説明

磁性材、人工媒質および磁性材の製造方法

【課題】高周波域において、放射特性の向上するアンテナ装置の実現を可能とする高周波磁性材、人工媒質および高周波磁性材の製造方法を提供する。
【解決手段】磁性金属ナノ粒子、誘電体および空隙を有する磁性材であって、磁性金属ナノ粒子の平均粒径が200nm以下であり、磁性金属ナノ粒子がFe、Co、Niの少なくとも1種類以上の磁性金属を含有し、誘電率の実数部(ε’)より透磁率の実数部(μ’)が大きいことを特徴とする高周波磁性材。また、この高周波磁性材料20を、金属平板10と共振回路層18との間に配置した人工媒質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に100MHzからGHzの範囲での高周波域で用いる磁性部品等に有用な高周波磁性材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信情報の急増に伴い電子通信機器の小型化、軽量化が図られている。これに伴って、電子部品の小型化、軽量化が望まれている。現在の携帯通信端末は、情報伝播の多くを電波の送受信にて行っている。現在用いられている電波の周波数帯域は、100MHz以上の高周波領域である。そこで、この高周波領域において有用な電子部品および基板に注目が集まっている。また、携帯移動体通信、衛生通信においては、GHz帯の高周波域の電波が使用されるようになってきている。
【0003】
このような高周波域の電波に対応するためには、電子部品においてエネルギー損失や伝送損失が小さいことが必要である。例えば、携帯通信端末に不可欠なアンテナ材では、アンテナから発生される電波は伝送過程において伝送損失が生じる。この伝送損失は、熱エネルギーとして電子部品および基板内で消費されて電子部品における発熱の原因となるため好ましくない。この結果、外部に送信すべき電波が打ち消されるために、必要以上の強力な電波を送信する必要があり、省電力化という点で問題があった。またアンテナ材では、小型化、省電力化に加え、アンテナ特性の広帯域化も要求されている。
【0004】
電子部品の小型化、軽量化への要望の高まりに伴って、各電子部品が小型になり省スペース化を図っているにも拘わらず、アンテナ材は上述した理由により伝送損失を抑えるために電子部品および基板からの距離を確保することが必要不可欠である。このため、不要な空間を有することを余儀なくされるため、省スペース化を図ることが難しいという問題がある。そこで、誘電体セラミックスを用いたアンテナが開発されており、アンテナの小型化を達成することにより省スペース化が可能となっている(例えば、特許文献1)。しかしながら、誘電体は誘電損失を持つため、結果的に伝送損失が大きくなり、送受信感度が得られず、補助的なアンテナとして用いているのが現状であり、省電力化には限界がある。
【0005】
アンテナの省電力化の方法として、高透磁率の絶縁基板に、アンテナから通信機器内の電子部品や基板へ到達する電波を巻き込んで電子部品や基板へ電波を到達させずに送受信を行う方法がある。通常の高透磁率材は金属もしくは合金であるが、電波の周波数が高くなると渦電流による伝送損失が顕著になるためにアンテナ基板としては使用できない。一方、フェライトに代表される絶縁性酸化物の磁性体をアンテナ基板として用いた場合、渦電流による伝送損失は抑えられるが、数百Hzの高周波では共鳴周波数に近づき、共鳴による伝送損失が顕著になり使用できない。このため、アンテナ基板の材料として、高周波数の電波に対しても使用できる伝送損失を極力抑えた絶縁性の高透磁率材が求められている。
【0006】
絶縁性の高透磁率材を作製する試みとして、スパッタ法などの薄膜技術を用いて磁性金属粒子を絶縁体に高密度分散させた構造の高透磁率薄膜ナノグラニュラー材料が作製されている。しかしながら薄膜技術では厚膜を作ることが難しく更に絶縁性が小さい。また製造コスト高であるため高透磁率厚膜ナノグラニュラー材を得る方法としては最適ではない。
【0007】
そこで磁性金属材料をナノ粒子化してこれを絶縁体に分散して高透磁率厚膜ナノグラニュラー材を作製しようという試みがある。しかしながら、高透磁率を実現するためには磁性金属材料を高密度充填する必要があるがナノ粒子を高密度充填して絶縁性を保つことは非常に難しく通常の方法でこれを作製することは困難である。
【0008】
これとは別に金属板と誘電体を組み合わせて回路を形成した人工媒質と呼ばれる構造を用いることで同様のアンテナ基板を作製することが可能である。しかし、この人工媒質は1−2GHzの周波数帯では小型化が難しい。
【特許文献1】特開2005−216518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの問題を解決するために発明者らはナノグラニュラー磁性材と人工媒質構造を組み合わせ新たな構造を用いることで非常に優れたアンテナ材としての特性を示すことを見出した(特願2007−188399)。
【0010】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、高周波域において、アンテナ装置の小型化、広帯域化および省電力化の実現を可能とする高周波磁性材、人工媒質および高周波磁性材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様の高周波磁性材は、磁性金属ナノ粒子、誘電体および空隙を有する磁性材であって、前記磁性金属ナノ粒子の平均粒径が200nm以下であり、前記磁性金属ナノ粒子がFe、Co、Niのうち少なくとも1種類以上の磁性金属を含有し、誘電率の実数部(ε’)より透磁率の実数部(μ’)が大きいことを特徴とする。
【0012】
上記高周波磁性材において、前記磁性金属ナノ粒子の前記磁性材に対する体積率が10%以上50%以下であり、前記誘電体の前記磁性材に対する体積率が10%以上75%以下であり、前記空隙の前記磁性材に対する体積率が5%以上65%以下であることが望ましい。
【0013】
上記高周波磁性材において、前記磁性金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部が酸化物に被覆されていることが望ましい。
【0014】
上記高周波磁性材において、前記磁性金属ナノ粒子が非磁性金属と、C(カーボン)またはN(窒素)の少なくとも1つを含有し、前記酸化物が前記非磁性金属のうち少なくとも1つの酸化物を含有することが望ましい。
【0015】
上記高周波磁性材において、前記磁性金属ナノ粒子の結晶磁気異方性が23.9×10A/m以上であることが望ましい。
【0016】
上記高周波磁性材において、前記誘電体がエポキシ系、PVB、PVA、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリプロポレン、ポリイミド、ポリエステルから選ばれる少なくとも1種からなることが望ましい。
【0017】
上記高周波磁性材において、前記誘電体が酸化物、窒化物または炭化物から選ばれる少なくとも1種の無機材料であることが望ましい。
【0018】
上記高周波磁性材において、前記空隙内に不活性ガスが含まれることが望ましい。
【0019】
本発明の一態様の人工媒質は、金属平板と、前記金属平板に接続部で接続される少なくとも2つの共振回路を含む共振回路層と、前記金属平板と前記共振回路層との間に配置される高周波磁性材とを具備する人工媒質であって、前記高周波磁性材が上記いずれかの高周波磁性材であることを特徴とする。
【0020】
本発明の一態様の高周波磁性材の製造方法は、磁性金属ナノ粒子を第1の溶媒に分散し、磁性金属ナノ粒子分散液を作成する工程と、前記第1の溶媒に不溶である誘電体を、第2の溶媒に溶解し、誘電体溶液を作成する工程と、前記磁性金属ナノ粒子分散液と前記誘電体溶液を混合後スラリー化して成型する工程とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高周波域において、アンテナ装置の小型化、広帯域化および省電力化の実現を可能とする高周波磁性材、人工媒質および高周波磁性材の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
アンテナ装置に磁性材を組み込む場合、そのアンテナ特性は磁性材の複素透磁率μ=μ’−jμ”、複素誘電率ε=ε’−jε”の実数部μ’、ε’および虚数部μ”、ε”の大きさに依存する。例えば、アンテナのサイズは、磁性材の透磁率実数部μ’と誘電率実数部ε’の積の平方根におおよそ反比例する傾向にある。また、アンテナの広帯域化の程度は、磁性材の透磁率実数部μ’の平方根におおよそ比例し、誘電率実数部ε’の平方根におおよそ反比例する傾向にある。また、伝送損失の大きさは、透磁率虚数部μ”/透磁率実数部μ’および誘電率虚数部ε”/誘電率実数部ε’の大きさにおおよそ比例する。
【0023】
したがって、広帯域化を実現しようとする場合、誘電率実数部ε’<透磁率実数部μ’の関係が実現されることが望ましい。また、同時に、伝送損失を小さくするためには、透磁率虚数部μ”/透磁率実数部μ’および誘電率虚数部ε”/誘電率実数部ε’が小さいことが望ましい。
【0024】
もっとも、従来の磁性材では、特に、誘電率実数部ε’<透磁率実数部μ’の関係を充足させることが困難であった。発明者らは、磁性材中の空隙率を制御することで、磁性材が誘電率実数部ε’<透磁率実数部μ’の関係を充足しうることを見出した。本発明は、発明者らによって見出された上記知見をもとに完成されたものである。以下本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態の高周波磁性材は、磁性金属ナノ粒子、誘電体および空隙を有する磁性材である。そして、この磁性金属ナノ粒子の平均粒径が200nm以下であり、磁性金属ナノ粒子がFe、Co、Niのうち少なくとも1種類以上の磁性金属を含有している。そして、この高周波磁性材の誘電率の実数部(ε’)より透磁率の実数部(μ’)が大きいことを特徴とする。
【0026】
本実施の形態の高周波磁性体は、上記構成を有することにより、この高周波磁性体を用いたアンテナ装置の小型化、広帯域化および省電力化の実現を可能とする。すなわち、上記構成により、高い透磁率実数部(μ’)が実現されることで、アンテナ装置の小型化に寄与する。とともに、誘電率実数部(ε’)<透磁率実数部(μ’)であることが、アンテナ装置の広帯域化に寄与する。また、同時に、透磁率虚数部μ”/透磁率実数部μ’および誘電率虚数部ε”/誘電率実数部ε’が小さくなることで伝送損失が小さくなり、省電力化が実現される。
【0027】
ここで、磁性金属ナノ粒子の磁性材に対する体積率が10%以上50%以下であることが望ましい。また、誘電体の磁性材に対する体積率が10%以上75%以下であることが望ましい。また、空隙の磁性材に対する体積率が5%以上65%以下であることが望ましい。
【0028】
磁性金属ナノ粒子の磁性材に対する体積率が上記範囲を下回ると、透磁率が小さくなりすぎ、アンテナ装置の小型化および広帯域化が困難になるおそれがあり好ましくない。また、上記範囲を上回ると、絶縁性が劣化し、アンテナ装置の伝送損失が大きくなるおそれがあるため望ましくない。
【0029】
誘電体の磁性材に対する体積率が上記範囲を下回ると、誘電率が小さくなりすぎるためアンテナ装置の小型化が困難になるおそれがあり望ましくない。また、上記範囲を上回ると、誘電率が大きくなりすぎ広帯域化の実現が困難となるおそれがあり好ましくない。
【0030】
空隙の磁性材に対する体積率が上記範囲を下回ると、誘電率実数部(ε’)<透磁率実数部(μ’)の実現が困難となりアンテナ装置の広帯域化が困難となるため望ましくない。また、上記範囲を上回ると、透磁率および誘電率が小さくなりすぎ、アンテナ装置の小型化が困難になるおそれがあり好ましくない。
【0031】
さらに、磁性金属ナノ粒子の磁性材に対する体積率が10%以上30%以下であることがより望ましい。また、誘電体の磁性材に対する体積率が25%以上35%以下であることがより望ましい。また、空隙の磁性材に対する体積率が50%以上65%以下であることがより望ましい。
【0032】
磁性金属ナノ粒子に含有される磁性金属は、Fe、Co、Ni、の少なくとも1種類以上を含み、その中でも高い飽和磁化を実現できるFe基合金、Co基合金、FeCo基合金が特に好ましい。Fe基合金、Co基合金としては、第2成分としてNi、Mn、Cu、Mo、Crなどを含有したFeNi合金、FeMn合金、FeCu合金、FeMo合金、FeCr合金、CoNi合金、CoMn合金、CoCu合金、CoMo合金、CoCr合金が挙げられる。FeCo基合金としては、第2成分として、Ni、Mn、Cu、Mo、Crを含有させた合金などが挙げられる。これらの第2成分は透磁率を向上させるのに効果的な成分である。
【0033】
また、磁性金属粒子は、平均粒径1nm以上200nm以下が好ましく、その中でも特に、10nm以上50nm以下が好ましい。粒径が10nm未満では、超常磁性が生じたりして磁束量が足りなくなってしまう。一方、粒径が大きくなると高周波領域で渦電流損失が大きくなり、狙いとする高周波領域での磁気特性が低下してしまう。また、単磁区構造よりも多磁区構造をとった方がエネルギー的に安定となる。この時、多磁区構造の透磁率の高周波特性は、単磁区構造の透磁率の高周波特性よりも悪くなってしまう。よって、高周波用磁性部材として使用する場合は、単磁区構造を有する粒子として存在させる方が好ましい。単磁区構造を保つ限界粒径は、50nm程度以下であるため、粒径は50nm以下にする方がより望ましい。以上から、金属粒子の平均粒径は1nm以上200nm以下、その中でも特に10nm以上50nm以下の範囲におさめることが好ましい。
【0034】
また、磁性金属ナノ粒子は、球状粒子でも良いが、アスペクト比が大きい扁平粒子、棒状粒子が好ましい。アスペクト比を大きくすると、形状による磁気異方性を付与する事ができ透磁率の高周波特性が向上するだけでなく、粒子を一体化して部材を作製する際に磁場によって配向させやすい。配向することによって透磁率の高周波特性は更に向上する。
【0035】
また、アスペクト比を大きくすると、単磁区構造となる限界粒径を大きくする事ができ、大きな粒子でも透磁率の高周波特性は劣化しない。球状だと単磁区構造となる限界粒径は50nm程度だが、アスペクトの大きな扁平粒子だと限界粒径は大きくなる。一般に粒径の大きな粒子の方が合成しやすいため、製造上の観点からアスペクト比が大きい方が有利となる。更には、アスペクト比を大きくする事によって、粒子を一体化して部材を作製する際に磁性金属ナノ粒子の充填率を大きくする事ができ、それによって部材の体積あたり、重量あたりの飽和磁化を大きくする事ができるため好ましい。それによって透磁率も大きくする事が可能となる。
【0036】
磁性金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部が酸化物に被覆されていることが望ましい。この酸化物被覆層は、内部の磁性金属粒子の耐酸化性を向上させるだけでなく、粒子を一体化して部材を作製する際に磁性金属粒子同士を電気的に離し、部材の電気抵抗を上げる事が出来る。部材の電気抵抗を上げる事によって、高周波における渦電流損失を抑制し、透磁率の高周波特性を向上する事ができる。よって、酸化物被覆層は電気的に高抵抗である必要があり、1mΩ・cm以上である事が好ましい。
【0037】
磁性金属ナノ粒子には、非磁性金属が含有されることが望ましい。非磁性金属は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、希土類元素、Ba、Srから選ばれる少なくとも1つ以上の金属である。これら非磁性金属は酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化しやすい元素であり、磁性金属粒子を被覆する酸化物被覆層の絶縁性の安定性の観点から、好ましい元素である。また、酸化物被覆層が、磁性金属ナノ粒子の構成成分の1つである非磁性金属を1つ以上含む酸化物もしくは複合酸化物である事によって、磁性金属粒子と酸化物被覆層との密着性・接合性がよくなり、熱的にも安定な材料となる。Al、Siは、磁性金属粒子の主成分であるFe、Co、Niと固溶しやすいため、特に熱的安定性の観点から、好ましい。
【0038】
酸化物被覆層の厚さは、0.1nm以上100nm以下の厚さであることが望ましい。0.1nm未満であると、耐酸化性が不十分であるとともに、粒子を一体化して部材を作製する際に部材の抵抗を下げて、透磁率の高周波特性を劣化させる渦電流損失を発生しやすく、好ましくない。また、100nmより厚いと、粒子を一体化して部材を作製する際に部材中に含まれる磁性金属ナノ粒子の充填率を下げ、部材の飽和磁化を下げてしまい、それによって透磁率を下げてしまうため好ましくない。渦電流損失を抑制し、すなわち、高周波特性を劣化させず、かつ、飽和磁化を大きく下げない、すなわち透磁率を下げないために効果的な酸化物被覆層の厚さは、0.1nm以上100nm以下の厚さである。
【0039】
磁性金属ナノ粒子には、C(カーボン)またはN(窒素)の少なくとも1つを含むことが望ましい。カーボン単独、窒素単独でも良いし、カーボンと窒素両方でも良い。カーボン及び窒素は、磁性金属と固溶する事によって、結晶磁気異方性を大きくする事ができる有効な元素である。一般に、磁性材の透磁率実部μ’は強磁性共鳴周波数付近で大きく低下し、透磁率虚部μ”は大きく増加する。大きな結晶磁気異方性を有する材料は、強磁性共鳴周波数を大きくする事ができ、高周波帯域で使用する事の出来る材料となる。磁性金属ナノ粒子の結晶磁気異方性は23.9×10A/m以上であることが特に望ましい。
【0040】
磁性金属ナノ粒子に含有する非磁性金属、カーボン、窒素の含有量は、磁性金属に対していずれも、20at%以下である。含有量がそれ以上になると磁性金属ナノ粒子の飽和磁化を下げてしまい好ましくない。また、磁性金属ナノ粒子に含有する磁性金属と、非磁性金属と、カーボン及び窒素の少なくとも1つとは、固溶している方が好ましい。固溶する事によって、磁気異方性を効果的に向上する事ができ、それによって高周波磁気特性を向上する事が出来る。また、材料の機械的特性を向上する事が出来る。固溶しない場合は、磁性金属粒子の粒界や表面に偏析してしまい、磁気異方性や機械特性を効果的に向上させる事が出来ない。
【0041】
また、磁性金属ノノ粒子は、多結晶粒子、単結晶粒子のいずれでも良いが、単結晶粒子の方が好ましい。単結晶粒子にすることによって、粒子を一体化させる際に磁化容易軸を揃える事ができるために、磁気異方性を制御することができ、高周波特性は多結晶の場合よりも良くなる。
【0042】
本実施の形態の誘電体は特に限定されないが一般的には樹脂が用いられる。具体的にはポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ABS樹脂、ニトリル−ブタジエン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂、或いはそれらの共重合体等を用いることが可能である。
【0043】
特に、エポキシ系、PVB、PVA、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリプロポレン、ポリイミド、ポリエステルから選ばれる少なくとも一種からなることが望ましい。なぜなら、工業用に大量に製造されており、誘電率が比較的小さい樹脂だからである。
【0044】
また、酸化物、窒化物、炭化物などから選ばれる少なくとも一種の無機材料で構成されていても良い。具体的にはAl,AlN,SiO,SiCなどが例としてあげられる。なお、本実施の形態の誘電体は必要とされる周波数帯での複素誘電率の実数部ε’および虚数部ε”が小さいことが好ましい。
【0045】
また、本実施の形態の誘電体は上述した様な樹脂と無機材料の混合体でも良く、例えばエポキシ樹脂にAlを分散させた形態をとっても良い。
【0046】
本実施の形態の空隙内には、特に限定されないが、例えばアルゴン、窒素などの不活性ガスが含まれていることが磁性金属ナノ粒子の酸化を防止する観点から望ましい。特に、不活性ガスで満たされていることが特に望ましい。磁性金属ナノ粒子表面が、酸化物に被覆されている場合であっても、磁性金属ナノ粒子は非常に酸化されやすいため、不活性ガスで空隙を満たすことはやはり有効である。
【0047】
次に、本実施の形態の高周波磁性材の製造方法の一例について説明する。この製造方法は、磁性金属ナノ粒子を第1の溶媒に分散し、磁性金属ナノ粒子分散液を作成する工程と、第1の溶媒に不溶である誘電体を、第2の溶媒に溶解し、誘電体溶液を作成する工程と、磁性金属ナノ粒子分散液と誘電体溶液を混合後スラリー化して成型する工程とを備えることを特徴とする。
【0048】
この製造方法によれば、スラリーを乾燥させ膜化する時に樹脂が網目状の構造体として形成される。このため、成型後に高周波磁性材の空隙体積率を大きくすることが可能となる。なお、磁性金属ナノ粒子としては、先に説明した磁性金属ナノ粒子のいずれをも用いることが可能である。また、成型方法は、特に限定されないが、例えば、ドクターブレード法を用いることが可能である。また、具体的な誘電体と溶媒の組み合わせとしては、第1の溶媒としてシクロヘキサン、第2の溶媒としてアセトン、誘電体としてPVBを用いることが可能である。その他にも、例えば、第1の溶媒としてエタノール、第2の溶媒として水、誘電体としてPVAを用いることが可能である。
【0049】
また、製造方法は上記例に限らないが、スラリー中に空隙を作るような製造方法が有効である。例えば、作製したスラリーにAr等の不活性ガスを導入、バブリングするなどの方法が有効である。また、スラリーを作製する際に不活性ガスを封入し、攪拌することで空隙を取り込む方法も有効である。
【0050】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態の人工媒質は、金属平板と、金属平板に接続部で接続される少なくとも2つの共振回路を含む共振回路層と、金属平板と共振回路層との間に配置される高周波磁性材とを備えている。そして、この高周波磁性材が第1の実施の形態に記載される高周波磁性材であることを特徴としている。
【0051】
図1は、本実施の形態の人工媒質の模式断面図である。図に示すように、グランドプレーンとなる金属平板10には、接続部12を介して共振回路14および16が接続されている。このような、少なくとも2つの共振回路14、16によって共振回路層18が構成される。共振回路14および16は、同一高さに配置され、3つ以上の共振回路が存在する場合でも、全て同一の高さに配置される。そして、金属平板10と共振回路層18との間に第1の実施の形態に記載した高周波磁性材20が配置されている。このように、本実施の形態の人工媒質は、いわゆるマッシュルーム構造を有している。
【0052】
なお、図1に示す構造の場合は、共振回路層18と高周波磁性材20との間には空気の層が存在するが、この構造に限定されることはない。例えば、共振回路層18と高周波磁性材20との間に誘電体層を配置することも可能である。また、人工媒質の構造は図1のようなマッシュルーム構造でなくとも平行平板のような単純構造であっても構わない。また、EBG(Electrmagnetic Band−Gap)構造も有効である。
【0053】
以上説明した実施の形態によれば、アンテナ装置の小型化、広帯域化および省電力化の実現を可能とする高周波磁性材が提供される。また、これを用いた優れた人工媒質が提供される。
【0054】
なお、本実施形態に係る高周波磁性材において、材料組織はSEM(Scanning Electron Microscopy)、TEM(Transmission Electron Microscopy)で、回折パターン(固溶の確認を含む)は、TEM−Diffraction、XRD(X−ray Diffraction)で、構成元素の同定及び定量分析はICP(Inductively coupled plasma)発光分析、蛍光X線分析、EPMA(Electron Probe Micro−Analysis)、EDX(Energy Dispersive X−ray Fluorescence Spectrometer)等で、それぞれ判別(分析)可能である。磁性金属ナノ粒子の平均粒径は、TEM観察、SEM観察により、個々の粒子の最も長い対角線と最も短い対角線を平均したものをその粒子径とし、多数の粒子径の平均から求める。
【0055】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。上記、実施の形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、実施の形態の説明においては、高周波磁性材、人工媒質および高周波磁性材の製造方法等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされる高周波磁性材、人工媒質および高周波磁性材の製造方法等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0056】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての高周波磁性材、人工媒質および高周波磁性材の製造方法は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0058】
なお、以下の実施例での磁性金属ナノ粒子の平均結晶粒径の測定方法は、TEM観察に基づいて行った。具体的には観察(写真)で示された個々の粒子の最も長い径と最も短い径を平均したものをその粒子径とし、その平均から求めた。写真は、単位面積10μm×10μmを3ヶ所以上とり平均値を求めた。微構造の組成分析は、EDX分析を中心に評価した。
【0059】
(実施例1)
高周波誘導熱プラズマ装置にプラズマ発生用のガスとしてアルゴンを40L/min流入し、プラズマを発生させる。ここにCo粉末およびAl粉末を原料として、アルゴンをキャリアガスとして3L/minで噴霧することで平均粒径30nmのCoAl合金ナノ粒子が得られた。この粒子は粒子:PVB:アセトンと100:30:600の割合(重量比)で混合して、アルゴンを封入した容器にてスラリー化した後、直ちにドクターブレード法にて成型し、実施例1の高周波磁性材とした。
【0060】
(実施例2)
高周波誘導熱プラズマ装置にプラズマ発生用のガスとしてアルゴンを40L/min流入し、プラズマを発生させる。ここにFe粉末およびAl粉末を原料として、アルゴンをキャリアガスとして3L/minで噴霧する。この際、炭素被覆の原料としてメタンをキャリアガスに導入し、FeAl合金に炭素被覆されたナノ粒子が得られた。この炭素被覆Fe系ナノ粒子を水素500cc/minフロー下で650℃にて還元処理後、室温まで冷却してから酸素0.1vol%のアルゴン中にて取り出して、コアシェル型粒子を作製した。作製されたコアシェル型粒子は、コアの磁性金属粒子の平均粒径32nm、酸化物被覆層厚さ4nmの構造を有していた。コアの磁性金属ナノ粒子はFe−Al−Cで構成され、酸化物被覆層はFe−Al−Oで構成されていた。コアシェル型粒子は実施例1と同様に成型し、実施例2の高周波磁性材とした。
【0061】
(実施例3)
実施例2のFe粉末およびAl粉末に加えCo粉末を用いることでFeCoAl合金に炭素被覆されたナノ粒子が得られた。この粒子は実施例1と同様に成型され、実施例3の高周波磁性材とした。
【0062】
(実施例4)
実施例3において、スラリー化の際、ナノ粒子をあらかじめシクロヘキサンに投入し分散した後にアセトンに溶解したPVBと混合後、更に分散した後に実施例1同様にシート成型し実施例4の高周波磁性材とした。
【0063】
(比較例1)
実施例1において、スラリー化した後、これを乾燥、造粒した後、ドクターブレード法の代わりに圧縮成型を用いて成型して比較例1の高周波磁性材とした。
【0064】
(比較例2)
実施例1において真空脱泡して後にシート化して比較例2の高周波磁性材とした。
【0065】
実施例1〜4および比較例1、2の評価用試料について、粒子体積率、樹脂体積率、空隙体積率を調べた。体積率はVSM(Vibrating Sample Magetometer)測定から試料の飽和磁化を求め、重量、体積および各構成要素の飽和磁化、密度、混合組成比をもとに計算によって求めた。また、誘電率および透磁率を調べた。誘電率の測定はRFインピーダンスマテリアルアナライザー(Agilent E4991 1MHz−3GHz)にて行った。また、透磁率の測定は凌和電子製透磁率測定器にて行った。その結果を下記表1に示す。
【表1】

表1から明らかなように、実施例1ないし4の高周波磁性材は、μ’・ε’は比較例1、2に及ばなかったが、μ’/ε’が1より大きくなった。すなわち、ε’<μ’の関係を充足した。また、誘電損失ε’’/ε’および透磁損失μ’’/μ’を比較例1、2に対して格段に小さくできた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第2の実施の形態の人工媒質の模式断面図。
【符号の説明】
【0067】
10 金属平板
12 接続部
14 共振回路
16 共振回路
18 共振回路層
20 高周波磁性材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属ナノ粒子、誘電体および空隙を有する磁性材であって、
前記磁性金属ナノ粒子の平均粒径が200nm以下であり、
前記磁性金属ナノ粒子がFe、Co、Niのうち少なくとも1種類以上の磁性金属を含有し、
誘電率の実数部(ε’)より透磁率の実数部(μ’)が大きいことを特徴とする高周波磁性材。
【請求項2】
前記磁性金属ナノ粒子の前記磁性材に対する体積率が10%以上50%以下であり、
前記誘電体の前記磁性材に対する体積率が10%以上75%以下であり、
前記空隙の前記磁性材に対する体積率が5%以上65%以下であることを特徴とする請求項1記載の高周波磁性材。
【請求項3】
前記磁性金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部が酸化物に被覆されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の高周波磁性材。
【請求項4】
前記磁性金属ナノ粒子が非磁性金属と、C(カーボン)またはN(窒素)の少なくとも1つを含有し、
前記酸化物が前記非磁性金属のうち少なくとも1つの酸化物を含有することを特徴とする請求項3記載の高周波磁性材。
【請求項5】
前記磁性金属ナノ粒子の結晶磁気異方性が23.9×10A/m以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項に記載の高周波磁性材。
【請求項6】
前記誘電体がエポキシ系、PVB、PVA、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリプロポレン、ポリイミド、ポリエステルから選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1ないし請求項5いずれか一項に記載の高周波磁性材。
【請求項7】
前記誘電体が酸化物、窒化物または炭化物から選ばれる少なくとも1種の無機材料であることを特徴とする請求項1ないし請求項5いずれか一項に記載の高周波磁性材。
【請求項8】
前記空隙内に不活性ガスが含まれることを特徴とする請求項1ないし請求項7いずれか一項に記載の高周波磁性材。
【請求項9】
金属平板と、
前記金属平板に接続部で接続される少なくとも2つの共振回路を含む共振回路層と、
前記金属平板と前記共振回路層との間に配置される高周波磁性材とを具備する人工媒質であって、
前記高周波磁性材が請求項1ないし請求項8いずれか一項に記載の高周波磁性材であることを特徴とする人工媒質。
【請求項10】
磁性金属ナノ粒子を第1の溶媒に分散し、磁性金属ナノ粒子分散液を作成する工程と、
前記第1の溶媒に不溶である誘電体を、第2の溶媒に溶解し、誘電体溶液を作成する工程と、
前記磁性金属ナノ粒子分散液と前記誘電体溶液を混合後スラリー化して成型する工程とを具備することを特徴とする高周波磁性材の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2010−10237(P2010−10237A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165235(P2008−165235)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】