説明

磁歪材料の製造方法

【課題】製造される焼結体の密度を向上させ得る磁歪材料の製造方法を提供する。
【解決手段】(Tb(x)Dy(1−x))T(y)(Tは、Fe、Ni、Coの群から選択される少なくとも1種類の金属。0.35<x≦0.50、1.70≦y≦2.00)で表される原料Aと、Dy(t)T(1−t)(Dyは、その一部が、TbまたはHoの少なくとも一方により置換されている場合を含む。0.37≦t≦1.00)で表され、水素吸蔵処理により水素を含む原料Bと、Tを含有する原料Cとを混合し、焼結して、(Tb(v)Dy(1−v))T(w)(0.27≦v<0.50、1.70≦w≦2.00)で表される磁歪材料の製造方法であって、原料Bの水素吸蔵処理時に、水素ガス純度が99.999%以上の水素ガスを用いるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料を粉体にして焼結する粉末冶金法を用いた焼結密度の高い磁歪材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属又は合金粉末を高温に加熱して焼結することで、一定の形状の焼結体を製造するのが粉末冶金法である。また、強磁性体を磁化したときに、磁性体の寸法が変化する現象を磁歪といい、このような現象が生ずる材料を磁歪材料という。ここで、R(希土類元素)とFeの化合物であるRFeラーベス型金属間化合物を主体とする磁歪材料が飽和磁歪定数の大きな材料として知られているが、これら材料においては、印加される外部磁界が大きいときには磁歪値が大きいが、外部磁界が小さいときには磁歪値が十分でないという問題を有していた。そこで、RFeラーベス型金属間化合物を主体とする磁歪材料において、低い外部磁界でも磁歪値を大きくする検討が行われ、磁化容易軸であって、磁歪定数の大きい[111]軸方向に配向させることが提案されている。
【0003】
一例として、磁場中での成形で高い配向を得るため、Tb、Dy、T(鉄族金属)からなる原料と、Dy、Tb、Tからなる原料と、Tからなる原料との合金粉を製造し、これら3種類の合金粉を混合し焼結する粉末冶金法を用いた磁歪材料の製造方法が提案されている。しかし、この製造方法では、焼結体の評価項目の一つである焼結密度が必ずしも十分でないという問題点があった。
【0004】
そこで、このような製造方法の改良として、(Tb(x)Dy(1−x))T(y)(Tは、Fe、Ni、Coの群から選択される少なくとも1種類の金属。0.35<x≦0.50、1.70≦y≦2.00)で表される原料Aに対して焼結用融材として機能するDy(t)T(1−t)(Dyは、TbとHoの双方又はいずれか一方を含むことがある。0.37≦t≦1.00)で表される原料Bに水素吸蔵処理を施すことで、焼結体の密度を高くすることが特許文献1に提案されている。また、水素ガスおよびAr等の不活性ガスの混合雰囲気で合金粉の焼結を行うことで、焼結体の密度を高くすることが特許文献2に提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−129274号公報
【特許文献2】特開2003−3203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2、3に提案されている磁歪材料の製造方法では、焼結体の密度が高くなるよう改良されているものの、例えば焼成ロットによっては製造される焼結体の密度が低い場合もあり、焼結密度が必ずしも高くなっていないという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、製造される焼結体の密度を向上させることができる磁歪材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる磁歪材料の製造方法は、(Tb(x)Dy(1−x))T(y)(ここで、Tは、Fe、Ni、Coの群から選択される少なくとも1種類の金属をいう、以下同じ。x、yは、0.35<x≦0.50、1.70≦y≦2.00の範囲にある。)で表される原料Aと、Dy(t)T(1−t)(ここで、Dyは、その一部が、TbまたはHoの少なくとも一方により置換されている場合を含む。tは、0.37≦t≦1.00の範囲にある。)で表され、水素吸蔵処理により水素を含む原料Bと、Tを含有する原料Cとを混合し、焼結して、(Tb(v)Dy(1−v))T(w)(ここで、v、wは、0.27≦v<0.50、1.70≦w≦2.00の範囲にある。)で表される磁歪材料を製造する製造方法であって、前記原料Bの水素吸蔵処理時に、水素ガス純度が99.999%以上の水素ガスを用いるようにしたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる磁歪材料の製造方法は、上記発明において、前記焼結は、水素ガス純度が99.99%以上の水素ガスと不活性ガスとの混合雰囲気で行うようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる磁歪材料の製造方法は、原料Bの水素吸蔵処理時に用いる水素ガスの水素ガス純度に着目し、水素ガス純度が99.999%以上の高純度の水素ガスを用いるようにしたので、製造される焼結体の密度を向上させることができるという効果を奏する。これは、焼結時の融剤として機能する原料Bに水素吸蔵処理を施すことで元々原料Bが粉砕されやすくなるが、水素吸蔵処理に用いる水素ガス純度が高いと、原料Bに水素が一層吸蔵されやすくなり、一層細かく粉砕可能で、粉砕時の不純物も少なく酸化が起こりにくくなり、粉砕粉の表面が活性化すること等に起因して、焼結時に一層の焼結促進が図られ、焼結密度が安定して向上するものと推測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明にかかる磁歪材料の製造方法を実施するための最良の形態を説明する。まず、本実施の形態の磁歪材料の製造方法は、(Tb(x)Dy(1−x))T(y)で表される原料Aを用いる。ここで、原料AのTは、Fe、Co、Niの群から選択される少なくとも1種類の金属で、特に、TはFe単独でも良い。Feは、Tb、Dyと磁歪特性の高い(Tb、Dy)Fe金属間化合物を形成するからである。このときに、Feの一部をCo、Niで置換するものであってもよいが、Coは磁気異方性を大きくするが透磁率を低くし、また、Niはキュリー温度を下げ、結果として常温・高磁場での磁歪値を低下させるために、Feは70wt%以上、一層好ましくは80wt%以上が良い。その他に、Tb、Dy、Hoの希土類金属と合金を形成する遷移金属を含んでいても良い。遷移金属としては、具体的にはMn、Cr、Mo、Wを挙げることができる。原料AのTbの一部は、Dy、Hoを除く希土類(R’)と置換しても良い。R’として、例えば、Nd、Pr、Gd、Y等を挙げることができる。
【0012】
x、yは、0.35<x≦0.50、1.70≦y≦2.00の範囲にある。xが小さいと、最終の磁歪材料となったときに、原料Aが少ないことで、[111]軸方向の配向が困難になり、xが、0.5を超えると、最終の磁歪材料全体に対する原料Aの比率が低下するために焼結後の[111]軸方向の配向度が低くなる。yが1.70未満では、原料Cの混合比率を高くしなければならず、磁歪材料全体に占める原料Aの比率が小さくなり、焼結後の[111]軸方向の配向度が低くなってしまう。yが大きいと(Tb、Dy)T等のFeリッチの相が多くなり、このため、磁場中成形による配向度が低くなり、それにつれて焼結後の磁歪材料の配向度も低くなる。
【0013】
また、本実施の形態の磁歪材料の製造方法は、Dy(t)T(1−t)で表される原料Bを用いる。原料BのTは、Fe、Co、Niの群から選択される少なくとも1種類の金属で、特に、TはFe単独でも良い。このときに、Feの一部をCo、Niで置換するものであってもよく、これにより原料Bは粉砕されやすくなり、焼結による密度を高くすることができる。原料BのDyは、Dy単独でも良いが、一部がTbまたはHoの少なくとも一方により置換されていても良い。tは、0.37≦t≦1.00の範囲にある。DyとTは共晶点を有するので、tがこの範囲以外の組成では、原料Aと原料Cとの混合において、共晶組成であるRTが少なくなり、焼結密度を高くすることが難しくなる。
【0014】
また、原料Bは、水素吸蔵処理により7000ppm≦水素量≦22000ppmの水素を含んでいる。原料Bに水素を吸蔵させることにより、水素化物を形成するか又は水素原子が結晶内に侵入するかは別にして、歪みが生ずるために内部応力に耐えられなくなり、原料Bの粒子は割れが生ずる。このために、原料Bを原料Aと原料Cと混合し、成形体を形成する時に圧力をかけるため、割れの先端に応力が集中して、さらに割れるために、混合した状態の内部で粉砕されて細かくなり、原料Aの間に入り込むことで、焼結したときに緻密で密度の高い焼結体を形成する。さらに、密度を高くすることで気孔の少ない磁歪材料を製造することができる。この原料Bの水素吸蔵処理は、水素ガス純度が99.999%以上の水素ガスを用いて行う。より好ましくは、水素ガス純度が99.99999%以上の水素ガスがよい。このような高純度の水素ガスを用いて原料Bの水素吸蔵処理を行うことで、焼結密度が安定して高くなるからである。
【0015】
原料Bは、水素ガス雰囲気中で水素を吸蔵する処理が行われるが、水素を吸蔵することで、酸化されにくくなる。Tb、Dy、Ho等の希土類は酸化されやすいために、わずかな酸素があっても表面に融点の高い酸化膜が形成されるために焼結の進行を抑制する。そのために、密度が低く、さらに開気孔も多くなる。この開気孔が多くなると、長期間使用している間に、さらにTb等の希土類金属の乾食が進行して酸化が進み、それに伴い磁歪特性が低下する。したがって、原料Bに水素吸蔵処理をして焼結体を製造することで焼結密度を高くし、かつ、磁歪特性の経時的な劣化を抑えることができる。原料Bに、吸蔵させる水素の量としては、7000ppm≦水素量≦22000ppmの範囲がよい。水素の量が7000ppm未満では、水素の量が少なくて原料Bの内部歪みが小さく、成形時の割れが少なく、密度が低く、さらに開気孔も多くなる。さらに、長期間の使用により磁歪特性が低下する。水素量が22000ppmを超えると、原料Bの微細化が飽和し、これ以上吸蔵する効果がない。
【0016】
また、本実施の形態の磁歪材料の製造方法は、Tを含む原料Cを用いる。Tは、上述したように、Fe、Co、Niの群から選択させる少なくとも1種類の金属である。その他に、Tb、Dy、Hoの希土類金属と合金を形成する遷移金属を含んでいても良い。遷移金属としては、具体的にはMn、Cr、Mo、Wを挙げることができる。
【0017】
また、本実施の形態の磁歪材料の製造方法は、前述したような原料Aと原料Bと原料Cとを混合し、焼結して、(Tb(v)Dy(1−v))T(w)で表される磁歪材料を製造するものである。ここで、v、wは、0.27≦v<0.50、1.70≦w≦2.00の範囲にある。vが0.27未満では、常温より低い温度域で十分な磁歪量を示さず、vが0.50以上では常温域で十分な磁歪量を示さない。wが1.70未満では希土類リッチな相が多くなり、wが2.00を超えると、(Tb、Dy)T相等の異相が生じ磁歪量が低下する。
【0018】
原料Aと原料Bと原料Cとの混合の割合は、(Tb(v)Dy(1−v))T(w)で表される磁歪材料になるように適宜決定することができる。磁歪材料に対して、原料Aは50wt%以上で100wt%未満、一層好ましくは60wt%以上で95wt%以下が良い。原料Aが少ないと、磁場中成形で配向するものが少なく、焼結した磁歪材料の配向度が低くなる。原料Aが多いと、水素を含有した原料Bが少なくなるために、焼結密度が高くならず、また、開気孔も多くなるために長期間の使用により乾食が進み、飽和磁歪量が低下する。磁歪材料に対して、原料Bは40wt%以下で、一層好ましくは5wt%以上で30wt%以下が良い。原料Bが少ないと、焼結が進みにくく、緻密で密度の高い焼結体を得ることができない。原料Bが多いと、原料Aが少なくなるため飽和磁歪定数が低下する。また、原料Cは、磁歪材料としたときのTの範囲になるように、原料A、Bの割合を考慮して、添加量を決定する。
【0019】
これらの原料A、B、Cは、秤量してから混合し、粉砕処理される。各原料の平均粒径は、1〜100μm、一層好ましくは5〜20μmが良い。平均粒径が小さいと製造中に酸化する。平均粒径が大きいと焼結が進みにくく、焼結密度が高くならず、開気孔が多くなる。粉砕処理では、湿式ボールミル、アトライタ、アトマイザー等の粉砕機から適宜選択することができる。特に、アトマイザーが好ましい。衝撃と剪断を同時にかけることができ、粉体の凝集を防ぎ、かつ生産性が高いからである。混合したものは、焼結前に所望の形状に成形するが、この成形時は磁場中で行うことで、原料A等を一定方向に揃えて、焼結後の磁歪材料を[111]軸方向に配向させる。印加する磁場は、2.4×10A/m以上、好ましくは4.8×10A/m以上が良い。磁場の方向は、圧力の方向に垂直でも、平行でも良い。成形圧力は、4.9×10Pa以上で、好ましくは2.9×10Pa以上が良い。
【0020】
また、成形体の焼結条件は、適宜行うことができるが、1100℃以上で、好ましくは1150〜1250℃で、1〜10時間行うことがよい。焼結の雰囲気は、Arガス単独雰囲気で開始した後、昇温の途中で水素ガスを導入し、Arガス+水素ガスの混合雰囲気とし、その後、Arガス単独雰囲気とする。また、この焼結時に用いる水素ガスの水素ガス純度は、99.99%以上のものが用いられ、より好ましくは、99.99〜99.99999%のものが用いられる。原料Bに対する水素吸蔵処理に加えて、このような高純度の水素ガスを用いて焼結処理を行うことで、焼結密度が安定して高くなり、磁歪度も安定して向上するからである。
【0021】
このようにして製造された磁歪材料は、多結晶体であり、磁歪が最も大きくなる[111]軸方向に配向している。この磁歪材料の結晶粒の平均粒径は、10μm以上である。結晶粒の平均粒径が小さいと結晶粒界が多くなり外部磁場による磁化率が低くなる。結晶粒の平均粒径の上限は特にないが、200μm以上になると磁歪量はほとんど飽和するためにこれ以上大きくする必要がなく、また、焼結等の時間がかかりすぎ実用的ではない。
【0022】
このようにして製造された磁歪材料(焼結体)に対して時効処理を行った後、所定サイズに分割することで、磁歪素子が得られる。
【実施例】
【0023】
以下、具体的な実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。本実施例では、本発明の磁歪材料の製造方法等を説明するとともに、この製造方法に用いる水素ガスの水素ガス純度との関係で、焼結体の主な評価項目である焼結密度、磁歪値等を評価する。図1は、本発明の実施例にかかる磁歪材料の製造方法を示すフローチャートである。原料Aとして、Tb、Dy、Feを秤量し、Arガスの不活性雰囲気中で溶融して合金を製造した。この原料Aとして、例えば本実施例ではTb0.4Dy0.6Fe1.93の組成にする。この原料Aを、1150℃、20時間安定でアニールする熱処理を行い、合金製造時の各金属元素の濃度分布を一様にし、また、析出した異相を消滅させる。次に、図1中に示すように、この合金をジョークラッシャで10mm程度の大きさに粗粉砕し、さらに、ブラウンミルで数mm程度の大きさに粗粉砕する。粗粉砕された原料Aの粗粉は、メッシュにて2mm以上を除去する。
【0024】
原料Bとしては、Dy、Feを秤量し、例えば、濃度80%、水素ガス純度が99.99999%の水素雰囲気中で150℃、4時間の水素吸蔵処理を行い、その後、500℃、1時間のアニール処理を行ったDyFeが使用される。B原料中に水素吸蔵処理による水素が約12000ppm吸蔵されることにより、B原料による合金が粉砕され、粉状となる。この粉は、メッシュにて2mm以上を除去する。また、本実施例では、原料Cとしては、例えば5μmサイズの鉄粉が用いられる。
【0025】
これらの原料A、B、Cを秤量し、例えばTb0.34Dy0.66Fe1.87となるように配合する。これらの原料A、B、Cを、Arガス雰囲気中でアトマイザーによって微粉砕・混合処理し、横磁場成形機で12KOeなる磁場中で6ton/cmで成形する。材料は酸化防止のために、配管内に窒素ガスを充填した中を移動させる。また、粉の流動性向上のためにパーフルオロポリエーテルの蒸気を供給する。磁場は、圧力の方向に対して垂直方向に印加する。
【0026】
これにより、得られた成形体を1225℃で焼結し焼結体を得る。図2は、焼結処理時の時間−温度特性による焼成パターン例を示す説明図である。まず、炉内の到達真空度1×10−4torrに設定し、ガス流量1.5L/minとしたArガス単独雰囲気で焼成を開始し、炉内温度が950℃に達した時点t1で5分間の初期流量としてAr:1.5L/min、H:5.0L/minに設定されたArガス+水素ガス混合雰囲気とする。その後、流量がAr:1.5L/min、H:1.0L/minに設定されたArガス+水素ガス混合雰囲気で炉内を昇温させ、1150℃に達した時点t2から30分間焼成を行う。その後、炉内を昇温させ、1200℃に達した時点t3で流量が1.5L/minのArガス単独雰囲気に戻す。さらに、炉内を昇温させ、1225℃に達した時点t4から3時間焼成を行い、その後、時点t5から炉内の温度を下げ、920℃に達した時点t6から1時間温度を維持させた後、時点t7から炉冷することにより行う。すなわち、図2中の時点t1〜t3の枠線内がArガス+水素ガス混合雰囲気での処理時を示し、水素ガス濃度は40%としている。また、この焼成時に用いる水素ガスの水素ガス純度は、例えば99.99999%とされる。水素ガス濃度を40%とし、水素ガス純度を99.99999%とすることで、高い焼結密度が得られるためである。なお、水素ガスの影響による巣の低減のために水素ガス導入前(時点t1)、および、水素ガス導入終了時(時点t3)に、複数回の真空引き処理を行う。
【0027】
ここで、原料Bについての水素吸蔵処理時に用いる水素ガスや成形体の焼結時に用いる水素ガスの水素ガス純度について考察する。まず、焼結時のArガス+水素ガス混合雰囲気で用いる水素ガスの水素ガス純度を99.99%に固定し、原料Bについての水素吸蔵処理時に用いる水素ガスの水素ガス純度を変化させた場合の焼結密度(平均値)、そのばらつき(σ値、Cpl値)、磁歪値(平均値)、そのばらつき(σ値、Cpl値)、B原料における粉砕粉の粒径、B原料における水素含有率(水素吸蔵量)、B原料における不純物含有率等に関する測定結果を表1に示す。なお、焼結密度は、アルキメデス法により計測し、磁歪値は、加圧式磁歪値測定装置により計測した。
【0028】
【表1】

【0029】
図3は、表1に示す結果に基づき、水素吸蔵処理時の水素ガス純度と焼結密度との関係を表した特性図である。図4は、表1に示す結果に基づき、水素吸蔵処理時の水素ガス純度と磁歪値との関係を表した特性図である。図5は、表1に示す結果に基づき、水素吸蔵処理時の水素ガス純度とB原料における粉砕粉の粒径との関係を表した特性図である。図6は、表1に示す結果に基づき、水素吸蔵処理時の水素ガス純度とB原料における水素含有率との関係を表した特性図である。図7は、表1に示す結果に基づき、水素吸蔵処理時の水素ガス純度とB原料における不純物含有率との関係を表した特性図である。
【0030】
まず、表1および図3に示す結果によれば、焼結密度は、水素吸蔵処理時の水素ガス純度を99.999%以上に高純度とすることで、直線的に安定して高くなるよう向上することが判る。すなわち、水素ガス純度が99.99%では焼結密度が95%台に留まるのに対して、水素ガス純度が99.999%では焼結密度は96%台後半の良好なる値を示し、水素ガス純度が99.99999%を超えると焼結密度は97%台の高密度で安定することが判る。
【0031】
また、表1および図4に示す結果によれば、焼結体の磁歪値は、水素吸蔵処理時の水素ガス純度の影響は小さいものの、水素ガス純度を高くした方が磁歪値が安定して向上することが判る。すなわち、焼結体強度に対応する焼結密度を向上させても必ずしも磁歪値が向上するとは限らないが、図3および図4を併せて評価すると、使用する水素ガスの水素ガス純度を99.999%以上に高純度化することで、磁歪値を低下させることなく焼結密度を向上させ得ることが判る。
【0032】
また、表1および図5に示す結果によれば、B原料における粉砕粉の粒径は、水素吸蔵処理時の水素ガス純度を99.999%以上に高純度にすることで、より一層安定して細かく粉砕されることが判る。また、表1および図6に示す結果によれば、B原料における水素含有率は、水素吸蔵処理時の水素ガス純度を99.999%以上に高純度にすることで、99.99%以下の場合に比して、急激に向上することが判る。同様に、表1および図7に示す結果によれば、B原料における不純物含有率は、水素吸蔵処理時の水素ガス純度を99.999%以上に高純度にすることで、99.99%以下の場合に比して、急激に低下することが判る。したがって、これらを総合的に評価すると、水素吸蔵処理時に用いる水素ガスの水素ガス純度としては、実施の形態中で前述したように、99.999%以上に高純度のもの、好適には、99.99999%以上に高純度のものとすることが望ましい。
【0033】
つぎに、水素吸蔵処理時の水素ガスの水素ガス純度を99.99999%に固定し、焼結時のArガス+水素ガス混合雰囲気で用いる水素ガスの水素ガス純度を変化させた場合の焼結密度(平均値)、そのばらつき(σ値、Cpl値)、磁歪値(平均値)、そのばらつき(σ値、Cpl値)等に関する測定結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
図8は、表2に示す結果に基づき、焼結時の水素ガス純度と焼結密度との関係を表した特性図である。図9は、表2に示す結果に基づき、焼結時の水素ガス純度と磁歪値との関係を表した特性図である。
【0036】
まず、表2および図8に示す結果によれば、焼結密度は、焼結時の水素ガス純度が99.99%以上であれば、99.9%以下の場合に比して、直線的に安定して高くなるよう向上することが判る。すなわち、水素ガス純度が99.99以上であれば、焼結密度は97%台の高密度で安定することが判る。また、特に図示しないが、表2に示す結果によれば、水素ガス純度が高い程、密度ばらつき(密度のσ値やCpl値)も小さいことが判る。また、表2および図9に示す結果によれば、焼結密度の場合と同様に、焼結体の磁歪値は、焼結時の水素ガス純度が99.99%以上であれば、99.9%以下の場合に比して、直線的に安定して高くなるよう向上することが判る。もっとも、焼結時の水素ガス純度が高くなる程、焼結密度や磁歪値は飽和する傾向にあるため、水素ガス純度を必要以上に高純度にすることによる効果は少なく、上限としては99.99999%程度が妥当といえる。したがって、これらを総合的に評価すると、焼結時に用いる水素ガスの水素ガス純度としては、実施の形態中で前述したように、99.99%以上に高純度のもの、好適には、99.99%〜99.99999%程度のものを用いることが望ましい。
【0037】
このように、本実施例によれば、原料Bの水素吸蔵処理時には、水素ガス純度が99.999%以上の高純度の水素ガスを用いるように、水素ガスの水素ガス純度を規制したので、焼成ロットに左右されることなく、製造される焼結体の密度を安定して向上させることができる。これは、焼結時の融剤として機能する原料Bに水素吸蔵処理を施すことで元々原料Bが粉砕されやすくなるが、水素吸蔵処理に用いる水素ガス純度が99.999%以上に高純度であると、原料Bに水素が一層吸蔵されやすくなり、一層細かく粉砕可能で、粉砕時の不純物も少なく酸化が起こりにくくなり、粉砕粉の表面が活性化すること等に起因して、焼結時に一層の焼結促進が図られ、焼結密度が安定して向上するものと推測される。また、本実施例によれば、原料Bの水素吸蔵処理時だけでなく、成形体の焼結時にも水素ガス純度が99.99%以上の水素ガスを用いるようにしているので、製造される磁歪材料の焼結密度並びに磁歪度を安定して向上させることができ、焼結密度のばらつきも減少させることができることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例にかかる磁歪材料の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】焼結処理時の焼成パターン例を示す説明図である。
【図3】水素吸蔵処理時の水素ガス純度と焼結密度との関係を表した特性図である。
【図4】水素吸蔵処理時の水素ガス純度と磁歪値との関係を表した特性図である。
【図5】水素吸蔵処理時の水素ガス純度とB原料における粉砕粉の粒径との関係を表した特性図である。
【図6】水素吸蔵処理時の水素ガス純度とB原料における水素含有率との関係を表した特性図である。
【図7】水素吸蔵処理時の水素ガス純度とB原料における不純物含有率との関係を表した特性図である。
【図8】焼結時の水素ガス純度と焼結密度との関係を表した特性図である。
【図9】焼結時の水素ガス純度と磁歪値との関係を表した特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Tb(x)Dy(1−x))T(y)(ここで、Tは、Fe、Ni、Coの群から選択される少なくとも1種類の金属をいう、以下同じ。x、yは、0.35<x≦0.50、1.70≦y≦2.00の範囲にある。)で表される原料Aと、Dy(t)T(1−t)(ここで、Dyは、その一部が、TbまたはHoの少なくとも一方により置換されている場合を含む。tは、0.37≦t≦1.00の範囲にある。)で表され、水素吸蔵処理により水素を含む原料Bと、Tを含有する原料Cとを混合し、焼結して、(Tb(v)Dy(1−v))T(w)(ここで、v、wは、0.27≦v<0.50、1.70≦w≦2.00の範囲にある。)で表される磁歪材料を製造する製造方法であって、
前記原料Bの水素吸蔵処理時に、水素ガス純度が99.999%以上の水素ガスを用いるようにしたことを特徴とする磁歪材料の製造方法。
【請求項2】
前記焼結は、水素ガス純度が99.99%以上の水素ガスと不活性ガスとの混合雰囲気で行うようにしたことを特徴とする請求項1に記載の磁歪材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−235435(P2009−235435A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79531(P2008−79531)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】