説明

磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法

【課題】歩留まりがよく、磁気特性に優れた磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】円環状樹脂成型体からなる磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法であって、未配向の異方性磁性粉末を含む樹脂原料12と、円環状のキャビティ11baを備えた成型型11とを準備し、上記キャビティ内に上記樹脂原料を装填して、上記成型型で圧縮加熱成型し、型締めすることにより上記樹脂原料中の磁性粉末を配向させ、その後、その状態で成型型を冷却し、脱型して円環状樹脂成型体を得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用車輪等の回転検出や絶対位置検出に用いられる磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば自動車用車輪の回転検出用磁気エンコーダとしては、車輪軸受部の回転側に固着されるスリンガを芯金とし、このスリンガの鍔状部に、フェライト等の磁性粉末をゴムや樹脂原料に混練配合し、その周方向に多数のN極、S極を着磁形成した成型体(磁石)を貼着してなるものが挙げられる。
下記特許文献1には、上述のような磁気エンコーダの製造方法が開示されており、磁性粉と磁性粉のバインダーとして熱可塑性樹脂とを含有する磁石材料を円環状に射出成型し、その後着磁することによって作製されるプラスチック磁石を用いた磁気エンコーダが記載されている。
【0003】
このようにプラスチック磁石を用いた磁気エンコーダを射出成型により作製する場合には、円環状の成型型に樹脂原料を装填する工程で樹脂原料同士が接合する部分にウェルドができる点が問題となっていた。そこでこの問題点を解消するため、以下の製造方法が採用されていた。
図6は、従来の磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法を示した図である。
図中、Gは樹脂原料を注入するゲート部、Rは製品となる部分の外周部に形成されるランナー部、100は芯金、200は磁性粉末を含む樹脂成型体である。
これによれば、ゲート部Gから注入装填される樹脂原料は、まずランナー部Rに装填されていき、その後、製品となる部分のキャビティ内に樹脂原料が装填されていくので、環状樹脂磁石の製品となる部分にはウェルドの発生がないものとできる。
【特許文献1】特開2006−313117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来の製造方法では、製品となる以外の部分、即ち、ランナー部R及びゲート部G部分に装填される材料は、成型後には不要部分になるにも関わらず、材料として余分に用意する必要があった。また成型後、この不要部分をすべて再使用することは現実的に困難であるので、この方法によって製造される環状樹脂磁石の歩留まりは30%程度に留まり、この歩留まりの悪さが問題となっていた。
【0005】
更に、射出成型により環状樹脂磁石を作製する際、磁性粉末として異方性のフェライトを使用する場合は、成型型のキャビティ内に装填された樹脂原料に外部から磁場をかけ、フェライトを配向させることにより、製品上磁力が均一な環状樹脂磁石を作製することができる。このとき、強い磁気特性を有した環状樹脂磁石とするには、結晶厚さの厚い磁場成型用フェライトを使用する必要があり、このような磁場配向用のフェライトよりも、保磁力が高いとされている鱗片状の機械配向用のフェライトを使用することはできなかった。
しかしながら、近年、プラスチック磁石の開発は盛んになされており、保磁力が高く外部からの影響を受けない良好な磁気特性を備えたプラスチック磁石からなる磁気エンコーダの開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、歩留まりがよく、磁気特性に優れた磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法は、未配向の異方性磁性粉末を含む樹脂原料と、円環状のキャビティを備えた成型型とを準備し、上記キャビティ内に上記樹脂原料を装填して、上記成型型で圧縮加熱成型し、型締めすることにより上記樹脂原料中の磁性粉末を配向させ、その後、その状態で成型型を冷却し、脱型して円環状樹脂成型体を得ることを特徴とする。
請求項2の発明に係る磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法は、磁性粉末として、機械配向用フェライトが用いられることを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明に係る磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法は、未配向の異方性磁性粉末を含む樹脂原料と、円環状のキャビティを備えた成型型とを準備し、上記キャビティ内に上記樹脂原料を装填して、上記成型型で圧縮加熱成型するとともに、上記樹脂成型体となったときに着磁面となる面に対して垂直方向に磁場をかけて上記樹脂原料中の磁性粉末を配向させ、その後、その状態で成型型を冷却し、冷却後、脱磁又は減磁を行い、脱型して円環状樹脂成型体を得ることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明に係る磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法は、キャビティは、円環状芯金を同心的に受容する受容部を更に備え、上記キャビティ内に上記樹脂原料を装填する際、事前に該受容部内に上記芯金を配置することにより、上記芯金と固着一体となった円環状樹脂成型体を得ることを特徴とする。
【0010】
そして請求項5の発明のように、樹脂原料を紐状に押し出して装填して製造することができ、請求項6の発明のように、圧縮加熱成型時の加熱は、高周波誘導加熱によって行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明に係る磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法によれば、円環状樹脂成型体を圧縮加熱成型によって得ることができるので、従来の射出成型によって形成される樹脂成型体のようにゲート部やランナー部に装填される余分な材料を要しない。よって、材料に無駄がなく、歩留まりのよい環状樹脂磁石を得ることができる。
また樹脂原料を装填する際にウェルドが生じても上下成型型の圧縮によって、ウェルドを消すことができ、ウェルドのない環状樹脂磁石を得ることができる。
更に圧縮加熱成型時に、型締めをすることにより、樹脂原料中の異方性磁性粉末を配向させることができるので、磁場配向の工程を要しない。よって、磁場配向設備を不要とし、設備コストを抑制することができる。
【0012】
請求項2の発明に係る磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法によれば、異方性磁性粉末として、機械配向用フェライトを用いることができるので、上述のように磁場配向を行わなくても、圧縮成型時に該フェライトを配向させることができる。よって、強い磁力を備え、保磁力が高い機械配向用フェライトの特性を有した良好な磁気特性を持つ環状樹脂磁石を得ることができる。
【0013】
請求項3の発明に係る磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法によれば、従来の射出成型による成型体のようにゲート部やランナー部に装填される余分な材料を要しない。よって、材料に無駄がなく、歩留まりのよい環状樹脂磁石を得ることができる。
また樹脂原料を装填する際にウェルドが生じても成型装置の圧縮によって、ウェルドを消すことができ、ウェルドのない環状樹脂磁石を得ることができる。
【0014】
請求項4の発明に係る磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法によれば、キャビティは、円環状芯金を同心的に受容する受容部を更に備えているので、芯金と固着一体となった樹脂成型体を得ることができ、このような芯金と固着一体となった樹脂成型体を歩留まりよく製造することができる。
【0015】
請求項5の発明に係る磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法によれば、樹脂原料を紐状に押し出していく方法で装填するので、樹脂原料に無駄が生じず、製造も容易なものとすることができる。
請求項6の発明に係る磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法によれば、圧縮加熱成型時の加熱は、高周波誘導加熱によって行うので、加熱速度が速いため、加熱成型の工程が短時間ですみ、製造効率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の最良の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は本発明の製造方法によって得られた環状樹脂磁石による磁気エンコーダが組み込まれた軸受ユニットの例を示す縦断面図、図2は本発明の製造方法に用いられる成型装置の一部を示す縦断面図、図3は本発明の製造方法の概略的工程図、図4(a)(b)(c)は本発明の別の実施形態の製造方法による成型要領を示す縦断面図、図5は本発明の別の実施形態による製造方法の概略的工程図である。
【実施例1】
【0017】
図1は、自動車の車輪をシャフト1に対して転がり軸受ユニット2により支持する構造の一例を示すものであり、内輪(回転側部材)3を構成するハブ輪3aにボルト3bによりタイヤホイール(不図示)が固定される。また、3cはハブ輪3aに形成されたスプライン孔であり、このスプライン孔3cには駆動シャフト1がスプライン嵌合され且つハブ輪3aに一体固定されて、該駆動シャフト1の回転駆動力がハブ輪3aを介してタイヤホイールに駆動伝達される。3dは内輪部材であり、上記ハブ輪3aと共に内輪3が構成される。
【0018】
4は外輪(固定側部材)であり、車体の懸架装置(不図示)に取付固定される。この外輪4と上記内輪3(ハブ3a及び内輪部材3d)との間に2列の転動体(玉)5…がリテーナ5aで保持された状態で介装されている。S、S’は上記転動体5…の転動部に装填される潤滑剤(グリス等)の漏出を防止し、或いは外部からの泥水や塵埃等の浸入を防止するためのシールリングであって、外輪4と内輪3との間に圧入される。車体側のシールリングSは、外輪4の内周に圧入嵌合されるリング状の芯金6と、該芯金6に固着され、ゴム等の弾性材からなる弾性シール部材(シールリップ)7と、内輪部材3dの外周に外嵌固着される芯金(スリンガ)8とが組合わさって、図のようにパックシールタイプのシールリングとして構成されている。
【0019】
芯金(スリンガ)8は、内輪部材3dの外周に外嵌固着される円筒部8aと、この円筒部8aの一端部にその径方向(遠心方向)に延出形成された外向鍔部(鍔状部)8bとよりなる。
芯金(スリンガ)8における外向鍔部8bの車体側面(外面)には、樹脂原料にフェライト等の異方性磁性粉末を混練してなる円環状樹脂成型体からなり、周方向に多数のN極、S極が交互に並ぶよう着磁形成された磁気エンコーダ9が貼着一体とされている。そして車体側(固定側)には、該磁気エンコーダ9に検出面が対向するよう磁気センサー10が固設され、この磁気センサー10と、磁気エンコーダ9とにより車輪の回転数(回転速度)等の検出がなされる。尚、この磁気エンコーダ9用の環状樹脂磁石の製造方法については後に詳しく説明する。
【0020】
このように内輪3及び外輪4間に組付けられたシールリングSにおいては、駆動シャフト1及び内輪3の軸回転に伴い、スリンガ8が前記駆動シャフト1の軸心周りに軸回転し、この時、磁気エンコーダ9も駆動シャフト1の軸心周りに軸回転し、磁気エンコーダ9の回転に伴うN極、S極の交互の磁気変化を磁気センサー10が検出し、この磁気変化によるパルス信号を計数することにより、駆動シャフト1即ちタイヤホイール(不図示)の回転速度等が算出される。
【0021】
上記芯金6、8は、SPCC等の冷間圧延鋼板を、図例のような形状に板金加工して形成されたものであり、シール部材7は、NBR、H−NBR、ACM、AEM、FKM等から選ばれたいずれかのゴム材が用いられる。
【0022】
次に図2、図3に基づいて本発明の磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法の概要について説明する。
成型装置11は、上金型11a、下金型11b、中子11cで構成されており、上金型11aにはバリ溝11aaが形成されている。そして下金型11bは、環状樹脂成型体の主形状に形成されたキャビティ11baと、円環状の芯金(スリンガ)8を同心的に受容する受容部11bbとを備えている。成型装置11の下金型11bとともに中子11c、ラム(不図示)によって上下昇降し、下金型11bが可動側、上金型11aが固定側となる。本発明の製造方法によれば、環状樹脂磁石は圧縮加熱成型によって成型されるが、その加熱手段としては、加熱速度の速い高周波誘導加熱や埋め込み式のヒータ(熱盤)等が採用される。
【0023】
まず、芯金(スリンガ)8を樹脂成型体と固着一体とするため、樹脂原料を装填させる前に、受容部11bb内に配置する(ステップ1)。そして事前にフェライト粉末等の異方性磁性粉末及び適宜添加材等を所定量混練して調製した樹脂原料12を、円環状キャビティ11ba内に装填していく(ステップ2)。このとき、図2に示すように、紐状に押し出して装填することとすれば、樹脂原料に無駄が生じず、製造を容易なものとすることができる。
そして下金型11bを中子11cとともに、図2の白抜矢示方向Dへと可動させ、圧縮加熱成型し(200〜300℃)(ステップ3)、型締めすることにより樹脂原料12中の磁性粉末を配向させる(ステップ4)。このとき、樹脂原料12中に混練配合された異方性の磁性粉末は、型締めの作用を受けて、その磁化容易軸が型締め方向(白抜矢示方向D)に沿うよう揃えられ、その状態で成型装置11を冷却装置のプレスステーション(不図示)等で冷却され(100〜130℃)(ステップ5)、樹脂原料層内に配向した磁性粉末が固定化される。その後、脱型し、バリを除けば、芯金8と固着一体となった円環状樹脂成型体が得られる(ステップ6)。そして、公知の着磁装置により、樹脂成型体の上記配向方向に沿った磁界を作用させて、多数のN極・S極が周方向に繰返すパターンで着磁すれば(ステップ7)、磁気エンコーダ9が完成する(ステップ8)。
ここで、着磁装置による着磁工程は、脱型後に限られず、磁性粉末を配向させた後に行うものとしてもよい。また樹脂原料12は上述のように紐状に押し出して装填する方法に限定されず、後述のようにピンゲートによって樹脂原料を数箇所から注入して予備形状に装填してから成型する方法(図4参照)、ペレット状の樹脂原料をキャビティ11baに装填するものとしてもよい。更に成型前に芯金8と環状樹脂成型体との固着面に接着剤を塗布しておいてもよく、下金型11bと中子11cは一体化された金型であってもよいことは言うまでもない。
【0024】
異方性磁性粉末としては、フェライト粉末、希土類粉末(NdFeB、SmFeN等)等が採用され、特に上述のように型締めして圧縮成型する場合は、機械配向用フェライトを用いることができる。
環状樹脂磁石の樹脂原料(バインダー)12としては、熱可塑性樹脂であって、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等が採用される。樹脂成型体は、これら樹脂原料(必要によって適宜添加物、可塑剤等を含む)に混練され樹脂組成物として成型されるが、磁性粉末は該樹脂組成物中に70〜95重量%含有される。ここに、含有される磁性粉末が70重量%未満の場合、磁気強度が十分に得られず、95重量%を超えると、バインダーとしての樹脂原料12の結合力が弱くなる傾向となる。
【0025】
以上によれば、従来の射出成型によって製造される環状樹脂磁石のようにゲート部やランナー部に装填される余分な材料を要しないので、材料に無駄がなく、歩留まりのよい磁気エンコーダ9を得ることができる。この製造方法によれば、歩留まりを60%程度とすることができる。
また樹脂原料12を装填する際にウェルドが生じても上下金型11a、11bの圧縮によって、ウェルドを消すことができ、ウェルドのない環状樹脂磁石を得ることができる。例えば図2に示すように樹脂原料12を紐状に押し出して装填する場合、円環状とする際の接合部分がウェルドとなるが、このようなウェルドは後に成型装置11で型締めすることにより消滅させることができる。
【0026】
更に圧縮加熱成型時に、型締めをすることにより、樹脂原料12中の磁性粉末を配向させることができるので、磁場配向の工程を要しない。よって、磁場配向設備を不要とし、設備コストを抑制することができる。
そして従来の射出成型による製造では、磁性粉末として機械配向用のフェライトを用いることができなかったが、上述のような圧縮成型によって製造されるものでは、機械配向用フェライトを用いることができ、磁場成型装置による磁場配向を行わなくても、圧縮成型時に該フェライトを配向させることができる。よって、鱗片状でなり、強い磁力と保磁力が高い機械配向用フェライトの特性を有した良好な磁気特性を持つ環状樹脂磁石を得ることができる。
【0027】
続いて図4、図5に基づいて上述とは別の実施形態の製造方法の概要について説明する。尚、上述の例と同様の箇所には同一の符号を付し、共通する部分の説明は割愛する。
ここに示す実施形態は、樹脂原料12の装填方法と樹脂原料中に含まれる磁性粉末の配向方法が上述の例とは異なる。
図中、13は樹脂原料12を予備形状に装填する注入口となるピンゲート13aを備えた仮金型、14は予備成形台である。成型装置11自体は、上述の例と同様である。
【0028】
まず、芯金(スリンガ)8を予備成形台14に配置し、円環状の芯金8に沿って設けられた数箇所のピンゲート13aを通じて白抜矢示方向D1から樹脂原料12を予備形状に装填していき、予備成形品を形成する(ステップ1、図4(a)参照)。樹脂原料12は事前にフェライト粉末等の異方性或いは等方性の磁性粉末及び適宜添加材等を所定量混練して調製したものを用いる。ピンゲート13aで樹脂原料12を注入すると図4(b)に示すように樹脂原料12の表面にウェルド12aが生じる。そしてこの状態の予備成形品を芯金8が受容部11bbに位置するよう成型装置11のキャビティ11baに配置する(ステップ2)。
配置後、下金型11bを図4(c)の白抜矢示方向Dへと可動させ、圧縮加熱成型し(200〜300℃)(ステップ3)、磁場発生用コイル(不図示)に電流を印加して、樹脂成型体となったときに着磁面となる面に対して垂直方向に磁場を作用させながら、加熱(200〜300℃)し、加圧して、磁場成型がなされる。このとき樹脂原料12の表面にあったウェルド12aは上金型11aによる圧縮で消滅させることができる。樹脂原料12中に混練配合された異方性或いは等方性の磁性粉末は、磁場の作用を受けて、磁場方向に沿うよう揃えられ、その状態で成型装置11を冷却装置のプレスステーション(不図示)等で冷却し(100〜130℃)(ステップ5)、樹脂原料層内に配向した磁性粉末が固定化される。その後、脱磁或いは減磁して(ステップ6)、脱型し、バリを除けば、芯金8と固着一体となった円環状樹脂成型体が得られる(ステップ7)。そして、公知の着磁装置により、樹脂成型体の上記配向方向に沿った磁界を作用させて、多数のN極・S極が周方向に繰返すパターンで着磁すれば(ステップ8)、磁気エンコーダ9が完成する(ステップ9)。
ここで、着磁装置による着磁工程は、脱型後に限られず、磁性粉末を磁場配向させた後或いは磁場配向と同時に行うものとしてもよい。また樹脂原料12の装填方法は上述に限らず、紐状に押し出して装填する方法(図2参照)、ペレット状の樹脂原料をキャビティ11baに装填するものとしてもよい。更に成型時に芯金8と環状樹脂成型体との固着面に接着剤を塗布しておいてもよく、下金型11bと中子11cは一体化された金型であってもよいことは言うまでもない。
【0029】
上記磁性粉末としては、磁場配向用のフェライト粉末、希土類粉末(NdFeB、SmFeN等)等が採用され、環状樹脂磁石の樹脂原料(バインダー)12としては、上述と同様のものを用いることができる。
【0030】
以上によれば、従来の射出成型によって製造される環状樹脂磁石のようにゲート部やランナー部に装填される余分な材料を要しないので、材料に無駄がなく、歩留まりのよい磁気エンコーダ9を得ることができる。この製造方法によれば、歩留まりを60%程度とすることができる。
また樹脂原料12に含まれる磁性粉末は、異方性、等方性のいずれでも用いることができるので、それぞれの特性を活かしつつ、ウェルドのない環状樹脂磁石を得ることができる。
【0031】
尚、上記実施形態では、円環状樹脂成型体が芯金(スリンガ)8と一体としたものについて述べたが、円環状樹脂磁石を着磁し、単独で磁気エンコーダ9とすることも可能である。また、磁気エンコーダ9の形状も図例のものに限定されず、適用される部位に応じて他の形状のものが採用し得ることは言うまでもない。更に、図1では、磁気エンコーダ9を、内輪3が回転側である軸受の一構成部材として組み込んだ例を示したが、外輪4が回転側の軸受や、軸受以外の回転部材に組み込んで構成することも可能である。
そして周方向に多数のN極、S極が交互に並ぶよう着磁形成された磁気エンコーダ9について述べたが、これに限定されず、円環状樹脂磁石における半円部分の外周面部をS極の着磁域、残りの半円部分の外周面部をN極の着磁域とした2極磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法としても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の製造方法によって得られた環状樹脂磁石による磁気エンコーダが組み込まれた軸受ユニットの例を示す縦断面図である。
【図2】本発明の製造方法に用いられる成型装置の一部を示す縦断面図である。
【図3】本発明の製造方法の概略的工程図である。
【図4】(a)(b)(c)は本発明の別の実施形態の製造方法による成型要領を示す縦断面図である。
【図5】本発明の別の実施形態による製造方法の概略的工程図である。
【図6】従来の磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法を示した図である。
【符号の説明】
【0033】
8 芯金(スリンガ)
9 磁気エンコーダ
11 成型装置(成型型)
11ba キャビティ
11bb 受容部
12 樹脂原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状樹脂成型体からなる磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法であって、
未配向の異方性磁性粉末を含む樹脂原料と、円環状のキャビティを備えた成型型とを準備し、上記キャビティ内に上記樹脂原料を装填して、上記成型型で圧縮加熱成型し、型締めすることにより上記樹脂原料中の磁性粉末を配向させ、その後、その状態で成型型を冷却し、脱型して円環状樹脂成型体を得ることを特徴とする磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法において、
前記磁性粉末として、機械配向用フェライトが用いられることを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。
【請求項3】
円環状樹脂成型体からなる磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法であって、
未配向の異方性磁性粉末を含む樹脂原料と、円環状のキャビティを備えた成型型とを準備し、上記キャビティ内に上記樹脂原料を装填して、上記成型型で圧縮加熱成型するとともに、上記樹脂成型体となったときに着磁面となる面に対して垂直方向に磁場をかけて上記樹脂原料中の磁性粉末を配向させ、その後、その状態で成型型を冷却し、冷却後、脱磁又は減磁を行い、脱型して円環状樹脂成型体を得ることを特徴とする磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法において、
前記キャビティは、円環状芯金を同心的に受容する受容部を更に備え、
上記キャビティ内に上記樹脂原料を装填する際、事前に該受容部内に上記芯金を配置することにより、上記芯金と固着一体となった円環状樹脂成型体を得ることを特徴とする磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法において、
前記キャビティ内に、前記樹脂原料を紐状に押し出して装填することを特徴とする磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法において、
前記圧縮加熱成型時の加熱は、高周波誘導加熱によって行うことを特徴とする磁気エンコーダ用環状樹脂磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−258460(P2008−258460A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100101(P2007−100101)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】