン領域を動かす方法が示されている。この方法によれば、大型の装置でも磁石を動かす機構が簡単になり、機構を小型化することができる。
【0011】
また、特許文献3や特許文献4、5、6では、固定磁石と、回転可能に保持されている棒状磁石と、を組み合わせて棒状磁石の回転によりターゲット上のエロージョン領域を動かす方法が報告されている。この方法でも、大型の装置で磁石を動かす機構が簡単になり、機構を小型化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5-148642号公報
【特許文献2】特開2000-309867号公報
【特許文献3】米国特許第5399253号公報
【特許文献4】特開平11-158625号公報
【特許文献5】特開2007-204811号公報
【特許文献6】特開2001-32067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、棒状磁石を回転してエロージョン領域を動かす例を、特許文献1に開示の例(図11参照)を用いて説明する。図11中の斜線部分が、磁力線12で拘束された電子のドリフト運動によりターゲット面上に現れるエロージョン領域10である。複数の棒状磁石3-1,3-2,・・・3-10を回転させることにより、図に白抜き矢印で示す電子のドリフト運動の位置を図のX方向にずらすことができる。
【0014】
しかし、図11のAで示す箇所はY方向に磁石の間隔をある程度あける必要がある。図11のAの箇所ではY方向に磁石6-3のN極と磁石3-3のS極とによる磁場が形成されるが、磁石のN極とS極が近いとターゲット表面上でターゲット面に平行なY方向の磁束密度が低下してしまい、放電の維持が困難になる。
【0015】
その理由を図12を用いて説明する。図12はターゲット表面の磁場と磁石間隔の関係を示している。ターゲット表面の磁場はN極による磁場とS極による磁場の合成で作られる(図12(a))。磁石間隔によって合成磁場の強さは変化する。磁石間隔が極端に近い場合(図12(b))は合成磁場のターゲット表面に平行な成分が弱くなってしまう。
【0016】
したがって、図11のAの部分はY方向に磁石の間隔をある程度あける必要がある。
【0017】
また、図11中にBで示す箇所においては、磁石3-1、3-5若しくは3-9及びそれに対する磁石6-3の極性が同様にNとなる。その場合、磁石3-1、3-5若しくは3-9から発した磁場は磁石6-3に至らないで、図面に垂直な方向に伸びる。
【0018】
従って、Bで示す箇所に至った電子は磁力線に沿って紙面に垂直の方向に飛び出し、電子のドリフト運動が閉ループを描かなくなる。この結果、ターゲット面近傍のプラズマの状態が不安定になり最終的に放電維持が難しくなる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
そこで本発明は、課題を解決することができる磁場発生装置、その磁場発生装置を備えたスパッタ装置を提供することを目的とする。その目的の一例は、ターゲット面近傍のプラズマの状態が安定し、均一なスパッタを施すことが可能となる磁場発生装置を備えたスパッタ装置を提供することである。
【0020】
上記の目的を達成する本発明に係る磁場発生装置は、永久磁石と、前記永久磁石の外周側面を囲むように配置されている磁性体よりなる分離されているヨークと、前記ヨークの間に位置する非磁性体と、を有する磁石組立が、少なくとも3個以上一直線に沿って配置されることにより構成される磁石組立群を備え、
一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立が一の面側に一の極性を示し、
前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさは、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2以上の隣接した磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさより小さく、
前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立は、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立の極性と反対の極性を前記一の面側に示す磁石組立又は永久磁石に隣接して囲まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、マグネトロンスパッタリングにおいてターゲット面近傍のプラズマ状態の更なる安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一実施形態による磁場発生装置を備えたスパッタ装置を示す断面模式図である。
【図2】図1の磁場発生装置の詳細な構成を示す図である。
【図3】図2の磁石パーツの構造を示す断面模式図である。
【図4】図2の状態から棒状磁石を回転させて磁石の設定を変えた状態を示す図である。
【図5】図4の状態から棒状磁石を回転させて磁石の設定を変えた状態を示す図である。
【図6】図2、図4、図5に示す磁場発生装置をターゲット側から見た平面図である。
【図7】第二実施形態による磁場発生装置をターゲット側から見た平面図である。
【図8】第三実施形態による磁場発生装置をターゲット側から見た平面図である。
【図9】第四実施形態での磁石パーツの磁石設定を示す断面模式図である。
【図10】第四実施形態による磁場発生装置をターゲット側から見た平面図である。
【図11】棒状の磁石を回転してエロージョンを動かす従来例として特許文献1の構成を代表して示した平面図である。
【図12】図11に示すような従来の構成における課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0024】
(第一実施形態)
図1は本発明の第一実施形態による磁場発生装置を備えたスパッタ装置を示す断面模式図である。図示するスパッタ装置は内部を真空排気できるチャンバー21を有し、チャンバー21内には、ウェハ等の基板22を保持する基板ホルダー23が設置されている。
【0025】
図示していないが、チャンバーには排気のためのポンプやガス導入部などが接続されている。
【0026】
基板ホルダー23に対向するチャンバー21の内壁部は開口しており、この開口部を塞ぐように、バッキングプレート24が設置されている。バッキングプレート24はカソード絶縁部材25を介してチャンバー21の外壁に接続されている。
【0027】
バッキングプレート24にはターゲット26が基板22に対向して配置されている。ターゲット26にはバッキングプレート24を介して電源27より電力が供給される。
【0028】
ターゲット26の、基板22の側とは反対側に、磁場発生装置28が配置されている。この磁場発生装置28(マグネトロンユニットとも呼ばれる。)は、ターゲット26の基板22側の表面付近に磁力線29で示すような磁場を形成する。
【0029】
このようなターゲット26表面付近の磁界と、電源27によって投入された電力とにより、ターゲット26と基板22の間に高密度のプラズマが生成されて、基板22にスパッタリングによる成膜を行うことができる。
【0030】
次に、磁場発生装置28について説明する。
【0031】
図2に磁場発生装置28の詳細な構成を示す。この図を参照すると、バッキングプレート24にターゲット26が取り付けられている。ターゲット26の表面側が、図示しないチャンバーの室内に曝されている。ターゲット26が取り付けられたバッキングプレート24の面とは反対側には、磁場発生装置28が配置されている。
【0032】
磁場発生装置28は、磁性体の板状のベース部材からなるヨーク34と、複数の磁石組立(以下、「磁石パーツ31」ともいう)とを含む。磁石組立(磁石パーツ31)は、回転可能に支持されている永久磁石(棒状磁石33)と、永久磁石の外周側面を囲むように配置される磁性体よりなる分離されているヨーク30と、ヨークの間に位置する非磁性体35と、を有する。磁石組立(磁石パーツ31)が、少なくとも3個以上同一平面内に一の直線に沿って配置されることにより磁石組立群(以下、「磁石ユニット36」ともいう)が構成される。
【0033】
任意の磁石パーツ31のN極と、この磁石パーツと一つ置きに位置する他の磁石パーツ31のS極との間に形成される磁力線29はターゲット26表面付近にトンネル状の曲線を作る。この磁力線29がターゲット26表面と平行になる部分を中心に、ターゲット26表面にエロージョン領域32が形成される。
【0034】
磁石パーツ31の構成を以下に詳述する。図3は磁石パーツ31の構造を示す断面模式図である。
【0035】
磁石パーツ31は、棒状磁石33と、それを囲むヨーク34と、非磁性体35とを用いて構成される。
【0036】
棒状磁石33は例えば円筒形に形成された永久磁石である。磁化の方向は円筒の軸を通る一の平面に対して一の傾斜角をなす方向である。好ましくは、円筒の軸を通る一の平面と直角の方向である。棒状磁石33はその中心軸回りに回転できるようになっている。
【0037】
ヨーク34は磁性体で作製されており、2つの部分に分離されている。この2つの部分は、それぞれ棒状磁石33の円筒側面の曲率半径よりやや大きい曲率半径の凹面を有する。
【0038】
棒状磁石33は、2つの部分の凹面と隙間を開けて配置されている。2つの部分の凹面により棒状磁石33の円筒側面が囲まれている。また、2つの部分どうしは非磁性体35を介して接続されている。
【0039】
但し、棒状磁石33がヨーク34に対して回転できれば、必ずしも、ヨーク34の曲率半径が棒状磁石33の円筒側面の曲率半径よりも大きい必要はない。
【0040】
このような磁石構造は、特開平7-94321号公報に開示されている、マグネットチャックと基本的に同様のものである。
【0041】
上記の磁石パーツ31の構成では、図3(a)に示すように棒状磁石33の磁極が上下方向(ターゲット面に対し直交する方向)を向いているときは、磁力線29は棒状磁石33のN極からヨーク34内を通ってヨーク34の外に出て、再びヨーク34内を通って磁石33のS極に向かう。これは通常の磁石と同じ状態であり、この状態を以下では「ON状態」と呼ぶ。
【0042】
一方、図3(b)に示すように棒状磁石33の磁極が横方向に向いているときは、棒状磁石33から出た磁力線29はヨーク34内を通って棒状磁石33に戻り、磁力線29はヨーク34の外に出ない。このときは磁石パーツ31はターゲット上に電子を拘束するのに十分な大きさの磁束密度の磁場を形成しない。この状態を以下では「OFF状態」と呼ぶ。
【0043】
ヨーク34の厚さ(C部)は、磁石がOFF状態のときに磁束が十分に通る厚さにする必要がある。
【0044】
C部が薄いと、C部は磁気飽和を起こし磁力線29がヨーク34の外部空間に出てしまい、OFF状態の効果が小さくなってしまう。通常のスパッタ装置では、C部の厚さは10mm以上あれば磁気飽和を起こすことがなく、OFF状態が実現できる。本実施形態ではC部の厚さは10mmに設定されている。
【0045】
次に、ヨーク34を成すために2つに分割された部分を接続する箇所(図3(a)に寸法DとEで示される箇所)について説明する。
【0046】
この箇所は、ヨーク34を成す2つの部分を接続する非磁性体35が配置される部分であり、磁石のON状態とOFF状態を作るのに重要な部分である。
【0047】
磁石がON状態のときは、ヨーク34内を通った磁力線29はできるだけヨーク34の外の空間に漏れ出すようにしたい。そのほうが空間の磁場が強くなり、有効に電子を拘束できるからである。しかし、磁力線29は磁性体であるヨーク34内を通りやすく、非磁性体35内を通り抜けて、ヨーク34外の空間に出ないで、ヨーク34内を通って磁石に戻るものもある。
【0048】
そのため、磁気回路としてはヨーク34内を通って元に戻る磁力線29が多くならないように、ヨーク34に磁気抵抗を作る必要がある。磁気抵抗は寸法Dが小さいほど、また寸法Eが大きいほど大きくなる。
【0049】
但し、極端に寸法Dを小さくし、寸法Eを大きくして磁気抵抗を大きくすると、磁石がOFF状態のときに磁石から出た磁力線29がヨーク34内を通らずにヨーク34の外部空間に直接出てしまい、OFF状態が十分実現できなくなる。そのため、適度な磁気抵抗を与えられるDとEの寸法が重要である。
【0050】
磁場解析を実施した結果、寸法Dが1mmの場合は磁石がOFF状態のときにもヨーク34の外部空間に弱い磁場が形成されて十分なOFF状態とならなかった。しかし、寸法Dが2mm以上であれば磁石のOFF状態は十分に維持され有効であった。但し、Dの寸法は大きくなるにしたがって、磁石がON状態でヨーク34の外部空間の磁場が弱くなる。
【0051】
一方、非磁性体35の幅Eの寸法としては9mm以下が好ましいことがわかった。寸法Eが10mmより大きいの場合は磁石がOFF状態のときにもヨーク34の外部空間に弱い磁場が形成されて十分なOFF状態とならなかった。
【0052】
Eの寸法は小さくなるにしたがって、磁石がON状態でヨーク34の外部空間の磁場が弱くなっていくが、その変化は緩やかである。そのため、Eの寸法としては9mm以下であれば問題はない。
【0053】
本実施形態では十分なOFF状態を実現しつつ、ON状態の磁場をできるだけ強くするために寸法Dは2mm、寸法Eは5mmに設定されている。
【0054】
なお、DとEの寸法はヨーク34に対する寸法であり、非磁性体35の寸法は必ずしもこの寸法である必要はない。磁場が入り込む所の寸法Dと、磁場が通り抜ける所の寸法Eとが重要であり、非磁性体35の寸法自体は問題とならない。非磁性体35は、ヨーク34を成す2つの部分が磁力で近づこうとするが、それに抗して位置を維持する役割がある。
【0055】
図2に戻り、上記のような磁石パーツ31を持つ磁場発生装置28の説明を続ける。
【0056】
図2では、ヨーク30上に7つの磁石パーツ31が並べられている。各磁石パーツ31の棒状磁石33の軸は歯車aを介してモーターbと接続されている回転機構40により軸回転が可能である。図2には、他の図面を代表して、図右端の棒状磁石33のみにそれを回転させる歯車aとモーターbを示している。
【0057】
各磁石パーツ31のヨーク34のターゲット26に面する部位に、磁気センサ250が配置されている。磁気センサ250は、ターゲット26に面する側の磁場の情報(例えば、磁束密度)を検出することが可能である。コントローラ200は、磁気センサ250により検出された信号により回転機構40のモーターbの回転を制御して、それぞれの棒状磁石33の回転制御を行うことが可能である。図2には、他の図面を代表して、コントローラ200と、磁気センサ250とを示している。
【0058】
配列された磁石パーツ31ごとに棒状磁石33の磁の向きが異なっている。
【0059】
図2においては、一番左の磁石パーツ31がON状態でターゲット26に対してN極の磁石として働くとき、左から2番目の磁石パーツ31はOFF状態である。左から3番目の磁石パーツ31がON状態でターゲット26に対してS極として働くとき、左から4番目の磁石パーツ31はOFF状態である。左から5番目の磁石パーツ31がON状態でターゲット26に対してはN極として働くとき、左から6番目と7番目の磁石パーツはそれぞれOFF状態である。
【0060】
つまり図2の状態では、図の左から1番目と5番目の磁石パーツ31がターゲット26に対してN極として働き、図の左から3番目の磁石パーツ31がターゲット26に対してS極として働く。このようなターゲット26に対してN極とS極として働く磁石パーツ間に磁力線29が形成される。その他のOFF状態の磁石パーツは磁場形成には関与しない。
【0061】
次に、図2の状態から棒状磁石33を回転させて図4の状態にした場合を説明する。
【0062】
図4において、左から2番目と6番目の磁石パーツ31がON状態でN極としてターゲット26に作用するとき、左から4番目の磁石パーツ31がON状態でS極としてターゲット26に作用する。その他の磁石パーツ31はOFF状態である。
【0063】
このとき、図4中に矢印で示されるように磁力線29が形成され、この磁力線29がターゲット26の表面と平行になる部分を中心に、ターゲット26の表面にエロージョン領域32が形成される。図2と比較すると、エロージョン領域32の位置が図の右側に移動している。
【0064】
さらに、図4の状態から棒状磁石33を回転させて図5の状態にした場合を説明する。
【0065】
図5では、左から3番目と7番目の磁石パーツ31がON状態でN極としてターゲット26に作用するとき、左から5番目の磁石パーツ31がON状態でS極としてターゲット26に作用する。その他の磁石パーツ31はOFF状態である。
【0066】
このとき、図5中に矢印で示されるように磁力線29が形成され、この磁力線29がターゲット26の表面と平行になる部分を中心に、ターゲット26の表面にエロージョン領域32が形成される。図4と比較すると、エロージョン領域32の位置がさらに図右側に移動している。
【0067】
図2、図4、図5に基づいて上述したように、ターゲット26の裏面に沿って並ぶ各磁石パーツ31の棒状磁石33を回転させて磁石のON状態とOFF状態とを変えることにより、ターゲット26上のエロージョン領域32を動かすことができる。また、図2から図4の状態に、図4から図5の状態に、図5から図4の状態に、図4から図2の状態にするという一連の操作を繰り返すと、ターゲット26上の非エロージョン部がなくなり、エロージョンがターゲット26の全面にほぼ均一に形成される。
【0068】
図6は、上述した磁場発生装置28をターゲット26の側から見た平面図である。特に、図6(a)は図2の状態に、図6(b)は図4の状態に、図6(c)は図5の状態に対応する。
【0069】
磁場発生装置28は、図6に示すように複数の磁石ユニット36(図では7つ)が平板状のヨーク30上に平行に並べられている。
【0070】
各磁石ユニット36は3つの磁石パーツ31で構成されている磁石パーツ群である。磁石ユニット36ごとの3つの磁石パーツ31は、図6の上下方向(棒状磁石の中心軸方向)に一直線に並ぶように配置されている。各磁石パーツ31には、磁石パーツ31の長手方向(図6の上下方向)に沿って、図示しない棒状磁石33の回転の軸が設けられている。そして、各磁石パーツ31を構成する棒状磁石33の回転は独立に制御可能となっている。ここで、磁気パーツ31は一直線に並ぶように配置されているということは、上記したように各磁気パーツ31の棒状磁石は33は独立に回転可能であるので、必ずしも幾何学的な意味において各磁気パーツ31が一直線に並んで配置されている必要はない。外見的に見て、一直線に並んでいれば良いという意味である。この用語の使い方は、本明細書、特許請求の範囲及び図面を通して貫かれている。また、上記のように磁気パーツが一直線に並ぶように配置されていることを、一直線状に配列されているとも表することとする。
【0071】
各々の磁石ユニット36において、中央の磁石パーツ31と、この両端の磁石パーツ31の長さと、は中央部の方が長く、両端部の方が短くなっている。
【0072】
さらに、磁石ユニット36の磁石パーツの配列方向(図6の上下方向)両端に、横長の磁石(長尺磁石)37が複数の磁石ユニット36に亘って位置している。この磁石37は動かず、ターゲット26に対してN極の磁石として作用するものである。
【0073】
なお、図6中には、ON状態でN極としてターゲットに作用する磁石パーツ31に"N"と記載し、ON状態でターゲットにS極として作用する磁石パーツ31には"S"と記載してある。何も記載されていない磁石パーツ31はOFF状態を示している。
【0074】
図6(a)においては、左から1列目と5列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31が、ON状態でターゲットにN極として働くよう設定されている。
【0075】
このとき、左から3列目の磁石ユニット36の中央に位置する長い磁石パーツ31がON状態でターゲットにS極として働くよう設定される。また、このS極を取り囲んで隣接する各磁石パーツ31はOFF状態に設定されている。つまり、左から3列目の磁石ユニット36の両端に位置する短い2つの磁石パーツ31と、左から2列目と4列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31とがOFF状態である。その他の磁石パーツ31は、固定の磁石37を除いてOFF状態である。
【0076】
このような状態に各磁石を設定すると、図6(a)中に太い矢印38で示すように、S極とそれを取り囲むN極との間に電子のドリフト運動が生じて閉ループを描く。
【0077】
特に、左から2〜4列目の磁石ユニット36の長手方向両端にある短い磁石パーツ31はOFF状態となって、電子のドリフト運動38を阻害しないでいる。加えて、横長の固定の磁石37のN極と、左から3列目の磁石ユニット36の中央部の長い磁石パーツ31のS極と、の間隔(例えば図6(a)のF部)が短い磁石パーツ31の設置の為に十分にあけられるため、このF部にターゲット面に平行な方向の強い磁場を形成できる。
【0078】
さらに、横長の固定の磁石37のN極と、左から1列目と5列目の磁石ユニット36の中央部の長い磁石パーツ31のN極と、の間隔(例えば図6(a)のG部)に配置された短い磁石パーツ31がON状態でターゲットにN極として働くよう設定されている。そのため、図6(a)中に太い矢印38で示すドリフト運動する電子がG部から磁石の外に漏れ出るのを防止できる。
【0079】
複数の磁石組立群として例えば6個以上の磁石組立群のうち、隣接する5つの磁石組立群間では、(i)一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立が一の面側に一の極性を示す。(ii)一の磁石組立群を構成している一つ又2つ以上の隣接している磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立により生成される一の面側の磁束密度の大きさは、一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の磁石組立により生成される一の面側の磁束密度の大きさより小さい。(iii)一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を囲む包囲磁石組立は、一の磁石組立を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立の極性と反対の極性を一の面側に示す磁石組立又は永久磁石に隣接して囲まれる。(i),(ii),(iii)により磁場の相互関係が維持される。
【0080】
以上のような磁石設定により、図6(a)中に太い矢印38で示すような閉ループの電子のドリフト運動が起こり、このループに沿ってターゲット26上にエロージョンが形成される。電子のドリフト運動が閉ループとなると、安定した放電が得られ高密度のプラズマが形成できる。そのため、高速の成膜が可能となる。
【0081】
次に、磁石パーツ31の状態を図6(a)の状態から図6(b)の状態に変えた場合について説明する。
【0082】
図6(b)では、左から2列目と6列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31が、ON状態でターゲット26にN極として働くよう設定されている。
【0083】
このとき、左から4列目の磁石ユニット36の中央に位置する長い磁石パーツ31がON状態でターゲット26にS極として働くよう設定される。また、このS極を取り囲んで隣接する各磁石パーツ31はOFF状態に設定されている。つまり、左から4列目の磁石ユニット36の両端に位置する短い2つの磁石パーツ31と、左から3列目と5列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31と、がOFF状態である。その他の磁石パーツ31は、固定の磁石37を除いてOFF状態である。
【0084】
このように各磁石を設定すると、図6(a)の状態と比べて、電子のドリフト運動が生じる磁場が図右側に移動し、ターゲット26上のエロージョン領域を移動させることができる。この状態でも、前述したとおりの理由で、電子のドリフト運動は閉ループを描く。
【0085】
さらに、磁石パーツ31の状態を図6(b)の状態から図6(c)の状態に変えた場合について説明する。
【0086】
図6(c)では、左から3列目と7列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31が、ON状態でターゲットにN極として働くよう設定されている。
【0087】
このとき、左から5列目の磁石ユニット36の中央に位置する長い磁石パーツ31がON状態でターゲットにS極として働くよう設定される。また、このS極を取り囲んで隣接する各磁石パーツ31はOFF状態に設定されている。つまり、左から5列目の磁石ユニット36の両端に位置する短い2つの磁石パーツ31と、左から4列目と6列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31と、がOFF状態である。その他の磁石パーツ31は、固定の磁石37を除いてOFF状態である。
【0088】
このように各磁石を設定すると、図6(b)の状態と比べて、電子のドリフト運動が生じる磁場がさらに図右側に移動し、ターゲット26上のエロージョン領域を移動させることができる。
【0089】
さらに、図6(a)に示す状態→図6(b)に示す状態→図6(c)に示す状態→図6(b)に示す状態→図6(a)に示す状態→図6(b)に示す状態→図6(c)に示す状態→・・・という順番にターゲット26上のエロージョン領域の位置の移動を繰り返すことで、エロージョン領域がターゲット26の全面にほぼ均一に形成される。このとき、図6の各状態の保持時間を適当に変更することによって、エロージョンの均一化をさらに向上することが可能である。
【0090】
なお、ここでは、S極を取り囲むようにN極を設定する例を示したが、極性は逆でも同様の効果が得られる。この後に述べる実施例においても極性を逆にすることは可能である。
【0091】
次に、上述の磁場発生装置を備えたスパッタ装置での成膜手順を説明する。
【0092】
図1に示したスパッタ装置のチャンバー21内が真空排気された後、チャンバー21内に基板22が搬送され、ターゲット26に対向するように基板ホルダー23に保持される。ターゲット26としては、例えばアルミニウムターゲットなどが用いられる。チャンバー21にはプロセスガスが導入されてチャンバー21内が所定の圧力になる。プロセスガスとしては、たとえばアルゴンガスなどである。
【0093】
続いて、ターゲット26の裏面に設置された磁場発生装置28が、図2、図4、図5や図6に示した磁石の設定手順で動作する。
【0094】
例えば、図2および図6(a)の設定状態で電源27よりターゲット26に電力が供給される。電力はDC電力などである。するとチャンバー21内で放電が生じ、ターゲット26がスパッタされ、基板22上にアルミニウム膜が堆積する。
【0095】
所定の時間成膜後、スパッタ装置は、磁場発生装置28の各列の磁石を回転させて図4および図6(b)の状態に設定し、この設定状態でターゲット26をスパッタし、基板22を成膜する。さらに、所定の時間成膜後、スパッタ装置は、磁場発生装置28の各列の磁石を回転させて図5および図6(c)の状態に設定し、この設定状態でターゲット26をスパッタし、基板22を成膜する。
【0096】
このように磁場発生装置28の磁石の設定を変えてターゲット26上のエロージョン領域を移動させながら成膜が継続する。
【0097】
所定の時間成膜したら電力供給、磁場発生装置28の動作、およびプロセスガスの供給が停止され、チャンバー21内が真空排気される。
【0098】
最後に、チャンバー21から基板22が取り出される。
【0099】
このようにエロージョン領域を動かすことによってターゲット26の非エロージョン領域を無くし、成膜におけるパーティクル発生を抑制することができる。さらに、エロージョンの均一化が可能となりターゲット利用率が向上し、膜の均一性が良くなった。
【0100】
(第二実施形態)
図6に示したように一方向(図6の図面横方向)のみにエロージョン領域を動かした場合、図6の図面上下におけるエロージョン領域の端部の部分でエロージョンの重なりによりターゲット26が過度に削れてしまうことがある。その場合、ターゲットの利用率が低下してしまう。そのようなことを避けるため、エロージョン領域を図6の図面横方向だけでなく、図6の図面上下の方向にも動かすことが好ましい。
【0101】
この場合の形態を第二実施形態として説明する。
【0102】
図7は、第二実施形態による磁場発生装置28をターゲット26側から見た平面図である。特に、図7(a)、(f)は図2の状態に、図7(b)、(e)は図4の状態に、図7(c)、(d)は図5の状態に対応する。
【0103】
図7に示す磁場発生装置28は、第一実施形態と同様、複数の磁石ユニット36(図では7つ)が平板状のヨーク30上に平行に並べられている。
【0104】
各磁石ユニット36は、第二実施形態の場合、5つの磁石パーツ31で構成されている磁石パーツ群である。磁石ユニット36ごとの5つの磁石パーツ31は、図7の上下方向(棒状磁石の中心軸方向)に一直線に並ぶように配置されている。各磁石パーツ31には、磁石パーツ31の長手方向(図7の上下方向)に沿って、図示しない棒状磁石の回転の軸が設けられている。
【0105】
磁石パーツ31の構造は上述の第一実施形態と同様である(図3参照)。
【0106】
各々の磁石ユニット36において、中央部に他より長い磁石パーツ31が配置され、この両端に、中央部の磁石パーツ31よりも短い磁石パーツ31が2つずつ並んでいる。
【0107】
さらに、磁石ユニット36の磁石パーツ配列方向の両端(図7の上下方向の両端)に、横長の磁石が複数の磁石ユニット36に亘って位置している。この磁石も磁石パーツ31であり、この磁石にも、図7の横方向に沿って、図示しない棒状磁石の回転の軸が設けられている。
【0108】
なお、図7中には、ON状態でN極としてターゲットに作用する磁石パーツ31に"N"と記載し、ON状態でターゲットにS極として作用する磁石パーツ31には"S"と記載してある。何も記載されていない磁石パーツ31はOFF状態を示している。
【0109】
図7(a)では、左から3列目の磁石ユニット36の中央に位置する長い磁石パーツ31と、その図面上側の短い磁石パーツ31と、がON状態でターゲットにS極として働くよう設定される。このとき、これらのS極を取り囲んで隣接する各磁石パーツ31はOFF状態に設定される。
【0110】
さらに、そのOFF状態の磁石パーツ31を取り囲んで隣接する磁石パーツ31はN極のON状態とする。つまり、左から1列目と5列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31と、左から2〜4列目の磁石ユニット36の下から二番目の磁石パーツ31と、図面上側の横長の磁石パーツ31とが、ON状態でターゲットにN極として働くよう設定される。その他の磁石パーツ31はOFF状態である。
【0111】
このような状態に各磁石を設定すると、図7(a)中に太い矢印38で示すように、S極とそれを取り囲むN極との間に電子のドリフト運動が生じて閉ループを描く。このループに沿ってターゲット26上にエロージョンが形成される。
【0112】
次に、ターゲットにS極とこれを囲むようにN極とが働いている状態が図7(a)の右側に移動するように、磁石パーツ31の磁石設定が図7(b)、(c)のように順次変更される。すると、図7(b)、(c)中に太い矢印38で示すように、電子のドリフト運動の閉ループは図面右側に移動する。
【0113】
続いて図7(d)に示すように、左から5列目の磁石ユニット36の中央に位置する長い磁石パーツ31とその図面下側の短い磁石パーツ31とがON状態でターゲットにS極として働くよう設定される。このとき、これらのS極を取り囲んで隣接する各磁石パーツ31はOFF状態に設定されている。
【0114】
さらに、そのOFF状態の磁石パーツ31を取り囲んで隣接する磁石パーツ31はN極のON状態とする。つまり、左から3列目と7列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31と、左から4〜6列目の磁石ユニット36の上から二番目の磁石パーツ31と、図面下側の横長の磁石パーツ31とが、ON状態でターゲットにN極として働くよう設定される。その他の磁石パーツ31はOFF状態である。
【0115】
この図7(d)の場合、図中矢印38で示すように電子のドリフト運動の閉ループは図7(c)に比べて図面下側に移動する。
【0116】
次に、図7(e)、(f)に示すように磁石パーツ31の磁石設定が順次変更されて、ターゲットにS極とこれを囲むようにN極とが働いている状態が図面左側に移動する。すると、図7(e)、(f)中に太い矢印38で示すように、電子のドリフト運動の閉ループは図面左側に移動する。
【0117】
この後は図7(a)の状態に戻って、図7(a)〜(f)の状態を繰り返す。
【0118】
このように磁石の設定状態を変えることで、図面上下方向におけるエロージョン領域の端部の重なりが少なくなり、ターゲット26上で極端に深く削れる場所がなくなり、ターゲット利用率が向上する。
【0119】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態を説明する。
【0120】
図8は第三実施形態による磁場発生装置28をターゲット26側から見た平面図である。
【0121】
図8に示す磁場発生装置28は、第二実施形態よりも多い磁石ユニット36(図では14つ)が平板状のヨーク30上に平行に並べられている。
【0122】
各磁石ユニット36は、第二実施形態と同様、5つの磁石パーツ31で構成されている磁石パーツ群である。磁石ユニット36ごとの5つの磁石パーツ31は、図8の上下方向(棒状磁石の中心軸方向)に一直線に並ぶように配置されている。各磁石パーツ31には、磁石パーツ31の長手方向(図8の上下方向)に沿って、図示しない棒状磁石の回転の軸が設けられている。
【0123】
磁石パーツ31の構造は上述の第一実施形態と同様である(図3参照)。
【0124】
各々の磁石ユニット36において、中央部に他より長い磁石パーツ31が配置され、この両端に、中央部の磁石パーツ31よりも短い磁石パーツ31が2つずつ並んでいる。
【0125】
さらに、磁石ユニット36の磁石パーツの配列方向(図8の上下方向)両端に、横長の磁石(長尺磁石)が複数の磁石ユニット36に亘って位置している。この磁石も磁石パーツ31であり、この磁石にも、図8の横方向に沿って、図示しない棒状磁石の回転の軸が設けられている。
【0126】
なお、図8中には、ON状態でN極としてターゲットに作用する磁石パーツ31に"N"と記載し、ON状態でターゲットにS極として作用する磁石パーツ31には"S"と記載してある。何も記載されていない磁石パーツ31はOFF状態を示している。
【0127】
図8(a)では、左から3列目と7列目と11列目の磁石ユニット36の中央に位置する長い磁石パーツ31とその図面上側の短い磁石パーツ31とがON状態でターゲットにS極として働くよう設定される。このとき、それぞれのS極を取り囲んで隣接する各磁石パーツ31はOFF状態に設定される。
【0128】
さらに、そのOFF状態の磁石パーツ31を取り囲んで隣接する磁石パーツ31はN極のON状態とする。つまり、左から1列目と5列目と9列目と13列目の磁石ユニット36を構成する全ての磁石パーツ31と、左から2〜4列目と6〜8列目と10〜12列目の磁石ユニット36の最下端の磁石パーツ31と、図面上側の横長の磁石パーツ31とが、ON状態でターゲットにN極として働くよう設定される。その他の磁石パーツ31はOFF状態である。
【0129】
このような状態に各磁石を設定すると、S極とそれを取り囲むN極との間に電子のドリフト運動が生じて閉ループを描く。本実施形態の場合、図8(a)中に太い矢印38で示すように、3つの閉ループを描く電子のドリフト運動が生じる。これらの閉ループに沿ってターゲット26上にエロージョンが形成される。
【0130】
次に、ターゲットにS極とこれを囲むようにN極とが働いている状態が図8(a)から図8(b)では図面右側に、図8(b)から図8(c)では図面下側に、図8(c)から図8(d)では図面左側に移動するように、磁石パーツ31の磁石設定が図8(b)〜(d)に示すように順次変更される。
【0131】
このように磁石の設定状態を変えて、3つの閉ループを描く電子のドリフト運動を同時に動かしていき、こうした動きを繰り返す。
【0132】
このように本実施形態によれば、広いターゲットに対しても複数の電子のドリフト運動の閉ループを形成して同時に動かすことができ、ターゲットの非エロージョン領域の解消とエロージョンの均一化が可能となる。
【0133】
(第四実施形態)
次に第四実施形態を説明する。
【0134】
磁石を使用したマグネトロンスパッタでは、成膜の膜厚分布の調整や、ターゲット利用率の向上などの目的で、一度作製した磁石を後で磁場調整して使用することがある。従来はこの磁場調整を、磁石の交換や磁石の加工により形状を変更したり、磁石の表面に薄い磁性体の板を貼って磁力を弱めたりして行っていた。
【0135】
一般に、ターゲット26上のターゲット面に平行な磁束密度成分が大きいところはエロージョンが深くなり、小さいところは浅くなることが知られている。
【0136】
そこで、本発明に係る磁石パーツ31を用いた磁場調整について述べる。
【0137】
本発明に係る磁石パーツ31は磁石のON/OFFだけでなく、その間の磁束密度にその強度を調整可能である。図9に示すように棒状磁石33を回転してONとOFFの中間の状態で、磁極を斜めの位置で止めると、ターゲット26上の磁束密度は磁石がON状態のときより弱くなる。このとき、ターゲット26上のターゲット面に平行な磁束密度成分の強度が弱くなるのみで、磁力線29の形はほとんど変化しない。棒状磁石のみの単純な磁石構造では斜めに磁石の磁極を停止すると磁束密度の変化と同時に磁力線の形も変化してしまう。
【0138】
図9の状態では、図の左から1番目と5番目の磁石パーツ31がターゲット26に対して弱いN極として働き、図の左から3番目の磁石パーツ31がターゲット26に対して弱いS極として働く。その他の磁石パーツ31はOFF状態である。
【0139】
このような弱いN極と弱いS極を結ぶ磁力線29がターゲット26のターゲット面と平行になる場所を中心にエロージョン領域32が形成される。この場合のエロージョンは磁石パーツ31がON状態のときに形成されるエロージョンよりも浅くなる。
【0140】
この特性を使って、ターゲット26上の磁束密度を調整する場合の実施形態を図10に示す。
【0141】
本実施形態は図6に示した形態と同じで、エロージョンを図10の横方向のみ動かす例である。図6では各列の磁石ユニット36において磁石パーツ31が図の上下方向に3つ並べられていたが、本実施形態では6つ並べられている。
【0142】
任意の磁石ユニット36を構成する各磁石パーツ31の磁束密度が棒状磁石の回転角度で調整される。図10では図面上下方向の中央付近に在る2つの磁石パーツ31の磁力を弱くした例が示されている。
【0143】
なお、図10中には、弱いN極としてターゲットに作用する磁石パーツ31に"弱N"と記載し、弱いS極としてターゲットに作用する磁石パーツ31には"弱S"と記載してある。また、通常のON状態の磁石パーツ31には"N"または"S"と記述し、OFF状態の磁石パーツ31には何も記載していない。
【0144】
図10に示すように磁石設定すると、図面上下方向中央付近のエロージョンは浅くなり、それ以外のエロージョンは深くなる。エロージョン速度が低いターゲット中央部に対応する基板部位は成膜速度が低くなり、エロージョン速度が高いターゲット端部に対応する基板部位は成膜速度が高くなる。
【0145】
また、図6から図8に於けるように磁石ユニットの上下方向に磁場密度の大きさが一定の場合は、ターゲット中央部に対面する基板部分には四方からスパッタ粒子が飛来するので、成膜速度は高くなる。一方、ターゲット端部に対面する基板分では片側からのスパッタ粒子の飛来である為、成膜速度は低くなる。その結果、基板面内での膜厚分布が悪化する。
【0146】
しかし、本実施形態のようにターゲット上の場所に応じて磁場調整を施すことで基板の膜厚分布が良好になる。
【0147】
本発明によれば、磁石パーツ31の棒状磁石の回転角度で磁場調整が行えるため、磁場調整作業が容易になった。
【0148】
また本実施形態においても、図10(a)に示す状態→図10(b)に示す状態→図10(c)に示す状態→図10(b)に示す状態→図10(a)に示す状態→図10(b)に示す状態→図10(c)に示す状態→・・・という順番に磁石設定を変えながらターゲット26上のエロージョン領域の移動を繰り返すことで、エロージョン領域がターゲット26の全面にほぼ均一に形成される。この場合、第三実施形態および第四実施形態の手法を本実施形態に適用できることは言うまでもない。
【0149】
また、本実施形態に於いては、棒状磁石33が磁性体のヨーク34で囲まれているが、これにより隣接の棒状磁石33に至る磁束密度が減少する。棒状磁石33内で棒状磁石33の回転に伴い磁束密度が時間的に変化するといわゆる渦電流が誘起される。その結果、棒状磁石33内でジュール熱が発生し、その結果、棒状磁石33の磁力が弱まる。しかし、本発明においては、ヨーク34により、隣接する棒状磁石33に至る磁束密度が減少する為、上記問題の影響を減少できるという有利な効果がある。
【0150】
以上本発明の実施形態について図面をもとに説明したが、本発明の技術思想を逸脱しない範囲において、図示した構造に限定することなく、上記実施形態を適宜変更することも可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場発生装置であって、
永久磁石と、前記永久磁石の外周側面を囲むように配置されている磁性体よりなる分離されているヨークと、前記ヨークの間に位置する非磁性体と、を有する磁石組立が、少なくとも3個以上一直線に沿って配置されることにより構成される磁石組立群を備え、
一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立が一の面側に一の極性を示し、
前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさは、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2以上の隣接した磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさより小さく、
前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立は、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立の極性と反対の極性を前記一の面側に示す磁石組立又は永久磁石に隣接して囲まれることを特徴とする磁場発生装置。
【請求項2】
複数の前記磁石組立群は、前記一の面に対して平行な同一平面上に配置され、且つ、前記一直線は互いに平行に配置されており、
前記一直線に対して交差するように、複数の前記磁石組立群の両端部に前記永久磁石が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の磁場発生装置。
【請求項3】
前記一直線を回転軸として、前記磁石組立における前記永久磁石を独立に回転させる回転手段と、
前記一の面側の磁束密度を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づき、前記回転手段の回転を制御する制御手段と、を更に有することを特徴とする請求項1に記載の磁場発生装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記磁石組立における前記永久磁石の回転を独立に制御することを特徴とする請求項3に記載の磁場発生装置。
【請求項5】
前記一の面に対して平行な同一平面上に配置され、且つ、前記一直線が互いに平行に6個以上の前記磁石組立群が配置されており、
前記6個以上の磁石組立群のうち、隣接する5つの磁石組立群間では、
(i)一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立が一の面側に一の極性を示すこと、(ii)前記一の磁石組立群を構成している一つ又2つ以上の隣接している磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさは、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさより小さいこと、(iii)前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を囲む包囲磁石組立は、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立の極性と反対の極性を前記一の面側に示す磁石組立又は永久磁石に隣接して囲まれること、により磁場の相互関係が維持され、
前記制御手段は、前記磁場の相互関係を維持しつつ前記一の面に発生する発生磁場が移動するように前記6個以上の前記磁石組立群におけるそれぞれの前記永久磁石の回転を制御することを特徴とする請求項3に記載の磁場発生装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記磁場の相互関係を維持しつつ前記一の面に発生する磁場の位置が前記一直線に沿って移動するように、前記6個以上の前記磁石組立群におけるそれぞれの前記永久磁石の回転を制御することを特徴とする請求項5に記載の磁場発生装置。
【請求項7】
前記永久磁石の外形は円柱であり、前記円柱の中心軸を通る面に対して所定の角度で磁化されていることを特徴とする請求項1に記載の磁場発生装置。
【請求項8】
前記所定の角度は90度であることを特徴とする請求項7に記載の磁場発生装置。
【請求項9】
前記非磁性体に接する部分の前記ヨークの厚さが2mm以上であり、分離されている前記ヨークの間隔に対応する前記非磁性体の幅が9mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁場発生装置。
【請求項10】
スパッタ装置であって、
請求項1に記載の磁場発生装置と、
一の面側に前記磁場発生装置が配置され、前記一の面に対して反対側にターゲットを保持するためのターゲット保持手段と、
前記ターゲットに対向した位置に基板を保持するための基板保持手段と、を備えることを特徴とするスパッタ装置。
【請求項11】
永久磁石と、前記永久磁石の外周側面を囲むように配置される磁性体よりなる分離されているヨークと、前記ヨークの間に位置する非磁性体と、を有する磁石組立が、少なくとも3個以上一直線に沿って配置されることにより構成される磁石組立群を備えた磁場発生装置による磁場発生方法であって、
6個以上の磁石組立群のうち、隣接する5つの磁石組立群間において磁場を発生させる発生工程と、
前記発生工程で発生した前記磁場の相互関係を維持しつつ、前記磁場の発生位置を移動させる移動工程とを有し、
隣接する5つの前記磁石組立群間では、
(i)一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の磁石組立が一の面側に一の極性を示すこと、(ii)前記一の磁石組立群を構成している一つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさは、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさより小さいこと、(iii)前記一の磁石組立群を構成している一つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立は、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立の極性と反対の極性を前記一の面側に示す磁石組立又は永久磁石に隣接して囲まれること、により磁場の相互関係が維持されることを特徴とする磁場発生方法。
【請求項12】
請求項10に記載のスパッタ装置を用いて基板を処理する工程を有することを特徴とするデバイスの製造方法。
【請求項1】
磁場発生装置であって、
永久磁石と、前記永久磁石の外周側面を囲むように配置されている磁性体よりなる分離されているヨークと、前記ヨークの間に位置する非磁性体と、を有する磁石組立が、少なくとも3個以上一直線に沿って配置されることにより構成される磁石組立群を備え、
一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立が一の面側に一の極性を示し、
前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさは、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2以上の隣接した磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさより小さく、
前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立は、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立の極性と反対の極性を前記一の面側に示す磁石組立又は永久磁石に隣接して囲まれることを特徴とする磁場発生装置。
【請求項2】
複数の前記磁石組立群は、前記一の面に対して平行な同一平面上に配置され、且つ、前記一直線は互いに平行に配置されており、
前記一直線に対して交差するように、複数の前記磁石組立群の両端部に前記永久磁石が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の磁場発生装置。
【請求項3】
前記一直線を回転軸として、前記磁石組立における前記永久磁石を独立に回転させる回転手段と、
前記一の面側の磁束密度を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づき、前記回転手段の回転を制御する制御手段と、を更に有することを特徴とする請求項1に記載の磁場発生装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記磁石組立における前記永久磁石の回転を独立に制御することを特徴とする請求項3に記載の磁場発生装置。
【請求項5】
前記一の面に対して平行な同一平面上に配置され、且つ、前記一直線が互いに平行に6個以上の前記磁石組立群が配置されており、
前記6個以上の磁石組立群のうち、隣接する5つの磁石組立群間では、
(i)一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立が一の面側に一の極性を示すこと、(ii)前記一の磁石組立群を構成している一つ又2つ以上の隣接している磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさは、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさより小さいこと、(iii)前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を囲む包囲磁石組立は、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立の極性と反対の極性を前記一の面側に示す磁石組立又は永久磁石に隣接して囲まれること、により磁場の相互関係が維持され、
前記制御手段は、前記磁場の相互関係を維持しつつ前記一の面に発生する発生磁場が移動するように前記6個以上の前記磁石組立群におけるそれぞれの前記永久磁石の回転を制御することを特徴とする請求項3に記載の磁場発生装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記磁場の相互関係を維持しつつ前記一の面に発生する磁場の位置が前記一直線に沿って移動するように、前記6個以上の前記磁石組立群におけるそれぞれの前記永久磁石の回転を制御することを特徴とする請求項5に記載の磁場発生装置。
【請求項7】
前記永久磁石の外形は円柱であり、前記円柱の中心軸を通る面に対して所定の角度で磁化されていることを特徴とする請求項1に記載の磁場発生装置。
【請求項8】
前記所定の角度は90度であることを特徴とする請求項7に記載の磁場発生装置。
【請求項9】
前記非磁性体に接する部分の前記ヨークの厚さが2mm以上であり、分離されている前記ヨークの間隔に対応する前記非磁性体の幅が9mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁場発生装置。
【請求項10】
スパッタ装置であって、
請求項1に記載の磁場発生装置と、
一の面側に前記磁場発生装置が配置され、前記一の面に対して反対側にターゲットを保持するためのターゲット保持手段と、
前記ターゲットに対向した位置に基板を保持するための基板保持手段と、を備えることを特徴とするスパッタ装置。
【請求項11】
永久磁石と、前記永久磁石の外周側面を囲むように配置される磁性体よりなる分離されているヨークと、前記ヨークの間に位置する非磁性体と、を有する磁石組立が、少なくとも3個以上一直線に沿って配置されることにより構成される磁石組立群を備えた磁場発生装置による磁場発生方法であって、
6個以上の磁石組立群のうち、隣接する5つの磁石組立群間において磁場を発生させる発生工程と、
前記発生工程で発生した前記磁場の相互関係を維持しつつ、前記磁場の発生位置を移動させる移動工程とを有し、
隣接する5つの前記磁石組立群間では、
(i)一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の磁石組立が一の面側に一の極性を示すこと、(ii)前記一の磁石組立群を構成している一つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさは、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立により生成される前記一の面側の磁束密度の大きさより小さいこと、(iii)前記一の磁石組立群を構成している一つ又は2つ以上の隣接した磁石組立を隣接して囲む包囲磁石組立は、前記一の磁石組立群を構成している1つ又は2つ以上の隣接した磁石組立の極性と反対の極性を前記一の面側に示す磁石組立又は永久磁石に隣接して囲まれること、により磁場の相互関係が維持されることを特徴とする磁場発生方法。
【請求項12】
請求項10に記載のスパッタ装置を用いて基板を処理する工程を有することを特徴とするデバイスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−299184(P2009−299184A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106310(P2009−106310)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】
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