説明

磁気ディスク装置およびモータ構造

【課題】クランプ時のシャフトの変形を防止することが可能な磁気ディスク装置を提供する。
【解決手段】本発明の磁気ディスク装置は、動圧軸受であって、固定されたスリーブの軸受部に挿通されたシャフトと、中心部を貫通するハブ貫通孔をシャフトに挿通させて当該シャフトに固定された、1または複数の記録媒体を保持するハブとからなる、シャフトおよびハブが一体となった軸回転構造の回転体を有する構造のモータと、中心部を貫通するトップクランプ貫通孔が形成され、ハブに保持された記録媒体をハブとともに挟持するトップクランプと、トップクランプ貫通孔およびハブ貫通孔を挿通させて、シャフトに形成されたねじ溝に締結されるねじと、を備え、シャフトおよびねじの動圧力発生部分の位置する部分は、ねじをシャフトのねじ溝に螺合させたときにシャフトの径方向への膨張が許容値以下となるように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置およびモータ構造に関し、より詳細には、動圧を用いた軸受にてシャフトにねじを取り付ける構造を有するモータを備える磁気ディスク装置およびモータ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受部が動圧軸受により構成され、シャフトにねじ(本明細書においては、「ねじ」はシャフトに取り付ける役割を有する部材であるとする。)を取り付ける構造のモータを備える2.5インチ以下の磁気ディスク装置の設計において、磁気ディスク装置に要求される性能を維持するために、部材の精度や工程の管理は重要である。しかしながら、シャフトのねじ溝(めねじ)とねじの製造誤差のため、シャフトとねじとの固定部分を把握することは困難である。また、動圧付近にてシャフトとねじとが固定されている磁気ディスク装置では、ねじ取付による動圧部付近のシャフトの、軸に対して垂直な方向への膨れ、及び歪みにより、動圧力に影響のある回転側と固定側との距離が周上にて均一でなくなることがある。これにより引き起こされる動圧のアンバランスによって回転精度が悪化したり、最悪の場合、モータの回転側と固定側とが接触する可能性もあるため、部材の精度や工程の管理を厳しくせざるを得ない状況である。
【0003】
このような問題に対し、例えば特許文献1には、ねじによるシャフト変形量を見越してスリーブの内径を広げる、あるいはシャフト外径形状を狭める構造を有する動圧流体軸受装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−183787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来、シャフトのねじ溝とねじとを締結する際に最終的にシャフトに対して螺合による力のかかる部分は、シャフトおよびねじの各ねじ山形状の製造誤差によって大きくばらつくものである。すなわち、シャフトの動圧が発生する箇所に対する変形量はねじの螺合箇所により個体差があるため、上記特許文献1のように一様に変形があると見越してスリーブ内径形状あるいはシャフト外径形状を調整すると反って動圧力の個体差が大きくなり、特に剛性が弱くなってしまうような場合はモータの特性として好ましくない。また、ねじによる変形の仕方は一様ではなく、真円度が悪化するような高次の変形もあるため、シャフト変形量を正確に見越すことは困難である。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、シャフトにねじを取り付ける際のシャフトの変形を防止することが可能な、新規かつ改良された磁気ディスク装置およびモータ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、動圧軸受であって、固定されたスリーブの軸受部に挿通されたシャフトと、中心部を貫通するハブ貫通孔をシャフトに挿通させて当該シャフトに固定された、1または複数の記録媒体を保持するハブとからなる、シャフトおよびハブが一体となった軸回転構造の回転体を有する構造のモータと、中心部を貫通するトップクランプ貫通孔が形成され、ハブに保持された記録媒体をハブとともに挟持するトップクランプと、トップクランプ貫通孔およびハブ貫通孔を挿通させて、シャフトに形成されたねじ溝に締結されるねじと、を備え、シャフトおよびねじの動圧力発生部分の位置する部分は、ねじをシャフトのねじ溝にて螺合させたときにシャフトの径方向への膨張が許容値以下となるように形成されることを特徴とする、磁気ディスク装置が提供される。
【0008】
本発明によれば、ねじをシャフトのねじ溝にて螺合させたときにシャフトの径方向への歪みによる膨れ(膨張)が許容値以下となるように、シャフトおよびねじの動圧力発生部分に位置する部分を螺合による膨張や歪みの発生が抑えられる形状に形成する。これにより、ねじに起因するシャフトの動圧力発生部分における膨張や歪みの発生を防止することができる。なお、本発明において、ハブとシャフトとは別個の部品を固定して一体とされたものであってもよく、ハブとシャフトとが一体形成されたものであってもよい。
【0009】
ここで、許容値はゼロとすることができる。
【0010】
また、動圧力発生部分において、シャフトとねじとは非接触に設けてもよい。
【0011】
さらに、動圧力発生部分において、ねじはシャフトに対して螺合時の応力によるラジアル方向の力、もしくは直接的なラジアル方向の圧力がかかるような接触を加えないように設けてもよい。
【0012】
また、動圧力発生部分において、ねじと対向する部分のシャフトの内周を平滑面にしてもよい。
【0013】
さらに、動圧力発生部分において、シャフトと対向する部分のねじの外周を平滑面にしてもよい。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、動圧軸受であって、固定されたスリーブの軸受部に挿通されたシャフトと、中心部を貫通するハブ貫通孔をシャフトに挿通させて当該シャフトに固定された、1または複数の記録媒体を保持するハブとからなる、シャフトおよびハブが一体となった軸回転構造の回転体を有するモータ構造が提供される。かかるモータ構造は、中心部を貫通するトップクランプ貫通孔が形成され、ハブに保持された記録媒体をハブとともに挟持するトップクランプを、ねじをシャフトに形成されたねじ溝に螺合したときに、シャフトの動圧力発生部分の位置する部分は、ねじをシャフトのねじ溝にて螺合させたときにシャフトの径方向への膨張が許容値以下となるように形成されることを特徴とする。
【0015】
シャフトのねじ溝のうち、ねじが締結される側と反対側にはストッパーが締結されており、シャフトの動圧力発生部分の位置する部分は、ストッパーをシャフトのねじ溝にて締結させたときにシャフトの径方向への膨張が許容値以下となるように形成してもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、シャフトにねじを取り付ける際のシャフトの変形を防止することが可能な磁気ディスク装置およびモータ構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気ディスク装置のモータ部分を示す断面図である。
【図2】従来のシャフトの構成と同実施形態に係るシャフトの構成を示す説明図である。
【図3】従来のシャフトにおいて、動圧発生部分に対向する箇所にあたる内周にねじによる上向きの力を加えた際に生じる変形を示す説明図である。
【図4】従来のシャフトにおいて、動圧発生部分に対向する箇所にあたる内周面の1点でねじによる上向きの力を加えた際に生じる変形を示す説明図である。
【図5】同実施形態に係るシャフトにおいて、ハブ締結部に対向する箇所にあたる内周にねじによる上向きの力を加えた際に生じる変形を示す説明図である。
【図6】従来のシャフトにおいて、動圧発生部分に対向する箇所にあたる内周にねじによる上向きの力を加えた際に生じる変形を側面および平面から示す説明図である。
【図7】従来のシャフトにおいて、動圧発生部分に対向する箇所にあたる内周面の対向する2点でねじによる上向きの力を加えた際に生じる変形を側面および平面から示す説明図である。
【図8】同実施形態に係るシャフトにおいて、ハブ締結部に対向する箇所にあたる内周にねじによる上向きの力を加えた際に生じる変形を側面および平面から示す説明図である。
【図9】同実施形態に係るシャフトにおいて、ハブ締結部に対向する箇所にあたる内周面の対向する2点でねじによる上向きの力を加えた際に生じる変形を側面および平面から示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
<1.磁気ディスク装置のモータ構造>
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係るディスク装置である磁気ディスク装置のモータ構造について説明する。なお、図1は、実施形態に係る磁気ディスク装置のモータ部分を示す断面図である。
【0020】
本実施形態に係る磁気ディスク装置は、記録媒体であるディスクに対して磁気記憶方式でデータを読み書きする装置である。磁気ディスク装置は、1つまたは複数のディスクと、当該ディスクを回転させる回転駆動部であるモータと、モータを支持するベースと、ディスクに対してデータを記録および/または再生するヘッドを回転移動させるアクチュエータとを備える。
【0021】
まず、本実施形態に係るモータ100の一例として、図1に示すような動圧軸受を用いており、1つまたは複数のディスクを搭載可能なハブ110と、当該ハブ110の中心に設けられたシャフト120とからなる軸回転の回転体の構造を有する。
【0022】
ハブ110は、ディスクを外周部で支持する部材であって、ハブ110の中心部に形成されたハブ貫通孔112にシャフト120を挿通させて、シャフト120の上端部側に設けられる。ハブ110はシャフト120に固定されており、一体となって回転する。
【0023】
シャフト120は、ディスクの回転中心となる回転軸である。シャフト120は図1に示すように管状に形成されており、その内部には、動圧発生部分を除いてねじ溝が形成されている。シャフト120の上端側(ハブ110が設けられている側)に形成されたねじ溝にはトップクランプ140によりディスクを保持するためのねじ150が螺合されている。一方、シャフト120の下端側(ベース側)に形成されたねじ溝には抜けを防止するためのストッパー160が螺合されている。なお、シャフト120およびハブ110の一部と、ベースに固定されたスリーブ130との間には、オイル等の流体が満たされているため、ストッパー160の下側にあたる固定側には軸受内の流体を封止するキャップ(図示せず。)が取り付けられる。
【0024】
このようなモータ100を備える磁気ディスク装置は、ディスク中心に形成された貫通孔をハブ110に挿通させてハブ110の外周部にディスクを載置した後、ハブ110に載置されたディスクを上方からトップクランプ140により押圧してディスクを固定している。なお、複数のディスクを搭載する場合には、ディスク間のスペースを確保するためのスペーサをディスク間に挟むようにして各ディスクがハブ110に取り付けられる。トップクランプ140は、その外周部でディスクの内周部をハブ110側へ押圧する。トップクランプ140の中心部には、ねじ150を挿通させるためのトップクランプ貫通孔142が形成されている。
【0025】
ねじ150は、トップクランプ貫通孔142、ハブ貫通孔112を介して、シャフト120の回転中心に形成されたねじ溝に螺合される。これにより、ねじ150のフランジ部でトップクランプ140のトップクランプ貫通孔142周りの上面部分が押圧され、ディスクがハブ110およびトップクランプ140により挟持される。
【0026】
<2.シャフトの変形防止>
本実施形態に係る磁気ディスク装置のモータ100は、シャフト120にねじ150を螺合する際に、シャフト120が動圧力の発生箇所にて変形するのを防止するように構成されている。すなわち、本実施形態に係るモータ100では、動圧力が発生する部分(動圧力発生部分)においてシャフト120の外径部が局所的に許容値を超えて膨らむ方向に変形するのを防止するように構成される。
【0027】
ここで、動圧軸受について説明すると、使用される流体としては一般的にオイルが用いられており、オイルは図1中の矢印で示すように、シャフト120とスリーブ130との間を下方(z軸負方向側)に流れて、ストッパー160とスリーブ130との間を外周方向に向かって流れる。その後、オイルはスリーブ130に少なくとも1つ以上形成された循環孔を通過してハブ110のスラスト面へ流れ、再びシャフト120とスリーブ130との間に流れ込む。このような循環機構により、オイル内に負圧(大気圧より低い圧力となる部分)を作り出すことなく動圧力を加えることができる。
【0028】
仮に、ねじ150を締結した際にシャフト120の外径が膨張したり変形したりすると、上述したオイルの循環機構におけるオイルの通路が狭まってしまい、オイルの循環を妨げることになる。例えば、シャフト120が周方向において均等に膨張する場合(例えば後述する図3等。)、シャフト120とスリーブ130との間が狭くなることで動圧力は高まるが、オイルの流れが悪くなり、予期しない箇所に負圧が生じたり、スラスト部のオイルの流れが悪化して浮上量も低下したりする傾向がある。
【0029】
また、例えばシャフト120が変形する場合には、シャフト120の周方向においてシャフト120とスリーブ130との間が狭い箇所と広い箇所とが生じる。この際、動圧力が強い箇所と弱い箇所都が1周の間に数回繰り返して発生するため、オイルに振動が発生する。この振動が回転精度を悪化させ、磁気ディスク装置全体としての性能悪化、ひいては生産性・歩留まりを落とすことにつながる。そこで、本実施形態に係る磁気ディスク装置のモータ100は、シャフト120にねじ150を螺合する際に、シャフト120が許容値を超えて変形するのを防止するように構成されている。
【0030】
具体的には、動圧力発生部分に対応するシャフト120とねじ150とが接触しないようにすることや、動圧力発生部分でシャフト120とねじ150とが接触したとしても当該部分でねじ150がねじとしての機能である固定力を発生させず、シャフト120の軸に対して垂直な方向へ当該シャフト120を押圧する力を発生させないようにすることが考えられる。このように、ねじ150が螺合により主たる応力を発生させている箇所が、動圧力発生部分ではなく、シャフト120がハブ110と締結されている箇所となるように、シャフト120またはねじ150の形状を工夫する。なお、シャフト120が径方向に膨張する方向への変形量の許容値は例えばゼロとすることができる。
【0031】
[動圧力発生部分でのシャフトとねじ非接触構造]
まず、図2〜図9に基づいて、シャフト120の変形防止のために動圧力発生部分に対応するシャフト120の内周面とねじ150とが接触しないように構成されたモータ構造について説明する。
【0032】
図2は、従来のシャフト10の構成と本実施形態に係るシャフト120の構成を示す説明図である。本実施形態に係るモータは、例えば図2に示すように、従来シャフト10の内周面全体に設けられていたねじ溝12のうち動圧力発生部分のねじ溝を除去して平滑面124とし、動圧力発生部分に対応するシャフト120とねじ150とが接触しないようにする。すなわち、図2右に示すように、シャフト120の内部は、ねじ150のねじ部の上端側が螺合する第1のねじ溝122aと、ねじ150のねじ部の下端側が対向する平滑面124と、当該平滑面124に関して第1のねじ溝122aと反対側に位置する第2のねじ溝122bとからなる。平滑面124は、ねじ溝を除去することで、その内径がねじ溝の形成された部分より大きくなり、ねじ150が接触しないようになる。
【0033】
図2に示した従来のシャフト10と本実施形態に係るシャフト120とについて、ねじ150を螺合させたときの各シャフト10、120の変形の程度を検証した。検証結果を以下、図3〜図9に基づき説明する。
【0034】
(検証1)
まず、図3〜図5に基づき、従来のシャフト10および本実施形態に係るシャフト120に関し、シャフトに圧力を加えたときのシャフトの変形について説明する。図3は、従来のシャフト10において、動圧発生部分に対向する箇所にあたる内周にねじ150による上向きの力を加えた際に生じる変形を示す説明図である。図4は、従来のシャフト10において、動圧発生部分に対向する箇所にあたる内周面の1点でねじ150による上向きの力を加えた際に生じる変形を示す説明図である。図5は、本実施形態に係るシャフト120において、ハブ締結部に対向する箇所にあたる内周にねじ150による上向きの力を加えた際に生じる変形を示す説明図である。なお、図3〜図5のシャフトの変形量を示す図では、ハッチングが淡い程シャフトの変形量が小さく、ハッチングが濃い程シャフトの変形量が大きいことを表している。
【0035】
まず、従来のシャフト10において、動圧発生部分に対向する箇所にあたる内周にねじ150による上向きの力を加えた場合についてみる。図3左に示すように、圧力が加えられている圧力部分Pは動圧力がかかっている動圧力発生部分の中央近辺である。この場合、図3右に示すように圧力部分P近辺ではシャフト10の径が縮小している。その一方で、ねじ150が螺合している大径部分10bの圧力部分Pより上方の径が、圧力部分Pで径が縮小した分膨張している。このように、従来のシャフト10では、圧力部分Pに全面的に力を加えると大径部分10bにおいて膨張してしまう部分が生じてしまう。
【0036】
次いで、従来のシャフト10において、動圧発生部分に対向する箇所にあたる内周面の1点でねじ150による上向きの力を加えた場合についてみる。図4左に示すように、図3と同様、動圧力がかかっている動圧力発生部分近辺で圧力が圧力点Pで加えられている。この場合、図4右の通り圧力点Pでは局所的にシャフト10の径が内側に押しこまれる方向への応力により変形し、さらに圧力点Pを中心としてシャフト10の真円度や円筒度が悪化する。このように、従来のシャフト10では、動圧力発生部分近辺の圧力点Pで力を加えると、シャフト10が変形する部分が生じてしまう。
【0037】
これに対して、本実施形態に係るシャフト120において、ハブ締結部に対向する箇所にあたる内周にねじ150による上向きの力を加えた場合についてみると、図5左に示すように、圧力が加えられている圧力部分Pは第1のねじ溝122aのうち平滑部124との隣接部分である。シャフト120は、動圧力に対向する部分にねじ溝が形成されていない平滑部124が位置するため、シャフト120にねじ150は接触しない。これにより、ねじ150をシャフト120に螺合したときにねじ150によって動圧力発生部分に位置するシャフト大径部分10bへかかる応力が従来と比較して大幅に軽減でき、シャフト120が膨張する方向の変形を防止することができる。
【0038】
例えば、図5右に示すように、圧力部分Pにおいてシャフト120の径が縮小しているが、図3等に示した従来のシャフト10の変形量と比較して僅かな量であり、シャフト120の変形を効果的に防止できていることがわかる。
【0039】
(検証2)
次に、図6〜図9に基づき、従来のシャフト10および本実施形態に係るシャフト120に関し、シャフトに圧力を加えたときのシャフトの変形について説明する。検証2においても検証1と同様にシャフトにねじ150を螺合したときのシャフトの変形量を検証する。図6〜図9では、シャフトの変形を側面および平面から示している。具体的には、図6は、従来のシャフト10において、動圧発生部分に対向する箇所にあたる内周にねじ150による上向きの力を加えた際に生じる変形を示し、図7は、従来のシャフト10において、動圧発生部分に対向する箇所にあたる内周面の対向する2点でねじ150による上向きの力を加えた際に生じる変形を示している。図8は、本実施形態に係るシャフト120において、ハブ締結部に対向する箇所にあたる内周にねじ150による上向きの力を加えた際に生じる変形を示し、図9は、本実施形態に係るシャフト120において、ハブ締結部に対向する箇所にあたる内周面の対向する2点でねじ150による上向きの力を加えた際に生じる変形を示している。
【0040】
まず、図6についてみると、図6は、検証1の図3と同様に、動圧発生部分に対向する箇所にあたる内周にねじ150による上向きの力を加えた場合を示している。図6下に示すように、動圧力がかかっている動圧力発生部分近辺の圧力部分Pに圧力が加えられている。このとき圧力部分Pには周状に均一にねじ150が螺合されている。これにより、シャフト10には図6上に示すように外周方向に押圧される応力が働き、圧力部分P近辺でシャフト10の径が縮小するとともに、大径部分10bの圧力部分Pよりも上方の径が膨張する。このように、従来のシャフト10では、圧力部分Pに全面的に力を加えると膨張してしまう部分が生じてしまう。
【0041】
次に、図7に、従来のシャフト10において、動圧発生部分に対向する箇所にあたる内周面の対向する2点でねじ150による上向きの力を加えた際に生じる変形を示している。図7のシャフト10では、シャフト外周段差部、すなわち小径部分10aと大径部分10bとの連結部分において、約180°の間隔を有して配置された位置でねじ150との螺合が行われている。したがって、シャフト10とねじ150との螺合位置である圧力部分Pにてシャフト10にねじ150による上向きの力が加わる。
【0042】
この力によって、図7下の側面図に示すように、圧力部分Pでシャフト10の径が縮小し、圧力部分Pの上方(z軸正方向側)のシャフト10の径が膨張する。図7の場合、図6のように周方向に均一にシャフト10の径が膨張するのではなく、軸方向において圧力位置Pと同一の位置にある部分で特に膨張しており、シャフト10はより大きく変形している。
【0043】
一方、本実施形態に係るシャフト120についてみると、まず図8に示すように、ハブ締結部に対向する箇所にあたる内周にねじ150による上向きの力を加えた場合では、動圧発生部分よりも上方(この場合は、ワーストケースとしてハブ締結部に対抗する箇所での最も下方を圧力部分Pとした。)の圧力部分Pに圧力が加えられている。このとき圧力部分Pには周状に均一にねじ150が螺合されている。この場合は、図8に示すように、シャフト大径部分10bの上方寄りの箇所にて内周方向に押圧される力が働き、大径部分10bの上方寄りの箇所にて径が非常に軽微であるが縮小する。
【0044】
また、図9に示すように、本実施形態に係るシャフト120において、ハブ締結部に対向する箇所にあたる内周面の対向する2点でねじ150による上向きの力を加えた場合をみると、シャフト外周段差部、すなわち小径部分120aと大径部分120bとの連結部分において、約180°の間隔を有して配置された位置でねじ150との螺合が行われている。したがって、シャフト120とねじ150との螺合位置である圧力部分Pにてシャフト120にねじ150による上向きの力が加わる。
【0045】
しかしながら、圧力部分Pより下方(z軸負方向側)ではシャフト120の内周面は平滑面124となっているため、シャフト120とねじ150とは接触しない。このため、シャフト120は、その歪みは大きくなるが、図8と同様にシャフト大径部分10bの上方寄りの箇所にて内周方向に押圧される力が働き、圧力部分Pでシャフト10の径が縮小する。
【0046】
このように、シャフト120の動圧力発生部分に対応する位置におけるねじ150との接触を回避するための平滑部124をシャフト120の内周部に形成することで、図8および図9に示すように、ねじ150に起因するシャフト120の動圧力発生部分における膨張や歪みの発生を防止することができる。また、ねじ150によるシャフト120の変形位置も管理できるようになる。
【0047】
ねじ150螺合時のシャフト120の膨張や歪みを抑制できることで、磁気ディスク装置の製造時においてシャフト120の動圧力発生部分における膨張や歪みによって生じていたNRRO(非周期振れ)のばらつきを抑制することができる。また、シャフト120の膨張や歪みを防止することで、シャフト120の外径と固定側との間隔の設計マージンを増加させることができるので、より間隔の狭い設計が可能となる。この結果、高剛性のモータ設計が可能となる。さらに、上述したように、圧力部分Pの上方ではシャフト120が膨張する可能性がある。そこで、シャフト120の膨張する位置をシャフト120とハブ110との締結部分近辺にすることで、シャフト120とハブ110との嵌合をより強固にすることができる。
【0048】
なお、動圧発生部分でシャフト120とねじ150とを非接触にするには、図2右に示したようにシャフト120側に平滑面124を形成する以外に、シャフト120のねじ溝は全て形成した状態でねじ150の動圧発生部分に対向する箇所にあたるねじ山を除去してもよい。これにより、図2右と同様、シャフト120とねじ150とを動圧発生部分で非接触にすることができる。また、シャフト120とねじ150とを螺合させた際に、それぞれの動圧発生部分に位置する部分のねじ溝、ねじ山を除去して非接触状態とするようにしてもよい。
【0049】
[動圧力発生部分でのシャフトとねじとの間の締結力調整]
シャフト120にねじ150を螺合する際に、シャフト120が変形するのを防止するための一方法として、動圧力発生部分でシャフト120とねじ150とが接触したとしても当該部分でねじ150がねじとしての機能である固定力を発生させず、シャフト120の外周方向へ当該シャフト120を押圧する力を発生させないようにすることが考えられる。
【0050】
例えば、シャフト120の内周面は図2右に示すように平滑面124でなくてもよく、シャフト120の内周面の形状が軸方向に径の大きさが変化するような曲面であってもよく、シャフト120とねじ150とが一部接触するような形状であってもよい。これらの形状であっても、結果としてねじ150をシャフト120に螺合させることによってシャフト120が膨張しないような、例えばねじ150がシャフト120に対してラジアル方向の応力を加えないような状態であればよい。したがって、図2右に示した本実施形態に係るシャフト120の内面の形状は一例であって、このような状態を満たせばその形状はこの例に限定されるものではない。
【0051】
これにより、シャフト120が膨張しないため、オイルが循環する通路を狭めることがなく、オイルの流れの悪化により予期しない箇所に負圧が生じたり浮上量が低下したりするのを防止することができる。また、例えばシャフト120に変形が生じるのも防止できるので、オイルの振動の発生が抑制される。これにより、回転精度が悪化し、磁気ディスク装置全体としての生産性・歩留まりを落とすこともない。
【0052】
[ストッパーによるシャフトの変形防止]
シャフト120にねじ150を螺合する際にシャフト120が膨張等して変形する可能性があるのと同様に、回転側に抜けを防止するために設けられたストッパー160をシャフト120に螺合して固定する場合にもシャフト120が膨張等して変形することが考えられる。この場合にも、ねじ150をシャフト120に螺合させた際に、ねじ150がクランプ120を膨張しないようにシャフト120とねじ150との形状を工夫したのと同様に、シャフト120およびストッパー160も同様の関係を満たすように形成すれば、ストッパー160によるシャフト120の膨張を防止することができる。
【0053】
例えば、動圧力発生部分においてシャフト120とストッパー160とが対向する部分においてシャフト120の内周面とストッパー160の外周面とが接触しないようにする。あるいは、シャフト120とストッパー160とが動圧力発生部分にて接触していたとしても、その接触部分においてストッパー160が加える圧力によってシャフト120が膨張しないようにする。これにより、シャフト120の膨張がより抑制され、オイルの循環機構を正常に機能させることができる。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0055】
100 モータ
110 ハブ
120 シャフト
130 スリーブ
140 トップクランプ
150 ねじ
160 ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動圧軸受であって、固定されたスリーブの軸受部に挿通されたシャフトと、中心部を貫通するハブ貫通孔を前記シャフトに挿通させて当該シャフトに固定された、1または複数の記録媒体を保持するハブとからなる、前記シャフトおよび前記ハブが一体となった軸回転構造の回転体を有する構造のモータと、
中心部を貫通するトップクランプ貫通孔が形成され、前記ハブに保持された前記記録媒体を前記ハブとともに挟持するトップクランプと、
前記トップクランプ貫通孔および前記ハブ貫通孔を挿通させて、前記シャフトに形成されたねじ溝に締結されるねじと、
を備え、
前記シャフトおよび前記ねじの動圧力発生部分の位置する部分は、前記ねじを前記シャフトの前記ねじ溝に螺合させたときに前記シャフトの径方向への膨張が許容値以下となるように形成されることを特徴とする、磁気ディスク装置。
【請求項2】
前記許容値はゼロであることを特徴とする、請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項3】
前記動圧力発生部分において、前記シャフトと前記ねじとは非接触に設けられることを特徴とする、請求項1または2に記載の磁気ディスク装置。
【請求項4】
前記動圧力発生部分において、前記ねじは前記シャフトに対してラジアル方向の力を加えないように設けられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項5】
前記動圧力発生部分において、前記ねじと対向する部分の前記シャフトの内周を平滑面にすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項6】
前記動圧力発生部分において、前記シャフトと対向する部分の前記ねじの外周を平滑面にすることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項7】
動圧軸受であって、固定されたスリーブの軸受部に挿通されたシャフトと、中心部を貫通するハブ貫通孔を前記シャフトに挿通させて当該シャフトに固定された、1または複数の記録媒体を保持するハブとからなる、前記シャフトおよび前記ハブが一体となった軸回転構造の回転体を有するモータ構造であって、
中心部を貫通するトップクランプ貫通孔が形成され、前記ハブに保持された前記記録媒体を前記ハブとともに挟持するトップクランプを、ねじを前記シャフトに形成されたねじ溝に螺合したときに、
前記シャフトの動圧力発生部分の位置する部分は、前記ねじを前記シャフトの前記ねじ溝にて螺合させたときに前記シャフトの径方向への膨張が許容値以下となるように形成されることを特徴とする、モータ構造。
【請求項8】
前記シャフトの前記ねじ溝のうち、前記ねじが締結される側と反対側にはストッパーが締結されており、
前記シャフトの動圧力発生部分の位置する部分は、前記ストッパーを前記シャフトの前記ねじ溝にて螺合させたときに前記シャフトの径方向への膨張が許容値以下となるように形成されることを特徴とする、請求項7に記載のモータ構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−97835(P2013−97835A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240037(P2011−240037)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】