説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法

【課題】 磁気ヘッドの低浮上量の下で、フライスティクション障害等を防止し、浮上安定性、LUL(ロードアンロード)耐久性に優れた、高い信頼性を有する、高記録密度化に好適な磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを提供する。
【解決手段】研磨部材には予めその表面を調整する処理を施す。該研磨部材表面の調整処理は、表面に砥粒13を備えた平板状の部材で、端面Aには面取り面を設けた調整板10を用い、両面研磨装置のキャリアに保持された調整板10に上記研磨部材の表面を押し当てて、研磨部材と調整板10とを相対的に移動させて研磨部材表面を磨く処理である。 また、かかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により得られるガラス基板上に少なくとも磁性層を形成することで、磁気ディスクを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HDD(ハードディスクドライブ)等の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクの製造方法、及び磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、情報記録技術、特に磁気記録技術は、急速なIT産業の発達に伴い飛躍的な技術革新が要請されている。HDD等に搭載される磁気ディスクでは、高容量化の要請により40Gbit/inch以上の情報記録密度を実現できる技術が求められている。
ところで最近では、高記録密度化に適した磁気ディスク用基板として、ガラス基板が注目されている。ガラス基板は、金属の基板に比べて剛性が高いので、磁気ディスク装置の高速回転化に適し、また、平滑で平坦な表面が得られるので、磁気ヘッドの浮上量を低下させることが容易であり、記録信号のS/N比の向上と高記録密度化に好適である。
【0003】
このような高記録密度化を達成するためには、ガラス基板表面の平滑性を向上させる必要がある。通常、磁気ディスク用のガラス基板は、所定の大きさに形成したガラスディスクの表面を研削及び研磨することにより製造される。通常、この研磨工程は、研磨装置を用い、研削工程で残留した傷や歪みを除去するため、ポリシャとして硬質ポリシャを用い、ガラスディスク表面を研磨する第1研磨工程と、該第1研磨工程で得られた平坦な表面を維持しつつ、更に平滑な鏡面に仕上げるため、硬質ポリシャに替えて軟質ポリシャでガラスディスク表面を研磨する第2研磨工程とに分かれる。また、下記特許文献1には、研磨工程で使用する研磨パッドを、使用する前に予めパッドドレッサーで磨くパッドドレス処理を施すことが記載されている。
【0004】
【特許文献1】国際出願PCT/JP03/16672
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、HDDでは60Gbit/inch以上の情報記録密度が要求されるようになってきた。これは一つに、HDDが従来のコンピュータ用記憶装置としてのニーズに加えて、携帯電話やカーナビゲーションシステム、デジタルカメラ等に搭載されるようになってきたことと関係がある。
これらの新規用途の場合、HDDを搭載する筐体スペースがコンピュータに比べて著しく小さいので、HDDを小型化する必要がある。このためには、HDDに搭載する磁気ディスクの径を小径化する必要がある。例えば、コンピュータ用途では3.5インチ型や2.5インチ型の磁気ディスクを用いることが出来たが、上記新規用途の場合では、これよりも小径の、例えば0.8インチ型〜1.8インチ型などの小径磁気ディスクが用いられる。このように磁気ディスクを小径化した場合であっても一定以上の情報容量を格納させる必要があるので、勢い、情報記録密度の向上に拍車がかかることになる。
【0006】
また、限られたディスク面積を有効に利用するために、従来のCSS(Contact Startand Stop)方式に代えてLUL(Load Unload:ロードアンロード)方式のHDDが用いられるようになってきた。LUL方式では、停止時には、磁気ヘッドを磁気ディスクの外に位置するランプと呼ばれる傾斜台に退避させておき、起動動作時には磁気ディスクが回転開始した後に、磁気ヘッドをランプから磁気ディスク上に滑動させ、浮上飛行させて記録再生を行なう。停止動作時には磁気ヘッドを磁気ディスク外のランプに退避させたのち、磁気ディスクの回転を停止する。この一連の動作はLUL動作と呼ばれる。LUL方式用の磁気ディスクでは、CSS方式のような磁気ヘッドとの接触摺動用領域(CSS領域)を設ける必要がなく、記録再生領域を拡大させることができ、高情報容量化にとって好ましいからである。
このような状況の下で情報記録密度を向上させるためには、磁気ヘッドの浮上量を低減させることにより、スペーシングロスを限りなく低減する必要がある。1平方インチ当り60ギガビット以上の情報記録密度を達成するためには、磁気ヘッドの浮上量は10nm以下にする必要がある。LUL方式ではCSS方式と異なり、磁気ヘッドと磁気ディスク面とが接触することがないので、磁気ディスク面上に吸着防止用の凸凹形状を設ける必要が無く、磁気ディスク面上を極めて平滑化することが可能となる。よってLUL方式用磁気ディスクでは、CSS方式に比べて磁気ヘッド浮上量を一段と低下させることができるので、記録信号の高S/N比化を図ることができ、磁気ディスク装置の高記録容量化に資することができるという利点もある。
【0007】
最近のLUL方式の導入に伴う、磁気ヘッド浮上量の一段の低下により、10nm以下の極低浮上量においても、磁気ディスクが安定して動作することが求められるようになってきた。しかしながら、このような極低浮上量で磁気ディスク面上に磁気ヘッドを浮上飛行させると、フライスティクション障害が頻発するという問題が発生した。フライスティクション障害とは、記録再生中に突然、磁気ヘッドの浮上姿勢が不安定になり、記録信号、再生信号に異常な変動を来たす障害である。
【0008】
このようなフライスティクション障害が発生すると、磁気ヘッドの浮上飛行時のHDI(Head DiskInterface)信頼性、例えばLUL耐久性を大幅に劣化させることになる。また、磁気ヘッドを浮上飛行中に磁気ディスク面上に墜落させ吸着させてしまい、磁気ディスクを破壊する場合がある。
このため、磁気ヘッドの浮上量が例えば10nm以下の極低浮上量においては、磁気ヘッドの浮上安定性を維持することが困難であり、ヘッドクラッシュ障害を起こし易いという問題があった。
これらの障害は、HDDを市場に出荷し、PC(パーソナルコンピュータ)等に組み込まれて後、暫く経過してから発生(HDDの故障)する傾向が高いので、一度障害が発生すると市場信用力を失墜させる程度が大きく、このため、高記録密度化を実現できる磁気ディスク用ガラス基板の普及が阻害されていた。
【0009】
そこで本発明の目的とするところは、磁気ヘッドの浮上量が10nm以下の極低浮上量でも、フライスティクション障害等を防止し、浮上安定性、LUL耐久性などのHDI信頼性に優れた磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題の原因について検討したところ、ガラスディスク表面に微小な凹状の欠陥部(凹欠陥)が存在する場合、このガラスディスクを用いて製造した磁気ディスク表面にも同様の凹欠陥が生じ、前記磁気ヘッドのコンタミ堆積が助長されていることを突き止めた。また、磁気ヘッドの浮上を不安定にしていることを知見した。
【0011】
本発明者の検討によれば、ガラスディスク表面にこのような凹欠陥が形成されてしまう原因については以下のように考察される。
即ち、研磨工程で使用する研磨パッドの表面に例えば傷のようなものがある場合、このような研磨パッドをガラスディスク表面に押圧して研磨すると、研磨パッド表面が平滑でないことが原因でガラスディスク表面に凹欠陥が形成されてしまう。ところで、研磨パッドに予めパッドドレス処理を施す場合、例えば両面研磨装置の、研磨パッドが貼り付けられた上下定盤の間にキャリアに保持した円盤状のパッドドレッサーを密着させ、このパッドドレッサーを上下定盤によって挟圧した状態で、パッドドレッサーが研磨パッド上で自転しながら公転することにより、研磨パッド表面を磨いている。上記パッドドレッサーは通常ステンレスなどの材質で出来ているが、上記キャリア内に若干の隙間をもって保持されているため、パッドドレス処理中にパッドドレッサーが自公転するのに伴って、パッドドレッサーの端面がキャリアの壁面に当たったり離れたりするのを繰り返すので、長く使用しているとパッドドレッサーの端面にバリのような傷が発生し、それが原因で、研磨パッドの表面にも傷が入るものと考えられる。
【0012】
本発明者は、このような得られた一連の知見と考察に基づき、前記課題を解決するべく、更に鋭意研究した結果、パッドドレッサーのような研磨パッド等の表面を調整するために用いる調整板の端面を特定の形状に形成しておくことにより、長く使用してもその端面にバリのような傷が発生するのを防止でき、その結果、凹欠陥の無い良好な表面状態のディスク基板を安定して製造でき、このディスク基板を用いて製造した磁気ディスクをHDDに搭載すると、浮上量が10nm以下の磁気ヘッドを用いても、磁気ヘッドの浮上安定性を好適に維持することができることを見い出した。
すなわち、本発明は次のような構成を有する。
【0013】
(構成1)ガラスディスクの主表面に研磨部材を押圧させながらガラスディスクと研磨部材とを相対的に移動させて前記主表面を研磨する工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、前記研磨部材には予めその表面を調整する処理を施し、該研磨部材表面の調整処理は、表面に砥粒を備えた平板状の部材で、端面が外側へ凸の形状に形成された調整板を用い、該調整板の少なくとも端面が保持具に当接する状態で保持された調整板に前記研磨部材の表面を押し当てて、前記研磨部材と前記調整板とを相対的に移動させて前記研磨部材表面を磨く処理であることを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(構成2)ガラスディスクの主表面に研磨部材を押圧させながらガラスディスクと研磨部材とを相対的に移動させて前記主表面を研磨する工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、前記研磨工程で使用する研磨機に取り付ける定盤には予めその表面を調整する処理を施し、該定盤表面の調整処理は、表面に砥粒を備えた平板状の部材で、端面が外側へ凸の形状に形成された調整板を用い、該調整板の少なくとも端面が保持具に当接する状態で保持された調整板に前記定盤の表面を押し当てて、前記定盤と前記調整板とを相対的に移動させて前記定盤表面を磨く処理であり、該定盤表面の調整処理を施した後、定盤表面に前記研磨部材を取り付けて、前記主表面を研磨する工程を行うことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(構成3)前記調整板の端面に面取り面を設けていることを特徴とする構成1又は2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0014】
(構成4)前記調整板の端面が外側へ凸の曲面状に形成されていることを特徴とする構成1又は2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(構成5)前記調整板は、その直径及び厚みがガラスディスクの直径及び厚みと略同じの円盤状をなすことを特徴とする構成1乃至4の何れかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(構成6)前記研磨部材は、合成樹脂製の発泡体よりなる研磨パッドであることを特徴とする構成1乃至5の何れかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(構成7)前記ガラス基板は、ロードアンロード方式用磁気ディスクに用いるガラス基板であることを特徴とする構成1乃至6の何れかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(構成8)構成1乃至7の何れかに記載の製造方法によって得られた磁気ディスク用ガラス基板上に、少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【0015】
本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、構成1にあるように、ガラスディスク主表面の研磨工程に用いる研磨パッド等の研磨部材に予めその表面を調整する処理を施し、該研磨部材表面の調整処理は、表面に砥粒を備えた平板状の部材で、端面が外側へ凸の形状に形成された調整板を用い、該調整板の少なくとも端面が保持具に当接する状態で保持された調整板に前記研磨部材の表面を押し当てて、前記研磨部材と前記調整板とを相対的に移動させることにより行う。
本構成によると、上記調整板を長く使用していてもその端面にバリのような傷が発生するのを防止でき、その結果、凹欠陥の無い良好な表面状態のディスク基板を安定して製造できる。このディスク基板を用いて製造した磁気ディスクをHDDに搭載すると、磁気ヘッドの浮上量が10nm以下のような低浮上環境においても、磁気ヘッドのコンタミ堆積が抑制され、その結果、フライスティクション障害を防止でき、また、磁気ヘッドの浮上安定性を好適に維持することができる。また、ヘッドクラッシュ障害を防止することができる。
【0016】
図1は、研磨部材の表面を調整する処理に用いる調整板の平面図である。
図1に示すように、調整板10は、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属やセラミックス製の円板11を有し、該円板11の中心には円孔12が設けられている。この円板11において、その表面の外周寄りには、複数の砥石部13が設けられている。これら砥石部13は、円板11の周方向に沿って略等間隔に配設されている。各砥石部13は、ダイヤモンド製の砥粒を円板11の表面に電着することにより形成されている。そして、各砥石部13に研磨パッド等の研磨部材が摺接されることにより、研磨部材の表面が磨かれる。また、調整板10の表面は、砥石部13が設けられた分だけその厚みが増しており、これによって研磨部材による円板11の表面への直接的な接触が抑制されるため、研磨部材による円板11の研磨が防止されている。
【0017】
図2は、上記調整板10の端面の形状を示すもので、図1のA部における拡大断面図である。
図2より明らかなように、本発明に用いられる上記調整板10の端面14には面取り面を設けている。即ち、上記調整板10の端面は、円板11の上側の主表面15aに連続する面取り面14aと、円板11の下側の主表面15bに連続する面取り面14bと、これらの面取り面14a,14bに挟まれる側壁14cとから構成されており、調整板10の端面は全体的には外側へ凸形状となるように形成されている。このように、調整板10の端面に面取り面を設け、端面を外側へ凸形状となるように形成することで、該調整板を保持しているキャリアの側壁に当たると特に傷が発生しやすい上下主表面15a,15b側の角部がキャリアの側壁とは直接接触することがなくなるので、調整板10を長期に使用していても、端面にバリのような傷が発生するのを防止することが出来る。従って、これにより研磨パッドのような研磨部材の表面にも傷が入るのを防止でき、その結果、主表面に凹欠陥の無い良好な鏡面のディスク基板を安定して製造できる。
【0018】
図4は、遊星歯車方式の両面研磨装置の概略構成を示す縦断面図である。図4に示す両面研磨装置は、太陽歯車2と、その外方に同心円状に配置される内歯歯車3と、太陽歯車2及び内歯歯車3に噛み合い、太陽歯車2や内歯歯車3の回転に応じて公転及び自転するキャリア4と、このキャリア4に保持された被研磨加工物1を挟持可能な研磨パッド7がそれぞれ貼着された上定盤5及び下定盤6と、上定盤5と下定盤6との間に研磨液を供給する研磨液供給部(図示せず)とを備えている。
このような両面研磨装置によって、研磨加工時には、キャリア4に保持された被研磨加工物1、即ちガラスディスクを上定盤5及び下定盤6とで挟持するとともに、上下定盤5,6の研磨パッド7と被研磨加工物1との間に研磨液を供給しながら、太陽歯車2や内歯歯車3の回転に応じてキャリア4が公転及び自転しながら、被研磨加工物1の上下両面が研磨加工される。
【0019】
上記研磨加工に用いる研磨パッド7の表面を調整する処理を行う場合は、上記両面研磨装置を用い、キャリア4にガラスディスクに替えて上記調整板10を保持させ、調整板10を上定盤5及び下定盤6とで挟持するとともに、上下定盤5,6の研磨パッド7と被研磨加工物1との間に例えば研磨砥粒を含まない純水を供給し、太陽歯車2や内歯歯車3の回転に応じてキャリア4が公転及び自転しながら、研磨パッド7の表面が調整板10によって調整される。
研磨パッドは、不織布などの基布上に発泡ポリウレタン等の合成樹脂製の発泡体を設けたものであるが、研磨加工に使用していると次第に研磨パッド表面の平滑性が失われ、研磨加工によるガラスディスク表面の平滑性が得られなくなるため、このように平滑性が失われた研磨パッドの表面を再び平滑化させるための調整処理を行う必要がある。また、研磨パッドの表面に研磨加工に用いた研磨砥粒が入り込んで溜まると研磨作用を抑制してしまう場合がある。従って、研磨パッド等の研磨部材の表面を上記調整板を用いて調整する処理を施すことにより、研磨部材の表面を平滑化させると同時に、研磨部材の表面に溜まった研磨剤を外へ押し出してクリーニングすることができる。
【0020】
なお、上記調整板10の端面14に面取り面を設ける場合、図3(a)に示すように、面取り面14aと側壁14c、主表面15aとの境界部分、及び面取り面14bと側壁14c、主表面15bとの境界部分をそれぞれ曲面状に形成して丸みを持たせるようにしてもよい。これにより、調整板10の端面14におけるバリ等の傷の発生をより確実に防止することが可能になる。また、図3(b)に示すように、調整板10の端面14を外側へ凸の曲面状に形成してもよい。
また、上記調整板10は、その直径及び厚みがガラスディスクの直径及び厚みと略同じの円盤状とすることにより、前述の両面研磨装置を用いる場合、基本的にはガラスディスクと調整板10を入れ替えることで、ガラスディスクの研磨加工と、研磨部材の表面を調整する処理が同じ装置で行える。但し、調整板10は、研磨部材の表面を調整するために用いるので、形状を円盤状であることに限定する必要はなく、例えば方形状であってもよい。尚、方形とする場合、その各角部は曲面状に形成して丸みを持たせることが好ましい。
【0021】
また、構成2にあるように、本発明は、ガラスディスクの主表面に研磨部材を押圧させながらガラスディスクと研磨部材とを相対的に移動させて前記主表面を研磨する工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、前記研磨工程で使用する研磨機に取り付ける定盤には予めその表面を調整する処理を施し、該定盤表面の調整処理は、表面に砥粒を備えた平板状の部材で、端面が外側へ凸の形状に形成された調整板を用い、該調整板の少なくとも端面が保持具に当接する状態で保持された調整板に前記定盤の表面を押し当てて、前記定盤と前記調整板とを相対的に移動させて前記定盤表面を磨く処理であり、該定盤表面の調整処理を施した後、定盤表面に前記研磨部材を取り付けて、前記主表面を研磨する工程を行う磁気ディスク用ガラス基板の製造方法についても提供する。
本発明は、研磨装置に取り付ける研磨定盤の表面の平滑度を上記調整板を用いて調整することにより、研磨定盤の表面を破損することなく表面の平滑度の調整を行うことが出来、その結果、凹欠陥の無い良好な鏡面のディスク基板を安定して製造できる。
【0022】
本発明におけるガラス基板を製造するためのガラスディスクのガラスとしては、例えばアルミノシリケートガラスやソーダライムガラス等が挙げられる。アルミノシリケートガラスであれば化学強化ガラスとすることで高い剛性を得ることができるので好ましい。
また、アモルファスガラス又は、アモルファスと結晶を備える結晶化ガラスを用いることができる。
このようなガラスとしては、アモルファスのアルミノシリケートガラスとして、SiO:58〜75重量%、Al:5〜23重量%、LiO:3〜10重量%、NaO:4〜13重量%を主成分として含有するアルミノシリケートガラスからなることが好ましい。
更に、前記ガラスディスクの組成を、SiO:62〜75重量%、Al:5〜15重量%、LiO:4〜10重量%、NaO:4〜12重量%、ZrO:5.5〜15重量%を主成分として含有するとともに、NaO/ZrOの重量比が0.5〜2.0、Al/ZrOの重量比が0.4〜2.5であるアルミノシリケートガラスであることが好ましい。
また、ZrOの未溶解物が原因で生じるガラスディスク表面の突起を無くすためには、モル%表示で、SiOを57〜74%、ZnOを0〜2.8%、AlOを3〜15%、LiOを7〜16%、NaOを4〜14%含有する化学強化用ガラス等を使用することが好ましい。
【0023】
このようなアルミノシリケートガラスは、化学強化することによって、抗折強度が増加し、圧縮応力層の深さも深く、ヌープ硬度にも優れる。化学強化の方法としては、従来より公知の化学強化法であれば特に限定されないが、実用上、低温型イオン交換法による化学強化が好ましい。
本発明に係るガラス基板の直径サイズについては特に限定はない。また、ガラス基板の厚さは、0.1mm〜1.5mm程度が好ましい。特に、0.1mm〜0.9mm程度の薄型基板により構成される磁気ディスクの場合では、耐衝撃性が高い磁気ディスク用ガラス基板を提供できる本発明は有用性が高く好適である。
【0024】
本発明の磁気ディスク用ガラス基板上に、少なくとも磁性層を形成することにより、高情報記録密度化に好適で信頼性の高い磁気ディスクが得られる。磁性層としては、hcp結晶構造のCo系合金磁性層を用いると、保磁力(Hc)が高く高記録密度化に資することができる。
また必要に応じて、ガラス基板と磁性層との間に、磁性層の結晶粒や配向性を制御するために下地層を形成することも好ましい。
なお、磁気ディスクを製造するにあたっては、静止対向型成膜方法を用いて、DCマグネトロンスパッタリングにより、少なくとも磁性層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ガラスディスクの研磨加工において、端面を外側へ凸形状となるように形成し、表面に砥粒を備えた平板状の調整板を用いて研磨部材や研磨定盤の表面を調整する処理を施すことにより、凹欠陥の無い良好な鏡面に仕上げた磁気ディスク用ガラス基板を安定して製造することが出来る。
また、本発明によれば、この磁気ディスク用ガラス基板を用いて磁気ディスクを製造することにより、磁気ヘッドの浮上量が10nm以下のような低浮上環境においても、フライスティクション障害等を防止でき、磁気ヘッドの浮上安定性を好適に維持することができ、LUL耐久性などのHDI信頼性に優れた磁気ディスクが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に実施例を挙げて、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
以下の(1)粗ラッピング工程(粗研削工程)、(2)形状加工工程、(3)精ラッピング工程(精研削工程)、(4)端面研磨工程、(5)主表面研磨工程、(6)化学強化工程、を経て本実施例の磁気ディスク用ガラス基板を製造した。
【0027】
(1)粗ラッピング工程
まず、溶融ガラスから上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスにより直径66mmφ、厚さ1.5mmのアルミノシリケートガラスからなるガラスディスクを得た。なお、この場合、ダイレクトプレス以外に、ダウンドロー法やフロート法で形成したシートガラスから研削砥石で切り出してガラスディスクを得てもよい。このアルミノシリケートガラスとしては、SiO:58〜75重量%、Al:5〜23重量%、LiO:3〜10重量%、NaO:4〜13重量%を含有する化学強化ガラスを使用した。次いで、ガラスディスクに寸法精度及び形状精度の向上させるためラッピング工程を行った。このラッピング工程は両面ラッピング装置を用い、粒度#400の砥粒を用いて行なった。具体的には、はじめに粒度#400のアルミナ砥粒を用い、荷重を100kg程度に設定して、上記ラッピング装置のサンギアとインターナルギアを回転させることによって、キャリア内に収納したガラスディスクの両面を面精度0〜1μm、表面粗さ(Rmax)6μm程度にラッピングした。
【0028】
(2)形状加工工程
次に、円筒状の砥石を用いてガラスディスクの中央部分に孔を空けると共に、外周端面の研削をして直径を65mmφとした後、外周端面および内周端面に所定の面取り加工を施した。このときのガラスディスク端面の表面粗さは、Rmaxで4μm程度であった。なお、一般に、2.5インチ型HDD(ハードディスクドライブ)では、外径が65mmの磁気ディスクを用いる。
(3)精ラッピング工程
次に、砥粒の粒度を#1000に変え、ガラスディスク表面をラッピングすることにより、表面粗さをRmaxで2μm程度、Raで0.2μm程度とした。上記ラッピング工程を終えたガラスディスクを、中性洗剤、水の各洗浄槽(超音波印加)に順次浸漬して、超音波洗浄を行なった。
(4)端面研磨工程
次いで、ブラシ研磨により、ガラスディスクを回転させながらガラスディスクの端面(内周、外周)の表面の粗さを、Rmaxで1μm、Raで0.3μm程度に研磨した。そして、上記端面研磨を終えたガラスディスクの表面を水洗浄した。
【0029】
(5)主表面研磨工程
次に、上述したラッピング工程で残留した傷や歪みの除去するための第1研磨工程を前述の図4に示す両面研磨装置を用いて行なった。両面研磨装置においては、研磨パッド7が貼り付けられた上下研磨定盤5,6の間にキャリア4により保持したガラスディスクを密着させ、このキャリア4を太陽歯車2と内歯歯車3とに噛合させ、上記ガラスディスクを上下定盤5,6によって挟圧する。その後、研磨パッド7とガラスディスクの研磨面との間に研磨液を供給して回転させることによって、ガラスディスクが定盤5,6上で自転しながら公転して両面を同時に研磨加工するものである。具体的には、ポリシャとして硬質ポリシャ(硬質発泡ウレタン)を用い、第1研磨工程を実施した。研磨条件は、研磨液としては酸化セリウム(平均粒径1.3μm)を研磨剤として分散したRO水とし、荷重:100g/cm、研磨時間:15分とした。上記第1研磨工程を終えたガラスディスクを、中性洗剤、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
尚、上記研磨パッドは予めその表面を調整板を用いて調整する処理を施した。調整板は図1に示すようなステンレス製の円盤状のものを使用し、その直径及び厚みはガラスディスクの直径及び厚みと略同じものにした。また、この調整板の端面は図2に示すような面取り面を設けたものを使用した。この処理には研磨加工に用いる両面研磨装置を使用した。そして、ガラスディスク50枚の研磨加工が終了する度に、研磨パッド表面を上記調整板で調整する処理を行った。
【0030】
次いで上記の第1研磨工程で使用したものと同じ両面研磨装置を用い、ポリシャを軟質ポリシャ(スウェード)の研磨パッドに替えて第2研磨工程を実施した。この第2研磨工程は、上述した第1研磨工程で得られた平坦な表面を維持しつつ、例えばガラスディスク主表面の表面粗さをRmaxで8nm程度以下の平滑な鏡面に仕上げるための鏡面研磨加工である。研磨条件は、研磨液としては酸化セリウム(平均粒径0.8μm)を分散したRO水とし、荷重:100g/cm、研磨時間を5分とした。上記第2研磨工程を終えたガラスディスクを、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
【0031】
(6)化学強化工程
次に、上記洗浄を終えたガラスディスクに化学強化を施した。化学強化は硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合した化学強化液を用意し、この化学強化溶液を380℃に加熱し、上記洗浄・乾燥済みのガラスディスクを約4時間浸漬して化学強化処理を行なった。化学強化を終えたガラスディスクを硫酸、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
また、上記工程を経て得られたガラスディスクの主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ、Rmax=2.13nm、Ra=0.20nmと超平滑な表面を持つガラスディスクを得た。また、得られたガラスディスクの外径は65mm、内径は20mm、板厚は0.635mmであった。
こうして、本実施例の磁気ディスク用ガラス基板を500枚得た。得られたガラス基板の主表面を目視検査及び光の反射・散乱・透過を利用した精密検査を実施した。その結果、何れのガラス基板も主表面に凹欠陥はなく、良好な鏡面に仕上がっていた。
【0032】
次に、本実施例で得られた磁気ディスク用ガラス基板に以下の成膜工程を施して、磁気ディスクを得た。
枚葉式スパッタリング装置を用いて、上記テクスチャーを施されたガラス基板上に、シード層、下地層、磁性層、保護層及び潤滑層を順次形成した。
シード層は、CrTi薄膜(膜厚300オングストローム)からなる第1のシード層と、AlRu薄膜(膜厚:400オングストローム)からなる第2のシード層を形成した。下地層は、CrW薄膜(膜厚:100オングストローム)で、磁性層の結晶構造を良好にするために設けた。なお、このCrW薄膜は、Cr:90at%、W:10at%の組成比で構成されている。
磁性層は、CoPtCrB合金からなり、膜厚は、200オングストロームである。この磁性層のCo、Pt、Cr、B の各含有量は、Co:73at%、Pt:7at%、Cr:18at%、B:2at%である。
保護層は、磁性層が磁気ヘッドとの接触によって劣化することを防止するためのもので、膜厚50オングストロームの水素化カーボンからなり、耐磨耗性が得られる。潤滑層は、パーフルオロポリエーテルの液体潤滑剤をディップ法により形成し、膜厚は9オングストロームである。
【0033】
次に、得られた磁気ディスクを以下のようにして評価した。
〔信頼性評価〕
得られた磁気ディスクについて、グライド特性評価を行ったところ、タッチダウンハイトは、4.5nmであった。タッチダウンハイトは、浮上しているヘッドの浮上量を順に下げていき(例えば磁気ディスクの回転数を低くしていく)、磁気ディスクと接触し始める浮上量を求めて、磁気ディスクの浮上量の能力を測るものであるが、通常、60Gbit/in2以上の記録密度が求められるHDDでは、タッチダウンハイトは5nm以下であることが求められる。
【0034】
また、ヘッド浮上時の浮上量を10nmとし、70℃、80%RH環境下で、ヘッドのロードアンロード動作を繰り返して行うLUL耐久性について試験したところ、60万回のLUL連続試験後でも、ヘッドクラッシュ障害は発生しなかった。通常に使用されるHDDでは、LUL回数が60万回を越えるには10年間程度の使用が必要と言われている。このことから、本実施例の磁気ディスクは高い信頼性を保障できることが判る。
なお、上記タッチダウン評価及びLUL耐久性試験中には、磁気ヘッド浮上飛行時のフライスティクション障害は発生しなかった。フライスティクション障害が発生すると、ヘッドの浮上姿勢が突然不安定となるので、ヘッドに接着された圧電素子の信号をモニタすることで、フライスティクション障害の発生を感知することができる。本実施例では、磁気ヘッドの浮上姿勢や浮上量は安定していた。
なお、上記ロードアンロード試験後の磁気ヘッド表面を光学顕微鏡で観察したところ、コンタミは観察されなかった。
【0035】
(比較例1)
実施例1の(5)主表面研磨工程において、研磨パッドは予めその表面を調整板を用いて調整する処理を施した。この場合の調整板としては、ガラスディスクの直径及び厚みと略同じ円盤状のものであるが、その端面には面取り面を設けていないものを使用した。そして、実施例1と同様にガラスディスク50枚の研磨加工が終了する度に、研磨パッド表面を上記調整板で調整する処理を行った。
この点以外は、実施例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を500枚得た。得られたガラス基板の主表面を詳細に観察したところ、主表面に凹欠陥が認められる基板が存在した。特に、500枚のうち、300枚目から500枚目のガラス基板に凹欠陥が認められるものが多く存在した。尚、研磨加工に使用した研磨パッドの表面を観察したところ、傷が認められ、これがガラス基板表面の凹欠陥の原因であると考えられる。さらに、調整板についても観察したところ、その端面にバリが発生していることが確認できた。これにより、研磨パッド表面に傷が入ったものと考えられる。
【0036】
更にこの凹欠陥の認められたガラス基板を用いて実施例1と同様に磁気ディスクを製造した。
得られた磁気ディスクのグライド特性評価を行ったところ、タッチダウンハイトは、5.4nmであった。さらに、LUL耐久性について試験したところ、40万回のLUL動作でヘッドクラッシュにより故障した。また、サーマルアスペリティ試験を行ったところ、サーマルアスペリティ障害も発生した。なお、上記ロードアンロード試験後の磁気ヘッド表面には、少量のコンタミの付着が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】調整板の平面図である。
【図2】図1のA部の拡大断面図である。
【図3】調整板の端面形状を示す断面図である。
【図4】両面研磨装置の概略構成を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 被研磨加工物
4 キャリア
5 上定盤
6 下定盤
7 研磨パッド
10 調整板
11 円板
13 砥石部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスディスクの主表面に研磨部材を押圧させながらガラスディスクと研磨部材とを相対的に移動させて前記主表面を研磨する工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記研磨部材には予めその表面を調整する処理を施し、
該研磨部材表面の調整処理は、表面に砥粒を備えた平板状の部材で、端面が外側へ凸の形状に形成された調整板を用い、該調整板の少なくとも端面が保持具に当接する状態で保持された調整板に前記研磨部材の表面を押し当てて、前記研磨部材と前記調整板とを相対的に移動させて前記研磨部材表面を磨く処理であることを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
ガラスディスクの主表面に研磨部材を押圧させながらガラスディスクと研磨部材とを相対的に移動させて前記主表面を研磨する工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記研磨工程で使用する研磨機に取り付ける定盤には予めその表面を調整する処理を施し、
該定盤表面の調整処理は、表面に砥粒を備えた平板状の部材で、端面が外側へ凸の形状に形成された調整板を用い、該調整板の少なくとも端面が保持具に当接する状態で保持された調整板に前記定盤の表面を押し当てて、前記定盤と前記調整板とを相対的に移動させて前記定盤表面を磨く処理であり、
該定盤表面の調整処理を施した後、定盤表面に前記研磨部材を取り付けて、前記主表面を研磨する工程を行うことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記調整板の端面に面取り面を設けていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記調整板の端面が外側へ凸の曲面状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記調整板は、その直径及び厚みがガラスディスクの直径及び厚みと略同じの円盤状をなすことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記研磨部材は、合成樹脂製の発泡体よりなる研磨パッドであることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス基板は、ロードアンロード方式用磁気ディスクに用いるガラス基板であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の製造方法によって得られた磁気ディスク用ガラス基板上に、少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−7385(P2006−7385A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190303(P2004−190303)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】